(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148270
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】アルミ配線の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20220929BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20220929BHJP
C11D 7/36 20060101ALI20220929BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C23F11/00 E
H01L21/88 N
C11D7/36
C11D7/32
C23F11/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049886
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川真田 幸直
【テーマコード(参考)】
4H003
4K062
5F033
【Fターム(参考)】
4H003AB31
4H003AB37
4H003AC08
4H003AC23
4H003DA15
4H003EA14
4H003EB24
4H003ED02
4H003FA28
4K062AA01
4K062BA08
4K062BB25
4K062FA09
5F033HH08
5F033PP19
5F033QQ08
5F033QQ19
5F033QQ20
5F033QQ91
5F033QQ98
5F033XX18
(57)【要約】
【課題】高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供する。特に、高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供する。
【解決手段】亜硝酸塩および下記一般式(1)または(2)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有することを特徴とするアルミ配線の製造方法。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸塩および下記一般式(1)または(2)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有することを特徴とするアルミ配線の製造方法。
【化1】
(一般式(1)、(2)中R
1およびR
2は炭素数12から15のアルキル基を表し、mおよびnは2から10の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ配線の製造方法に関し、詳しくは高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミは軽量で電気抵抗も小さいために様々なところで電気配線の材料として用いられている。また、様々な基材に対して蒸着により薄膜を形成することが可能であり、配線材料としては非常に有用な金属である。例えば半導体素子においては蒸着したアルミ薄膜は配線材料として使用されている。
【0003】
アルミはイオン化傾向の高い金属であるが、空気中では酸化被膜を形成するために比較的乾燥した雰囲気ではあまり腐食することはないが、高湿環境下では酸化被膜が破壊され、容易に腐食が進行する。このような理由でアルミ配線の腐食防止は現在においても大きな課題になっている。
【0004】
アルミ配線の腐食防止の方法として、アルミ配線を処理液で処理する方法が知られている。例えば、特開平3-295247号公報(特許文献1)には、アルミ配線を過酸化水素の溶液に浸漬させることによって腐食防止を行う方法が開示されている。また、特開平10-321627号公報(特許文献2)にはリン酸を含む処理液によって処理する方法が開示され、特開2007-173601号公報(特許文献3)には、アルミ配線の表面にリン原子を含有する保護膜を形成し得る含リン洗浄剤組成物にポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等の陰イオン性あるいは非イオン性の界面活性剤を利用できることが記載されている。
【0005】
一方、アルミ配線の洗浄工程において防食処理を行う試みもされており、例えば特開2003-64397号公報(特許文献4)には特定の構造を有するグリコールエーテルと特定のリン酸エステル塩を含む洗浄剤によって、電子部品の腐食を防止する方法が開示されている。
【0006】
アルミの防食は他の分野においても試みられており、例えば特開平10-55993号公報(特許文献5)には、4級アンモニウム塩、含フッ素化合物、水溶性または水混和性の有機溶剤、無機酸および/または有機酸、および界面活性剤を含有する洗浄剤によって半導体素子工程のドライエッチング処理の際に生じる堆積ポリマーを、金属膜を腐食することなく容易に洗浄しうることが開示されている。
【0007】
しかし、上記のような方法であっても高湿環境下においてアルミ配線の腐食を防止することは容易ではなかった。特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食については今もなお大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3-295247号公報
【特許文献2】特開平10-321627号公報
【特許文献3】特開2007-173601号公報
【特許文献4】特開2003-64397号公報
【特許文献5】特開平10-55993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することであり、特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記に記載の発明により達成される。
亜硝酸塩および下記一般式(1)または(2)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有することを特徴とするアルミ配線の製造方法。
【0011】
【0012】
一般式(1)、(2)中R1およびR2は炭素数12から15のアルキル基を表し、mおよびnは2から10の整数を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することができ、特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のアルミ配線の製造方法は、亜硝酸塩および、前記一般式(1)または(2)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有する。
