(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148415
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】光拡散性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20220929BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220929BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L83/04
G02B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050092
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【テーマコード(参考)】
2H042
4J002
【Fターム(参考)】
2H042BA02
2H042BA15
2H042BA18
2H042BA20
4J002BP011
4J002CP032
4J002FA082
4J002FD202
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】光拡散性と光透過性に優れる光拡散性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】環状ポリオレフィン(A)と、光拡散材(B)とを含有する光拡散性樹脂組成物であって、環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、光拡散材(B)の平均粒子径が0.1~30μmである光拡散性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、光拡散材(B)とを含有する光拡散性樹脂組成物であって、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、光拡散性樹脂組成物。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、請求項1に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項1又は2に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項5】
前記光拡散材(B)の平均粒子径が0.1~30μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項6】
前記光拡散材(B)がシリコーン粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項7】
前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、前記光拡散材(B)を0.1~10質量部含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項8】
2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]の和が180%以上となる、請求項1~7のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項9】
2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]が共に90%以上となる、請求項1~8のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項11】
光拡散性フィルム、光拡散性シート又は光拡散板である、請求項10に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性と光透過性に優れる光拡散性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイのバックライトユニット等に用いられる光拡散性材料としては、屈折率が比較的近い樹脂同士のアロイや、樹脂に有機フィラー又は無機フィラーを添加した系がよく知られているが、光拡散性と光透過性を両立させることは困難であった。
このような課題に対して、特許文献1では熱可塑性ノルボルネン系樹脂マトリックスに透明な高分子微粒子を分散させてなる光拡散性樹脂組成物が提案されており、当該樹脂組成物は光拡散性と光透過性を両立できる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された樹脂組成物では、高分子微粒子を大量に添加すると、濁度(光拡散性)が向上する一方、全光線透過率(光透過性)が低下している。逆に、高分子微粒子を少量添加すると光透過性は向上する一方、光拡散性が低下している。したがって、光拡散性と光透過性を十分な水準で両立できているとはいい難い。
【0005】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、光拡散性と光透過性に優れる光拡散性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィンと光拡散材を用いることで、光拡散性と光透過性に優れた光拡散性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0007】
[1]環状ポリオレフィン(A)と、光拡散材(B)とを含有する光拡散性樹脂組成物であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、光拡散性樹脂組成物。
【0008】
[2]前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、[1]に記載の光拡散性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の光拡散性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【0009】
[5]前記光拡散材(B)の平均粒子径が0.1~30μmである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
[6]前記光拡散材(B)がシリコーン粒子である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
[7]前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、前記光拡散材(B)を0.1~10質量部含有する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【0010】
[8]2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]の和が180%以上となる、[1]~[7]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
[9]2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]が共に90%以上となる、[1]~[8]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物。
[10][1]~[9]のいずれか一項に記載の光拡散性樹脂組成物を成形してなる、成形体。
[11]光拡散性フィルム、光拡散性シート又は光拡散板である、[10]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる環状ポリオレフィンと光拡散材からなる光拡散性樹脂組成物は、光拡散性と光透過性に優れ、光拡散性フィルム、光拡散性シート、光拡散板等の成形体として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本願に係る発明は、環状ポリオレフィン(A)と、光拡散材(B)とを含む光拡散性樹脂組成物についての発明である。
【0014】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
【0015】
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
【0016】
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0017】
尚、「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0018】
前記芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0019】
【0020】
ここでRは水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ビフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0021】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
これらの内で、Rは水素が好ましい。
前記Arは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0022】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
これらのうちでは、スチレンが好ましい。
【0023】
前記共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよい。
前記共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
