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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014831
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】皮革製品用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20220113BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220113BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220113BHJP
   C14C 9/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/63
C09D7/65
C14C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117417
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】518316789
【氏名又は名称】株式会社NP-SSK
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博司
【テーマコード(参考)】
4F056
4J038
【Fターム(参考)】
4F056AA01
4F056AA02
4F056CC12
4F056CC14
4F056CC37
4F056CC42
4F056CC62
4J038BA202
4J038DL031
4J038DL162
4J038NA05
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC09
(57)【要約】
【課題】各種の皮革製品に良好な耐摩擦性、防汚性を付与可能で実用的な皮革製品用コーティング剤を提供する。
【解決手段】シリコーン樹脂92.5質量%、鉱油(ナフサおよびノナンを含有したもの)5.0質量%、有機ポリシラザン化合物(オルガノ-ポリシラザン)2.5質量%を常温下で混合し、十分に撹拌することによって、皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の防汚性、耐摩耗性、施工性、質感等の特性を評価したところ、いずれの特性も良好であった。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革製品の汚染や摩耗を防止するためのコーティング剤であって、
シリコーン樹脂、鉱油、および有機ポリシラザン化合物を含有していることを特徴とする皮革製品用コーティング剤。
【請求項2】
シリコーン樹脂の含有量が60.0質量%以上90.0質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の皮革製品用コーティング剤。
【請求項3】
前記鉱油の含有量が3.0質量%以上25.0質量%未満であることを特徴とする請求項1、または2に記載の皮革製品用コーティング剤。
【請求項4】
有機ポリシラザン化合物の含有量が5.0質量%以上35.0質量%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の皮革製品用コーティング剤。
【請求項5】
前記鉱油が、ナフサおよびノナンを含有したものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の皮革製品用コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革製品に耐摩擦性、防汚性を付与するためのコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カーシート等の自動車の内装品、家具、衣料、靴、カバン等の用途に、天然皮革や合成皮革等の皮革が幅広く使用されている。そのような用途で皮革を使用する場合には、防汚性(耐汚染性)や耐摩耗性に優れていることが皮革に対して要求される。そのため、特許文献1の如く、水性ポリウレタン樹脂に架橋剤とポリエーテル変性シリコーン樹脂を添加した表面仕上げ剤を人工皮革の表面に塗工することによって人工皮革の耐摩耗性を向上させる方法や、特許文献2の如く、アクリル樹脂、アクリルシリカ樹脂、アクリルポリシロキサン樹脂およびシリコーン系触感剤等を配合した樹脂組成物を天然皮革に塗工することによって天然皮革の防汚性を向上させる方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-314919号公報
【特許文献2】特開2010-241963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の如く、表面仕上げ剤を人工皮革の表面に塗工する方法は、表面仕上げ剤塗布の影響によって人工皮革の表面の親水性が強くなってしまうため、コーヒーやジュース等が付着した場合に皮革に液色が移り易くなったり、衣服と擦れ合った場合に、皮革に衣服の色が移り易くなったりする等の不具合がある。一方、上記特許文献2の如く、アクリル樹脂、アクリルポリシロキサン樹脂等からなる樹脂組成物を天然皮革に塗工する方法では、十分な耐摩耗性と防汚性とを同時に発現させることが難しい。
【0005】
本発明の目的は、上記特許文献1,2の如き従来の皮革の表面処理方法が有する問題点を解消し、各種の皮革製品に対して、その独特な質感、触感を損なうことなく、良好な耐摩擦性、防汚性を付与可能な皮革製品用コーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、皮革製品の汚染や摩耗を防止するためのコーティング剤であって、シリコーン樹脂、鉱油、および有機ポリシラザン化合物を含有していることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、シリコーン樹脂の含有量が60.0質量%以上90.0質量%未満であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記鉱油の含有量が3.0質量%以上25.0質量%未満であるものである。
