(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148470
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20220929BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20220929BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/36
F16C19/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050170
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA51
3J701BA53
3J701BA57
3J701CA14
3J701DA11
3J701DA12
3J701FA32
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能な円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】内輪の大径側端部には、円すいころの大径側端面に滑り接触する大鍔面を有する大鍔部が形成され、大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、それぞれの筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、それぞれの筋目の径方向寸法が、円すいころの大径側端面と大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に配置される複数の円すいころと、
を備える、円すいころ軸受であって、
前記内輪の大径側端部には、前記円すいころの大径側端面に滑り接触する大鍔面を有する大鍔部が形成され、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
ことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記複数の筋目は、前記大鍔面が当該大鍔面の母線に沿って往復動する砥石で仕上げられることにより、形成される
請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、
それぞれの外周面に単列の内輪軌道面を有する一対の内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に配置される複数の円すいころと、
を備える、複列円すいころ軸受であって、
前記内輪の大径側端部には、前記円すいころの大径側端面に滑り接触する大鍔面を有する大鍔部が形成され、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
ことを特徴とする複列円すいころ軸受。
【請求項4】
前記一対の内輪は、前記内輪軌道面及び前記大鍔面に同じ構成を備える内輪を軸方向に対向するように配置したものである、
請求項3に記載の複列円すいころ軸受。
【請求項5】
ハブ輪を備える車輪支持用円すいころハブユニット軸受であって、
前記ハブ輪は、
その外周面に設けられ、円すいころが配置される内輪軌道面と、
前記内輪軌道面の軸方向一方側に設けられ、前記円すいころの大径側端面と滑り接触する大鍔面を有する大鍔部と、
を有し、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
車輪支持用円すいころハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図1には、円すいころ軸受1の断面図が示されている。この円すいころ軸受1は、内周面に外輪軌道面11を有する外輪10と、外周面に内輪軌道面21を有する内輪20と、外輪軌道面11と内輪軌道面21との間に転動可能に配置される複数の円すいころ30と、を備える。内輪20は、小径側端部に形成された小鍔部23と、大径側端部に形成された大鍔部25と、を有する。大鍔部25の大鍔面25aと内輪軌道面21との間の角部には、逃げ部22が形成されている。
【0003】
円すいころ30の外周面33は、外輪軌道面11及び内輪軌道面21に対して転がり接触し、円すいころ30の大径側端面31は、大鍔部25の大鍔面25aに対して滑り接触する。円すいころ30には、外輪軌道面11からの荷重Qeと、内輪軌道面21からの荷重Qiと、大鍔部25の大鍔面25aからの荷重Qfと、が釣り合うように負荷される。
