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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148222
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】水没判定システム
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/00 20060101AFI20220929BHJP
   G01F 23/22 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B60R21/00 992
G01F23/22 A
B60R21/00 310N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049819
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】石井 信貴
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014CA02
2F014CA03
(57)【要約】
【課題】水没したかを判定できなくなることを抑制する。
【解決手段】水没判定システムSは、車両のエンジンオイルOILのオイル温度を検出するオイル温度センサ11と、エンジンオイルを貯蔵するオイルパンPの外面に設けられ、オイルパンPの外面の温度である外面温度を検出する外面温度センサ2と、オイル温度センサ11が検出したオイル温度から、外面温度センサ2が検出した外面温度を減算した減算値が、水没判定閾値以上である場合、車両が水没したと判定する水没判定部522と、を備える。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンオイルのオイル温度を検出する第1温度センサと、
前記エンジンオイルを貯蔵するオイルパンの外面に設けられ、前記オイルパンの外面の温度である外面温度を検出する第2温度センサと、
前記第1温度センサが検出した前記オイル温度から、前記第2温度センサが検出した前記外面温度を減算した減算値が、水没判定閾値以上である場合、前記車両が水没したと判定する水没判定部と、
を備える水没判定システム。
【請求項2】
前記車両の周辺温度を検出する周辺温度センサと、
前記周辺温度センサが検出した前記周辺温度が高いほど前記水没判定閾値を小さく調整する閾値調整部と、をさらに備え、
前記水没判定部は、前記減算値が、調整された前記水没判定閾値以上である場合、前記車両が水没したと判定する、
請求項1に記載の水没判定システム。
【請求項3】
前記第1温度センサは、前記オイルパンの内部又はオイル汲み上げ配管に設けられ、前記エンジンオイルに接触して前記オイル温度を検出し、
前記水没判定システムは、前記車両の傾斜角を順次検出する傾斜角センサをさらに備え、
前記水没判定部は、前記傾斜角センサが検出した前記傾斜角が、所定角度範囲に含まれる場合、前記車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行い、前記傾斜角が前記所定角度範囲に含まれない場合、前記水没判定処理を行わない、
請求項1又は2に記載の水没判定システム。
【請求項4】
前記車両の周辺温度を検出する周辺温度センサをさらに備え、
前記水没判定部は、前記周辺温度センサが検出した前記周辺温度よりも前記オイル温度が低い場合、前記車両が水没したと判定し、前記オイル温度が前記周辺温度以上である場合、前記車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行う、
請求項1から3のいずれか一項に記載の水没判定システム。
【請求項5】
前記第2温度センサは、前記オイルパンの外面のうちの、鉛直方向の最下位置に設けられている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の水没判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が水没したかを判定する水没判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が水没したかを判定する技術が知られている。特許文献1には、車両のフロントバンパに2つの端子を取り付けて、2つの端子の間で通電したことを検出すると、車両が水没したと判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-82766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のセンサは、端子が汚れたり、端子に物体が付着したりすると、水没したかを正常に判定できなくなってしまうことがある。例えば、端子が汚れると2つの端子間で通電できなくなるので、車両が水没しても水没したことを検知できなくなる。そのため、車両が水没したかを判定する新たな技術が求められていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両が水没したか否かを判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、車両のエンジンオイルのオイル温度を検出する第1温度センサと、前記エンジンオイルを貯蔵するオイルパンの外面に設けられ、前記オイルパンの外面の温度である外面温度を検出する第2温度センサと、前記第1温度センサが検出した前記オイル温度から、前記第2温度センサが検出した前記外面温度を減算した減算値が、水没判定閾値以上である場合、前記車両が水没したと判定する水没判定部と、を備える水没判定システムを提供する。
