(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148224
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ハンダペースト用水溶性フラックス及びハンダペースト
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20220929BHJP
B23K 35/28 20060101ALN20220929BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20220929BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20220929BHJP
C22C 5/02 20060101ALN20220929BHJP
C22C 11/06 20060101ALN20220929BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20220929BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20220929BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20220929BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20220929BHJP
C22C 13/02 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/363 E
B23K35/28 310D
B23K35/26 310A
B23K35/26 310B
B23K35/26 310C
B23K35/26 310D
B23K35/30 310A
C22C5/02
C22C11/06
C22C28/00 B
C22C12/00
C22C18/04
C22C13/00
C22C13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049821
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】大道 悟
(72)【発明者】
【氏名】八十嶋 司
(57)【要約】
【課題】大気中に長時間放置しても乾燥しにくいハンダペーストを調製するための水溶性フラックス及びハンダペーストを提供する。
【解決手段】本発明のハンダペースト用水溶性フラックスは、カプリル酸ポリグリセロールエステル等である有機酸ポリグリセロールエステルと、テトラエチレングリコール等である溶剤と、ベンジリデンソルビトール等であるチキソ剤と、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン等である界面活性剤を含む。水溶性フラックスを100質量%とするとき、有機酸ポリグリセロールエステルを40質量%~60質量%、溶剤を20質量%~35質量%、チキソ剤を5質量%~10質量%、界面活性剤を10質量%~25質量%それぞれ含む。また、ハンダペースト用水溶性フラックスの20℃における蒸気圧が10Pa以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸ポリグリセロールエステルと、溶剤と、チキソ剤と、界面活性剤を含み、
前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上であるハンダペースト用水溶性フラックスにおいて、
前記有機酸ポリグリセロールエステルが、ラウリン酸ポリグリセロールエステル、ステアリン酸ポリグリセロールエステル、イソステアリン酸ポリグリセロールエステル、セスキステアリン酸ポリグリセロールエステル、ジイソステアリン酸ポリグリセロールエステル、ミリスチン酸ポリグリセロールエステル、パルミチン酸ポリグリセロールエステル、オレイン酸ポリグリセロールエステル、ベヘニン酸ポリグリセロールエステル、及びカプリル酸ポリグリセロールエステルからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記溶剤が、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テルペンアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリン、及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記チキソ剤がベンジリデンソルビトール及び/又は硬化ひまし油であり、
前記水溶性フラックスを100質量%とするとき、前記有機酸ポリグリセロールエステルを40質量%~60質量%、前記溶剤を20質量%~35質量%、前記チキソ剤を5質量%~10質量%、前記界面活性剤を10質量%~25質量%それぞれ含み、
20℃における蒸気圧が10Pa以下であることを特徴とするハンダペースト用水溶性フラックス。
【請求項2】
前記ハンダペースト用水溶性フラックスは、活性剤を更に含み、前記活性剤が、カプリル酸、ペラルゴン酸及び乳酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、前記水溶性フラックスを100質量%とするとき、前記活性剤を3質量%~10質量%を含む請求項1記載のハンダペースト用水溶性フラックス。
