(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014842
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
C02F1/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020131069
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】512004372
【氏名又は名称】株式会社興徳クリーナー
(72)【発明者】
【氏名】世古 遼
(72)【発明者】
【氏名】先山 憲志
(72)【発明者】
【氏名】湯川 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸之
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB68
4D038AB79
4D038AB81
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB13
4D038BB15
4D038BB16
4D038BB18
4D038BB19
(57)【要約】
【課題】銅イオン及び水溶性有機物を含有するエッチング排水から効率的に銅成分を回収する方法、およびその処理後液に含まれる微生物処理阻害成分を除去する方法を提供する。
【解決手段】
銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水に、塩基性カルシウム化合物を添加してpH6.5以上とし、生成したスラリーを固液分離することで濾液(1)と銅化合物からなるスラッジ(1)を分離する。分離回収した濾液(1)の銅イオン濃度に対して8当量以上かつ液中の鉄濃度が0.05mol/L以上となるように硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を濾液(1)に混合し、アルカリ金属の水酸化物を添加することでpH8.5以上とした後固液分離することで、濾液(2)とスラッジ(2)に分離する。これにより微生物処理の阻害成分が低減された濾液(2)を得ることができる
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水に、
(1)塩基性カルシウム化合物を添加してpH6.5以上にした後固液分離することで、濾液(1)と銅化合物からなるスラッジ(1)に分離する第1工程と
(2)第1工程で分離回収した濾液(1)の銅イオン濃度に対して8当量以上かつ液中の鉄濃度が0.05mol/L以上となるように硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を濾液(1)に混合し、アルカリ金属の水酸化物を添加してpH8.5以上とした後固液分離することで、銅イオン及び鉄イオンの低減された濾液(2)とスラッジ(2)に分離する第2工程
からなる、銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法。
【請求項2】
第2工程において硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)添加後、さらに硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内、いずれかを含む化合物1つ以上を追加して、アルカリ金属の水酸化物によりpH8.5以上とした後固液分離することを特徴とする請求項1記載の銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法。
【請求項3】
第2工程において添加する硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの添加量が第2工程の総量として、濾液(1)カルシウムイオン濃度に対して1当量以上であることを特徴とする請求項1または2記載の銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板製造工程で発生する銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水を処理するにあたり、前処理として銅成分及び処理過程で含まれるその他の成分を取り除くことで、処理後液を微生物処理に影響がない組成に調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板製造工程から排出されるエッチング排水は、塩酸や硫酸などの鉱酸をエッチング剤として用いるため、鉱酸とエッチングされた銅イオンが主成分であって、無機性成分が主体であった。この他にも過酸化水素を用いたエッチングや塩化第二鉄を用いたエッチングなども行われているが、安定剤として少量の有機物を含有する程度で、ほとんどが無機性成分であった。このようなエッチング排水は水酸化ナトリウムや硫化ナトリウムに代表されるアルカリを添加することで溶存する銅イオンを銅化合物として不溶化して無害処理される。処理によって発生する固形物は銅資源としてリサイクルされ、また濾液については必要に応じて有機成分等の処理工程を経た後、下水道放流または公共用水域へ放流されてきた。
