(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148377
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C21B5/00 316
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050033
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】松崎 眞六
(72)【発明者】
【氏名】中内 利樹
(72)【発明者】
【氏名】西河 良諭
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 篤
(72)【発明者】
【氏名】松田 航尚
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BD02
4K012BD05
(57)【要約】
【課題】高炉熱レベルの精密な制御を可能にする高炉操業方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、高炉の操業方法において、羽口から吹込むガスが有する送風顕熱と、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱とを含む羽口上のインプット熱量と、前記羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱と、微粉炭の分解熱と、ソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱とを含む羽口上のアウトプット熱量と、の差分として定義される羽口上熱バランスを操業管理指標として用いることを特徴とする、高炉の操業方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の操業方法において、
羽口から吹込むガスが有する送風顕熱と、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱とを含む羽口上のインプット熱量と、
前記羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱と、微粉炭の分解熱と、ソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱とを含む羽口上のアウトプット熱量と、
の差分として定義される羽口上熱バランスを操業管理指標として用いることを特徴とする、高炉の操業方法。
【請求項2】
前記羽口上熱バランスが、下記式(1)で定義されることを特徴とする、請求項1に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(1)
【請求項3】
前記羽口上熱バランスが、下記式(2)で定義されることを特徴とする、請求項1に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(2)
【請求項4】
高炉の操業方法において、
羽口から吹込むガスが有する送風顕熱と、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱とを含むインプット熱量と、
羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱と、微粉炭の分解熱と、ソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱とを含むアウトプット熱量と、
の差分を計算出銑量で除した値として定義される出銑量当たり羽口上熱バランスを操業管理指標として用いることを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項5】
前記出銑量当たり羽口上熱バランスが、下記式(3)で定義されることを特徴とする、請求項4に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)/計算出銑量(tp/h)・・・(3)
【請求項6】
前記出銑量当たり羽口上熱バランスが、下記式(4)で定義されることを特徴とする、請求項4に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)/計算出銑量(tp/h)・・・(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高炉操業においては、高炉原料(鉱石原料、コークス及び副原料、並びに場合によりスクラップ、非焼成含炭塊成鉱、フェロコークス等)をコンベヤで炉頂装入装置まで搬送し、炉頂から高炉内に装入する。炉頂装入装置は、高炉内の装入物の最上面が所定の高さ位置を維持し得るように構成され、装入物の最上面位置が降下したならば、当該降下分を補充するように高炉原料を高炉内に装入する。鉱石原料とコークスとは高炉内で交互に重なって層を形成しており、層状形態を保持したまま炉内を降下する。高炉の下部にある送風羽口からは、熱風、還元材として微粉炭、等が吹込まれる。送風羽口から吹込まれた熱風によって微粉炭及びコークスが燃焼し、一酸化炭素、水素等の高温の還元ガスが発生する。また、送風羽口(あるいはその他の羽口)からは、コークス炉ガス(COG)や天然ガス(NG)などのガスが吹き込まれることがある。
