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  • 特開-スルフィド化合物およびその塩 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148371
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】スルフィド化合物およびその塩
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/25 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C07C323/25 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050024
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】淺川 毅
(72)【発明者】
【氏名】太田 明雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 夏深
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB12
4H006TA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】持続性のある芳香性や消臭効果を有するスルフィド化合物およびその塩を提供する。
【解決手段】例えば、式(7)で表されるスルフィド化合物およびその塩。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるスルフィド化合物およびその塩。
【化1】
[式中、Sは、硫黄原子を示し、
Aは、下記の式(2)
【化2】
(式中、RはC2-18アルキル、C2-18アルケニル、またはC2-18アルキニルであり;
およびRは、それぞれ独立に、C1-12アルキル、C2-12アルケニル、またはC2-12アルキニルであり;
nは1~18の整数である。)を示し、
Bは、下記の式
【化3】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、またはヒドロキシルであり;
は水素原子、C1-4アルキル、またはC1-4アルコキシであり;
、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、またはC2-4アルケニルであり;
Xは単結合、-CH-、-CH(R13)CH-、-CHCH(R13)-、-CH=CH-、-CH=C(R13)-、または-C(R13)=CH-であり;
13はC1-6アルキルである。)を示す。]
【請求項2】
はC10-18アルキルであり、RおよびRはそれぞれ独立にC1-4アルキルであり、nは1~12の整数である、請求項1に記載のスルフィド化合物およびその塩。
【請求項3】
消臭効果を有する、請求項1または2に記載のスルフィド化合物およびその塩。
【請求項4】
芳香性を有する、請求項1~3のいずれかに記載のスルフィド化合物およびその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィド化合物およびその塩に関する。
これらは、柔軟剤や衣類用洗剤、化粧品、ヘアーコンディショナー、ヘアーリンス、ヘアカラー、ボディシャンプー、洗顔料等に含有可能である。
【背景技術】
【0002】
従来から、体臭等の臭いを消すための消臭成分や、香りを纏うための芳香成分を配合した製品は様々あり、多くの人が臭いや香りを気にしている。
近年では、衣類等の繊維製品に消臭効果や持続性のある香りを期待して、様々な柔軟剤や洗剤等の開発が進んでいる。
例えば特許文献1、2に、香料を含有するカプセルを活用した技術を開示する。
この技術は、揮発しやすい香料をカプセル内に保護し、摩擦等の物理的な力によってカプセルを破壊することで香料を放出する仕組みである。
このような技術を適用した柔軟剤を使用し、衣類に上記カプセルを付着させると、例えば衣類の着用時にカプセルを破壊することで、香料の放出が可能となる。
しかし、このようなカプセルを活用した技術は、カプセルの破壊で一気に香料が放出されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-249326号公報
【特許文献2】国際公開第2007/038570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、持続性のある芳香性や消臭効果を有するスルフィド化合物およびその塩の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスルフィド化合物およびその塩は、下記の式(1)で表される。
【化1】
[式中、Sは、硫黄原子を示し、
Aは、下記の式(2)
【化2】
