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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148350
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】自動調心ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/48 20060101AFI20220929BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20220929BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/38
F16C23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049995
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和司
【テーマコード(参考)】
3J012
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB01
3J012BB03
3J012DB02
3J012FB07
3J701AA12
3J701AA15
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA21
3J701BA34
3J701BA45
3J701BA71
3J701FA44
3J701GA24
3J701GA34
3J701GA51
(57)【要約】
【課題】ポケット加工時での保持器の柱部のたわみの発生を抑制する自動調心ころ軸受を提供する。
【解決手段】外輪2の球面軌道7と内輪3の複列の軌道8、8のそれぞれとの間に球面ころ4が組み込まれ、列ごとの球面ころ4が保持器5により保持され、内輪2の軌道8、8間の内輪3側に案内輪6が配置される自動調心ころ軸受である。保持器5がもみ抜き保持器であり、保持器5の柱部11が形成する円筒面をなすポケット内面12aを有し、ポケット内面12aの中心Cが列ごとの球面ころ4の接触角θをなす作用線Fに対して直交しており、柱部11の軸方向の先端部13が、その柱部11の作用線Fの位置よりも軸方向外側からポケット内面12aの中心Cに平行に延び出し、先端部13はポケット内面12aの中心Cに対して直交する外端面13aを有し、保持器5の軸方向一方側に位置している一本の柱部11の先端部13は、その内径側に案内輪6の外径部が通過可能な空間Sを形成している逃げ面14を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面軌道(7)を内周部に有する外輪(2)と、複列の軌道(8)を外周部に有する内輪(3)と、前記外輪(2)の球面軌道(7)と前記内輪(3)の複列の軌道(8)のそれぞれとの間に組み込まれた複列の球面ころ(4)と、列ごとの前記球面ころ(4)を保持する保持器(5)とを備える自動調心ころ軸受において、
前記保持器(5)がもみ抜き保持器であり、前記保持器(5)は、環状のリム部(10)と、前記リム部(10)の軸方向両側の外側面から軸方向外向きに延び出し、前記リム部(10)の周方向に沿って複数設けられる柱部(11)と、周方向に隣り合う前記柱部(11)の間に設けられるポケット(12)とを有し、
前記柱部(11)は、前記ポケット(12)を形成するポケット内面(12a)を有し、
前記ポケット内面(12a)が円筒面に形成され、前記ポケット内面(12a)の中心が列ごとの前記球面ころ(4)の接触角をなす作用線に対して直交しており、
前記柱部(11)の軸方向の先端部(13)が、その柱部(11)の前記作用線の位置よりも軸方向外側から前記ポケット内面(12a)の中心に平行に延び出しており、前記先端部(13)は前記ポケット内面(12a)の中心に対して直交する外端面(13a)を有していることを特徴とする自動調心ころ軸受。
【請求項2】
前記内輪(3)の軌道(8)間の前記内輪(3)側に位置する案内輪(6)を備え、前記保持器(5)の軸方向一方側に位置している複数の柱部(11)のうち、少なくとも一本の柱部(11)の先端部(13)は、その内径側に前記案内輪(6)の外径部が通過可能な空間を形成している逃げ面(14)を有し、前記先端部(13)の前記逃げ面(14)が、その先端部(13)の外端面(13a)と前記先端部(13)の軸方向内縁部との間に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項3】