【請求項3】
請求項1又は2記載のハンダペースト用水溶性フラックスとハンダ粉末とを含むハンダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属同士を接合するためのハンダペーストに用いられる水溶性フラックス及びこのフラックスを用いて調製されたハンダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、チップ部品等の電子部品をプリント基板に実装する場合には、プリント基板表面にハンダペーストを印刷マスクによって印刷し、この印刷されたハンダペースト部分に電子部品をマウントし、その後にリフローによってハンダペーストを溶融固化させて電子部品を実装することが知られている。
【0003】
上記電子部品の実装方法では、生産ラインの設計の都合で、ハンダペーストを印刷した後で長時間放置せざるを得ない場合がある。その場合、共晶温度が217℃のSn-Ag-Cu系(Sn96.5質量%、Ag3.0質量%、Cu0.5質量%)ハンダ粉末を含む低融点ペーストのような耐熱性の低いフラックスを用いたハンダペーストでは、ペースト表面の乾燥が進んでしまい、電子部品をマウントするときに、ハンダペーストの粘着性を利用して電子部品をペースト上に固定しようとしても、ペーストの表面が乾燥しているため、固定することができなくなる。
【0004】
従来、こうした課題を解決するために、プリント基板のクリーム半田(ハンダペースト)が印刷された面を下向きにして整形し、整形時にプリント基板に振動を加えることを特徴とする半田形状の整形方法が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、請求項2、段落[0001]~段落[0003]、段落[0036]、段落[0037])参照。)。
【0005】
特許文献1には、この整形方法によれば、プリント基板のクリーム半田が印刷された面を下向きにすることによって、該クリーム半田を縦方向にダレさせて、該クリーム半田どうしの間隔を広げるように半田形状を整形し、これにより回路パターン間の短絡、半田ボールの増加を防止することが可能になる旨が記載されている。またクリーム半田印刷面を下向きにしたプリント基板に対して振動を加えることによって、縦方向のダレを促進させて半田形状を整形することが可能になる旨が記載されている。
【0006】
一方、本出願人は、ハンダペースト用水溶性フラックスとして、有機酸ポリグリセリンエステルと、溶剤と、活性剤と、チキソ剤と、酸化防止剤とを含むフラックスを提案した(特許文献2(請求項1、段落[0016])参照。)。このフラックスは、溶剤が1分子中に水酸基を2個以上有し、沸点が200~400℃、かつ融点が25℃未満の有機溶剤を1種以上含み、活性剤が非イオン性有機ハロゲン化合物及び/又は1分子中に水酸基を2個以上有し、かつ融点が25℃以上の有機化合物であり、ハンダペースト用水溶性フラックスの全体量を100質量%とするとき、有機酸ポリグリセリンエステルの含有割合は10質量%以上50質量%未満であり、溶剤の含有割合は30~60質量%であり、活性剤の含有割合は0.1~20質量%であり、チキソ剤の含有割合は1~10質量%であり、酸化防止剤の含有割合は1~10質量%である特徴とする。
【0007】
特許文献2に示されるハンダペースト用水溶性フラックスは、ハンダペーストに、実装中の優れた印刷性及び溶融性を付与できるとともに、高温ハンダ用のフラックスとして使用しても、リフロー後、有機溶剤等を使用せずに、水のみで洗浄可能であり、実装中の安全衛生面及び環境面等に優れたハンダペーストを調製できる効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-196233号公報
【特許文献2】特許第6668664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に示される半田形状の整形方法では、プリント基板のクリーム半田が印刷された面を下向きにするための反転装置や、プリント基板に振動を加えるための加振装置を必要とし、実装設備が複雑になる課題があった。またクリーム半田を印刷した後で、大気中に長時間放置すると、印刷面を下向きにしても、或いは下向きにして振動を加えても、クリーム半田が乾燥してしまい、チップや基板への付着性に劣る課題があった。
【0010】
また、特許文献2に示されるハンダペースト用水溶性フラックスは、上記優れた効果を有するけれども、ハンダペーストに調製して、このペーストを印刷した後で、大気中に長時間放置した場合には、特許文献1の発明と同様の課題があった。
【0011】
本発明の目的は、大気中に長時間放置しても乾燥しにくいハンダペーストを調製するための水溶性フラックス及びハンダペーストを提供することにある。
【0012】