(式中、RはC2-18アルキル、C2-18アルケニル、またはC2-18アルキニルであり;
およびRは、それぞれ独立に、C1-12アルキル、C2-12アルケニル、またはC2-12アルキニルであり;
nは1~18の整数である。)を示し、
Bは、下記の式
【化3】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、またはヒドロキシルであり;
は水素原子、C1-4アルキル、またはC1-4アルコキシであり;
、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、またはC2-4アルケニルであり;
Xは単結合、-CH-、-CH(R13)CH-、-CHCH(R13)-、-CH=CH-、-CH=C(R13)-、または-C(R13)=CH-であり;
13はC1-6アルキルである。)を示す。]
【0006】
ここで、RはC10-18アルキルであり、RおよびRはそれぞれ独立にC1-4アルキルであり、nは1~12の整数であってもよい。
【0007】
これらの化合物およびその塩の中でも、消臭効果を有するものが好ましい。
【0008】
また、これらの化合物およびその塩の中でも、芳香性を有するものがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスルフィド化合物およびその塩は、温度条件によりチオール体と前駆体に徐々に分解され、徐放性がある。
例えば、体温程度で芳香性を有する前駆体が徐々に放出される。
また、前記で分解されたチオール体は、2-ノネナールやヒト等を起源とする臭い硫黄含有成分を取り込み、消臭効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2、比較例1および参考例1の、吸収スペクトルを表す。
図2】実施例1の、HPLC分析結果を表す。
図3】実施例1~3の、吸光度測定結果を表す。
図4】チオール体(8)に2-ノネナールを添加した際の、HPLC分析結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書にて「CY-Z」形式で表現したものは、Y~Z個の炭素原子を有することを意味する。
例えば、「C2-18」とは、2~18個の炭素原子を有することを意味する。
【0012】
「アルキル」とは、直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を意味する。
例えば、「C1-4アルキル」の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、1、1-ジメチルエチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル等が挙げられる。
例えば、「C1-6アルキル」の具体例としては、前記「C1-4アルキル」の具体例として挙げたものに加え、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
例えば、「C1-12アルキル」の具体例としては、前記「C1-4アルキル」および「C1-6アルキル」の具体例として挙げたものに加え、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等が挙げられる。
例えば、「C10-18アルキル」の具体例としては、前記「C1-12アルキル」の具体例として挙げたデシル、ウンデシル、ドデシルに加え、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル等が挙げられる。
【0013】
「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖の不飽和炭化水素基を意味する。
例えば、「C2-4アルケニル」の具体例としては、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、またはそれらの異性体等が挙げられる。
例えば、「C2-12アルケニル」の具体例としては、前記「C2-4アルケニル」の具体例として挙げたものに加え、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、またはそれらの異性体等が挙げられる。
例えば、「C2-18アルケニル」の具体例としては、前記「C2-4アルケニル」および「C2-12アルケニル」の具体例として挙げたものに加え、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、またはそれらの異性体等が挙げられる。
【0014】
「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分岐鎖の不飽和炭化水素基を意味する。
例えば、「C2-12アルキニル」の具体例としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、またはそれらの異性体等が挙げられる。
