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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148266
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220929BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220929BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220929BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20220929BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08K5/00
C08K5/3477
C08L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049881
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺野 優
(72)【発明者】
【氏名】串 聡志
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB121
4J002BB141
4J002BC031
4J002BP031
4J002CL001
4J002DA016
4J002DE076
4J002DE146
4J002DE236
4J002DG056
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002EJ027
4J002EJ037
4J002EJ047
4J002EJ068
4J002EL097
4J002EP028
4J002EU197
4J002EV338
4J002EW128
4J002FA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD077
4J002FD078
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】剛性および耐熱老化性に優れた成形体を形成するための熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1g/10分以上である熱可塑性樹脂(A)を55~69質量部、無機フィラー(B)を31~45質量部(ただし、(A)および(B)の合計量が100質量部)、および酸化防止剤(C)を0.38質量部以上含有し、前記酸化防止剤(C)は、一次酸化防止剤として、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を含有し、かつエステル構造またはアミド構造を有する酸化防止剤(C1-2)を含有しないか、0.1質量部未満含有する熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1g/10分以上である熱可塑性樹脂(A)を55~69質量部、
無機フィラー(B)を31~45質量部(ただし、熱可塑性樹脂(A)および無機フィラー(B)の合計量を100質量部とする。)、および
酸化防止剤(C)を0.38質量部以上含有し、
前記酸化防止剤(C)は、一次酸化防止剤として、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を含有し、かつエステル構造またはアミド構造を有する酸化防止剤(C1-2)を含有しないか、0.1質量部未満含有する
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
酸化防止剤(C)が、二次酸化防止剤として硫黄系酸化防止剤(C2)を含有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を2種類以上含有する請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の含有量が0.18質量部以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)が下記式(C11i)、(C11j)および(C11k)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
【請求項6】
カーボンブラックを含有しないか、0.24質量部以下含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂である請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体。
【請求項9】
射出成形体である請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
自動車用部材である請求項8または9に記載の成形体。
【請求項11】
前記自動車用部材が自動車エンジン周りの部材である請求項10に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂および無機充填材を含む樹脂組成物は、剛性、耐熱性等に優れた材料であり、自動車用部品などの各種用途に使用されている。
このような樹脂組成物として、たとえば特許文献1には、エチレン・プロピレンブロック共重合体、無機フィラー、脂肪酸の非アルカリ金属塩、N-メチル型ヒンダードアミン系安定剤、およびヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む無機フィラー強化ポリオレフィン系樹脂組成物が開示され、特許文献2-4にも、ポリプロピレン系樹脂、無機フィラー、ヒンダートフェノール系酸化防止剤等を含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-181222号公報
【特許文献2】特開2009-127007号公報
【特許文献3】特開平9-165478号公報
【特許文献4】特開2014-185297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体には、耐熱老化性の観点からさらなる改善の余地があった。
本発明は、剛性および耐熱老化性に優れた成形体、ならびにこのような成形体を形成するための熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、たとえば以下の[1]-[11]に関する。
[1]
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1g/10分以上である熱可塑性樹脂(A)を55~69質量部、
無機フィラー(B)を31~45質量部(ただし、熱可塑性樹脂(A)および無機フィラー(B)の合計量を100質量部とする。)、および
酸化防止剤(C)を0.38質量部以上含有し、
前記酸化防止剤(C)は、一次酸化防止剤として、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を含有し、かつエステル構造またはアミド構造を有する酸化防止剤(C1-2)を含有しないか、0.1質量部未満含有する
熱可塑性樹脂組成物。
[2]
酸化防止剤(C)が、二次酸化防止剤として硫黄系酸化防止剤(C2)を含有する前記[1]の熱可塑性樹脂組成物。
[3]
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を2種類以上含有する前記[1]または[2]の熱可塑性樹脂組成物。
[4]