【0007】
前記水没判定システムは、前記車両の周辺温度を検出する周辺温度センサと、前記周辺温度センサが検出した前記周辺温度が高いほど前記水没判定閾値を小さく調整する閾値調整部と、をさらに備え、前記水没判定部は、前記減算値が、調整された前記水没判定閾値以上である場合、前記車両が水没したと判定してもよい。
【0008】
前記第1温度センサは、前記オイルパンの内部又はオイル汲み上げ配管に設けられ、前記エンジンオイルに接触して前記オイル温度を検出し、前記水没判定システムは、前記車両の傾斜角を順次検出する傾斜角センサをさらに備え、前記水没判定部は、前記傾斜角センサが検出した前記傾斜角が、所定角度範囲に含まれる場合、前記車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行い、前記傾斜角が前記所定角度範囲に含まれない場合、前記水没判定処理を行わなくてもよい。
【0009】
前記水没判定システムは、前記車両の周辺温度を検出する周辺温度センサをさらに備え、前記水没判定部は、前記周辺温度センサが検出した前記周辺温度よりも前記オイル温度が低い場合、前記車両が水没したと判定し、前記オイル温度が前記周辺温度以上である場合、前記車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行ってもよい。
【0010】
前記第2温度センサは、前記オイルパンの外面のうちの、鉛直方向の最下位置に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両が水没したか否かを判定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水没判定システムの構成を模式的に示す図である。
図2】オイル温度と外面温度との差に基づいて車両が水没したか否かを判定できることを説明するための図である。
図3】オイル温度と外面温度との時間変化を示すグラフである。
図4】周辺温度と、周辺温度に対応する水没判定閾値との関係を模式的に示すグラフである。
図5】オイルパンが傾いた状態を模式的に示す図である。
図6】水没判定装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[水没判定システムSの構成]
図1は、水没判定システムSの構成を模式的に示す図である。水没判定システムSは、車両に搭載されている。水没判定システムSは、エンジンオイルOILのオイル温度と、エンジンオイルOILを貯蔵するオイルパンPの外面温度との差に基づいて車両が水没したか否かを判定する。水没判定システムSは、オイル汲み上げ配管1と、外面温度センサ2と、周辺温度センサ3と、傾斜角センサ4と、水没判定装置5とを有する。オイル汲み上げ配管1は、オイルパンPに貯蔵されたエンジンオイルOILを汲み上げるための配管である。図1に示すひし形で塗りつぶした部分はエンジンオイルOILを示す。
【0014】
オイル温度センサ11は、オイル汲み上げ配管1に設けられている。オイル温度センサ11は、エンジンオイルOILのオイル温度を検出する第1温度センサである。オイル温度センサ11は、エンジンオイルOILに接触してオイル温度を検出する。オイル温度センサ11は、オイル汲み上げ配管内を流れるエンジンオイルOILに接触する位置に設けられている。エンジンオイルOILに接触しやすい位置は、例えばオイル温度センサ11の先端部である。オイル温度センサ11は、例えば熱電対又はサーミスタである。なお、オイル温度センサ11は、オイルパンPの内部に設けられていてもよい。例えば、オイル温度センサ11がオイルOILに接触するようにオイルパンPの内部に配置される。
【0015】
外面温度センサ2は、オイルパンPの外面に設けられている第2温度センサである。例えば、外面温度センサ2は、オイルパンPの外面のうちの、鉛直方向の最下位置に設けられている。外面温度センサ2は、オイルパンPの外面の温度である外面温度を検出する。外面温度センサ2は、オイル温度センサ11と同様に温度検出部を有する。外面温度センサ2の温度検出部は、外面温度センサ2の筐体内に設けられている。そのため、外面温度センサ2の温度検出部が汚れたり、筐体に導電性の物体が付着したりしないので、外面温度を検出できる。外面温度センサ2の温度検出部は、例えば熱電対又はサーミスタである。
【0016】
周辺温度センサ3は、車両の周辺温度(外気温)を検出する。周辺温度センサ3は、例えばエンジンの吸気口に設けられている吸気温度センサである。周辺温度センサ3は、これに限らず車両の周辺温度を検出できるものであればよい。
【0017】
傾斜角センサ4は、車両の傾斜角を順次検出する。傾斜角は、水平を基準(0度)とする。傾斜角センサ4は、例えば内部の振り子の傾きの変化に基づいて車両の傾斜角を検出する加速度センサである。なお、傾斜角センサ4は、これに限らず、車両の傾斜角を検出できるセンサであればよい。
