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特開2022-148356アクティブノイズ制御装置、アクティブノイズ制御方法及びアクティブノイズ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148356
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】アクティブノイズ制御装置、アクティブノイズ制御方法及びアクティブノイズ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20220929BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G10K11/178 120
B60R11/02 S
B60R11/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050005
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】大川 僚太
【テーマコード(参考)】
3D020
5D061
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BA11
3D020BC02
3D020BC04
3D020BD05
3D020BE04
5D061FF02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ディップの周波数を正確に検出し、騒音の周波数がディップの周波数と一致する場合にも安定して騒音を制御する。
【解決手段】アクティブノイズ制御装置1は、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、スピーカから制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて適応フィルタを逐次的に更新する。振幅と位相の情報を含む、スピーカとマイクロホンとの間の二次経路の音響特性を取得し、周波数に応じて値が異なる二次経路の振幅特性を算出し、振幅特性を平滑化して周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成し、振幅特性を平滑化信号で除算して、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する。補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求める。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御装置であって、
前記参照信号を生成する参照信号生成部と、
前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出する振幅特性算出部と、
ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成する平滑化信号生成部と、
前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部と、
前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求める適応フィルタ更新部と、
前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成する制御信号生成部と、
を備えたことを特徴とするアクティブノイズ制御装置。
【請求項2】
略0.5~略0.7に閾値を設定し、
前記適応フィルタ更新部は、前記補正係数が前記閾値以下の場合には前記補正係数を0にする
ことを特徴とする請求項1に記載のアクティブノイズ制御装置。
【請求項3】
前記適応フィルタ更新部は、前記第1適応フィルタ係数に1未満の係数を積算した結果から前記更新項を減算して前記第2適応フィルタ係数を求める
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクティブノイズ制御装置。
【請求項4】
前記補正係数算出部は、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果が1より小さい場合には当該除算した結果を前記補正係数とし、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果が1以上の場合には前記補正係数を1とする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のアクティブノイズ制御装置。
【請求項5】
振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御方法であって、
前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出するステップと、
ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成するステップと、
前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部と、
前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求めるステップと、
