(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148421
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20220929BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20220929BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220929BHJP
H01M 10/34 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/06 T
H01M4/42
H01M4/48
H01M10/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050099
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 知志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028CC12
5H028EE06
5H028HH01
5H050AA09
5H050BA03
5H050BA04
5H050BA11
5H050BA20
5H050CA03
5H050CB13
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA22
5H050FA05
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】亜鉛を負極活物質とする亜鉛電池において、充電した電池容量を長期間に亘り維持可能な亜鉛電池を提供する。
【解決手段】亜鉛電池において、セパレータを介して対向する正極と、活物質として亜鉛を含む負極とが、電解液と共に外装缶に収容されている。負極は、さらにシュウ酸化合物を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して対向する正極及び負極が、電解液と共に外装缶に収容され、
前記負極は、活物質として亜鉛を有し、さらにシュウ酸化合物を含む、亜鉛電池。
【請求項2】
前記シュウ酸化合物は、カチオンと、シュウ酸イオン((COO)2
2-)とを含み、前記負極中において全亜鉛量に対する前記シュウ酸化合物中のシュウ酸イオンの濃度が、0.25-5.0重量%となる、請求項1記載の亜鉛電池。
【請求項3】
前記正極は、水酸化ニッケルを含み、前記亜鉛電池は二次電池である、請求項1または2に記載の亜鉛電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質が亜鉛からなる亜鉛電池に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電池は、負極活物質に亜鉛を利用する電池であり、例として、アルカリ乾電池、ニッケル亜鉛電池、空気亜鉛電池、銀亜鉛電池などがある。特に、ニッケル亜鉛電池は、負極材料である水素吸蔵合金を亜鉛で代替した電池であり、電解液に有機溶媒を使わないため、高い安全性を有する。また、亜鉛が水系電池中で比較的高いエネルギー密度を有することや、正極活物質の水酸化ニッケルとの組み合わせにより高い起電力を有するなど、高い出力特性を有しながらも亜鉛は低コストである。そのため、亜鉛電池は、産業用途やモビリティー用途への適用検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケル亜鉛電池の課題として、自己放電がある。自己放電は、負極活物質である亜鉛が、電解液と接するために自発的に溶解し、酸化することで充電した容量が減少する現象である。この自己放電は、その原理から、ニッケル亜鉛電池だけでなく亜鉛を負極活物質として有する他の亜鉛電池でも同様な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の亜鉛電池は、セパレータを介して対向する正極及び負極が、電解液と共に外装缶に収容され、前記負極は、活物質として亜鉛を有し、さらにシュウ酸化合物を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の亜鉛電池によれば、自己放電が抑制されるので、電池容量をより長期間に亘り維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施の形態に係るアルカリ二次電池を部分的に破断して示す斜視図である。
【
図2】活物質である亜鉛量に対するシュウ酸イオン量と、電池容量の残存率との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態に係る亜鉛電池を、二次電池に適用した場合について図面を参照して説明する。
【0009】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10の底壁35は、導電性を有し、負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、導電性を有する円板形状の蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は、互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0010】
