(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148236
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ガスハイドレート及びその生成方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20220929BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220929BHJP
B01J 3/03 20060101ALI20220929BHJP
B01J 3/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
C01B32/50
B01J3/03 A
B01J3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049839
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504238806
【氏名又は名称】国立大学法人北見工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】布川 裕
【テーマコード(参考)】
3E172
4G146
【Fターム(参考)】
3E172AA05
3E172AB13
3E172BA01
3E172BB04
3E172BD05
3E172EB02
3E172KA22
3E172KA23
4G146JA05
4G146JB04
4G146JC18
4G146JC19
4G146JC28
4G146JC33
(57)【要約】
【課題】簡便な手法で繰り返し生成することが可能なガスハイドレート及びその生成方法を提供する。
【解決手段】ガスハイドレートでは、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊の内部に包接ガスが取り込まれている。アミノ酸水溶液における疎水性アミノ酸の濃度は、0.01wt%~1.0wt%の範囲内であってもよい。疎水性アミノ酸は、L-トリプトファン又はL-ロイシンであってもよい。包接ガスは、メタンガス又は炭酸ガスであってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊の内部に包接ガスが取り込まれたガスハイドレート。
【請求項2】
前記アミノ酸水溶液における前記疎水性アミノ酸の濃度は、0.01wt%~1.0wt%の範囲内である、
請求項1に記載のガスハイドレート。
【請求項3】
前記疎水性アミノ酸は、トリプトファン又はロイシンである、
請求項1又は2に記載のガスハイドレート。
【請求項4】
前記包接ガスは、メタンガス又は炭酸ガスである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスハイドレート。
【請求項5】
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊を圧力容器内に収容すると共に-3℃以下に冷却した状態で、前記圧力容器内の包接ガスを加圧する工程と、
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧された状態で、前記アミノ酸氷塊を融点以上に加熱し、前記アミノ酸氷塊が融点以上である状態を一定時間維持することで、前記アミノ酸氷塊の全部又は一部を融解させる工程と、
を含むガスハイドレート生成方法。
【請求項6】
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊を圧力容器内に収容した状態で、前記圧力容器内の包接ガスを加圧すると共に前記アミノ酸氷塊を融点以上に加熱する工程と、
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧され、前記アミノ酸氷塊が融点以上である状態を一定時間維持することで、前記アミノ酸氷塊の全部又は一部を融解させる工程と、
を含むガスハイドレート生成方法。
【請求項7】
前記アミノ酸水溶液を前記圧力容器内に投入する工程と、
前記圧力容器内に投入された前記アミノ酸水溶液が凍結するように前記アミノ酸水溶液を冷却する工程と、をさらに含む、
請求項5又は6に記載のガスハイドレート生成方法。
【請求項8】
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧された状態で、前記アミノ酸氷塊が融解して得られたアミノ酸水溶液が凍結するように前記アミノ酸水溶液を冷却する工程と、
前記アミノ酸水溶液を凍結して得られた前記アミノ酸氷塊を冷却したまま、前記圧力容器内の前記包接ガスを大気圧まで減圧する工程と、をさらに含む、
請求項5から7のいずれか1項に記載のガスハイドレート生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレート及びその生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタンガスや炭酸ガスのガス分子を内部に取り込んだガスハイドレートに注目が集まっている。ガスハイドレートは、最大で自らの体積の164倍ものガスを内部に安定して保持でき、減圧又は熱刺激により簡単に分解できるため、ガスの輸送、貯蔵及び供給に好適である。そこで、ガスハイドレートを簡易な手順で生成する方法の開発が進められている。例えば、特許文献1には、パウダー状の氷を恒温槽中の圧力容器内に投入し、加圧された状態でパウダー状の氷と炭酸ガスとを混合することで、炭酸ガスハイドレートを生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、マイクロメートルオーダーの微細な粒径を有するパウダー状の氷を用いるため、パウダー状の氷の製造に多くの時間や労力を要する。また、パウダー状の氷が融解しないように低温室内での慎重な取り扱いが求められるため、炭酸ガスハイドレートの繰り返しの製造には不向きであり、現実の製造現場におけるガスハイドレートの量産は技術的に困難である。そして、このような問題は、炭酸ガスハイドレートの生成に限られず、他のガスハイドレートの生成においても存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、簡便な手法で繰り返し生成することが可能なガスハイドレート及びその生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るガスハイドレートでは、
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊の内部に包接ガスが取り込まれている。
【0007】
前記アミノ酸水溶液における前記疎水性アミノ酸の濃度は、0.01wt%~1.0wt%の範囲内であってもよい。
【0008】