【0004】
そして、荷重Qe及びQiにより発生する摩擦抵抗が転がり摩擦抵抗であるのに対し、荷重Qfにより発生する摩擦抵抗は滑り摩擦抵抗であることから、円すいころ軸受1全体としての摩擦抵抗のほとんどは荷重Qfにより発生する滑り摩擦抵抗が占める。したがって、大鍔部25の大鍔面25aと円すいころ30の大径側端面31(ころ頭部)との滑り摩擦抵抗の低減が、円すいころ軸受1軸受全体の摩擦の低減に大きく寄与する。
【0005】
特許文献1には、大鍔面ところ頭部の滑り摩擦抵抗を減らすため、大鍔面又はころ頭部にレーザ照射でディンプルを形成することが開示されている。しかしながら、鋼材の表面にティンプルを形成可能なレーザはエネルギが大きく、大鍔面又はころ頭部の表面に焼き鈍りが発生する可能性がある。また、ディンプルから除去された鋼材が、大鍔面又はころ頭部の表面に付着すると、かえって摩擦を大きくしてしまう虞がある。
【0006】
また、通常、ころ頭部と滑り接触する大鍔面はプランジカット研削で仕上げられているため、マグネットシュー研削では不可避な、ワークと砥石の芯高違いにより、対数スパイラル状(渦巻状)の研削筋目が形成される(特許文献2参照)。従って、研削筋目が小径になる方向にころが公転した場合、ころの進行方向後ろ側では、ころ頭部の軌跡と研削筋目の方向が一致し、大鍔面のグリースが掻き出されやすくなる。
【0007】
特に、第1世代、第2世代及び第2.5世代の車輪支持用円すいころハブユニット軸受(HUB1,HUB2及びHUB2.5)には、複列円すいころ軸受が用いられ、一対の内輪がハブ軸の外周面に組み込まれる。ここで、一対の内輪は、ほぼ共通化されており、内輪軌道面や大鍔面に同じ構成を有する一対の内輪が互いに軸方向に対向するように配置される(軸方向に線対称に配置される)。したがって、大鍔面に形成された対数スパイラル状の研削筋目が延びる方向は、一方の内輪では回転軸に対して時計回りとなるが、他方の内輪では回転軸に対して反時計回りとなる。したがって、一対の内輪のうちどちらかの一つにおいては、必ずころ頭部の軌跡と研削筋目の方向とが一致し、大鍔面のグリースが掻き出されやすくなる。この場合、トルク増加や焼付きの原因となる潤滑状態の悪化を招きやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-214780号公報
【特許文献2】特開2017-180599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能な円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に配置される複数の円すいころと、
を備える、円すいころ軸受であって、
前記内輪の大径側端部には、前記円すいころの大径側端面に滑り接触する大鍔面を有する大鍔部が形成され、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
ことを特徴とする円すいころ軸受。
(2) 前記複数の筋目は、前記大鍔面が当該大鍔面の母線に沿って往復動する砥石で仕上げられることにより、形成される
(1)に記載の円すいころ軸受。
(3) 内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、
それぞれの外周面に単列の内輪軌道面を有する一対の内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に配置される複数の円すいころと、
を備える、複列円すいころ軸受であって、
前記内輪の大径側端部には、前記円すいころの大径側端面に滑り接触する大鍔面を有する大鍔部が形成され、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
ことを特徴とする複列円すいころ軸受。
(4) 前記一対の内輪は、前記内輪軌道面及び前記大鍔面に同じ構成を備える内輪を軸方向に対向するように配置したものである、
(3)に記載の複列円すいころ軸受。
(5) ハブ輪を備える車輪支持用円すいころハブユニット軸受であって、
前記ハブ輪は、
その外周面に設けられ、円すいころが配置される内輪軌道面と、
前記内輪軌道面の軸方向一方側に設けられ、前記円すいころの大径側端面と滑り接触する大鍔面を有する大鍔部と、
を有し、
前記大鍔面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた、複数の筋目が形成され、
