(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148532
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20220929BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050258
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】村上 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】野田 竜太
(72)【発明者】
【氏名】植木 将博
(72)【発明者】
【氏名】平川 聡史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE25
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ防止、及び吐出性に優れ、さらに十分な画像濃度及び洗濯堅牢度を両立すること。
【解決手段】顔料、水分散性樹脂、界面活性剤、架橋剤および水を含み、
インク組成物全量に対して、
前記界面活性剤として、HLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤を0.1~3.0質量%含有し、
さらに、前記架橋剤として、ブロックイソシアネートを0.1~5.0質量%含有する捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水分散性樹脂、界面活性剤、架橋剤および水を含み、
インク組成物全量に対して、
前記界面活性剤として、HLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤を0.1~3.0質量%含有し、
さらに、前記架橋剤として、ブロックイソシアネートを0.1~5.0質量%含有する捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤が、HLBが1.0~3.0のノニオン性界面活性剤を含む請求項1に記載の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項3】
前記水分散性樹脂が、ウレタン系樹脂およびスチレンアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を含む請求項1又は2に記載の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として、特許文献1に記載のように、高いHLB値を有する界面活性剤、破断伸度が比較的低いウレタン樹脂と架橋剤を併用するものが公知である。また特許文献2のように、ブロックイソシアネートを架橋剤とし、HLB値が高い捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物も公知である。
しかしながら、このような捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物は、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ、及び吐出性に劣り、さらに十分な画像濃度及び洗濯堅牢度を両立できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-215506号公報
【特許文献2】特開2018-131581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ防止、及び吐出性に優れ、さらに十分な画像濃度及び洗濯堅牢度を両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を得た。
1.顔料、水分散性樹脂、界面活性剤、架橋剤および水を含み、
インク組成物全量に対して、
前記界面活性剤として、HLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤を0.1~3.0質量%含有し、
さらに、前記架橋剤として、ブロックイソシアネートを0.1~5.0質量%含有する
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
2.前記界面活性剤が、HLBが1.0~3.0のノニオン性界面活性剤を含む1に記載の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
3.前記水分散性樹脂が、ウレタン系樹脂およびスチレンアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を含む1又は2に記載の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物によれば、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ防止、及び吐出性に優れ、さらに十分な画像濃度及び洗濯堅牢度を両立するという顕著な効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物(以下、本発明のインク組成物ともいう)について、その成分を中心に詳細に説明する。
【0008】
<顔料>
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物は、各色相の顔料を1種以上含有させて、各色の捺染用インクジェットインク組成物とする。
このような顔料としては、通常のインクジェット印刷用インク組成物で従来から使用されている有機顔料又は無機顔料等の顔料を特に制限なく使用できる。
また有機又は無機の顔料を樹脂層により被覆してなる樹脂被覆顔料を採用することもできる。なお、本発明においては、酸価が5~100mgKOH/gのポリマーを含有する着色樹脂粒子や、染料を使用しても良く、使用しなくても良い。
