(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148272
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料前駆体及び炭素繊維複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/83 20060101AFI20220929BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220929BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20220929BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20220929BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220929BHJP
D01F 9/14 20060101ALI20220929BHJP
C04B 35/84 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C04B35/83
C08K7/06
C08L1/00
C08L29/04
C08K3/00
D01F9/14
C04B35/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049888
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 元道
(72)【発明者】
【氏名】増田 敬生
【テーマコード(参考)】
4J002
4L037
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002BE022
4J002DA017
4J002DJ006
4J002FA047
4J002GC00
4J002GN00
4L037CS03
4L037CS04
4L037FA02
4L037FA14
4L037FA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、炭素繊維とセラミック材料を含有する炭素繊維複合材料を得るための、加工性に優れた炭素繊維複合材料前駆体を得ること、及び、該炭素繊維複合材料前駆体から高強度の炭素繊維複合材料を得ることを課題としている。
【解決手段】炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%であることを特徴とする炭素繊維複合材料前駆体、及び、該炭素繊維複合材料前駆体を焼結加工することによって得られる炭素繊維複合材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%であることを特徴とする炭素繊維複合材料前駆体。
【請求項2】
請求項1記載の炭素繊維複合材料前駆体を焼結加工することによって得られる炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料前駆体及び炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は鉄よりも軽量であり、強度が強いという優れた力学特性を有している。そのため、炭素繊維複合材料は、航空機、自動車、テニスラケット、釣り竿、風力発電の羽根などの幅広い分野で使用されており、今後も用途が拡大すると予想される。
【0003】
炭素繊維としては、現在主に、ポリアクリロニトリル(PAN)を炭素化、黒鉛化することで得られるPAN系炭素繊維と、タールピッチ液化石炭を溶融紡糸してから炭素化、黒鉛化することで得られるピッチ系炭素繊維とが使用されている。こうして生産された炭素繊維は、織物として加工するか、あるいは一方向に並べた後に、未硬化樹脂を含浸させた炭素繊維プリプレグと呼ばれる材料を、目標とする成形物の型に合うように裁断した後に樹脂を硬化することで得られる、炭素繊維強化プラスチック(以下、「炭素繊維強化プラスチック」を「CFRP」と略記する場合がある)として使用されることが多いが、それ以外の使用方法についても日夜研究がなされている。
【0004】
CFRP以外の使用方法としては、例えば、特許文献1に、炭素繊維にセラミック材料とおが屑や粗籾などの可燃物を混練して焼結する方法が記載されている。特許文献1の方法によれば、セラミック材料に加えて、おが屑、粗籾などの可燃物を混合することで、焼結時に可燃物が消失して空隙ができ、それによって多孔質で均一な炭素繊維複合材料が得られる。また、特許文献2には、粒状のセラミック材料に炭素繊維を混練し、焼結後に耐熱コート層を塗工する方法が記載されている。特許文献2の方法によれば、セラミック材料が粒状であるため、焼結時に空隙が生じ、それにより耐熱効果や断熱効果が高まり、また、耐熱コート層を塗工することで炭素繊維が酸化しづらくなり、耐久性に優れた炭素繊維複合材料が得られる。
【0005】
