(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148642
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】貨幣処理システム及び貨幣処理方法
(51)【国際特許分類】
G07D 7/00 20160101AFI20220929BHJP
G06Q 20/18 20120101ALI20220929BHJP
【FI】
G07D7/00 J
G06Q20/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050395
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】武内 隆
【テーマコード(参考)】
3E041
5L055
【Fターム(参考)】
3E041AA05
3E041CB08
3E041CB09
5L055AA39
(57)【要約】
【課題】正損識別の設定にかかる利用者の負担を軽減する。
【解決手段】貨幣処理システムを、貨幣の傷み具合を示す判定スコアを閾値と比較して貨幣を正貨又は損貨に分類する正損識別を行う第1モードと、複数のサンプル貨幣を処理して各貨幣の判定スコアを含むサンプルデータを出力する第2モードとで貨幣処理を実行可能な貨幣処理装置と、予め準備されている複数のデータの中から、第2モードの貨幣処理で得られたサンプルデータと近似するデータを選択し、選択したデータに対応して予め準備されている正損識別の設定データを貨幣処理装置に送信するサーバとによって構成し、貨幣処理装置が、サーバから受信した設定データに基づいて正損識別の閾値を設定し、該閾値を用いて第1モードの正損識別を実行するようにする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨幣の傷み具合を示す判定スコアを閾値と比較して前記貨幣を正貨又は損貨に分類する正損識別を行う第1モードと、複数のサンプル貨幣を処理して各貨幣の前記判定スコアを含むサンプルデータを出力する第2モードとで貨幣処理を実行可能な貨幣処理装置と、
予め準備されている複数のデータの中から、前記第2モードの貨幣処理で得られた前記サンプルデータと近似するデータを選択し、選択したデータに対応して予め準備されている正損識別の設定データを前記貨幣処理装置に送信するサーバと
を含み、
前記貨幣処理装置は、前記サーバから受信した前記設定データに基づいて正損識別の閾値を設定し、該閾値を用いて前記第1モードの正損識別を実行する
ことを特徴とする貨幣処理システム。
【請求項2】
前記サーバに予め準備されている各データには、判定スコア別の貨幣枚数の分布を示す分布データと、前記分布データを示す複数の貨幣を正貨と損貨に分ける前記判定スコアの閾値とが含まれており、
前記サーバは、前記サンプル貨幣の判定スコア別の貨幣枚数の分布を各分布データと比較して近似するデータを選択し、選択したデータに含まれる分布データの閾値を前記貨幣処理装置に送信する
ことを特徴とする請求項1に記載の貨幣処理システム。
【請求項3】
前記サーバに予め準備されている各データには、正損識別の複数の判定要素それぞれの分布データと、各判定要素の判定スコアの閾値とが含まれており、
前記サーバは、判定要素別に、前記サンプル貨幣の判定スコア別の貨幣枚数の分布を各分布データと比較して近似するデータを選択し、選択したデータに含まれる各判定要素の判定スコアの閾値を前記貨幣処理装置に送信する
ことを特徴とする請求項2に記載の貨幣処理システム。
【請求項4】
前記サーバに予め準備されている各データには、損貨に分類される貨幣のサンプル画像が含まれており、
前記貨幣処理装置は、前記サーバから受信した設定データに基づく閾値で正損識別を行うことにより損貨に分類される貨幣のサンプル画像を前記サーバから取得して表示する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の貨幣処理システム。
【請求項5】
前記サーバに予め準備されている各データには、貨幣処理装置の種類を示す装置情報と、貨幣処理装置が備える識別装置の種類を示す識別機情報と、貨幣処理装置が利用される業種を示す業種情報と、貨幣処理装置の用途を示す用途情報と、貨幣処理装置が設置されている場所を示す位置情報と、貨幣処理装置が処理する通貨を示す通貨情報との少なくとも1つが含まれており、
前記サーバは、第2モードで貨幣処理を実行した貨幣処理装置から、前記装置情報、前記識別機情報、前記業種情報、前記用途情報、前記位置情報、前記通貨情報のうち少なくともいずれか1つを取得して、取得した情報に対応するデータを選択する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の貨幣処理システム。
【請求項6】
貨幣処理装置が、複数のサンプル貨幣を処理して、各貨幣の傷み具合を示す判定スコアを含むサンプルデータを出力する工程と、
サーバが、予め準備されている複数のデータの中から前記サンプルデータと近似するデータを選択し、選択したデータに対応して予め準備されている正損識別の設定データを前記貨幣処理装置に送信する工程と、
前記貨幣処理装置が、前記サーバから受信した前記設定データに基づいて正損識別の閾値を設定し、該閾値を用いて貨幣の正損識別を実行する工程と
を含むことを特徴とする貨幣処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貨幣処理装置で貨幣の正損を識別するための貨幣処理システム及び貨幣処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貨幣の種類を識別する様々な貨幣処理装置が利用されている。例えば、貨幣処理装置は、貨幣の金種、真偽及び正損を識別し、種類別の枚数及び金額を計数したり、貨幣を種類別に分類したりすることができる。