【0003】
近年、電子機器の高度化に伴い、電子基板にも高精度化が求められている。これに対応するため、エッチング薬品には有機物を主体とするさまざまな添加物を添加することでエッチング液の高度化を図っており、例えば、pH緩衝作用のあるフッ化アンモニウム、界面活性作用を与えるエーテル類やアルコール類、エッチング用途の酸として鉱酸に替わり有機酸類の使用、過酸化水素を含有するエッチング液の安定剤として添加される有機物などが挙げられる。また、各種添加剤が添加されたエッチング液は従来のエッチング液よりも薬液コストが高くなるため、複数回使用することで薬液コストを下げたり、使用済みのエッチング液に濃縮処理等を行って排出量を少なくすることで廃棄物処理費を低減するなどの取り組みによって製造コストを低減させている。
【0004】
このような工程を経て排出されたエッチング排水(以下、該エッチング排水)は、エッチングされた銅イオン等だけでなく、多量の銅錯体を含有しており、産業廃棄物として処理する際に従来のエッチング排水にはない課題が浮上している。一般的に、有機酸やアルコール類等の水溶性有機物を多量に含有するエッチング排水は、銅イオン等微生物処理の進行を阻害する成分を除去した後微生物処理にてBOD成分・COD成分を低減させ、下水道や公共用水域へ放流する処理方法が考えられる。しかしながら該エッチング排水は、各種添加物を添加することでエッチングされた銅イオンを銅錯体として安定化させ、均一で安定なエッチングを実現しており、アルカリ等による中和だけでは濾液に銅錯体として銅成分が残留してしまい、その後の微生物処理において阻害要素となる。この影響を取り除くため、多量に希釈した後微生物処理に供することは可能であるが、処理効率が悪く、設備規模、下水道放流する場合の費用等の観点から問題が多い。
【0005】
このようなBOD成分・COD成分を多く含有する当該排水の処理方法として焼却処分も一般的に行われているが、構成要素の大部分が水であるため多量のエネルギーを投入する必要があり、また昨今の温室効果ガス排出抑制の動向を考慮すると焼却処分は好ましくない。さらに銅成分については、多量に発生する焼却灰の一成分として低濃度に含有されるため、リサイクルすることは困難であり、廃棄物として処分せざるを得なかった。
【0006】
特許文献1では、BOD成分・COD成分を含有する銅エッチング排水から銅成分を回収する方法として、硫酸、過酸化水素、有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液を0.5~10時間、60~80℃に加熱して過酸化水素を分解した後、原水CODを1500mg/L以下に低下させた上で電気分解することにより、銅成分を金属銅として回収する銅エッチング廃液の処理方法が提案されている。
【0007】
この方法によれば、エッチング廃液に高濃度に含有する銅イオンを電気分解によって直接的に回収することが可能で、銅資源リサイクルの面からは有用な手法である。しかしながら、同方法によって処理された後の廃液には銅イオンが100mg/L程度含有しているため、含有するBOD成分・COD成分を微生物処理によって処理するならば、銅イオンの影響を取り除くため多量に希釈した後微生物処理に供する必要があるため、処理効率、設備規模、さらに下水道放流する場合の費用等の観点から問題が多い。また、電気分解前にCODを1500mg/L以下に低下させることは、該エッチング排水にBOD成分・COD成分が約30000mg/L含まれている場合があることを考慮すると、多量に希釈した後同工程で処理する必要があり、設備規模の観点から現実的ではなく、大規模設備での電気分解処理はランニングコストの観点からも適用は難しい。
【0008】
一方特許文献2では、銅イオン除去の観点から、銅又はクロム又はマンガンを含む重金属-有機酸錯体廃液に当量以上のマグネシウム化合物と第二鉄イオンを遊離する化合物及び/又はアルミニウムイオンを遊離する化合物を添加することで共沈処理した後、固液分離処理する方法が提案されている。
【0009】