例えば、「C2-18アルキニル」の具体例としては、前記「C2-12アルキニル」の具体例として挙げたものに加え、テトラデシニル、ヘキサデシニル、オクタデシニル、またはそれらの異性体等が挙げられる。
【0015】
「アルコキシ」とは、上記「アルキル」が酸素原子に結合した基を意味する。
例えば、「C1-4アルコキシ」の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ等が挙げられる。
【0016】
本明細書において、「香り」や「芳香」とは、ヒト等の嗅覚で感知されるにおい成分のうち、快く感じられるものをいう。
芳香成分としては、公知の芳香成分が挙げられるが、例えば、芳香族アルデヒド類(桂皮アルデヒド、シクラメンアルデヒド、ベンズアルデヒド、バニリン、クミンアルデヒド、アニスアルデヒド、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-アミルシンナムアルデヒド、エチルバニリン等)、テルペン系アルデヒド類(シトラール、ネラール、ゲラニアール、シトロネラール、ペリルアルデヒド等)、ケトン類(α-イオノン、β-イオノン、γ-イオノン、桂皮酸メチル等)が挙げられる。
一方、「臭い」や「悪臭」とは、ヒト等の嗅覚で感知されるにおい成分のうち、不快に感じられるものをいう。
悪臭成分としては、公知の悪臭成分が挙げられるが、例えば、加齢臭の原因等となる臭いアルデヒド類(2-ノネナール等)、ヒトや食料等を起源とする臭い硫黄含有成分(メチルメルカプタン、プロパンチオール、3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール、2,4-ジチアペンタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド等)が挙げられる。
【0017】
本発明に係るスルフィド化合物およびその塩は、上記の式(1)で表される。
式(1)中、Sは硫黄原子を示す。
【0018】
上記式(1)中、Aは上記の式(2)で表され、R、R、Rおよびnは以下のとおりである。
はC2-18アルキル、C2-18アルケニル、またはC2-18アルキニルであり、好ましくは、C10-18アルキル、C10-18アルケニルまたはC10-18アルキニルである。
また、より好ましくは、C10-18アルキルであり、具体的には、Rとしてウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、またはオクタデシルが挙げられる。
およびRは、それぞれ独立に、C1-12アルキル、C2-12アルケニル、またはC2-12アルキニルであり、好ましくは、C1-12アルキルである。
また、より好ましくは、C1-4アルキルであり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、またはブチルが挙げられる。
nは1~18の整数であり、好ましくは、1~12の整数であり、より好ましくは1~4の整数である。
【0019】
上記式(1)中、Bは上記の式(3-1)、(3-2)、または(3-3)で表され、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、XおよびR13は以下のとおりである。
、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、またはヒドロキシルであり、好ましくは、水素原子、イソプロピル、メトキシ、エトキシ、またはヒドロキシルである。
は水素原子、C1-4アルキル、またはC1-4アルコキシであり、好ましくは、水素原子、メチル、またはメトキシであり、さらに好ましくは、水素原子である。
、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、C1-4アルキル、またはC2-4アルケニルであり、好ましくは、水素原子、メチル、またはイソプロペニルである。
Xは単結合、-CH-、-CH(R13)CH-、-CHCH(R13)-、-CH=CH-、-CH=C(R13)-、または-C(R13)=CH-であり、R13はC1-6アルキルであるが、好ましくは、Xが単結合、-CH-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-CH=CH-、-CH=C(CH)-、または-C(C13)=CH-である。
Bの具体例を、下記の式(4-1)~(4-14)で表す。
【化4】
【0020】
本発明は、下記の反応式に表すように、所定条件下で、スルフィド化合物(A-S-B)から前駆体(B’)が脱離し、硫黄原子が水素化されたチオール体(A-SH)が生成されることを特徴とする。
【化5】
前駆体(B’)は、Bのアルデヒド、またはケトンであることが好ましい。
また、本発明に係るスルフィド化合物(A-S-B)が、チオール体(A-SH)と前駆体(B’)とから合成できるものであってもよい。