【0003】
正損識別は、貨幣の傷み具合に応じて、各貨幣を正貨又は損貨に分類するために行われる。例えば、貨幣処理装置の利用者は、傷みのひどい貨幣を他の貨幣と区別して損貨として処理するために、貨幣を正貨と損貨とに分ける傷み具合の判定基準を設定する。貨幣処理装置は、この設定に基づいて貨幣の正損識別を行う。例えば、特許文献1には、正損識別の設定に関する情報を、ネットワークを介して送受信するATM(現金自動預払機)が開示されている。正損識別の設定を複数のATMで共有することで、同じ条件で貨幣を正貨と損貨とに分類することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、正損識別の設定に手間がかかる場合があった。例えば、金融機関の店舗と小売業の店舗とでは、使用される貨幣処理装置の種類が異なるため、損貨と判定する判定基準が異なる場合がある。この場合、金融機関の店舗で利用される貨幣処理装置と、小売業の店舗で利用される貨幣処理装置が1つの設定を共有しても、全ての貨幣処理装置で正貨と損貨を適切に分類することはできない。貨幣処理装置が正損識別を行って、利用者が求めるように正貨と損貨を分類するためには、利用者が、汚れ、破れ、皺等、正損識別に関する様々な判定基準を設定する必要がある。このため、正損識別の設定には手間がかかり利用者の負担となっていた。
【0006】
本開示は、上記課題を含む従来技術を鑑みてなされたもので、その目的の1つは、正損識別の設定にかかる利用者の負担を軽減することができる貨幣処理システム及び貨幣処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る貨幣処理システムは、貨幣の傷み具合を示す判定スコアを閾値と比較して前記貨幣を正貨又は損貨に分類する正損識別を行う第1モードと、複数のサンプル貨幣を処理して各貨幣の前記判定スコアを含むサンプルデータを出力する第2モードとで貨幣処理を実行可能な貨幣処理装置と、予め準備されている複数のデータの中から、前記第2モードの貨幣処理で得られた前記サンプルデータと近似するデータを選択し、選択したデータに対応して予め準備されている正損識別の設定データを前記貨幣処理装置に送信するサーバとを含み、前記貨幣処理装置は、前記サーバから受信した前記設定データに基づいて正損識別の閾値を設定し、該閾値を用いて前記第1モードの正損識別を実行する。
【0008】
上記構成において、前記サーバに予め準備されている各データには、判定スコア別の貨幣枚数の分布を示す分布データと、前記分布データを示す複数の貨幣を正貨と損貨に分ける前記判定スコアの閾値とが含まれており、前記サーバは、前記サンプル貨幣の判定スコア別の貨幣枚数の分布を各分布データと比較して近似するデータを選択し、選択したデータに含まれる分布データの閾値を前記貨幣処理装置に送信してもよい。
【0009】
上記構成において、前記サーバに予め準備されている各データには、正損識別の複数の判定要素それぞれの分布データと、各判定要素の判定スコアの閾値とが含まれており、前記サーバは、判定要素別に、前記サンプル貨幣の判定スコア別の貨幣枚数の分布を各分布データと比較して近似するデータを選択し、選択したデータに含まれる各判定要素の判定スコアの閾値を前記貨幣処理装置に送信してもよい。
【0010】
上記構成において、前記サーバに予め準備されている各データには、損貨に分類される貨幣のサンプル画像が含まれており、前記貨幣処理装置は、前記サーバから受信した設定データに基づく閾値で正損識別を行うことにより損貨に分類される貨幣のサンプル画像を前記サーバから取得して表示してもよい。
【0011】
上記構成において、前記サーバに予め準備されている各データには、貨幣処理装置の種類を示す装置情報と、貨幣処理装置が備える識別装置の種類を示す識別機情報と、貨幣処理装置が利用される業種を示す業種情報と、貨幣処理装置の用途を示す用途情報と、貨幣処理装置が設置されている場所を示す位置情報と、貨幣処理装置が処理する通貨を示す通貨情報との少なくとも1つが含まれており、前記サーバは、第2モードで貨幣処理を実行した貨幣処理装置から、前記装置情報、前記識別機情報、前記業種情報、前記用途情報、前記位置情報、前記通貨情報のうち少なくともいずれか1つを取得して、取得した情報に対応するデータを選択してもよい。
【0012】
本開示に係る貨幣処理方法は、貨幣処理装置が、複数のサンプル貨幣を処理して、各貨幣の傷み具合を示す判定スコアを含むサンプルデータを出力する工程と、サーバが、予め準備されている複数のデータの中から前記サンプルデータと近似するデータを選択し、選択したデータに対応して予め準備されている正損識別の設定データを前記貨幣処理装置に送信する工程と、前記貨幣処理装置が、前記サーバから受信した前記設定データに基づいて正損識別の閾値を設定し、該閾値を用いて貨幣の正損識別を実行する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る貨幣処理システム及び貨幣処理方法によれば、サンプルの貨幣を貨幣処理装置で処理することにより、貨幣処理装置の正損識別の設定を行うことができる。これにより、正損識別の設定にかかる利用者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る貨幣処理システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、貨幣処理システムで行われる処理を説明するための図である。
