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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148684
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/28 20060101AFI20220929BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20220929BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L23/28 L
H01L25/04 C
H01L23/30 B
H01L21/56 E
C09K3/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050454
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 祐子
【テーマコード(参考)】
4H017
4M109
5F061
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB08
4H017AD06
4H017AE05
4M109AA02
4M109BA04
4M109CA02
4M109DB09
4M109EA02
4M109EA10
4M109EB02
4M109EB12
4M109EB16
4M109EE03
4M109FA07
5F061AA02
5F061BA04
5F061CA02
5F061CB02
5F061CB12
5F061DD14
(57)【要約】
【課題】 封止材にワレが生じた場合であっても、ワレを通した水分の侵入を防ぐことができる半導体装置。
【解決手段】 積層基板12上に実装された半導体素子11と導電性接続部材とを、封止材にて封止してなる半導体装置であって、
前記封止材が、前記積層基板12、前記半導体素子11、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材を封止し、熱硬化性樹脂を含む封止層20と、前記封止層を被覆し、シリコーンゴムを含む保護層21とを備え、
前記封止層20の引張強さ×切断時伸びの値Aが、前記保護層21の引張強さ×切断時伸びの値Aより小さく、Aが1600MPa以下である、半導体装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層基板上に実装された半導体素子と導電性接続部材とを、封止材にて封止してなる半導体装置であって、
前記封止材が、前記積層基板、前記半導体素子、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材を封止し、熱硬化性樹脂を含む封止層と、前記封止層を被覆し、シリコーンゴムを含む保護層とを備え、
前記封止層の引張強さ×切断時伸びの値Aが、前記保護層の引張強さ×切断時伸びの値Aより小さく、Aが1600MPa以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記A及びAが以下の関係
<A<A*25
を満たす、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記保護層が、無機充填材を含む、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記無機充填材が、板状または鱗片状の無機充填材である、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記保護層が、20μmから1000μmの厚さを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記封止層に含まれる熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、前記封止層がエポキシ樹脂の硬化剤をさらに含み、当該硬化剤が酸無水物系硬化剤である、請求項3~5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記積層基板、前記半導体素子、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材と、前記封止材との界面に、プライマー層を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記プライマー層が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選択される、請求項7に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関する。本発明は、特には、封止材の剥離やワレを防止した、信頼性の高い半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、効率的な電力変換が求められる分野に広く適用されている。例えば、産業機器、電気自動車、家電製品などのパワーエレクトロニクス分野に適用領域が拡大している。これらのパワー半導体モジュールには、スイッチング素子とダイオードが内蔵されており、素子にはSi(シリコン)半導体やSiC(シリコンカーバード)半導体が用いられている。
【0003】
パワー半導体モジュールは、半導体素子からなるチップ並びにチップに接続されるリードフレームなどの導電性接続部材を絶縁性の樹脂封止材により封止することにより製造する。樹脂封止材は、熱硬化性樹脂と無機充填材とを主成分として含んでいる。樹脂自体の線膨張係数は、リードフレームなどの金属部材の線膨張係数よりも大きい。したがって、半導体モジュールがヒートサイクルなどを受けると、高い熱応力を生じる。
【0004】