【0021】
本発明におけるスルフィド化合物(A-S-B)は、界面活性能を有することが好ましく、水への溶解性に優れることがより好ましいが、同様に、硫黄原子が水素化されたチオール体(A-SH)も、界面活性能を有することが好ましく、優れた溶解性を有することがより好ましい。
なお、少なくとも界面活性能を有するスルフィド化合物やチオール体は、無臭である(ヒトの嗅覚で悪臭や芳香を感知できない)。
本発明においては、このチオール体が悪臭成分である2-ノネナールや、ヒトや食料等を起源とする臭い硫黄含有成分と反応することで、消臭効果を有することが好ましい。
例えば、チオール体(A-SH)の硫黄原子と、悪臭成分のアルデヒド基や硫黄原子等が反応することで、A反応物(A-S-悪臭成分)となることが好ましく、このA反応物が安定性に優れることがより好ましい。
例えば、A反応物がベシクル構造となり、ベシクル内に悪臭成分が取り込まれることで、悪臭成分は脱離しにくくなる。
【0022】
前駆体(B’)は、所定条件下で、スルフィド化合物(A-S-B)から脱離し、芳香性を有することが好ましい。
芳香性を有する前駆体の具体例を、以下の式(6-1)~(6-14)で表す。
【化6】
反応性の観点から、前駆体がアルデヒド類であればより好ましく、アルデヒド類としては、上記の式(6-1)~(6-12)が挙げられる。
【0023】
本発明においては、芳香性を有する前駆体(B’)が、例えば体温程度で徐放することで、香りが持続する。
また、チオール体(A-SH)が空気酸化によりジスルフィド体となって活性を失うのに対し、スルフィド化合物(A-S-B)が温度上昇に伴いチオール体(A-SH)を生成することで、悪臭成分の持続的除去が実現可能となる。
本発明のスルフィド化合物は、例えば、柔軟剤や衣類用洗剤、化粧品、ヘアーコンディショナー、ヘアーリンス、ヘアカラー、ボディシャンプー、洗顔料等に含有できる。
例えば、Rがオクタデシルであるスルフィド化合物をヘアーリンス等に含有することで、チオール体が毛髪表面におけるタンパク質のシステインに由来するチオール基にジスルフィド架橋し、カチオン親水基による静電的吸着とともに、ジスルフィド架橋による毛髪表面に安定な単分子膜を形成してもよい。
この際、2-ノネナール等の臭いアルデヒド類や、ヒトや食料等を起源とする臭い硫黄含有成分などが存在すれば、競合的に付加することで、除去が期待できる。
本発明のスルフィド化合物は、他の界面活性剤や防腐剤、増粘剤、酵素、抗菌剤、保湿剤、色素等と併用して、柔軟剤等に含有されてもよい。
【0024】
なお、本発明のスルフィド化合物等には、幾何異性体や互変異性体、光学異性体が存在することがある。
本発明においては、単離された異性体(例えば、E体、Z体、またはR体、S体)であってもよいし、ラセミ体、ジアステレオマーなどを含む、2以上の異性体を任意の割合で含有する混合物であってもよい。
また、本発明に係るスルフィド化合物の塩とは、薬理学的に許容可能な塩であり、本発明のスルフィド化合物が無機または有機の塩基と結合して形成した塩が挙げられる。
[実施例]
【0025】
下記の式(7)で表されるスルフィド化合物の塩[以下、単にスルフィド化合物(7)という]を実施例として、具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【化7】
式中、C1225はドデシルである。
【0026】
スルフィド化合物(7)は、下記の式(8)で表されるチオール体[以下、単にチオール体(8)という]
【化8】
と、下記の式(9)で表される前駆体[以下、単に前駆体(9)という]
【化9】
から、下記の反応式に表されるように合成できる。
【化10】
なお、前駆体(9)は、芳香性を有する桂皮アルデヒドであり、チオール体(8)は、下記の反応式で表されるように合成できる。
【化11】
【0027】
<スルフィド化合物(7)の合成>
10mMチオール体(8)を、5mM、3mM、1mM前駆体(9)水溶液でそれぞれ溶解し、実施例1~3を得た。
上記実施例1~3は、LC-MS分析(Waters製、Xevo G2 Q Tof)にて、スルフィド化合物(7)を検出した。
LC-MS:m/z=406.31[M+H]
【0028】
<臨界ミセル濃度>
表1に、実施例1~3の臨界ミセル濃度(critical micelle concentration、cmc)を示す。
cmcは、導電率計(HORIBA製、DS-52)を用いて、25℃における電気伝導度を測定し、算出した。
【表1】
表1に示すように、チオール体(8)単独のcmc10.0mMに比べ、実施例1~3はcmc1.8mM~3.1mMで、いずれも低かった。
これは、前駆体(9)の付加によりcmcが低下し、界面活性能が向上することを意味する。
【0029】
<吸収スペクトル測定>
次に、実施例2の吸収スペクトルを、分光光度計(HITACHI製、U-2900)を用いて測定した。
結果を、図1に示す。
