IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TPR株式会社の特許一覧

特開2022-148214リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法
<>
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図1
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図2
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図3
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図4
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図5
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図6
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図7
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図8
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図9
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図10
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図11
  • 特開-リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148214
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
F16J9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049806
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長門 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大浦 信輔
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA18
3J044BB40
3J044CB24
3J044DA09
3J044DA16
3J044DA17
3J044EA05
(57)【要約】
【課題】リング状部材のスタック体において、リング状部材が筒状に積層されたスタック部の状態でリング状部材の上下の向きを容易に識別可能な技術を提供する。
【解決手段】スタック体は、複数のリング状部材が筒状に積層されたスタック部と、スタック部の外周面に付された識別マークと、を備え、スタック部においては、複数のリング状部材の夫々の上面の向きが一致するように、複数のリング状部材が積層されており、識別マークは、スタック部におけるリング状部材の上面及び下面の向きを識別できるように複数のリング状部材の積層方向において非対称に形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状部材を複数本ずつ纏めたスタック体であって、
複数のリング状部材が筒状に積層されたスタック部と、前記スタック部の外周面に付された識別マークと、を備え、
前記スタック部においては、前記複数のリング状部材の夫々の上面の向きが一致するように、前記複数のリング状部材が積層されており、
前記識別マークは、前記スタック部における前記リング状部材の前記上面及び下面の向きを識別できるように前記複数のリング状部材の積層方向において非対称に形成されている、
リング状部材のスタック体。
【請求項2】
前記識別マークは、前記スタック部における前記積層方向に連続する2以上の前記リング状部材を含むマーキング対象部の外周面に付されており、
前記マーキング対象部を構成する前記リング状部材の夫々に付されたマークである単体マークが組み合わさることで、前記識別マークが形成されている、
請求項1に記載のリング状部材のスタック体。
【請求項3】
前記単体マークは、当該単体マークが付された前記リング状部材の前記上面及び前記下面の向きを識別できるように、前記リング状部材の軸方向において非対称に形成されている、
請求項2に記載のリング状部材のスタック体。
【請求項4】
前記リング状部材には、合口が形成されており、
前記スタック部において、前記複数のリング状部材は、夫々の前記合口が前記積層方向に整列するように積層されており、
前記マーキング対象部では、前記積層方向において、より前記上面または前記下面の向き側に位置する前記リング状部材であるほど、当該リング状部材に付された前記単体マークが当該リング状部材の前記合口から離れるように付された、前記単体マークを含む、
請求項2又は3に記載のリング状部材のスタック体。
【請求項5】
前記識別マークは、前記リング状部材の前記上面または前記下面の向きを指す矢印状に形成されている、
請求項1又は2に記載のリング状部材のスタック体。
【請求項6】
前記識別マークは、前記リング状部材の前記上面または前記下面の向く側へ向かうに従って縮幅するように形成されている、
請求項1又は2に記載のリング状部材のスタック体。
【請求項7】
リング状部材のマーキング方法であって、
複数のリング状部材を当該複数のリング状部材の夫々の上面の向きが一致するように筒状に積層することで、スタック部を形成する工程と、
前記スタック部の外周面に、前記スタック部における前記リング状部材の前記上面及び下面の向きを識別できるように前記複数のリング状部材の積層方向において非対称に形成された、識別マークを付す工程と、を含む、
リング状部材のマーキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状部材のスタック体、及びリング状部材のマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、コンプレッションリング(圧力リング)とオイルリングとを含むピストンリング(リング状部材の一例)の組み合わせをピストンのリング溝に装着した構成を採用している。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。オイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。
【0003】
これらのピストンリングは、ピストンリング専業メーカーにより製造され、自動車メーカー等の内燃機関製造ラインに供給されているのが通常である。ピストンリングは、所定数量ずつ纏められたスタック部ごとに移送され、内燃機関製造ラインに供給される。スタック部を梱包する際には、所定数量の同一種類のピストンリングを1セット(梱包単位)として、これを筒状に積層することでスタック体とする。スタック部のピストンリングは、その上下の向きが一致し且つ合口が揃った状態で積層される。このスタック体を包装紙で包装することでピストンリングのパッケージ(包装体)となる。
【0004】
ピストンリングのピストンに対する組み付けは、通常、内燃機関製造ラインで行われる。ピストンリングは、包装が解かれたスタック体の状態で組付機のマガジンにセットされる。組付機では、スタック体から1本ずつピストンリングが順次切り出され、ピストンのリング溝に装着される。ここで、ピストンリングは、ピストンへ組み付ける際、その上下の向きが定められている。ピストンリングが内燃機関において十分にその機能を発揮するためには、ピストンリングを定められた上下の向きでピストンに組み付ける必要がある。そのため、スタック体を組付機のマガジンにセットする段階でピストンリングの上下の向きを確認し、スタック体を正しい向きでセットする必要がある。従来は、例えば、ピストンリングの積層方向と平行な直線状のペイントをスタック体の外周面に付け、当該直線状の外周ペイントと合口との位置関係によりスタック部におけるピストンリングの上下の向きを識別するような方法も採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-16994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は、スタック部の状態にあるピストンリングの上下の向きを識別するためには、予め図面等で外周ペイントの位置を確認しておかなければならない等、ピストンリングの上下の向きを識別し易いものとはいえなかった。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、リング状部材のスタック体において、リング状部材が筒状に積層された状態でリング状部材の上下の向きを容
易に識別可能となる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用した。即ち、本発明は、リング状部材を複数本ずつ纏めたスタック体であって、複数のリング状部材が筒状に積層されたスタック部と、前記スタック部の外周面に付された識別マークと、を備え、前記スタック部においては、前記複数のリング状部材の夫々の上面の向きが一致するように、前記複数のリング状部材が積層されており、前記識別マークは、前記スタック部における前記リング状部材の前記上面及び下面の向きを識別できるように前記複数のリング状部材の積層方向において非対称に形成されている、リング状部材のスタック体である。
【0009】
本発明に係るスタック体によると、使用者は、スタック体からリング状部材を1本ずつ取り出して個別に確認しなくとも、スタック部の外周面に付された識別マークを視認することで、リング状部材が積層された状態でリング状部材の上面及び下面の向きを識別することができる。これにより、リング状部材が積層された状態でリング状部材の上下の向きを容易に識別可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記識別マークは、前記スタック部における前記積層方向に連続する2以上の前記リング状部材を含むマーキング対象部の外周面に付されており、前記マーキング対象部を構成する前記リング状部材の夫々に付されたマークである単体マークが組み合わさることで、前記識別マークが形成されていてもよい。これによると、1本のみのリング状部材に識別マークを付する場合と比較して、大きな識別マークを付すことができる。これにより、使用者が識別マークを視認し易くなり、リング状部材の上下の向きがより容易に識別可能となる。