そして有機顔料としては、例えば、染料レーキ顔料、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジコ系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、ニトロ系、ニトロソ系、アンスラキノン系、フラバンスロン系、キノフタロン系、ピランスロン系、インダンスロン系の顔料等が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、黒鉛、鉄黒、酸化クロムグリーン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
また、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物の代表的な色相ごとの顔料の具体例としては以下のものが挙げられる。
まず、捺染用インクジェットインク組成物として使用するためのイエロー顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、42、73、74、75、81、83、87、93、95、97、98、108、109、114、120、128、129、138、139、150、151、155、166、180、184、185、213等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Yellow 13、14、17、74、155、213等が挙げられる。
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として使用するためのマゼンタ顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、12、22、38、48:1、48:2、48:4、49:1、53:1、57、57:1、63:1、101、102、112、122、123、144、146、149、168、177、178、179、180、184、185、190、202、209、224、242、254、255、270、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Red 122、202、Pigment Violet 19等が挙げられる。
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として使用するためのシアン顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、18、22、27、29、60等で、好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3等が挙げられる。
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として使用するためのブラック顔料としては、例えば、カーボンブラック(C.I.Pigment Black 7)等が挙げられる。
捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物として使用するためのホワイト顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられ、好ましくは、アルミナ、シリカ等の種々の材料で表面処理された酸化チタンが挙げられる。
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物における顔料の含有量は、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物の全量に対して1.0~20.0質量%であることが好ましい。顔料の含有量が1.0質量%未満では、得られる印刷物の画像品質が低下する傾向がある。一方、20.0質量%を超えると、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物の粘度特性に悪影響を与える傾向がある。
【0009】
<顔料分散剤>
また、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物は、必要に応じてさらに顔料分散剤を含有していてもよい。
顔料分散剤は、顔料の分散性、本発明のインク組成物の保存安定性をさらに向上させるために使用するもので、従来から使用されているものを特に制限なく使用できるが、その中でも高分子分散剤を使用することが好ましい。このような顔料分散剤としては、カルボジイミド系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、変性ポリアクリレート系分散剤、変性ポリウレタン系分散剤、多鎖型高分子非イオン系分散剤、高分子イオン活性剤等が挙げられる。これら顔料分散剤は単独で又は2種以上を混合して使用できる。
特に、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体を使用することが好ましい。
上記顔料分散剤は、使用する全顔料の量を100質量部としたときに、1~200質量部含有することが好ましい。顔料分散剤の含有量が1質量部未満では、顔料分散性、本発明のインク組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。一方、200質量部を超えて含有させることもできるが効果に差がでない場合もある。中でも顔料分散剤の含有量の下限は5質量部以上がより好ましく、60質量部以下がより好ましい。
【0010】
<水分散性樹脂>
本発明における水分散性樹脂としては、ウレタン樹脂及びスチレン-アクリル樹脂が好ましい。
ウレタン樹脂の中でもポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂がより好ましい。さらに、ポリエーテル・ポリエステルポリウレタンが好ましい。
【0011】
このような物性を有する水分散性樹脂のなかでも、ウレタン樹脂は、NeoRez R-966、NeoRez R-967(DSM社)、タケラックW-6110、タケラックWS-5000(三井化学社)、Bayhydrol UH 650、Impranil DLP-R、Baybond PU407(住化コベストロウレタン社)、スーパーフレックス300、スーパーフレックス740(第一工業製薬社)、DAOTANTW6491、DAOTANTW6495(ダイセル・オルネクス社)等を使用することができる。