蓋板14は、中央にガス抜き孔16を有し、蓋板14の外面上には、ガス抜き孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は、弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には通気口(図示せず)が設けられている。通常、ガス抜き孔16は、弁体18によって気密に閉じられている。しかし、外装缶10内部にガスが発生し、その内圧が高まると、弁体18は、内圧によって圧縮されてガス抜き孔16を開く。これにより、外装缶10内からガス抜き孔16及び正極端子20の通気口を介してガスが放出される。すなわち、ガス抜き孔16、弁体18及び正極端子20は、電池のための安全弁を形成している。
【0011】
外装缶10には、電極群22が収容されている。電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、正極24と負極26との間に、セパレータ28が挟み込まれた状態で、渦巻状に巻回されている。すなわち、正極24及び負極26は、セパレータ28を介して互いに対向し、重ね合わせられている。
【0012】
外装缶10内では、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置され、正極リード30の各端部は、それぞれ正極24及び蓋板14に接続されている。すなわち、蓋板14の正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には、円形の絶縁部材32が配置され、正極リード30は、絶縁部材32に設けられたスリットを通して延びている。電極群22と外装缶10の底部との間にも、円形の絶縁部材34が配置されている。
【0013】
外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。アルカリ電解液は、正極24、負極26及びセパレータ28に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。なお、アルカリ電解液としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム水溶液を用いることができ、また、アルカリ電解液の濃度についても特には限定するものではない。
【0014】
電極群22において、外周では、セパレータ28は巻回されておらず、負極26の最外周部が電極群22の外周を形成している。この外面52と外装缶の周壁とが接触することにより、負極26と外装缶10とが互いに電気的に接続される。
【0015】
セパレータ28は、不織布セパレータと、耐デンドライトセパレータとからなる。不織布セパレータは、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。不織布セパレータに、耐デンドライトセパレータを重ねてセパレータとして用いられている。耐デンドライトセパレータは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン製微多孔膜を用いることができる。
【0016】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基板と、正極基板の空孔内に保持された正極合剤とからなる。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体や発泡ニッケルを用いることができる。
【0017】
正極合剤は、正極活物質粒子及び増粘剤を含む。正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粉末、水酸化コバルト粉末、酸化イットリウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末である。これらの正極活物質粒子、増粘剤及び水を混合して、正極活物質スラリーを作製する。正極活物質スラリーを正極基板に充填し、乾燥後圧延して所定のサイズに裁断する。本実施の形態において、正極極板1枚当たりの公称容量は1150mAhである。
【0018】
負極26は、帯状をなす導電性の負極芯体60を有し、この負極芯体60に負極合剤62が担持される。負極芯体60は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、表面に錫メッキを施した銅製パンチングメタルシートを用いる。負極合剤は、負極芯体60に保持されると負極合剤層を構成する。
【0019】
負極合剤62は、負極活物質としての酸化亜鉛粉末、亜鉛粉末、及び酸化ビスマス粉末と、増粘剤と、水と、シュウ酸カリウム一水和物とを含む。これらの負極活物質粒子、増粘剤、水、及びシュウ酸カリウム一水和物を混合して負極活物質スラリーを作製する。スラリーを負極芯体60に均一に塗布して乾燥させた後、圧延ロールで圧延して負極活物質の密度を高め、所定のサイズに裁断する。負極合剤62は、負極芯体60の貫通孔内に充填するばかりでなく、負極芯体60の両面上にもそれぞれ層状にして保持させる。本実施の形態において、負極極板1枚当たりの公称容量は4500mAhである。
【0020】
上記工程で作製した正極24及び負極26を、セパレータを介して対向させて渦巻状に巻回して外装缶10に収容する。電解液は、水酸化カリウムが30重量%となる水溶液に酸化亜鉛を飽和させて作成し、その所定量を外装缶10に注液して外装缶10の開口をふさぐ。このようにして、公称容量1150mAhの円筒形ニッケル亜鉛電池が作製される。
【0021】
上記構成の亜鉛二次電池の自己放電特性を調べるために、負極26に含まれる酸化亜鉛と亜鉛とからなる全亜鉛量に対して、シュウ酸カリウム一水和物の重量を変えて、5種類の負極活物質スラリーを作製した。具体的には、全亜鉛量に対して、0.52重量%(実施例1)、1.05重量%(実施例2)、2.09重量%(実施例3)、5.23重量%(実施例4)、10.46重量%(実施例5)を混合して負極活物質スラリーを作製し、各スラリーを用いた亜鉛二次電池を作製した。これに対し、比較例として、シュウ酸カリウム一水和物を含まない負極活物質スラリーから作製した負極26を備える亜鉛二次電池を作製した。
