IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図1
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図2
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図3A
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図3B
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図4
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図5
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図6
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図7
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図8A
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図8B
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図9A
  • 特開-フェライト組成物および電子部品 図9B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148515
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】フェライト組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20220929BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20220929BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C04B35/30
C01G49/00 A
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050234
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】川崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田之上 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石井 雄大
(72)【発明者】
【氏名】新堀 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】生出 章彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康裕
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小田 邦夫
【テーマコード(参考)】
4G002
5E041
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AA10
4G002AB02
4G002AD02
4G002AE02
5E041AB01
5E041AB19
5E041BD01
5E041CA02
5E041NN02
(57)【要約】
【課題】 低比誘電率であり、直流重畳特性に優れるフェライト組成物と、このフェライト組成物を適用した電子部品を提供すること。
【解決手段】 主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、前記主成分が、酸化鉄をFe換算で32.0~46.4モル%、酸化銅をCuO換算で4.4~14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.4~56.9モル%、含有し、前記主成分100重量部に対して、前記副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.53~11.00重量部、スズ化合物をSnO換算で0.1~12.8重量部、ビスマス化合物をBi換算で0.5~7.0重量部、含有することを特徴とするフェライト組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
前記主成分が、酸化鉄をFe換算で32.0~46.4モル%、酸化銅をCuO換算で4.4~14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.4~56.9モル%、含有し、
前記主成分100重量部に対して、前記副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.53~11.00重量部、スズ化合物をSnO換算で0.1~12.8重量部、ビスマス化合物をBi換算で0.5~7.0重量部、含有することを特徴とするフェライト組成物。
【請求項2】
前記主成分100重量部に対して、副成分として、酸化コバルトをCo換算で0.01~15.0重量部含有する請求項1に記載のフェライト組成物。
【請求項3】
Sn濃度が、中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有する、請求項1または2に記載のフェライト組成物。
【請求項4】
Si濃度が、中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有する、請求項1~3のいずれかに記載のフェライト組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフェライト組成物を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPCなどに用いられる周波数帯が高周波化しており、既に数GHzの規格が複数存在する。これらの高周波の信号に対応するノイズ除去製品が求められている。その代表として積層チップコイルが例示される。