この方法によれば、銅の有機酸錯体に当量以上のマグネシウム化合物を添加した上で第二鉄イオンやアルミニウムのような無機凝集剤を添加して共沈処理を行えば、銅等の重金属を50mg/Lから0.1mg/L以下まで低減することができ、これによって得られた処理液は、微生物処理に供しても銅イオンによる阻害は起こらないと考えられる。しかしながら、アンモニアやアミン類、アルコール類も含有するような該エッチング排水に同方法を適用しても、処理後濾液には銅-有機酸錯体以外の銅錯体が残留するため、当該排水にこの方法を適用することは難しい。さらに当該排水の中和濾液には銅錯体の状態にある銅イオンが1000mg/L程度含まれていることも珍しくなく、処対象液の銅-有機酸錯体に対して当量以上のマグネシウムイオンの添加を求められるこの方法を適用する場合、約20倍量のマグネシウムイオンを添加する必要がある。この場合マグネシウムイオンが最終濾液に多量に残留することが考えられ、微生物処理、特に活性汚泥処理する際に栄養塩としてリン酸イオンを添加すると余剰汚泥を増加させるなどの問題があった。
【0010】
また特許文献3に記載されるように、多量のタンパク質やその加水分解生成物に由来する有機物を含有するエッチング排水から銅イオンを除去するにあたり、消石灰によりpH9~10とすることで生成した分離母液に、硫化ナトリウム、硫酸第一鉄及び消石灰を添加することで銅イオンを除去する方法が提案されている。
【0011】
この方法によれば、銅イオンを消石灰による不溶化処理で回収した後、硫化ナトリウムを添加して分離母液中に残留した銅イオンを硫化銅として不溶化処理することで、銅イオン濃度を後の活性泥処理に影響がない程度まで低減することができる。この中で、硫化ナトリウムを添加することにより生成する硫化銅は非常に微粒子化しやすく、凝集沈殿処理や脱水処理における効率低下等の課題があった。その対処法として、特許文献3では硫化ナトリウム添加と同時に硫酸第一鉄の添加及び消石灰による中和を行うことで、水酸化鉄生成時の共沈効果によって微粒状硫化銅の沈降効果を促進し、また硫酸カルシウムを生成させることで高分子凝集剤の凝集効果を促進させることによって銅イオンの除去を行っている。しかし、銅イオンが1000mg/L程度含有する該エッチング排水の中和濾液から銅イオンを十分に除去するためには、硫化物を当量以上、少なくとも500mg/L以上加える必要があり、硫化物が液中に残留するとその後の処理でpHが低下した際に毒性の高い硫化水素が発生する危険性がある。この方法ではその対処法として、消石灰を添加してpH12程度に調製することにより硫化カルシウムとして硫化物の除去を図っている。しかしこの方法を該エッチング排水に適用しようとすると、含有する有機酸と消石灰が化合することで溶解性のカルシウムが多量に処理後液に残留する可能性が高く、微生物処理、特に活性汚泥処理に供する際に栄養塩としてリン酸を添加すると、処理後液に残留したカルシウムイオンと化合することでリン酸のカルシウム塩が生成し余剰汚泥の増加を招くなどの問題があった。
【0012】
またその他の銅イオンの除去方法として、陽イオン交換樹脂による処理がある。中和による不溶化処理によって重金属濃度を低減させた後、陽イオン交換樹脂に通水することで銅イオン等の重金属を除去することができ、通水後液は微生物処理に供することが可能になる。しかし該エッチング排水やその中和濾液には様々なそして多量の陽イオンや陰イオンを含有し、また界面活性作用のある成分も含有するため、陽イオン交換樹脂に通水してもすぐに破過してしまうため処理効率が悪く、またこれに対応するため複数のイオン交換樹脂塔を準備し処理を行うことも可能であるが、設備費やイオン交換樹脂の再生・処理コストが嵩む等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許4184819号公報
【特許文献2】特許4374636号公報
【特許文献3】特開昭50-60050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水中に含まれる銅イオンをリサイクル可能なスラッジとして効率よく回収した後、次工程にて処理後液に銅錯体として溶解している銅イオンを除去することで、多量の希釈に依らずに微生物処理へ供することができる処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、銅イオン及び水溶性有機物を含有するエッチング排水に塩基性カルシウム化合物を添加して銅スラッジを生成させた後、固液分離によって得られた濾液に対して硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加した後にアルカリ金属の水酸化物を添加してpH8.5以上とすることで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水において、