これらの内では、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0024】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0025】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0026】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは30~80モル%であり、より好ましくは40~75モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがない。
【0027】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは20~70モル%であり、より好ましくは25~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0028】
尚、前記の通り、本願発明にかかるポリオレフィンは「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0029】
本発明の水素化ブロックコポリマーは、SBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、ペンタブロック等のマルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0030】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0031】
前記水素化ブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは、例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0032】
環状ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
【0033】
ここで、環状ポリオレフィン(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長:3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0034】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
【0035】
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、透明性、低吸着性、耐放射線性のために好ましい。
環状ポリオレフィン(A)の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0036】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)は、成形方法や成形体の外観の観点から0.1g/10分以上が好ましく、0.2g/10分以上がより好ましい。また材料強度の観点から200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、50g/10分以下が更に好ましい。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0037】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:テファブロック(登録商標)が挙げられる。
【0038】
<光拡散材(B)>
本発明の光拡散材(B)は、環状ポリオレフィン(A)中に分散することで、入射した光をできるだけ反射せずに透過し、且つ拡散させる材料であり、この特性を有すれば、特に限定されるものではなく、無機系拡散材及び/又は有機系拡散材を使用できる。
【0039】
前記無機系拡散材としては、例えば、カオリナイト、カオリクレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、蛇紋石、パイロフィライト等のケイ酸塩鉱物;ホワイトカーボン、珪藻土、焼成珪藻土、石英、クリストバライト等のケイ酸鉱物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物が挙げられる。
【0040】
前記有機系拡散材としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、これらの共重合体、ポリアミド粒子、シリコーン粒子が挙げられる。
これらの内、光拡散材(B)は、光拡散性と光透過性の両立という観点から、シリコーン粒子が好ましい。
【0041】
前記シリコーン粒子としては、例えば、球状シリコーンゴムパウダーの表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーン複合パウダー、直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴムパウダー、シロキサン結合が三次元網目状に架橋したシリコーンレジンパウダーが挙げられる。
これらの内では、光拡散性と光透過性の両立という観点から、シリコーン複合パウダー、シリコーンゴムパウダーが好ましく、シリコーン複合パウダーがより好ましい。
【0042】
本発明の光拡散材(B)は、平均粒子径が0.1~30μmであることが好ましい。
光拡散材(B)の平均粒子径の下限は0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、1.0μm以上が特に好ましく、2.0μm以上が最も好ましく、3.0μm以上が極めて好ましい。
平均粒子径が上記下限値以上であれば、得られる光拡散性樹脂組成物の光拡散性が良好となる。
【0043】
光拡散材(B)の平均粒子径の上限は30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましく、15μm以下が特に好ましく、13μm以下が最も好ましく、10μm以下が極めて好ましい。
平均粒子径が上記上限値以下であれば、得られる光拡散性樹脂組成物の光透過性が良好となる。
【0044】
<光拡散性樹脂組成物>
本発明の光拡散性樹脂組成物は、環状ポリオレフィン(A)と、光拡散材(B)とを含有する。環状ポリオレフィン(A)と光拡散材(B)の組み合わせにより、優れた光拡散性と光透過性を両立することができる。
【0045】
前記光拡散性樹脂組成物は、環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、光拡散材(B)を0.1~10質量部含有することが好ましい。
環状ポリオレフィン(A)100質量部に対する光拡散材(B)の含有量は0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上が更に好ましく、0.4質量部以上が特に好ましく、0.5質量部以上が最も好ましく、0.6質量部以上が極めて好ましい。
光拡散材(B)の含有量が上記下限値以上であれば、光拡散性樹脂組成物の光拡散性が良好となる。
【0046】
環状ポリオレフィン(A)100質量部に対する光拡散材(B)の含有量は10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましく、3質量以下が特に好ましく、2質量部以下が最も好ましく、1質量部以下が極めて好ましい。
光拡散材(B)の含有量が上記上限値以下であれば、光拡散性樹脂組成物の光透過性が良好となる。
【0047】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]の和が180%以上となることが好ましく、182%以上となることがより好ましく、184%以上となることが更に好ましく、186%以上となることが特に好ましく、188%以上となることが最も好ましい。
光拡散性の指標であるヘーズと、光透過性の指標である全光線透過率の和が180%以上であれば、光拡散性樹脂組成物は光拡散性と光透過性を両立しているといえる。
【0048】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、2mm厚で成形した際の、成形品のヘーズ[%]と全光線透過率[%]が共に90%以上となることが好ましく、91%以上となることがより好ましく、92%以上となることが更に好ましい。
光拡散性の指標であるヘーズと、光透過性の指標である全光線透過率が上記範囲であれば、光拡散性樹脂組成物は光拡散性と光透過性を両立しており、かつ十分な水準にあるといえる。
【0049】
<その他の成分>
本発明の光拡散性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤、顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、光拡散性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0050】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、環状ポリオレフィン(A)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
【0051】
エラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0052】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて環状ポリオレフィン(A)に添加してもよいし、環状ポリオレフィン(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。その場合、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