前記先端部(13)の逃げ面(14)の周方向両側に径方向内向きに突き出るガイド部(14a)を有していることを特徴とする請求項2に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項4】
前記保持器(5)の列ごとの前記ポケット(12)の数が偶数個であり、前記逃げ面(14)が前記保持器(5)の直径方向に対向する位置にある二本の柱部(11)の先端部(13)に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の自動調心ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械、鉄鋼設備、風力発電機等の各種産業機械装置の回転軸支持部に使用される自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械、鉄鋼設備、風力発電機等の各種産業機械装置の回転軸支持部には、大きな荷重が掛かる。このため、負荷容量が高く、振動、衝撃荷重を受けることができるころ軸受である自動調心ころ軸受が使用されている。
【0003】
自動調心ころ軸受としては、例えば、図14、15に示すように、二列一対の球面軌道32、32を有する内輪31と、球面軌道34を有する外輪33と、外輪33の球面軌道34と内輪31の各列の球面軌道32との間に介在する複列の球面ころ35と、各列の球面ころ35をそれぞれ周方向に保持する保持器36と、各列の球面ころ35間の内輪31側に位置する案内輪37とを備えるものである。
【0004】
保持器36は、円環状のリム部38と、リム部38の軸方向外側面の周方向複数箇所から軸方向に延び出す複数の柱部39とでくし型に形成される。周方向に隣り合う柱部39の間で、球面ころ35を保持するポケット40が形成される。
【0005】
それぞれの柱部39のポケット40を形成するポケット内面39aは、球面ころ35の最大径に対応する円筒面に形成されている。それぞれの柱部39は軸方向に延び出しているが、円筒面のポケット内面39aは、その中心Cが軌道輪によって転動体へ伝えられる合力の作用線F1と直交するように位置しており、柱部39に対して傾斜している。このため、それぞれの柱部39のポケット内面39aは、その傾斜した円筒面の中心Cに沿う方向にドリルによる削り加工をすることにより形成されている。
【0006】
また、自動調心ころ軸受において、保持器の柱部が各列の球面ころの中心軸(自転軸)に平行に配置されているもの(特許文献1参照)や、保持器のそれぞれの柱部の先端部分に、径方向内向きに傾斜して球面ころを抱き込む抜け止め部が形成されたもの(特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-25191号公報
【特許文献2】特開2019-15293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図14に示す自動調心ころ軸受では、ポケット内面39aの中心Cが、柱部39に対して傾斜している。このため、保持器36のポケット40を形成するために、ドリルによる削り加工をする際、柱部39に径方向外向きに押し退けられる力が発生し、柱部39にたわみが生じる恐れがある。
【0009】
特許文献1に記載の自動調心ころ軸受は、保持器の柱部の軸方向外端面が軸受の軸方向外端面と平行に形成されている。このため、保持器のポケットを形成するために、ドリルによる削り加工をする際、柱部の軸方向外端面に対して、径方向外向きに押し退けられる力が発生し、この場合でも、柱部にたわみが生じる恐れがある。
【0010】
特許文献2に記載の自動調心ころ軸受において、柱部の先端に形成された抜け止め部の端面が軸受の軸方向外端面と平行である。このため、特許文献1に記載の自動調心ころ軸受の保持器の場合と同様に、ドリルの削り加工により柱部にたわみが生じる恐れがある。
【0011】
このように、柱部へのたわみが生じることによって、保持器のポケット内面の中心と、軸受の中心軸とのなす角度(ポケット角度)が設計値の範囲から外れ、軸受の回転不良が生じる。
【0012】