【0015】
本発明で用いられる亜硝酸塩は、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属類との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。
【0016】
本発明で用いる処理液における亜硝酸塩の含有量は、1L当たり10~200gの範囲が好ましい。この範囲より少ないと、十分な腐食防止の効果が得られない場合があり、この範囲より多いと、洗浄作業の工程に負荷がかかり、作業効率が低下する場合がある。
【0017】
本発明において一般式(1)で表される化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸ジエステルであり、一般式(2)で表される化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸トリエステルである。本発明で用いる処理液における一般式(1)または(2)で表される化合物の含有量は、1L当たり0.2~5gの範囲が好ましい。この範囲より少ないと、十分な腐食防止の効果が得られない場合があり、この範囲より多いと、洗浄作業の工程に負荷がかかり、作業効率が低下する場合がある。
【0018】
本発明において一般式(1)および(2)で表される化合物は市販品を使用することができる。一般式(1)で表される化合物の市販品としては、例えば日光ケミカルズ株式会社のNIKKOL(登録商標)DDP-2(炭素数12~15、mが2)、NIKKOL DDP-4(炭素数12~15、mが4)、NIKKOL DDP-6(炭素数12~15、mが6)、NIKKOL DDP-8(炭素数12~15、mが8)、DDP-10(炭素数12~15、mが10)を、一般式(2)で表される化合物の市販品としては、同じく日光ケミカルズ株式会社のNIKKOL TDP-2(炭素数12~15、nが2)、NIKKOL TDP-8(炭素数12~15、nが8)を入手して使用することができる。
【0019】
本発明で用いる処理液の溶媒は水あるいは水を主成分とする溶媒であることが好ましい。ここで主成分とは、全溶媒成分に対する水の割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは75質量%以上、更に85質量%以上であることが好ましい。水を主成分とする溶媒を使用することで、取り扱いが容易となり、その後の洗浄工程が簡便になる。処理液のpHは3~10の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~8である。pHが高すぎたり低すぎたりすると、アルミ配線の溶解が発生するために抵抗値が上昇したり断線しやすくなる場合がある。
【0020】
本発明において一般式(1)および(2)で表される化合物は、水に溶解しない場合は水に分散させて用いることもできるが、より安定した処理のために可溶化剤を加えて水に溶解させて用いることができる。該可溶化剤としては、(ポリ)アルキレングリコールおよびそのアルキルエーテルおよび各種界面活性剤を用いることができる。その中でもポリエーテルアミン型の界面活性剤は、より腐食防止の効果が向上するため好適に用いることができる。
【0021】
上記ポリエーテルアミン型の界面活性剤は、アルキルジエタノールアミンのエチレンオキシおよびプロピレンオキシ付加物であり、例えば、日油株式会社より市販されるナイミーン(登録商標)L-207、ナイミーンL-703、ナイミーンF-215、T2-210、S-210等、花王株式会社より市販されるアミート(登録商標)308、アミート320等、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社より市販されるリポノール(登録商標)C/25、リポノールO/25、リポノールT/25、リポノールC/18-18等を入手して使用することができる。
【0022】
上記の可溶化剤として用いる界面活性剤の添加量の下限は、一般式(1)および(2)で表される化合物を溶解できる量によって決められる。上限は一般式(1)および(2)で表される化合物の添加量(質量)に対して10倍以下が好ましく、更に好ましくは4倍以下である。可溶化剤の添加量が多すぎると腐食防止の効果が低下する場合もある。
【0023】
本発明においてアルミ配線を処理する方法としては、処理液にアルミ配線を浸漬する方法やアルミ配線に処理液をスプレーで吹き付ける方法などを挙げることができる。処理の効果を安定させるために処理温度および処理時間を一定にすることが好ましく、処理温度は作業性を考慮して20℃から60℃の範囲で選択することが好ましい。処理時間は30秒から5分の範囲で選択することができる。
【0024】
上記した処理工程の後には、水洗工程を設けることが好ましい。前述した本発明の処理工程により、アルミ配線上に必要以上の成分が残存し後の工程に対して弊害が発生する場合がある。これらの必要以上の成分をアルミ配線から取り除くために水洗工程は有効である。
【0025】
本発明の製造方法により処理されるアルミ配線には特に限定はないが、本発明は真空蒸着で形成された薄膜のアルミ配線に対して特に有効である。真空蒸着による配線パターンの形成方法としては、基材にあらかじめアルミを蒸着させる部分と蒸着させない部分のパターンを形成させ、選択的に蒸着させてアルミ配線パターンを形成させる方法、あるいはまず基材の全面にアルミを蒸着させ、その上にレジストでパターンを形成し、エッチングによって不要な部分のアルミを除去しパターンを形成させる方法などを挙げることができる。真空蒸着によるアルミ配線の膜厚は、10nm以上1μm以下の範囲が好ましい。10nm未満では、十分な導電性を得ることが難しく、また1μm超では基材との密着性が低下する場合がある。
【実施例0026】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。
【0027】
75μmの厚みPETフィルム上に真空蒸着により0.2μmの厚みのアルミ蒸着膜を形成させたフィルムに対して、アルミ蒸着膜上にレジストパターンを形成させ、リン酸によるエッチングによって不要なアルミ蒸着膜を除去することでアルミ配線による櫛形電極を形成した。形成した櫛形電極は、線幅および線間が50μmで、電極が対向している部分の長さは20mmであった。
【0028】
このようにしてアルミ配線で作製した櫛形電極を、30℃で保温した以下の1~18の処理液に1分間浸漬し、その後イオン交換水で20秒洗浄し、乾燥させた。
【0029】
<処理液1>