【
図3】
図3は、紙幣処理条件の入力画面の例を示す図である。
【
図4】
図4は、サーバが管理する正損設定データを説明するための図である。
【
図5】
図5は、正損設定データの探索方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、正損識別の設定画面の例を示す図である。
【
図7】
図7は、正損識別の設定候補が表示された画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る貨幣処理システム及び貨幣処理方法の実施の形態について説明する。本実施形態で言う貨幣は、紙幣であってもよいし、硬貨であってもよいし、紙幣と硬貨の両方であってもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係る貨幣処理システム1の構成例を示す図である。貨幣処理システム1は、サーバ10と、複数の貨幣処理装置20(20a、20b、20c)とを含む。貨幣処理装置20の数、及び各貨幣処理装置20の種類は特に限定されない。
【0017】
貨幣処理装置20は、例えば、操作部と、表示部と、制御部と、記憶部と、識別装置を含む貨幣処理部とを含む。制御部は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路(処理回路)を備え、記憶部に記憶された制御プログラムに従って貨幣処理部を制御する。記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶媒体を備え、制御部が利用する制御プログラムを記憶する。また、記憶部は、制御部の制御処理の際にワーク領域として利用される。貨幣処理装置20の構成は特に限定されない。例えば、操作部、表示部及び記憶部を含む操作端末が、貨幣処理部を含む別の装置と接続され、該装置と操作端末とによって貨幣処理装置20が実現される態様であってもよい。
【0018】
貨幣処理装置20は、操作部で受け付けた操作に基づいて、複数枚の貨幣を処理することができる。貨幣処理装置20は、貨幣処理部によって、予め準備された正損識別の設定情報に基づいて各貨幣の正損を識別して正貨と損貨とを分けることができる。このとき、貨幣処理装置20が、貨幣の金種及び真偽を識別してもよい。正損識別の設定情報は、例えば、貨幣処理装置20の記憶部に記憶されている。
【0019】
例えば、貨幣処理装置20は、複数枚の貨幣を受け付けて1枚ずつ装置内に取り込み、各貨幣を識別装置で識別して、識別結果に基づく処理を行う。貨幣処理装置20は、貨幣の処理結果を、記憶部に保存したり、表示部に表示したり、外部装置に送信したりすることができる。
【0020】
貨幣は、該貨幣から得られた特徴量に基づいて識別される。特徴量には、例えば、光学的特徴、磁気的特徴、大きさ及び厚みが含まれる。貨幣処理装置20の識別装置は、各特徴量に対応するセンサを含む。例えば、識別装置は、光学センサ、磁気センサ、厚みセンサ、超音波センサの少なくともいずれか1つを含む。
【0021】
貨幣処理装置20の識別装置は、各センサを利用して、各貨幣の特徴量を示すデータを取得する。貨幣処理装置20は、識別装置で取得した特徴量を示すデータから、汚れ、破れ、皺等、正損識別に利用する各判定要素の判定スコアを算出する。貨幣処理装置20内に予め準備されている正損識別の設定情報には、各判定要素に基づいて正貨と損貨とを分けるための判定スコアの閾値が含まれている。貨幣処理装置20は、各判定要素の判定スコアを閾値と比較して、貨幣が正貨と損貨のいずれに分類されるかを判定する。
【0022】
例えば、正損識別では、特徴量を示す複数のデータそれぞれから、又は、2つ以上のデータを組み合わせて、所定の演算によって各判定要素の判定スコアが算出される。判定スコアを閾値と比較することにより、各判定要素において貨幣が正貨と損貨のいずれに分類されるかが判定される。全ての判定要素における判定結果を総合して、各貨幣を正貨と損貨のいずれに分類するかが決定される。
【0023】
正損識別に利用する特徴量の種類及び数、判定要素の種類及び数、判定要素に基づく正損の判定方法は特に限定されないが、本実施形態では、貨幣処理装置20が各判定要素における貨幣の状態を0~10の間の数値で表した判定スコアを算出する場合を例に説明を続ける。例えば、汚れの閾値が「5」に設定されている場合、汚れの判定スコアが5以下の貨幣は正貨と判定され、判定スコアが5を超えるものは損貨と判定される。損貨と判定される判定要素が1つでもあれば、この貨幣は損貨と判定される。例えば、汚れ及び破れの判定で正貨と判定されても、皺の判定で損貨と判定されれば、この貨幣は損貨に分類される。
【0024】
従来、正損識別を行う貨幣処理装置20は、様々な場所で様々な目的に利用されている。例えば、銀行等の金融機関で利用される貨幣処理装置20として、ATM(現金自動預払機)、両替機、窓口で利用される貨幣処理装置、窓口後方に設置して利用される貨幣処理装置が知られている。また、例えば、スーパーマーケット等の小売業の店舗で利用される貨幣処理装置20として、両替機、精算用の貨幣処理装置、バックオフィスに設置して利用される貨幣処理装置が知られている。本実施形態に係る貨幣処理装置20は、従来装置と同様に、正損識別を伴う様々な貨幣処理を実行することができるが、このような貨幣処理を実行する装置の構成、機能及び動作は従来知られているため説明を省略する。
【0025】
サーバ10は、操作部、表示部、制御部及び記憶部を含むコンピュータ装置である。サーバ10の構成は特に限定されない。例えば、サーバ10が操作部及び表示部を含まず、通信端末を利用してサーバ10が操作される態様であってもよい。例えば、サーバ10が、複数の装置を組み合わせて実現される態様であってもよい。