そこで、この発明が解決すべき課題としては、ポケット加工時での保持器の柱部のたわみの発生を抑制する自動調心ころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、球面軌道を内周部に有する外輪と、複列の軌道を外周部に有する内輪と、前記外輪の球面軌道と前記内輪の複列の軌道のそれぞれとの間に組み込まれた複列の球面ころと、列ごとの前記球面ころを保持する保持器とを備える自動調心ころ軸受において、
前記保持器がもみ抜き保持器であり、前記保持器は、環状のリム部と、前記リム部の軸方向両側の外側面から軸方向外向きに延び出し、前記リム部の周方向に沿って複数設けられる柱部と、周方向に隣り合う前記柱部の間に設けられるポケットとを有し、前記柱部は、前記ポケットを形成するポケット内面を有し、前記ポケット内面が円筒面に形成され、前記ポケット内面の中心が列ごとの前記球面ころの接触角をなす作用線に対して直交しており、前記柱部の軸方向の先端部が、その柱部の前記作用線の位置よりも軸方向外側から前記ポケット内面の中心に平行に延び出しており、前記先端部は前記ポケット内面の中心に対して直交する外端面を有している構成を採用することができる。
【0014】
この構成の保持器は、もみ抜き保持器であって、保持器に形成される筒状のワークに対して、ポケットを形成する際に、上記ポケットの内面の中心と、円筒面の切削面を有するドリルの回転中心とを一致させた状態で、そのドリルを保持器のリム部に向かって移動させる。この構成の保持器では、列ごとのそれぞれの柱部は、円筒面に形成されているポケット内面の中心に平行に延び出す先端部を有している。その先端部の外端面はポケット内面の中心に対して直交している。このため、ワークの、柱部の先端部に形成される部分は、その外端面によって、ドリルの移動によるポケット内面の中心に沿って作用する押圧力を受け止めることができる。また、ドリルの移動に伴って形成される柱部に対して、ドリルによる径方向外向きに押し退けられる力が作用しにくくなり、柱部のたわみの発生が抑制される。
【0015】
上記構成の保持器においては、列ごとの複数の柱部の先端部が前記ポケット内面の中心に平行に延び出し、その先端部が径方向内向きに折れ曲がっている状態となっている。このような状態の先端部が干渉して、保持器のリム部と内輪との間に案内輪を挿入することができない。そこで、案内輪を挿入する場合には、以下の構成を採用することができる。
【0016】
すなわち、上記構成において、前記内輪の軌道間の前記内輪側に位置する案内輪を備え、前記保持器の軸方向一方側に位置している複数の柱部のうち、少なくとも一本の柱部の先端部は、その内径側に前記案内輪の外径部が通過可能な空間を形成している逃げ面を有し、前記先端部の前記逃げ面が、その先端部の外端面と前記先端部の軸方向内縁部との間に形成されている構成を採用することができる。
【0017】
この構成では、案内輪の外径部を柱部の先端部の逃げ面に沿って保持器のリム部に向かって軸方向内向きに通過させることが可能となり、案内輪を保持器のリム部の径方向内側に配置することができる。
【0018】
前記先端部の逃げ面の周方向両側に径方向内向きに突き出るガイド部を有している構成を採用することができる。この場合、逃げ面に沿って案内輪の外径部を保持器のリム部に向かって移動させる際、案内輪がガイド部によって周方向両方向への移動が規制される。このため、案内輪を軸方向へ移動させ易くなる。
【0019】
この構成において、前記保持器の列ごとの前記ポケットの数が偶数個であり、前記逃げ面が前記保持器の直径方向に対向する位置にある二本の柱部の先端部に形成されている構成を採用することができる。この場合、保持器の直径方向に対向する位置にある二本の柱部の先端部のそれぞれの逃げ面の間で、案内輪を保持器のリム部に向かって軸方向に移動させることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、保持器の柱部が、ポケット内面の中心に平行に延び出す先端部を有し、その先端部の外端面をポケット内面の中心に直交するように形成している。このため、保持器のポケットをドリルの削り加工により製作する際、先端部の延び出す方向とドリルの送り方向が平行となり、かつ、先端部の外端面とドリルの先端部分が対向する状態となる。このため、保持器に対して、径方向外向きに押し退けられる力が発生し難く、柱部のたわみの発生を抑制することができ、軸受の回転不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明に係る第一実施形態の自動調心ころ軸受を示す縦断面図
