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特開2022-148583スロットルの電子制御方法及び電子制御スロットル装置
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  • 特開-スロットルの電子制御方法及び電子制御スロットル装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148583
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】スロットルの電子制御方法及び電子制御スロットル装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20220929BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20220929BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F02D9/02 341Z
F02D9/02 351M
F02D41/14
F02D41/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050322
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 友宜
(72)【発明者】
【氏名】小黒 龍一
(72)【発明者】
【氏名】小島 仙睦
【テーマコード(参考)】
3G065
3G301
【Fターム(参考)】
3G065CA31
3G065DA04
3G065GA10
3G065GA41
3G065GA47
3G301JA31
3G301LA01
3G301LC03
3G301NA04
3G301PA11Z
3G301PE01Z
3G301PE06Z
3G301PE07Z
(57)【要約】
【課題】
スロットルの電子制御について、負荷印加時にエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくくする。
【解決手段】
入力されたデータ信号を基に電子制御ユニット10Aが制御信号を生成しながらスロットル2の開閉制御を行う電子制御スロットル装置1Aによるスロットルの電子制御方法において、その電子制御ユニット10Aが、算出したエンジン回転速度と入力されたエンジン回転速度指令との差からエンジン回転速度偏差を算出するとともに、エンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出し、エンジン回転速度偏差と係数の積から比例トルクを求めるとともに、エンジン回転速度偏差と係数の積よりエンジン回転加速度と係数の積を引いた値を積分して積分トルクを求めて、比例トルクと積分トルクの和をトルク指令の値としてスロットル2に対する制御信号を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたデータ信号を基に電子的制御手段が制御信号を生成しながらスロットルの開閉制御を行う電子制御スロットル装置による前記スロットルの電子制御方法において、前記電子的制御手段が、算出又は入力されたエンジン回転速度と入力されたエンジン回転速度指令との差からエンジン回転速度偏差を算出するとともに前記エンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出し、前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積から比例トルクを求めるとともに前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積より前記エンジン回転加速度と所定の係数の積を引いた値を積分して積分トルクを求め、前記比例トルクと前記積分トルクの和をトルク指令の値として前記スロットルに対する制御信号を生成することを特徴とするスロットルの電子制御方法。
【請求項2】
前記積分トルクを演算する際に前記エンジン回転加速度との積を求める前記係数が、前記エンジン回転速度が前記エンジン回転速度指令に収束する時の時定数であることを特徴とする請求項1に記載したスロットルの電子制御方法。
【請求項3】
アクチュエータが付設されたスロットルと電子的制御手段を備えており、前記電子的制御手段が入力されたデータ信号を基に制御信号を生成しながら前記アクチュエータを介して前記スロットルの開閉制御を行う電子制御スロットル装置において、前記電子的制御手段には、エンジン回転速度とエンジン回転速度指令との差からエンジン回転速度偏差を算出する回転速度偏差算出手段、前記エンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出する回転加速度算出手段、前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積から比例トルクを求める比例トルク演算手段、前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積よりエンジン回転加速度と所定の係数の積を引いた値を積分して積分トルクを求める積分トルク演算手段を備えており、請求項1または2に記載したスロットルの電子制御方法を実行することを特徴とする電子制御スロットル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気系に設置されるスロットルを電子制御システムにより開閉動作させるための制御方法及びそれを行うための電子制御スロットル装置に関し、殊に、負荷印加時にエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくくするスロットルの電子制御方法及び電子制御スロットル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、車両の燃費や走行性能の向上を図る目的でエンジン制御を高精度に行うため、例えば特開平5-240073号公報に記載されているように、エンジン吸気系に設置したスロットルを運転者のアクセル操作で機械的に開閉動作させる代わりに、電子的制御手段である電子制御ユニットの操作によりスロットルの開閉動作を行う電子制御スロットル装置が普及している。