【0003】
積層チップコイルの電気特性はインピーダンスで評価できる。インピーダンス特性は、100MHz帯までは素体材料の透磁率と、その周波数特性に大きく影響される。また、GHz帯のインピーダンスは積層チップコイルの対向電極間の浮遊容量に影響される。積層チップコイルの対向電極間の浮遊容量を低減する手法として、対向電極間の誘電率の低減が挙げられる。
【0004】
現在、積層チップコイルの素体材料として、例えば特許文献1で提案されているように、Ni-Cu-Zn系フェライトが用いられる場合が多い。内部電極として用いるAgとの同時焼成を行うため、900℃で焼成できる磁性体セラミックであることから選ばれている。しかしながら、通常、Ni-Cu-Zn系フェライトの誘電率を下げることは困難であり、何らかの改善手法が必要である。
【0005】
すなわち、GHz帯での実用性に優れる積層コイルを得るために、Ni-Cu-Zn系フェライトを用いた積層コイルにおいて、対向電極間の誘電率を低減し、その浮遊容量を低減することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-175916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、低比誘電率であり、直流重畳特性に優れるフェライト組成物と、このフェライト組成物を適用した電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
上記主成分が、酸化鉄をFe換算で32.0~46.4モル%、酸化銅をCuO換算で4.4~14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.4~56.9モル%、含有し、
上記主成分100重量部に対して、上記副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.53~11.00重量部、スズ化合物をSnO換算で0.1~12.8重量部、ビスマス化合物をBi換算で0.5~7.0重量部、含有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るフェライト組成物は、上記の特徴を有することで、優れた直流重畳特性を有しながら比誘電率を低減できる。
【0010】
本発明に係るフェライト組成物は、上記主成分100重量部に対して、副成分として、酸化コバルトをCo換算で0.01~15.0重量部含有してもよい。
【0011】
本発明に係るフェライト組成物は、Sn濃度が、中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有してもよい。
【0012】
本発明に係るフェライト組成物は、Si濃度が、中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有してもよい。
【0013】
本発明に係る電子部品は、上記のフェライト組成物を有することを特徴とする。
【0014】
電子部品が、上記のフェライト組成物を有することにより、比誘電率を低減することで浮遊容量を低減でき、また、優れた直流重畳特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層チップコイルの内部透視斜視図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係る電子部品としての積層チップコイルの内部透視斜視図である。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物が有する結晶粒子の断面を模式的に表した図である。
図3B図3Bは、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物が有する結晶粒子の断面を模式的に表した図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係るフェライト組成物(試料No.16)のSTEM-EDS画像である。
図5図5は、副成分として酸化スズを含有しないフェライト組成物(試料No.13)のSTEM-EDS画像である。
図6図6は、本発明の一実施例に係るフェライト組成物(試料No.16)のSn元素マッピング画像である。
図7図7は、副成分として酸化スズを含有しないフェライト組成物(試料No.13)のSn元素マッピング画像である。
図8A図8Aは、本発明の一実施例に係るフェライト組成物(試料No.16)のSTEM-EDS画像である。
図8B図8Bは、図8Aの画像中の点線枠で囲んだ部分を拡大したものであり、Sn濃度を測定した位置を示す。
図9A図9Aは、図8Bに示す地点Iから地点IIにかけての、Fe、SnO、SiOの含有量(重量%)の変化を示すグラフである。
図9B図9Bは、図9Aのグラフの縦軸を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層チップコイル1は、セラミック層2と内部電極層3とがY軸方向に交互に積層してあるチップ本体4を有する。
【0017】
各内部電極層3は、四角状環、C字形状、またはコ字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0018】
チップ本体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、積層されたセラミック層2を貫通する端子接続用スルーホール電極6の端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0019】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がY軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。図1に示す積層チップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Y軸に略一致する。