【0026】
サーバ10は、ネットワーク2を介して、各貨幣処理装置20と通信することができる。サーバ10と各貨幣処理装置20との間で送受信される情報には、正損識別の設定に関する情報が含まれる。なお、
図1は例示であって、サーバ10と各貨幣処理装置20との間で行われる情報の遣り取りは、ネットワーク2を利用して行われる態様に限定されない。例えば、データの遣り取りに、他の通信技術が利用される態様であってもよいし、記憶媒体が利用される態様であってもよい。
【0027】
図2は、貨幣処理システム1で行われる処理を説明するための図である。以下、客との取引が行われる小売店舗に設置された、店員が利用する紙幣処理装置(貨幣処理装置)20において、紙幣(貨幣)の正損識別の設定を行う場合を例に、貨幣処理システム1で行われる処理を具体的に説明する。
【0028】
紙幣処理装置20は、学習モードで紙幣を処理することができる。例えば、店舗のチェックアウトカウンターで行われる精算処理のための紙幣処理、バックオフィスで行われる店舗の紙幣を管理するための紙幣処理は、通常モードで行われる。すなわち、従来よく知られている入金処理及び出金処理等の紙幣処理は通常モードで行われる。
【0029】
学習モードは、正損識別の設定を行うための動作モードである。店員は、紙幣処理装置20の動作モードを通常モードから学習モードに切り替えて、正損識別の設定用に予め準備したサンプル紙幣の紙幣処理を実行する。紙幣処理装置20は、サンプル紙幣から正損識別に利用する特徴量のデータを取得して、各判定要素の判定スコアを算出する。学習モードで動作する紙幣処理装置20は、紙幣処理装置20は判定スコアを閾値と比較したりサンプル紙幣を正券(正貨)と損券(損貨)とに分けたりする処理を行わなくてもよい。学習モードで得られた判定スコアは、紙幣処理装置20の正損識別の設定を行うために利用される。
【0030】
サンプル紙幣とは、店舗で日常的に処理される紙幣のサンプルである。サンプル紙幣から得られた正損識別に関する特徴量のデータが、正損識別における各判定要素の判定スコアの閾値決定に利用される。このため、サンプル紙幣は、通常モードで正券と識別される紙幣と、損券と識別される紙幣とを含む。サンプル紙幣における正券と損券の枚数の割合は、店舗の日常業務で処理される紙幣の正券と損券の枚数の割合と同様であることが好ましい。サンプル紙幣に含まれる紙幣の傷み具合は、店舗の日常業務で処理される紙幣と同様であることが好ましい。例えば、店員は、店舗の1日の売上金を構成する紙幣全て、又は、これらの紙幣から無作為に取り出した一部の紙幣をサンプル紙幣とすればよい。サンプル紙幣の枚数は特に限定されないが、数十枚以上であることが好ましい。
【0031】
サンプル紙幣とする紙幣の金種は、予め通貨毎に定められていてもよい。例えば、紙幣処理装置20が処理する紙幣が日本通貨であれば、流通量の多い千円札をサンプル紙幣の金種とすればよい。例えば、紙幣処理装置20が処理する紙幣が米国通貨であれば、流通量が多く、かつ、低額金種の紙幣に比べて丁寧に扱われる10ドル紙幣をサンプル紙幣の金種とすればよい。
【0032】
例えば、店員は、1日の店舗の売上金を構成する千円札をサンプル紙幣とすればよい。ただし、店員は、一万円札等、千円札以外の金種を含む1日の店舗の売上金を、そのまま学習モードの紙幣処理装置20で処理してもよい。学習モードで動作する紙幣処理装置20は、紙幣の金種を識別して、予め設定された金種のサンプル紙幣について、正損識別における各判定要素の判定スコアを取得するよう設定されている。このため、店員が、千円札以外の金種を含む紙幣を処理した場合でも、紙幣処理装置20は、サンプル紙幣の千円札を認識して、各千円札について得られた各判定要素の判定スコアを出力することができる。
【0033】
図2に示すように、店員は、紙幣処理装置20の動作モードを、通常モードから学習モードに切り替えて、予め準備しておいた複数枚のサンプル紙幣を処理する(ステップS1)。紙幣処理装置20は、複数枚のサンプル紙幣を1枚ずつ装置内に取り込み、識別装置で各紙幣の特徴量のデータを取得する。紙幣処理装置20は、取得した特徴量のデータから、正損識別の各判定要素における、各紙幣の判定スコアを算出する。
【0034】
紙幣処理装置20は、店員に、紙幣処理条件の入力を求める。紙幣処理条件には、紙幣処理装置20が実行する紙幣処理に関する情報が含まれる。店員は、必要に応じて、紙幣処理条件を入力することができる(ステップS2)。
図3は、紙幣処理条件の入力画面の例を示す図である。
図3に示すように、紙幣処理装置20の表示部に、紙幣処理条件の入力項目が表示される。例えば、入力項目には、紙幣処理装置、識別装置、通貨、業種、用途及び地域が含まれる。
【0035】
紙幣処理装置の項目には、紙幣処理装置20の種類を特定可能な情報が入力される。この情報に基づいて、各紙幣処理装置の機種が特定される。識別装置の項目には、紙幣処理装置20が備える識別装置の種類を特定可能な情報が入力される。同一機種の紙幣処理装置の中に、識別装置の機能及び構成が異なるものが含まれる場合に、識別装置の情報から、紙幣処理装置20が搭載する識別装置が特定される。同一の識別装置の中に、機能の違いを示すバージョンが異なる装置が含まれる場合には、識別装置の情報が、バージョン情報を含んでいてもよい。
【0036】
図3に示す例では、矩形で囲まれた情報は店員が入力した情報で、紙幣処理装置、識別装置及び通貨の項目の情報は、紙幣処理装置20が自動的に入力した情報である。紙幣処理装置及び識別装置の情報は、紙幣処理装置20が内部に保有する情報に基づいて自動的に入力される。通貨の情報は、紙幣処理装置20が学習モードでサンプル紙幣を処理して得られた識別結果に基づいて自動的に入力される。