図2】同上の自動調心ころ軸受に案内輪が挿入されている状態を示す縦縦断面図
図3】同上の自動調心ころ軸受を示す正面図
図4】同上の自動調心ころ軸受を示す拡大正面図
図5】(a)奇数個のポケットを有する保持器内に案内輪を通過させる状態を示す正面図、(b)同上の保持器の径方向内側に案内輪を嵌め合せた状態を示す正面図
図6】(a)同上の柱部の逃げ面に案内輪の外径部を通過させる状態を示す正面図、(b)同上の柱部の逃げ面と案内輪の外径部との位置関係を示す要部拡大説明図
図7】偶数個のポケットを有する保持器内に案内輪を通過させる状態を示す正面図
図8】保持器のポケットをドリルの削り加工により製作する状態を示す説明図
図9】この発明に係る第二実施形態の自動調心ころ軸受の縦断面図
図10】同上の自動調心ころ軸受を示す拡大正面図
図11】(a)奇数個のポケットを有する保持器内に案内輪を通過させる状態を示す正面図、(b)同上の保持器の径方向内側に案内輪を嵌め合せた状態を示す要部拡大説明図
図12】(a)同上の柱部の逃げ面に案内輪の外径部を通過させる状態を示す正面図、(b)同上の柱部の逃げ面と案内輪の外径部との位置関係を示す要部拡大説明図
図13】偶数個のポケットを有する保持器内に案内輪を通過させる状態を示す正面図
図14】従来の自動調心ころ軸受を示す縦断面図
図15】自動調心ころ軸受を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の第一実施形態に係る自動調心ころ軸受を図1図8に基づいて説明する。この実施形態の自動調心ころ軸受1は、外輪2と、外輪2の径方向内側に同軸状に配置される内輪3と、外輪2と内輪3との間に組み込まれた複数の球面ころ4と、その球面ころ4を保持する保持器5とを備えている。自動調心ころ軸受1は保持器5と内輪3との間に配置される案内輪6を備えてもよい。
【0023】
ここで、「周方向」とは、特に言及しない限り、軸受の中心軸O周りの円周方向のことをいう。また、特に言及しない限り、軸受の中心軸Oに沿った方向のことを単に「軸方向」といい、その中心軸Oに対し直角な方向のことを単に「径方向」という。
【0024】
外輪2は一体の環状部品からなる。外輪2は、その内周部に形成される単一の球面軌道7を有している。球面軌道7は、軸受の中心軸O上の点から所定の曲率半径を有する球面に沿った形状をなしている。外輪2は、内周部と外周部とを貫通する油孔9を有する。油孔9は外輪2の球面軌道7に形成され、軸方向中央に位置する円形の開口部9aを有する。油孔9は外輪2の周方向に複数箇所に設けられている。なお、油孔9は、外輪2の一箇所のみに設けてもよい。
【0025】
内輪3は、二つである複列の軌道8、8を外周部に有する複列軌道輪である。それぞれの軌道8、8は、曲率半径を有する球面に沿った形状をなしている。内輪3の外周部には、軸方向両端部に鍔部3a、3aが形成されている。鍔部3aは二つの軌道8、8の軸方向外側に位置している。鍔部3aの軸方向外側の端面は、内輪3の軸方向外端面と同一平面上に位置している。鍔部3aの軸方向内側の端面は、球面ころ4の軸方向外側のころ端面4bに平行である。
【0026】
球面ころ4は、そのころ中心軸を含む平面において、外輪2の球面軌道7と点接触する母線形状の転動面4aを有する。球面ころ4は外輪2の球面軌道7と内輪3の軌道8のそれぞれとの間に、周方向に間隔をおいて複列に組み込まれている。列ごとに組み込まれた球面ころ4が、保持器5により転動可能に保持されている。
【0027】
保持器5は、二列の球面ころ4の間に位置する円環状のリム部10と、リム部10の軸方向両側の外側面から軸方向外向きに延び出し、リム部10の周方向に沿って複数設けられる柱部11とを有する。リム部10の軸方向両側の外側面は、二列の球面ころ4の軸方向内側のころ端面4bに対向している。
【0028】