前記疎水性アミノ酸は、トリプトファン又はロイシンであってもよい。
【0009】
前記包接ガスは、メタンガス又は炭酸ガスであってもよい。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係るガスハイドレート生成方法は、
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊を圧力容器内に収容すると共に-3℃以下に冷却した状態で、前記圧力容器内の包接ガスを加圧する工程と、
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧された状態で、前記アミノ酸氷塊を融点以上に加熱し、前記アミノ酸氷塊が融点以上である状態を一定時間維持することで、前記アミノ酸氷塊の全部又は一部を融解させる工程と、
を含む。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第3の観点に係るガスハイドレート生成方法は、
疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊を圧力容器内に収容した状態で、前記圧力容器内の包接ガスを加圧すると共に前記アミノ酸氷塊を融点以上に加熱する工程と、
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧され、前記アミノ酸氷塊が融点以上である状態を一定時間維持することで、前記アミノ酸氷塊の全部又は一部を融解させる工程と、
を含む。
【0012】
前記アミノ酸水溶液を前記圧力容器内に投入する工程と、
前記圧力容器内に投入された前記アミノ酸水溶液が凍結するように前記アミノ酸水溶液を冷却する工程と、をさらに含んでもよい。
【0013】
前記圧力容器内で前記包接ガスが加圧された状態で、前記アミノ酸氷塊が融解して得られたアミノ酸水溶液が凍結するように前記アミノ酸水溶液を冷却する工程と、
前記アミノ酸水溶液を凍結して得られた前記アミノ酸氷塊を冷却したまま、前記圧力容器内の前記包接ガスを大気圧まで減圧する工程と、をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な手法で繰り返し生成することが可能なガスハイドレート及びその生成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るガスハイドレートの生成システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るガスハイドレートの生成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】メタンハイドレート及び炭酸ガスハイドレートの平衡曲線及び液化曲線を示すグラフである。
【
図4】実施例1におけるL-トリプトファン氷塊に対するラマン解析の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1におけるL-ロイシン氷塊に対するラマン解析の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例3におけるL-トリプトファン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図7】実施例3におけるL-トリプトファン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図8】実施例3における超純水におけるメタンハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図9】実施例4におけるL-トリプトファン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図10】実施例4におけるL-トリプトファン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図11】実施例5におけるL-トリプトファン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図12】実施例5におけるL-トリプトファン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図13】実施例6におけるL-トリプトファン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図14】実施例6におけるL-トリプトファン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解の流れを示すグラフである。
【
図15】実施例7におけるL-トリプトファン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解を示すグラフである。
【
図16】実施例7におけるL-ロイシン水溶液を用いたメタンハイドレートの生成及び分解を示すグラフである。
【
図17】実施例7におけるL-トリプトファン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解を示すグラフである。
【
図18】実施例7におけるL-ロイシン水溶液を用いた炭酸ガスハイドレートの生成及び分解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るガスハイドレート及びその生成方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
ガスハイドレートは、水素結合により結合した複数の水分子で構成される多面体のケージがガス分子(ゲスト分子)を包み込み、複数の多面体が互いに面を共有して結晶格子を形成しているガス包接水和物である。ガスハイドレートは、メタンガスや炭酸ガスのような包接ガスを取り込む構造I型、プロパンガスや窒素、酸素のような包接ガスを取り込む構造II型、特殊な条件下で生成される構造H型に分類される。
【0018】
構造I型の結晶格子は、2個の12面体(Sケージ)と6個の14面体(Mケージ)とからなる立方晶である。構造II型の結晶格子は、16個の12面体(S1ケージ)と8個の16面体(Lケージ)とからなる立方晶である。構造H型の結晶格子は、3個の12面体(S1ケージ)と、この12面体と形状の異なる2個の12面体(S2ケージ)と、1個の20面体(LLケージ)とからなる六方晶である。包接ガスが単一のガスである場合、ガスハイドレートの構造は、ケージに包接されるガス分子により決定される。他方、包接ガスが混合ガスである場合、混合ガスの濃度比が変化すると、ガスハイドレートの構造が構造I型から構造II型に変化することがある。
【0019】