【0011】
本発明において、前記単体マークは、当該単体マークが付された前記リング状部材の前記上面及び前記下面の向きを識別できるように、前記リング状部材の軸方向において非対称に形成されていてもよい。これによると、使用者は、リング状部材の外周面に付された単体マークを視認することで、当該単体マークが付されたリング状部材単体の状態でリング状部材の上下の向きを識別することができる。
【0012】
また、本発明において、前記リング状部材には、合口が形成されており、前記スタック部において、前記複数のリング状部材は、夫々の前記合口が前記積層方向に整列するように積層されており、前記マーキング対象部では、前記積層方向において、より前記上面または前記下面の向き側に位置する前記リング状部材であるほど、当該リング状部材に付された前記単体マークが当該リング状部材の前記合口から離れるように付された、前記単体マークを含んでもよい。これにより、作業者は、合口から単体マークまでの周長方向における距離を確認することで、当該単体マークが付されたリング状部材がマーキング対象部を構成するリング状部材の何れであるのかを識別することができる。
【0013】
また、本発明において、前記識別マークは、前記リング状部材の前記上面または前記下面の向きを指す矢印状に形成されていてもよい。使用者にリング状部材の上下の向きをより分かり易く識別させることができる。
【0014】
また、本発明において、前記識別マークは、前記リング状部材の前記上面または前記下面の向く側へ向かうに従って縮幅するように形成されていてもよい。使用者にリング状部材の上下の向きをより分かり易く識別させることができる。
【0015】
また、本発明は、リング状部材のマーキング方法としても特定できる。即ち、本発明は、リング状部材のマーキング方法であって、複数のリング状部材を当該複数のリング状部
材の夫々の前記上面の向きが一致するように筒状に積層することで、スタック部を形成する工程と、前記スタック部の外周面に、前記スタック部における前記リング状部材の前記上面及び前記下面の向きを識別できるように前記複数のリング状部材の積層方向において非対称に形成された、識別マークを付す工程と、を含む、リング状部材のマーキング方法であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リング状部材のスタック体において、リング状部材が筒状に積層された状態でリング状部材の上下の向きを容易に識別可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係るピストンリングのスタック体の全体斜視図である。
図2】実施形態に係るピストンリングを備える内燃機関の部分断面図である。
図3】実施形態に係るスタック体の側方視図である。
図4】実施形態に係るピストンリングのマーキング方法の手順を示す工程図である。
図5】実施形態に係るスタック体を組付機のマガジン部にセットする様子を示す図である。
図6】実施形態の変形例1に係るスタック体の側方視図である。
図7】実施形態の変形例1においてマーキング対象部を構成するピストンリングのうちの1本を示す側方視図である。
図8】実施形態の変形例2に係るスタック体の側方視図である。
図9】実施形態の変形例3に係るスタック体の側方視図である。
図10】実施形態の変形例4に係るスタック体の側方視図である。
図11】実施形態の変形例5に係るスタック体の側方視図である。
図12】実施形態の変形例6に係るスタック体の側方視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下に説明する実施形態は、「リング状部材」の一例として、ピストンリングに本発明を適用したものである。但し、本発明に係るリング状部材は、ピストンリングに限定されない。本発明は、ピストンリングに限らず、リング状部材であれば適用できる。
【0019】
[全体構成]
図1は、実施形態に係るピストンリングのスタック体の全体斜視図である。スタック体1は、符号2で示すピストンリングを所定数量(複数)ずつ纏めたものである。本例では、所定数量は20本である。つまり、20本のピストンリング2が1つのスタック体1に纏められている。但し、本発明において、1つのスタック体1に含まれるピストンリングの数量は複数(即ち、2以上)であること以外には特に限定されない。スタック体1は、複数のピストンリング2が筒状に積層されたスタック部3と、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4と、を備える。
【0020】
[ピストンリング]