本発明の第1の観点は、有機酸ポリグリセロールエステルと、溶剤と、チキソ剤と、界面活性剤を含み、前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上であるハンダペースト用水溶性フラックスにおいて、有機酸ポリグリセロールエステルが、ラウリン酸ポリグリセロールエステル、ステアリン酸ポリグリセロールエステル、イソステアリン酸ポリグリセロールエステル、セスキステアリン酸ポリグリセロールエステル、ジイソステアリン酸ポリグリセロールエステル、ミリスチン酸ポリグリセロールエステル、パルミチン酸ポリグリセロールエステル、オレイン酸ポリグリセロールエステル、ベヘニン酸ポリグリセロールエステル、及びカプリル酸ポリグリセロールエステルからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、溶剤が、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テルペンアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリン、及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、前記チキソ剤がベンジリデンソルビトール及び/又は硬化ひまし油であり、水溶性フラックスを100質量%とするとき、有機酸ポリグリセロールエステルを40質量%~60質量%、溶剤を20質量%~35質量%、チキソ剤を5質量%~10質量%、界面活性剤を10質量%~25質量%それぞれ含み、20℃における蒸気圧が10Pa以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記ハンダペースト用水溶性フラックスが、更に活性剤を更に含み、活性剤が、カプリル酸、ペラルゴン酸及び乳酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、水溶性フラックスを100質量%とするとき、活性剤を3質量%~10質量%を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のハンダペースト用水溶性フラックスとハンダ粉末とを含むハンダペーストである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点のハンダペースト用水溶性フラックスでは、フラックスを構成する成分である有機酸ポリグリセロールエステル、溶剤、チキソ剤及び界面活性剤をそれぞれ所定の成分に選定し、かつそれぞれの成分を所定の割合で含有することにより、このフラックスを用いて調製されたペーストを印刷した後で大気中に長時間放置した場合でも、フラックスの耐熱性を高められ、ペーストの表面がほとんど乾燥せず、チップや基板への付着性を維持することができる。
【0016】
本発明の第2の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、活性剤を更に含み、その活性剤を3質量%~10質量%に設定することにより、ハンダ粉末が速やかに溶融して、十分な接合強度が得られるとともに、保管中に活性剤のハンダ粉末との反応が抑制され、ハンダペーストの保存安定性を確保できる。
【0017】
本発明の第3の観点のハンダペーストでは、第1又は第2の観点のフラックスを用いて調製されたペーストを印刷した後で大気中に長時間放置した場合でも、フラックスの耐熱性が高められ、ペーストの表面がほとんど乾燥せず、チップや基板への付着性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を説明する。本発明のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機酸ポリグリセロールエステルと、溶剤と、チキソ剤と、界面活性剤とを含む。界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上である。有機酸ポリグリセロールエステルは、グリセリンを脱水縮合して得られるポリグリセリンと有機酸とをエステル化反応させることにより得られる。具体的には、ラウリン酸ポリグリセロールエステル、ステアリン酸ポリグリセロールエステル、イソステアリン酸ポリグリセロールエステル、セスキステアリン酸ポリグリセロールエステル、ジイソステアリン酸ポリグリセロールエステル、ミリスチン酸ポリグリセロールエステル、パルミチン酸ポリグリセロールエステル、オレイン酸ポリグリセロールエステル、ベヘニン酸ポリグリセロールエステル、及びカプリル酸ポリグリセロールエステルからなる群より選ばれた1種又は2種以上である。上述した有機酸ポリグリセロールエステルは、他の有機酸ポリグリセロールエステルと比較してモノマーの分子量が小さくリフロー後の除去性が高いという特長がある。
【0019】
溶剤は、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テルペンアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリン、及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれた1種又は2種以上である。上述した溶剤は、他の溶剤と比較して蒸気圧が低く耐乾燥性が高いという特長がある。
【0020】
チキソ剤は、ベンジリデンソルビトール(1,3:2,4-ビス-O-(ベンジリデン)ソルビトール)及び/又は硬化ひまし油である。上述したチキソ剤は、他のチキソ剤と比較して分子間での水素結合によりチクソ性を持たせやすいという特長がある。
【0021】