亜硝酸ナトリウム 50g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整して処理液1を作製した。
【0030】
<処理液2>
NIKKOL TDP-2 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液2を作製した。
【0031】
<処理液3>
NIKKOL DDP-6 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液3を作製した。
【0032】
<処理液4>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL TDP-2 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液4を作製した。
【0033】
<処理液5>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL TDP-8 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液5を作製した。
【0034】
<処理液6>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL DDP-2 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液6を作製した。
【0035】
<処理液7>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL DDP-6 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液7を作製した。
【0036】
<処理液8>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL DDP-10 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整して処理液8を作製した。
【0037】
<処理液9>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL TDP-2 1g
ナイミーンL703 2g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整して処理液9を作製した。ナイミーンL703はラウリルジエタノールアミンにエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを付加させた界面活性剤である。
【0038】
<処理液10>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL DDP-6 1g
ナイミーンL207 4g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整して処理液10を作製した。ナイミーンL207はラウリルジエタノールアミンにエチレンオキシドを付加させた界面活性剤である。
【0039】
<処理液11>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL TDP-2 5g
ナイミーンL703 10g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整して処理液11を作製した。
【0040】
<処理液12>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL TDP-2 0.5g
ナイミーンL703 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整し処理液12を作製した。
【0041】
<処理液13>
亜硝酸ナトリウム 50g
エマルゲン(登録商標)108 1g
(花王株式会社製界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル)
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整して処理液13を作製した。
【0042】
<処理液14>
亜硝酸ナトリウム 50g
エマール(登録商標)20C 1g
(花王株式会社製界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整し処理液14を作製した。
【0043】
<処理液15>
亜硝酸ナトリウム 50g
NIKKOL ホステン(登録商標)HLP-1 1g
(日光ケミカルズ株式会社製界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテルのモノリン酸エステル)
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N水酸化ナトリウムでpHを6に調整し処理液15を作製した。
【0044】
<処理液16>
亜硝酸ナトリウム 50g
ナイミーンL703 1g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整し処理液16を作製した。
【0045】
<処理液17>
亜硝酸ナトリウム 20g
NIKKOL TDP-2 1g
ナイミーンL703 2g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整し処理液17を作製した。
【0046】
<処理液18>
亜硝酸ナトリウム 100g
NIKKOL TDP-2 1g
ナイミーンL703 2g
イオン交換水を加え1Lに調整し、1N硝酸でpHを6に調整し処理液18を作製した。
【0047】
このようにしてアルミ配線で作製した櫛形電極に対して、高湿環境下において、アルミ配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食を強制的に再現するために、電極上にイオン交換水を0.01g滴下してから電圧を20V印加した。その後、電極の状態を観察し以下の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。
○:電圧印加時間が10分以内では断線がみられない。
○△:電圧印加時間が7.5分超から10分以内で断線がみられた。
△:電圧印加時間が5分超から7.5分以内で断線がみられた。
×:電圧印加時間が5分以内で断線がみられた。
【0048】
【0049】
表1から本発明によって作製したアルミ配線は高湿環境下において、配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対して高い防食性を有することが解る。