【0003】
還元ガスは激しい上昇気流となって炉内を吹き昇り、炉内を降下する鉱石原料を昇温させつつ当該鉱石原料を還元する(間接還元)。これにより生じたFeOは、溶融状態でコークス層内を滴下し、コークスの炭素と接触して更に還元され(直接還元)、炭素5%弱を含む溶銑となって炉底の湯溜まり部に溜まる。この溶銑は、炉底横に設けられた出銑口から取り出され、次の製鋼プロセスへと運ばれる。
【0004】
従来、高炉操業においては、操業管理指標が設定され、当該操業管理指標の時間推移の監視、及びそれに対応した操業アクションの実行によって、炉況を制御している。そのため、適切な操業管理指標の設定は、高炉の安定的な操業のために極めて重要である。特に、高炉の操業を自動化する際には、自動制御の目標変数たり得る操業管理指標を適切に定義することが重要である。
【0005】
操業管理指標としては、溶銑温度、溶銑Si量、ソリューションロスカーボン量、炉頂ガス組成(CO濃度、CO2濃度、CO+CO2濃度、ηCO(=CO2/(CO+CO2))等)、熱負荷等が挙げられる。従来は、これらの値を監視した上で、オペレータの適宜かつ総合的な判断によって、操業アクション(例えば、微粉炭吹込み量、送風湿分等の調整)を実行してきた。また、生産量の一定調整も行う場合は、計算出銑量、ソリューションロスカーボン量、及び還元材比に加え、Tf(羽口先理論燃焼温度)も勘案して、送風量、酸素富化量等を調整してきた。
【0006】
操業管理指標を設定し、これに基づいて操業条件を選択する方法は、従来種々提案されている。例えば、特許文献1は、炉下部の熱バランスを推定する熱バランスモデルから求まる熱バランス変化と溶銑温度を所定範囲にそれぞれ区分し、炉熱動向ランクを定め、各炉熱動向ランク毎に予め操業条件を設定すると共に、炉熱判定時の熱バランス変化量と溶銑温度から前記操業条件を選定し、炉熱判定に至る間の溶銑温度の履歴情報及びコークス比、湿分、送風温度、送風量の既実施操業条件の各履歴情報に応じて前記操業条件を基準として、基準を含む前後の操業条件の中から操業条件を選択して高炉操業を行うことを特徴とする高炉の操業方法を記載する。
【0007】
また、特許文献2は、a.高炉から出銑された溶銑の温度から炉熱レベルを判定し、b.高炉に取り付けられたセンサーから得られるセンサーデータまたはそのセンサーデータから求められる炉熱指数の時間変化量に基づいて炉熱推移レベルを判定し、c.前記炉熱レベルおよび炉熱推移レベルに応じた操業アクションを行なうことを特徴とする高炉の炉熱制御方法を記載する。
【0008】
また、特許文献3は、非定常状態における高炉内の状態を計算可能な物理モデルを用いて高炉における溶銑温度を予測する溶銑温度予測方法であって、還元材比とソルーションロスカーボン量との関係、還元材比とガス利用率との関係、及び還元材比と炉体ヒートロス量との関係のうちの少なくとも1つについて、前記物理モデルによって計算された値同士の感度と実操業データの実績値同士の感度とが合致するように、前記物理モデルにおけるガス還元速度又は炉体ヒートロス量と関係するパラメータを適正化し、パラメータが適正化された物理モデルを用いて高炉における溶銑温度を予測するステップを含むことを特徴とする溶銑温度予測方法を記載する。
【0009】
また、特許文献4は、高炉操業中における炉熱管理方法において、炉頂ガス成分等より求めたコークス消費速度を銑鉄生成速度で除算して求めた計算コークス比に、補助燃料吹込み量を銑鉄生成速度で除算して求めた値に置換率を乗算した値を加算して計算燃料比を求め、該計算燃料比を送風温度および送風湿度により補正した計算補正燃料比を求め、計算補正燃料比が予め定めた設定値となるよう送風湿度、微粉炭吹込み量、送風温度、装入コークス比を調整して炉内の熱バランスを管理することを特徴とする高炉炉熱管理方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1-319616号公報
【特許文献2】特開2014-118599号公報
【特許文献3】特開2018-24936号公報
【特許文献4】特開平10-46215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1~3は、溶銑温度を炉熱指標に用いて操業アクションを決定する技術であり、特許文献4は、計算燃料比又は計算補正燃料比を炉熱指標に用いて操業アクションを決定する技術である。しかし、これら指標は、高炉操業の安定性を満足できる程度まで向上させるのに十分有効であるとはいえず、特に、高炉の自動制御(例えば数十分単位での操業アクション切替を伴う自動制御)に用いるには、炉熱指標のさらなる検討が必要であった。
【0012】
例えば、特許文献1~3に記載されるような、溶銑温度及び/又は溶銑Si量の監視では、測定頻度が低い(通常、1時間に1回程度)ため、測定結果が操業アクションに反映されるまでのタイムラグが大きく、精密な炉況制御を行うには不十分であった。加えて、溶銑温度及び溶銑Si量は、融着帯からのFeO滴下時のガス流れ、炉底及び炉芯の充填状態、スラグメタル反応等、さらには出銑口や樋の状態に大きく左右されることから、溶銑温度及び/又は溶銑Si量の制御が融着帯の状態(特に融着帯の位置)の安定化による高炉操業の安定化に必ずしも繋がらないという問題があった。