それぞれの前記筋目は、径方向に突出する凸部と、径方向に凹む凹部と、が周方向に関して交互に配置された波形であり、
それぞれの前記筋目の径方向寸法が、前記円すいころの大径側端面と前記大鍔面との接触楕円の径方向寸法以下である、
車輪支持用円すいころハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能な円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】内輪の大鍔面と円すいころの大径側端面との接触状態を示す図である。
【
図3】
図2から接触楕円と、複数の筋目のうちの一つと、を抜き出して示す拡大図である。
【
図4】第2.5世代の車輪支持用円すいころハブユニットの断面図である。
【
図5】第3世代のハブユニット軸受のハブ輪の断面図である。
【
図6】
図5のハブ輪の大鍔面をオシュレーション研削する様子を示す図である。
【
図7】
図5のハブ輪の大鍔面をスーパーフィニッシュ加工する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る円すいころ軸受、複列円すいころ軸受、及び車輪支持用円すいころハブユニット軸受の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(円すいころ軸受)
本発明の実施形態に係る円すいころ軸受1は、例えば、上述した
図1と同様の構成を有する。
図2は、内輪20の大鍔面25a(又は後述するハブ輪5Aの大鍔面5d)と円すいころ30の大径側端面31との接触状態を示す図である。
【0015】
上述した通り、円すいころ30の大径側端面31は、内輪20の大鍔面25aに滑り接触する。すなわち、大鍔面25aは滑り接触面である。
図2には、円すいころ30の大径側端面31と内輪20の大鍔面25aとの接触楕円50が示されている。接触楕円50は、周方向において長径を有し、径方向において短径を有する。
【0016】
大鍔面25aは、当該大鍔面25aの母線に沿って往復動する砥石で最終仕上げされている。これにより、大鍔面25aの表面に複数の筋目Pが形成される。複数の筋目Pは、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れるように形成されている。
【0017】
図3は、
図2から接触楕円50と、複数の筋目40のうちの一つと、を抜き出して示す拡大図である。
図3に示すように、筋目40は、径方向に突出する凸部41と、径方向に凹む凹部43と、が周方向に関して交互に配置された波形である。ここで、それぞれの筋目40の径方向寸法A(軸受中心軸を中心とする基準円に対する凸部41と凹部43との間の径方向距離)が、接触楕円50の径方向寸法B(接触楕円50の短径)以下であるように設定されている(A≦B)。したがって、接触面圧が大きい接触楕円50の短径付近で、筋目40の凸部41及び凹部43が同時に接触楕円50の外部に位置することがなくなり、潤滑油が掻き出されにくくなる。これにより、トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能となる。
【0018】
ここで、大鍔面25aの表面を砥石で研削又は研磨する方法について説明する。回転する円盤状の砥石で研削を行う方法としては、プランジカット研削、トラバース研削、オシュレーション研削の三方式が挙げられる。
【0019】
プランジカット研削においては、ワークを回転させた状態で、砥石をワーク向かって径方向に押し当てて研削する。この加工を平面または平面に近い面(大鍔面)に対して行った場合、上記特許文献2に説明されている様に、芯高の違いにより、研削面の筋目は、対数スパイラル状になる。
【0020】
トラバース研削は、ワークよりも軸方向幅の短い砥石を用いて研削する方法であり、砥石は軸方向移動(トラバース)する。砥石の軸方向移動の両端で送りを掛け、送りの無い状態で砥石を軸方向移動(トラバース)させ、ワークを研削する。この加工による研削面は、ネジ状または綾目状(右ネジ及び左ネジが重なる形状。砥石の最後の軸方向移動で、直前の加工面が全て削り落とせていない状態。砥石加工は法線力が高い加工なので、砥石の送り分だけワークが削れるわけではない。)になる。
【0021】
オシュレーション研削においては、ワークよりも軸方向幅の長い砥石を、早い速度で軸方向に往復動(オシュレーション)させつつ、送りを掛ける。通常はモータとカム機構で砥石台を往復動させ、ワークを支持する主軸台を動かして送りを掛ける。この加工による研削面は、オシュレーション量が多ければ、トラバース研削と同様にネジ状または綾目状になるが、オシュレーション量が少なければ、波状になる。