リム部10の軸方向一方の外側面から延び出す複数の柱部11と、リム部10の軸方向他方の外側面から延び出す複数の柱部11とは、それぞれ同じ本数であって奇数本に形成されており、半ピッチずつ周方向の位相がずれた状態となっている。図3に示すように、保持器5は、リム部10および隣り合う柱部11により形成される複数のポケット12を有する。隣り合う柱部11、11の周方向を向くポケット内面12aは、球面ころ4の最大径に対応する内径を有する円筒面に形成されている。ポケット内面12aの中心Cが、列ごとの球面ころ4の接触角θをなす作用線Fに対して直交している。作用線Fは、外輪2および内輪3によって列ごとの球面ころ4へ伝えられる力の合力が作用する線である。
【0029】
それぞれの柱部11は、その軸方向の先端部13が前記作用線Fよりも軸方向外側からポケット内面12aの中心Cに平行に延び出している。先端部13は、ポケット内面12aの中心Cに対して直交する外端面13aを有している。
【0030】
図5(a)に示すように、保持器5の軸方向一方に位置する複数の柱部11のうち、一本の柱部11の先端部13は、その内径側にポケット内面12aの中心Cに沿った位置から軸方向に沿った位置に外径側へ逃げる逃げ面14が形成されているものである(図2参照)。逃げ面14は、先端部13の軸方向内縁部から外端面13aに達している。
【0031】
図4に示すように、逃げ面14の周方向両側に径方向内向きに突出するガイド部14a、14aが形成されている。逃げ面14およびガイド部14aは、先端部13の内径側において溝状をなしている。逃げ面14は、案内輪6の外径部が通過可能な空間Sを形成している。図6(a)、(b)に示すように、逃げ面14の周方向の幅寸法W1は、案内輪6の軸方向の幅寸法W2に対して、同じ大きさか、わずかに大きい。逃げ面14の内径寸法R1は、案内輪6の外径寸法R2よりも大きい。保持器5は、それぞれのポケット12をドリルによる削り加工で製作したもみ抜き保持器であって、案内輪6により内輪3で案内される軌道輪案内形式となる、くし型の保持器である。
【0032】
案内輪6は、保持器5のリム部10と、内輪3の軌道8、8間の外周部との間に配置される断面台形の円環状部材である。案内輪6は、先端部13以外の柱部11の内径寸法R1よりも小さい外径寸法を有している。案内輪6の軸方向両端面は、列ごとの球面ころ4の軸方向内側のころ端面4bに対向している。
【0033】
この発明の第一実施形態の自動調心ころ軸受1は、以上のように構成される。次に、この実施形態の自動調心ころ軸受1の保持器5の製作方法を説明する。先に、自己潤滑性を有する銅合金製の筒状のワーク30を製作する。このワーク30は、保持器5のリム部10および列ごとの柱部11におけるアキシアル断面(ワーク30の中心軸を通る平面における断面)の形状を全周にわたって有する筒状に製作されている(図8参照)。
【0034】
次に、ワーク30に対して、球面ころ4の最大径と同径で円筒面の加工面を形成するドリル50の回転により削り加工を行う。この削り加工においては、ワーク30に対して、軸方向外側から、ドリル50の回転中心とポケット12のポケット内面12aの中心Cとを一致させた状態で、ドリル50を回転させながらワーク30の軸方向中央部分に向かって移動させる。
【0035】
このドリル50による削り加工の際、ワーク30での柱部11の先端部13に形成される部分の軸方向の外端面(先端部13の外端面13a)は、ポケット内面12aの中心Cに対して直交しているため、ドリル50の端面に正対する状態となる。また、ワーク30の先端部13に形成される部分が、ポケット内面12aの中心Cに平行に延び出している。このワーク30の先端部13に形成される部分によって、ドリル50によるポケット内面12aの中心Cに沿って作用する押圧力を、受け止めることができる。その結果、ドリル50の移動に伴って形成される柱部11に対して、ドリル50による径方向外向きに押し退けられる力が作用しにくくなり、柱部11のたわみの発生が抑制される。
【0036】
続いて、上述のドリル50による削り加工を、ワーク30の軸方向の両側において、周方向等間隔についてそれぞれ行うことにより、軸方向両側に周方向等間隔にポケット12が形成された複数の柱部11が形成される。そして、軸方向一方側の複数の柱部11のうち、一本の柱部11の先端部13の内径側に、逃げ面14を形成して、保持器5を製作する。
【0037】
この自動調心ころ軸受1は、上述のように保持器5の製作の際に、柱部11に対する径方向外向きへのたわみの発生が抑制されている。この保持器5によって、ポケット内面12aの中心Cと、軸受の中心軸Oとのなす角度(ポケット角度)が設計値内に収まり、軸受の回転不良の発生を抑制することができる。