上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体などのエーテル型ノニオン系界面活性剤;ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミンなどの(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン、トリエタノールなどのアルコールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N,N',N'-トリス(2-ヒドロキシエチル)-N-アルキル-1,3-ジアミノアルカン、N,N',N'-ポリオキシエチレン-N-アルキル-1,3-ジアミノアルカン、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルアミンなどのアルキルアミンエーテル型ノニオン系界面活性剤;脂肪酸エステル、グリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどのエステル型ノニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルアルカノールアミドなどのエーテルエステル型ノニオン系界面活性剤;N-アシルアミノ酸エステル、N-アシルグルタミン酸エステル、ピログルタミン酸エステルなどのアミノ酸誘導体型ノニオン系界面活性剤が例示される。その他フェノールエトキシレート、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤がノニオン系界面活性剤として挙げられる。
また、上記カチオン系界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩などのアルキルアミン塩などの界面活性剤が例示される。
また、上記アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、芳香族リン酸エステルなどの脂肪族リン酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸エステルNa塩、アルコールサルフェートNa塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの界面活性剤が例示される。
更に、上記両性界面活性剤としては、ラウリルベタインなどのアルキルベタイン、脂肪酸アミドアルキル酢酸ベタイン、脂肪酸アミノ酢酸ベタイン、アルキルアミンオキサイドなどの界面活性剤が例示される。
上述した界面活性剤は、他の界面活性剤と比較して蒸気圧が低く耐乾燥性が高いという特長がある。
【0022】
水溶性フラックスを100質量%とするときに、有機酸ポリグリセロールエステルの含有割合は、40質量%~60質量%であり、好ましくは44質量%~55質量%である。また、溶剤の含有割合は20質量%~35質量%であり、好ましくは27質量%~34質量%である。また、チキソ剤の含有割合は5質量%~10質量%であり、好ましくは2.2質量%~7質量%である。また、界面活性剤の含有割合は10質量%~25質量%であり、好ましくは10質量%~20質量%である。更に、フラックスは20℃における蒸気圧が10Pa以下であり、好ましくは1Pa以下である。この蒸気圧は、蒸気圧測定装置VPR(日本サイエンスコア社製)を用いて、クヌーセン(Knudsen)流出法により測定される。
【0023】
有機酸ポリグリセロールエステルの含有割合が下限値未満では、ペーストの流動性、基板へのタッキング性等が低下するため、印刷後のバンプに形状不良等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が高くなり過ぎ、これに応じてペースト粘度も高くなることで、印刷後のバンプに形状不良が生じたり、ペーストがマスク開口部から吐出されずにバンプが形成されない、いわゆるミッシング等の不具合が生じる場合がある。また、溶剤の含有割合が下限値未満では、フラックスの粘度が高くなり、これに応じてペースト粘度が高くなりすぎることで、バンプの形状不良やミッシング等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が低くなり、これに応じてペーストの粘度が低くなり過ぎることで、ペースト中のハンダ粉末が沈降分離する等の不具合が生じる場合がある。
【0024】
また、チキソ剤の含有割合が下限値未満では、ハンダペーストとしての形状保持性が低下し、隣り合うバンプ同士が繋がってしまう、いわゆるブリッジ等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が高くなり、これに応じてペースト粘度が高くなりすぎることで、上述のバンプの形状不良やミッシング等の不具合が生じる場合がある。また、界面活性剤の含有割合が下限値未満では、基板上に多数のハンダバンプを形成したときに、ハンダペーストにしたときにペーストが流動しにくくなり、バンプが形成されないミッシングバンプが発生する。一方、上限値を超えると、ハンダペーストにしたときにペーストが流動し易くなり、隣り合うバンプ同士が繋がってしまう、いわゆるブリッジが発生する。更に、フラックスの蒸気圧が上限値を超えると、このフラックスを含むハンダペーストを基板に塗布した後、半導体チップを搭載するまで長時間(例えば、2時間を大きく上回る時間)放置したときに、塗布したペーストの表面が乾燥してしまい無加圧接合できなくなる。