前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成するステップと、
を含むことを特徴とするアクティブノイズ制御方法。
【請求項6】
振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御プログラムであって、
コンピュータを、
前記参照信号を生成する参照信号生成部、
前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出する振幅特性算出部、
ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成する平滑化信号生成部、
前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部、
前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求める適応フィルタ更新部、
前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成する制御信号生成部、
として機能させることを特徴とするアクティブノイズ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブノイズ制御装置、アクティブノイズ制御方法及びアクティブノイズ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
騒音をマイクロホンで検出し、振幅が同一で逆位相となる制御音をスピーカから出力することによって騒音を打ち消すアクティブノイズ制御装置(ANC、Active Noise Control)が知られている。特許文献1には、振動騒音周波数がディップ帯域にある場合に、複数のフィルタ係数更新手段のうちの1以上のフィルタ係数更新手段においてフィルタ係数を更新するために用いられるステップサイズパラメータを変更する能動型振動騒音制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/101967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、制御する周波数帯の平均振幅に基づいてディップを検出しているが、複数のディップがある場合や、全体的な振幅特性が一定でない場合には、正確にディップが検出できないおそれがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ディップの周波数を正確に検出し、騒音の周波数がディップの周波数と一致する場合にも安定して騒音を制御することができるアクティブノイズ制御装置、アクティブノイズ制御方法及びアクティブノイズ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクティブノイズ制御装置は、例えば、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御装置であって、前記参照信号を生成する参照信号生成部と、前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出する振幅特性算出部と、ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成する平滑化信号生成部と、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部と、前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求める適応フィルタ更新部と、前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成する制御信号生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクティブノイズ制御方法は、例えば、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御方法であって、前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出するステップと、ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成するステップと、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部と、前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求めるステップと、前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成するステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクティブノイズ制御プログラムは、例えば、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理して制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから前記制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて前記適応フィルタを逐次的に更新するアクティブノイズ制御プログラムであって、コンピュータを、前記参照信号を生成する参照信号生成部、前記スピーカと前記マイクロホンとの間の二次経路の音響特性であって、振幅と位相の情報を含む音響特性を取得し、当該取得した音響特性に基づいて周波数に応じて値が異なる前記二次経路の振幅特性を算出する振幅特性算出部、ローパスフィルタを用いて前記振幅特性を平滑化して、周波数に応じて値が異なる平滑化信号を生成する平滑化信号生成部、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果に基づいて、周波数に応じて値が異なる補正係数を算出する補正係数算出部、前記補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数である第1適応フィルタ係数から減算することで前記適応フィルタを更新して第2適応フィルタ係数を求める適応フィルタ更新部、前記参照信号に前記第2適応フィルタ係数を積算して前記制御信号を生成する制御信号生成部、として機能させることを特徴とする。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータ読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【0009】
本発明の上記いずれかの態様では、スピーカとマイクロホンとの間の二次経路の音響特性に基づいて算出された二次経路の振幅特性を、振幅特性を平滑化した平滑化信号で除算した結果に基づいて補正係数を算出し、補正係数を含む更新項を直前の適応フィルタ係数から減算して適応フィルタを更新する。そして、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号に更新後の適応フィルタ係数を積算して制御信号を生成する。これにより、ディップの周波数を正確に検出し、騒音の周波数がディップの周波数と一致する場合にも安定して騒音を制御することができる。
【0010】
略0.5~略0.7に閾値を設定し、前記適応フィルタ更新部は、前記補正係数が前記閾値以下の場合には前記補正係数を0にしてもよい。これにより、ディップ周波数において適応フィルタの更新を停止し、安定性を優先した処理を行うことができる。
【0011】
前記適応フィルタ更新部は、前記第1適応フィルタ係数に1未満の係数を積算した結果から前記更新項を減算して前記第2適応フィルタ係数を求めてもよい。これにより、適応フィルタ係数を徐々に小さくし、不自然さをなくすことができる。
【0012】
前記補正係数算出部は、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果が1より小さい場合には当該除算した結果を前記補正係数とし、前記振幅特性を前記平滑化信号で除算した結果が1以上の場合には前記補正係数を1としてもよい。これにより、補正係数が1を越えることがなくなり、補正処理が安定化の方向に働くことを保証することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ディップの周波数を正確に検出し、騒音の周波数がディップの周波数と一致する場合にも安定して騒音を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施の形態に係るアクティブノイズ制御装置1が設けられた車両100を模式的に示す図である。
図2】アクティブノイズ制御装置1の機能構成の概略を示すブロック図である。
図3】二次経路の音響特性a(f)、b(f)及び二次経路の振幅特性A(f)の一例を示すグラフである。
図4】二次経路の振幅特性A(f)及び平滑化信号A(f)’の一例を示すグラフである。
図5】二次経路の振幅特性A(f)と補正係数α(f)との関係を示すグラフである。
図6】アクティブノイズ制御装置1が行う処理の流れを示すフローチャートである。
図7】変形例における、二次経路の振幅特性A(f)と補正係数α(f)との関係を示すグラフである。
図8】振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果の分布の一例を示すグラフである。
図9】閾値Thの値と補正係数α(f)が0に置き換えられる割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るアクティブノイズ制御装置の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。アクティブノイズ制御装置は、振動源で発生した振動周波数に基づいて生成された参照信号を信号処理することにより制御信号を生成する適応フィルタを有し、かつ、スピーカから制御信号を出力したときにマイクロホンから入力された信号に基づいて適応フィルタを逐次的に更新する装置である。以下、本発明について、自動車のエンジンの振動が車室で共鳴して発生するこもり音(booming noise)といわれる騒音を抑制する例を用いて説明するが、本発明のアクティブノイズ制御装置はこもり音を抑制する形態に限られない。
【0016】
図1は、第1の実施の形態に係るアクティブノイズ制御装置1が設けられた車両100を模式的に示す図である。アクティブノイズ制御装置1は、車両100に設けられたマイクロホン21、スピーカ22、CAN(Control Area Network)25等と接続されている。マイクロホン21及びスピーカ22は、車両100の車室101内に設けられている。特に、マイクロホン21は車室101の天井など、乗員の耳に近い位置に設けることが望ましい。
