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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148346
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】加飾物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20220929BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220929BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220929BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220929BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
C09D201/00
C09D11/00
C09D5/00 Z
B05D7/24 301M
B05D7/24 303A
B05D7/14 P
B05D5/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049990
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】今西 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC06
4D075AC09
4D075AE03
4D075BB24Z
4D075CA03
4D075CA13
4D075CA35
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB02
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB07
4D075DC01
4D075DC38
4D075EA06
4D075EA33
4D075EA41
4D075EB22
4D075EB38
4D075EB51
4D075EB53
4D075EC01
4D075EC03
4D075EC07
4D075EC11
4D075EC30
4D075EC35
4D075EC51
4J038DG001
4J038HA446
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA01
4J038NA11
4J038PA07
4J038PC02
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE30
4J039CA06
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】印刷加飾部の光沢を抑制し、なおかつ、良好な曲げ加工性を両立することが可能な、加飾物の製造方法を提供することである。
【解決手段】
色材を含むインクを金属基材に付与した後、前記金属基材に、処理液1及び処理液2を付与することを含み、
前記処理液1は、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含み、
前記処理液2は、前記処理液1の前記ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含み、
前記処理液1及び前記処理液2は、前記金属基材に対し、前記処理液2及び前記処理液1の順に付与される、加飾物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を含むインクを金属基材に付与した後、前記金属基材に、処理液1及び処理液2を付与することを含み、
前記処理液1は、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含み、
前記処理液2は、前記処理液1の前記ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含み、
前記処理液1及び前記処理液2は、前記金属基材に対し、前記処理液2及び前記処理液1の順に付与される、加飾物の製造方法。
【請求項2】
前記処理液2の前記凝集剤が、水分散性樹脂を含む、請求項1に記載の加飾物の製造方法。
【請求項3】
前記処理液2の前記凝集剤が、カチオン性水分散性樹脂を含む、請求項1または2に記載の加飾物の製造方法。
【請求項4】
前記処理液1の前記ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂が、アニオン性水分散性樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加飾物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加飾が施された基材は、建築資材、家具、日用品等の屋内外の用途に広く用いられている。各種基材の中でも、耐熱性、耐久性、加工性等の性質により、金属基材は様々な用途で活用されている。
【0003】
金属基材への加飾方法として、例えば、印刷により、色や模様をつける方法があり、金属基材に色や模様を印刷して建築資材等に利用する例が増えている。印刷方法には、スクリーン印刷、グラビア印刷等、種々の方法があるが、安全性が高く簡便に印刷ができるため、水性顔料インクを用いたインクジェット印刷が普及している。
【0004】
基材に印刷を行った後、耐擦性を向上させる目的で、樹脂等を含む液を用いてオーバーコートを設けることが多いが、光沢が高くなり過ぎて、高級感を損ねたり、木目調などの風合いを損ねたり、用途によっては、外観上好ましくない場合がある。
【0005】
光沢抑制の目的でシリカ等の粒子状のものを艶消し剤として配合した塗料組成物が知られている(特許文献1~3)。
【0006】
金属基材は、長方形の平板を曲げ加工し、多様な形状に対応させて建築資材等として提供されることが多い。金属基材に印刷およびオーバーコート液を塗布後に曲げ加工を行う必要がある場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-209029号公報
【特許文献2】特開2005-187701号公報
【特許文献3】特開平9-157545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、光沢抑制の目的でシリカ等の粒子状のものを艶消し剤として配合した塗料組成物が知られているが、光沢抑制の目的でシリカ粒子をオーバーコート液に配合した場合、オーバーコート液から形成されたオーバーコート被膜において、樹脂とシリカ粒子界面で微小剥離が起きやすい。このため、曲げ加工が行われると、曲げ加工で引き伸ばされた部分にクラックが発生して、白く変色して観察される、いわゆる白化現象が生じる可能性がある。
また、曲げ加工を行うと、加工治具と印刷部が接触する部位に加工治具による圧痕が残る場合がある。
本発明の実施形態は、印刷加飾部の光沢を抑制し、なおかつ、良好な曲げ加工性を両立することが可能な、加飾物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、色材を含むインクを金属基材に付与した後、前記金属基材に、処理液1及び処理液2を付与することを含み、前記処理液1は、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含み、前記処理液2は、前記処理液1の前記ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含み、前記処理液1及び前記処理液2は、前記金属基材に対し、前記処理液2及び前記処理液1の順に付与される、加飾物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、印刷加飾部の光沢を抑制し、なおかつ、良好な曲げ加工性を両立することが可能な、加飾物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0012】
一実施形態による加飾物の製造方法は、色材を含むインク(以下、単に「インク」という場合もある。)を金属基材に付与した後、金属基材に、処理液1及び処理液2を付与することを含み、処理液1は、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含み、処理液2は、処理液1のガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含み、処理液1及び処理液2は、金属基材に対し、処理液2及び処理液1の順に付与される、加飾物の製造方法である。