【0037】
図3に示す業種の項目には「金融」、「流通」等、紙幣処理装置20が利用される業種を選択するための選択肢が表示される。店員は、表示された選択肢の中から、紙幣処理装置20を利用する店舗の業種を選択して入力することができる。
図3は、店員が「流通」を選択した状態を示している。
【0038】
用途の項目には「精算」、「両替」等、紙幣処理装置20の用途を選択するための選択肢が表示される。店員は、表示された選択肢の中から、紙幣処理装置20の用途を選択して入力することができる。
図3には示していないが、用途の項目には、業種が金融である場合に対応して「ATM」、「窓口」等の選択肢も表示される。
図3は、店員が「精算」を選択した状態を示している。
【0039】
地域の項目には、紙幣処理装置20の利用場所を示す情報が入力される。例えば、店舗の所在地を示す地域が入力される。地域として入力される単位は特に限定されず、例えば、国単位であってもよいし、国よりも小さい県又は市町村等の単位であってもよい。
図3は、店員が「X」を選択した状態を示している。例えば、店員が紙幣処理装置20の操作部で画面上の「X」部分を押す操作を行うと、地域の選択肢を含む画面が表示され、店員は画面上で地域を選択して入力することができる。地域の入力は手動で行われる態様に限定されず、例えば、紙幣処理装置20が、IPアドレス等、ネットワーク2で取得可能な情報から紙幣処理装置20が設置されている地域を特定して自動入力する態様であってもよい。
【0040】
図3は、紙幣処理装置20の種類を示す装置番号が「M01」、紙幣処理装置20の備える識別装置の識別機番号(装置番号)が「R01」、紙幣処理装置20の設置場所が地域「X」であることを示している。また、
図3は、紙幣処理装置20が、流通分野の店舗で、精算処理を行うために、日本通貨の貨幣処理に利用されることを示している。
【0041】
紙幣処理装置20は、
図2に示すステップS1で得られたサンプル紙幣のデータと、ステップS2で得られた紙幣処理条件とをサーバ10に送信する(ステップS3)。紙幣処理装置20から送信されるサンプルデータには、各サンプル紙幣の判定要素別の判定スコアが含まれる。すなわち、縦軸を紙幣枚数、横軸を判定スコアとして、各判定要素における紙幣枚数の分布をグラフで表すことが可能なデータが含まれる。
【0042】
サーバ10は、例えば記憶部内で、正損設定データを管理している。
図4は、サーバ10が管理する正損設定データを説明するための図である。
図4(a)は、1つの正損設定データを示す図である。
【0043】
図4(a)の正損設定データが、
図4(b)の一番上にある番号「01」のデータに対応している。
図4(a)に示すように正損識別情報を含む正損設定データが、
図4(b)に示すように、紙幣処理条件に含まれる各情報別に管理されている。すなわち、正損識別情報を含むデータセットである正損設定データが、紙幣処理装置、識別装置、業種、用途、地域、通貨の各項目別に、複数管理されている。
【0044】
図4に示す正損設定データにおける紙幣処理条件の各項目が、
図3に示す各項目と対応している。
図4(b)に示すように、サーバ10は、正損設定データを利用して、紙幣処理装置の種類及び識別装置の種類に応じた正損識別情報を管理することができる。例えば、同じ種類の紙幣処理装置に、種類の異なる識別装置が搭載される場合、サーバ10は、識別装置の種類に応じた複数種類の正損識別情報を管理することができる。
【0045】
サーバ10は、正損設定データを利用して、業種、用途及び地域に応じた正損識別情報を管理することができる。紙幣処理装置及び識別装置の種類が同じであっても、業種によって正損識別の判定基準が異なる場合がある。業種が同じであっても、紙幣処理装置の用途によって正損識別の判定基準が異なる場合がある。業種及び用途が同じであっても、紙幣処理装置が利用される地域によって正損識別の判定基準が異なる場合がある。これらに対応できるように、サーバ10は、業種、用途及び地域のそれぞれに応じた複数種類の正損識別情報を管理することができる。
【0046】
サーバ10は、正損設定データを利用して、通貨の種類に応じた正損識別情報を管理することができる。他の紙幣処理条件が同じであっても、通貨の種類が異なるために、正損識別の判定基準が異なる場合がある。これに対応できるように、サーバ10は、通貨の種類に応じた複数種類の正損識別情報を管理することができる。
【0047】
図4に示すように、正損識別情報には、番号、分布、閾値、利用率及びサンプルの項目が含まれる。番号の項目には、各正損識別情報を区別するために割り当てられた番号が登録されている。分布の項目には、紙幣処理装置20が取得したサンプル紙幣のデータと比較するためのデータが登録されている。閾値の項目には、正損識別の設定に利用される閾値が登録されている。利用率の項目には、同じ紙幣処理条件で紙幣処理を実行する紙幣処理装置のうち、どのくらいの紙幣処理装置が、閾値の項目に登録された閾値の設定を利用して正損識別を行っているかを示す装置台数の割合が登録されている。
【0048】
サンプルの項目には、閾値の項目に登録された閾値の設定を利用して正損識別を行う場合に、正券に分類される紙幣のサンプル画像と、損券に分類される紙幣のサンプル画像とが登録されている。汚れのサンプル画像、破れのサンプル画像というように、正損識別の判定要素別にサンプル画像が登録されている。閾値を変更した場合に、正券に分類される紙幣及び損券に分類される紙幣がどのように変化するかを示すことができるように、各判定要素について正券のサンプル画像及び損券のサンプル画像がそれぞれ複数登録されている。ただし、これらは例示であって、サンプル画像の登録方法は特に限定されず、正損識別の判定要素によらずサンプル画像が登録される態様であってもよいし、正券のサンプル画像と損券のサンプル画像のいずれか一方のみが登録される態様であってもよい。1つの正損設定データに登録される正券のサンプル画像の数及び損券のサンプル画像の数も特に限定されない。