しかし、これらいずれの方法も、炭素繊維とセラミック材料を混練する工程があり、その工程において、炭素繊維が折れ、短繊維化する可能性がある。また、炭素繊維は繊維同士が絡み、顕在化しやすい性質があり、混練するセラミック材料は高粘度である場合もあることから、炭素繊維を均一に混合することは困難であった。また、炭素繊維は水溶液中では見かけ体積が大きくなる性質があるため、炭素繊維比率を上げた場合、炭素繊維の見かけ体積が大きいため、上手く混練ができず、また、炭素繊維同士が複雑に絡み合い、更に混合が困難となるという点については考慮されていなかった。また、炭素繊維複合材料を生産する際に、混練、水切り、焼結、という工程を1枚ずつ行う必要があり、生産効率が悪くなる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-95578号公報
【特許文献2】特開2017-114731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炭素繊維とセラミック材料を含有する炭素繊維複合材料を得るための、加工性に優れた炭素繊維複合材料前駆体を得ること、及び、該炭素繊維複合材料前駆体から高強度の炭素繊維複合材料を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため研究を行い、下記手段が見出された。
【0009】
<1>炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して、20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%であることを特徴とする炭素繊維複合材料前駆体。
<2>上記<1>記載の炭素繊維複合材料前駆体を焼結加工することによって得られる炭素繊維複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素繊維とセラミック材料を含有する炭素繊維複合材料を得るための、加工性に優れた炭素繊維複合材料前駆体が得られ、また、該炭素繊維複合材料前駆体から高強度の炭素繊維複合材料を得られる。
【0011】
すなわち、炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%であることを特徴とする炭素繊維複合材料前駆体であれば、加工性に優れることを見出した。すなわち、炭素繊維が配合された不織布に、焼結・硬化させるためのセラミック材料を予め含有させることによって、長時間の混練作業を行わなくとも炭素繊維とセラミック材料が均一に分布された炭素繊維複合材料を得ることができる。そして、本発明の炭素繊維複合材料を焼結加工することによって得られる炭素繊維複合材料は、高い強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の炭素繊維複合材料前駆体は、高強度で加工性に優れた炭素繊維複合材料を得るための発明である。炭素繊維と水とセラミック材料を混練して攪拌した場合、炭素繊維は見かけ体積が高いため、均一に混合させることが難しく、炭素繊維が均一に分散した炭素繊維複合材料前駆体を得ることは困難であり、また、焼結加工の際に、混練工程と脱水工程を行うことは加工工程が煩雑である。
【0013】
これらの問題を解決するため、鋭意研究を行った結果、炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%であることを特徴とする炭素繊維複合材料前駆体であれば、加工性に優れた炭素繊維複合材料前駆体を得ることが可能であることが分かった。炭素繊維複合材料前駆体に、予め炭素繊維とセラミック材料が均一に分布していることから、あとは、積層と焼結加工によって、高強度の炭素繊維強化複合材料を得ることが可能となる。
【0014】
本発明において、炭素繊維の配合比率は、不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%炭素繊維であってもなんら問題はない。ただし、炭素繊維の配合比率が100質量%である場合、炭素繊維を止める手段がないことから、繊維同士をよく絡ませることができる方式で抄紙を行う必要がある。炭素繊維の配合比率が20質量%未満である場合、炭素繊維の強度を上げる効果が十分に発揮できない。
【0015】
本発明において、不織布全体に対するセラミック材料の含有量は10~800質量%であることが好ましく、20~700質量%であることがより好ましく、30~600質量%であることが更に好ましい。不織布全体に対するセラミック材料の含有量が10質量%未満である場合、焼結・硬化するセラミック材料が少ないことから固めることができず、セラミックとして使用できない場合がある。セラミック材料の含有量が800質量%超である場合は、セラミック材料を補強する効果が十分に発揮できない場合がある。
【0016】
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリルを炭素化、黒鉛化することで得られるPAN系炭素繊維、タールピッチ液化石炭を溶融紡糸してから炭素化、黒鉛化することで得られるピッチ系炭素繊維など、どのような製法で製造された炭素繊維でも使用することができる。また、新品未使用の炭素繊維でも、廃棄された炭素繊維をリサイクル処理して得られた炭素繊維でもなんら問題は無い。炭素繊維を得るのに必要なコストを考慮すると、PAN系炭素繊維であることが好ましく、リサイクル処理して得られた炭素繊維がより好ましい。