実施の形態に係るガスハイドレートは、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を凍結させた氷塊(アミノ酸氷塊)に包接ガスのガス分子を取り込ませたガスハイドレートである。氷塊の粒径は、任意であるが、取り扱い性や加工性を考慮すると、少なくとも1mm以上の大きさであることが好ましい。なお、粒径は、例えば、粒状体の大きさとして直接測定できる量(例えば、投影面積、体積)に基づいて不規則な形状の粒状体を規則的な形状(例えば、円、球)の粒状体に変換することで算出すればよい。
【0020】
アミノ酸水溶液中に添加された疎水性アミノ酸は、アミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊においてハイドレート生成反応を促進する。疎水性アミノ酸は、中性アミノ酸の一種である。中性アミノ酸は、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸以外のアミノ酸、言い換えるとカルボキシル基及びアミノ酸以外の官能基を持つアミノ酸である。また、疎水性アミノ酸は、非極性側鎖アミノ酸の一種である。非極性側鎖アミノ酸は、極性電荷側鎖アミノ酸及び極性無電荷側鎖アミノ酸とは異なり、極性を有していないアミノ酸である。
【0021】
疎水性アミノ酸は、疎水性の高いアミノ酸であり、水分子により構成された構造の局所組織を強化する性質を有する。具体的に説明すると、アミノ酸水溶液中のアミノ酸の疎水基には、疎水性水和殻(水分子の殻)が形成され、アミノ酸のカルボキシル基は水素結合ネットワークを形成している。アミノ酸は疎水性アミノ酸であっても、水溶性であるため、ハイドレート生成時に疎水基の疎水性水和殻とカルボキシル基の水素結合ネットワークとが、ハイドレート生成反応を促進すると考えられる。なお、アルコール(R-OH)のアルキル基にも疎水性水和殻が形成され、アルコールのヒドロキシル基も水素結合ネットワークを形成しているが、アルコールは、アルキル基が長くなると水に溶解しない性質を有するため、ハイドレート生成反応を促進することはない。
【0022】
疎水性アミノ酸には、パラフィン系疎水性アミノ酸、芳香族系疎水性アミノ酸が含まれる。パラフィン系疎水性アミノ酸は、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アラニン、プロリン、グリシンである。芳香族系アミノ酸は、例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンである。トリプトファン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンは、いずれもヒトの必須アミノ酸の1つとして知られており、環境中で自然に分解するため、人体や環境に悪影響を及ぼすことがなく、アミノ酸水溶液に含まれる疎水性アミノ酸として好適である。アミノ酸水溶液に含まれる疎水性アミノ酸としては、トリプトファン又はロイシンが特に好ましい。
【0023】
アミノ酸は、立体配置の違いによりのL型及びD型の2つの光学異性体に分類されるが、アミノ酸水溶液に含まれる疎水性アミノ酸は、L型及びD型のいずれであってもよい。ただし、自然界に存在するのはL型であるため、入手や廃棄に伴うコストを考慮すると、L型を用いることが好ましい。
【0024】
アミノ酸水溶液に含まれるアミノ酸の濃度については、アミノ酸の水への溶解度やハイドレート生成反応の促進効果を考慮して設定すればよい。アミノ酸の濃度が高すぎると、アミノ酸水溶液の冷却凍結時やハイドレート生成反応時にアミノ酸水溶液からアミノ酸が析出する。他方、アミノ酸の濃度が低すぎると、ハイドレート生成反応が十分に進行しない。アミノ酸の濃度は、例えば、0.01wt%~1.0wt%の範囲内であることが好ましいが、比較的濃度の低い方が、ハイドレート生成反応が促進されやすい傾向にあるため、0.01wt%~0.5wt%であることがより好ましい。
【0025】
アミノ酸の濃度は、アミノ酸の種類毎に最適化することが好ましい。例えば、トリプトファンであれば、0.01wt%~1.0wt%の範囲内であることが好ましい。また、ロイシンであれば、0.1wt%~1.0wt%の範囲内であることが好ましい。
【0026】
疎水性アミノ酸を含むガスハイドレートは、包接ガスを放出した後、再び凍結した状態に戻し、ガスハイドレート生成反応時と同様の工程を経ることで、再びガスハイドレート生成反応を進行させることができる。発明者が繰り返した実験によると、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液は、半年以上もの間、包接ガスの取り込み及び放出を繰り返しても、再びハイドレート生成反応を引き起こせることが確認されている。しかも、前回のガスハイドレート生成反応時と異なる包接ガスを用いても、再びハイドレート生成反応を進行させることができる。このため、アミノ酸水溶液を圧力容器に入れたまま、ガスハイドレートの生成及び分解を繰り返すことで、任意のタイミングで任意の包接ガスの取り込み及び取り出しを行うことができる。
【0027】
(生成システム)
次に、
図1を参照して、実施の形態に係るガスハイドレートの生成システム1を説明する。生成システム1は、ガスで加圧された状態でアミノ酸氷塊の温度を上昇させることでガスハイドレート生成反応を促進し、アミノ酸氷塊からガスハイドレートを生成する装置である。生成システム1は、圧力容器10と、圧力容器10を内部に収容する恒温槽20と、圧力容器10に接続され、圧力容器10内に包接ガスを供給するガス供給源30と、を備える。圧力容器10とガス供給源30とは、包接ガスを流動可能な配管40を介して接続されている。また、圧力容器10には、圧力容器10内の包接ガスを外部に放出可能な配管50が接続されている。
【0028】
圧力容器10は、包接ガスにより加圧された状態で内部にアミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊を収容可能な容器である。圧力容器10は、上面部に開口が設けられ、内部にアミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊を収容する断面円形状の本体部11と、本体部11の上面部に取り付けられ、下面部が本体部11の上面部に密着する円盤状の蓋部12と、を備える。本体部11の上面部と蓋部12の下面部との間には、包接ガスが外部に漏れないように図示しないテフロン(登録商標)パッキンが配置されている。蓋部12には、圧力容器10内のアミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊の温度を測定する温度センサ13が設けられると共に、各配管40、50の端部が接続されている。
【0029】
恒温槽20は、圧力容器10を内部に収容し、槽内の媒体の液温を一定に維持することで、圧力容器10の温度を一定に維持する装置である。恒温槽20は、圧力容器10内のアミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊の温度を調整する温度調整手段の一例である。恒温槽20は、内部の媒体の温度を測定する温度センサ21と、温度センサ21の測定結果に基づいて内部の媒体を冷却するクーラー(図示せず)と、内部の媒体を加熱するヒーター(図示せず)と、を備える。