【0018】
水没判定装置5は、車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を実行する。例えば、水没判定装置5は、オイル温度と外面温度との差が水没判定閾値以上になったら車両が水没したと判定する。以下、水没判定装置5の構成について説明する。
【0019】
水没判定装置5は、記憶部51と、制御部52とを有する。記憶部51は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部51は、制御部52が実行するプログラムを記憶する。
【0020】
制御部52は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部52は、記憶部51に記憶されたプログラムを実行することにより、情報取得部521、水没判定部522及び閾値調整部523としての機能を実現する。
【0021】
情報取得部521は、各種センサが検出した検出値を取得する。情報取得部521は、オイル温度センサ11が検出したオイル温度と、外面温度センサ2が検出した外面温度とを取得する。また、情報取得部521は、周辺温度センサ3が検出した周辺温度、及び傾斜角センサ4が検出した傾斜角を取得する。
【0022】
水没判定部522は、オイル温度と外面温度との差に基づいて車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行う。水没判定部522が水没判定処理を行う時間間隔は適宜定めればよく、例えば30秒である。以下、オイル温度と外面温度との差に基づいて車両が水没したか否かを判定できることを説明する。
【0023】
図2は、オイル温度と外面温度との差に基づいて車両が水没したか否かを判定できることを説明するための図である。図2の横軸はオイル温度[℃]を示す。縦軸は外面温度[℃]を示す。車両が水没していないときのオイル温度に対する外面温度の変化L1を実線で示す。車両が水没していないときの周辺温度は35℃であるものとする。車両が水没したときのオイル温度に対する外面温度の変化L2を破線で示す。車両が水没しているときの水温は25℃であるものとする。
【0024】
図2に示すとおり、車両が水没していないときよりも、車両が水没したときの方が、オイル温度に対して外面温度が低くなる。一例を挙げると、オイル温度が55℃の場合、水没していないとき(変化L1を参照)の外面温度は45℃である。一方、水没しているとき(変化L2を参照)の外面温度は、33℃である。このように、車両が水没した場合、オイルパンPが水により冷却されるため、オイルパンPの外面温度は、車両が水没していないときよりも低下する。その結果、車両が水没している場合、車両が水没していない場合よりもオイル温度と外面温度との差が大きくなる。
【0025】
そこで、車両が水没している場合にオイル温度と外面温度との差が大きくなることに着目して、水没判定部522は、オイル温度から外面温度を減算した減算値が、水没判定閾値以上である場合、車両が水没したと判定する。水没判定部522は、減算値が水没判定閾値未満である場合、車両が水没していないと判定する。水没判定閾値は、適宜定めればよく、具体的な値は例えば20℃である。例えば、水没判定部522は、減算値が増加して、水没判定閾値以上になったタイミングで車両が水没したと判定する。
【0026】
図3は、オイル温度と外面温度との時間変化を示すグラフである。図3の横軸は時刻tを示す。縦軸は温度[℃]を示す。オイル温度の時間変化R1を実線で示す。外面温度の時間変化R2を破線で示す。時刻t0において、車両が水没したものとする。減算値Dは、時刻t1でのオイル温度から外面温度を減算した減算値である。水没判定部522は、時刻t1での減算値Dが水没判定閾値以上であれば、時刻t1の時点で車両が水没したと判定する。
【0027】
(水没判定閾値を調整する処理)
ところで、水温は、車両の周辺温度(気温)に比例するから、周辺温度が高いほど高くなる。そのため、周辺温度が高いときに車両が水没した場合、周辺温度が低いときに車両が水没した場合よりも、オイルパンPが冷却されにくい。そのため、外面温度が低くなりにくいので、オイル温度から外面温度を減算した減算値が大きくなりにくくなる。そこで、水没判定装置5は、周辺温度に応じて調整された水没判定閾値を用いて水没判定処理を行う。
【0028】
閾値調整部523は、周辺温度に応じて水没判定閾値を調整する。具体的には、閾値調整部523は、周辺温度が高いほど水没判定閾値を小さく調整する。図4は、周辺温度と、周辺温度に対応する水没判定閾値との関係を模式的に示すグラフである。図4の横軸は周辺温度センサ3が検出した周辺温度を示す。縦軸は水没判定閾値を示す。閾値調整部523は、図4に示すグラフを参照して、周辺温度センサ3が検出した周辺温度に対応する水没判定閾値を特定する。続いて、閾値調整部523は、特定した水没判定閾値を、新たな水没判定閾値として閾値を更新する。
【0029】
水没判定部522は、オイル温度から外面温度を減算した減算値が、周辺温度に応じて閾値調整部523が調整した水没判定閾値以上か否かを判定する。このようにすることで、水没判定部522は、水温が高いために外面温度が低くなりにくくても、車両が水没したか否かを精度よく判定できる。
【0030】