(1)塩基性カルシウム化合物を添加してpH6.5以上にした後固液分離することで、濾液(1)と銅化合物からなるスラッジ(1)を分離する第1工程と
(2)第1工程で分離回収した濾液(1)の銅イオン濃度に対して8当量以上かつ液中の鉄濃度が0.05mol/L以上となるように硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を濾液(1)に混合した後、アルカリ金属の水酸化物を添加することでpH8.5以上とした後固液分離することで、銅イオン及び鉄イオンが低減された濾液(2)とスラッジ(2)に分離する第2工程
からなる、銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法である。
【0017】
この構成によれば第1工程において、銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水(以下、当該排水)に対して塩基性カルシウム化合物を必要に応じてpH6.5以上となるまで添加することで当該排水中の不溶化可能な銅イオンを不溶化した後固液分離することで、固形分中の銅濃度が10wt%以上であるリサイクル可能なスラッジ(1)と1000mg/L程度の銅イオンを含有する濾液(1)に分離する。
【0018】
第1工程で分離回収された濾液(1)は第2工程において、濾液(1)の銅イオン濃度に対して8当量以上かつ液中の鉄濃度が0.05mol/L以上の濃度となるように硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加する。これにより、中和のみでは不溶化できなかった銅錯体中の銅イオンを不溶化可能な銅イオンとして液中に抽出することができる。ここでアルカリ金属の水酸化物をpH8.5以上となるまで添加した後固液分離することで、銅及び鉄の化合物からならスラッジ(2)と銅イオン及び鉄イオンの含有量が低い濾液(2)を回収できる。
【0019】
第1工程で用いる塩基性カルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウムなどが挙げられる。その内、排水の中和処理で一般的に用いられ、入手が容易な点や価格が比較的安価な事を考慮するならば水酸化カルシウムを選択することが望ましい。塩基性カルシウム化合物を用いる理由として、例えば水酸化カルシウムを用いて中和処理及び凝集沈殿処理を行うと、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属化合物を用いるよりも凝集性や沈降性、脱水性が向上する傾向にある。さらにカルシウムイオンを含有していても銅含有スラッジとして銅資源のリサイクルに大きな影響を与えず、また含有するカルシムイオンは水溶性の有機酸カルシウムとしてスラッジ中に含有されていると考えられるため、汚泥洗浄等の処置を加えることで高純度化を図ることもできる。
【0020】
第1工程において当該排水に塩基性カルシウム化合物を添加する際のpH値は、pH6.5以上好ましくはpH7~12更に好ましくはpH7~8とするのが良い。
【0021】
当該排水から不溶化可能な銅イオンを不溶化するため、溶解度積を考慮してpH6.5以上とする必要がある。しかし、当該排水に過酸化水素を含有する場合に塩基性カルシウム化合物の添加をpH6.5程度までとすると、液中に過酸化水素が多量に残留する。このような状態で生成したスラリーに凝集沈殿処理を行うと、スラリー濃度や液温等にもよるが、液中に残留した過酸化水素が少量ずつ分解されることで酸素が発生し、スラッジ中に気泡を内包したままスラッジが沈降することがある。この気泡は少しの衝撃でも液中に浮上または浮遊するため、気泡周囲のスラッジも同様に浮上してしまう。このような状況ではスラッジと上澄み液の分離効率が悪化し脱水処理の作業効率低下につながる。そこでpHを11~12程度の強アルカリまで上げることにより、残留する過酸化水素の大部分を分解し、上記のような状況を回避することができる。なお、pH11~12のような強アルカリ条件のまま固液分離処理をしても第2工程に影響はないが、作業上の安全性や当該排水に両性金属元素を含有している場合、さらに各種固液分離装置の運用上必要な場合には、硫酸や塩酸などの鉱酸によってpH7程度に調整しても構わない。
【0022】