【0003】
ところで、このような電子制御スロットル装置は、エンジンの運転状態における負荷量が急変したりアクセル操作なしで走行したりした場合に、電子制御ユニットによる制御が追随しなくなったり制御における予測値と実際値との間に差異が生じたりすることがあり、特に、エンジンの回転速度が急に落ち込んでエンジンストールに陥りやすくなるという問題があった。
【0004】
これに対し、本願出願人・発明者らは、電子制御ユニットでエンジン回転速度を監視しながら、エンジン回転速度が過剰に低下しないようにスロットル開度を制御するものとし、検知しているエンジン回転速度と目標回転速度(エンジン回転速度指令)との差を算出して回転速度の偏差を求め、この偏差の量に応じて適切な値として予め設定したスロットル動作を実現するように、スロットルのアクチュエータを駆動させる制御方法を先に発明し、特開平2008-38872号公報において提案している。
【0005】
このようにエンジン回転速度指令と実際のエンジン回転速度の偏差を求めてスロットルの電子制御を行うものにあっては、現在では図4に示す構成を有した電子制御スロットル装置1Bにより、図5に示すような手順による制御方法を実行するのが一般的である。
【0006】
即ち、クランクパルスセンサによるパルス信号から回転速度算出手段10aがエンジン回転速度を算出し、回転速度偏差算出手段10bがエンジン回転速度指令からエンジン回転速度を引いてエンジン回転速度偏差を算出し、比例トルク演算手段10cがエンジン回転速度偏差と係数の積から比例トルクを演算して求め、積分トルク演算手段10eがエンジン回転速度偏差と係数の積を積分して積分トルクを求め、その比例トルクの値と積分トルクの値の和をエンジンに要求するトルク指令としている。
【0007】
しかしながら、このような従来のスロットルの電子制御方法において、その積分トルクについては、エンジン回転速度偏差と係数の積を積分する際に、エンジン回転速度がエンジン回転速度指令よりも大きく回転速度偏差が負になる場合は常に減少方向に向かうことになる。
【0008】
そのため、図6のグラフに示すように、エンジン回転速度がエンジン回転速度指令よりも大きい状況で負荷をかけながら減速すると、エンジン回転速度がエンジン回転速度指令に対しアンダーシュートしたり、エンジンストールに陥ったりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-240073号公報
【特許文献2】特開平2008-38872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、スロットルの電子制御について、負荷印加時にエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた本発明は、入力されたデータ信号を基に電子的制御手段が制御信号を生成しながらスロットルの開閉制御を行う電子制御スロットル装置によるスロットルの電子制御方法において、その電子的制御手段が、算出又は入力されたエンジン回転速度と入力されたエンジン回転速度指令との差からエンジン回転速度偏差を算出するとともに前記エンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出し、前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積から比例トルクを求めるとともに前記エンジン回転速度偏差と所定の係数の積より前記エンジン回転加速度と所定の係数の積を引いた値を積分して積分トルクを求め、前記比例トルクと前記積分トルクの和をトルク指令の値としてスロットルに対する制御信号を生成することを特徴とするものとした。
【0012】
このように、スロットルに対するトルク指令を算出するための積分トルクについて、従来例ではエンジン回転速度偏差と係数の積を単に積分して求めていたのに対し、本発明においては、エンジン回転速度偏差と係数の積よりエンジン回転加速度と係数の積を引いた値を積分して求める方式を採用したことにより、その積分する値が、正のときは加速、負のときは減速するように動作するため、エンジン回転速度がエンジン回転速度指令よりも高い場合に積分トルクが過度に小さくならないことから、負荷印加時におけるエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくいものとした。
【0013】
また、本発明である電子制御スロットル装置の制御方法において、その積分トルクを演算する際にエンジン回転加速度との積を求める係数をエンジン回転速度がエンジン回転速度指令に収束する時の時定数であることを特徴としたものとすれば、エンジン回転速度指令に対するアンダーシュートやエンジンストールの防止作用が確実なものとなる。
【0014】
更に、アクチュエータが付設されたスロットルと電子的制御手段を備えており、その電子的制御手段が入力されたデータ信号を基に制御信号を生成しながらアクチュエータを介してスロットルの開閉制御を行う電子制御スロットル装置において、その電子的制御手段には、エンジン回転速度とエンジン回転速度指令の差からエンジン回転速度偏差を算出する回転速度偏差算出手段、エンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出する回転加速度算出手段、エンジン回転速度偏差と所定の係数の積から比例トルクを求める比例トルク演算手段、エンジン回転速度偏差と所定の係数の積よりエンジン回転加速度と所定の係数の積を引いた値を積分して積分トルクを求める積分トルク演算手段を備えており、上述したスロットルの電子制御方法を実行することを特徴としたものとすれば、前記本発明である制御方法による作用・効果を自動的に実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