【0017】
図1において、Pは騒音源(エンジン)からマイクロホン21までの伝達関数(一次経路)であり、Sはスピーカ22からからマイクロホン21までの伝達関数(二次経路)である。また、Wは、位相と振幅を調整する適応フィルタ(adaptive filter)である。
【0018】
アクティブノイズ制御装置1はCAN25からエンジン回転数の情報を取得し、こもり音と同じ周波数の正弦波(参照信号)を生成し、参照信号に適応フィルタ係数を積算することで制御信号を生成してスピーカ22から出力する。その結果、マイクロホン21には、振動源(エンジン)に起因するこもり音と、スピーカ22から出力された音とが入力される。そして、アクティブノイズ制御装置1は、マイクロホン21で検出される音が小さくなるように、適応フィルタWにより参照信号の位相と振幅を調整する。
【0019】
アクティブノイズ制御装置1は、例えば、車両100内の通信端末等(例えば、車載装置)に搭載される専用ボードとして構築されてもよい。また、アクティブノイズ制御装置1は、例えば、主として、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を含むコンピュータシステム及びソフトウエア(アクティブノイズ制御プログラム)によって構成されてもよい。アクティブノイズ制御プログラムは、コンピュータ等の機器に内蔵されている記憶媒体としてのSSDや、CPUを有するマイクロコンピュータ内のROM等に予め記憶しておき、そこからコンピュータにインストールしてもよい。また、アクティブノイズ制御プログラムは、半導体メモリ、メモリカード、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等のリムーバブル記憶媒体に、一時的あるいは永続的に格納(記憶)しておいてもよい。
【0020】
図2は、アクティブノイズ制御装置1の機能構成の概略を示すブロック図である。アクティブノイズ制御装置1は、機能的には、主として、参照信号生成部11と、記憶部12、と、振幅特性算出部13と、平滑化信号生成部14と、補正係数算出部15と、適応フィルタ更新部16と、制御信号生成部17と、スピーカアンプ18と、を有する。なお、アクティブノイズ制御装置1の機能構成要素は、処理内容に応じてさらに多くの構成要素に分類されてもよいし、1つの構成要素が複数の構成要素の処理を実行してもよい。
【0021】
参照信号生成部11は、CAN25からエンジン回転数の情報を取得し参照信号を生成する機能部である。以下、参照信号生成部11が参照信号を生成する方法について説明する。なお、参照信号生成部11は、各サンプリング時刻t=0、1、2・・・において、以下に示す計算を行う。
【0022】
まず、参照信号生成部11は、CAN25からエンジンの回転数及び気筒数に関する情報を取得し、以下の数式(1)~(3)により、こもり音の周波数f(t)を取得する。なお、(t)は、時間に依存する信号であることを意味する。
4気筒エンジンの場合:f(t)=エンジンの回転数(t)/30・・・(1)
6気筒エンジンの場合:f(t)=エンジンの回転数(t)/20・・・(2)
8気筒エンジンの場合:f(t)=エンジンの回転数(t)/15・・・(3)
【0023】
次に、参照信号生成部11は、以下の数式(4)を用いて、こもり音と同じ周波数の正弦波(参照正弦波)を参照信号として生成する。
【数1】
【0024】
なお、Ω(t)は、参照正弦波の位相を示し、以下の数式(5)により更新される。ここで、fsはサンプリング周波数である。
【数2】
【0025】
記憶部12は、スピーカ22とマイクロホン21との間の二次経路の音響特性を記憶する機能部である。二次経路の音響特性は、アクティブノイズ制御装置1が処理を行う前に、予め測定及び算出されており、その結果が記憶部12に格納されている。
【0026】
ここで、二次経路の音響特性を求める方法について説明する。二次経路の音響特性は、図示しない音響特性算出部により求められる。なお、音響特性算出部は、アクティブノイズ制御装置1が有していてもよいし、アクティブノイズ制御装置1と接続された他の情報処理装置が有していてもよい。
【0027】
まず、30Hz~200Hzのスイープ波をスピーカ22から送出する。この時のスイープ波y(t)は、以下数式(6)により表される。
【数3】
【0028】
マイクの観測信号をd(t)とすると、予測信号は以下の数式(7)のように予測される。なお、a(f)及びb(f)は、二次経路の音響特性である。二次経路の音響特性a(f)、b(f)は、それぞれcosとsinの係数であり、二次経路の振幅と位相の情報を含む。なお、(f)は、周波数に依存する信号であることを意味する。
【数4】
【0029】
LMSアルゴリズムにより、予測誤差を最小にする二次経路の音響特性a(f)、b(f)を求める。予測誤差e(t)は、以下の数式(8)により求められ、二次経路の音響特性a(f)、b(f)は以下の逐次更新式(9)により求められる。
【数5】
【数6】
【0030】
記憶部12には、数式(9)により求められた二次経路の音響特性a(f)、b(f)が記憶されている。二次経路の音響特性a(f)、b(f)は、周波数を引数とするテーブルで保持されている。なお、本実施の形態では、LMSアルゴリズムにより二次経路の音響特性a(f)、b(f)を求めたが、二次経路の音響特性a(f)、b(f)を求める手法はこれに限られず、インパルス応答の離散フーリエ変換など様々な公知の手法を用いることができる。