スチレン-アクリル樹脂は、スチレンと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体である。そしてスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンによる効果を損なわない範囲において、アクリルアミド、アクリロニトリル等のアクリル樹脂においてコモノマーとして使用できる周知のモノマーを採用できる。
このようなスチレンアクリル系樹脂として、例えばヨドゾールAD199(ヘンケル社)、モビニール966A(ジャパンコーティングレジン社)等を採用できる。
【0012】
そして、水分散性樹脂は顔料1質量部に対して0.01~2.0質量部となるように含有させることが好ましい。
0.01質量部未満であると、洗濯堅牢度や乾燥摩擦堅牢度が低下する可能性があり、また、2.0質量部を超えると、硬化後の風合いが劣る可能性がある。
本発明において、水分散性樹脂を1種類のみ使用することが好ましい。また2種類以上使用する場合であっても、その全ての樹脂が本発明中の物性を満たすことが必要である。
なお、本発明の効果を発揮する範囲において本発明中の水分散性樹脂と共に、別の樹脂
を併用してもよい。
【0013】
<界面活性剤>
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物は、HLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤を含有する。中でもHLBが1.3以上のものが好ましく、1.5以上のものがより好ましい。またHLBが4.5以下のものが好ましく、4.0以下のものがより好ましく、3.5以下のものがさらに好ましい。
本発明中の界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アセチレングリコール、アセチレングコールのエチレンオサイド付加物等を使用でき、ノニオン性フッ素系界面活性剤を使用しても良く、使用しなくても良い。
HLBが5.0を超える界面活性剤を使用すると、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ、及び吐出性に劣ることになり、ノニオン性ではない界面活性剤を使用すると、更に画像濃度も劣る。
またノニオン系界面活性剤以外のアニオン性、カチオン性、両性等の界面活性剤を含有できるが、その場合であっても、本発明による効果を毀損しない程度に含有する。HLBが5.0を超えるノニオン性界面活性剤を併用できるが、併用する場合であっても、本発明による効果を毀損しないことを前提に、HLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤の含有量1質量部に対して0.5質量部以下であることが好ましい。
本発明のインク組成物におけるHLBが1.0~5.0のノニオン性界面活性剤の含有量は、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物全量に対して0.1~3.0質量%であり、0.3質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましい。また2.7質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましい。
0.1質量%未満であると、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物の表面張力が高くなり、インクジェットヘッドからの吐出安定性が低下する。一方、3.0質量%を超えると、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物中に泡が増加し吐出安定性が低下する。
【0014】
<架橋剤>
本発明における架橋剤としては、ブロックイソシアネート化合物が使用される。なお、本発明による効果を毀損しない範囲で、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有ポリマー、エポキシ化合物、尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等とホルムアルデヒドとの付加物、多官能性アジリジン化合物等から選ばれる1種以上を使用できる。
さらに、水中に分散、乳化、溶解されているか、または水中に分散できる、乳化できるおよび/または溶解できる架橋剤が特に好ましい。
本発明において、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物全量に対して架橋剤を0.1~5.0質量%含有する。なかでも、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。また、4.5質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以下が最も好ましい。
架橋剤の濃度が0.1質量%未満であると、捺染物は洗濯堅牢度に劣り、5.0質量%を超えると吐出性に劣ることになる。
また、水分散性樹脂1質量部に対して0.02~0.6質量部含有することが好ましく、0.1~0.4質量部含有させることがより好ましく、0.15~0.3質量部含有させることがさらに好ましい。
0.03質量部未満であると、洗濯堅牢度や乾燥摩擦堅牢度が低下する可能性があり、0.5質量部を超えると、硬化後の風合いが劣る可能性がある。
【0015】
本発明にて架橋剤として使用されるブロックイソシアネート化合物とは、ポリイソシアネート化合物における活性なイソシアネート基をフェノールなどのブロック剤とあらかじめ反応させて不活性化したものである。ブロックイソシアネート架橋剤はその状態では架橋反応を行うことができず、化学的に安定であるが、熱処理などによってイソシアネート基に結合したブロック基を解離させて活性なイソシアネート基が形成されると、架橋反応が可能な状態となる。
【0016】
ブロックイソシアネート化合物のポリイソシアネート部分を構成する化合物としては、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物が好ましく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらのうち、トリイソシアネート化合物、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリスビウレット変性体等のヘキサメチレンジイソシアネートの変性物がより好ましい。