【0013】
実施形態の加飾物の製造方法によれば、印刷加飾部の光沢を抑制し、なおかつ、良好な曲げ加工性を両立することができる。その理由の一部は以下のように考えられるが、以下の理由に拘束されない。
実施形態の加飾物の製造方法によれば、インクを金属基材に付与した後、処理液1の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含む処理液2を金属基材に付与し、その後、処理液1を金属基材に付与する。金属基材に処理液2の凝集剤が濡れ広がっているため、その上に付与された処理液1の水分散性樹脂が速やかにミクロサイズに凝集して微小な凹凸を形成することが可能となり、光沢を抑制することができる。処理液2の凝集剤としては、例えば処理液1の水分散性樹脂とカチオン-アニオン反応を起こすことができるものを用いることができる。処理液2の凝集剤と処理液1の水分散性樹脂とのカチオン-アニオン反応によって、処理液1の水分散性樹脂が凝集することができると考えられる。
また、処理液1が、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含むことで、応力による不可逆的変改を受けにくい、強固な被膜が得ることができる。このため、加工治具による圧痕が付きにくく、良好な曲げ加工性を得ることができる。
【0014】
「加飾物の製造方法」
加飾物用の基材としては、金属基材を用いることができる。金属基材としては、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属板等が挙げられる。
金属基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又は、界面活性剤、コロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。
【0015】
金属基材の厚さは、特に制限されないが、建築資材等の用途に応じて、例えば0.5mm~50mmであってよく、1mm~20mmであってよく、1mm~10mmであってよい。
【0016】
以下、インクを金属基材に付与する工程について説明する。
【0017】
インクを金属基材に付与する方法は、特に限定されないが、インクジェット記録方法、オフセット印刷方法、スクリーン印刷方法、グラビア印刷方法、フレキソ印刷方法等のいずれでもよい。なかでも、金属基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができるため、インクジェット記録方法が好ましい。インクは、インクジェット記録方法に適したインクジェットインクであることが好ましい。
インクジェット記録装置は、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等のいずれの方式であってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を金属基材に付着させるようにすることができる。
【0018】
金属基材へのインクの付与量は、基材の単位面積当たり、4~20g/mが好ましく、8~14g/mがより好ましい。
【0019】
金属基材に、処理液1及び処理液2を付与する工程について説明する。
処理液1及び処理液2は、金属基材にインクを付与した後に金属基材に付与されることが好ましい。
光沢抑制の観点から、処理液1及び処理液2は、処理液2及び処理液1の順で金属基材に付与されることが好ましい。
【0020】
金属基材への処理液1及び処理液2の付与方法は、特に限定されず、それぞれ独立に選択することができる。例えば、処理液1の付与方法は、インクジェット記録装置を用いてもよいし、ローラーやスプレー等で必要量を塗布するようにしてもよい。例えば、処理液2の付与方法は、インクジェット記録装置を用いてもよいし、ローラーやスプレー等で必要量を塗布するようにしてもよい。処理液1の付与方法と処理液2の付与方法は、同じでも異なってもよい。
処理液1の付与領域は、金属基材全面でもよいし、加飾部のみに選択的に付着させてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが付与される箇所にのみ処理液1を塗布することもできる。処理液2の付与領域は、金属基材全面でもよいし、加飾部のみに選択的に付着させてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが付与される箇所にのみ処理液2を塗布することもできる。処理液1は処理液2が付与された領域に付与することが好ましい。処理液1及び処理液2は、いずれも、インクが付与された領域に少なくとも付与されることが好ましい。
【0021】
処理液1の金属基材への付与量は、例えば、1~200g/m、または、10~100g/mであってよい。
【0022】
処理液2の金属基材への付与量は、例えば、1~200g/m、または、10~100g/mであってよい。
【0023】
インクの金属基材への付与後、処理液2の付与前に、金属基材表面に付与されたインク中の揮発分を除去するために、乾燥工程を設けてもよく、及び/または、インクの基材への付与後、処理液2の基材への付与前に、インクの被膜の形成をより促進させるために、金属基材を加熱する工程を設けてもよい。
インクの付与後、処理液2の付与前に金属基材を加熱する温度は、80~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は、1分間~5時間であってよく、5分間~1時間であってよい。
【0024】
処理液2の金属基材への付与後、処理液1の付与前に、乾燥工程を設けてもよく、及びまたは、処理液2の付与後、処理液1の付与前に、金属基材を加熱する工程を設けてもよい。
処理液2の付与後、処理液1の付与前に金属基材を加熱する温度は、80~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は、1分間~5時間であってよく、5分間~1時間であってよく、10分~1時間であってよい。
【0025】
処理液1の金属基材への付与後、乾燥工程を設けてもよく、及び/または、処理液1の付与後、金属基材を加熱する工程を設けてもよい。
処理液1の付与後、金属基材を加熱する温度は、80~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は、1分間~5時間であってよく、5分間~1時間であってよく、10分~1時間であってよい。
【0026】
金属基材にインクを付与する前に、前処理液を用いて基材を表面処理してもよい。
金属基材への前処理液の付与方法は、特に限定されず、例えば、インクジェット記録装置を用いてもよいし、ローラーやスプレー等で必要量を塗布するようにしてもよい。その付与領域は、金属基材全面でもよいし、加飾部のみに選択的に付着させてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが付与される箇所にのみ前処理液を塗布することもできる。
【0027】
前処理液の金属基材への付与量は、例えば、1~200g/m、または、10~100g/mであってよい。
【0028】
前処理液の金属基材への付与後、インクの付与前に、乾燥工程を設けてもよく、及び/または、前処理液の金属基材への付与後、インクの付与前に、金属基材を加熱する工程を設けてもよい。前処理液の金属基材への付与後、インクの付与前に金属基材を加熱する温度は、80~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は、例えば、1分間~5時間であってよく、5分間~1時間であってよい。
【0029】
加飾物の製造方法は、金属基材を曲げ加工する工程を含んでよい。
金属基材の印刷面が、曲げ加工部分の外側又は内側になるようにして、曲げ加工をすることができる。
【0030】
金属基材の曲げ加工方法は、特に限定されないが、型曲げ、ねじり曲げ、カーリング曲げ等が挙げられる。なかでも、ダイとパンチを用いた型曲げにおいて、V字曲げ、L字曲げ、Z字曲げ、U字曲げ等を行う際に、曲げ加工部分の伸びが大きくなるため、加飾物の白化が発生しやすいが、これをより効果的に低減することができる。特に、V字曲げ、L字曲げ、Z字曲げ等の曲げ加工部分が鋭角となる場合において、曲げ加工部分の白化をより効果的に防止することができる。
【0031】
金属基材の曲げ加工において、金属基材の曲げ角度は、特に限定されないが、誤差範囲5°で、1°以上であってよく、10°以上であってもよく、30°以上であってもよい。また、金属基材の曲げ角度は、誤差範囲5°で、170°以下であってよく、150°以下であってもよい。金属基材の曲げ角度は、誤差範囲5°で、90°の直角曲げであってもよい。ここで、曲げ角度は、曲げ加工部分の内側角度を示す。