【0025】
フラックスには、上述の有機酸ポリグリセロールエステル、溶剤、チキソ剤、界面活性剤以外に、活性剤や酸化防止剤等を含ませることができる。活性剤は、カプリル酸、ペラルゴン酸及び乳酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上である。また、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤又はアミン系防止剤等が挙げられる。ここで、水溶性フラックスを100質量%とするとき、活性剤の含有割合は3質量%~10質量%であることが好ましく、4質量%~7質量%とするのが更に好ましい。また、酸化防止剤の含有割合は1質量%~2質量%とするのが好ましい。ここで、活性剤の好ましい含有割合が下限値未満では、ハンダ粉末が溶融せず、十分な接合強度が得られない場合がある。一方、上限値を越えると、保管中に活性剤がハンダ粉末と反応しやすくなるため、ハンダペーストの保存安定性が低下する場合がある。更に、酸化防止剤の好ましい含有割合が下限値未満では、ハンダ粉末とフラックス成分が反応しやすくなるため、ハンダペーストの保存安定性が低下する場合がある。一方、上限値を越えると、ハンダ粉末の溶融性が低下する場合がある。
【0026】
このようにして得られたフラックスを用いてハンダペーストを調製するには、フラックスとハンダ粉末を所望の割合で混合する。使用するハンダ粉末については、特に限定されず、一般的な錫を主成分とするハンダ粉末等を使用することができる。例えば、Sn-Pb系ハンダ(組成Sn:Pb=63:37質量%等)、Sn-Pb-Ag系ハンダ(組成Sn:Pb:Ag=62:36:2質量%等)、Sn-Pb-Bi系ハンダ(組成Sn:Pb:Bi=57:40:3質量%等)、Sn-Pb-Sb系ハンダ(組成Sn:Pb:Sb=8:86:6質量%等)、Sn-Ag系ハンダ(組成Sn:Ag=97.7:2.3質量%等)、Sn-Cu系ハンダ(組成Sn:Cu=98.3:0.7質量%等)、Sn-Ag-Cu系ハンダ(組成Sn:Ag:Cu=96.5:3:0.5質量%等)、Au-Sn系の高温ハンダ(組成Au:Sn=75~85:25~15質量%、及び組成Au:Sn=5~15:95~85質量%、特に組成Au:Sn=78~80:22~20質量%、及び組成Au:Sn=10:90質量%等)、Au-Si系の高温ハンダ(組成Au:Si=81.4:18.6質量%等)、Au-Ge系の高温ハンダ(組成Au:Ge=92.6:7.4質量%等)、Sn-Pb系の高温ハンダ(組成Sn:Pb=5:95質量%等)、その他、Zn-Sn系ハンダ(組成Zn:Sn=9:91質量%等)、In-Sn系ハンダ(組成In:Sn=52:48質量%等)、Bi-Sn系ハンダ(組成Bi:Sn=58:42質量%等)、Sb-Sn系ハンダ(組成Sb:Sn=5:95質量%等)、Al-Zn系ハンダ(組成Al:Zn=5:95質量%等)等が挙げられる。また、ハンダ粉末の平均粒径については、一般的なハンダペーストに用いられる範囲内のものであれば特に限定されないが、例えば0.1μm~1mmの範囲のものを好適に使用できる。なお、狭ピッチ印刷等を考慮すると、ハンダ粉末の平均粒径は0.1μm~50μmの範囲内であることが好ましく、更に微細なバンプ形成等を考慮すると、1μm~20μmの範囲内であることがより好ましい。本明細書において、平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、型式名:Partica LA-950)を用いて測定された体積基準の平均粒径D50をいう。
【0027】
ハンダペーストを調製する際のフラックスの混合量は、調製後のペーストを100質量%とするとき、フラックスの割合が3質量%~60質量%となる量に調整するのが好ましい。下限値未満では、フラックスの量が少ないため、ペースト化が困難になる、或いはハンダ粉末が溶融しない等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、ペースト中に含まれるハンダ粉末の量が少なくなり、溶融後に必要なハンダ量が得られない場合がある。
【0028】
このように調製されたハンダペーストでは、フラックスを構成する成分である有機酸ポリグリセロールエステル、溶剤、チキソ剤及び界面活性剤等をそれぞれ特定の成分に選定し、かつそれぞれの成分を特別の割合に設定することにより、このフラックスを用いて調製されたペーストを印刷した後で大気中に長時間放置した場合でも、フラックスの耐熱性を高められ、ペーストの表面がほとんど乾燥せず、チップや基板への付着性を維持することができる。また、バンプ形成や狭ピッチ印刷に適した良好な印刷性或いは溶融性を維持しつつも、リフロー後の洗浄を水だけで行うことができ、実装中の安全衛生面や環境面等で優れる。そのため、このハンダペーストは、特に、FCボンディング技術等の実装技術において好適に用いることができる。
【実施例0029】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0030】
<実施例1~24及び比較例1~12>