【0038】
また、保持器5の軸方向一方に位置する複数の柱部11のうち、一本の柱部11の先端部13は、内径側に形成される逃げ面14を有している。このため、図6(b)に示すように、保持器5のリム部10に対して90度回転させた案内輪6の外径部は、先端部13の逃げ面14により形成している空間Sを通過可能となる。案内輪6は、逃げ面14に沿って保持器5のリム部10に向かって軸方向に移動させる際、ガイド部14aにより周方向への移動が規制されて、円滑に移動させることができる。
【0039】
保持器5のリム部10にまで軸方向に移動した案内輪6は、図5(b)に示すように、90度回転させて、保持器5のリム部10の径方向内側に位置させることができる。したがって、柱部11の先端部13が干渉して、案内輪6を保持器5のリム部10の径方向内側に配置できなくなる状態を防止することができる。
【0040】
なお、図7に示すように、この第一実施形態の自動調心ころ軸受は、列ごとのポケット12の数が偶数個となっている保持器5についても採用することができる。この場合、逃げ面14が、保持器5の直径方向に対向する位置にある二本の柱部11の先端部13に形成される。二本の柱部11の先端部13に形成される逃げ面14が、案内輪6の外径部が通過可能な空間Sを形成している。これにより、二本の柱部11の先端部13に形成される逃げ面14の間に、案内輪6の外径部を保持器5のリム部10に向かって軸方向に通過させることができる。
【0041】
次に、この発明の第二実施形態に係る自動調心ころ軸受を図9~13に示す。第二実施形態において、保持器5の柱部11の先端部13に形成されている逃げ面14が周方向両側にガイド部14aを有していない点で、上述の第一実施形態と相違する。その他の構成において、第一実施形態と同じと考えられるものには、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
図11に示すように、保持器5は、軸方向一方側のポケット12の数が奇数個であって、上述の第一実施形態の保持器5よりもポケット12の数が多いものである。このため、図12(a)、(b)に示すように、柱部11の先端部13の周方向の幅寸法W3が、案内輪6の軸方向の幅寸法W2よりも小さくなっている。また、逃げ面14の内径寸法R1は、案内輪6の外径寸法R2よりも大きい。このような寸法関係となる保持器5において、その軸方向一方側の複数の柱部11のうち、一本の柱部11の先端部13は、その内径側に切り欠き状に逃げ面14が形成されている。先端部13の内径側の全面が逃げ面14を構成している(図9、10参照)。逃げ面14は、第一実施形態と同様に、案内輪6の外径部が通過可能な空間Sを形成している。
【0043】
図11(a)に示すように、この実施形態においても、第一実施形態の場合と同様に、保持器5のリム部10に対して90度回転させた案内輪6の外径部は、先端部13の逃げ面14により形成している空間Sを通過可能となる。案内輪6は、逃げ面14に沿って保持器5のリム部10に向かって軸方向に移動させることができる。保持器5のリム部10にまで軸方向に移動した案内輪6は、90度回転されて、保持器5のリム部10の径方向内側に位置させることができる(図11(b)参照)。
【0044】
また、図13に示すように、この第二実施形態の自動調心ころ軸受は、列ごとのポケット12の数が偶数個となっている保持器5についても採用することができる。この場合、逃げ面14が、保持器5の軸方向一方側の複数の柱部11のうち、直径方向に対向する位置にある二本の柱部11の先端部13に形成される。二本の柱部11の先端部13に形成される逃げ面14が、案内輪6の外径部が通過可能な空間Sを形成している。
【符号の説明】
【0045】
1 自動調心ころ軸受
2 外輪
3 内輪
3a 鍔部
4 球面ころ
4a 転動面
4b ころ端面
5 保持器
6 案内輪
7 球面軌道
8 軌道
9 油孔
9a 開口部
10 リム部
11 柱部
12 ポケット
12a ポケット内面
13 先端部
13a 外端面
14 逃げ面
14a ガイド部
30 ワーク
50 ドリル
C 中心
F、F1 作用線
O 中心軸
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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