図2は、実施形態に係るピストンリング2を備える内燃機関100の部分断面図である。図2では、ピストンリング2の周長方向に直交する断面が図示されている。図2に示すように、ピストンリング2は、内燃機関100のシリンダ10に装着されたピストン20に組み付けられて使用される。ピストンリング2は、ピストン20の外周面20aに形成されたリング溝30に装着され、ピストン20の往復運動に伴ってシリンダ10の内壁面10aを摺動する摺動部材である。本例のピストンリング2は、いわゆるレクタンギュラ
形状のトップリングであり、図2に示すように、断面が矩形状となっている。ピストンリング2は、外周面21と内周面22と上面23と下面24とを有する。ピストンリング2は、内燃機関100において、その軸方向における両端面の一方である上面23が燃焼室側に面すると共に他方である下面24がクランク室側に面し、外周面21がシリンダ10の内壁面10aに摺接するように、ピストン20に組み付けられる。また、図1に示すように、ピストンリング2は、互いに対向することで合口G1を形成する一対の合口端部2a,2bを有する。ピストンリング2は、本発明に係る「リング状部材」の一例である。なお、本例のピストンリング2は、レクタンギュラ形状のコンプレッションリングであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、コンプレッションリングに限らず、オイルリング(セグメントとスペーサエキスパンダとの組み合わせのオイルリングや、コイルエキスパンダ付きのオイルリング、エキスパンダ一体型のオイルリング等)に対しても適用できる。また、ピストンリングの断面形状や外周面形状は限定されない。
【0021】
以下、図2に示すように、ピストンリング2の中心軸に沿う方向(軸方向)をピストンリングの「上下方向」と定義する。また、ピストンリング2の軸方向のうち、内燃機関100において燃焼室側(図2における上側)となる側を「上側」と定義し、その反対側、即ち、クランク室側(図2における下側)となる側を「下側」と定義する。つまり、ピストンリング2において、上面23が向く側(方向)がピストンリング2の上側(上方向)であり、下面24が向く側(方向)がピストンリング2の下側(下方向)である。また、以下の説明において、特に指定しない限りは、「周長方向」とはピストンリング2の周長方向のことを指し、「径方向」とはピストンリング2の径方向のことを指し、「軸方向」とはピストンリング2の軸方向のことを指す。
【0022】
[スタック部]
図3は、実施形態に係るスタック体1の側方視図である。即ち、図3では、スタック体1を、径方向の外側から視認した状態が図示されている。図3に示すように、スタック部3は、所定数量(本例では20本)のピストンリング2が夫々の中心軸が一致するように上下方向(軸方向)に重ねられることで、筒状に形成されている。スタック部3の外周面S1は、所定数量のピストンリング2の外周面21により形成されている。また、所定数量のピストンリング2は、夫々の上面23の向きが一致した状態で、即ち、全てのピストンリング2の上下方向が一致した(揃った)状態で、積層されている。また、スタック部3では、全てのピストンリング2の合口G1が積層方向に整列した(揃えられた)状態となっている。積層方向に並んだ所定数量の合口G1が連なることで、スタック部3には、符号SL1で示す積層方向に延びるスリットが形成されている。以下、スタック部3を構成するピストンリング2を、最下段のピストンリング2から最上段のピストンリング2まで順番に、ピストンリング201、ピストンリング202、……ピストンリング220とする。なお、これらを区別しないで説明するときには、単にピストンリング2と称する。
【0023】
[識別マーク]
識別マーク4は、スタック部3におけるピストンリング2の上面23及び下面24の向き、即ち、ピストンリング2の上下の向きを識別するためのマークである。本例の識別マーク4は、スタック部3の外周面S1に塗布されたペイント(塗料)である。つまり、識別マーク4は、外周面S1にペイントを塗布することで外周面S1に付されている。但し、本発明に係る識別マークはペイントに限定されない。識別マークは、ペイントに限らず、例えば、油性・水性インク、鉛筆等による描線、インクジェット等による描線、刻印(例えば、レーザーマーキング)であってもよい。
【0024】
図3に示すように、識別マーク4は、使用者(主にピストンリングのピストンへの組み付けを行う作業者)がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向(つまり、ピストンリング2の上下方向)において非対称なマークとし
て形成されている。より詳細には、識別マーク4は、側方視において積層方向における識別マーク4の中央を通り積層方向と直交する中央線CL1を軸として識別マーク4を反転したときに、自身と重なり合わない形状となっている。つまり、識別マーク4は、上下を逆転させると異なる向き(姿勢)として視認され得る。
【0025】
具体的には、図3に示すように、識別マーク4は、上面23の向きを指す矢印状に形成されている。より詳細には、識別マーク4は、矢尻の先端が上側を向いた矢印状の図形として形成されている。これにより、使用者は、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4を視認することで、ピストンリング2が積層された状態でピストンリング2の上下の向きを容易に識別することができる。