【0017】
本発明において、炭素繊維は短くカットされた炭素繊維(炭素短繊維)であることが好ましい。炭素繊維が長繊維である場合、不織布として抄紙することが難しい場合がある。炭素繊維の平均繊維長は50mm未満であることが好ましく、45mm未満であることがより好ましく、40mm未満であることが更に好ましい。炭素繊維の平均繊維長が50mm以上である場合、炭素繊維同士が複雑に絡まるため、炭素繊維が均一に分散せず、炭素繊維を不織布へと抄紙することが難しい場合がある。また、炭素繊維の平均繊維長は0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。炭素繊維の平均繊維長が0.1mm未満の場合は、炭素繊維が短いため、不織布の強度が十分に発揮されず、また、炭素繊維を抄紙する際に繊維が脱落する場合がある。
【0018】
本発明の不織布は、炭素繊維を抄紙機でシート化する抄紙法によって得られる不織布であることが好ましい。
【0019】
抄紙法としては、繊維を空気中に分散させてネットに捕捉してウェブを形成する乾式抄紙法や、繊維を水中に分散させてネットに捕捉してウェブを形成する湿式抄紙法のいずれも使用することができる。
【0020】
乾式抄紙法の種類は特に限定しておらず、例えば、繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、繊維を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法などの乾式プロセスを使用することができる。繊維の結合方法としては、接着剤で結合するケミカルボンド方式、自己溶融繊維で結合するサーマルボンド方式、特殊針でニードリングして結合するニードルパンチ方式、高圧水流で繊維同士を絡ませて結合するウォーターパンチ方式、ウェブを縫合して結合するステッチボンド方式などの方式を使用することができる。
【0021】
湿式抄紙法の種類は特に限定しておらず、例えば繊維の分散方法としては、長網式、円網式、傾斜ワイヤー式を用いることができる。これらの抄紙方式を単独で有する抄紙機を使用しても良いし、同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用しても良い。均一性に優れた不織布を製造するには、長網式、傾斜ワイヤー式のように、緩やかに、ワイヤー上のスラリーから脱水することができる抄紙方式を使用することが好ましい。本発明において、不織布は、単層であっても良いし、複層であっても良い。
【0022】
湿式抄紙法において、繊維を分散することを目的に、パルパーでの離解作業を行う。パルパーの種類は特に限定しておらず、縦型パルパーを使用しても良いし、横型パルパーを使用しても良いし、その他の形式のパルパーでもなんら問題は無い。パルパーの離解能力も特に限定していないが、パルパーの離解能力が強すぎる場合、炭素繊維がパルパーによって砕かれ、ミルド状となり、炭素繊維複合材料の強度が低くなる場合がある。パルパーの離解能力が弱すぎる場合、炭素繊維が全く離解せずに、地合いが悪くなり、炭素繊維が不均一になり、炭素繊維複合材料の強度も不均一になる場合がある。炭素繊維の離解の状態については、パルパーの強度、時間を調節することでコントロールすることが望ましい。
【0023】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することにより、不織布を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることを言う。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、100~160℃がより好ましく、110~160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50~1000N/cmであり、より好ましくは100~800N/cmである。
【0024】
本発明において、不織布には、性能を阻害しない範囲で、半合成繊維、合成繊維(バインダー繊維を除く)、バインダー繊維、無機繊維、セルロース繊維等を含有することもできる。
【0025】
合成繊維(バインダー繊維を除く)としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系などの合成繊維を挙げることができる。また、無機繊維としては、ガラス繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、金属繊維などの無機繊維が挙げられる。また、半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられる。
【0026】