【0031】
振幅特性算出部13は、記憶部12に記憶された音響特性を取得し、この音響特性に基づいて二次経路の振幅特性を算出する機能部である。二次経路の振幅特性A(f)は、以下の数式(10)により求められる。
【数7】
【0032】
図3は、二次経路の音響特性a(f)、b(f)及び二次経路の振幅特性A(f)の一例を示すグラフである。図3では、二次経路の音響特性a(f)、b(f)を点線及び一点鎖線で示し、二次経路の振幅特性A(f)を実線で示す。図3の横軸は周波数であり、縦軸は振幅である。二次経路の音響特性a(f)、b(f)及び二次経路の振幅特性A(f)は、周波数に依存する信号であり、周波数に応じて値が異なる。
【0033】
車室内は閉空間であり、二次経路の振幅特性A(f)は、音圧が大きく変化する腹(antinode)と、音圧がほとんど変化しない節(node)とを有する定在波となる。そして、二次経路の振幅特性A(f)は、定在波の節と一致したところでディップ(谷)となる。図3では、ディップを矢印で指し示している。
【0034】
図2の説明に戻る。平滑化信号生成部14は、二次経路の振幅特性A(f)をローパスフィルタを用いて平滑化して平滑化信号A(f)’を生成する機能部である。平滑化信号A(f)’は、周波数に依存する信号であり、周波数に応じて値が異なる。
【0035】
図4は、二次経路の振幅特性A(f)及び平滑化信号A(f)’の一例を示すグラフである。図4では、二次経路の振幅特性A(f)を破線で示し、平滑化信号A(f)’を実線で示す。図4の横軸は周波数であり、縦軸は振幅である。平滑化信号A(f)’は、二次経路の振幅特性A(f)の凹凸が無くなり、滑らかな線となっている。
【0036】
図2の説明に戻る。補正係数算出部15は、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果に基づいて、補正係数を算出する機能部である。補正係数α(f)は、以下の数式(11)により求められる。補正係数α(f)は、周波数に依存する信号であり、周波数に応じて値が異なる。
【数8】
【0037】
なお、数式(11)からも分かるように、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1以上となる場合には、補正係数α(f)を1とする。
【0038】
図5は、二次経路の振幅特性A(f)と補正係数α(f)との関係を示すグラフである。図5において、破線が振幅特性A(f)であり、実線が補正係数α(f)である。ディップ(〇で囲んだ部分)では、二次経路の振幅特性A(f)が平滑化信号A(f)’以下となり、補正係数α(f)の値が小さくなる。これにより、どの周波数にディップが存在するかを正確に検出することができる。
【0039】
ディップ周波数においては、スピーカ22から大きな音を出力してもマイクロホン21の入力に反映されない、急峻な特性を適応フィルタで表現できない等の理由により、アクティブノイズ制御が不安定となり、最悪の場合にはスピーカ22から出力する制御信号が無制限に大きくなり発散するおそれがある。本実施の形態では、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果を用いることで、ディップ周波数を確実に検出が可能であるため、このような不具合を防ぐことができる。
【0040】
図2の説明に戻る。適応フィルタ更新部16は、適応フィルタを更新する機能部である。本実施の形態では、FxNLMSアルゴリズム(Filtered-x Normalized least mean squares filter)をベースにして適応フィルタの更新を行う。以下、適応フィルタの更新について、詳細に説明する。なお、適応フィルタについては既に公知であるため、説明を省略する。
【0041】
まず、適応フィルタ更新部16は、以下の数式(12)に示すように、二次経路の音響特性a(f)、b(f)を用いてFiltered-x信号X0’(t)、X1’(t)を求める。
X’0(t)=a(f)X0(t)+b(f)X1(t), X’1(t)=a(f)X1(t)+b(f)X0(t) ・・・(12)
【0042】
次に、適応フィルタ更新部16は、マイクロホン21に入力された信号e(t)を取得し、以下の数式(13)、(14)に示すように、Filtered-x信号X0’(t)、X1’(t)とマイクロホン21に入力された信号e(t)を用いて適応フィルタ係数w0(t)、w1(t)を更新する。
【数9】
【数10】
【0043】
すなわち、適応フィルタ更新部16は、補正係数を含む更新項(数式(13)、(14)における2番目の項)を、直前の適応フィルタ係数w0(t-1)、w1(t-1)(本発明の第1適応フィルタ係数に相当)から減算する。更新項におけるe(t)/A(f)は、音がどれだけ相殺できたかを示し、よく音が相殺できている場合には更新項が小さくなる。また、更新項におけるμはステップサイズであり、更新の速度を調整する。ステップサイズμは0以上の値である。
【0044】
本実施の形態は、更新項に補正係数α(f)を含む点に特徴がある。補正係数α(f)はディップ周波数において小さくなるため、ディップ周波数において適応フィルタの更新が抑えられる。
【0045】