【0032】
また、金属基材を曲げ加工する箇所は1箇所又は2箇所以上であってもよい。
【0033】
「インク」
インクは、色材を含むことが好ましい。色材は、顔料、染料、又はこれらの組み合わせであってよい。
インクは、水分散性樹脂又は水溶性樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましい。
インクは、水、水溶性有機溶剤、又はこれらの組み合わせである水性溶媒を含むことができる。インクは、水性インクであることが好ましい。
【0034】
インクは、色材として、顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。加飾画像の耐候性及び耐水性の点から、色材として顔料を好ましく用いることができる。
【0035】
顔料は、顔料分散体としてインクに好ましく配合することができる。
顔料分散体としては、顔料が溶媒中に分散可能なものであって、インク中で顔料が分散状態となるものであればよい。例えば、顔料を顔料分散剤で水中に分散させたもの、自己分散性顔料を水中に分散させたもの、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を水中で分散させたもの等を用いることができる。
【0036】
顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、銅フタロシアニン顔料等の金属フタロシアニン顔料、及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
顔料の体積基準の平均粒子径は、発色性の観点から50nm以上が好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。例えば、顔料の体積基準の平均粒子径は、50~500nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。
【0037】
色材として自己分散性顔料を配合してもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
【0038】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0039】
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200、CAB-O-JET300、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270」、オリヱント化学工業株式会社製BONJETシリーズ「BONJET BLACK CW-1、BONJET BLACK CW-1S、BONJET BLACK CW-2、BONJET BLACK CW-3、BONJET BLACK CW-6」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
【0040】
水中に顔料を安定して分散させるために、水性インクは顔料分散剤をさらに含んでもよい。顔料分散剤としては、例えば、高分子分散剤、界面活性剤等を用いることができる。
顔料分散剤を用いる場合では、顔料分散剤の添加量はその種類によって異なり特に限定はされない。例えば、顔料分散剤は、有効成分の質量比で、顔料1に対し、0.005~0.5の範囲で添加することができる。
【0041】
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。
【0042】
上記した色材は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
色材は、不揮発分量で、インク全量に対し、0.1質量%~30質量%であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、3質量%~15質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
インクは、水分散性樹脂を含むことが好ましい。
【0044】
水分散性樹脂としては、インク中に粒子状に配合可能な、すなわちインク中で水中油(O/W)型樹脂エマルションを形成可能な樹脂を用いることが好ましい。また、水分散性樹脂としては、インクの発色に影響を与えないように、透明の塗膜を形成する透明性樹脂を用いることが好ましい。また、インクの製造に際しては、水中油型樹脂エマルションとして配合することが好ましい。
水分散性樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン/(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、メラミン系樹脂、アミド系樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、シリコーン系樹脂等、又はこれらの複合樹脂等が挙げられる。「(メタ)アクリル系樹脂」は、アクリル系樹脂、メタアクリル系樹脂、又はこれらの共重合体を示す(以下同じである。)。
これらの樹脂に親水性の官能基を導入するか、又は、分散剤等で表面処理することで、水中油型樹脂エマルションを形成し、これをインクに配合してもよい。
【0045】
水分散性樹脂としては、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性の樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油型樹脂エマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基等であり、アニオン性の分散剤は、アニオン性界面活性剤等である。
インクにはアニオン性成分が用いられることが多いため、樹脂粒子表面がアニオン性であることで、インクの色材の分散性又は溶解性を良好に維持することができる。例えば、色材としてカーボンブラックを用いる場合では、インク中のカーボンブラックの分散安定性を維持するように、アニオン性の水分散性樹脂を好ましく用いることができる。
アニオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、-20~-500μeq/gが好ましい。水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。試料を中和するのに必要なアニオン量またはカチオン量を測定することで、表面電荷量を算出することができる。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計「Model CAS」等を用いることができる。
【0046】
これらの水分散性樹脂のうち、基材への定着性の観点、及び記録ヘッドからの安定吐出性能の観点から、ウレタン系樹脂を用いることが好ましい。
水分散性のウレタン系樹脂を含むエマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス470、スーパーフレックス130、スーパーフレックス870、スーパーフレックスE-4800」、三井化学社株式会社製の「タケラックW-5661、タケラックW-6020」、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUA-200」、株式会社アデカ製の「アデカボンタイターHUX-350、アデカボンタイターHUX-550」、大成ファインケミカル株式会社製の「WBR-016U」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0047】
また、インク中での安定性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂を用いることも好ましい。
水分散性の(メタ)アクリル系樹脂を含むエマルションの市販品としては、例えば、DSM Coating Resins社製の「NeoCryl A-1125、NeoCryl A-1127、NeoCryl A-6069」、「NeoCryl A-1092、NeoCryl A-2092」、ジャパンコーティングレジン株式会社製の「モビニール9780、モビニール727、モビニール745」、「モビニール966A、モビニール940」、BASF社製の「ジョンクリル7100、ジョンクリルPDX-7370、ジョンクリルPDX-7341」;DIC株式会社製の「ボンコートEC-905EF、ボンコート5400EF、ボンコートCG-8400」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0048】