有機酸ポリグリセロールエステルと、溶剤と、活性剤と、チキソ剤と、界面活性剤をそれぞれ用意した。これらを、以下の表2及び表3に示す割合で配合し、混合、撹拌することによりフラックスを得た。なお、表2及び表3中、分類A~Hで示される有機酸ポリグリセロールエステル、分類A~Fで示される溶剤、分類A~Eで示される活性剤、及び分類A及びBで示されるチキソ剤を表1に示す。また、表1において、分類A~Dで示される界面活性剤は、エーテル型ノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(分類A)、同じくエーテル型ノニオン系界面活性剤であるビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(分類B)、アニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(分類C)、及びカチオン系界面活性剤であるラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(分類D)である。表1中、有機酸ポリグリセロールエステルの名称の末尾に記載された数字はポリグリセロールの重合数を示す。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
<比較試験>
実施例1~24及び比較例1~12で得られたフラックスを用いて、以下の(i)~(iv)の評価を行った。また前述した方法でフラックスの20℃における蒸気圧を測定した。これらの結果を表4及び表5に示す。表4及び表5には、用いた二種類のハンダ粉末も示した。
【0035】
(i) ハンダペーストの耐乾燥性:二種類のハンダ粉末から、二種類のハンダペーストを調製した。先ず、平均粒径が8μmのSn-Ag-Cu系ハンダ粉末(組成:Sn96.5質量%、Ag3.0質量%、Cu0.5質量%)を用意し、このハンダ粉末89.0質量部と、実施例1~11、13~24及び比較例1~12でそれぞれ得られたフラックス11.0質量部とを室温にて攪拌、混合することにより、ハンダペーストを調製した。表4及び表5においてこのハンダ粉末を「SAC305」と記載した。
次に、平均粒径が8μmのAu-Sn系ハンダ粉末(組成:Au78.0質量%、Sn22.0質量%)を用意し、このハンダ粉末94.0質量部と、実施例12で得られたフラックス6.0質量部とを室温にて攪拌、混合することにより、ハンダペーストを調製した。表4においてこのハンダ粉末を「Au22Sn」と記載した。なお、ハンダ粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式名:Partica LA-950)を用いて測定した体積基準の平均粒径D50である。
ハンダペーストの耐乾燥性は、次の方法で判定した。即ち、調製したハンダペーストを、ステンシルマスク(マスク開口寸法1mm角、マスク厚み50μm)を用いてAuメタライズを施した平坦なコバール基板上に印刷する。それを24℃の温度で50%の湿度に管理されたクリーンルームにて無風環境下にて8時間保管後、更にAuメタライズを施したダミーSiチップ(縦1mm×横1mm×厚さ0.3mm)をその上にマウントし、基板ごとゆっくりと裏返してチップがペーストから落ちるか否かをもってペースト表面が乾燥していたか否かを判定した。裏返したチップがペーストから落ちないものを「良好」とし、落ちるものを「不良」とした。
【0036】
(ii) バンプ印刷性(基板):複数の開口部が設けられたNiメッキ製のメタルマスク版(外形寸法:縦300mm×横3000mm×厚さ20μm、開口径φ:75μm、開口部ピッチ:100μm)を備える小型半自動スクリーン印刷機を用い、上述のハンダペーストをシリコン基板(寸法:縦60mm×横60mm×厚さ0.8mm)上に印刷することにより、基板上にハンダバンプを形成した。なお、上記基板は、基板の一方の面に設けられた厚さが約50μmの銅箔と、この銅箔上に設けられ、銅箔まで貫通する複数の開口部が形成されたレジスト膜(膜厚15μm、開口径φ65μm、開口部ピッチ100μm)を備える。上記基板上に形成されたハンダバンプ20,000個中、バンプが形成されないミッシングバンプの数と、隣り合うバンプ同士が繋がったブリッジの数を計測した。ミッシングバンプの数及びブリッジの数がそれぞれ5以下のものを「良好」とし、6以上のものを「不良」とした。
【0037】
(iii) バンプ溶融性(基板):上述のバンプ印刷性試験でハンダバンプを形成した基板を、リフロー炉(マルコム社製、型式名:SRS-1C)を用いて、次の条件で溶融させた。実施例1~11、13~24及び比較例1~12のSn-Ag-Cu系ハンダ粉末を用いたハンダペーストにより形成されたハンダバンプについては、基板を窒素雰囲気中、室温から150℃まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、150℃で2分間予備乾燥した後、150℃から230℃の温度まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、230℃の温度で5秒間加熱することにより、基板上のハンダバンプを溶融させた。また実施例12のAu-Sn系ハンダ粉末を用いたハンダペーストにより形成されたハンダバンプについては、室温から220℃まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、220℃で2分間予備乾燥した後、220℃から300℃の温度まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、300℃の温度で5秒間加熱することにより、基板上のハンダバンプを溶融させた。リフロー後の外観を目視にて観察し、バンプ周辺に未凝集のハンダが確認されなかった場合を「良好」、未凝集のハンダが確認された場合を「不良」と評価した。