一方でこの方法の場合、過剰に添加したカルシウムイオンが濾液(1)に残留し、また回収された銅スラッジにも過剰にカルシウム化合物が含有されることによって、銅としてのリサイクル価値が低下することも考えられ、さらに第2工程において、カルシウムイオンを除去するために要する薬品の増大や多量の汚泥が発生することによる処理効率低下や汚泥処分費の面で問題も多い。したがって、過酸化水素の分解をpH調整に依らず、塩基性カルシウム化合物の添加量を銅の水酸化物が効率よく確実に生成するpH7~8程度までとし、加熱や反応熱の保温、攪拌時間の延長等の処置によって過酸化水素を十分分解した上で、固液分離処理する方法が更に好ましい。
【0023】
固液分離の方法は、作業効率や発生汚泥のハンドリングを考慮するならば、高分子凝集剤による凝集および静置により自然沈降させ、スラリーと上澄み液に分離した後、スラリーはフィルタープレス、遠心分離、デカンター等の一般的に用いられる方法により脱水処理される。これにより、固形分中の銅濃度が10wt%以上であるリサイクル可能なスラッジ(1)が得られ、水洗浄等の汚泥洗浄処理によりカルシウムイオン濃度を低下させることで高純度化を図ることもできる。固液分離処理によって得られた脱水濾液と上澄み液を混合した濾液(1)は第2工程に供される。
【0024】
本発明の第2工程において添加する硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)の添加量は、濾液(1)銅イオン濃度の8当量以上かつ液中の鉄濃度が0.05mol/L以上となる量を添加し、好ましくは濾液(1)銅イオン濃度の20当量以下となる量を添加することが望ましい。
【0025】
硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)は、第1工程の塩基性カルシウムによる中和だけでは不溶化できない銅錯体中の銅イオンを不溶化可能な銅イオンとして液中に抽出するために添加するが、硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)の添加量が濾液(1)銅イオン濃度の8当量未満の場合、有効な鉄(II)イオンが不足して期待した効果が得られず銅錯体に由来する銅イオンが濾液(2)に残留してしまう。
【0026】
これは鉄(II)イオンが空気酸化により鉄(III)イオンとなってしまうことに起因しており、当該排水に鉄(III)イオンを添加しても銅錯体に由来する銅イオンは濾液(2)に残留する。また鉄(II)イオンの空気酸化はスラリー濃度が向上するとより促進されることが一般的に知られおり、空気酸化により生成した鉄(III)化合物によりスラリー濃度が向上することで連鎖的に他の鉄(II)イオンの空気酸化効率を上げてしまう。そこで8当量以上の鉄(II)イオンを添加して反応液中の鉄(II)イオンによる還元雰囲気を維持することで、銅錯体への鉄(II)イオンの作用を確実に進行させることが可能になる。また濾液(1)の銅イオン濃度が低い場合においては、硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を濾液(1)銅イオン濃度の8当量添加しても、銅錯体から不溶化可能な銅イオンを十分抽出する前に空気酸化によって鉄(II)イオンが失活してしまい、有効な鉄(II)イオンが不足することがある。そこで反応液中の鉄濃度が0.05mol/L以上含まれるように硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加する必要がある。
【0027】
さらに、当該排水に過酸化水素が含有しており、また第1工程で過酸化水素が十分分解できなかった場合には、第2工程で還元剤である硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)をさらに添加することで過酸化水素を分解処理してもよい。
【0028】
一方で鉄(II)イオンは、銅錯体を処理し、空気酸化による失活分を賄い、残留した過酸化水素を分解処理できるだけの量を硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)として添加する必要があるが、硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)の添加量が多すぎると、中和処理によって多量の汚泥が発生することによる作業効率の低下や発生する汚泥を別途処理する必要があるため好ましくない。したがって、濾液(1)銅イオン濃度の20当量以下となる添加量の硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加するのが好ましい。
【0029】
硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)の添加形態については特に限定されないが、反応性やハンドリングを考慮すると水溶液で用いるのが好ましく、これらを含有する廃液を適用することもできる。
【0030】
また硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)いずれを用いても銅錯体への作用に影響はないが、濾液(2)を微生物処理に供する際の塩素イオンの影響を考慮し、さらに濾液(1)に含有するカルシウムイオンの除去も意図するならば、硫酸鉄(II)の添加が好適である。
【0031】
硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加した後のアルカリ金属の水酸化物添加によるpH調整はpH8.5以上であればよく、好ましくはpH9以上10以下とするのが望ましい。
【0032】
これは鉄(II)イオンによって不溶化処理可能になった銅イオンと添加した鉄(II)イオンを不溶化させるためのpH調整であり、それぞれの溶解度積を考慮して、より高pHを要求される水酸化鉄(II)が効率よく生成するpH8.5以上とすることが求められる。一方でpHが高アルカリになるまで添加しても鉄(II)イオン、銅イオン除去の観点では問題はないが、濾液(2)を微生物処理する際に阻害要素となり得る溶解性のアルカリ金属塩を過剰に生成することになるため好ましくない。また鉄(II)イオンが空気酸化等により鉄(III)イオンに酸化するとpHが低下することが知られており、確実に鉄(II)イオンを除去することを考慮するならば、pH9以上10以下となるまでアルカリ金属の水酸化物を添加した後、固液分離処理するのが好適である。なお固液分離処理については、第1工程と同様の方法で行ってもよいが、液性状に合わせて第1工程で挙げた方法から適宜選択することができる。
【0033】
ここで添加するアルカリ金属の水酸化物は一般的に入手可能なものであればいずれでもよく、入手容易性や比較的安価なことから水酸化ナトリウムを用いるのが好適である。なお添加形態は、反応性やハンドリングを考慮し水溶液での使用が好ましい。
【0034】
さらに本発明の第2工程において、濾液(2)のカルシウムイオン濃度を低減するため、硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内、いずれかを含む化合物1つ以上を追加することが望まれる。
【0035】
一般的に、水溶性有機物を含有する排水を微生物処理、特に活性汚泥処理する際には栄養塩としてリン酸イオンを含有する化合物を添加するが、処理液中にカルシウムイオンが多量に含有されている場合、カルシウム塩を形成して余剰汚泥の増加を招く。当該排水に水溶性有機物特に有機酸が多量に含有されている場合、第1工程の中和剤として塩基性カルシウム化合物を用いることで有機酸等と化合し、溶解性のカルシウムイオンが濾液(1)に多量に残留する。
【0036】
そこで第2工程において、硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内、いずれかを含む化合物1つ以上を追加し、カルシウムイオンを不溶化して固液分離することで、濾液(2)のカルシウムイオンを低減させることができる。
【0037】
追加する硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの化合物は一般的に入手可能なもので、処理後液の中に微生物処理への阻害要素となるものが含まれにくいものであればよく、硫酸、硫酸鉄(II)、硫酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
なおここで硫酸鉄(II)を追加する場合には、第2工程で銅錯体から不溶化可能な銅イオンを抽出するために添加した硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を含む総量として、濾液(1)銅イオン濃度の20当量以下となるまでの量を添加することが望ましく、硫酸鉄(II)を除く、硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内いずれかを含む化合物1つ以上を更に加えるとよい。
【0039】
また本発明の第2工程で添加する硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの添加量が第2工程の総量として、濾液(1)のカルシウムイオン濃度に対して1当量以上となるように、好ましくは2当量以下までの量を添加する。
【0040】