【0020】
チップ本体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、たとえばX軸寸法は0.15~0.8mm、Y軸寸法は0.3~1.6mm、Z軸寸法は0.1~1.0mmである。
【0021】
また、セラミック層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3、3の間隔)は3~50μm、ベース厚み(端子接続用スルーホール電極6のY軸方向長さ)は5~300μm程度で設定することができる。
【0022】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、本体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0023】
コイル導体30は、Ag(Agの合金含む)を含み、たとえばAg単体、Ag-Pd合金などで構成される。コイル導体の副成分として、Zr、Fe、Mn、Ti、およびそれらの酸化物を含むことができる。
【0024】
セラミック層2は、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。以下、フェライト組成物について詳細に説明する。
【0025】
本実施形態に係るフェライト組成物は、主成分としてFeの化合物、Cuの化合物、およびZnの化合物を含有する。Feの化合物としては、例えば酸化鉄(Fe)を含んでもよい。Cuの化合物としては、例えば酸化銅(CuO)を含んでもよい。Znの化合物としては、例えば酸化亜鉛(ZnO)を含んでもよい。また、本実施形態に係るフェライト組成物は、主成分としてNiの化合物を含有してもよく、例えば酸化ニッケル(NiO)を含んでもよい。
【0026】
主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe換算で、32.0~46.4モル%であり、好ましくは33.0~46.0モル%であり、より好ましくは33.0~44.5モル%である。酸化鉄の含有量が多すぎると直流重畳特性が低下しやすい。酸化鉄の含有量が少なすぎると、比誘電率が高くなりやすく、また透磁率μ’が低下しやすい。なお、透磁率μ’とは、複素透磁率の実部である。
【0027】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で、4.4~14.0モル%であり、好ましくは5.0~14.0モル%であり、より好ましくは5.5~14.0モル%である。酸化銅の含有量が多すぎると、透磁率μ’および比抵抗が低くなりやすい。酸化銅の含有量が少なすぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下しやすい。また、焼結性の劣化により比抵抗が低下しやすい。さらに、透磁率μ’も低下しやすい。
【0028】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で、8.4~56.9モル%であり、好ましくは13.2~56.9モル%であり、より好ましくは20.0~43.5モル%である。酸化亜鉛の含有量が多すぎると、キュリー温度が低下しやすい。酸化亜鉛の含有量が少なすぎると、透磁率μ’が低くなる傾向がある。また比抵抗も低くなる傾向がある。
【0029】
主成分には、酸化ニッケルが含有されていてもよい。酸化ニッケルの含有量は、主成分100モル%中、0モル%以上でもよく、5.0モル%以上、または10.0モル%以上とすることもできる。酸化ニッケルの含有量は0モル%でもよい。酸化ニッケルの含有量が少ない場合にはキュリー温度が低下するため、本実施形態に係るフェライト組成物を常温で非磁性体とすることができる。また、酸化ニッケルの含有量を、主成分100モル%中5.0モル%以上とすることで、本実施形態に係るフェライト組成物を磁性体とすることができる。
【0030】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、ケイ素(Si)化合物、スズ(Sn)化合物、およびビスマス(Bi)化合物を含有している。また、コバルト(Co)化合物を含有しても良い。コバルト化合物として、例えば酸化コバルトを含んでもよい。
【0031】
ケイ素化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、SiO換算で、0.53~11.0重量部であり、好ましくは1.05~11.0重量部であり、より好ましくは2.05~8.35重量部である。ケイ素化合物の含有量が多すぎると、焼結性が劣化し、透磁率μ’が低下しやすい。ケイ素化合物の含有量が少なすぎると、比誘電率が高くなりやすい。
【0032】
スズ化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、SnO換算で、0.1~12.8重量部であり、好ましくは0.8~11.3重量部であり、より好ましくは2.1~9.4重量部である。特に、スズ化合物の含有量を、主成分100重量部に対してSnO換算で0.8重量部以上とすることで、主相中に、Sn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子が生じやすくなる。一方、スズ化合物の含有量が多すぎると、焼結性が劣化し、透磁率μ’が低下しやすい。スズ化合物の含有量が少なすぎると、比誘電率が高くなりやすい。
【0033】