溶融混練する方法の中では、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましく、通常180~320℃、好ましくは220~300℃に加熱した状態で溶融混練する。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0053】
<成形体>
本発明の環状ポリオレフィン(A)と光拡散材(B)、必要に応じて、その他の成分を配合した光拡散性樹脂組成物を成形することにより、各種成形体を得ることができる。
成形体としては、具体的には、光拡散性フィルム、光拡散性シート、光拡散板が挙げられる。
【0054】
成形体の成形方法としては、一般の成形法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形を用いることができる。それぞれの成形方法において、装置及び加工条件は特に限定されず、用途に応じて選択すればよい。
【0055】
射出成形の場合、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の光拡散性樹脂組成物を射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は200~320℃であり、好ましくは220~300℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃、より好ましくは50~95℃である。
【0056】
本発明の光拡散性樹脂組成物を用いてフィルムやシートを成形する場合、適宜上記の成形方法を用いることができるが、生産性や厚さ制御の観点から、押出成形、特にTダイ法が好ましい。
Tダイ法を用いる場合、押出機のシリンダーからダイスまでの温度は200~320℃であり、好ましくは220~300℃である。
【0057】
Tダイ法を用いる場合、キャストロール(冷却ロール)の温度は、キャストロールに密着する樹脂によって適宜調整する必要があるものの、0℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
キャストロールの温度が上記下限値以上であれば、フィルムとキャストロールとの密着性が良好であり、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。
一方、上限としては100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。
キャストロールの温度が上記上限値以下であれば、キャストロールへのフィルムの貼り付きを抑制でき、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。
【0058】
本発明の光拡散性樹脂組成物を用いたフィルムは、積極的に延伸しない無延伸フィルムとして使用してもよいし、無延伸フィルムを一軸又は二軸に延伸した延伸フィルムとして用いてもよい。二軸延伸フィルムの場合、延伸方法としては逐次二軸延伸でもよいし、同時二軸延伸でもよい。
【0059】
本発明の光拡散性樹脂組成物を用いたフィルムは、単層フィルムでもよいし、多層フィルムでもよい。
多層フィルムを構成する樹脂成分としては、本発明の光拡散性樹脂組成物以外に、前記の任意樹脂成分を用いることができる。
多層フィルムを製造する場合は、各層の樹脂組成物を積層して多層化する共押出法、各層をフィルム状に形成し、これをラミネートする押出ラミネート法、各層をフィルム状に形成し、これらを熱圧着する熱圧着法のいずれを用いて成形してもよいが、生産性の観点から、共押出法で成形することが好ましい。
共押出法には、口金で各層の樹脂組成物が合流するマルチマニホールド法、フィードブロックで合流するフィードブロック法等があり、どちらを採用してもよいが、厚さ精度に優れるマルチマニホールド法を用いることが好ましい。
【0060】
本発明の光拡散性樹脂組成物を用いたフィルムの厚さは、下限としては10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上が更に好ましく、40μm以上が特に好ましく、50μm以上が最も好ましい。
一方、上限としては、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下が更に好ましく、500μm以下が特に好ましく、300μm以下が最も好ましい。
フィルムの厚さ上記範囲であれば、光拡散性と光透過性が良好となる。
【0061】
<用途>
本発明の光拡散性樹脂組成物は、液晶ディスプレイのバックライト等に用いられる光拡散性フィルム、光拡散性シート又は光拡散板等の他、住居内装/外構用照明、舞台照明・スポットライト、車載照明(テールランプ、LiDAR、ウェルカムライト等)、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ、生体認証装置、LED照明、光滅菌装置、液晶等に好適に使用できる。
【0062】
尚、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(JIS K6900)。
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。
しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例0063】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0064】
[物性]
<環状ポリオレフィン(A)のポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h4/p-ジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・積算回数:1536
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0065】
<水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化環状ポリオレフィン(A)の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化環状ポリオレフィン(A)の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0066】
<ヘーズ、全光線透過率>
厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片について、ISO14782に準拠して光拡散性の指標であるヘーズと、光透過性の指標である全光線透過率を測定した。
【0067】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A)>
(A)-1…三菱ケミカル(株)製:テファブロック(登録商標)MC930
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:72,000
【0068】
<他の樹脂>
・ノルボルネン系樹脂:日本ゼオン(株)製 ゼオネックス(商標登録)690R
(ノルボルネン系樹脂は、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造を持たないことから、本発明の環状ポリオレフィン(A)には該当しない樹脂である。)
【0069】
<光拡散材(B)>
(B)-1…信越化学(株)製:シリコーン複合パウダー、KMP-605、平均粒子径2μm
(B)-2…信越化学(株)製:シリコーン複合パウダー、KMP-600、平均粒子径5μm
(B)-3:信越化学(株)製:シリコーンゴムパウダー、KMP-597、平均粒子径5μm
(B)-4:信越化学(株)製:シリコーンゴムパウダー、KMP-598、平均粒子径13μm
【0070】
<実施例1>
100質量部の(A)-1に対し、0.2質量部の(B)-1をドライブレンドし、小型混練機(Xplore Instruments社製「Xplore MC15」)を用いて樹脂温度250℃で混練した。
その後、付属の射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度70℃、射出圧力5MPaにて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片を成形し、上述の方法にてヘーズと全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
<実施例2~12>
光拡散材(B)の種類と配合量を表1に記載の通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0072】
<比較例1>
光拡散材(B)を用いず、環状ポリオレフィン(A-1)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0073】
<比較例2~4>
環状ポリオレフィン樹脂(A)の代わりにノルボルネン系樹脂を用い、光拡散材(B)の種類と配合量を表1に記載の通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
表1より、本発明に該当する実施例1~12は光拡散性と光透過性に優れることがわかった。特に、実施例1,2,5~8,12は光拡散材(B)の平均粒子径や配合量が最適化されているため、ヘーズと全光線透過率がいずれも90%以上と、非常に高い水準で光拡散性と光透過性を両立していることがわかった。
一方、環状ポリオレフィン(A)を単独で用いた比較例1は、光透過性に優れるものの、光拡散性は確認されなかった。
また、環状ポリオレフィン(A)の代わりにノルボルネン系樹脂を用いた比較例2~4は、樹脂と光拡散材の屈折率差や分散性の影響で光拡散性と光透過性のバランスが悪く、その合計値も180%以下であり、性能は十分ではなかった。