【0017】
そのようなポリイソシアネート部分を構成する化合物としては、1分子当たりイソシアネート基2個以上を有するポリイソシアネート化合物が挙げられ、例えばジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、テトライソシアネート化合物、ペンタイソシアネート化合物、ヘキサイソシアネート化合物など種々のポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。本実施形態に係るブロックイソシアネート架橋剤を構成するポリイソシアネート化合物は一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。接着剤の流れ出しを生じにくくする観点から、本実施形態に係るブロックイソシアネート架橋剤を構成するポリイソシアネート化合物はトリイソシアネート化合物を含有することが好ましい。
【0018】
ブロックイソシアネート架橋剤に係るブロック剤は特に限定されない。前述のフェノールのほか、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、2-ヒドロキシピリジン、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、アセトアニリド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム、カルバゾール、ジメチルピラゾール、トリアゾール等を用いてもよい。本実施形態に係るブロックイソシアネート架橋剤を構成するブロック剤は一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。また、ブロック剤とポリイソシアネート化合物との組み合わせも特に限定されず、その組み合わせが複数あって本実施形態に係るブロックイソシアネート架橋剤が複数種類の化合物から構成されていてもよい。
【0019】
ブロックイソシアネート化合物は熱分解型であることが好ましい。熱分解型である場合には、ブロック剤の種類やブロックされるポリイソシアネート化合物の種類などにより、ブロック剤の脱離反応、すなわち脱ブロック反応が顕著となる温度、(以下「脱ブロック温度」とする。)を調節することができる。この脱ブロック温度の具体的な温度は特に限定されないが、その温度が例えば70~130℃である場合には、その脱ブロック温度を有するブロックイソシアネート架橋剤を含む捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物は、架橋前における架橋点密度が低いまたは実質的にゼロである。しかしながら、架橋反応を進行させて架橋構造を形成することにより、架橋密度を高くすることができる。
【0020】
<溶剤>
本発明において、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物の印刷性を改善する等を目的として、水と水溶性有機溶剤を含有できる。その水溶性有機溶剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等のポリオール類、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のグリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、アルコール類、ケトン類、有機カーボネート類およびそれらの混合物から選択される。
そしてそのような水溶性有機溶剤の含有量は、捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物中に10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、27質量%以下がさらに好ましい。含有量が35質量%を超えると、粘度、吐出性、インク塗膜物性の点において、支障をきたすおそれがある。
【0021】
<添加剤>
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物には、必要に応じて種々の機能性を発現させるため、各種の添加剤を添加することができる。具体的には、光安定化剤、表面処理剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、可塑剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、保湿剤等が挙げられる。また、ビヒクルとして機能する硬化性ではない樹脂を配合しても良く、配合しなくても良い。
なお、アクリル系ブロックドイソシアネート基を含むアクリル樹脂粒子を含有しなくても良い。
【0022】
本発明のインク組成物を調製する方法としては特に限定されず、従来から公知の印刷用インク組成物や捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を得る方法を採用することができる。
具体的には、アニオン性基含有樹脂をアルカリ性水溶液に溶解しておき、これに顔料を加えて練肉する方法を採用できる。
【0023】
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を印字、硬化する方法として、具体的には、本発明のインク組成物をインクジェットヘッドにより基材に吐出した後、基材に着弾した本発明のインク組成物の塗膜を加熱し硬化させる方法が挙げられる。
例えば、基材への吐出(画像の印字)は、本発明のインク組成物をインクジェット記録用プリンターの低粘度対応のプリンタヘッドに供給し、基材に対して塗膜の膜厚が、例えば、1~60μmとなるように該インク組成物をプリンタヘッドから吐出することにより行うことができる。
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を印字するインクジェット記録方式用プリンター装置としては、従来から使用されているインクジェット記録方式用プリンター装置が利用できる。
加熱硬化に使用する装置としては、加熱硬化型インク組成物を硬化させるための公知の装置を採用できる。熱源としては、赤外線、電熱線、アイロン等の直接基材に接触して加熱する装置を挙げることができる。