ビスマス化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、Bi換算で、0.5~7.0重量部であり、好ましくは1.1~3.8重量部であり、より好ましくは1.1~3.0重量部である。ビスマス化合物の含有量が多すぎると、比誘電率が高くなりやすい。また、焼結時にビスマス化合物が染み出すおそれがある。ビスマス化合物の含有量が少なすぎると、比抵抗が低くなりやすい。また、十分な焼結性が得られにくくなり、特に低温焼結時に密度が低下しやすい。
【0034】
酸化コバルトの含有量は、主成分100重量部に対して、Co換算で、好ましくは0.01~15.0重量部であり、より好ましくは0.01~6.0重量部であり、さらに好ましくは0.01~4.0重量部である。酸化コバルトの含有量が多すぎると、透磁率μ’が低下しやすい。また、誘電率が高くなりやすい。さらに、比抵抗が低くなりやすい。
【0035】
なお、各主成分および各副成分の含有量は、フェライト組成物の製造時において、原料粉末の段階から焼成後までの各工程で実質的に変化しない。
【0036】
本実施形態に係るフェライト組成物では、主成分の組成範囲が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、ケイ素化合物、スズ化合物、およびビスマス化合物が上記の範囲内で含有されている。その結果、優れた直流重畳特性を有しながら比誘電率を低減できるフェライト組成物を得ることができる。加えて、本実施形態に係るフェライト組成物は、内部電極として用いられるAgの融点以下の900℃程度で焼結することが可能である。そのため、種々の用途への適用が可能となる。
【0037】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記副成分とは別に、さらにMnなどのマンガン酸化物、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ガラス化合物などの付加的成分を含有してもよい。これらの付加的成分の含有量は、特に制限されないが、例えば主成分100重量部に対して0.05~1.0重量部程度である。
【0038】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0039】
不可避的不純物元素としては、上記した元素以外の元素が挙げられる。具体的には、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、I、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Taが挙げられる。不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量部以下程度であれば含有されてもよい。
【0040】
特に、主成分100重量部に対して、Alの含有量をAl換算で0.05重量部以下とすることにより、焼結性および比抵抗を向上できる。
【0041】
本実施形態に係るフェライト組成物は、スピネルフェライトからなる主相を有する。主相以外の部分は、副相および粒界相である。副相および粒界相については特に限定されないが、副相はスピネルフェライトではない相であって、例えばZnSiO相やSiO相からなっていてもよく、また粒界相は例えばSiO相からなっていてもよい。
【0042】
本実施形態に係るフェライト組成物において、主相には結晶粒子が含まれる。図4は、本実施形態に係るフェライト組成物について、STEM-EDSにより観察した結果である。図4によれば、フェライト組成物が結晶粒子を有することがわかる。
【0043】
本実施形態に係るフェライト組成物において、主相は、Sn濃度が一様である結晶粒子(以下、結晶粒子βと略記することがある。)、およびSn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子(以下、結晶粒子αと略記することがある。)を有することができる。倍率20000倍で、視野が縦6μm、横6μmの範囲において観察した場合、上記結晶粒子αが占める面積の割合は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上である。図6は、本実施形態に係るフェライト組成物について、倍率100000倍でのSTEM-EDSにより観察して得られるSn元素マッピング画像の一例であり、Sn元素が存在する部分は白く表示されている。図6では、Sn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子が多数観察される。すなわち、図6によれば、本実施形態に係るフェライト組成物が、上記結晶粒子αを有することがわかる。上記結晶粒子αにおいて、粒子の中心部分では、相対的にSn濃度が低くFe濃度が高くなるため、フェライト組成物は上記結晶粒子αを有することで、優れた直流重畳特性および誘電率を維持できる。なお、上記結晶粒子αについて、主相中での位置は、特に限定されない。
【0044】
ここで、Sn濃度とは、結晶粒子を構成する酸化物成分の濃度を100重量%とするときの、SnOの濃度である。結晶粒子を構成する酸化物成分としては、特に限定されないが、例えばFe、CuO、ZnO、NiO、SiO、SnO、Bi、Co等が挙げられる。Sn濃度が高いとは、結晶粒子を構成する酸化物成分100重量%に対して、SnO換算で、好ましくは0.30重量%以上、より好ましくは0.50重量%以上、さらに好ましくは0.65重量%以上であることをいう。
【0045】
図3A図3Bは、上記結晶粒子αの断面を模式的に表した図である。上記結晶粒子αにおいて、Sn濃度が高い部分は、図3Aのように粒子の表面側一帯に存在していてもよく、図3Bのように粒子の表面側の全てに存在しなくてもよい。そして、例えば、図3Aに図示するように、Sn濃度が高い部分が粒子の表面から内側にt、tの範囲に存在するとき、tおよびtの合計[t+t]は、好ましくは結晶粒子の粒径の45%以下であり、また結晶粒子の粒径の30%以下でもよく、結晶粒子の粒径の20%以下でもよい。すなわち、上記結晶粒子αにおいて、Sn濃度が高い部分は、好ましくは結晶粒子の断面において表面側から粒径の45%以下の領域であり、また結晶粒子の断面において表面側から粒径の30%以下の領域でもよく、結晶粒子の断面において表面側から粒径の20%以下の領域でもよい。そして、結晶粒子αにおいて、中心部分ではSnが検出されないことが好ましい。Snが検出されないとは、結晶粒子を構成する酸化物成分100重量%に対して、SnO換算で、0.30重量%未満であることをいう。