(車両の傾きに応じた水没判定処理)
急な上り坂等を車両が走行すると車両が傾くので、車両に設置されたオイルパンPも車両の傾きと同様に傾く。そのため、エンジンオイルOILがオイルパンPの一方に偏る。図5は、オイルパンPが傾いた状態を模式的に示す図である。図5の傾斜角θは、水平線Hを基準とする車両の傾斜角である。
【0031】
図5のように、エンジンオイルOILがオイルパンPの一方に偏ると、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面にエンジンオイルOILが接触しない。外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していない場合、オイル温度と外面温度との温度差を正しく検出できない。
【0032】
そこで、水没判定部522は、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触している状態でのみ水没判定処理を行う。具体的には、水没判定部522は、車両の傾斜角が所定角度範囲に含まれる場合、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していると判定する。水没判定部522は、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していると判定した場合、車両が水没したか否かを判定する水没判定処理を行う。一方、水没判定部522は、傾斜角が所定角度範囲に含まれない場合、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していないと判定する(図5を参照)。水没判定部522は、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していないと判定した場合、水没判定処理を行わない。
【0033】
所定角度範囲は、車両が傾いても外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触する角度範囲である。所定角度範囲は、オイルパンPの形状、外面温度センサ2が設けられている位置、オイル汲み上げ配管の端部の位置、エンジンオイルOILの量等に応じて定めればよい。例えば、所定角度範囲は、エンジンオイルOILの量が多いほど広く定める。所定角度範囲の具体的な値は、例えば水平線Hを基準としてマイナス15度からプラス15度である。一例を挙げると、水没判定部522は、図5のように傾斜角θが所定角度範囲(マイナス15度からプラス15度)に含まれていない場合、水没判定処理を行わない。
【0034】
このように、水没判定部522は、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触している場合にのみ、水没判定処理を行う。そのため、水没判定部522は、外面温度センサ2が設けられている位置に対向するオイルパンPの内面がエンジンオイルOILに接触していない状態で検出された不正確な外面温度に基づいて水没判定処理を行うことを抑制できる。
【0035】
(エンジン始動時の水没判定処理)
車両が水没していない状態でエンジンが始動された場合、オイル温度は周辺温度よりも高くなる。一方、車両が水没した場合、オイルパンPや他の装置などが水に浸かるので、エンジンオイルOILや他の装置等が水により冷却される。そのため、エンジンが始動した後の運転状態で、車両が水没している場合のオイル温度の上昇速度は、車両が水没していない場合のオイル温度の上昇速度よりも遅い。
【0036】
そこで、水没判定部522は、エンジン始動時に、オイル温度が周辺温度よりも低い場合に車両が水没したと判定する。例えば、水没判定部522は、車両のエンジンが始動してオイル温度が上昇中に、オイル温度が周辺温度よりも低いか否かを判定する。具体的には、水没判定部522は、エンジンが始動してから第1待機時間が経過した時点のオイル温度が、エンジン始動時のオイル温度よりも高く、かつ周辺温度よりも低い場合、車両が水没したと判定する。第1待機時間は、エンジンが始動した時点からオイル温度が周辺温度よりも高くなると予測される時間である。第1待機時間の具体的な値は適宜定めればよいが、例えば5分である。
【0037】
ところで、車両が水没してオイルパンPが水に浸かっている場合、オイル温度が周辺温度より高くなっても、水没していないときに想定された温度上昇の速度よりも遅くなる場合がある。そこで、水没判定部522は、第1待機時間よりも長い第2待機時間が経過した時点のオイル温度が判定温度よりも低い場合に、車両が水没したと判定する。第2待機時間の具体的な値は適宜定めればよいが、例えば10分である。
【0038】
水没判定部522は、周辺温度に基づいて判定温度を決定する。例えば、水没判定部522は、周辺温度が高いほど判定温度を高くする。水没判定部522は、複数の周辺温度の各々にそれぞれ異なる判定温度を関連付けたテーブルを参照し、取得された周辺温度に対応する判定温度を特定してもよい。水没判定部522は、温度を変数とする関数に、取得した周辺温度を代入して判定温度を算出してもよい。関数は、判定温度を求めるための関数であり、例えば温度を変数とする一次関数であるが、これに限定するものではない。なお、判定温度は、周辺温度以上であるものとする。
【0039】