【0030】
ガス供給源30は、配管40を介して圧力容器10に接続され、圧力容器10の内部に圧力が調整された包接ガスを供給するガス供給手段の一例である。ガス供給源30は、ガスボンベ31と、ガスボンベ31に接続され、ガスボンベ31から供給された包接ガスの圧力を調整して圧力容器10に向けて放出する圧力調整器32と、を備える。
【0031】
配管40は、ガス供給源30と圧力容器10とを接続する。配管40には、圧力容器10に向かう包接ガスの圧力を測定する圧力センサ41と、圧力容器10に向かう包接ガスの流量を測定する流量センサ42と、が設けられている。流量センサ42には、測定開始時点からの流量センサ42を通過した包接ガスの総流量を積算する流量積算計43が接続されている。また、圧力センサ41と流量センサ42との間、流量センサ42と圧力調整器32との間には、それぞれ人手により開閉可能なバルブ44が設けられている。
【0032】
配管50は、圧力容器10の内部空間と外部空間とを接続する。配管50には、圧力容器10から放出された包接ガスの体積を測定するガス体積測定器51が設けられている。ガス体積測定器51は、例えば、目盛り付きのシリンダーであり、圧力容器10内でガスハイドレートが分解された際に、圧力容器10内で発生した包接ガスの体積を測定するために用いられる。蓋部12とガス体積測定器51との間には、人手により開閉可能なバルブ52が設けられ、外部への包接ガスの放出をコントロールする。
【0033】
コンピュータ60は、温度センサ13、21、圧力センサ41、流量センサ42及び流量積算計43に通信可能に接続され、各種の測定データを取得し、コンピュータ60のディスプレイ上に各種の測定データを表示する。ユーザは、コンピュータ60に表示された各種センサからの測定データを監視し、
図2に示す手順に従って恒温槽20のクーラー及びヒーター、並びに圧力調整器32を操作すればよい。
以上が、生成システム1の構成である。
【0034】
(生成方法)
以下、
図2のフローチャートを参照して、実施の形態に係る生成システム1を用いたガスハイドレートの生成方法の流れを説明する。ガスハイドレートの生成を開始する前に、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液と、包接ガスを貯蔵するガスボンベ31とを準備する。アミノ酸水溶液に含まれる疎水性アミノ酸の濃度は、例えば、0.01wt%~1.0wt%である。この時点では、生成システム1の各バルブ44、52は、いずれも閉じた状態としておく。
【0035】
まず、圧力容器10内に疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を投入する(ステップS1:投入工程)。アミノ酸水溶液を投入した後、圧力容器10の本体部11に蓋部12を装着する。
【0036】
次に、ガス供給源30から圧力容器10に包接ガスを供給し、圧力容器10内の空気を包接ガスに置換する(ステップS2:置換工程)。具体的には、バルブ44を開放し、圧力容器10に向けてガスが放出されるようにガスボンベ31及び圧力調整器32を操作する。ステップS2の工程の時点では、圧力容器10内の包接ガスを加圧せず、包接ガスの圧力は大気圧と同一である。
【0037】
次に、圧力容器10内のアミノ酸水溶液を凍結させてアミノ酸氷塊を作成し、作成されたアミノ酸氷塊の温度が第1の設定温度となるように冷却する(ステップS3:冷却工程)。アミノ酸水溶液を凍結させ、アミノ酸氷塊を冷却するには、恒温槽20のクーラーを動作させればよい。第1の設定温度は、後述する加圧工程でハイドレート生成反応が進行しない程度の温度であり、-3℃以下に設定することが好ましい。さらに、恒温槽20の冷却性能や消費電力を考慮すると、第1の設定温度は、-3℃~-30℃の範囲内であることが好ましく、-3℃~-5℃の範囲内であることがより好ましい。なお、アミノ酸水溶液は、-3℃程度の冷却では凍結せず、過冷却解放を経て凍結が進行する。このため、アミノ酸水溶液の凍結に際しては、過冷却解放の後、アミノ酸氷塊の凍結を完了させるのに適した温度である冷却設定温度まで冷却する。冷却設定温度は、第1の設定温度よりも低温であり、包接ガスがメタンガスの場合であれば、-25℃、包接ガスが炭酸ガスの場合であれば-18℃であることが好ましい。
【0038】
次に、アミノ酸氷塊の温度を第1の設定温度に維持したまま、包接ガスの圧力が設定圧力となるように包接ガスを加圧する(ステップS4:加圧工程)。包接ガスを加圧するには、圧力調整器32をさらに開放するように操作すればよい。設定圧力は、後述する第2の設定温度でアミノ酸氷塊又はアミノ酸水溶液でハイドレート生成反応が進行するように設定され、少なくとも1.033kg/cm2(大気圧)よりも大きく、例えば、10kg/cm2~100kg/cm2の範囲内であることが好ましい。具体的には、設定圧力は、第2の設定温度における平衡圧の2倍程度に設定することがさらに好ましい。平衡圧とは、包接ガスがアミノ酸氷塊又はアミノ酸水溶液に取り込まれる速度と、アミノ酸氷塊又はアミノ酸水溶液から放出される速度とが一致する圧力のことである。加圧工程では、アミノ酸氷塊はハイドレート生成反応が進行しない第1の設定温度に設定されているため、ハイドレート生成反応は進行しない。
【0039】
次に、包接ガスが加圧された状態で、アミノ酸氷塊の温度が第2の設定温度となるようにアミノ酸水溶液を加熱し、包接ガスの圧力及びアミノ酸氷塊の温度がそれぞれ設定圧力及び第2の設定温度である状態を一定時間維持する(ステップS5:加熱工程)。アミノ酸水溶液を加熱するには、恒温槽20のヒーターを動作させればよい。第2の設定温度は、アミノ酸氷塊の融解と同時にハイドレート生成反応が進行するように設定する。具体的には、第2の設定温度は、包接ガスによる加圧下でアミノ酸氷塊が融解する温度(融点以上の温度)であり、少なくとも0℃以上であり、1℃以上であることが好ましく、1℃~5℃の範囲内であることがより好ましい。
【0040】
加熱工程では、アミノ酸氷塊の融解と同時にガスハイドレート生成反応が進行する。ハイドレート生成反応は発熱反応であり、ハイドレート生成反応による発熱は、アミノ酸氷塊の融解を促進するが、アミノ酸塊氷の融解により圧力容器10内の温度上昇が抑制される。加熱工程では、アミノ酸氷塊の融解と同時にハイドレート生成反応が進行すると共に、アミノ酸氷塊の融解により得られたアミノ酸水に包接ガスが溶解することによってハイドレート生成反応が進行する。アミノ酸氷塊が完全に融解すると、融解により得られたアミノ酸水溶液の温度は、発熱反応により加圧条件の平衡圧温度まで急激に上昇する。温度上昇が加圧条件での平衡圧温度に制限されるのは、平衡圧温度以上に温度が上昇すると、生成したハイドレートが分解し、温度が低下するためである。その後、ガスハイドレートの温度は、設定された第2の設定温度まで低下する。加熱工程が終了する時点でアミノ酸氷塊の全てがガスハイドレートに変化していない場合、ガスハイドレート未生成のアミノ酸水溶液が圧力容器10内に残されたままとなる。なお、ハイドレート生成反応が進行しているかどうかは、ガスボンベ31から圧力容器10に向けて流れる包接ガスの流量を流量センサ42で測定し、圧力容器10内に包接ガスが取り込まれているかどうかを確認することで把握できる。