また、水分散性樹脂としては、インクの電荷バランスへの影響が少ないことから、非イオン性又は両性の水分散性樹脂を用いてもよい。
【0049】
上記した水分散性樹脂は、1種単独の樹脂から構成されてもよいし、又は、複数種の樹脂を組み合わせて複合樹脂として構成されてもよく、さらにはこれらの樹脂エマルションの混合物であってもよい。
水分散性樹脂は、インク全量に対し、不揮発分量の質量比で、色材1に対して0.1~15が好ましく、0.1~10がより好ましく、0.1~7がさらに好ましい。樹脂の配合量をこの範囲にすることで、基材の表面に印刷された画像の定着性と画質を十分に確保することができる。色材1に対する樹脂の比率が0.1以上であることで、画像の定着性をより高めることができる。色材1に対する樹脂の比率が15以下であることで、インクの機上安定性をより改善することができる。
【0050】
水分散性樹脂は、インク全量に対し、不揮発分量で、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。
また、水分散性樹脂は、インク全量に対し、不揮発分量で、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
例えば、水分散性樹脂は、インク全量に対し、不揮発分量で、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0051】
水分散性樹脂粒子の平均粒子径は、1nm~300nmが好ましく、5nm~200nmがより好ましく、10nm~150nmがさらに好ましい。これは、水中油型樹脂エマルションの状態で水分散性樹脂の粒子径を、動的光散乱法により体積基準で測定した平均粒子径である。
また、インクをインクジェット記録方法を用いて基材に付与する場合では、水分散性樹脂の平均粒子径は、インクジェット記録方法に適した粒子径であればよく、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。
また、インクをインクジェット記録方法を用いて基材に付与する場合では、水分散性樹脂の平均粒子径は、インクの貯蔵安定性の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
【0052】
インクの溶媒は主に水を含むことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水、脱イオン水等が挙げられる。なお、上記した顔料分散体に溶媒として水が含まれる場合は、顔料分散体中の水はインク中の水の一部に換算して、インクを作製する。
水は揮発性の高い溶剤であり、基材に付与された後に基材から蒸発しやすく、加飾物の乾燥を促進することができる。また、水は、無害で安全性が高く、VOCのような問題が無いので、表面処理された基材を環境にやさしいものとすることができる。
水は、インク全量に対し30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上であってもよい。水は、インク全量に対し95質量%以下であってよく、90質量%以下であってもよい。例えば、水は、インク全量に対し30~95質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましく、50~90質量%がさらに好ましい。
【0053】
インクは、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を用いることができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。また、水溶性有機溶剤は、水との混合溶液において、上記した水分散性樹脂を良好に分散することが可能であることが好ましい。
【0054】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。
これらの水溶性有機溶剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク全量に対し1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。水溶性有機溶剤は、インク全量に対し80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下であってもよい。例えば、水溶性有機溶剤は、インク全量に対し1~80質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、10~40質量%であってもよい。2種以上の水溶性有機溶剤を配合する場合は、その合計量がこの範囲であることが好ましい。
【0056】
インクは、界面活性剤をさらに含むことができる。
界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤とに大別されるが、いずれの界面活性剤を用いてもよい。また、低分子系界面活性剤及び高分子系界面活性剤(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、高分子系界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤のHLB値は、3~20が好ましい。
【0057】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。非イオン性界面活性剤は、インクの電荷バランスへの影響が少なく、色材の分散性及び溶解性を良好に維持することができる。
カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤は、インクの電荷バランスに影響して、色材を凝集させることがある。そのため、イオン性界面活性剤を用いる場合は、インクの電荷バランスに影響を与えないものを用いることが好ましい。例えば、インクの色材がカーボンブラックである場合は、アニオン性分散剤を用いる場合が多いため、アニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0058】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤等を挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
これらの中からシリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、なかでもシリコーン系界面活性剤がより好ましい。
シリコーン系界面活性剤のなかでも、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等を好ましく用いることができる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG001、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0060】
界面活性剤は、インク全量に対し、有効成分量で、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。一方、界面活性剤量は、インク全量に対し、有効成分量で、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が一層好ましい。界面活性剤は、インク全量に対して、有効成分量で、0.1~5質量%が好ましく、0.1~4質量%がより好ましく、0.5~3質量%がさらに好ましい。
【0061】
インクには、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の成分以外に、例えば、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに添加してもよい。
【0062】
インクの作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望のインクを得ることができる。例えば、水に適宜水溶性有機溶剤、界面活性剤等を添加した溶液に水分散性樹脂を分散させ、これに顔料分散体等の色材成分を混合することで得ることができる。
【0063】
インクの粘度は特に限定されずに記録方法に応じて適宜調節可能である。インクジェット記録方法に適したインクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1~30mPa・sであることが好ましく、2~20mPa・sであることがより好ましい。
【0064】
「処理液1」