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の含有量が0.18質量部以上である前記[1]~[3]のいずれかの熱可塑性樹脂組成物。
[5]
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)が下記式(C11i)、(C11j)および(C11k)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、前記[1]~[4]のいずれかの熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
[6]
カーボンブラックを含有しないか、0.24質量部以下含有する前記[1]~[5]のいずれかの熱可塑性樹脂組成物。
[7]
前記熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂である前記[1]~[6]のいずれかの熱可塑性樹脂組成物。
[8]
前記[1]~[7]のいずれかの熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体。
[9]
射出成形体である前記[8]の成形体。
[10]
自動車用部材である前記[8]または[9]の成形体。
[11]
前記自動車用部材が自動車エンジン周りの部材である前記[10]の成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、剛性および耐熱老化性に優れた成形体を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、所定量の熱可塑性樹脂(A)、無機フィラー(B)、および所定の酸化防止剤(C)を含有することを特徴としている。
【0008】
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含有する。
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の成形性の観点から、前記熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、1g/10分以上であり、好ましくは5~40g/10分であり、より好ましくは10~25g/10分である。
【0009】
前記熱可塑性樹脂(A)の例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂の例としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体などのポリプロピレン系樹脂が挙げられる。これらの中でも、剛性および流動性に優れることから、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン単独重合体およびプロピレン系ブロック共重合体がより好ましい。
【0010】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体としては、プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィン(プロピレンを除く。)とのランダム共重合体が挙げられる。前記α-オレフィンの例としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンおよび1-ドデセンが挙げられ、好ましくはエチレンおよび1-ブテンが挙げられ、特に好ましくはエチレンが挙げられる。前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体中の前記α-オレフィンから誘導される構造単位の量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0011】
前記プロピレン系ブロック共重合体は、好ましくはプロピレン単独重合体部分とプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部分とから構成される。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部分の具体的な態様は、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の具体的な態様と同様である。
【0012】
前記プロピレン系ブロック共重合体は、n-デカン溶剤分別した場合、23℃のn-デカンに可溶な成分(以下「デカン可溶部」とも記載する。)と23℃のn-デカンに不溶な成分(以下「デカン不溶部」とも記載する。)とに分別される。デカン可溶部の含有量は、通常は5~30質量%、好ましくは5~25質量%、より好ましくは8~18質量%であり、デカン不溶部の含有量は、通常は70~95質量%、好ましくは75~95質量%、より好ましくは82~92質量%である。
【0013】
ポリアミド系樹脂は、重合可能なアミノカルボン酸類、もしくはそのラクタム類、またはジカルボン酸類およびジアミン類などを原料とし、これらの開環重合または重縮合により得られるものである。
【0014】
ポリアミド系樹脂の例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66系共重合体、ナイロン66/6T系共重合体(T:テレフタル酸)、ナイロン6T/6I系共重合体(I:イソフタル酸)およびナイロン6T/M5T系共重合体(M5:2-メチルペンタメチレンジアミン、T:テレフタル酸)が挙げられる。
【0015】
ポリスチレン系樹脂の例としては、スチレンの単独重合体、スチレンと他の共重合性モノマーとのランダム共重合体、ポリスチレンブロックと他の重合体ブロックとからなるブロック共重合体樹脂、他の重合体にスチレンをグラフト重合したグラフト共重合体樹脂が挙げられる。
【0016】
前記熱可塑性樹脂(A)は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性樹脂(A)としては、後述する酸化防止剤(C)による耐熱老化性の向上が顕著であるという観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における前記熱可塑性樹脂(A)の含有量は、前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、55~69質量部、好ましくは55~65質量部、より好ましくは60~65質量部である。
【0018】
<無機フィラー(B)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、無機フィラー(B)を含有する。
前記無機フィラー(B)の例としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、粘土鉱物、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、シリカ、マイカ、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが挙げられる。これらの中でも、後述する酸化防止剤(C)による耐熱老化性の向上が顕著であるという観点からはタルクが好ましい。
【0019】
前記無機フィラー(B)は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記無機フィラー(B)の平均粒子径(レーザー回折/散乱法で測定されるD50の値)は、通常1μm~200μm程度である。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における前記無機フィラー(B)の含有量は、前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、31~45質量部、好ましくは35~45質量部、より好ましくは35~40質量部である。含有量が上記範囲にあると、高い剛性が発現しつつ、靭性に優れる。