【0022】
スーパーフィニッシュは、上記三方式の研削方法とは異なり砥石は回転させず、激しくオシュレーションする砥石を軸方向移動(トラバース)させながら、ワークに押し付ける研摩方法である。この加工による研削面は、波状になる。
【0023】
本実施形態の大鍔面25aは、当該大鍔面25aの母線に沿って往復動する砥石で最終仕上げされており、より具体的には、オシュレーション量の少ないオシュレーション研削が施されるか、又はプランジカット研削後にスーパーフィニッシュが施されている。したがって、大鍔面25aは、オシュレーション研削面であるか、又は、スーパーフィニッシュ面である。
【0024】
これにより、大鍔面25aの表面に、複数の波状の筋目40を形成し、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが接触楕円50の径方向寸法B以下であるように構成する(
図2及び
図3参照)。
【0025】
(複列円すいころ軸受及びハブユニット軸受)
本発明の複列円すいころ軸受は、車輪支持用円すいころハブユニット軸受に適用可能である。
図4には、第2.5世代の車輪支持用円すいころハブユニット軸受60が示されている。以下、本発明の複列円すいころ軸受を、第2.5世代のハブユニット軸受60に適用した例を説明するが、第1世代や第2世代のハブユニット軸受にも適用可能である。
【0026】
ハブユニット軸受60は、車輪(駆動輪または従動輪)を回転自在に支持するものである。ハブユニット軸受60は、複列円すいころ軸受3を備えている。複列円すいころ軸受3は、内周面に複列の外輪軌道面11,11を有する外輪10と、それぞれの外周面に単列の内輪軌道面21を有する内輪20と、外輪10の複列の外輪軌道面11,11と一対の内輪20の複列の内輪軌道面21,21との間に配置される複数の円すいころ30と、複数の円すいころ30を転動自在に保持する保持器4と、を備えている。
【0027】
外輪10の外周面には、径方向外側に向けて突出したフランジ13が形成されている。また、外輪10の一対の外輪軌道面11、11は、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうにしたがって直径が大きくなるように傾斜しており、これらの傾斜方向は互いに逆向きである。
【0028】
一対の内輪20,20の内輪軌道面21,21は、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かうにしたがって直径が大きくなるように傾斜しており、これらの傾斜方向は互いに逆向きである。
【0029】
ハブ軸5の軸方向外端部(
図4中、左端部)には、ホイールやブレーキロータが外嵌されるパイロット部9が設けられている。ハブ軸5の外周面の軸方向外端(
図4中、左端)寄り部分には、ホイール及びブレーキロータを支持固定する為の取付フランジ6が形成される。ハブ軸5の外周面の軸方向中間部には、円筒面部7が形成される。円筒面部7には、一対の内輪20,20が、互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、外嵌されている。
【0030】
一対の内輪20,20のうちの軸方向外側(
図4中、左側)の内輪20の大径側端面(軸方向外端面)は、ハブ軸5の段差面8に当接する。また、ハブ軸5の軸方向内端部(図中、右側端部)を径方向外側に塑性変形させてかしめ部2が形成され、一対の内輪20,20のうちの軸方向内側(
図4中、右側)の内輪20の軸方向内端面を押さえ付けている。これにより、一対の内輪20,20には軸方向に関して互いに近づき合う方向の力が付与され、複数の円すいころ30,30に背面組み合わせ型の接触角が付与される。
【0031】
複列円すいころ軸受3の一対の内輪20,20は、
図1~3を用いて説明した円すいころ軸受1の内輪20と同様の構成を備えている。したがって、一対の内輪20、20の大鍔部25,25の大鍔面25a,25aの表面には、それぞれ周方向に延び、且つ、お互いに径方向に離れた複数の筋目40が形成され、それぞれの筋目40は、径方向に突出する凸部41と、径方向に凹む凹部43と、が周方向に関して交互に配置された波形とされる(
図2及び