【0009】
請求項4に記載された発明は、請求項1~3のいずれかに記載された発明において、有機ポリシラザン化合物の含有量が5.0質量%以上35質量%未満であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載された発明は、請求項1~4のいずれかに記載された発明において、前記鉱油が、ナフサおよびノナンを含有したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る皮革製品用コーティング剤によれば、各種の皮革製品に対して、その皮革製品が有する独特の質感、触感を損なうことなく、良好な耐摩擦性、防汚性を付与することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る皮革製品用コーティング剤は、シリコーン樹脂、鉱油、および有機ポリシラザン化合物を含有していることを特徴とするものである。シリコーン樹脂とは、シロキサン結合による主骨格を有する合成高分子化合物のことであり、本発明に係る皮革製品用コーティング剤においては、特に、皮革製品に対して良好な防汚性および柔軟な質感を付与するための成分として機能する。
【0013】
シリコーン樹脂の含有量(皮革製品用コーティング剤全体に対する含有比率)は、特に限定されないが、60.0質量%以上90.0質量%未満であると好ましく、70.0質量%以上80.0質量%未満であるとより好ましい。シリコーン樹脂の含有量が60.0質量%未満であると、皮革製品用コーティング剤が皮革製品に対して十分な防汚性や柔軟な質感を付与し得ないものとなるので好ましくなく、反対に、シリコーン樹脂の含有量が90.0質量%以上であると、効果に比して含有量が過剰になって経済的なロスが大きくなるので好ましくない。
【0014】
また、本発明に係る皮革製品用コーティング剤に用いられる鉱油とは、石油、天然ガス、石炭、鉱物質等の地下資源を由来とする油(炭化水素化合物)のことであり、植物油や動物油脂等を利用することも可能である。かかる鉱油として、石油由来の油(炭化水素化合物)を用いると、皮革製品用コーティング剤の防汚性が一段と良好なものとなるので好ましく、ナフサやノナンを用いると、皮革製品用コーティング剤の防汚性が非常に良好なものとなるのでより好ましい。加えて、ナフサとノナンとを混合して用いると、皮革製品用コーティング剤の防汚性がきわめて良好なものとなるので特に好ましい。
【0015】
鉱油の含有量(皮革製品用コーティング剤全体に対する含有比率)は、特に限定されないが、1.0質量%以上25.0質量%未満であると好ましく、3.0質量%以上15.0質量%未満であるとより好ましい。鉱油の含有量が0.5質量%未満であると、皮革製品用コーティング剤が皮革製品に対して十分な防汚性を付与し得ないものとなるので好ましくなく、反対に、鉱油の含有量が25.0質量%以上であると、皮革製品用コーティング剤を塗布した後の皮革製品の表面がべとつき易くなるので好ましくない。
【0016】
一方、本発明に係る皮革製品用コーティング剤に用いられる有機ポリシラザン化合物とは、シランの一種であり、ケイ素(シリコン)、窒素、活性水素基と化学結合する反応基を有する高分子化合物のことであり、パーヒドロ-ポリシラザン、オルガノ-ポリシラザンを単独であるいはそれらを混合して用いることができる。かかる有機ポリシラザン化合物は、本発明に係る皮革製品用コーティング剤においては、特に、施工性(すなわち、皮革製品への塗工のし易さ)を向上させるための成分として機能する。加えて、そのような有機ポリシラザン化合物の中でも、オルガノ-ポリシラザンを用いると、皮革製品用コーティング剤の防汚性がきわめて良好なものとなるので好ましい。
【0017】
有機ポリシラザン化合物の含有量(皮革製品用コーティング剤全体に対する含有比率)は、特に限定されないが、5.0質量%以上35.0質量%未満であると好ましく、15.0質量%以上25.0質量%未満であるとより好ましい。有機ポリシラザン化合物の含有量が5.0質量%未満であると、皮革製品用コーティング剤の施工性が不十分になるので好ましくなく、反対に、 有機ポリシラザン化合物の含有量が35.0質量%以上であると、皮革製品用コーティング剤を塗布した後の皮革製品の表面がべとつき易くなるので好ましくない。
【0018】
また、本発明に係る皮革製品用コーティング剤は、上記したシリコーン樹脂、鉱油、および有機ポリシラザン化合物を必須成分とするものであるが、それらの必須成分の他に、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、マイカ、タルク、クレー等)、難燃剤、顔料、染料、抗菌剤等を、皮革製品用コーティング剤の特性を阻害しない範囲で添加することも可能である。
【実施例0019】
以下、本発明に係る皮革製品用コーティング剤について実施例によって詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。また、実施例(参考例)・比較例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0020】
<防汚性>
ベース部材である白革(子牛の皮を白色顔料で着色したもの)の表面に、実施例・比較例で得られた皮革製品用コーティング剤を一定の塗布量(固形分換算で2.0g/m)となるように塗布することによって評価用のサンプルを得た。そして、それらのサンプル(皮革製品用コーティング剤を塗布した白革)の表面に、水性ペン、油性ボールペン、およびマジックの3種類の筆記具で落書きすることによって意図的に汚れを付着させた。しかる後、3種類の筆記具で落書きした各サンプルの表面を、マイクロファイバーで水拭きし、水拭き後の各筆記具による落書き(汚れ)の除去度合いを、5段階で官能評価した(すなわち、除去状態が最良であるものを「5」とし、除去状態が最悪であるものを「1」とした)。なお、汚れの除去度合いの評価においては、各筆記具による落書きの半分のみを水拭きし半分を残しておくことによって視覚的に判断し易くした上で評価を行った。