【0021】
<酸化防止剤(C)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤(C)を含有する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における前記酸化防止剤(C)の含有量は、前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、0.38質量部以上、好ましくは0.39質量部以上、より好ましくは0.40質量部以上である。含有量が上記範囲にあると、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は耐熱老化性に優れる。前記含有量の上限は、たとえば1質量部であってもよい。
【0022】
《エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)》
前記酸化防止剤(C)は、一次酸化防止剤として、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を含有する。一次酸化防止剤とは、ラジカルを捕捉し、自動酸化の防止作用を有するものである。
【0023】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)は、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール化合物である。
本発明において、エステル構造とは、オキソ酸とアルコール、フェノール等とから水を失って形成される構造であり、その例として、RC(=O)(OR)、RC(=S)(OR)、RC(=O)(SR)、RS(=O)2(OR)、RP(=O)(OH)(OR)、(RS)2C(=O)(Rは、それぞれ独立に炭化水素基(例:メチレン基)である。)で表される構造が挙げられる。
【0024】
本発明において、アミド構造とは、オキソ酸の酸性ヒドロキシ基をアミノ基または置換アミノ基で置き換えた構造であり、その例として、RC(=O)(NR'R')、RC(=O)NHC(=O)R、RC(=O)N(C(=O)R)(C(=O)R)、RS(=O)2(NR'R')、RP(=O)(OH)(NR'R')(Rは、それぞれ独立に炭化水素基(例:メチレン基)であり、R'は、それぞれ独立に炭化水素基(例:メチレン基)または水素原子である。)で表される構造が挙げられる。
【0025】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の例としては、下記式(C11a)~(C11L)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
これらの中でも、上記式(C11i)、(C11j)および(C11k)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0031】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の市販品の例としては、IRGANOX(登録商標) 1330(上記式(C11i)で表される化合物)、IRGANOX 3114(上記式(C11j)で表される化合物)(以上、BASF製)、Cyanox 1790(上記式(C11k)で表される化合物)が挙げられる。
【0032】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよく、成形体に高い耐熱老化性を付与できることから、2種以上を併用することが好ましく、上記式(C11i)で表される化合物と上記式((C11j)で表される化合物とを併用することがさらに好ましい。たとえば前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)として2種の化合物を併用する場合、各化合物の質量比(一方の化合物(たとえば、式(C11j)で表される化合物)の質量/他方の化合物(たとえば、式(C11i)で表される化合物)の質量)は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5~1である。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の含有量は、前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.18質量部以上、より好ましくは0.19質量部以上、さらに好ましくは0.20質量部以上である。前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)の含有量が上記範囲にあると、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は耐熱老化性に優れる。前記含有量の上限は、たとえば1質量部であってもよい。
【0034】
《エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)》
前記酸化防止剤(C)は、一次酸化防止剤として、エステル構造またはアミド構造を有する酸化防止剤(C1-2)(以下「エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)」とも記載する。)を含有しないか、含有するとしても、その量は前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部未満、好ましくは0.02質量部以下である。
【0035】
前記エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)は、エステル構造またはアミド構造を有する化合物からなる酸化防止剤である。
前記エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)の例としては、下記式(C12a)~(C12h)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)は、熱可塑性樹脂組成物中で、タルク等の無機フィラーに吸着してしまい、熱可塑性樹脂組成物の耐熱老化性を十分に向上させることができないと考えられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一次酸化防止剤として、エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1)を含有する一方で、エステル/アミド構造含有酸化防止剤(C1-2)を含有しないか、含有するとしても、その量は僅かである。このため本発明の熱可塑性樹脂組成物は、優れた耐熱老化性を発揮する。
【0039】
《硫黄系酸化防止剤(C2)》
前記酸化防止剤(C)は、二次酸化防止剤として硫黄系酸化防止剤(C2)を含有していてもよい。二次酸化防止剤とは、一次酸化防止剤の作用により生じた過酸化物を分解する作用を有するものである。
【0040】
硫黄系酸化防止剤(C2)の例としては、二次酸化防止剤として用いられる従来公知の硫黄系酸化防止剤、たとえば
ジラウリルチオジプロピオネート(DLTP)、ジミリスチルチオジプロピオネート(DMTP)およびジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)等のジアルキルチオジプロピオネート(アルキル基は、好ましくは炭素数8~32の直鎖状アルキル基である。)、ならびに