【0013】
一方、特許文献4に記載されるような、炉頂ガス成分のガスクロマトグラフィ分析値によれば、短周期のデータが得られる。しかし当該分析値のみでは、還元状態に応じた熱が考慮されるに過ぎず高炉の精密な制御に十分とはいえない。
【0014】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、高炉熱レベルの精密な制御を可能にする高炉操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1] 高炉の操業方法において、
羽口から吹込むガスが有する送風顕熱と、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱とを含む羽口上のインプット熱量と、
前記羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱と、微粉炭の分解熱と、ソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱とを含む羽口上のアウトプット熱量と、
の差分として定義される羽口上熱バランスを操業管理指標として用いることを特徴とする、高炉の操業方法。
[2] 前記羽口上熱バランスが、下記式(1)で定義されることを特徴とする、上記[1]に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(1)
[3] 前記羽口上熱バランスが、下記式(2)で定義されることを特徴とする、上記[1]に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(2)
[4] 高炉の操業方法において、
羽口から吹込むガスが有する送風顕熱と、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱とを含むインプット熱量と、
羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱と、微粉炭の分解熱と、ソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱とを含むアウトプット熱量と、
の差分を計算出銑量で除した値として定義される出銑量当たり羽口上熱バランスを操業管理指標として用いることを特徴とする高炉の操業方法。
[5] 前記出銑量当たり羽口上熱バランスが、下記式(3)で定義されることを特徴とする、上記[4]に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)/計算出銑量(tp/h)・・・(3)
[6] 前記出銑量当たり羽口上熱バランスが、下記式(4)で定義されることを特徴とする、上記[4]に記載の高炉の操業方法。
羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)/計算出銑量(tp/h)・・・(4)
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、高炉熱レベルの精密な制御を可能にする高炉操業方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一態様に係る高炉の操業方法において羽口上熱バランスの制御に用いる炉熱指標について説明する図である。
【
図2】本発明の一態様に係る高炉の操業方法において行う処理を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1における出銑比(すなわち高炉内容積1m
3当たりの1日当たりの出銑量)と融着帯位置との関係を示す図である。
【
図4】比較例1における出銑比(すなわち高炉内容積1m
3当たりの1日当たりの出銑量)と融着帯位置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の一態様は、高炉の操業方法において、羽口から吹込むガスが有する送風顕熱(本開示で単に「送風顕熱」ともいう。)、レースウエイで燃焼するカーボンの燃焼熱(本開示で単に「カーボン燃焼熱」ともいう。)、及び一酸化炭素による間接還元反応による反応熱(本開示で単に「間接還元熱」ともいう。)とを含む羽口上の(すなわち羽口レベル及びこれより上部で生じる)インプット熱量と、羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱(本開示で単に「送風湿分分解熱」ともいう。)、微粉炭の分解熱(本開示で単に「微粉炭分解熱」ともいう。)、吸熱反応であるソリューションロス反応による反応熱(本開示で単に「ソリューションロス反応熱」ともいう。)及び直接還元反応による反応熱(本開示で単に「直接還元熱」ともいう。)、並びに水素還元反応(すなわち水素による鉄鉱石の還元反応)による反応熱(本開示で単に「水素還元熱」ともいう。)とを含む羽口上のアウトプット熱量と、の差分として定義される羽口上熱バランス(すなわち羽口よりも上部の熱バランス)を操業管理指標として用いる、高炉の操業方法を提供する。
【0020】