トルク指令を求めるための積分トルクの演算に、エンジン回転加速度を用いることとした本発明によると、負荷印加時におけるエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくいものすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における好ましい実施の形態である電子制御スロットル装置の簡略化した構成図である。
図2図1に示した実施の形態である電子制御スロットル装置による制御内容を示す機能ブロック図である。
図3図1に示した実施の形態である電子制御スロットル装置による制御例におけるエンジン回転速度と積分トルクの推移を示すグラフである。
図4】従来例による電子制御スロットル装置の簡略化した構成図である。
図5図4の電子制御スロットル装置よる制御内容を示す機能ブロック図である。
図6図4の電子制御スロットル装置による制御例におけるエンジン回転速度と積分トルクの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明であるスロットルの電子制御方法を実行する好ましい実施の形態である電子制御スロットル装置1Aの機能的な構成を簡略的に示したものである。
【0019】
そして、この電子制御スロットル装置1Aは、図示しないアクチュエータが付設されたスロットル2と、スロットル2の開閉制御を行う電子的制御手段である電子制御ユニット10Aを備えており、この電子制御ユニット10Aが入力された各種データ信号を基に所定の算出方法により制御信号を生成しながら、スロットル2の開閉制御を自動的に行うようになっている。
【0020】
また、この電子制御ユニット10Aには、図示しない記憶手段に格納したソフトウエアにより機能的に構成される手段として、エンジン回転速度を算出する回転速度算出手段10a、エンジン回転速度偏差を算出する回転速度偏差算出手段10b、エンジン回転加速度を算出する回転加速度算出手段10d、比例トルクを求める比例トルク演算手段10c、積分トルクを求める積分トルク演算手段10eを備えている。尚、電子制御ユニット10Aに、パルス信号ではなくエンジン回転速度のデータ信号が入力される場合は、上述した回転速度算出手段10aは不要となる。
【0021】
次に、図1の構成図と図2の機能ブロック図を参照しながら、この電子制御ユニット10Aが実行する制御内容について詳細に説明する。
【0022】
まず、回転速度算出手段10aが図示しないクランクパルスセンサから入力されたパルス信号の周期からエンジン回転速度を算出し、回転速度偏差算出手段10bがエンジン回転速度と指令されたエンジン回転速度指令(目標回転速度)の差からエンジン回転速度偏差を算出し、回転加速度算出手段10dがエンジン回転速度を基にエンジン回転加速度を算出する。
【0023】
そして、比例トルク演算手段10cがエンジン回転速度偏差と所定の係数の積を演算して比例トルクを求め、積分トルク演算手段10eがエンジン回転速度偏差と所定の係数の積よりエンジン回転加速度と所定の係数の積を引いた値を積分する演算を行って積分トルクを求め、その比例トルクと積分トルクの和をトルク指令の値として、スロットル2に対する制御信号を生成するようになっている。
【0024】
この場合、その積分トルク演算手段10eが行う演算は以下の数式(1)によるものである。
【0025】
【数1】
【0026】
この数式(1)において、Torqiは積分トルク、Kiは積分トルクゲイン、ωrefはエンジン回転速度指令、ωはエンジン回転速度、τは任意に設定可能な係数、ω′はエンジン回転加速度であるが、本実施の形態においては、図4の従来の積分トルク演算手段10fで行っていた積分項に-τω′の項を追加したものであり、積分トルクを求める演算にエンジン回転加速度を用いる点を特徴としている。
【0027】
以下に、図3のグラフを参照しながら、本実施の形態の電子制御スロットル装置1Aによる作用を説明する。
【0028】
このグラフは、上述した電子制御スロットル装置1Aにおいて、実際のエンジン回転速度がエンジン回転速度指令よりも高い時に負荷を加えながらエンジン回転速度指令に収束する際の積分トルクの変化を示している。本実施の形態における積分トルクは、数式(1)における(ωref-ω)-τω′が正の時は加速、負の時は減速するように動作することになる。従って、この場合のエンジン回転速度は、(ωref-ω)-τω′=0、即ち、以下の数式(2)に追従するように動作する。
【0029】
【数2】
【0030】
この数式(2)から、ここで設定しているτはエンジン回転速度がエンジン回転速度指令に収束する時の時定数となる。そのため、図6に示した従来の制御における積分トルクのように、エンジン回転速度がエンジン回転速度指令よりも高い場合であっても積分トルクが過度に小さくならないため、エンジン回転速度のアンダーシュートを起こしにくくなり、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0031】
以上、述べたように、本発明により、スロットルの電子制御について、本発明により、負荷印加時にエンジンの回転速度低下やエンジンストールを生じにくくすることが可能なものとなった。
【符号の説明】
【0032】
1A 電子制御スロットル装置、2 スロットル、10A 電子制御ユニット、10a 回転速度算出手段、10b 回転速度偏差算出手段、10c 比例トルク演算手段、10d 回転加速度算出手段、10e 積分トルク演算手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6