ブチルチオプロピオン酸、オクチルチオプロピオン酸、ラウリルチオプロピオン酸およびステアリルチオプロピオン酸等のアルキルチオプロピオン酸(アルキル基は、好ましくは炭素数8~32の直鎖状アルキル基である。)と多価アルコール(例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート)とのエステル(例えばペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート))
が挙げられる。
【0041】
前記硫黄系酸化防止剤(C2)は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、一次酸化防止剤に対する前記硫黄系酸化防止剤(C2)の質量比(硫黄系酸化防止剤(C2)の質量/酸化防止剤(C1-1)および酸化防止剤(C1-2)の合計の質量)は、好ましくは0~1、より好ましくは0~0.8である。なお、質量比が0とは、前記酸化防止剤(C)が前記硫黄系酸化防止剤(C2)を含有しないことを意味する。質量比が上記範囲にあると、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は耐熱老化性に優れる。
【0042】
<任意成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらにカーボンブラックを含有してもよく、含有していなくてもよい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がカーボンブラックを含有する場合、その含有量は、前記熱可塑性樹脂(A)および前記無機フィラー(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.24質量部以下、より好ましくは0.21質量部以下である。カーボンブラックの含有量がこの範囲にあると耐衝撃性に優れる。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて前記(A)、(B)、(C)およびカーボンブラック以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分の例としては、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックスが挙げられる。一方、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、金属汚染の防止、コストなどの観点から、好ましくは金属石鹸を含まない。
【0045】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記各成分を混合すること、好ましくは、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機などの混合装置により混合または溶融混練することにより製造できる。各成分の混合順序は任意であり、各成分を同時に混合してもよいし、一部成分を予め混合した後に他の成分を混合するというような多段階の混合でもよい。
【0046】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体である。すなわち本発明の成形体は、原料として本発明の熱可塑性樹脂組成物を用い、これを成形することにより得ることができる。
【0047】
成形方法としては特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよい。
本発明の成形体としては、射出成形体、発泡成形体、射出発泡成形体、押出成形体、ブロー成形体、真空・圧空成形体、カレンダー成形体、延伸フィルム、インフレーションフィルム等が挙げられ、特に射出成形体が好ましい。
【0048】
本発明の成形体は、剛性および耐熱老化性に優れるため、自動車用部品(自動車内外装部品)、家電製品、機械部品、一般雑貨製品などとして用いることができ、自動車用部品、特に、耐熱老化性の求められる自動車エンジン周りの部品として、好ましく用いることができる。自動車用部品の例としては、バンパー、ピラー、インストルメントパネルが挙げられる。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[測定方法]
耐熱老化性試験:
実施例等で製造された組成物から、射出成形によって、165mm(全長)×19mm(両端の幅)×3.2mm(厚さ)のダンベル試験片を作製した。加熱用オーブン(ESPEC(株)製のギヤ式老化試験機)を用い、150℃でこの試験片にクラックが生じるまでの時間を測定した。測定は3回行い、クラックが生じるまでの時間の平均値を求めた。
【0050】
曲げ試験:
実施例等で製造された組成物から、射出成形によって、127mm(長さ)×12.7mm(幅)×6.35mm(厚さ)の試験片を作製した。この試験片を用い、ASTM D790に準拠して、曲げスパンを100mmかつ試験速度を30mm/分とし、曲げ弾性応力(FM:MPa)を求めた。
【0051】
[原料]
実施例等で使用した原料は以下のとおりである。
・熱可塑性樹脂(A):プロピレン系ブロックコポリマー((株)プライムポリマー製、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):23g/10分)
・無機フィラー(B):タルク(JM-209(浅田製粉(株)製)およびPKP-53(富士タルク工業(株)製)の質量比1:1の混合物)
【0052】
・エステル構造およびアミド構造のいずれも有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤(C1-1):
「Irganox 1330」(BASFジャパン(株)製、化合物名:3,3',3'',5,5',5''-ヘキサ―t-ブチル-α,α',α''-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、以下「Irg1330」とも記載する。)
「Irganox 3114」(BASFジャパン(株)製、化合物名:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、以下「Irg3114」とも記載する。)
【0053】
・エステル構造またはアミド構造を有する酸化防止剤(C1-2):
「Irganox 1010」(BASFジャパン(株)製、化合物名:ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、以下「Irg1010」とも記載する。)
・硫黄系酸化防止剤(C2):
DMTP「ヨシトミ」(三菱ケミカル(株)製、化合物名:ジミリスチルチオジプロピオネート、以下「DMTP」とも記載する。)
【0054】
[実施例1]
60質量部のプロピレン系ブロックコポリマー、40質量部のタルク、0.20質量部のIrg1330、および0.20質量部のIrg3114をタンブラーミキサーでドライブレンドし、二軸混練押出機を用いて200℃で溶融混練することにより、組成物を調製した。この組成物の評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2~7、比較例1~5]
原料の種類または量を表1に記載のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、組成物を調製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】