【0041】
ガスハイドレート生成反応に要する時間は、ガスハイドレート生成反応が開始してから圧力容器10への包接ガスの供給を停止させるまでの時間(生成反応時間)で規定することができる。ただし、ガスボンベ31からの包接ガスの供給を停止させたとしても、後述するステップS6の工程を実行するまでガスハイドレート生成反応は継続的に進行し、人為的に止めることができない。生成反応時間は、圧力容器10における包接ガスの圧力、アミノ酸氷塊の量や温度、及び氷塊と包接ガスとの接触面積を考慮して、ガスハイドレート生成反応が十分に進行するように設定すればよく、例えば、30分程度であってもよく、半日程度であってもよい。
【0042】
以下、
図3を参照して、設定圧力及び第2の設定温度の関係について説明する。
図3では、縦軸が圧力、横軸が温度である。
図3の具体例を参照すると、メタンハイドレート及び炭酸ガスハイドレートが平衡状態であることを示す曲線(平衡曲線)がそれぞれ図示されている。平衡曲線は、前述した平衡圧をプロットした曲線である。これらの平衡曲線の左側に圧力及び温度が設定されると、ガスハイドレートの分解が進行しないため、設定圧力及び第2の設定温度を平衡曲線の左側に設定する。
【0043】
また、
図3には、炭酸ガスの液化曲線も図示されている。液化曲線の左側に圧力及び温度が設定されると、炭酸ガスが液化する。液化した二酸化炭素にアミノ酸水溶液が接触すると、ハイドレート生成反応が妨げられるため、設定圧力は後述するステップS6において炭酸ガスが液化しないように設定する。このため、設定圧力及び第2の設定温度は、平衡曲線と液化曲線とに挟まれた領域から選択すればよい。なお、メタンについては、
図3で示す温度領域及び圧力領域で液化しないため、液化曲線を図示していない。
【0044】
図3を参照して具体的に説明すると、例えば、メタンハイドレートでは、温度1℃で平衡圧が28kg/cm
2であるため、ハイドレート生成反応時の設定圧力は温度1℃で50kg/cm
2程度に設定すればよい。他方、炭酸ガスハイドレートでは、温度1℃で平衡圧が14kg/cm
2であるため、ハイドレート生成反応時の設定圧力は、例えば、温度1℃で28kg/cm
2にすればよいと考えられる。しかし、
図3から理解できるように、この条件で温度を-18℃付近まで冷却すると、炭酸ガスが液化してしまうため、ハイドレート生成反応時の設定圧力は、温度1℃で圧力20kg/cm
2以下に設定すればよい。なお、
図3における包接ガスによる加圧を開始する条件である加圧条件(昇圧条件)はあくまで一例であり、
図3に示す温度及び圧力に限られない。
【0045】
次に、ガス供給源30からの包接ガスの供給を停止し、包接ガスにより加圧された状態を維持したまま、ガスハイドレート生成反応が進行したアミノ酸水溶液を第1の設定温度まで冷却して凍結させる(ステップS6:第2の冷却工程)。これによりアミノ酸水溶液がアミノ酸氷塊に変化し、自己保存効果が発現する。なお、第1の設定温度は、大気圧下におけるアミノ酸水溶液のみならず、包接ガスにより加圧された状態のアミノ酸水溶液が凍結するように設定されている。
【0046】
次に、第1の設定温度を維持したまま、圧力容器10内の圧力を包接ガスにより加圧された状態から大気圧に減圧させる(ステップS7:減圧工程)。ガスハイドレートは、自己保存効果を備えるため、冷却した状態を維持しさえすれば、大気圧中でもほとんど分解しない。このため、ガスハイドレートは、包接ガスの貯蔵や運搬に好適である。
以上が、ガスハイドレートの生成方法の流れである。
【0047】
その後、ガスハイドレートから包接ガスを取り出すには、例えば、圧力容器10の本体部11から蓋部12を取り外してガスハイドレートを取り出し、冷凍庫で冷却したまま貯蔵しておき、所望のタイミングで分解すればよい。包接ガスが取り出された後に残るアミノ酸水溶液は、圧力容器10内に戻してガスハイドレートの生成に用いることができる。この手順において再びガスハイドレートを生成するには、上記のガスハイドレート生成方法のうちステップS1の工程を省略すればよい。
【0048】
また、ガスハイドレートから包接ガスを取り出すには、ガスハイドレートを圧力容器10内において大気圧下で冷却したまま貯蔵又は輸送し、所望のタイミングで恒温槽20を操作してガスハイドレートを加熱し、圧力容器10内でガスハイドレートを分解すればよい。このとき、バルブ52を開放することで、圧力容器10で発生した包接ガスを外部に放出すればよい。ガスハイドレートが圧力容器10内で分解すると、アミノ酸水溶液がそのまま圧力容器10内に残される。圧力容器10内に残されたアミノ酸水溶液及び包接ガスは、ガスハイドレートの生成に用いることができる。この手順において再びガスハイドレートを生成するには、上記のガスハイドレート生成方法のうちステップS1及びステップS2の工程を省略すればよい。
【0049】
以上説明したように、実施の形態に係るガスハイドレートは、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を用いている。このため、アミノ酸水溶液を凍結させたアミノ酸氷塊を包接ガスで加圧した状態で加熱するだけで簡単に生成できる。
【0050】
また、実施の形態に係るガスハイドレートは、疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を用いているため、ガスハイドレート分解後も圧力容器10内で繰り返しガスハイドレート生成反応を引き起こすことができる。したがって、圧力容器10からのガスハイドレートの取り出しや圧力容器10へのアミノ酸水溶液の投入を繰り返す必要がないため、包接ガスの運搬や貯蔵に要するコストを抑制できる。
【0051】
そして、実施の形態に係るガスハイドレートは、例えば、石油に由来する界面活性剤のような添加物が不要である。このため、分解時に発泡が発生することがなく、ガスハイドレート分解時の包接ガスの抽出が容易である。また、環境に悪影響を与える物質を用いていないため、環境に負荷を与えるおそれがなく、使用後の廃棄も容易である。
【0052】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0053】
(変形例)