図3参照)。そして、それぞれの筋目40の径方向寸法Aは、円すいころ30の大径側端面31と内輪20の大鍔面25aの接触楕円50の径方向寸法B以下とされる(A≦B)。したがって、接触面圧が大きい接触楕円50の短径付近で、筋目40の凸部41及び凹部43が同時に接触楕円50の外部に位置することがなくなり、潤滑油が掻き出されにくくなる。これにより、トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能となる。
【0032】
上述したように、第1世代、第2世代及び第2.5世代の車輪支持用円すいころハブユニット軸受(HUB1、HUB2及びHUB2.5)においては、一対の内輪20,20は、ほぼ、共通化されており、内輪軌道面21,21や大鍔面25a,25aに同じ構成を有する一対の内輪20,20が互いに軸方向に対向するように配置される(軸方向に線対称に配置される)。したがって、仮に特許文献2に記載の方法によって、内輪20の大鍔面25aに対数スパイラル状の研削筋目が形成された場合は、大鍔面25aに形成された対数スパイラル状の研削筋目が延びる方向は、一方の内輪20では回転軸に対して時計回りとなるが、他方の内輪20では回転軸に対して反時計回りとなる。したがって、一対の内輪20のうちどちらかの一つにおいては、必ず円すいころ30の大径側端面31の軌跡と研削筋目の方向とが一致し、大鍔面25aのグリースが掻き出されやすくなる。この場合、トルク増加や焼付きの原因となる潤滑状態の悪化を招きやすくなる。
【0033】
しかしながら、本実施形態のハブユニット軸受60に用いられる複列円すいころ軸受3によれば、内輪20の大鍔面25aに形成される筋目が対数スパイラル状ではなく波形であり、且つ、所望の条件(A≦B)を満たす。したがって、一対の内輪20両方において、大径側端面31の軌跡と筋目40の方向とが一致しないように配置することができ、トルク増加や焼付きの原因となる潤滑状態の悪化を抑制できる。
【0034】
図5には、第3世代のハブユニット軸受に用いられるハブ輪5Aが示されている。ハブ輪5Aは、第2.5世代のハブユニット軸受60(
図4参照)に用いられるハブ軸5と取付フランジ6側の内輪20とが一体化された、略円筒形状の中空又は中実の部材である。ハブユニット軸受が駆動輪に用いられる場合は、ハブ輪5Aは中空とされ、スプライン孔が設けられる。一方、ハブユニット軸受が駆動輪に用いられる場合は、ハブ輪5Aは中実とされる。ハブ輪5Aの外周面の軸方向中央部には、円すいころ30(
図1参照)が配置される内輪軌道面5aが形成される。内輪軌道面5aの軸方向外側(
図5中、左側)には、円すいころ30が滑り接触する大鍔面5dを有する大鍔部5bが設けられる。ハブ輪5Aの外周面の軸方向内側端部(
図5中、右側端部)には、全周にわたって小径段部5cが形成される。また、ハブ輪5Aの外周面の軸方向外側端部(
図5中、左側端部)には、径方向外側に延出する取付フランジ6が形成される。さらに、ハブ輪5Aの軸方向外側端部には、ホイールやブレーキロータを外嵌するためのパイロット部9が設けられている。
【0035】
ハブ輪5Aの小径段部5cには、
図1~
図3で示したような内輪20が外嵌される。すなわち、ハブ輪5Aの小径段部5cに外嵌される内輪20においては、大鍔部25の大鍔面25aに複数の波状の筋目40が形成され、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが接触楕円50の径方向寸法B以下である(
図2及び
図3参照)。
【0036】
また、ハブ輪5Aの大鍔部5bの大鍔面5dは、内輪20の大鍔部25の大鍔面25aと同様の構成とされる。すなわち、ハブ輪5Aの大鍔部5bの大鍔面5dには、内輪20の大鍔部25の大鍔面25aと同様に、複数の波状の筋目40が形成され、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが、大鍔面5dと円すいころ30との接触楕円50の径方向寸法B以下である(
図2及び
図3参照)。
【0037】
なお、
図5においては図示を省略するが、第3世代のハブユニット軸受においても、第2世代と同様に、内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪が設けられる。そして、ハブ輪5Aの小径段部5cに外嵌された内輪20の内輪軌道面21及びハブ輪5Aの内輪軌道面5aと、複列の外輪軌道面と、の間には複数の円すいころが転動自在に配置される。
【0038】