数式(13)、(14)において、γはリーク係数である。数式(13)、(14)では、最初の項において、直前の適応フィルタ係数w0(t-1)、w1(t-1)にリーク係数γを積算している。リーク係数γは、1未満の正数であり、1に近いことが望ましく、例えば0.9997である。リーク係数γを1に近い正数とすることで、適応フィルタ係数が大きくなり過ぎることを防止する。なお、直前の適応フィルタ係数w0(t-1)、w1(t-1)にリーク係数γを積算することは必須ではない。
【0046】
制御信号生成部17は、数式(4)により生成された参照信号x0(t), x1(t)に、数式(13)、(14)により更新された後の適応フィルタ係数(本発明の第2適応フィルタ係数に相当)w0(t)、w1(t)を積算して制御信号y(t)を生成する機能部である。制御信号y(t)は、騒音(ここでは、エンジンのこもり音)を打ち消すためにスピーカに出力する信号である。制御信号生成部17は、以下の数式(15)を用いて制御信号y(t)を生成する。
【数11】
【0047】
また、制御信号生成部17は、生成した制御信号をスピーカアンプ18に出力する。スピーカアンプ18は、制御信号を増幅してスピーカ22に出力する。なお、スピーカアンプ18は必須ではない。
【0048】
図6は、アクティブノイズ制御装置1が行う処理の流れを示すフローチャートである。
<音響特性測定処理>
まず、参照信号生成部11は参照信号を生成し(ステップSP11)、図示しない音響特性算出部は、参照信号に基づいて音響特性a(f)、b(f)を更新する(ステップSP12)。ステップSP12を最初に行う場合には音響特性a(f)、b(f)を生成し、ステップSP12を行うのが2度目以降の場合には音響特性a(f)、b(f)を更新する。音響特性測定処理ではスイープ波を用いるため、ステップSP11における参照信号の周波数は時々刻々と変化する。そのため、ステップSP11及びSP12の処理を繰り返し行うことで、様々な周波数の場合の音響特性、すなわち周波数に依存する音響特性a(f)、b(f)を求めることができる。ステップSP12で求められた音響特性a(f)、b(f)は、記憶部12に記憶される。
【0049】
<補正係数算出処理>
振幅特性算出部13は、記憶部12に記憶された音響特性に基づいて二次経路の振幅特性A(f)を算出する(ステップSP13)。次に、平滑化信号生成部14は、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化して平滑化信号A(f)’を生成する(ステップSP14)。そして、補正係数算出部15は、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果に基づいて、補正係数α(f)を算出する(ステップSP15)。
【0050】
<ANC処理>
参照信号生成部11は、CAN25から取得したエンジン回転数に基づいて参照信号を生成する(ステップSP16)。次に、適応フィルタ更新部16は、マイクロホン21に入力された信号e(t)を取得し、補正係数α(f)を含む更新項を直前の適応フィルタ係数から減算することで適応フィルタを更新する(ステップSP17)。
【0051】
次に、制御信号生成部17は、ステップSP16で生成された参照信号に、ステップSP17で更新された後の適応フィルタ係数を積算して制御信号y(t)を生成し、スピーカ22から出力する(ステップSP18)。
【0052】
ステップSP18の処理が終わったら、アクティブノイズ制御装置1は処理をステップSP16に戻す。すなわち、適応フィルタ更新部16は、ステップSP18で生成された制御信号y(t)がスピーカ22から出力されたときにマイクロホン21に入力された信号e(t)を取得し、この信号e(t)を用いて適応フィルタを更新し(ステップSP17)、制御信号生成部17は、更新後の適応フィルタに基づいて制御信号y(t)を生成する(ステップSP18)。
【0053】
なお、ステップSP16~SP18に示すANC処理においては、都度、参照信号を生成する処理(ステップSP16)を行う。これにより、その時々のエンジンの回転数の情報を反映した制御信号y(t)を生成することができる。
【0054】
本実施の形態によれば、二次経路の振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算することで、ディップの周波数を正確に検出することができる。また、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果を用いて補正係数α(f)を算出し、補正係数α(f)を用いて適応フィルタを更新することで、騒音の周波数がディップの周波数と一致する場合にも安定して騒音を制御することができる。
【0055】
また、本実施の形態によれば、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1より小さい場合には除算した結果を補正係数α(f)とし、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1以上の場合には補正係数α(f)を1とすることで、更新により適応フィルタ係数が大きく変化することを防ぐことができる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、適応フィルタ係数を更新する数式(13)、(14)において、直前の適応フィルタ係数に1に近い正数であるリーク係数γを積算することで、適応フィルタ係数が大きくなり過ぎることを防止できる。
【0057】