なお、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を基材に吐出するに際し、前処理液を基材に塗布しても良く、塗布しなくても良い。
【0024】
<布帛>
本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物により捺染される基材としては、従来から使用されている布帛でよいが、例えば、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート、ナイロンもしくはポリエステル繊維からなる布帛、これら繊維の2種以上からなる混紡布帛等を使用できる。
【実施例0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実施例、比較例で使用した材料は次の通りである。表中の顔料、分散剤、樹脂、溶剤及び合計に関する欄の数値の単位は「質量%」である。
・評価方法
<ノズルプレート撥液性>
シリコーン製ノズルプレートに実施例および比較例の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を滴下し、5分後にノズルプレートを垂直に傾けた際のインク滴の残り方を、目視にて下記評価基準に従って評価した。
◎:ノズルプレートには何も残らない
〇:ノズルプレートにインクが一部残る
△:ノズルプレート上にインク全体が残るが、水にて洗浄することが可能である
×:ノズルプレート上にインク全体が残り、水にて洗浄することが不可能である
【0026】
<ノズルプレート汚れ>
京セラ社製ヘッドKJ4B-YHを搭載した評価用プリンターを用い、実施例及び比較例の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を使用して連続印刷を行った後、目視にて下記評価基準に従って評価した。
◎:連続1時間以上の実印刷動作で、ノズルプレートに汚れが見られない。
〇:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、ノズルプレートに汚れが見られない。
△:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、ノズルプレートに汚れは見られるが、水にて汚れを洗浄することが可能である。
×:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、ノズルプレートに汚れは見られ、水にて汚れを洗浄することが不可能である。
【0027】
<吐出性>
京セラ社製ヘッドKJ4B-YHを搭載した評価用プリンターを用い、実施例及び比較例の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を使用して連続印刷を行った後、下記評価基準に従って評価した。
◎:連続1時間以上の実印刷動作で、全ノズルで吐出不良が見られない。
〇:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、全ノズルで吐出不良が見られない。
△:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、吐出不可能となるノズルが存在する。
×:連続15分以上かつ1時間未満の実印刷動作で、全てのノズルが吐出不可能となる。
【0028】
<評価用印刷物の作成方法(白インク組成物による)>
綿100%の黒色布帛に、インクジェット捺染用処理液をA4サイズあたり10g含浸させた後に加熱乾燥し、京セラ社製ヘッドKJ4B-YHを搭載した評価用プリンターを用いて、実施例及び比較例の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を、ベタ印字が16回重なるような態様で印刷し、その後ヒートプレス機を用いて170℃の温度で1分間加熱して、実施例及び比較例の評価用印刷物を得た。
【0029】
<評価用印刷物の作成方法(白インク以外のインク組成物による)>
綿100%の白色布帛に、京セラ社製ヘッドKJ4B-YHを搭載した評価用プリンターを用いて、実施例及び比較例の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物を、ベタ印字が4回重なるような態様で印刷し、その後ヒートプレス機を用いて170℃の温度で1分間加熱して、実施例の評価用印刷物を得た。
【0030】
<画像濃度(白インク)>
実施例及び比較例の印刷物の明度(L*)を、色差計(製品名「DR-321」、コニカミノルタ社製)を用いて測定し、下記評価基準に従って評価した。
◎:L*が90以上
○:L*が80以上90未満
△:L*が60以上80未満
×:L*が60未満
【0031】
<画像濃度(白インク以外のインク)>
実施例及び比較例の印刷物の光学濃度(OD)を、色差計(製品名「DR-321」、コニカミノルタ社製)を用いて測定し、下記評価基準に従って評価した。
◎:ODが1.0以上
○:ODが0.8以上1.0未満
△:ODが0.6以上0.8未満
×:ODが0.6未満
【0032】
<洗濯堅牢度>
実施例及び比較例の印刷物を家庭用洗濯機で通常の洗濯(洗濯条件:通常モードでの洗濯→脱水→乾燥)を5回実施し、各印刷物の洗濯前と洗濯後の明度を色差計(製品名「DR-321」、コニカミノルタ社製)を用いて測定し、洗濯前の明度(L*)又は光学濃度(OD)の初期値からの変化率を測定し、下記評価基準に従って評価した。
◎:洗濯後において画像濃度が初期値の90%以上を保つもの
○:洗濯後において画像濃度が初期値の80%以上90%未満のもの
△:洗濯後において画像濃度が初期値の70%以上80%未満のもの
×:洗濯後において画像濃度が初期値の70%未満のもの
【0033】
・インク調製方法など
酸化チタン(商品名「タイペーク CR-90」、アルミナシリカ処理、平均一次粒子径0.25μm、吸油量21ml/100g、石原産業社)
青色顔料(C.I.ピグメントブルー15:3、商品名「LIONOL BLUE FG-7330」、トーヨーカラー社)
黄色顔料(C.I.ピグメントイエロー74、商品名「Brilliant Yellow 5GX」、クラリアント社)
赤色顔料(C.I.ピグメントレッド122、商品名「CROMOPHTAL PINK PT」、BASF社)
黒色顔料(C.I.ピグメントブラック7、商品名「MA100」、三菱ケミカル社)