【0038】
(iv) フラックス洗浄性(基板):100mlのガラス製ビーカーに入れた50mlのイオン交換水を、ホットプレートを用いて60℃になるまで加熱した。この60℃のイオン交換水が入ったビーカーに、上述の溶融性試験を行った後の基板を投入し、更に超音波洗浄器内にビーカーごと投入して5分間超音波をかけた。その後、基板をビーカーから取り出し、エアブローにて水を除去した後に、乾燥器を用いて、50℃の温度で5分間乾燥させた。リフロー及び洗浄後のバンプ部分を、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子社製、型式名:JSM-6510LV)の反射電子像にて観察し、有機成分の残渣の有無を確認した。このときの有機成分の残渣の有無又はその程度から、残渣がほぼ皆無であった場合、或いはバンプ表面積100%に対して5%未満の残渣が確認された場合を「良好」、バンプ表面積100%に対して5%以上の残渣が確認された場合を「不良」とした。
【0039】
【0040】
【0041】
<評価>
表3及び表5から明らかなように、比較例1では、有機酸ポリグリセロールエステルの含有割合が前述した範囲を下回る38質量%であったため、ハンダペーストの流動性、基板へのタッキング性が低下し、バンプ印刷性が「不良」であった。
【0042】
比較例2では、溶剤の含有割合が前述した範囲を下回る17質量%であったため、フラックスの粘度が高まり、ハンダペーストの粘度が高くなり過ぎ、バンプ印刷性及びバンプ溶融性がともに「不良」であった。
【0043】
比較例3では、溶剤の含有割合が前述した範囲を上回る50質量%であったため、フラックスの粘度が低くなり、ハンダペーストの粘度が低くなり過ぎ、バンプ印刷性及びバンプ溶融性がともに「不良」であった。
【0044】
比較例4では、所定の溶剤でない、蒸気圧が高いジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(分類F)を溶剤として用いたため、フラックスの20℃における蒸気圧が67Paになり、ハンダペーストの耐乾燥性が「不良」であった。
【0045】
比較例5では、チキソ剤の含有割合が前述した範囲を下回る0.5質量%であったため、ハンダペーストとしての形状保持性が低下し、バンプ印刷性が「不良」であった。
【0046】
比較例6では、チキソ剤の含有割合が前述した範囲を上回る15質量%であったため、フラックスの粘度が高まり、ハンダペーストの粘度が高くなり過ぎ、フラックス洗浄性が「不良」であった。
【0047】
比較例7では、界面活性剤の含有割合が前述した範囲を下回る3質量%であったため、フラックスを用いてハンダペーストにしたときにペーストが流動しにくく、ミッシングバンプやブリッジが発生し、バンプ印刷性が「不良」であった。
【0048】
比較例8では、所定の界面活性剤でなく、かつ蒸気圧が高いラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(分類D)を界面活性剤として用いたため、ハンダペーストの耐乾燥性及びバンプ印刷性がともに「不良」であった。
【0049】
比較例9では、所定の活性剤でなく、かつ蒸気圧が高い酪酸(分類D)を活性剤として用いたため、フラックスの20℃における蒸気圧が227Paと大幅に上昇し、ハンダペーストの耐乾燥性及びバンプ溶融性がともに「不良」であった。
【0050】
比較例10では、所定の活性剤でなく、かつ蒸気圧が高い吉草酸(分類E)を活性剤として用いたため、フラックスの20℃における蒸気圧が26Paとなり、ハンダペーストの耐乾燥性及びバンプ溶融性がともに「不良」であった。
【0051】
比較例11では、有機酸ポリグリセロールエステルの含有割合が前述した範囲を上回る70質量%であったため、フラックスの粘度が高まり、ハンダペーストの粘度が高くなり過ぎ、バンプ印刷性が「不良」であった。
【0052】
比較例12では、界面活性剤の含有割合が前述した範囲を上回る30質量%であったため、フラックスを用いてハンダペーストにしたときにペーストが流動し易くなり、隣り合うバンプ同士が繋がり、バンプ印刷性が「不良」であった。
【0053】
これらに対して、表2及び表4から明らかなように、実施例1~24では、フラックスを構成する成分である有機酸ポリグリセロールエステル、溶剤、チキソ剤及び界面活性剤をそれぞれ所定の成分に選定し、かつそれぞれの成分を所定の割合で含有することにより、フラックスの20℃における蒸気圧は、10Pa以下であり、ハンダペーストの耐乾燥性、バンプ印刷性、バンプ溶融性及びフラックス洗浄性は、すべて「良好」であった。
【0054】
本発明のハンダペースト用水溶性フラックスは、電子部品の実装(特に、FCボンディング技術のようなバンプ形成や狭ピッチ印刷等が必要な実装技術)、その他部品の接合等に広く利用することができる。