【0026】
また、識別マーク4は、スタック部3における積層方向に連続する2以上(複数)のピストンリング2に亘って形成されている。具体的には、識別マーク4は、ピストンリング202~219の、計18本のピストンリング2に亘って形成されている。スタック部3のうち、識別マーク4が形成されているピストンリング202~ピストンリング219により構成されている部位を、マーキング対象部31とする。識別マーク4は、このマーキング対象部31の外周面S1に付されている。なお、本例では、マーキング対象部31がピストンリング202~219により構成されているが、本発明はこれに限定されない。マーキング対象部は、スタック部における積層方向に連続する2以上のピストンリングを含む部位であればよい。例えば、マーキング対象部は、スタック部における全てのピストンリングを含んでもよい。つまり、全てのピストンリングに亘って識別マークが形成されてもよい。
【0027】
図3に示すように、識別マーク4は、マーキング対象部31を構成するピストンリング202~219の夫々に付されたマークである単体マーク5が組み合わさることで、形成されている。単体マーク5は、即ち、マーキング対象部31を構成する各ピストンリング2の外周面21に付されているマークであって、識別マーク4の一部を形成するマークである。以下、ピストンリング202、ピストンリング203、……ピストンリング219に付されている単体マーク5を、夫々、単体マーク502、単体マーク503、……単体マーク519とする。なお、これらを区別しないで説明するときには、単に単体マーク5と称する。識別マーク4は、単体マーク502~519が組み合わさることで、矢印状の図形として形成されている。図3に示すように、単体マーク513~519は、夫々が付されているピストンリング2のマーキング対象部31における位置がより上側(上面23の向き側)であるほど、その幅が狭くなるように形成されている。これにより、単体マーク513~519によって識別マーク4の上端部である矢尻部分が構成され、識別マーク4が上面23の向きを指すように形成されている。また、識別マーク4は、各ピストンリング2の合口G1が揃った状態でスタック部3の外周面S1に付されている。そのため、合口G1を利用して単体マーク5の位置決めを行うことができる。例えば、マーキング対象部31を構成するピストンリング2が軸回りにずれることで単体マーク5の周長方向における相対位置が正規位置に対してずれ、識別マーク4の形状が崩れた場合でも、各ピストンリング2の合口G1を揃えることで単体マーク5の位置決めがなされ、識別マーク4が形成される。
【0028】
[ピストンリングのマーキング方法]
次に、実施形態に係るピストンリングのマーキング方法について説明する。ピストンリング2のマーキングは、ピストンリング専業メーカーにより行われる。図4は、実施形態に係るピストンリングのマーキング方法の手順を示す工程図である。図4に示すように、実施形態に係るピストンリングのマーキング方法は、ステップS101のスタック工程、ステップS102の外観検査工程、ステップS103の合口整列工程、及びステップS104のマーキング工程を含む。
【0029】
まず、ステップS101のスタック工程では、所定数量のピストンリング2を夫々の上面23及び下面24の向きが一致するように筒状に積層することで、スタック部3を形成する。次に、ステップS102の外観検査工程では、スタック部3の外周面S1の状態を目視で確認する。ステップS102では、各ピストンリング2の外周面21の傷や汚れの有無、表面処理の状態等を確認する。次に、ステップS103の合口整列工程では、全てのピストンリング2の合口G1を積層方向に整列することで、合口G1を揃える。最後に、ステップS104のマーキング工程では、スタック部3の外周面S1に識別マーク4を付ける。識別マーク4は、ペイントの塗布によりスタック部3の外周面S1に付けられる。以上により、ピストンリング2のマーキングが完了し、図1及び図3に示したスタック体1の状態となる。なお、本発明に係るピストンリングのマーキング方法は、上述の手順に限定されない。
【0030】
その後、スタック体1は、スタック部3の外周面S1に防錆油を塗布され、包装紙である防錆紙で包装されることで、パッケージ(包装体)となる。以上により、ピストンリング2の梱包が完了する。スタック体1は、防錆紙に包まれた包装体の状態で移送され、内燃機関製造ラインに供給される。
【0031】
[組付機へのセット]