上記実施の形態では、アミノ酸水溶液及びアミノ酸氷塊の温度を第1の設定温度又は第2の設定温度に、包接ガスの圧力を設定圧力に設定していたが、本発明はこれに限られない。アミノ酸水溶液及びアミノ酸氷塊の温度が第1の設定温度又は第2の設定温度を含む一定の変動幅で変動してもよい。また、包接ガスの圧力が設定圧力を含む一定の変動幅で変動してもよい。
【0054】
上記実施の形態では、包接ガスを加圧する工程(ステップS4)と、包接ガスが加圧された状態で、アミノ酸氷塊を融点以上に加熱し、その後、アミノ酸氷塊が融点以上に加熱された状態を一定時間維持する工程(ステップS5)と、を含んでいたが、本発明はこれに限られない。例えば、ステップS4の工程において、アミノ酸氷塊の温度をアミノ酸氷塊が融解しない範囲で、例えば、-3℃まで上昇させてもよい。
【0055】
また、包接ガスを加圧すると共にアミノ酸氷塊を融点以上に加熱する工程と、包接ガスが加圧され、アミノ酸氷塊が融点以上に加熱された状態を一定時間維持する工程と、を含んでもよい。この場合、包接ガスを加圧すると共にアミノ酸氷塊を融点以上に加熱する工程においても、ハイドレート生成反応が進行する。
【0056】
上記実施の形態において、
図2に示すステップS3の処理及びステップS6の処理においてアミノ酸水溶液の温度を互いに同一の温度に冷却していたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図2に示すステップS3の処理及びステップS6の処理では、アミノ酸水溶液が凍結する温度であれば互いに異なる温度であってもよい。
【0057】
上記実施の形態では、圧力容器10内でアミノ酸水溶液を凍結させていたが、本発明はこれに限られない。例えば、製氷機でアミノ酸氷塊を予め生成し、圧力容器10にアミノ酸氷塊を投入することで、
図2に示すステップS1の処理を省略してもよい。アミノ酸氷塊は、圧力容器10の内部空間の形状に合わせた一つの塊であってもよく、多数のバルク状の氷であってもよい。後者の場合であれば、各アミノ酸氷塊と包接ガスとの間の接触面積が増大するため、ガスハイドレート生成反応の反応速度や生成収率を向上させることができる。
【0058】
上記実施の形態では、圧力容器10の蓋部12を本体部11から取り外し、本体部11にアミノ酸水溶液を注入し、その後、本体部11を蓋部12で密閉していたが、本発明はこれに限られない。圧力容器10内の包接ガスを加圧することができれば、圧力容器10の構成は任意である。また、圧力容器10の本体部11又は蓋部12にアミノ酸水溶液を注入する配管及びバルブを接続してもよい。これによりアミノ酸水溶液の注入時における蓋部12の取り外しや取り付けが不要になる。
【0059】
上記実施の形態では、圧力容器10の温度を維持するため圧力容器10を恒温槽20の内部に設置していたが、本発明はこれに限られない。圧力容器10の温度を一定に維持することができれば、他の温度調整手段を設けてもよい。例えば、圧力容器10を内側構造体及び外側構造体からなる二重構造とし、内側構造体及び外側構造体の間の空間に媒体を循環させることで、圧力容器10内のアミノ酸水溶液又はアミノ酸氷塊が設定温度に維持されるように構成してもよい。
【0060】
上記実施の形態では、ユーザが各温度センサ13、21、圧力センサ41及び流量センサ42を監視し、その測定結果に基づいて恒温槽20のクーラー及びヒーター並びに圧力調整器32の動作を手動で調整していたが、本発明はこれに限られない。コンピュータ60がプログラムを記憶するメモリと、メモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサと、を備え、各温度センサ13、21、圧力センサ41及び流量センサ42における測定結果に基づいて、
図2に示すステップS1~ステップS7の処理(ガスハイドレート生成処理)を順次実行するように、恒温槽20のクーラー及びヒーター、圧力調整器32、並びに各配管40、50のバルブ44、52の動作を制御してもよい。この変形例では、バルブ44、52としては、コンピュータ60からの操作信号により開閉可能な電磁バルブを用いるとよい。
【0061】
以下、コンピュータ60が実行するガスハイドレート生成処理の流れを説明する。ガスハイドレート生成処理におけるステップS1の処理は、人手により実行し、その後、コンピュータ60がユーザからの指示を受け付けた時点で、コンピュータ60は、ステップS2~ステップS7の処理を実行すればよい。まず、コンピュータ60は、圧力調整器32及びバルブ44、52を開放することで包接ガスを圧力容器10に流入させ、一定量の包接ガスが流量センサ42を通過したことを検知すると、圧力調整器32及びバルブ52を閉鎖させる(ステップS2)。次に、コンピュータ60は、温度センサ13からの測定データに基づいて、アミノ酸水溶液が第1の設定温度になるように恒温槽20のクーラーを制御する(ステップS3)。次に、コンピュータ60は、圧力センサ41からの測定データに基づいて、包接ガスの圧力が設定圧力となるように圧力調整器32を制御する(ステップS4)。次に、コンピュータ60は、圧力センサ41からの測定データに基づいて、包接ガスの圧力が設定圧力となるように圧力調整器32を引き続き制御すると共に、温度センサ13からの測定データに基づいて、アミノ酸氷塊が第2の設定温度となるように恒温槽20のヒーターを制御する(ステップS5)。ステップS5の処理から一定時間が経過すると、コンピュータ60は、温度センサ13からの測定データに基づいて、アミノ酸水溶液が第1の設定温度となるように恒温槽20のクーラーを制御する(ステップS6)。次に、コンピュータ60は、温度センサ13が第1の設定温度を検知すると、圧力調整器32及びバルブ44を閉鎖し、バルブ52を開放させる(ステップS7)。
以上が、ガスハイドレート生成処理の流れである。
【0062】
上記実施の形態では、生成システム1はガスハイドレートを生成するだけであったが、本発明はこれに限られない。例えば、配管50の端部に包接ガスを必要とする外部機器、例えば、燃焼機器を接続することで、生成システム1でガスハイドレートを分解して得られた包接ガスを外部機器に直接供給するように構成してもよい。
【0063】
上記実施の形態では、圧力容器10、恒温槽20及びガス供給源30が配管40、50により常時接続されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、圧力容器10を生成システム1から取り外し、圧力容器10内のガスハイドレートを貯蔵及び輸送してもよい。圧力容器10内における包接ガスの圧力を10kg以下にすれば、圧力容器10は高圧ガス貯蔵設備に該当しないため、ガスハイドレートの貯蔵及び輸送を簡便に行うことができる。また、輸送車両に圧力容器10及び冷却設備を設置し、ガスハイドレートの生成、輸送、分解及び再生成を輸送先で実現してもよい。さらに、ガスハイドレートからガスを取り出した後の圧力容器10を、内部空間を冷却可能な貯蔵設備に配置することで、圧力容器10内にアミノ酸塊氷を生成してもよい。
【0064】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