ここで、ソリューションロス反応熱と直接還元反応熱とを併せて「ソリューションロスカーボンの反応熱」という場合がある。ソリューションロスカーボンとは、炉内に供給されたすべてのカーボンのうち、レースウェイで燃焼したカーボン以外のカーボンをいい、具体的には、炉頂から装入されたコークス中のカーボンのうち、炉内での降下に伴ってCO2やFeOと反応したカーボンである。カーボンとCO2との反応(C+CO2→2CO)がソリューションロス反応であり、カーボンとFeOの反応(C+FeO→CO+Fe)が直接還元反応であるが、両反応は明確に区別できない。このため、両反応に寄与した合計量のカーボンをソリューションロスカーボンと称し、両反応の反応熱をまとめて「ソリューションロスカーボンの反応熱」という場合がある。
【0021】
本開示で、ある炉熱指標を「操業管理指標として用いる」とは、当該炉熱指標の経時的な増減を観察し、その増減に応じて操業アクションをとることを意味する。また、本開示で羽口から吹き込むガスとは、酸素富化され調湿されて熱風炉から吹き込まれる空気、すなわち熱風のみに限らず、別途還元ガスを吹き込む場合は、そのガスをも含む。
【0022】
一般に、炉熱指標は、微粉炭吹込み量、送風湿分量、送風温度等の羽口先条件を調整することで制御し、より大きな炉熱低下が生じた場合にはコークスを増加することで対処する。また生産量は、主として送風量及び酸素富化量を調整することで調整する。本発明者らは、炉熱指標の測定結果が操業アクションに反映されるまでのタイムラグを低減し得る短周期でのデータ収集が可能でありながら、当該データが、適切な操業アクションのための十分な情報を含むようにする手法を検討した。その結果、高炉の多数の操業パラメータのうち羽口レベルより上の特定のパラメータの組合せが、上記手法に有用であり、高炉熱バランスの精密な制御を可能にすることを見出した。また、当該特定のパラメータの組合せを高炉自動制御の目標変数として利用することにより、自動制御においても適切な操業アクションの決定が可能になることを見出した。
【0023】
通常、アウトプット熱量においては、溶銑顕熱(すなわち高炉から出銑される銑鉄が有する顕熱)が最大になるが、溶銑温度を短周期で測定することは困難である。溶銑温度は、炉底温度、ステーブによる抜熱量などから公知の方法により求めることもできるが、高炉の炉下部の条件が一定ではなく、把握が困難であることから、短周期である程度の正確さをもって知ることができない。そこで、本発明者らは、上述したように高炉羽口レベルより上部の熱バランスを監視し、入熱(インプット熱量)と出熱(アウトプット熱量)との差が一定になるよう制御することにより、融着帯レベルを安定させることに着目した。高炉羽口レベルより上部のインプット熱量及びアウトプット熱量は、短周期で把握することができ、また比較的精度よく計測できるパラメータである。そのため、羽口レベルより上部の熱バランスが一定になるよう制御することで、短周期かつ高精度の高炉炉況制御が可能になる。
【0024】
羽口上熱バランスが一定であれば、融着帯レベルが操業上の想定範囲内で収束状態に保たれていると想定できる。本実施形態の方法では、特定のパラメータの組合せから求めた羽口上のインプット熱量と特定のパラメータの組合せから求めた羽口上のアウトプット熱量との差で定義される羽口上熱バランスを操業管理指標として用い、この差が一定になるように操業アクションの量及びタイミングを適正化する。
【0025】
図1は、本発明の一態様に係る高炉の操業方法において羽口上熱バランスの制御に用いる炉熱指標について説明する図である。一般的な高炉操業において、インプット熱量は、主として、カーボン燃焼熱101(具体的にはコークス燃焼熱及び微粉炭燃焼熱)、送風顕熱102、その他顕熱103、間接還元熱104、スラグ生成熱105等により与えられ、中でも、カーボン燃焼熱及び送風顕熱の熱量が大きい。またアウトプット熱量は、主として、放散熱201(例えば、炉体抜熱)、水素還元熱202、炉頂ガス顕熱203、微粉炭分解熱204、送風湿分分解熱205、ソリューションロス反応熱206、直接還元熱207、溶銑顕熱208、溶銑成分還元熱209等により与えられ、中でもソリューションロス反応熱と直接還元熱(すなわち、ソリューションロスカーボンの反応熱)の熱量が大きい。本実施形態の方法では、羽口上の(すなわち羽口レベル及びこれより上部で生じる)インプット熱量及びアウトプット熱量、即ち、カーボン燃焼熱101、送風顕熱102及び間接還元熱104を含む羽口上のインプット熱量と、水素還元熱202、微粉炭分解熱204、送風湿分分解熱205、ソリューションロス反応熱206及び直接還元熱207を含む羽口上のアウトプット熱量とを炉熱指標に用いる。別の一態様においては、羽口上のインプット熱量に間接還元熱104を含まなくてもよく、羽口上のアウトプット熱量に水素還元熱202を含まなくてもよい。また別の一態様においては、羽口上のアウトプット熱量としての、炉頂ガス顕熱203、及び/又は放散熱201のうち羽口上の炉体抜熱を更に炉熱指標に含める。さらに別の一態様において、高炉のシャフト部にあるシャフト羽口から還元性のガスまたは非還元性のガスが吹き込まれる場合には、それらのガスによる顕熱や反応熱を更に炉熱指標に含めることができる。
【0026】