【0049】
正損識別情報の分布の項目には、学習モードで処理されるサンプル紙幣と同一金種の紙幣について、正損識別の判定要素別に、縦軸を紙幣枚数、横軸を判定スコアとして、各判定スコアにおける紙幣枚数の分布をグラフで表すことが可能なデータが登録されている。閾値の項目には、サンプル紙幣と同一通貨の複数金種の紙幣について、正損識別の判定要素別に、閾値が登録されている。例えば、サンプル紙幣が日本通貨である場合、分布の項目にはサンプル紙幣として処理される千円札のデータのみが登録される一方で、閾値の項目には、一万円札の正損識別の閾値等、日本通貨の識別に必要となる他金種の閾値も登録される。
【0050】
顧客情報の項目には、正損設定データに登録されている閾値の設定を採用した顧客の情報が登録される。例えば、小売店を特定可能な顧客番号、金融機関を特定可能な顧客番号が、顧客情報の項目に登録される。顧客情報の利用方法については後述する。
【0051】
図4に示す正損設定データは、過去に様々な紙幣処理装置で行われた紙幣処理の情報に基づいて予め準備されている。利用率は、紙幣処理条件に登録されている条件で紙幣処理を行う紙幣処理装置のうち、正損識別情報に登録されている閾値を採用した紙幣処理装置の台数の割合を示している。
図4(a)に示す例では、この閾値の設定が、紙幣処理条件に示す条件下で利用される紙幣処理装置の23%で採用されたことを示している。
【0052】
サーバ10は、
図4(b)に示すように、正損識別情報を含む正損設定データを多数管理している。サーバ10は、
図2に示すステップS3で紙幣処理装置20から取得したサンプルデータ及び紙幣処理条件に基づいて、店舗の紙幣処理装置20に適した正損識別の閾値を含む正損設定データを探索する(ステップS4)。
【0053】
図3に示す紙幣処理条件を紙幣処理装置20から取得したサーバ10は、
図4(b)に示す複数の正損設定データの中から、紙幣処理条件が一致する正損設定データを探索する。すなわち、サーバ10は、
図4(b)に示す紙幣処理条件において、紙幣処理装置の装置番号が「M01」、識別装置の識別機番号が「R01」、業種が「流通」、用途が「精算」、地域が「X」、通貨が日本通貨「JPY」の正損設定データを絞り込む。
【0054】
サーバ10は、絞り込んだ正損設定データの中から、分布の項目に、紙幣処理装置20で得られたサンプルデータと近似するデータが登録されている正損設定データを探索する。探索は、分布の項目に登録されているデータから得られる判定スコア別の紙幣枚数の分布と、サンプルデータから得られる判定スコア別の紙幣枚数の分布とを比較することによって行われる。
【0055】
図5は、正損設定データの探索方法を説明するための図である。左側の実線で囲まれたデータは、紙幣処理装置20がサンプル紙幣を識別して得られたサンプルデータである。右側の破線で囲まれたデータは、各正損設定データの分布の項目に登録されているデータである。サーバ10は、
図5に示すように、サンプルデータ及び各正損設定データについて、判定スコアを横軸、各判定スコアを示した紙幣枚数を縦軸とする分布図を生成する。サーバ10は、正損識別の判定要素別に、サンプルデータの分布図と正損設定データの分布図とを比較する。
【0056】
具体的には、サーバ10は、サンプルデータの分布図を、各正損設定データから得られる分布図と比較して、波形の近似性を評価する評価値を算出する。例えば、サーバ10は、波形の相関性を示す相関係数を評価値として利用する。判定スコア別の紙幣枚数を表した分布波形を比較することにより、紙幣処理装置20で処理されたサンプル紙幣の枚数によらず、サンプル紙幣のデータと近似するデータが登録されている正損設定データを探索できるようになっている。なお、波形の近似性の評価方法は特に限定されず、例えば、回帰分析、最小二乗法、構造方程式モデリング等、他の技術を利用する態様であってもよい。
【0057】
サーバ10は、汚れ、破れ、皺等、正損識別の各判定要素について、分布波形の相関性を示す評価値を算出する。サーバ10は、各判定要素について算出した評価値の合計値を、各正損設定データの総合評価値とする。サーバ10は、業種、用途、地域等に基づいて絞り込んだ正損設定データそれぞれの総合評価値を算出して比較し、サンプルデータと最も近いデータが分布の項目に登録されている正損設定データを特定する。総合評価値が同一の正損設定データが複数ある場合、サーバ10は、各正損設定データの利用率を比較して、利用率の数値が最も高い正損設定データを、サンプルデータに最も近似するデータとして特定する。なお、総合評価値の算出方法は特に限定されず、例えば、各判定要素の評価値に重み付けを行う所定の演算式から総合評価値が算出される態様であってもよい。
【0058】
サンプルデータと近似する正損設定データを特定したサーバ10は、この正損設定データの閾値の項目に登録されている閾値を、紙幣処理装置20の正損識別の閾値とすることを決定する(
図2ステップS5)。
【0059】
サーバ10が、ステップS3で紙幣処理装置20から受信した情報の中に顧客番号が含まれていた場合、サーバ10は、
図2に示すステップS4で、顧客番号に基づいて正損設定データを探索することができる。
【0060】