実施例1では、アミノ酸氷塊においてガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。アミノ酸水溶液としては、濃度0.01wt%、0.03wt%、0.1%のL-トリプトファン水溶液、濃度0.1wt%、0.5wt%、1.0wt%のL-ロイシン水溶液を用いた。また、包接ガスとしてはメタンガスを用いた。
【0067】
まず、圧力容器10にアミノ酸水溶液を40ml投入し、圧力容器10内の空気をメタンガスに置換した。次に、+20℃から-25℃に温度を下げてアミノ酸水溶液を凍結させ、圧力容器10内でひとまとまりのアミノ酸氷塊を作成した。次に、アミノ酸氷塊の温度を-25℃に維持しつつ、ガスによる圧力を50kg/cm2に増加させた。次に、アミノ酸氷塊の温度を-25℃から1℃に変化させ、温度1℃、加圧50kg/cm2の状態を一晩継続させた。この工程で、アミノ酸塊氷からメタンハイドレートが生成する。次に、アミノ酸水溶液の温度を1℃から-25℃に変化させ、メタンハイドレートを凍結させた。次に、アミノ酸氷塊の温度を-25℃に維持しつつ、ガスによる圧力を50kg/cm2から大気圧に低下させた。その後、圧力容器10からメタンハイドレート塊を取り出し、ラマン解析を実施した。
【0068】
以下、ラマン解析の結果を示す。
図4に示すように、濃度0.01wt%のL-トリプトファン水溶液を用いたアミノ酸氷塊において構造I型ガスハイドレートに特有の結晶構造の存在が確認できた。ラマンシグナルのうち高い強度がラージケージを示し、低い強度がスモールゲージを示す。濃度0.03%、0.1%のL-トリプトファン水溶液を用いた場合においても、同様に構造I型のメタンハイドレートが生成されることを確認できた。また、
図5に示すように、濃度0.1wt%のL-ロイシン水溶液を用いたアミノ酸氷塊において構造I型ガスハイドレートに特有の結晶構造の存在が確認できた。濃度0.5%、1.0%のL-ロイシン水溶液を用いた場合においても、同様に構造I型のメタンハイドレートが生成されることを確認できた。
【0069】
なお、ガスハイドレートの構造を判定するには、ラマン解析以外の手法を用いることもできる。例えば、ハイドレート生成終了後に圧力容器10内の包接ガスの圧力をガスハイドレート平衡圧以下に低下させる。すると、圧力容器10内の包接ガスの圧力が上昇し、ガスハイドレートの平衡圧で一定となる。次に、段階的に温度を上げると、各温度における生成されたガスハイドレートの平衡圧を順次取得できる。これらの平衡圧を文献値と比較することで、ガスハイドレートの構造を判定できる。
【0070】
(実施例2)
実施例2では、包接ガスとして炭酸ガスを用いた場合にもガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。アミノ酸水溶液として濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を用いてメタンハイドレート及び炭酸ガスハイドレートを生成し、これらのガスハイドレートを分解して得られるメタンガス及び炭酸ガスを回収し、各包接ガスの回収収率を算出することで、ガスハイドレート生成反応が発生したかどうかを検証した。回収収率は、理論回収量に対する実測回収量の比であり、検量線を参照して加熱分解圧力から計算することができる。検量線は、ガスハイドレートの加熱分解を繰り返し、ガスハイドレートの加熱分解により得られる包接ガスの圧力及び体積の測定値に基づいて作成すればよい。包接ガスの体積は、目盛り付きシリンダーのようなガス体積測定器51で測定すればよい。なお、比較のためにL-トリプトファン水溶液の代わりに超純水を用いて同様の実験を行い、回収したメタンガスの回収収率を算出した。
【0071】
実験の条件や手順は、ガスハイドレートを生成するまでは実施例1と同一である。その後、ガスハイドレートを大気圧下で圧力容器10内に閉じ込めたまま、ガスハイドレートの温度を-25℃から20℃に変化させ、完全に分解した。このとき、配管40のバルブ44を閉鎖したまま配管50のバルブ52を開放し、発生したガスをガス体積測定器51で回収することで、各包接ガスの体積を測定した。なお、メタンハイドレートの冷却工程では、実施例1の場合と同様に加圧条件を圧力50kg/cm2、温度-25℃としたが、炭酸ガスハイドレートの冷却工程では、炭酸ガスの液化を防ぐため、加圧条件を圧力20kg/cm2、温度-18℃とした。
【0072】
以下に実験結果を示す。
図6及び
図7に示すように加熱分解時に包接ガスの圧力が急激に上昇した。予め作成した検量線を参照して加熱分解圧力から回収収率を計算すると、メタンハイドレートから回収されたメタンガスの回収収率は89%であるのに対し、炭酸ガスハイドレートから回収された炭酸ガスの回収収率は84%であった。いずれにおいても、アミノ酸水溶液に本来溶解し得ない程度の多量のガスが取り込まれており、ガスハイドレートが生成されていると判断できた。他方、
図8に示すように、加熱分解時に包接ガスの圧力がほとんど上昇しなかった。超純水を凍結させた氷塊から回収されたメタンガスの回収収率は2%であった。このため、超純水については、ガスの回収量がわずかであるため、ガスハイドレートが十分に生成されていないと判断できた。
【0073】
(実施例3)
実施例3では、圧力容器10内に投入するアミノ酸水溶液の量を増加させた場合に包接ガスの回収収率が変化するかどうか検証を行った。アミノ酸水溶液としては、濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を用い、包接ガスとしては炭酸ガスを用いた。アミノ酸水溶液の量は70mlとした。その他の実験条件は実施例2と同一である。生成されたガスハイドレートを加熱分解したところ、回収収率は74%であり、アミノ酸水溶液40mlの場合における回収収率にほとんど違いのないことが確認できた。これは、冷却凍結して得られるアミノ酸塊氷の厚さが相違するとしても、圧力容器10内で炭酸ガスはアミノ酸塊氷の上面にしか接触せず、アミノ酸水溶液の量を増減しても炭酸ガスとアミノ酸塊氷との接触面積は一定であるためである。
【0074】
(実施例4)
実施例4では、長期間放置したアミノ酸塊氷でもガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を凍結させてから30分後、15時間後、45時間後に、それぞれ圧力容器10の内部のアミノ酸氷塊をメタンガスにより加圧し、温度を上昇させた。その結果、
図9に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、メタンハイドレートが生成されていることを確認できた。
【0075】
また、濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を凍結させてから30分後、64時間後に、それぞれ圧力容器10の内部のアミノ酸氷塊を炭酸ガスにより加圧し、温度を上昇させた。その結果、