合成繊維(バインダー繊維を除く)、バインダー繊維、無機繊維及び半合成繊維の繊維長は特に限定しないが、3mm以上30mm未満であることが好ましい。これらの繊維の繊維長が長いほど、一本あたりの繊維同士の接触点が多くなり、繊維が脱落しにくくなる傾向があるため、これらの繊維の繊維長は3mm以上であることが好ましい。繊維長が長すぎる場合は、抄紙性や不織布の地合いが悪化する場合があるため、30mm未満であることが好ましい。繊維径についても特に限定しないが、1μm以上30μm未満であることが好ましく、2μm以上20μm未満であることが特に好ましい。繊維径が1μm未満の繊維を配合すると、不織布が過剰に密な構造になることから、例えば、不織布にセラミック材料を含む塗工層を含有させる際に、塗工層の浸透を阻害し、炭素繊維複合材料の性能が下がる場合がある。繊維径が30μm以上である場合は、合成繊維(バインダー繊維を除く)又は無機繊維が脱落しやすい場合がある。
【0027】
セルロース繊維の種類としては、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維等が挙げられる。天然セルロース繊維としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ;藁パルプ、竹パルプ、リンターパルプ、ケナフパルプなどの木本類又は草本類のパルプが挙げられる。再生セルロース繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維が挙げられる。これらのセルロース繊維は、フィブリル化(叩解)されていてもなんら差し支えない。さらに、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維を使用しても良い。
【0028】
上記セルロース繊維の中で、針葉樹パルプ、リンターパルプ及びリヨセルの群から選ばれる1種以上のセルロース繊維を使用することが好ましく、リヨセルを使用することがより好ましい。また、リヨセルはフィブリル化(叩解)されていることが好ましい。これらの好ましいセルロース繊維を使用することによって、繊維の脱落を抑制することができる。また、不織布を抄紙法で製造する場合の操業性が安定するという効果も得られる。
【0029】
フィブリル化(叩解)セルロース繊維は、上記のセルロース繊維をフィブリル化することによって製造することができる。フィブリル化するための装置としては、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル、ミキサー、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等の装置が挙げられる。これらの装置を、単独又は組み合わせて用いることによって、フィブリル化セルロース繊維を製造することができる。そして、これらの装置の種類、処理条件(繊維濃度、温度、圧力、回転数、リファイナーの刃の形状、リファイナーのプレート間のギャップ、処理回数)等のフィブリル化条件の調整により、目的のフィブリル化状態を得ることができる。
【0030】
セルロース繊維を配合する場合、その配合比率は、不織布に含まれる全繊維に対して、1質量%以上50質量%未満であることが好ましく、2質量%以上40質量%未満であることがより好ましい。セルロース繊維の配合比率が1質量%未満である場合、セルロース繊維の量が少なく、セルロース繊維を配合したことによる効果が十分に得られない場合がある。セルロース繊維の配合比率が1質量%以上であると、繊維同士の接触点が増え、抄紙の際に紙切れがより起こり難くなり、より安定した生産が可能になる。セルロース繊維の配合比率が50質量%以上である場合、焼結加工の際にセルロース繊維がセラミック材料の浸透を阻害することがあり、セラミック材料を均一に含浸させることが難しい場合がある。またセルロース繊維は焼結の際に燃え尽き、空隙が形成されることから、セルロース繊維の配合比率によって空隙の量を調整することができる。
【0031】
本発明において、不織布には熱融着性バインダー繊維を配合させることができる。熱融着性バインダー繊維の配合比率は20質量%未満であることが好ましく、15質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることが更に好ましい。また、熱融着性バインダー繊維は全く配合していなくてもなんら問題はない。熱融着性バインダー繊維が20質量%以上である場合、バインダー繊維が被膜をすることでセラミック材料の浸透を阻害する場合がある。
【0032】
本発明の不織布は、熱融着性バインダー繊維と熱融着性バインダー繊維以外のバインダー繊維を使用することができる。バインダー繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維;未延伸繊維;低融点合成樹脂単繊維;湿熱接着性バインダー繊維等が挙げられる。熱融着性バインダー繊維は、繊維全体又は繊維の一部のガラス転移温度又は溶融温度(融点)が低く、抄紙機の乾燥工程において、バインダー能力を発現する。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、不織布の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、複合繊維としては、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ等が挙げられる。未延伸繊維としては、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)等の低融点合成樹脂単繊維や、ポリビニルアルコール系のような湿熱接着性バインダー繊維は、乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、本発明では、性能を阻害しない範囲で使用することができる。