ここで、送風顕熱は、窒素、酸素及び送風湿分の送風温度までの顕熱として得られる値であり、カーボン燃焼熱は羽口先投入酸素量から得られる値である。ソリューションロス反応熱及び直接還元熱(すなわちソリューションロスカーボンの反応熱)は、炉頂及び羽口から装入されるカーボン量と、燃焼したカーボン量及び炉頂ガス中カーボン量(具体的には、炉頂ガス中のCO及びCO2のガスクロマトグラフィ分析で得られるカーボン量)との差分であるソリューションロスカーボン量から得られる値である。
【0027】
本実施形態の方法で用いる羽口上熱バランスは、炉頂での装入条件、羽口先条件、炉頂のガス成分等の、短周期での逐次測定が可能な情報を基に算出できることから、測定結果が操業アクションに反映されるまでのタイムラグが少ない点で有利である。また、本実施形態の方法によれば、個々の熱指標としては特殊なものではない炉熱指標を活用できるため、例えば未知の指標に基づく推定と比べて熱バランス制御が簡便かつ正確である点でも有利である。特に、本実施形態の方法は、溶銑温度の測定値を必要としないことから、炉熱指標の算出周期を短周期、例えば最短で秒単位とすることも可能である。典型的な態様において、操業データの測定周期は、ガスクロマトグラフィの測定周期等のプロセス上の都合から、例えば5分毎等であってよい。
【0028】
本実施形態の方法によれば、熱バランスを、酸素、窒素、水素の3元素のみに基づいてほぼ計算でき、例えば分オーダーの短周期での熱バランス計算が可能である。なお、従来、溶銑温度以外に利用可能な炉熱指標として、ソリューションロスカーボン量が用いられているところ、本実施形態の方法では、このソリューションロスカーボン量も間接的に用いる。例えば、ソリューションロスカーボン量のみを炉熱指標に用いる場合、炉熱制御のために送風操作(送風量等)を変更したことで生じる送風顕熱等の熱の変化が指標として考慮されないため、精密な操業アクションが難しいという問題があった。しかし本実施形態の方法によれば、羽口上熱バランスが、ソリューションロスカーボンとともに、羽口先条件に関する熱指標も考慮して算出されるため、高炉のより精密な操業が可能になり、操業の安定化が図れる。
【0029】
本実施形態の方法は、以下の利点を有することができる。
(1)羽口及びこれよりも上部の炉熱指標のみの収集で高炉制御が可能であるため、例えば溶銑温度を炉熱指標として用いる方法と比べて、短周期での操業データ取得、したがって短周期での高炉の炉熱制御が可能である。
(2)融着帯よりも下部の状態(銑鉄やスラグ滴下時の液流れ、ガス流れ、炉底及び炉芯の充填状態、スラグメタル反応、出銑口や樋の状態等)が影響を与える指標である溶銑温度を炉熱指標から除外できるため、融着帯から炉上部にかけて、実際に起きている反応に基づく熱バランスを把握することができる。
すなわち、溶銑温度を炉熱指標として利用した制御は、炉底の充填構造変化や出銑口近傍状態の影響を大きく受けるため、熱バランスの変動が、融着帯より上部での反応、炉底の状況変化のいずれに起因するかの判別が難しく、かえって炉熱変動(したがって通気及び熱負荷の変動)を誘発する場合がある。本実施形態の方法は、羽口上の主たる熱バランスを総合的に考慮して高炉を制御するものであるため、少なくとも羽口上(すなわちおおよそ炉芯よりも上部の領域)における熱レベルを安定的に制御でき、したがって融着帯の位置を安定的に維持できる。
(3)コークスや微粉炭の反応熱や還元熱に加えて、同時にアクションとして用いる送風や酸素の顕熱を指標として用いることで、高炉のより精密な制御が可能である。
すなわち、炉熱指標が羽口上の主たる熱バランスをほぼ網羅している(還元状態に応じた熱以外に、送風顕熱も含められる)ことで、融着帯レベル、及び羽口よりも上部の熱バランスの精密な制御が可能である。
【0030】
一態様において、羽口上熱バランスは、下記式(1):
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(1)
で定義される、1時間当たりの羽口上熱バランス(単位:GJ/h)(以下、単に羽口上熱バランス(GJ/h)ともいう。)である。
【0031】
上記式(1)は、羽口での反応熱と、還元による反応熱との両者が考慮された熱バランス式である。
図1を再び参照し、高炉の種々の炉熱指標から、カーボン燃焼熱101と、送風顕熱102と、間接還元熱104と、水素還元熱202と、微粉炭分解熱204と、送風湿分分解熱205と、ソリューションロス反応熱206と、直接還元熱207と、を選定して操業データ取得を行い(後述するステップS10)、取得した操業データを用いて式(1)に従って羽口上熱バランス計算値を得る(後述するステップS12)。この羽口上熱バランス値が小さくなることは、炉内の熱レベルが、今後低下し、これにより溶銑温度が低下することが想定されることを意味する。したがって、羽口上熱バランス値が低下した際には、当該羽口上熱バランス値を上昇させるような操業アクション実行に進む(後述するステップS16)。一方、羽口上熱バランス値が大きくなることは、炉内の熱レベルが、今後増大し、これにより、溶銑温度及び/又は炉頂温度の上昇、ひいては通気の悪化が想定されることを意味する。したがって、羽口上熱バランス値が上昇した際には、当該羽口上熱バランス値を低下させるような操業アクション実行に進む(後述するステップS16)。
【0032】
一態様においては、羽口上熱バランス(GJ/h)の目標範囲を基準値として予め設定し、羽口上熱バランス(GJ/h)計算値が当該基準値を逸脱した場合に何らかの操業アクションを実行する。