【0046】
本実施形態に係るフェライト組成物において、主相は、Si濃度が一様である結晶粒子、および、Si濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有することができる。本実施形態に係るフェライト組成物では、倍率20000倍で、視野が縦6μm、横6μmの範囲において観察した場合、Si濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子が占める面積の割合は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上である。Si濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子において、粒子の中心部分では、相対的にSi濃度が低くFe濃度が高くなるため、このような結晶粒子を有するフェライト組成物は、優れた直流重畳特性および誘電率を維持できる。なお、Si濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子の、主相中での位置は、特に限定されない。
【0047】
ここで、Si濃度とは、結晶粒子を構成する酸化物成分の濃度を100重量%とするときの、SiOの濃度である。結晶粒子を構成する酸化物成分としては、特に限定されないが、例えばFe、CuO、ZnO、NiO、SiO、SnO、Bi、Co等が挙げられる。Si濃度が高いとは、結晶粒子を構成する酸化物成分100重量%に対して、SiO換算で、好ましくは0.15重量%以上、より好ましくは0.17重量%以上、さらに好ましくは0.19重量%以上であることをいう。本実施形態において、結晶粒子のSi濃度が高い部分は、Sn濃度が高い部分と同様に、好ましくは結晶粒子の断面において表面側から粒径の45%以下の領域であり、また結晶粒子の断面において表面側から粒径の30%以下の領域でもよく、結晶粒子の断面において表面側から粒径の20%以下の領域でもよい。そして、Si濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子において、中心部分ではSiが検出されないことが好ましい。Siが検出されないとは、結晶粒子を構成する酸化物成分100重量%に対して、SiO換算で、0.15重量%未満であることをいう。
【0048】
本実施形態において、Sn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子は、Si濃度も表面側で高い傾向を有する。すなわち、本実施形態では、上記結晶粒子αにおいて、Si濃度も中心部分と比較して表面側で高くなる傾向がある。そして、本実施形態に係るフェライト組成物は、Sn濃度だけでなくSi濃度も中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有することで、比誘電率を低減し、直流重畳特性を高めることができる。
【0049】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量する。なお、平均粒径が0.05~3.00μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0050】
主成分の原料としては、酸化鉄(α-Fe)、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)あるいは複合酸化物などを用いることができる。前記複合酸化物としては、例えば珪酸亜鉛(ZnSiO)が挙げられる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0051】
副成分の原料としては、酸化珪素、酸化スズ、酸化ビスマスおよび酸化コバルトを用いることができる。副成分の原料となる酸化物については特に限定はなく、複合酸化物などを用いることができる。前記複合酸化物としては、例えば珪酸亜鉛(ZnSiO)が挙げられる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0052】
なお、酸化コバルトの一形態であるCoは、保管や取り扱いが容易であり、空気中でも価数が安定していることから、コバルト化合物の原料として好ましい。
【0053】
まず、主成分の原料である酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛を混合し、原料混合物を得る。なお、上記の主成分の原料のうち、酸化亜鉛はこの段階で一部を添加して、かつ原料混合物の仮焼後に残部を添加しても良いし、この段階では添加せず、原料混合物の仮焼後に珪酸亜鉛とともに添加してもよい。また、副成分の原料の一部をこの段階で主成分の原料と混合してもよい。ここで、副成分の原料となる酸化スズおよび酸化珪素は、この段階で添加してもよいが、原料混合物の仮焼後に添加してもよい。酸化スズおよび酸化珪素をこの段階で添加し混合する場合には、仮焼における加熱温度を調整することで、Sn濃度およびSi濃度が、中心部分と比較して粒子表面側で高い結晶粒子を有するフェライト組成物が得られやすくなる。
【0054】
混合する方法は任意である。例えば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。
【0055】