次に、実施形態に係るスタック体1を組付機へセットする方法について説明する。ピストンリング2のピストン20への組み付けは、通常、内燃機関製造ラインで行われる。図5は、実施形態に係るスタック体1を組付機のマガジン部にセットする様子を示す図である。図5の符号300は組付機を示し、符号310はマガジン部を示す。図5では、組付機300が簡略化されて図示されている。組付機300は、ピストン20へのピストンリング2の組付を行う装置である。ピストンリング2は、包装が解かれたスタック体1の状態で組付機300のマガジン部310にセットされる。組付機300は、マガジン部310にセットされたスタック体1からピストンリング2を1本ずつ切り出し、ピストン20のリング溝30に装着する。図5で表されている上下方向は、組付機300の上下方向を示している。なお、組付機としては、公知の技術を採用することができる。本例の組付機300がピストンリング2を正しい向きでピストン20に組み付けるためには、ピストンリング2の上面23が組付機300の上側を向くようにスタック体1をマガジン部310にセットする必要がある。このとき、作業者は、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4を視認することでピストンリング2の上面23の向きを識別することができる。これにより、作業者は、図5に示すように、上面23が組付機300の上側を向くようにしてマガジン部310にスタック体1をセットすることができる。つまり、作業者は、スタック体1を正しい向きで組付機300のマガジン部310にセットすることができる。
【0032】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係るスタック体1は、複数(所定数量)のピストンリング2が筒状に積層されたスタック部3と、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4と、を備える。また、スタック部3においては、所定数量のピストンリング2の夫々の上面23の向きが一致するように、複数のピストンリング2が積層されている。そして、識別マーク4は、スタック部3におけるピストンリング2の上面23及び下面24の向きを識別できるように、ピストンリング2の積層方向において非対称に形成されている。
【0033】
実施形態に係るスタック体1によると、使用者は、スタック体1からピストンリング2を1本ずつ取り出して個別に確認しなくとも、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4を視認することで、ピストンリング2が積層された状態でピストンリング2の上下の向きを識別することができる。これにより、ピストンリング2が積層された状態でピ
ストンリング2の上下の向きを容易に識別可能となる。
【0034】
更に、実施形態に係る識別マーク4は、スタック部3における積層方向に連続する2以上のピストンリング2を含むマーキング対象部31の外周面S1に付されており、マーキング対象部31を構成するピストンリング2の夫々に付されたマークである単体マーク5が組み合わさることで、識別マーク4が形成されている。つまり、識別マーク4は、積層方向に連続する複数のピストンリング2に亘って形成されている。これによると、1本のみのピストンリング2に識別マークを付する場合と比較して、大きな識別マークを付すことができる。これにより、使用者が識別マーク4を視認し易くなり、ピストンリング2の上下の向きがより容易に識別可能となる。但し、本発明は、これに限定されず、1本のピストンリングの外周面のみに識別マークを付してもよい。
【0035】
更に、実施形態に係る識別マーク4は、ピストンリング2の上面23の向きを指す矢印として形成されている。これにより、使用者にピストンリング2の上下の向きをより分かり易く識別させることができる。
【0036】
なお、本発明に係る識別マークは、本例の識別マーク4に限定されない。識別マークは、使用者が識別マークを視認することでピストンリングの上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称な形状であればよい。例えば、識別マークの矢印の上下の向きは、本例の識別マーク4とは逆であってもよい。つまり、矢印がピストンリングの下面の向きを指してもよい。また、本例の識別マーク4は、矢印状の図形として形成されているが、本発明に係る識別マークは図形に限定されない。識別マークは、図形、文字、記号など、種々の態様を採用することができる。
【0037】
[変形例]
以下、実施形態の変形例について説明する。以下の説明では、上述のスタック体1との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0038】
[変形例1]
図6は、実施形態の変形例1に係るスタック体1Aの側方視図である。図6に示すように、変形例1に係るスタック体1Aは、識別マーク4Aが逆V字状の図形に形成されている点で、スタック体1と相違する。
【0039】
図6に示すように、識別マーク4Aは、使用者がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称なマークとして形成されている。具体的には、識別マーク4Aは、下面24の向く側(即ち、下側)に開いた逆V字型の図形として形成されている。そのため、識別マーク4Aは、積層方向においてピストンリング2の上面23の向き(即ち、上側)へ向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。これにより、使用者は、スタック部3の外周面S1に付された識別マーク4Aを視認することで、ピストンリング2が積層された状態でピストンリング2の上下の向きを識別することができる。