【0033】
一態様において、羽口上熱バランス(GJ/h)の目標範囲は、特定の数値範囲に定めてよく、例えば、
下記式:
A1≦羽口上熱バランス(GJ/h)計算値≦A2
(式中、A1及びA2は各々、600GJ/h~2000GJ/hの値である。ただし、高炉の炉内容積や出銑量レベルによって異なる。)
によって定めてよい。この場合、羽口上熱バランス(GJ/h)計算値が、A1未満、又はA2超である場合に、何らかの操業アクションを実行する。A1は、好ましくは、800GJ/h以上、又は1000GJ/h以上、又は1200GJ/h以上であってよい。A2は、好ましくは、1800GJ/h以下、又は1600GJ/h以下、又は1400GJ/h以下であってよい。5000m3級の高炉における好ましい一例においては、A1が1500GJ/h、かつA2が1700GJ/hである。5000m3級の高炉における好ましい別の一例においては、A1が1300GJ/h、かつA2が1450GJ/hである。3000m3級の高炉における好ましい一例においては、A1が820GJ/h、かつA2が850GJ/hである。
A1及びA2を定める際には、炉容積に係数を乗じて設定してもよく、これによれば、炉容積の異なる複数の高炉について共通の係数を用いた操業設計ができる。例えば、炉容積(m3)に0.25~0.35を乗じた値をA1(GJ/h)とし、炉容積(m3)に0.28~0.40を乗じた値をA2(GJ/h)とすることができる。
【0034】
一態様において、羽口上熱バランス(GJ/h)の目標範囲は、予め定めておいた羽口上熱バランス(GJ/h)設定値(本開示で、設定バランス値ともいう。)からの乖離度合で定めてもよく、例えば、下記式:
設定バランス値×B1≦羽口上熱バランス(GJ/h)計算値≦設定バランス値×B2
によって定めてよい。この場合、羽口上熱バランス(GJ/h)計算値が、設定バランス値×B1未満、又は設定バランス値×B2超である場合に、何らかの操業アクションを実行する。B1は1.00未満の値であり、好ましくは、0.95以上、又は0.98以上、又は0.99以上である。B2は1.00超の値であり、好ましくは、1.05以下、又は1.02以下、又は1.01以下である。
また、羽口上熱バランス(GJ/h)の目標範囲は、設定バランス値によらず、制御開始時点の操業データから算出した羽口上熱バランス(GJ/h)計算値(本開示で、初期バランス値ともいう。)からの乖離度合で定めてもよい。
【0035】
操業データとして測定される炉熱指標と当該炉熱指標に対応する操業アクションとの関係は当業者に公知である。例えば、カーボン燃焼熱は、コークス装入量の増減、微粉炭吹込み量の増減、コークス及び微粉炭の各々の炭種の選択等により制御され得、送風顕熱は、送風量、送風温度、送風湿分、酸素富化量、水素ガス吹込み量、液化天然ガス吹込み量等の送風条件の変更により制御され得る。熱量が大きい炉熱指標であるカーボン燃焼熱及び送風顕熱を増減させる操業アクションは羽口上熱バランスの制御に有用である。羽口上熱バランス計算値が基準値を下回った場合に実行される操業アクションの例は、コークス装入量の増大、微粉炭の吹込み量の増大、送風温度の増大、送風湿分の低減等であり、羽口上熱バランス計算値が基準値を上回った場合の操業アクションは上記と逆の操作となる。
【0036】
本実施形態の方法においては、前述した羽口上熱バランス(GJ/h)に代えて、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)を操業管理指標として用いることもできる。羽口上熱バランス(GJ/h)を操業管理指標とする場合、操業アクションが出銑量を考慮しないものとなるため、出銑量を変動させつつ高炉を操業する際には必ずしも理想的な操業アクションとならないことがある。出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)を操業管理指標とすることで、出銑量を変動させつつ高炉をより厳密に操業できる。出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)は、高炉の操業自動化において特に有利である。
【0037】
すなわち、本発明の一態様は、高炉の操業方法において、羽口から吹込むガスが有する送風顕熱、レースウェイで燃焼するカーボンの燃焼熱、及び一酸化炭素による間接還元反応による反応熱とを含む羽口上のインプット熱量と、羽口から吹込むガスが有する送風湿分の分解熱、吸熱反応であるソリューションロス反応及び直接還元反応による反応熱、水素還元反応(すなわち水素による鉄鉱石の還元反応)による反応熱、及び微粉炭分解熱を含む羽口上のアウトプット熱量と、の差分を計算出銑量で除した値として定義される出銑量当たり羽口上熱バランスを操業管理指標として用いる、高炉の操業方法を提供する。
【0038】
計算出銑量とは、高炉炉頂からの装入物の物質バランス、炉頂ガス成分等から計算できる推定の出銑量である。計算出銑量の計算方法は特に限定されない。例えば、酸素バランスから出銑量を推定する方法では、鉱石の持ち込む酸素が羽口で発生したCOにより還元除去されて溶銑が生じることに基づき、炉頂のガス成分から出銑量を算出できる。また、例えば、炉内への装入量から出銑量を推定する方法では、単位時間当たりに炉頂から装入された鉱石量から出銑量が算出される。酸素バランスから出銑量を推定する方法で得た値と、炉内への装入量から出銑量を推定する方法で得た値との加重平均を計算出銑量として採用してもよい。