【0021】
<耐摩擦性>
耐摩擦性(耐久性)の評価は、JIS-K-6547(革の染色摩擦堅ろう度試験)に準拠した方法により行った。すなわち、上記した防汚性の試験と同様に、ベース部材である白革の表面に、実施例・比較例で得られた皮革製品用コーティング剤を一定の塗布量となるように塗布することによって評価用のサンプルを得た。そして、それらの各サンプルの表面に、摩擦子を一定の荷重となるように押し当て、その状態を保ったまま、当該摩擦子を一定の回数だけ往復運動させた(すなわち、各サンプルの表面を摩擦子によって摩擦した)。なお、摩擦子としては、アルカリ洗剤を浸み込ませた摩擦用白布で包んだものと、研磨紙(サンドペーパー)で包んだものとの2種類を使用した。しかる後、各サンプルの変退色、白布および研磨紙の汚染状態を、グレースケールによって5段階で評価した(すなわち、変退色、汚染の程度が最も低いものを「5」とし、変退色、汚染の程度が最も高いものを「1」とした)。
【0022】
<塗工性>
上記した防汚性の試験において、実施例・比較例で得られた皮革製品用コーティング剤をベース部材である白革の表面に塗布する際の塗布作業のし易さを、下記の4段階で官能評価した。
◎:皮革表面への濡れ性がきわめて良好で皮革製品用コーティング剤がベース部材の表面に非常にスムーズに広がり、塗布中に塗膜の途切れが起こらない
○:皮革表面への濡れ性が良好で皮革製品用コーティング剤がベース部材の表面にスムーズに広がり、塗布中に塗膜の途切れが起こりにくい
△:皮革表面への濡れ性がやや不良で皮革製品用コーティング剤がベース部材の表面に広がりにくく、塗布中に塗膜の途切れが起こり易い
×:皮革表面への濡れ性が不良で皮革製品用コーティング剤がベース部材の表面に非常に広がりにくく、塗布中に塗膜の途切れが頻発する
【0023】
<質感>
上記した防汚性の試験と同様に、ベース部材である白革の表面に、実施例・比較例で得られた皮革製品用コーティング剤を一定の塗布量となるように塗布することによって評価用のサンプルを得た。そして、それらのサンプル(皮革製品用コーティング剤を塗布した白革)の表面を触診したときの触り心地を、下記の3段階で官能評価した。
・評価基準
◎:皮革製品が十分な柔軟性およびしなやかさを有しており、指を滑らせたときの滑り性がきわめて良好である
○:皮革製品がある程度の柔軟性およびしなやかさを有している、あるいは、指を滑らせたときの滑り性が良好である
△:皮革製品に柔軟性、しなやかさが認められない、あるいは、指を滑らせたときにスムーズに滑らず引っ掛かる
【0024】
[実施例1]
下記の各成分を常温下で混合し、十分に撹拌することによって、実施例1の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
・シリコーン樹脂 92.5質量%
・鉱油 5.0質量%(ナフサ 3.5質量%およびノナン0.2質量%の含有物)
・有機ポリシラザン化合物(オルガノ-ポリシラザン) 2.5質量%
【0025】
[実施例2~8]
シリコーン樹脂の含有量(質量%)を、それぞれ、82.5,77.5,75.0,72.5,70.0,67.5,65.0に変更するとともに、有機ポリシラザン化合物の含有量(質量%)を、それぞれ、12.5,17.5,20.0,22.5,25.0,27.5,30.0に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~8の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
【0026】
[実施例9~11]
シリコーン樹脂の含有量(質量%)を、それぞれ、67.5,70.0,72.5に変更し、鉱油の含有量(質量%)を、それぞれ、20.0,15.0,10.0に変更するとともに、有機ポリシラザン化合物の含有量(質量%)を、それぞれ、12.5,15.0,17.5に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例9~11の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
【0027】
[実施例12]
シリコーン樹脂、鉱油と混合する有機ポリシラザン化合物を、パーヒドロ-ポリシラザンに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例12の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
【0028】
[比較例1]
実施例1と同じシリコーン樹脂85.0質量%と、実施例1と同じポリシラザン15.0質量%とを常温下で混合し、十分に撹拌することによって、比較例1の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
【0029】
[比較例2]
実施例1と同じシリコーン樹脂85.0質量%と、実施例1と同じ鉱油15.0質量%とを常温下で混合し、十分に撹拌することによって、比較例2の皮革製品用コーティング剤を得た。そして、得られた皮革製品用コーティング剤の特性(防汚性、耐摩耗性、質感、施工性)を、上記した方法によって評価した。評価結果を、皮革製品用コーティング剤の組成とともに表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から、実施例1~11で得られた皮革製品用コーティング剤は、いずれも、防汚性、耐摩耗性、質感、施工性ともに良好であることが分かる。それに対して、鉱油を含有していない比較例1の皮革製品用コーティング剤は、耐摩耗性、塗工性とも不良であり、有機ポリシラザン化合物を含有していない比較例2の皮革製品用コーティング剤は、防汚性が不良であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る皮革製品用コーティング剤は、は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、自動車の内装部品、家具等の各種の皮革製品に良好な耐摩擦性、防汚性を付与するための薬剤として好適に用いることができる。