【0040】
また、識別マーク4Aは、マーキング対象部31を構成するピストンリング202~219の夫々に付されたマークである単体マーク502~519が組み合わさることで形成されている。ここで、単体マーク502~519は、夫々が付されているピストンリング2のマーキング対象部31における位置がより上側であるほど、その幅が狭くなるように形成されている。これにより、識別マーク4Aが上面23の向きを指すように形成されている。
【0041】
なお、本発明に係る識別マークは、積層方向においてピストンリングの下面の向き(即ち、下側)へ向かうに従って徐々に縮幅するように形成されてもよい。つまり、識別マークは、積層方向において上側へ向かうに従って徐々に拡幅するように形成されてもよい。
【0042】
更に、識別マーク4Aを形成する単体マーク502~519の夫々は、当該単体マーク5が付されたピストンリング2の上面23及び下面24の向きをピストンリング2単体でも識別できるように、ピストンリング2の軸方向において非対称に形成されている。図7は、実施形態の変形例1においてマーキング対象部31を構成するピストンリング202~219のうちの1本を示す側方視図である。図7では、一例として、ピストンリング213が図示されている。図7の符号A1は、ピストンリング213の中心軸を示す。このとき、図7に示すように、ピストンリング213に付された単体マーク513は、ピストンリング2の軸方向において非対称に形成されている。そして、単体マーク513は、ピストンリング213の軸方向において上側に向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。これにより、使用者は、ピストンリング213の外周面21に付された単体マーク513を視認することで、ピストンリング213単体の状態でピストンリング213の上下の向きを識別することができる。また、他の単体マーク5についても同様である。つまり、使用者は、ピストンリング2の外周面21に付された単体マーク5を視認することで、当該単体マーク5が付されたピストンリング2単体の状態でピストンリング2の上下の向きを識別することができる。
【0043】
[変形例2]
図8は、実施形態の変形例2に係るスタック体1Bの側方視図である。図8に示すように、変形例2に係るスタック体1Bは、識別マーク4Bが三角形に形成されている点で、スタック体1と相違する。
【0044】
図8に示すように、識別マーク4Bも、使用者がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称なマークとして形成されている。具体的には、識別マーク4Bは、上面23の向きを指すように、積層方向において上側へ向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。
【0045】
また、図8に示すように、識別マーク4Bを形成する単体マーク502~519の夫々は、当該単体マーク5が付されたピストンリング2の上面23及び下面24の向きをピストンリング2単体でも識別できるように、ピストンリング2の軸方向において非対称に形成されている。具体的には、単体マーク5は、ピストンリング2の軸方向において上側に向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。
【0046】
[変形例3]
図9は、実施形態の変形例3に係るスタック体1Cの側方視図である。図9に示すように、変形例3に係るスタック体1Cは、識別マーク4Cが積層方向に配列された複数(本例では4つ)の逆V字型の分割識別マーク41により形成されている点で、スタック体1と相違する。
【0047】
図9に示すように、識別マーク4Cは、使用者がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称なマークとして形成されている。具体的には、識別マーク4Cの分割識別マーク41が、上面23の向きを指すように、積層方向において上側へ向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。
【0048】
また、図9に示すように、識別マーク4Cを形成する単体マーク502~519の夫々は、当該単体マーク5が付されたピストンリング2の上面23及び下面24の向きをピストンリング2単体でも識別できるように、ピストンリング2の軸方向において非対称に形
成されている。具体的には、単体マーク5は、ピストンリング2の軸方向において上側に向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。
【0049】
[変形例4]
図10は、実施形態の変形例4に係るスタック体1Dの側方視図である。図10に示すように、変形例4に係るスタック体1Dは、識別マーク4Dが全てのピストンリング2に亘って形成されている点と、識別マーク4Dが積層方向に対して傾斜したライン状に形成されている点で、スタック体1と相違する。
【0050】