【0034】
<水性アクリル樹脂ワニス>
質量平均分子量30,000、酸価140mgKOH/gの、アクリル酸/アクリル酸ラウリル/スチレン共重合体25部を水酸化カリウム3.5部と水71.5部との混合溶液に溶解させて、固形分25%の水性アクリル樹脂ワニスを得た。
【0035】
・分散液調製
<水性白色インクベースの調製>
上記水性アクリル樹脂ワニスの36部に水19部を加え混合し、更に酸化チタン45部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、水性白色インクベースを得た。
<水性青色インクベースの調製>
上記水性アクリル樹脂ワニスの16部に水64部を加え混合し、更に青色顔料20部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、水性青色インクベースを得た。
<水性黄色インクベースの調製>
上記水性アクリル樹脂ワニスの16部に水64部を加え混合し、更に黄色顔料20部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、水性黄色インクベースを得た。
<水性赤色インクベースの調製>
上記水性アクリル樹脂ワニスの16部に水64部を加え混合し、更に赤色顔料20部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、水性赤色インクベースを得た。
<水性黒色インクベースの調製>
上記水性アクリル樹脂ワニスの16部に水64部を加え混合し、更に黒色顔料20部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、水性黒色インクベースを得た。
【0036】
<インクジェット捺染用処理液の調製>
水83.7部に、硝酸カルシウム4水和物10部、ガラス転移温度-30℃のノニオン性スチレン-アクリル系自己架橋性樹脂エマルジョン(商品名:モビニール966A、ジャパンコーティングレジン社製、固形分45質量%)の6.0部、アセチレノールE100(HLB 13.5、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、川研ファインケミカル社製)の0.3部、を加えて攪拌し、インクジェット捺染用処理液を得た。
【0037】
(水分散性樹脂)
NeoRez R-966(DSM社)(ポリエーテルポリウレタン樹脂(有効成分含量33重量%))
Bayhydrol UH 650 (住化コべストロウレタン社)(ポリエステルポリウレタン樹脂(有効成分含量50重量%))
タケラックW-6110(三井化学社)(ポリカーボネートポリウレタン樹脂(有効成分含量32重量%))
モビニール 966A (ジャパンコーティングレジン社) (スチレン-アクリル樹脂(有効成分含量45重量%))
【0038】
(架橋剤)
Bayhydur BL2867(住化コべストロウレタン社)(ブロックイソシアネート(有効成分含量38重量%))
エポクロス WS-700(日本触媒社)(オキサゾリン基含有アクリル(有効成分含量25重量%))
カルボジライト V-02(日清紡ケミカル社)(カルボジイミド(有効成分40重量%))
【0039】
(界面活性剤)
ニューポールPE-71(三洋化成社)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(有効成分100重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値1.9
ニューポールPE-62(三洋化成社)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(有効成分100重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値4.2
サーフィノール104PG-50(日信化学工業社)(アセチレングリコール(有効成分50重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値4.0
ニューポールPE-74(三洋化成社)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(有効成分100重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値8.1
サーフィノール440(日信化学工業社)(アセチレングコールのエチレンオサイド付加物(有効成分100重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値8.0
ラテムルE-150(花王社)(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(有効成分33重量%))アニオン性界面活性剤
アンヒトール20AB(花王社)(ウリン酸アミドプロピルベタイン(有効成分30重量%))両性界面活性剤
オルフィンE1010(日信化学工業社)(アセチレングリコールのエチレンオサイド付加物有効成分100重量%))ノニオン性界面活性剤、HLB値13.0~14.0
【0040】
【0041】
各実施例に示すように、本発明の捺染用水性インクジェット印刷用インク組成物によれば、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ、吐出性、及び捺染部分の洗濯堅牢度に優れ、かつ捺染の画像濃度が高いものであった。
これに対して、架橋剤を使用しない比較例1によれば洗濯堅牢度に劣り、架橋剤を過剰に使用した比較例2によれば、吐出性に劣っていた。ブロックイソシアネートではない架橋剤を使用した比較例3及び4によれば、洗濯堅牢度に劣っていた。
また、HLBが1.0~5.0の界面活性剤を使用しなかった比較例5によれば、ノズルプレート撥液性、ノズルプレート汚れ、及び吐出性に劣っていた。界面活性剤を過剰に使用した比較例6によれば、洗濯堅牢度に劣っていた。
HLB値が5.0を超える界面活性剤のみを使用した比較例7及び8によれば、ノズルプレート撥液性が悪く、かつノズルプレート汚れが発生した。さらにノニオン系界面活性剤ではない界面活性剤を使用し、かつHLB値が5.0を超える界面活性剤を併用した比較例9及び10によれば、ノズルプレート撥液性が悪く、かつノズルプレート汚れが発生し、画像濃度は不十分であった。