【0039】
一態様において、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)は、下記式(3):
出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)/計算出銑量(tp/h)・・・(3)
すなわち、
出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)=羽口上熱バランス(GJ/h)/計算出銑量(tp/h)
にて定義される。
この態様では、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)の目標範囲を基準値として予め設定し、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値が当該基準値を逸脱した場合に何らかの操業アクションを実行する。
【0040】
一態様において、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)の目標範囲は、特定の数値範囲に定めてよく、例えば、下記式:
C1≦出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値≦C2
(式中、C1及びC2は各々、2.80GJ/tp~4.00GJ/tpの値である。)
によって定めてよい。この場合、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値が、C1未満、又はC2超である場合に、何らかの操業アクションを実行する。C1は、好ましくは、3.00GJ/tp以上、又は3.20GJ/tp以上であってよい。C2は、好ましくは、3.80GJ/tp以下、又は3.60GJ/tp以下、又は3.40GJ/tp以下であってよい。好ましい一例においては、C1が3.00GJ/tp、かつC2が3.40GJ/tpである。
【0041】
一態様において、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)の目標範囲は、予め定めておいた出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)設定値(本開示で、設定バランス値ともいう。)からの乖離度合で定めてもよく、例えば、下記式:
設定バランス値×D1≦出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値≦設定バランス値×D2
によって定めてよい。この場合、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値が、設定バランス値×D1未満、又は設定バランス値×D2超である場合に、何らかの操業アクションを実行する。D1は1未満の値であり、好ましくは、0.95以上、又は0.98以上、又は0.99以上である。D2は1超の値であり、好ましくは、1.05以下、又は1.02以下、又は1.01以下である。
また、出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)の目標範囲は、設定バランス値によらず、制御開始時点の操業データから算出した出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)計算値(本開示で、初期バランス値ともいう。)からの乖離度合で定めてもよい。
【0042】
羽口上熱バランス(GJ/h)を操業管理指標とする態様、及び出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)を操業管理指標とする態様の両方において、アウトプット熱量は、炉頂ガス顕熱、及び/又は羽口上領域における炉体抜熱量を更に含んでよい。当業者に公知であるように、炉頂ガス顕熱は、炉頂ガスの流量に炉頂ガスの平均温度及びガス比熱を掛け合わせることにより求められ、炉体抜熱量は、熱負荷を出銑量で除して求められる。なお熱負荷はステーブの給排水温度差に給水量を乗じて求められる。炉頂ガス顕熱及び炉体抜熱量を簡易的にゼロ又は固定値としてアウトプット熱量を算出してもよいが、上記のように炉頂ガス顕熱及び炉体抜熱量を算出すると、羽口上熱バランスを一層適切に管理でき好ましい。
【0043】
したがって、一態様において、羽口上熱バランス(GJ/h)は、下記式(2)で定義できる。
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(2)
【0044】
また、一態様において、計算出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)は、下記式(4)で定義できる。
出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-炉頂ガス顕熱-炉体抜熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱]/計算出銑量(tp/h)・・・(4)
【0045】