図10に示すように、スタック体1Dでは、マーキング対象部31がスタック部3における全てのピストンリング2を含んでいる。つまり、識別マーク4Dが全てのピストンリング2(即ち、ピストンリング201~220)に亘って形成されている。これにより、識別マーク4Dは大きなものとなり、使用者が識別マーク4Dを容易に視認することができる。また、図10に示すように、識別マーク4Dは、使用者がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称なマークとして形成されている。具体的には、識別マーク4Dは、積層方向において上側へ向かうに従って徐々にスリットSL1から離れるように、積層方向に対して傾斜して延びるライン状に形成されている。
【0051】
また、図10に示すように、識別マーク4Bを形成する単体マーク501~520の夫々は、当該単体マーク5が付されたピストンリング2の上面23及び下面24の向きをピストンリング2単体でも識別できるように、ピストンリング2の軸方向において非対称に形成されている。具体的には、単体マーク5は、ピストンリング2の軸方向において上側へ向かうに従って徐々にスリットSL1から離れるように、軸方向に対して傾斜して延びるライン状に形成されている。
【0052】
また、ピストンリング201~220の夫々の合口G1から単体マーク501~520までの周長方向における距離は、ピストンリング2ごとに異なっている。具体的には、積層方向において、より上側に位置するピストンリング2であるほど、当該ピストンリング2に付された単体マーク5が当該ピストンリング2の合口G1から離れるように、単体マーク501~520が付されている。識別マーク4Bがこのような単体マーク501~520を含むことで、単体マーク501~520は、ピストンリング201~220を個々に識別し得る識別番号としても機能する。具体的には、作業者は、合口G1から単体マーク5までの周長方向における距離を確認することで、当該単体マーク5が付されたピストンリング2がピストンリング201~220の何れであるのかを識別することができる。なお、より上側に位置するピストンリング2であるほど単体マーク5が合口G1に接近するように、単体マーク501~520が付されていてもよい。換言すると、より下側に位置するピストンリング2であるほど、単体マーク5が合口G1から離間するように、単体マーク501~520が付されていてもよい。つまり、識別マーク4Dの傾きが逆であってもよい。
【0053】
[変形例5]
図11は、実施形態の変形例5に係るスタック体1Eの側方視図である。図11に示すように、変形例5に係るスタック体1Eは、識別マーク4に代えて、変形例2に係る識別マーク4Bと符号6で示す情報表示が印字されている点で、スタック体1と相違する。
【0054】
本発明に係る識別マークは、スタック部の外周面に付するものであるため、当該外周面の余ったスペースに、ピストンリングの上下の向き以外のピストンリングに関する情報を印字することができる。情報表示6が表示する情報としては、例えば、ピストンリング2の部品番号、ロット番号、ロット識別記号、製造日付、ピストンリングメーカーの識別表
示等を挙げることができる。但し、情報表示はこれらに限らない。また、情報表示が識別マークとしても機能してもよい。
【0055】
[変形例6]
図12は、実施形態の変形例6に係るスタック体1Fの側方視図である。図12に示すように、変形例6に係るスタック体1Fは、識別マーク4Fが、1本のピストンリング2の外周面のみに付されている点で、スタック体1と相違する。
【0056】
図12に示すように、識別マーク4Fは、ピストンリング219の外周面21に付されており、使用者がスタック部3におけるピストンリング2の上下の向きを識別できるように、積層方向において非対称なマークとして形成されている。具体的には、識別マーク4Fは、上面23の向きを指すように、積層方向において上側へ向かうに従って徐々に縮幅するように形成されている。なお、識別マーク4Fが付されるピストンリング2は、スタック部3を構成する所定数量のピストンリング2の何れであってもよい。
【0057】
<その他>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。また、上述の実施例では、側面視(径方向の外側から視認した状態)において合口に対して右側に識別マークが付されているが、本発明はこれに限定されない。識別マークが付される位置は合口に対して左右のどちら側でもよい。また、識別マークは合口を挟んで左右の両側に付されてもよい。また、合口の位置を0°としたときに180°の位置、つまり、合口の反対側に識別マークが付されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100:内燃機関
10:シリンダ
20:ピストン
30:リング溝
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F:スタック体
2:ピストンリング(リング状部材の一例)
3:スタック部
4,4A,4B,4C,4D,4E,4F:識別マーク
5:単体マーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12