次に、原料混合物の仮焼を行い、仮焼材料を得る。仮焼は、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。仮焼時間および仮焼温度は任意であるが、副成分の原料となる酸化スズおよび酸化珪素を原料混合物の仮焼前に添加した場合には、Sn濃度およびSi濃度が中心部分と比較して粒子表面側で高い結晶粒子を有するフェライト組成物を得る観点から、仮焼温度を850℃以下することが好ましく、820℃以下とすることがより好ましい。仮焼は、通常、大気(空気)中で行うが、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。
【0056】
次に、副成分の原料となる酸化スズ、酸化珪素、酸化ビスマス、酸化コバルトおよび珪酸亜鉛等を仮焼材料と混合し、混合仮焼材料を作製する。本実施形態では、この段階で、副成分の原料となる酸化スズおよび酸化珪素を添加することが好ましい。酸化スズおよび酸化珪素を仮焼材料に添加し混合することで、Sn濃度およびSi濃度が、中心部分と比較して粒子表面側で高い結晶粒子を有するフェライト組成物が得られやすくなる。
【0057】
次に、混合仮焼材料の粉砕を行い、粉砕仮焼材料を得る。粉砕は、混合仮焼材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。混合仮焼材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕仮焼材料の平均粒径が、好ましくは0.1~1.0μm程度となるまで行う。
【0058】
以下、上記の湿式粉砕後の粉砕材料を用いて図1に示す積層チップコイル1を製造する方法について説明する。
【0059】
図1に示す積層チップコイル1は、一般的な製造方法により製造することができる。すなわち、粉砕仮焼材料をバインダーと溶剤とともに混練して得たフェライトペーストを用いて、Agなどを含む内部電極ペーストと交互に印刷積層した後に焼成することで、チップ本体4を形成することができる(印刷法)。あるいはフェライトペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層して焼成することでチップ本体4を形成してもよい(シート法)。いずれにしても、チップ本体を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すればよい。
【0060】
フェライトペースト中のバインダーおよび溶剤の含有量は任意である。例えば、フェライトペースト全体を100重量%としてバインダーの含有量は1~10重量%程度、溶剤の含有量は10~50重量%程度の範囲で設定することができる。また、フェライトペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等を10重量%以下の範囲で含有させることができる。Agなどを含む内部電極ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは930℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0062】
たとえば、図2に示す積層チップコイル1aのセラミック層2を上述した実施形態のフェライト組成物を用いて構成してもよい。図2に示す積層チップコイル1aでは、セラミック層2と内部電極層3aとがZ軸方向に交互に積層してあるチップ本体4aを有する。
【0063】
各内部電極層3aは、四角状環またはC字形状またはコ字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30aを構成している。
【0064】
チップ本体4aのY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、Z軸方向の上下に位置する引き出し電極6aの端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイルを構成するコイル導体30aの両端に接続される。
【0065】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。図2に示す積層チップコイル1aでは、コイル導体30aの巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0066】
図1に示す積層チップコイル1では、チップ本体4の長手方向であるY軸方向にコイル導体30の巻軸があるため、図2に示す積層チップコイル1aに比較して、巻数を多くすることが可能であり、高い周波数帯までの高インピーダンス化が図りやすいという利点を有する。図2に示す積層チップコイル1aにおいて、その他の構成および作用効果は、図1に示す積層チップコイル1と同様である。
【0067】
また、本実施形態のフェライト組成物は、図1または図2に示す積層チップコイル以外の電子部品に用いることができる。例えば、コイル導体とともに積層されるセラミック層として本実施形態のフェライト組成物用いることができる。他にも、LC複合部品などのコイルと他のコンデンサ等の要素とを組み合わせた複合電子部品に本実施形態のフェライト組成物を用いることができる。
【0068】
本実施形態のフェライト組成物を用いた積層チップコイルの用途は任意である。例えばNFC技術や非接触給電などが採用されたICT機器(例えばスマートフォンなど)の回路など、特に高い交流電流が流れるために従来は巻線タイプのフェライトインダクタが用いられてきた回路にも好適に用いられる。
【実施例0069】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0070】
(実施例1)
主成分の原料として、Fe、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、SiO、ZnSiO、SnO、Biを準備した。なお、出発原料の平均粒径は0.05~3.00μmとした。
【0071】
次に、準備した主成分原料の粉末および副成分原料の粉末を、焼結体として表1(1)、(2)に記載のNo.1~66の組成になるように秤量した。