水没判定部522は、オイル温度が周辺温度以上の場合に水没判定処理を行う。具体的には、水没判定部522は、オイル温度が判定温度以上の場合に水没判定処理を行う。このようにすることで、水没判定部522は、オイル温度の温度上昇の速度が遅い場合に車両が水没したと判定できる。
【0040】
水没判定部522は、エンジンが始動してから第1待機時間が経過した時点で、オイル温度が周辺温度以上である場合、オイルの温度上昇の速度による水没判定処理を行わなくてもよい。このようにすることで、水没判定部522は、車両が水没している蓋然性が低い場合に水没判定処理を行うことを抑制して、間違った判断を防ぐことができる。
【0041】
(水没したことを通知する処理)
エンジンの排気ガスを検出するNOxセンサやλセンサ等の排ガス検知装置はヒータを有し、排ガス検知部に水が付着した状態でヒータを動作させると異常を生じるおそれがある。そこで、水没判定部522は、車両が水没したと判定した場合、車両が水没していることを示す水没情報を排ガス検知装置に通知する。排ガス検知装置は、水没情報の通知を受けた場合、ヒータを動作させない。このようにすることで、排ガス検知装置は、水が付着した状態でヒータを動作させることによる異常を抑制できる。なお、水没判定部522は、排ガス検知装置だけでなく、水が付着した状態で動作させると異常を生じる他の装置に水没情報を通知してもよい。また、水没判定部522は、車両に搭載された表示装置やスピーカを制御して、水没情報を出力させてもよい。
【0042】
[水没判定装置5が実行する処理の流れ]
図6は、水没判定装置5が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6のフローチャートは車両のエンジンが始動を完了して運転すると実行される。まず、水没判定部522は、エンジンが始動してから経過した時間である運転時間が、第1待機時間以上か否かを判定する(ステップS1)。水没判定部522は、運転時間が第1待機時間未満の場合(ステップS1でNo)、運転時間が第1待機時間以上になるまで待機する。
【0043】
情報取得部521は、運転時間が第1待機時間以上になったら(ステップS1でYes)、オイル温度及び周辺温度を取得する(ステップS2)。水没判定部522は、オイル温度が周辺温度よりも低いか否かを判定する(ステップS3)。水没判定部522は、オイル温度が周辺温度よりも低い場合(ステップS3でYes)、車両が水没したと判定する(ステップS9)。
【0044】
水没判定部522は、オイル温度が周辺温度以上の場合(ステップS3でNo)、運転時間が第2待機時間以上か否かを判定する(ステップS4)。水没判定部522は、運転時間が第2待機時間未満である場合(ステップS4でNo)、運転時間が第2待機時間以上になるまで待機する。
【0045】
水没判定部522は、運転時間が第2待機時間以上になったら(ステップS4でYes)、オイル温度が判定温度よりも低いか否かを判定する(ステップS5)。水没判定部522は、オイル温度が判定温度よりも低い場合(ステップS5でYes)、車両が水没したと判定する(ステップS9)。
【0046】
情報取得部521は、オイル温度が判定温度以上の場合(ステップS5でNo)、オイル温度及び外面温度を取得する(ステップS6)。情報取得部521は、オイル温度センサ11からオイル温度を取得し、外面温度センサ2から外面温度を取得する。情報取得部521は、どちらの温度を先に取得してもよく、同時に取得してもよい。
【0047】
水没判定部522は、エンジンが運転中か否かを判定する(ステップS7)。水没判定部522は、エンジンが停止している場合(ステップS7でNo)、処理を終了する。
【0048】
水没判定部522は、エンジンが運転中の場合(ステップS7でYes)、オイル温度から外面温度を減算した減算値Dが、水没判定閾値以上か否かを判定する(ステップS8)。水没判定部522は、減算値Dが水没判定閾値以上である場合(ステップS8でYes)、車両が水没したと判定する(ステップS9)。水没判定部522は、車両が水没した場合、車両が水没していることを示す水没情報を他の装置に通知する。水没判定部522は、減算値Dが水没判定閾値未満である場合(ステップS8でNo)、再度オイル温度及び外面温度を取得処理(ステップS6)に戻り水没判定処理を繰り返す。
【0049】
[水没判定システムSの効果]
以上説明したとおり、水没判定装置5は、オイル温度センサ11が検出したオイル温度から、オイルパンPの外面に設けられた外面温度センサ2が検出した外面温度を減算した減算値が水没判定閾値以上である場合、車両が水没したと判定する。車両が水没していないときよりも水没したときの方が、オイル温度に対する外面温度が低くなるから、水没判定システムSは、オイル温度と外面温度との差が水没判定閾値以上か否かを判定することにより、車両が水没したか否かを判定できる。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0051】
S 水没判定システム
1 オイル汲み上げ配管
11 オイル温度センサ
2 外面温度センサ
3 周辺温度センサ
4 傾斜角センサ
5 水没判定装置
51 記憶部
52 制御部
521 情報取得部
522 水没判定部
523 閾値調整部
P オイルパン

図1
図2
図3
図4
図5
図6