硫酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの添加量を1当量よりも少ない量とした場合、カルシウムイオンが濾液(2)に多量に残留してしまう。またこれらを2当量を超えて添加した場合、微生物処理、特に活性汚泥処理の阻害要素となる塩の生成やBOD成分の増加が懸念され、またここで酸性化合物やアルカリ金属の水酸化物添加によりスラッジが生成する化合物、例えば硫酸や硫酸鉄(II)を添加する場合には、これらを中和するためにアルカリ金属の水酸化物をさらに添加する必要があるため、2当量を超える添加は好ましくない。
【0041】
一方リン酸イオンを添加する場合においては、添加したリン酸イオンと第2工程で加える鉄(II)イオンが化合して不溶性塩が形成するため、1当量よりも少ない添加量ではカルシウムイオンが濾液(2)に多量に残留する。そこで、第2工程で添加した鉄(II)イオンに対して1当量のリン酸イオンを添加した上で、濾液(1)のカルシウムイオン濃度に対して1当量以上のリン酸イオンを添加することが望ましい。さらに、カルシウムや鉄との不溶性塩を形成してもなおリン酸イオンが余剰するように、微生物処理、特に活性汚泥処理における好適なバランスとなる程度の量までリン酸イオンの添加量を増やしてもよく、これにより改めて栄養塩としてリン酸イオンを加える必要がなくなる。しかしながら、処理後液の下水道や公共用水域への放流を鑑み、2当量以下の添加量とすることが好ましい。
【0042】
第2工程において硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内、いずれか2つ以上を添加する場合には、それぞれの添加量に準じた量を添加すればよい。
【0043】
なお、第2工程の反応液中に硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンと不溶性塩を生成するカルシウムイオン、鉄イオン以外の成分が含有されている場合は、必要に応じて添加量を調整する事が望まれる。
【0044】
これらの工程を経て得られた濾液(2)は、微生物処理における阻害要素である鉄イオンが150mg/L以下、銅イオンが5mg/L以下まで低減されており、栄養塩であるリン成分や窒素成分を添加しpHや適宜濃度を調整することで、微生物処理に供することが可能になる。
【発明の効果】
【0045】
本発明による方法によれば、銅イオン及び水溶性有機物を含有するエッチング排水でも、固形分中の銅濃度が10wt%以上であるリサイクル可能な銅スラッジを固液分離により回収した上で、その濾液に硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を加えてアルカリ金属の水酸化物でpH調整することにより、銅イオン及び鉄イオンが低減された処理後液を得ることができる。これにより銅資源を効率よくリサイクルでき、さらにその処理後液は微生物処理の進行を妨げる阻害成分が十分に低減されているため、適宜濃度調整等をすることで微生物処理に供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明に係る、銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水の処理方法の一実施形態を示す処理フロー図である
【
図2】本発明の処理方法に関わる第1工程の一実施形態を示す処理フロー図である
【
図3】本発明の処理方法に関わる第2工程の一実施形態を示す処理フロー図である
【
図4】本発明の処理方法に関わる第2工程の別の実施形態を示す処理フロー図である
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明は銅イオン及び水溶性有機物を含有するエッチング排水について、第1工程において当該排水に塩基性カルシウム化合物を添加してpH6.5以上とした後固液分離することで、固形分中の銅濃度が10wt%以上であるスラッジ(1)と濾液(1)を得る。次いで第2工程において、得られた濾液(1)を反応槽2へ移送した後、硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を濾液(1)の銅イオン濃度に対して8当量以上かつ液中鉄濃度が0.05mol/L以上となるように添加する。その後アルカリ金属の水酸化物を添加することによりpH8.5以上とした後固液分離することで、銅イオン及び鉄イオンが低減された濾液(2)とスラッジ(2)を得るものである。
【0048】
(第1工程)