例えば、顧客は、新たな紙幣処理装置20を導入する際に、ステップS2で顧客番号を入力することができる。紙幣処理装置20は、
図3に示す紙幣処理条件と共に、顧客番号をサーバ10に送信する。サーバ10は、
図4(b)に示す複数の正損設定データの中から、紙幣処理装置20から取得した顧客番号が登録されている正損設定データを探索する。同一の顧客番号が登録された正損設定デーが存在しない場合は、上述したように、サンプルデータと近似する正損設定データを探索する処理が行われる。一方、同一の顧客番号が登録された正損設定データが存在する場合、サーバ10は、この正損設定データの閾値の項目に登録されている閾値を、紙幣処理装置20の正損識別の閾値とすることを決定する(
図2ステップS5)。
【0061】
このように、同じ顧客が同じ紙幣処理条件で利用する紙幣処理装置の正損設定データが存在する場合は、この正損設定データに登録されている正損識別の閾値を、新たに導入した紙幣処理装置20の正損識別の閾値とすることができる。
【0062】
なお、同じ顧客が利用する紙幣処理装置20であっても、この顧客が利用する従来装置と新たな装置20とで用途が異なれば、閾値を採用可能な正損設定データは見つからず、サンプルデータと近似する正損設定データが選択されて閾値が決定されることになる。このとき、サーバ10は、この正損設定データの顧客情報の項目に、顧客番号を登録する。これにより、この顧客が同じ種類の紙幣処理装置を同じ用途で追加導入する場合、サーバ10は、追加導入された装置の閾値を顧客番号に基づいて決定できるようになる。
【0063】
サーバ10は、決定した閾値を紙幣処理装置20に送信する(
図2ステップS6)。サーバ10が送信する閾値には、汚れの判定スコアの閾値、破れの判定スコアの閾値等、各判定要素の判定スコアの閾値が含まれる。
【0064】
サーバ10から閾値を受信した紙幣処理装置20は、これらの閾値を正損識別の閾値として設定する(ステップS7)。正損識別の設定が終わると、紙幣処理装置20の動作モードは学習モードから通常モードに切り替わる。通常モードで紙幣処理を実行する際、紙幣処理装置20は、ステップS7で設定された閾値を用いて正損識別を実行する。
【0065】
このように、貨幣処理システム1の利用者は、紙幣処理装置20の動作モードを学習モードに切り替えてサンプル紙幣を処理することにより、正損識別に必要となる各判定要素の閾値を設定することができる。設定は、紙幣処理装置20の種類、紙幣処理装置20が備える識別装置の種類、紙幣処理装置20が利用される業種、用途、地域、通貨等に応じて自動的に行われる。これにより、正損識別の設定にかかる利用者の負担が軽減される。
【0066】
店員は、紙幣処理装置20の正損識別の設定を完了する前に、設定内容を確認することができる。具体的には、
図2に示すステップS6でサーバ10から閾値を受信した紙幣処理装置20が、正損識別の設定画面を表示部に表示する設定とすることができる。店員は、設定画面上で、正損識別の設定内容を確認し、必要に応じて設定内容を手動で変更することができる。
【0067】
図6は、紙幣処理装置20の表示部に表示される正損識別の設定画面の例を示す図である。画面左上の処理条件の枠内には、
図2に示すステップS2で、店員が、
図3に示すように入力した紙幣処理条件が表示される。
【0068】
画面下の正損設定の枠内には、サーバ10から受信した閾値に関する情報が表示される。左側には、この設定で紙幣処理装置20が正損識別を行った際に、損券に分類される紙幣枚数の割合を示す参考値が表示される。右側には、サーバ10から受信した、正損識別の各判定要素の判定スコアの閾値が表示される。
【0069】
図6は、複数の判定要素のうち、汚れの判定スコアの閾値が5.7、破れの判定スコアの閾値が4.3、皺の判定スコアの閾値が3.4に設定されることを示している。また、
図6は、紙幣処理装置20が、これらの閾値で紙幣処理を行った場合に、全体の2.1%の紙幣が損券に分類される可能性があることを示している。損券発生率の数値は、
図4に示す正損設定データの分布及び閾値の項目に登録されているデータから算出することができる。
【0070】
図6に示す設定面画上には、正券及び損券のサンプル画像が表示される。サンプル画像は、
図4に示すサンプルの項目に登録されている画像データである。サンプル画像は、正損識別の判定要素別に表示される。店員は、汚れ、破れ、皺等の各判定要素について、どのような紙幣が正券に分類されて、どのような紙幣が損券に分類されるのかを画像で確認することができる。
図6に示す例では、正券及び損券の両方のサンプル画像が表示されているが、正券のサンプル画像のみが表示される態様であってもよいし、損券のサンプル画像のみが表示される態様であってもよい。
【0071】
損券発生率及びサンプル画像を確認した店員が、閾値を変更したいと考えた場合、設定画面の正損設定の枠内にある閾値変更ボタンを押して、閾値を変更することができる。店員は、紙幣処理装置20の操作部を操作して、判定スコアを示す直線上に矢印で示されている閾値の位置、又は矢印の上に表示されている閾値の数値を変更することにより、各判定要素の閾値を変更することができる。閾値が変更されると、サーバ10は、変更後の閾値に基づいて、画面上に表示されている損券発生率の数値と、正券サンプル及び損券サンプルの画像とを変更することができる。店員は、閾値の変更により、画面上の損券発生率及びサンプル画像がどのように変化するかを確認しながら、閾値を設定することができる。店員が、設定画面上のキャンセルボタンを押した場合は、変更内容がキャンセルされて、
図6に示す元の画面へ戻るようになっている。
【0072】