【0072】
秤量後に、準備した主成分原料のうち、Fe、NiO、CuO、および必要に応じてZnOの一部をボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。なお、試料No.63~66については、NiOを配合せずに原料混合物を得た。
【0073】
得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中で仮焼して仮焼材料を得た。仮焼温度は原料混合物の組成に応じて500~900℃の範囲で適宜選択した。その後、仮焼材料に前記湿式混合工程において混合しなかったZnOの残部、さらに副成分原料のSiO、ZnSiO、SnOおよびBiを添加しながらボールミルで粉砕し、粉砕仮焼材料を得た。
【0074】
次に、この粉砕仮焼材料を乾燥した後、粉砕仮焼材料100重量部に、バインダーとして重量濃度6%のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、トロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体、およびディスク形状(寸法=外径12mm×高さ2mm)の成形体を得た。
【0075】
これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である860~900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルおよびディスクサンプルを得た。さらに得られた各サンプルに対し以下の特性評価を行った。なお、秤量した原料粉末と焼成後の成形体とで組成がほとんど変化していないことを蛍光X線分析装置により確認した。
【0076】
密度
フェライト組成物の密度は、トロイダルコアサンプルについて焼成後の焼結体の寸法および重量から算出した。密度が4.20g/cm以上の場合に焼結性が良好であるとした。
【0077】
透磁率μ’
トロイダルコアサンプルについて、RFインピーダンス・マテリアルアナライザー(アジレントテクノロジー社製E4991A)およびテストフィクスチャ(アジレントテクノロジー社製16454A)を使用して透磁率μ’を測定した。測定条件としては、測定周波数10MHz、測定温度25℃とした。
【0078】
比誘電率ε
焼結体としてのディスクサンプルの両面に、In-Ga電極を塗り、LCRメーター(HEWLETT PACKARD社製4285A)を使用して、測定温度20℃、周波数1MHz、測定信号レベル1Vrmsの条件下で、静電容量Cを測定した。得られた静電容量Cと、焼結体の電極面積および電極間距離とから、比誘電率ε(単位なし)を算出した。比誘電率εは、SiOおよびSnOのいずれかを含有しない場合よりも低い場合を良好とした。
【0079】
直流重畳特性Idc
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、直流電流を印加したときの透磁率μをLCRメーター(HEWLETT PACKARD社製4284A)を用いて測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度25℃とした。印加する直流電流を0~8Aまで変化させながら透磁率を測定し、横軸に直流電流を、縦軸に透磁率をとってグラフ化した。そして、透磁率が直流電流0Aのときから10%低下するときの電流値をIdcとした。Idcが1.0A以上の場合に直流重畳特性が良好であるとした。印加する直流電流が0~8Aの間で透磁率μが10%低下しなかった場合は、Idcは8.0Aを超える(>8.0A)とした。
【0080】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn-Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(エーディーシー社製R8340)を用いて行った。比抵抗ρは1.0×10Ω・m以上(1.0.E+06Ω・m以上)を良好とした。
【0081】
【表1(1)】
【0082】
【表1(2)】
【0083】
表1(1)のNo.1~12では、主にSiO換算でのケイ素化合物の含有量を変化させている。No.2~6、9~12では、密度、透磁率、比誘電率、直流重畳特性、および比抵抗の全ての特性において、良好な結果が得られた。一方、ケイ素化合物の含有量が小さすぎるNo.1では直流重畳特性に劣り、No.8では直流重畳特性および比抵抗に劣る結果となった。また、ケイ素化合物の含有量の大きすぎるNo.7では比抵抗および密度に劣る結果となった。
【0084】
表1(1)のNo.13~31では、主にSnO換算でのスズ化合物の含有量を変化させている。No.14~17、19~22、24、25、28~31では、密度、透磁率、比誘電率、直流重畳特性、および比抵抗の全ての特性において、良好な結果が得られた。一方、スズ化合物の含有量が小さすぎるNo.13、18、23、27、およびスズ化合物の含有量が大きすぎるNo.26では、いずれも比抵抗に劣る結果となった。
【0085】
表1(2)のNo.32~40では、主にBi換算でのビスマス化合物の含有量を変化させている。No.34~39では、密度、透磁率、比誘電率、直流重畳特性、および比抵抗の全ての特性において、良好な結果が得られた。一方、ビスマス化合物の含有量が小さすぎるNo.33では、密度が小さすぎて透磁率、比誘電率、および直流重畳特性が評価できず、また比抵抗にも劣る結果となった。また、ビスマス化合物の含有量が大きすぎるNo.40では、比誘電率および比抵抗に劣る結果となった。
【0086】
表1(2)のNo.41~66では、主に主成分の組成を変化させている。No.43、45、47~49、52、54、56、58、60、62、64、66では、密度、透磁率、比誘電率、直流重畳特性、および比抵抗の全ての特性において、良好な結果が得られた。一方、酸化鉄の含有量が小さすぎるNo.41では、比抵抗に劣る結果となった。また、酸化鉄の含有量が大きすぎるNo.50では、直流重畳特性に劣る結果となった。