処理液1は、ガラス転移点(Tg)が0℃以上の水分散性樹脂を含むことができる。
【0065】
処理液1の水分散性樹脂のガラス転移点は、曲げ加工性の向上の観点から、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましい。処理液1の水分散性樹脂のガラス転移点は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。処理液1の水分散性樹脂のガラス転移点は、0~300℃が好ましく、5~250℃がより好ましく、10~150℃がさらに好ましい。
【0066】
水分散性樹脂としては、処理液1中に粒子状に配合可能な、すなわち処理液1中で水中油(O/W)型樹脂エマルションを形成可能な樹脂を用いることが好ましい。また、水分散性樹脂としては、インクの発色に影響を与えないように、透明の塗膜を形成する透明性樹脂を用いることが好ましい。また、水分散性樹脂は、処理液1の製造に際しては、水中油型樹脂エマルションとして配合することが好ましい。
水分散性樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン/(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、メラミン系樹脂、アミド系樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、シリコーン系樹脂等、又はこれらの複合樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂に親水性の官能基を導入するか、又は、分散剤等で表面処理することで、水中油型樹脂エマルションを形成し、これを処理液1に配合してもよい。
【0067】
処理液1に含まれるガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂としては、例えば、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性の樹脂粒子を用いてもよい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油型樹脂エマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基等であり、アニオン性の分散剤は、アニオン性界面活性剤等である。
アニオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、-20~-500μeq/gが好ましい。
【0068】
ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性樹脂としては、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、またはそれらの組み合わせが好ましい。
ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性ウレタン系樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス830HS、スーパーフレックス126、スーパーフレックス130、スーパーフレックス150、スーパーフレックス150HS、スーパーフレックス170、スーパーフレックス210」等が挙げられる(いずれも商品名)。
ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性(メタ)アクリル系樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、DSM Coating Resins社製の「NeoCryl A-1125、NeoCrylA-1127、NeoCrylA-1105」等が挙げられる(いずれも商品名)。
上記したアニオン性水分散性樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
処理液1に含まれるガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂としては、例えば、粒子表面がプラスに帯電し、正電荷を帯びたカチオン性の樹脂粒子を用いてもよい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油型樹脂エマルションを形成できるものである。カチオン性水分散性樹脂としては、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するカチオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にカチオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。
カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等が挙げられる。カチオン性分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。
カチオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、20~500μeq/gが好ましい。
【0070】
ガラス転移点が0℃以上のカチオン性水分散性樹脂としては、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、またはそれらの組み合わせが好ましい。
ガラス転移点が0℃以上のカチオン性水分散性ウレタン系樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」(商品名)等が挙げられる。
また、ガラス転移点が0℃以上のカチオン性水分散性(メタ)アクリル系樹脂のエマルションの市販品では、ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール6930」(商品名)等が挙げられる。
上記したカチオン性水分散性樹脂は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
処理液1は、界面活性剤を含むことができる。
【0072】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等のいずれも用いることができる。
処理液1の安定性の観点から、界面活性剤は、処理液1の電荷バランスへの影響が少ないものが好ましい。処理液1の安定性の観点から、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
イオン性界面活性剤を用いる場合は、処理液1の電荷バランスに影響を与えないものを用いることが好ましい。例えば、処理液1がアニオン性水分散性樹脂を含む場合、アニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。例えば、処理液1がカチオン性水分散性樹脂を含む場合、カチオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
また、界面活性剤は、低分子系界面活性剤及び高分子系界面活性剤(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、高分子系界面活性剤を好ましく用いることができる。
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましい。
【0073】
界面活性剤は、例えば、上記した水性インクに配合可能な界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。
界面活性剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、処理液1全量に対し、有効成分量で、0.1質量%以上が好ましい。界面活性剤は、処理液1全量に対して、有効成分量で、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。界面活性剤は、処理液1全量に対し、有効成分量で、0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0074】
処理液1は、水をさらに含むことができる。例えば、処理液1は、主溶剤として水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水、脱イオン水等が挙げられる。