【0022】
各実施例のシュウ酸一水和物の重量を、全亜鉛量に対するシュウ酸カリウム一水和物中のシュウ酸イオン((COO)2
2-)の重量に換算すると、以下のようになる。具体的には、シュウ酸カリウム一水和物の重量にシュウ酸イオンの重量比、0.478を掛ける。全亜鉛量に対するシュウ酸イオンの割合は、0.25重量%(実施例1)、0.50重量%(実施例2)、1.0重量%(実施例3)、2.5重量%(実施例4)、5.0重量%(実施例5)となる。
【0023】
次に、本実施の形態に係る実施例1~5の自己放電特性について以下に記載する。実施例1~5及び比較例からなる6種類の亜鉛二次電池に対して、公称容量の100%まで充電したのち、1.1Vまで放電させる充放電サイクルを1回行い、電池の活性化を行った。
【0024】
さらに、活性化後の亜鉛二次電池を公称容量の80%まで充電したのち、1.1Vまで放電させる充放電サイクルを5回行い、5回の充放電サイクル後の電池容量を初期容量Aとする。次に、公称容量の80%まで再度充電し、温度35℃の環境下に2週間電池を放置して休止させた後、1.1Vまで放電させて、このときの電池容量を残存容量Bとする。これらの手順で得られた容量から、以下の式にて容量の残存率及び残存率増加量を算出した。その結果を
図2に示す。
残存率(%)=B/A=(残存容量B)/(初期容量A)
残存率増加量(%pt)=残存率-(比較例1の残存率)
なお、「%pt」はパーセントポイントを示す。
【0025】
図2に、実施例1~5と比較例との自己放電特性を示す。
【0026】
初期容量Aは、実施例1では906mAh、実施例2では903mAh、実施例3では903mAh、実施例4では906mAh、実施例5では902mAh、比較例では905mAhと、実施例1~5の各々と比較例とは、ほぼ同一であった。しかし、残存容量Bは、実施例1では667mAh、実施例2では687mAh、実施例3では708mAh、実施例4では677mAh、実施例5では685mAh、比較例では642mAhとなり、シュウ酸カリウム一水和物を用いて作製された負極を備える実施例1~5の亜鉛二次電池では、シュウ酸カリウム一水和物を添加していない比較例の電池に比較して、いずれも電池容量の残存率が、実施例1では2.7%pt、実施例2では5.1%pt、実施例3では7.5%pt、実施例4では3.8%pt、実施例5では5.0%ptと増加した。従って、負極活物質にシュウ酸イオンを含むことによって、亜鉛電池の残存容量(残存率)が増える、すなわち、自己放電が抑制されたと考えられる。
【0027】
自己放電特性が改善した原因は、以下のように推測される。ニッケル亜鉛電池において、負極中の亜鉛活物質は、充電により酸化亜鉛から亜鉛に還元されるが、亜鉛は、電解液と接しているので電池の休止中でも自発的に電解液へと溶解し、電池の残存容量が低下する自己放電が発生する。シュウ酸カリウム一水和物を電解液に添加していない比較例では、この自己放電が顕著に発生していると考えられる。
【0028】
一方、実施例では、負極中にシュウ酸カリウム一水和物が添加されているので、電池作製後に、負極に含まれるシュウ酸カリウム一水和物の一部が電解液中に溶解して、そのカチオンとシュウ酸イオン((COO)2
2-)に解離することが予想される。シュウ酸イオンは、電池の充電により生成された亜鉛と難溶性の塩を形成し、負極活物質の表面を被覆すると推測される。難溶性のシュウ酸亜鉛が難溶性の塩となって負極活物質の表面を覆うことで、負極活物質内部の活性な亜鉛と電解液との接触が抑制され、亜鉛の電解液への自発的な溶解を抑制していると考えられる。すなわち、電池の自己放電が抑制される。
【0029】
なお、
図2に示す表からは、概して、シュウ酸イオンの含有量が多い方が、残存容量が増える傾向があることが分かる。しかしながら、実施例5については、負極活物質スラリーの作製中に粘度が大きく増大し、瑕疵のない負極極板が作製困難であった。
【0030】
以上から、亜鉛二次電池の自己放電を抑制するためには、負極活物質にシュウ酸イオンを微量ながらも含むことが好ましい。また、負極中の全亜鉛量に対するシュウ酸イオンの含有量は、シュウ酸イオンを含む負極を作製して電池として組み立て可能とする観点から、シュウ酸カリウム一水和物の添加量の上限を10.46重量%、すなわちシュウ酸イオンの含有量としては5.0重量%を上限とした。
【0031】
本発明においては、亜鉛電池の電解液中にシュウ酸イオンが存在することが重要である。従って、負極に含まれるシュウ酸化合物は、アルカリ水溶液中でカチオンとシュウ酸イオンとに解離可能であれば適宜のシュウ酸化合物を用いることができる。
【0032】
また、上記実施の形態では、電池としてニッケル亜鉛電池を用いたが、本発明は、亜鉛を負極活物質として備える、空気亜鉛電池や、アルカリ乾電池などにも適用可能であり、ニッケル亜鉛電池に限定されるものではない。例えば、電池として、亜鉛一次電池に適用した場合、正極活物質として二酸化マンガンを用い、負極活物質として亜鉛を用い、電解液に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液が用いられる。上記実施の形態と同様に、負極作成時に、負極活物質スラリーにシュウ酸カリウム一水和物を加えて負極を作製する。このように、シュウ酸化合物を含む負極を有する亜鉛一次電池においても、シュウ酸化合物を負極に含まない亜鉛一次電池に比較して、自己放電が抑制され、充電した容量をより長期間に亘り維持することができる。
【符号の説明】
【0033】
2 亜鉛電池
24 正極
26 負極
28 セパレータ