図2に示すように、第1工程においては、当該排水を保持した反応槽1に塩基性カルシウム化合物を添加することでpH6.5以上とし、不溶化可能な銅イオンを不溶化処理した後、固液分離処理される。これによって、固形分中の銅濃度が5wt%以上であるリサイクル可能なスラッジ(1)と濾液(1)に分離され、濾液(1)は第2工程へ移送される。なお固液分離装置としては、一般的に使用されるものであれば特に制限を受けず、フィルタープレス、遠心分離機、スクリューデカンターやシックナーなど、反応液の性状にあわせて適宜選択することができる。また当該排水に過酸化水素を含有する場合には、pHが高アルカリとなるまで塩基性カルシウム化合物を添加する、もしくは最も効率よく銅イオンを不溶化処理できるpH7程度まで塩基性カルシウム化物を添加し、加温や保温、攪拌等の処置により過酸化水素を分解した後凝集沈殿処理を行うことで、効率よく固液分離処理を行うことができる。
【0049】
(第2工程)
図3に示すように、第2工程では第1工程で得られた濾液(1)を反応槽2に供給するとともに、硫酸鉄(II)及び/又は塩化鉄(II)を添加する。添加量は濾液(1)の銅イオン濃度の8当量以上かつ添加後の液中鉄濃度が0.05mol/L以上となるように添加する。これによって得られた反応液にアルカリ金属の水酸化物を添加してpH8.5以上とした後固液分離することで、銅イオン及び鉄イオンが低減された濾液(2)とスラッジ(2)に分離することができる。また当該排水に多量の水溶性有機物を含有する場合には、第1工程を経た濾液(1)に多量のカルシウムイオンを含有する場合がある。これを不溶化させて取り除く際には、
図4に示すように、硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンの内、いずれかを含有する化合物1つ以上を第2工程の総量として、濾液(1)のカルシウムイオン濃度の1当量以上となるように添加することが望まれる。なおリン酸イオンは第2工程で加える鉄(II)イオンとも不溶性塩を形成するため、リン酸イオンを含有する化合物を添加する場合には、この分を考慮した添加量とする必要がある。なお、カルシウムイオンや鉄(II)イオン以外に硫酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオンと不溶性塩を形成し得る成分が第2工程反応液中に含有されている場合には、これらイオンの添加量を調整することが望まれる。
【0050】
これら2つの工程を経ることで、第1工程では、処理効率がよく、さらに固形分中の銅濃度が10wt%以上であるリサイクル可能なスラッジが得られ、また第2工程で得られた濾液(2)は、微生物処理、特に活性汚泥処理において阻害や処理効率低下の一因となる銅イオン、鉄イオン、カルシウムイオンが十分に低減されているため、好適なバランスになるよう栄養塩を添加した後、適宜pH及び濃度を調整することで、微生物処理、特に活性汚泥処理に供することが可能になる。
【0051】
以下実施例で本発明をより具体的に説明する。なお本発明は以下の実施例の記載によって限定されるものではない。なおCa、Fe、Cuの分析はエネルギー分散型蛍光X線装置で行い、それぞれの元素の検出下限値は、Ca:28.1mg/L、Fe:1.6mg/L、Cu:0.4mg/Lである。
【実施例0052】
・第1工程
1000mL容ビーカーに銅イオン及び水溶性有機物含有エッチング排水(全窒素=900mg/L、BOD=27000mg/L、H2O2=36000mg/L、Cu=10000mg/L):500gを入れ、卓上撹拌機及びpH計を設置した。攪拌しながら、10.0wt%水酸化カルシウムスラリー:137gを添加することでpH=7.3とした。30分間攪拌を継続した後0.10wt%アニオン性高分子凝集剤水溶液:6.2mLを添加し、減圧濾過装置により固液分離することで、濾液(1)-1(Ca=9570mg/L、Cu=815mg/L):604gとスラッジ(1)-1(Cu=45wt%:以下スラッジ(1)の銅濃度は乾燥処理後の固形分中濃度として記載):39gを得た。
・第2工程
1000mL容ビーカーに第1工程で得た濾液(1)-1:500gを入れ、Fe=5.00wt%に調製した硫酸鉄(II)水溶液を10当量:71.5g添加し液中鉄濃度を0.11mol/Lとした。卓上撹拌機及びpH計を設置し反応液を攪拌しながら、62.5wt%希硫酸:14.9g添加することで濾液(1)-1のカルシウムイオン濃度に対する硫酸イオン添加当量を1.4当量とした。反応液に24.0wt%水酸化ナトリウム水溶液:54.7gを添加することでpH=9.2とし、0.10wt%アニオン性高分子凝集剤水溶液:10.0mLを添加した後減圧濾過装置により固液分離することで、銅イオン、鉄イオン及びカルシウムイオンが十分に低減された濾液(2)-1(Ca=1500mg/L、Fe=13mg/L、Cu=検出下限以下):560gを得た。