図1中、比較例1は、1mM前駆体(9)単独の吸収スペクトルを、参考例1は、実施例2を80℃、1分間昇温した際の吸収スペクトルを表す。
なお、実施例2および比較例1は、25℃における吸収スペクトルを測定した。
【0030】
図1に示すように、比較例1は前駆体(9)由来の290nm吸収帯が認められたが、実施例2は前駆体(9)由来の吸収帯が認められなかった。
これは、前駆体(9)がチオール体(8)に付加していることを意味する。
一方で、実施例2を80℃まで昇温した参考例1では、290nm吸収帯が認められた。
このことから、昇温により前駆体(9)が脱離することが明らかとなった。
【0031】
<HPLC分析>
さらに、下記の温度条件に暴露した実施例1を、HPLC分析した。
10mMチオール体(8)を5mM前駆体(9)水溶液に溶解し、得られた実施例1をサーモセル中で25℃、30分間恒温し、さらに25℃、40℃、60℃、80℃、25℃、各30分間恒温した。
HPLC分析条件は、下記のとおりである。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:TSKgel(商標) ODS-100V(TOSHO社製)
カラム温度:25℃
流速:1mL/min
移動相:メタノール/30mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウム水溶液(90:10)
結果を、図2に示す。
図2中、「F25℃」は40℃に昇温前の25℃(former)を、「L25℃」は80℃から冷温後の25℃(latter)を指す。
【0032】
図2は、各温度条件における実施例1の出力強度と、保持時間の関係を表す。
保持時間約1.3分に前駆体(9)ピークを、約1.5分にチオール体(8)ピークを、約1.7分にスルフィド化合物(7)ピークを検出した。
80℃では、他の温度に比べて保持時間約1.3分のピーク高さが高く、逆に約1.7分のピーク高さが低かった。
これは、吸収スペクトル測定の結果と同様であり、下記の反応式に表されるように、昇温によりスルフィド化合物(7)から前駆体(9)が脱離したことを意味する。
【化12】
また、25℃に冷却すると前駆体(9)ピークが減少したことから、前駆体(9)の可逆的な付加、脱離を確認した。
【0033】
<吸光度測定>
次に、実施例1~3を下記の温度条件に暴露し、それぞれ前駆体(9)の吸光度(290nm)を測定した。
温度条件:25℃、40℃、25℃、各30分間恒温
測定には、上記分光光度計を用いた。
結果を、図3に示す。
【0034】
図3に示すように、前駆体(9)が高濃度である実施例1,2は、25℃から40℃への昇温に伴って吸光度が増加した。
これは、25℃から40℃に昇温すると、前駆体(9)が徐々に脱離することを意味する。
これにより、例えば、室温から体温程度にスルフィド化合物を昇温すると、芳香性を有する前駆体が徐放され、持続した芳香が可能となる。
また、40℃ではほぼ一定であった吸光度が、25℃への冷却により減少した。
これは、冷却によりチオール体(8)に前駆体(9)が付加したことを意味する。
このことから、チオール体(8)が前駆体(9)以外を付加させる可能性について、次に検討した。
【0035】
<チオール体(8)に2-ノネナール添加した際の、HPLC分析>
悪臭成分として20mM 2-ノネナール[以下、単にノネナール(10)という]を選択し、20mMチオール体(8)水溶液に25℃でノネナール(10)を添加し、実施例4を得た。
得られた実施例4を、下記の温度条件に暴露して、HPLC分析した。
温度条件:25℃、40℃、各30分間、その後25℃、2時間恒温
HPLC分析条件は、上記と同様である。
結果を、図4に示す。
図4中、比較例2はチオール体(8)単独のHPLC分析結果であり、「F25℃」は40℃に昇温前の25℃(former)を、「L25℃」は40℃から冷温後の25℃(latter)を指す。
【0036】
図4に示すように、比較例2は保持時間約1.5分に検出されるチオール体(8)ピークが高い。
これに対し、各温度条件における実施例4は、チオール体(8)ピークが低く、保持時間2.2分~2.5分に新しいピークが出現した。
これは、チオール体(8)にノネナール(10)が付加したことを意味し、新しいピークは、下記の反応式で表されるA反応物(11)のピークである。
【化13】
また、実施例4を40℃に昇温しても、A反応物(11)ピーク面積は昇温前とほぼ変わらず、25℃に冷却して2時間経過後も、A反応物(11)ピーク面積がほぼ変わらなかった。
このことは、チオール体(8)が昇温によりノネナール(10)を脱離せず、さらに25℃への冷却によっても脱離しないことを意味する。
これにより、チオール体(8)が悪臭成分を持続的に吸着することが明らかとなった。
A反応物(11)は、二鎖型類似のベシクル構造を形成するため、プロトン化反応部位が会合体内部側に存在し、水溶液系でも脱離しないと考えられる。
図1
図2
図3
図4