水は、処理液1全量に対し、10質量%以上が好ましく、30質量%がより好ましく、50質量%以上であってもよい。水は、処理液1全量に対し、95質量%以下が好ましく、90質量%がより好ましく、80質量%以下であってもよい。水は、処理液1全量に対し、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~80質量%であってもよい。
【0075】
処理液1は、水とともに、又は水に代えて、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
水溶性有機溶剤としては、上記した水性インクに配合可能な水溶性有機溶剤を用いてもよい。水溶性有機溶剤は、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、水との混合溶剤において単一相を形成することが好ましい。
水溶性有機溶剤は、処理液1全量に対し、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。水溶性有機溶剤は、処理液1全量に対し、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶剤は、処理液1全量に対し、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0076】
処理液1は、上記した水性インクと同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0077】
処理液1の製造方法は、特に限定されず、通常の方法により適宜製造することができる。例えば、処理液1は、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して混合ないし分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0078】
「処理液2」
処理液2は、処理液1のガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含むことができる。
処理液2の凝集剤としては、処理液1の水分散性樹脂とカチオン-アニオン反応を起こすことができるものを用いることができる。処理液2の凝集剤と処理液1の水分散性樹脂とのカチオン-アニオン反応によって、処理液1の水分散性樹脂が凝集することができると考えられる。
処理液2の凝集剤は、処理液1のガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂によって適宜選択することが好ましい。例えば、処理液1のガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂が、アニオン性水分散性樹脂である場合、処理液2の凝集剤は、多価金属塩、カチオン性樹脂、有機酸、またはこれらの組み合わせを含むことが好ましい。また、例えば、処理液1のガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂が、カチオン性水分散性樹脂である場合、処理液2の凝集剤は、アニオン性水分散性樹脂を含むことが好ましい。
以下、凝集剤について詳述する。
【0079】
処理液2の凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオン性樹脂、有機酸等を好ましく用いることができる。カチオン性樹脂としてはとくに限定されず、カチオン性水溶性樹脂及びカチオン性水分散性樹脂のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いても
よい。処理液2の凝集剤としては、これらのなかでも、カチオン性水分散性樹脂がより好ましい。
【0080】
例えば、処理液1が、ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性樹脂を含むとき、処理液2の凝集剤は、多価金属塩、カチオン性樹脂、有機酸またはこれらの組み合わせを含むことが好ましく、良好な成膜性及び膜強度の向上、並びにそれによる曲げ加工性の向上の観点から、カチオン性水分散性樹脂を含むことがより好ましい。
【0081】
良好な成膜性及び膜強度の向上、並びにそれによる曲げ加工性の向上の観点から、処理液2の凝集剤としては、水分散性樹脂を用いることが好ましい。水分散性樹脂としては、例えば、アニオン性水分散性樹脂、カチオン性水分散性樹脂等があげられる。
例えば、処理液1が、ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性樹脂を含むとき、良好な成膜性及び膜強度の向上、並びにそれによる曲げ加工性の向上の観点から、処理液2の凝集剤は、カチオン性水分散性樹脂を含むことが好ましい。
例えば、処理液1が、ガラス転移点が0℃以上のカチオン性水分散性樹脂を含むとき、良好な成膜性及び膜強度の向上、並びにそれによる曲げ加工性の向上の観点から、処理液2の凝集剤は、アニオン性水分散性樹脂を含むことが好ましい。
【0082】
多価金属塩としては、例えば、2価以上の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩、塩素酸塩等を用いることができる。ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が好ましい。2価以上の金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba等の2価のアルカリ土類金属、Ni、Zn、Cu、Fe(II)等の2価の金属、Fe(III)、Al等の3価の金属等が挙げられ、なかでもアルカリ土類金属が好ましい。
より具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。
上記した多価金属塩は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
カチオン性樹脂としては、カチオン性水溶性樹脂及びカチオン性水分散性樹脂のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0084】
カチオン性水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの共重合体等が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等を用いることができる。
カチオン性水溶性樹脂の市販品の例としては、例えば、ハイモ株式会社製「ハイマックスSC-700L」(商品名)等が挙げられる。
【0085】
カチオン性水分散性樹脂としては、透明の塗膜を形成する透明性樹脂を用いることが好ましい。また、処理液2の製造に際しては、水中油型樹脂エマルションとして配合することが好ましい。
カチオン性水分散性樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン/(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、メラミン系樹脂、アミド系樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、及びこれらの複合樹脂等において、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えたものを用いることができる。
カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等が挙げられる。カチオン性分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。
カチオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、20~500μeq/gが好ましい。
カチオン性水分散性樹脂としては、ガラス転移点が0℃以上のものも好ましく、例えば、処理液1に配合可能なガラス転移点が0℃以上のカチオン性水分散性樹脂から適宜選択して用いてもよい。
上記したカチオン性樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸等のカルボン酸、乳酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、スルホン酸等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
アニオン性水分散性樹脂としては、特に限定されず、例えば、インクに配合可能なアニオン性水分散性樹脂から適宜選択して用いることができる。
アニオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、-20~-500μeq/gが好ましい。