【0033】
本発明において、不織布が湿熱接着性バインダー繊維を含有する場合、不織布に含まれる全繊維に対して、湿熱接着性バインダー繊維の配合比率は15質量%未満であることが好ましく、12質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましい。湿熱接着性バインダー繊維の配合比率が15質量%以上である場合、湿熱接着性バインダー繊維が被膜することでセラミック材料の吸収を阻害するため、適さない場合がある。湿式接着性バインダー繊維の配合比率の下限値は特に規定しておらず、0(ゼロ)質量%でもなんら支障はないが、2質量%以上配合させることで、湿潤状態でもある程度強度を発現するため、抄紙性が安定する傾向にある。
【0034】
本発明の不織布は、炭素繊維を抄紙機でシート化する抄紙法によって得られる湿式不織布である。
【0035】
本発明において、湿式抄紙法を行う場合、繊維を均一に水中に分散させる目的や各種機能を付与する目的で、繊維を水中に分散する際に、各種アニオン性、ノニオン性、カチオン性、あるいは両性の分散剤、消泡剤、親水剤、濾水剤、紙力向上剤、粘剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の薬品を添加する場合もある。
【0036】
本発明の不織布には、必要に応じてサイズ剤を配合することができる。サイズ剤としては、本発明の所望の効果を損なわないものであれば、強化ロジンサイズ剤、ロジンエマルジョンサイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、合成サイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)などのサイズ剤の中からいずれをも用いることができる。
【0037】
本発明において、セラミック材料は特に限定されず、目的とする性能によってセラミック材料を選択することができる。セラミック材料としては、例えば、焼き物やタイルなどに使用される粘土や、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム、ハイドロキシアパタイト、蛍石、炭化ケイ素、チッ化ケイ素などの鉱石粉末などの中からいずれも用いることができ、用途によって自由に選択することができる。特に、建材などの耐熱性が必要とされる用途で使用される場合は、耐熱性に優れたアルミナなどのセラミック材料を使用することで、優れた耐熱性を有する炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0038】
本研究において、セラミック材料を含有させる際はバインダーを使用してセラミック材料が不織布から落ちないようにすることが好ましい。バインダーとしては、特に指定はしないが、ポリビニルアルコール(PVA)やアクリル樹脂、エポキシ樹脂など熱可塑性のバインダーを使用することで、セラミック材料を不織布から落ちないように固定することができる。セラミック材料とバインダーの配合比率は、質量基準で、1:1~50:1の範囲であることが好ましく、2:1~40:1であることがより好ましく、3:1~30:1の範囲であることがさらに好ましい。バインダーに対するセラミック材料の配合比率が1:1よりも小さい場合、セラミック材料が少なく、焼結した際に燃え尽きるバインダーが多くなり、バインダーが無駄になる場合がある。バインダーに対するセラミック材料の配合比率が50:1よりも多い場合、セラミック材料が不織布内から粉落ちして、加工が難しくなる場合がある。
【0039】
セラミック材料を止めるために使用するバインダーの形状は特に限定されず、セラミック材料を不織布内に含有させる方法によって適切なバインダーを選択することが好ましい。例えば不織布を抄紙する際にセラミック材料を抄き込む場合は、液体のバインダーを使用すると、抄紙機のワイヤー(網)上から抜け落ちてしまい効果が低くなることから、粉末状の樹脂バインダー等を使用することが好ましい。有機系バインダーは焼結加工で燃え尽きる傾向にあるため、空隙が多いセラミックを作製したい場合は、有機系バインダーを、逆に空隙の少ないセラミックを作製したい場合は無機系バインダーを使用することが好ましい。
【0040】
本研究において、不織布にセラミック材料を含有させる手段は特に限定されるものではないが、不織布を抄紙する際にセラミック材料とバインダーを抄き込む方法や、不織布にコーターで塗工する方法などを使用することができる。あるいは、抄き込みと塗工の両方を行うこともできる。不織布にセラミック材料を抄き込む場合、繊維とセラミック材料が均一に分散されるメリットがあるが、不織布内に含有するセラミック材料の量には制限がある。また、不織布にコーターで塗工する方法であるならば、塗工工程が増えるものの、セラミック材料を含む塗工層として、セラミック材料を含有させることができるため、不織布全体に対するセラミック材料の含有量を10~800質量%の範囲内で自由に調整することができる。そして、炭素繊維比率の高い炭素繊維複合材料前駆体を得ることもできる。