図10に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、炭酸ガスハイドレートが生成されていることを確認できた。なお、アミノ酸氷塊の温度を65時間もの間、-18℃に冷却した状態を維持した場合において、包接ガスの流量のピークが低下しているが、ハイドレート生成反応の収束期間や包接ガスの回収収率に大きな差は認められなかった。
【0076】
(実施例5)
実施例5では、アミノ酸水溶液の冷却時の温度(第1の設定温度)を変化させた場合でもガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。アミノ酸水溶液としては、濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を用い、包接ガスとしてはメタンガスを用いた。第1の設定温度は、それぞれ-25℃、-5℃、-3℃とした。その他の実験条件は実施例1の場合と同一である。その結果、
図11に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、メタンハイドレートが生成されていることを確認できた。第1の設定温度-25℃、-5℃、-3℃における回収収率は、それぞれ90%、84%、91%であった。また、包接ガスを炭酸ガスに変更し、第1の設定温度を-18℃、-5℃、-3℃とし、その他の条件は実施例2の場合と同一として実験を行った。その結果、
図12に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、炭酸ガスハイドレートが生成されていることを確認できた。第1の設定温度-18℃、-5℃、-3℃における回収収率は、それぞれ84%、85%、85%であった。
【0077】
(実施例6)
実施例6では、アミノ酸氷塊の加熱時の温度(第2の設定温度)を変化させた場合にガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。アミノ酸水溶液としては、濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を用い、包接ガスとしてはメタンガスを用いた。第2の設定温度は、それぞれ1℃、3℃、5℃とした。その他の実験条件は実施例1の場合と同一である。その結果、
図13に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、メタンハイドレートが生成されていることを確認できた。第2の設定温度1℃、3℃、5℃における回収収率は、それぞれ75%、80%、59%であった。また、包接ガスを炭酸ガスに置き換え、実施例2と同一の条件で実験を行ったところ、
図14に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、炭酸ガスハイドレートが生成されていることを確認できた。第2の設定温度1℃、3℃、5℃における回収収率は、それぞれ80%、82%、79%であった。
【0078】
(実施例7)
実施例7では、アミノ酸水溶液中のアミノ酸の濃度を変化させた場合にガスハイドレート生成反応が進行するかどうかを検証した。アミノ酸水溶液としては、濃度0.01wt%、0.03wt%、0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、1.0wt%のL-トリプトファン水溶液と、濃度0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%のL-ロイシン水溶液とを用いた。包接ガスとしてはメタンガスを用いた。その他の実験条件は実施例1の場合と同一である。
【0079】
以下に実験結果を示す。
図15及び
図16に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、メタンハイドレートが生成されていることを確認できた。濃度0.01wt%、0.03wt%、0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、1.0wt%のL-トリプトファン水溶液における回収収率は、それぞれ89%、89%、73%、65%、67%、66%であった。濃度0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%のL-ロイシン水溶液における回収収率は、それぞれ76%、72%、55%であった。
【0080】
また、包接ガスを炭酸ガスに置き換え、実施例2と同一の実験条件で実験を行った。アミノ酸水溶液としては、濃度0.01wt%、0.03wt%、0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%のL-トリプトファン水溶液と、濃度0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.5wt%のL-ロイシン水溶液とを用いた。その結果、
図17及び
図18に示すように、いずれの条件でも加熱分解時に圧力が大きく上昇しており、炭酸ガスハイドレートが生成されていることを確認できた。濃度0.01wt%、0.03wt%、0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%のL-トリプトファン水溶液における回収収率は、それぞれ86%、84%、87%、85%、86%であった。濃度0.05wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.5wt%のL-ロイシン水溶液における回収収率は、それぞれ81%、81%、83%、85%であった。
【0081】
(実施例8)
実施例8では、長期間、同一のアミノ酸水溶液を用いても、ガスハイドレートの生成及び分解を繰り返すことができるかどうかを検証した。アミノ酸水溶液を圧力容器10に充填し、その後、2018年1月から11月までの約10ヶ月間の間にガスハイドレートの生成及び分解を合計31回繰り返した。アミノ酸水溶液としては、濃度0.03wt%のL-トリプトファン水溶液を用い、包接ガスとしてはメタンガスを用いた。その他の実験条件は実施例1の場合と同一である。
【0082】
その結果、初期バッチにおける回収収率は88%であったのに対し、最終バッチにおける回収収率は88%であり、回収収率に大きな変化が見られなかった。以上から、ガスハイドレートの生成及び分解を繰り返してもアミノ酸水溶液の反応活性が低下しないことを確認できた。
【符号の説明】
【0083】
1 生成システム
10 圧力容器
11 本体部
12 蓋部
13,21 温度センサ
20 恒温槽
30 ガス供給源
31 ガスボンベ
32 圧力調整器
40,50 配管
41 圧力センサ
42 流量センサ
43 流量積算計
44,52 バルブ
51 ガス体積測定器
60 コンピュータ