店員が画面右下の設定完了ボタンを押すと、サーバ10及び紙幣処理装置20は正損識別の設定を終了する。店員が閾値を変更せずに設定を終了した場合は、上述したように、通常モードの紙幣処理における正損識別が、サーバ10から受信した閾値で行われることになる。
【0073】
一方、
図6に示す画面上で店員が閾値を変更した場合は、変更後の閾値が、紙幣処理装置20の正損識別の閾値に設定されて、通常モードの紙幣処理における正損識別が、店員によって変更された閾値で行われることになる。この場合、サーバ10は、
図2のステップS5で閾値を決定した正損設定データと、店員が変更した変更後の閾値とを関連付けて記録することができる。この記録は、新たな正損設定データを準備するために利用される。
【0074】
このように、貨幣処理システム1では、紙幣処理装置20でサンプル紙幣の紙幣処理を行って、サーバ10によって正損識別の閾値が決定された後、利用者が、紙幣処理装置20の操作部及び表示部を利用して閾値を手動で変更することもできる。
【0075】
本実施形態では、
図4に示す正損設定データの紙幣処理条件が、貨幣処理装置の種類、識別装置の種類、業種、用途、地域、通貨の各情報を含む例を示したが、紙幣処理条件が、これらのうち一部の情報のみを含む態様であってもよいし、
図4に示していない他の情報を含む態様であってもよい。同様に、正損識別情報が、
図4に示す複数の情報のうち一部の情報を含まない態様であってもよいし、
図4に示していない他の情報を含む態様であってもよい。
【0076】
本実施形態では、
図2のステップS4で、
図3に示すように店舗の紙幣処理装置20で入力された紙幣処理条件の全てを利用して、正損設定データが絞り込まれる態様を示したが、一部の情報のみを利用して正損設定データが絞り込まれる態様であってもよい。例えば、貨幣処理装置20を特定する情報により識別装置を特定できる場合は、識別装置の情報を利用しない態様であってもよい。サーバ10が地域毎に設けられ、各地域の貨幣処理装置20が、その地域のサーバ10と通信するよう設定されている場合には、地域の情報を利用しない態様であってもよい。同様に、通貨、業種、用途の情報についても、これらのうち少なくともいずれか1つを利用しない態様であってもよい。
【0077】
本実施形態では、説明を簡単にするために、サーバ10が、正損識別に利用される各判定要素の判定スコアの閾値を設定する例を説明したが、サーバ10が行う正損識別の設定がこれに限定されるものではない。例えば、サーバ10が、貨幣処理装置20が備える識別装置の各センサの出力値の閾値を設定する態様であってもよい。また、例えば、サーバ10が、判定スコアの算出に利用する関数を設定したり、関数に含まれる係数を設定したりする態様であってもよい。設定に必要な情報を
図4に示す正損設定データに予め登録することにより、サーバ10は、登録内容に応じた設定を実行することができる。
【0078】
本実施形態では、サーバ10が、正損識別における各判定要素の判定スコア別の紙幣枚数を示す分布波形に基づいて、サンプル紙幣のデータと正損設定データの近似性を評価する態様を示したが、近似性の評価方法がこれに限定されるものではない。例えば、正損識別に利用する複数の判定要素のうち一部の判定要素についてのみ近似性を評価する態様であってもよい。サンプル紙幣のデータと正損設定データの近似性の評価が、上述した相関係数に基づく方法ではなく、他の評価手法を利用して評価される態様であってもよい。
【0079】
本実施形態では、貨幣処理装置20で得られたサンプルデータに基づいてサーバ10が1つの正損設定データを選択し、この正損設定データに基づいて、貨幣処理装置20の正損識別の設定が行われる例を説明した。正損識別の設定方法がこれに限定されるものではなく、例えば、サーバ10が複数の正損設定データを選択して、複数の設定候補の中から、利用者に設定を選択させる態様であってもよい。例えば、上述したようにサンプルデータと各正損設定データとの近似性を示す総合評価値を算出したサーバ10は、
図2に示すステップS4及びS5で、総合評価値が高いものから順に複数の正損設定データを選択する。サーバ10は、複数の正損設定データそれぞれに基づく正損識別の設定候補を、貨幣処理装置20の画面上に表示する。
図7は、正損識別の設定候補が表示された画面例を示す図である。例えば、
図7左下に示すように各設定候補を選択するための候補ボタンを画面上に設けて、候補ボタンの操作に応じて、各候補に関する情報が画面上に表示されるようにする。これにより、利用者は、画面上で候補ボタンを操作して、各候補を選択した場合の損券発生率、閾値及び画像サンプルを確認して、貨幣処理装置20に採用する設定を選択することができる。設定を選択した利用者が画面上の設定完了ボタンを押すことにより、選択された候補の設定に基づいて、上述したように貨幣処理装置20の正損識別の設定が行われるようにすればよい。
【0080】
上述したように、本実施形態に係る貨幣処理システムの利用者は、貨幣処理装置でサンプルの貨幣を処理することにより、貨幣処理装置で正損識別を行うために必要な情報をサーバから取得することができる。貨幣処理装置は、サーバから取得した情報に基づいて正損識別の設定を行うことができる。これにより、貨幣処理装置の正損識別の設定にかかる利用者の負担が軽減される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本開示に係る貨幣処理システム及び貨幣処理方法は、正損識別の設定にかかる利用者の負担を軽減するために有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 貨幣処理システム
2 ネットワーク
10 サーバ
20(20a、20b、20c) 紙幣処理装置