【0041】
不織布にセラミック材料をコーターで塗工する方法については特に限定されるものではなく、キスコーターやグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、バーコーター、含浸コーターなどのコーターを使用することができる。特に、含浸コーターによる含浸塗工は、セラミック材料を不織布内部に均一に分散させることができるため、特に好ましい。塗工は1度で目標量を塗工しても良いし、2度、3度、あるいはより多くの塗工を行ってもなんら問題はない。
【実施例0042】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【0043】
実施例及び比較例
炭素繊維、セルロース繊維、合成繊維、バインダー繊維とを、表1記載の配合比率(質量基準)で水に投入して、縦型パルパーで10分間混合分散した後、傾斜ワイヤー方式を用いて一層抄きで湿式抄紙して得られた湿紙を、表面温度130℃のヤンキードライヤーで乾燥し、抄紙速度20m/minで、表1記載の坪量の不織布を得た。
【0044】
得られた不織布に対して、含浸コーターにて表1記載の塗工層の配合比率(質量基準)で、セラミック材料及びバインダーを、水に分散し、攪拌、混合を行って得た塗工液を、含浸コーターで塗工を行い、炭素繊維複合材料前駆体を作製した。
【0045】
【0046】
表1に記載されている繊維の詳細は、以下のとおりである。
【0047】
叩解リヨセル:リヨセル繊維(繊度1.4dtex、繊維長3mm)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理し、平均繊維径14.0μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部を発生させるように調製した繊維。
叩解針葉樹パルプ:ろ水度500mlCSFとなるように調製した天然針葉樹パルプ。
PVAバインダー:ポリビニルアルコール系バインダー繊維(湿熱接着性バインダー繊維、クラレ製、製品名:VPB(登録商標)107-1)
PETバインダー:PET未延伸バインダー繊維(熱融着性バインダー繊維、繊度1.2dtex、繊維長5mm)
【0048】
粘土:焼結によって硬化するセラミック材料。一般的に使用されているセラミック材料。
アルミナ:焼結によって硬化するセラミック材料。耐熱性などが求められる用途で使用されているセラミック材料。
PVA:ポリビニルアルコール系バインダー
【0049】
実施例及び比較例で作製した不織布の坪量及び塗工層塗工量を表1に示す。また、実施例及び比較例で作成した炭素繊維複合材料前駆体の加工性と、炭素繊維複合材料前駆体を焼結炭素繊維複合材料に加工した後のセラミック強度を評価した。測定結果及び評価結果を表1に示した。
【0050】
<坪量及び塗工層塗工量>
不織布の坪量をJIS P 8124:2011に則って測定した。また、塗工層塗工量は、炭素繊維複合材料前駆体の坪量をJIS P 8124:2011に則って測定して、炭素繊維複合材料前駆体の坪量と不織布の坪量の差として求めた。
【0051】
<炭素繊維複合材料前駆体の加工性評価>
炭素繊維複合材料前駆体を10枚積層して焼結を行い、炭素繊維複合材料が得られるかどうか確認を行った。
【0052】
○:炭素繊維複合材料前駆体は焼結によりセラミックが硬化し、板状の炭素繊維複合材料が得られた。
×:炭素繊維複合材料前駆体は焼結後も十分に硬化せず、炭素繊維複合材料が得られなかった。
【0053】
<炭素繊維複合材料の強度評価>
炭素繊維複合材料の強度をJIS K 7074:1988に則って、サンプルごとにN=10回測定して、評価を行った。
【0054】
○:炭素繊維複合材料として十分高い強度が得られた。
×:炭素繊維複合材料として強度が不足していた。
【0055】
炭素繊維が配合された不織布とセラミック材料とを含有してなり、炭素繊維の配合比率が不織布に含まれる全繊維に対して20質量%以上であり、不織布全体に対して、セラミック材料の含有量が10~800質量%である実施例1~16の炭素繊維複合材料前駆体は、積層、焼結という簡便なプロセスで十分高い強度の炭素繊維複合材料が得られることが分かる。
【0056】
セラミック材料の含有量が不織布全体に対して10質量%未満である比較例2では、セラミック材料が少なかったことから十分に硬化せず、セラミックを強化する効果が十分得られなかった。セラミック材料の含有量が不織布全体に対して800質量%超である比較例1では、炭素繊維が少なかったことから、炭素繊維複合材料の強度が得られなかった。
【0057】
炭素繊維の配合比率が20質量%未満である比較例3では、不織布に含まれる繊維が焼結の工程でほとんど燃え尽きてしまうため、炭素繊維複合材料の強度が十分に得られなかった。セラミック材料の含有量が10質量%未満であった比較例4では、塗工層のバインダーが焼結の工程でほとんど燃え尽きてしまうため、炭素繊維複合材料の強度が十分得られなかった。