羽口上熱バランスの算出に用いる羽口上のインプット熱量及び羽口上のアウトプット熱量の各々には、羽口上熱バランスをより精密に管理する目的で、前述したもの以外の炉熱指標を更に含めてもよく、そのような追加の炉熱指標は任意に選択してよい。羽口よりも上部の炉熱指標のみで高炉を精密に制御できるという本実施形態の方法の利点を顕著に得る観点から、本実施形態の方法において操業管理指標として用いる炉熱指標は、羽口よりも上部のインプット熱量及び/又はアウトプット熱量に係るもののみであることが好ましい。したがって、典型的な態様において、本実施形態の方法において操業管理指標として用いる炉熱指標は、炉下部抜熱量(例えばステーブ抜熱量)を含まない。
【0046】
次に、本実施形態の方法の具体的な実施手順を説明する。
図2は、本発明の一態様に係る高炉の操業方法において行う処理を示すフローチャートである。
図2を参照し、まず、前述で例示した炉熱指標の操業データを取得する(ステップS10)。次いで、取得した操業データに基づいて、羽口上熱バランス計算値、具体的には、羽口上熱バランス(GJ/h)又は出銑量当たり羽口上熱バランス(GJ/tp)を得る(ステップS12)。
【0047】
次いで、羽口上熱バランス計算値と予め設定した羽口上熱バランスの基準値とを比較し、羽口上熱バランス計算値が当該基準値を満足するか否かを判定する(ステップS14)。ステップS14の判定の結果、羽口上熱バランス計算値が基準値を満足しない場合は、ステップS16へ進む。ステップS16では、羽口上熱バランスが基準値に近づく方向となるような操業アクションを実行する。一方、ステップS14で、羽口上熱バランス計算値が基準値を満足する場合は、ステップS16の処理を行うことなく本制御周期における処理を終了する。以上のようにして、羽口上熱バランス計算値が基準値を満足するようにフィードバック制御を行うことができる。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明の例示の態様をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
炉容積5000m3、還元材比330kg/t程度の実高炉を対象として高炉の操業シミュレーションを行った。シミュレーションに用いたモデルは、一次元非定常モデルである。
【0050】
公知の方法(重見彰利著 製銑ハンドブック P186~第6章高炉操業理論「6.3高炉の熱計算」参照)により、カーボン燃焼熱、送風顕熱、間接還元熱、送風湿分分解熱、微粉炭分解熱、ソリューションロスカーボンの反応熱、及び水素還元熱を算出した。
得られた値に基づき、下記式(1):
羽口上熱バランス(GJ/h)=[カーボン燃焼熱+送風顕熱+間接還元熱-送風湿分分解熱-微粉炭分解熱-ソリューションロス反応熱-直接還元熱-水素還元熱](GJ/h)・・・(1)
に従い、羽口上熱バランス(GJ/h)を算出したところ、1375(GJ/h)であった。これに基づき、羽口上熱バランス(GJ/h)の目標範囲を±1%の1361~1389(GJ/h)とし、これを基準値として設定した。
【0051】
次いで、高炉の操業を実施しつつ、上記パラメータの各々のデータを60秒毎に取得した。取得したデータから、カーボン燃焼熱、送風顕熱、間接還元熱、送風湿分分解熱、微粉炭分解熱、ソリューションロスカーボンの反応熱、及び水素還元熱を上記方法で算出し、上記式(1)に従い羽口上熱バランス(GJ/h)計算値を得た。
【0052】
算出された羽口上熱バランス(GJ/h)計算値が上記基準値を満たすか否かを、データ取得時毎(すなわち上記60秒毎)に判定し、満たす場合には操業条件を変更せず、満たさない場合には操業条件のうち例えば微粉炭吹込み量を増減することにより羽口上熱バランスが一定に保たれるように高炉操業を行った。
【0053】
一方、上記のデータ取得時毎に、羽口からの推定融着帯位置を、一次元非定常モデルで算出した。
図3に、シミュレーション運転の開始から終了までの、出銑比(すなわち高炉内容積1m
3当たりの1日当たりの出銑量)(横軸)と羽口からの推定融着帯位置(縦軸)との関係をプロットした。
【0054】
[比較例1]
羽口上熱バランスを用いずに、溶銑温度に基づいて熱アクションを実施した従来の操業結果を
図4にプロットした。
【0055】
図3及び4に示すように、本発明に係る高炉の操業方法を用いた実施例1においては、比較例1と比べて、出銑比が変動したときの融着帯位置の変動が顕著に少なかった。より具体的には、出銑比約2.0t/day/m
3~約2.4t/day/m
3の範囲における羽口からの推定融着帯位置が、比較例1では約0mから約3.0m(分布の中心部分は約0.9mから約2.6mの範囲)に亘って広範に分布したのに対し、実施例1では約1.0mから約2.0mの範囲(分布の中心部分は約1.1mから約1.5mの範囲)に収まっていた。また、実施例1においては、比較例1と比べて、ある出銑比での羽口からの推定融着帯位置のばらつきも顕著に少なかった。より具体的には、例えば出銑比2.2t/day/m
3において、比較例1では羽口からの推定融着帯位置が約0.8mから約2.5m(分布の中心部分で約±0.5m程度)に亘ってばらついたのに対し、実施例1では約1.1mから約1.4mの範囲(分布の中心部分で±約0.1m程度)に収まっていた。このように、実施例1においては、操業安定化効果が顕著に得られた。