なお、本実施の形態では、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1より小さい場合には除算した結果を補正係数α(f)とし、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1以上の場合には補正係数α(f)を1としたが、補正係数α(f)の求め方はこれに限られない。例えば、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が閾値以下の場合には、補正係数α(f)を0としてもよい。
【0058】
以下、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が閾値以下の場合に補正係数α(f)を0とする変形例について説明する。なお、この変形例は、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が閾値以下の場合に補正係数α(f)を0とする点のみが異なり、その他の処理に変更はない。
【0059】
図7は、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が閾値Th以下の場合に補正係数α(f)を0とするときの、二次経路の振幅特性A(f)と補正係数α(f)との関係を示すグラフである。図7は、図5と同様、車室内で30Hz~200Hzのスイープ波をスピーカ22から出力し、閾値Thを0.7とした場合の例である。図7において、破線が振幅特性A(f)であり、実線が補正係数α(f)である。
【0060】
ディップ周波数のうち、振幅特性A(f)と平滑化信号A(f)’との差が大きい周波数では、補正係数α(f)が0となっている。その他については、図7に示す補正係数α(f)と図5に示す補正係数α(f)とは同じである。
【0061】
本実施の形態では、閾値Thを略0.5~略0.7に設定する。以下、閾値Thについて説明する。
【0062】
図8は、車室内で30Hz~200Hzのスイープ波をスピーカ22から出力した場合における、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果の分布の一例を示すグラフである。振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果は、最頻値が1であり、1つのピークを有する山型の分布である。数式(11)で示すように、振幅特性A(f)を平滑化信号A(f)’で除算した結果が1より大きい場合には補正係数α(f)は1となるため、図8のグラフからは、補正係数α(f)が1である可能性が高く、補正係数α(f)が0.5以下となる可能性が低いことが分かる。
【0063】
図9は、閾値Thの値と補正係数α(f)が0に置き換えられる割合との関係を示すグラフである。図9は、図8に示すヒストグラムに基づいて生成されている。図9において、横軸は閾値Thであり、縦軸は補正係数α(f)が0に置き換えられる割合(すなわち、ディップの割合)ある。
【0064】
閾値Thが0に近いと、適応フィルタの更新が停止する周波数は減り、閾値Thが大きいと適応フィルタの更新が停止する周波数が増える。例えば、閾値を1とすると、略48%程度がディップと判定される。その結果、適応フィルタの更新が必要以上に抑えられてしまう。
【0065】
補正係数α(f)が極端に小さい場合、いわゆる外れ値に該当する周波数について適応フィルタの更新を停止すためには、適応フィルタの更新を停止する割合を5%~10%程度に設定することが望ましい。図9を参照すると、閾値Thを略0.5~略0.7とすると、補正係数α(f)が0に置き換えられる割合(適応フィルタの更新を停止する割合)が5%~10%となる。
【0066】
例えば、閾値Thを0.7とすると図9より略10%の周波数で補正係数α(f)が0となる。そして、図7に示すように、略10%の周波数で補正係数α(f)を0とすることで、極端なディップの部分でのみ補正係数α(f)が0となっている。
【0067】
このように、本変形例では、ディップ周波数において適応フィルタの更新を停止することで、安定性を優先した処理を行うことができる。
【0068】
また、本変形例では、適応フィルタ係数を更新する数式(13)、(14)において、直前の適応フィルタ係数に1に近い正数であるリーク係数γを積算することで、補正係数α(f)が0となった場合に適応フィルタ係数を徐々に小さくしていき、最終的に適応フィルタ係数を0にすることができる。仮に補正係数α(f)が0となるのと同時に適応フィルタ係数を0にすると、「プツッ」という不連続音が生じたり、急激に音量変化が生じたりして、不自然な音となる。それに対し、本変形例では、直前の適応フィルタ係数にリーク係数γを積算して適応フィルタ係数を徐々に小さくすることで、不自然さをなくすことができる。
【0069】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 :アクティブノイズ制御装置
11 :参照信号生成部
12 :記憶部
13 :振幅特性算出部
14 :平滑化信号生成部
15 :補正係数算出部
16 :適応フィルタ更新部
17 :制御信号生成部
18 :スピーカアンプ
21 :マイクロホン
22 :スピーカ
25 :CAN
100 :車両
101 :車室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9