アニオン性水分散性樹脂としては、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、またはそれらの組み合わせが好ましい。
また、アニオン性水分散性樹脂としては、ガラス転移点が0℃以上のものも好ましく、処理液1に配合可能な、ガラス転移点が0℃以上のアニオン性水分散性樹脂から適宜選択して用いてもよい。
アニオン性水分散性樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
上記した凝集剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、凝集剤は、処理液1に対し、有効成分量で、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0089】
処理液2は、界面活性剤を含むことができる。
【0090】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等のいずれをも用いることができる。
処理液2の安定性の観点から、界面活性剤は、処理液2の電荷バランスへの影響が少ないものが好ましい。処理液2の安定性の観点から、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
イオン性界面活性剤を用いる場合は、処理液2の電荷バランスに影響を与えないものを用いることが好ましい。
また、界面活性剤は、低分子系界面活性剤及び高分子系界面活性剤(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、高分子系界面活性剤を好ましく用いることができる。
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましい。
【0091】
界面活性剤は、例えば、上記した水性インクに配合可能な界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。
界面活性剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、処理液2全量に対し、有効成分量で、0.1質量%以上が好ましい。界面活性剤は、処理液2全量に対して、有効成分量で、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。界面活性剤は、処理液2全量に対し、有効成分量で、0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0092】
処理液2は、水をさらに含むことができる。例えば、処理液2は、主溶剤として水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水、脱イオン水等が挙げられる。
水は、処理液2全量に対し、10質量%以上が好ましく、30質量%がより好ましく、50質量%以上であってもよい。水は、処理液2全量に対し、95質量%以下が好ましく、90質量%がより好ましく、80質量%以下であってもよい。水は、処理液2全量に対し、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~80質量%であってもよい。
【0093】
処理液2は、水とともに、又は水に代えて、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
水溶性有機溶剤としては、上記した水性インクに配合可能な水溶性有機溶剤を用いてもよい。水溶性有機溶剤は、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、水との混合溶剤において単一相を形成することが好ましい。
水溶性有機溶剤は、処理液2全量に対し、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。水溶性有機溶剤は、処理液2全量に対し、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶剤は、処理液2全量に対し、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0094】
処理液2は、上記した水性インクと同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0095】
処理液2の製造方法は、特に限定されず、通常の方法により適宜製造することができる。例えば、処理液2は、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して混合ないし分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0096】
「前処理液」
前処理液には、インクの色材成分を凝集させる作用を有する前処理液、インクと基材との湿潤性(濡れ性)を改善させる作用を有する前処理液、又はこれらを組み合わせた作用を有する前処理液等を用いることができる。
【0097】
前処理液は凝集剤を含むことができる。前処理液に凝集剤が含まれることで、前処理された基材表面上で、水性インクの色材成分が凝集し、加飾物の画像の滲みを抑制して、画像濃度をより高め、画質をより改善することができる。
前処理液の凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオン性樹脂、有機酸等を好ましく用いることができる。多価金属塩としては、例えば、処理液2に配合可能なものを用いることができ、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。カチオン性樹脂としては、例えば、処理液2に配合可能なものを用いることができ、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機酸としては、例えば、処理液2に配合可能なものを用いることができ、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
上記した凝集剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、凝集剤は、前処理液に対し、有効成分量で、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0099】
前処理液は湿潤剤を含むことができる。前処理液に湿潤剤が含まれることで、前処理された基材表面と、水性インクとの湿潤性(濡れ性)が高まり、基材と水性インクとの密着性をより高めて、色材の定着性をより高めることができる。
前処理液の湿潤剤としては、例えば、界面活性剤等を用いることができる。
【0100】
界面活性剤としては、上記した水性インクに配合可能な界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。
界面活性剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、前処理液全量に対し、有効成分量で、0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。前処理液に樹脂成分等が含まれる場合は、樹脂成分等と水性溶媒との親和性の観点から、界面活性剤は、前処理液全量に対し、有効成分量で、0.5質量%以上で配合してもよく、1質量%以上であってもよい。
【0101】
前処理液は、水をさらに含むことができる。例えば、前処理液は、主溶剤として水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水、脱イオン水等が挙げられる。
水は、前処理液全量に対し、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~80質量%であってもよい。
【0102】
前処理液は、水とともに、又は水に代えて、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
水溶性有機溶剤としては、上記したインクに配合可能な水溶性有機溶剤を用いてもよい。水溶性有機溶剤は、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、水との混合溶剤において単一相を形成することが好ましい。
水溶性有機溶剤は、前処理液全量に対し、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0103】
前処理液は、樹脂成分をさらに含んでもよい。