そして、上記の通り、ハブ輪5Aの大鍔面5d及び内輪20の大鍔面25aには、複数の波状の筋目40が形成され、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが接触楕円50の径方向寸法B以下である。したがって、接触面圧が大きい接触楕円50の短径付近で、筋目40の凸部41及び凹部43が同時に接触楕円50の外部に位置することがなくなり、潤滑油が掻き出されにくくなる。これにより、トルク増加や潤滑状態の悪化を抑制可能となる。
【0039】
図6は、
図5のハブ輪5Aの大鍔面5dをオシュレーション研削する様子を示す図である。ハブ輪5Aの取付フランジ6の軸方向外側面6a(又はパイロット部9の先端部)にマグネットチャック70を磁気吸着力によって結合させた状態で、マグネットチャック70を回転させる事によりハブ輪5Aを回転させる。また、ハブ輪5Aの内輪軌道面5aまたは小径段部5cが、不図示のシューにより回転自在に支持されることで、ハブ輪5Aが径方向において位置決めされる。
【0040】
この状態で、砥石71のテーパ形状とされた外周面を、ハブ輪5Aの大鍔面5dに向かって軸方向(
図6中のa方向)に送り込み、大鍔面5dを研削する。ここで、砥石71は、大鍔面5dの母線に沿った方向(
図6中のb方向)に往復動し、オシュレーション研削を行う。これにより、ハブ輪5Aの大鍔部5bの大鍔面5dには、複数の波状の筋目40が形成され、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが、大鍔面5dと円すいころ30との接触楕円50の径方向寸法B以下とされる(
図2及び
図3参照)。
【0041】
一般に、大鍔面の研削は、平面の近い被研削面に円形の砥石を当てる為、研削弧が長くクーラントの供給に難がある。したがって、研削割れや研削焼け、研削戻りを防ぐために、早い切込みを掛けることが出来ず、サイクルタイムが長くなりがちである。しかしながら、オシュレーション研削では同じ粒硬度の砥石を用いても粗さが向上する為、より砥粒が大きく、疎な砥石を使用できるので、砥石の切れ味が上がり、また、クーラントの供給も良好となるため、サイクルタイムも短縮できる。
【0042】
図7は、
図5のハブ輪5Aの大鍔面5dをスーパーフィニッシュ加工する様子を示す図である。ハブ輪5Aのパイロット部9の先端面(または取付フランジ6の軸方向外側面6a)をバッキングプレート75に当てた状態で、不図示のプレッシャロールでハブ輪5Aを軸方向外側に向かって押圧する。プレッシャロールで押圧するハブ輪5Aの部位は、取付フランジ6の軸方向内側面6b、内輪軌道面5aと小径段部5cとを接続する壁部5e、または軸方向内側端面5fである。
また、ハブ輪5Aの内輪軌道面5aまたは小径段部5cが、不図示のシューにより回転自在に支持されることで、ハブ輪5Aが径方向において位置決めされる。このようにして、ハブ輪5Aは、回転した状態で位置決めされる。
【0043】
砥石は、略長方体で大鍔面5dの母線に沿う方向(
図7中のc方向)に往復動するホルダ73の先端に取り付けられている。なお、ホルダ73は、往復動はするが、回転はしない。
【0044】
このように、回転するハブ輪5Aの大鍔面5dに、往復動する砥石をホーニング油を供給しながら押し付けることで、スーパーフィニッシュ加工が施される。これにより、ハブ輪5Aの大鍔部5bの大鍔面5dには、複数の波状の筋目40が形成され、且つ、それぞれの筋目40の径方向寸法Aが、大鍔面5dと円すいころ30との接触楕円50の径方向寸法B以下とされる(
図2及び
図3参照)。
【0045】
なお、
図6及び
図7においては、ハブ輪5Aの大鍔面5dをオシュレーション研削またはスーパーフィニッシュ加工する方法について説明したが、内輪20の大鍔面25aも同様にオシュレーション研削またはスーパーフィニッシュ加工することが可能である。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 円すいころ軸受
3 複列円すいころ軸受
4 保持器
5 ハブ軸
5A ハブ輪
5a 内輪軌道面
5b 大鍔部
5c 小径段部
5d 大鍔面
5e 壁部
5f 軸方向内側端面
6 取付フランジ
7 円筒面部
8 段差面
9 パイロット部
10 外輪
11 外輪軌道面
13 フランジ
20 内輪
21 内輪軌道面
22 逃げ部
23 小鍔部
25 大鍔部
25a 大鍔面
30 円すいころ
31 大径側端面
33 外周面
40 筋目
41 凸部
43 凹部
50 接触楕円
60 ハブユニット軸受
70 マグネットチャック
71 砥石
73 ホルダ
75 バッキングプレート
Qe,Qi,Qf 荷重