【0087】
(実施例2)
副成分の原料として、さらにCoを準備して焼結体として表2に記載のNo.67~76の組成になるように秤量した。また、主成分の仮焼材料に副成分原料のSiO、ZnSiO、SnO、Biと、さらにCoを添加しながらボールミルで粉砕して粉砕仮焼材料を得た。その他の調製条件は実施例1と同様にして、成形体を得た。実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2のNo.67~76では、主にCo換算での酸化コバルトの含有量を変化させている。No.68~76では、密度、透磁率、比誘電率、直流重畳特性、および比抵抗の全ての特性において良好な結果が得られ、特に直流重畳特性および比抵抗において良好な結果が得られた。
【0090】
(実施例3)
実施例1と同様に主成分の原料および副成分の原料を準備して、焼結体として表3に記載のNo.77~80の組成になるように秤量した。No.77、79については、実施例1と同様にして成形体を得た。実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0091】
No.78、80では、主成分原料としてFe、NiO、CuO、および必要に応じてZnOの一部、副成分原料としてSnOをボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中で仮焼して仮焼材料を得た。仮焼温度は880℃とした。その後、仮焼材料に前記湿式混合工程において混合しなかったZnOの残部、さらにSiO、ZnSiO、およびBiを添加しながらボールミルで粉砕し、粉砕仮焼材料を得た。その他の調製条件は実施例1と同様にして、成形体を得た。実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3のNo.77および79と、No.78および80とでは、副成分原料としてSnOを配合するタイミングが異なる。No.77および79では、SnOを原料混合物の仮焼後に配合したのに対し、No.78および80ではSnOを主成分原料とともに仮焼し仮焼材料とした。そのため、No.77および79では、Sn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子を有するフェライト組成物が得られたと考えられ、特に直流重畳特性において良好な結果が得られた。一方、No.78および80では、Sn濃度が一様である結晶粒子が形成されやすく、Sn濃度が中心部分と比較して表面側で高い結晶粒子が形成されにくかったために、No.77および79と比較すると直流重畳特性に劣る結果となったと考えられる。
【0094】
(実施例4)
実施例1で得られたNo.16、No.13の組成を有する焼結後のフェライト組成物(トロイダルコアサンプル)について、STEM-EDSにより観察した。図4図5は、それぞれNo.16、No.13のサンプルのSTEM-EDS画像である。図4図5に示すように、No.16、No.13のサンプルはいずれも結晶粒子を有することが確認された。また、図6図7は、それぞれNo.16、No.13のサンプルのSn元素マッピング画像であり、Sn元素が存在する部分は白く表示されている。図6に示すように、No.16のサンプルは、粒子表面側でSn濃度が大きい結晶粒子を有することが確認できた。一方、図7に示すように、No.13のサンプルではSn元素は確認できなかった。
【0095】
さらに、No.16のサンプルについて、STEM-EDSにより、結晶粒子の表面側から中心部分にかけての、Sn濃度を測定した。図8AはNo.16のサンプルのSTEM-EDS画像であり、図8Bは、図8Aの画像中の点線枠で囲んだ部分を拡大したものであってSn濃度を測定した位置を示す。図9Aは、図8Bに示す地点Iから地点IIにかけての、Fe、SnO、SiOの含有量(重量%)の変化を示すグラフであり、図9Bは、図9Aのグラフの縦軸を拡大したものである。また、地点Iから地点IIにかけてのFe、CuO、ZnO、NiO、SiO、SnO、Biの含有量(重量%)を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
図9A図9B、および表4では、地点Iから地点IIまで、すなわち、隣接する結晶粒子の表面付近を出発点(地点I)とし、隣接する結晶粒子と観察する結晶粒子との間にある粒界を経て、観察する結晶粒子の表面側から結晶粒子の中心部分にある地点IIまでのSn濃度およびSi濃度が示されている。図9A図9B、および表4によれば、No.16のサンプルでは、Sn濃度およびSi濃度が、粒子の中心部分と比較して粒子表面側で高い結晶粒子を有することがわかる。
【符号の説明】
【0098】
1,1a… 積層チップコイル
2… セラミック層
3,3a… 内部電極層
4,4a… チップ本体
5… 端子電極
6… 端子接続用スルーホール電極
6a… 引き出し電極
30,30a… コイル導体
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
【手続補正書】
【提出日】2022-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。図2に示す積層チップコイル1aでは、コイル導体30aの巻回軸が、Z軸に略一致する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0080】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn-Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(エーディーシー社製R8340)を用いて行った。比抵抗ρは1.0×106Ω・m以上(1.0E+06Ω・m以上)を良好とした。