樹脂成分としてバインダー樹脂を含むことで、前処理液の基材への定着性をより高めることができる。また、インクの基材への定着をより促進させることができる。
バインダー樹脂としては、前処理液のイオン性に影響を与えないように非イオン性樹脂を好ましく用いることができる。非イオン性樹脂は、水溶性及び水分散性のいずれであってもよい。また、非イオン性樹脂としては、上記した水性インクに配合可能な樹脂成分の中から非イオン性樹脂を選択して用いることができる。なお、前処理液が、凝集剤としてカチオン性樹脂を含む場合は、このカチオン性樹脂がバインダー樹脂としての機能も併せ持つことができる。
【0104】
前処理液は、上記した水性インクと同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0105】
前処理液の製造方法は、特に限定されず、通常の方法により適宜製造することができる。例えば、前処理液は、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して混合ないし分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、共通する成分には同じものを用いている。
【0107】
(実施例1)
<基材>
金属基材には、0.5mm厚のアルミ板基材を用いた。この金属基材の加飾前の入射角60°の光沢度(GU)は110であった。
【0108】
<前処理液>
前処理液には、「シルフェイスSAG002」(界面活性剤、日信化学工業株式会社製、有効成分100質量%)を1.0質量%、「ハイマックスSC-700L」(ハイモ株式会社製、カチオン性水溶性樹脂、有効成分30質量%)を6.0質量%、「スーパーフレックス620」(カチオン性水分散性ウレタン系樹脂のエマルション、第一工業製薬株式会社製、有効成分30質量%)を9.0質量%、ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を10.0質量%、残部イオン交換水を含む前処理液(合計100質量%)を用いた。上記の前処理液の材料のうち溶媒等を含む材料については、それぞれ、上記の配合量は、溶媒等を含むその材料の全体量で示す。
【0109】
<インク>
インクには、「BONJET BLACK CW-1」(ブラックの顔料分散体、オリヱント化学工業株式会社製、有効成分20質量%)を15.0質量%、「スーパーフレックス470」(アニオン性水分散性ウレタン系樹脂のエマルション、第一工業製薬株式会社製、有効成分35質量%)を5.0質量%、「NeoCryl A-1125」(アニオン性水分散性(メタ)アクリル系樹脂のエマルション、DSM Coating Resins社製、有効成分19.5質量%)を4.0質量%、「シルフェイスSAG002」(シリコーン系界面活性剤、日信化学工業株式会社製、有効成分100質量%)を1.0質量%、ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を20.0質量%、残部イオン交換水を含むインク(合計100質量%)を用いた。上記のインクの材料のうち溶媒等を含む材料については、それぞれ、上記の配合量は、溶媒等を含むその材料の全体量で示す。
【0110】
<処理液OC1~OC7>
表1に処理液OC1~OC7の処方を示す。表1中の各原材料の配合量は、質量%で示す。表1において、材料の中で溶媒等を含む材料については、それぞれ、表中に示す配合量は、溶媒等を含むその材料の全体量で示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に記載の原材料は以下の通りである。
【0113】
シルフェイスSAG002:日信化学工業株式会社製、シリコーン系界面活性剤
スーパーフレックス620:第一工業製薬株式会社製、水分散性ウレタン系樹脂エマルション(カチオン性、Tg=43℃)
ハイマックスSC-700L:ハイモ株式会社製、カチオン性水溶性樹脂
塩化マグネシウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、塩化マグネシウム六水和物を無水塩化マグネシウム量に換算して使用(表中の量は無水塩化マグネシウムに換算した量)
スーパーフレックス830HS:第一工業製薬株式会社製、水分散性ウレタン系樹脂エマルション(アニオン性、Tg=68℃)
NeoCryl A-1125:DSM Coating Resins社製、水分散性(メタ)アクリル系樹脂エマルション(アニオン性、Tg=13℃)
スーパーフレックス420:第一工業製薬株式会社製、水分散性ウレタン系樹脂エマルション(アニオン性、Tg=-10℃)
シーホスターKE-P150:株式会社日本触媒製、水分散用シリカ粒子1.5μm
ジエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製、水溶性有機溶剤
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:東京化成工業株式会社製、水溶性有機溶剤
【0114】
<加飾物の作製>
基材に、前処理液をスプレー塗布した後、基材を恒温槽に入れて120℃、10分乾燥した。株式会社マスターマインド製インクジェットプリンタ「MMP8130」に上記インクを装填して、上記前処理及び乾燥を行った基材の前処理液が塗布された領域内に、5cm四方のブラックベタ画像を印刷した後、基材を恒温槽に入れて120℃、30分乾燥した。上記インク付与及び乾燥を行った基材のベタ画像が印刷された領域に、処理液2をスプレー塗布した後、基材を恒温槽に入れて120℃、10分乾燥した。上記の処理液2の塗布及び乾燥を行った基材のベタ画像が印刷された領域に、処理液1をスプレー塗布した後、基材を恒温槽に入れて120℃、30分乾燥し、加飾物を得た。基材への前処理液の付与量は、基材の単位面積あたり20g/mとした。基材へのインクの付与量は、基材の単位面積当たり、15g/mとした。基材への処理液1および処理液2の付与量は、それぞれ、基材の単位面積当たり40g/mとした。
実施例1~6及び比較例7では、表2及び3に示す処理液1及び処理液2を用いた。
比較例1~3は、処理液2を用いず、比較例4では、処理液1及び2のいずれも用いなかった。
【0115】
<入射角60°の光沢度>
上記のようにして得られた加飾物のベタ画像領域の入射角60°の光沢度を測定した。光沢度の測定は、JIS Z 8741「鏡面光沢度-測定方法」に準じて、コニカミノルタ社製GM-60Aを用いて行った。測定した入射角60°の光沢度の値を、表2及び3に示す。
【0116】
表2及び3において、入射角60°の光沢度の値の下に示される「A」及び「B」は以下の通りである。
A:入射角60°の光沢度が30以下
B:入射角60°の光沢度が30超
【0117】
<曲げ加工性>
株式会社アマダ製ベンディングマシン「FαBIII-5012」を用いて、88°のV字金型、溝幅4mmで、印刷面を外側に向けてベタ画像領域で曲がるように、加飾物を曲げ角度90°に曲げ加工した。なお、この曲げ加工部の最小曲げ半径は、内側で0.47mmであるが、印刷面である外側はアルミ板基材と塗布及び印刷されたものの厚みを加えた値になり、およそ0.97mmになる。
曲げ加工性を、以下の評価基準で評価した。結果を表2及び3に示す。
A:外観変化なくきれいな曲げ曲面
B:わずかに加工圧痕が残った
C:加工圧痕が残った
D:曲げ引き伸ばし部に白化がみられた
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
実施例1~7は、処理液2と1が凝集反応を起こし、オーバーコート層の光沢が抑えられ良好な外観であった。また、実施例1~7は、ガラス転移点が0℃以上の水分散性樹脂を含む処理液OC4、処理液OC5及び処理液OC1を処理液1として用いており、曲げ加工性も良好であった。
処理液2の凝集剤として水分散性樹脂を用いた実施例1、2、7は、乾燥後の被覆膜がより強固で加工圧痕が全くない外観となった。処理液2の凝集剤が水分散性樹脂である場合、水溶性樹脂または金属塩の場合に比べ、乾燥後の被膜強度が高くなる傾向があると考えられる。
【0121】
一方、比較例1及び2は、処理液2による凝集反応がなく、光沢が高過ぎて外観上好ましくないものとなった。
比較例3は、処理液OC6に含まれるシリカ粒子の作用で外観上は光沢が制御されて良好なものであったが、曲げ加工後に引き伸ばし部に塗工膜の白化が見られた。艶消し目的で加えたシリカ粒子と樹脂の界面で剥離が生じたものと考えられる。
比較例4は、前処理液とインクのみの塗工で、外観上は光沢が制御されて良好なものであったが、曲げ加工後に加工治具の圧痕が残った。
比較例5は、処理液OC7に含まれる水分散性樹脂のTgが低く、被膜強度が弱いため、曲げ加工圧痕が残った。