半導体素子を封止する第1の封止材と、配線部材を封止する第2の封止材とを備える半導体装置であって、第2の封止材が第1の封止材よりも柔らかいシリコーンゲルで構成される半導体装置が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1では、硬い第1の封止材で半導体素子を封止して半導体素子の剥離を抑制するとともに、柔らかい第2の封止材により配線部材に対する熱応力を低減させることを開示している。
【0005】
半導体素子の周囲を第一の封止樹脂で覆い、その外側を第二の封止樹脂が覆う半導体装置が知られている(特許文献2、3を参照)。特許文献2、3では、第二の封止樹脂として、弾性率が第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいシリコーン樹脂やアクリル樹脂等を使用することで、封止樹脂と、封止される部材との間の剥離を防止し、封止樹脂の亀裂発生を防止したことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2018/159678
【特許文献2】国際公開WO2013/111276
【特許文献3】特開2013-4766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のパワー半導体モジュールの封止構造においては、熱応力が繰り返し加わると、モジュール自体が変形(反り、ねじれなど)を繰り返し、封止樹脂にワレなどが生じることがあった。電極近傍にワレが生じると電気的絶縁性が低下し、Tパワーサイクル耐量が低下するという問題につながる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヒートサイクルや吸湿による封止樹脂自体の劣化やヒートサイクルやパワーサイクルなどによる熱応力により封止樹脂にワレ等が入ると、外部からワレ等を通って侵入した水分や腐食性ガスによりチップ及びその周辺の剥離や劣化が加速したり、亀裂進展によるワイヤ断線が生じたりするなどの問題があった。特には、リードフレームやワイヤなどの配線部材やチップ、またはチップを搭載する積層基板表面にプライマー層が設けられる場合に、水分とプライマーと反応してプライマーの剥離、並びに、絶縁不良といった問題を生じる場合があった。
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、封止材にワレが生じた場合であっても、ワレを通した水分の侵入を防ぐことができる所定の物性を備える保護層を設けた封止構造とすることにより、従来の封止構造では不可能であった剥離による信頼性低下を防止可能であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、積層基板上に実装された半導体素子と導電性接続部材とを、封止材にて封止してなる半導体装置であって、
前記封止材が、前記積層基板、前記半導体素子、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材を封止し、熱硬化性樹脂を含む封止層と、前記封止層を被覆し、シリコーンゴムを含む保護層とを備え、
前記封止層の引張強さ×切断時伸びの値Aが、前記保護層の引張強さ×切断時伸びの値Aより小さく、Aが1600MPa以下である、半導体装置に関する。
【0011】
前記半導体装置において、前記A及びAが以下の関係
<A<A*25
を満たすことが好ましい。
【0012】
前記半導体装置において、前記保護層が、無機充填材を含むことが好ましい。
【0013】
前記半導体装置において、前記無機充填材が、板状または鱗片状の無機充填材であることが好ましい。
【0014】
前記半導体装置において、前記保護層が、20μmから1000μmの厚さを有することが好ましい。
【0015】
前記半導体装置において、前記封止層に含まれる熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、前記封止層がエポキシ樹脂の硬化剤をさらに含み、当該硬化剤が酸無水物系硬化剤であることが好ましい。
【0016】
前記半導体装置において、前記積層基板、前記半導体素子、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材と、前記封止層との界面に、プライマー層を備えることが好ましい。
【0017】
前記半導体装置において、前記プライマー層が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱硬化性樹脂を含む封止層にワレが生じた場合でも、保護層により水分の浸入を防止し、封止層と被封止部材間の剥離を抑制することができる、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る半導体装置の断面構造を示す概念的な断面図である。
図2図2は、保護層の弾性率を横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのパワーサイクル耐量(P/C耐量)を縦軸にプロットしたグラフである。
図3図3は、図2から、比較例2、4、実施例6のエポキシ樹脂を除き、横軸の弾性率が400MPaまでの範囲を拡大して示したグラフを示す。
図4図4、保護層の引張強さTを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図5図5は、図4から、比較例2のエポキシ樹脂を除き、横軸の引張強さが15MPaまでの範囲を拡大して示したグラフを示す。
図6図6は、保護層の切断時伸びEを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図7図7は、保護層の引張強さ×切断時伸びAを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図8図8は、保護層におけるマイカ(白雲母)の添加量を変えて、保護層の引張強さ×切断時伸びA及び吸湿処理後のP/C耐量を評価した結果を示す
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
本発明は一実施形態によれば、半導体装置に関する。本実施形態による半導体装置は、積層基板上に実装された半導体素子と出力端子とを導電性接続部材にて接続し、封止材にて封止してなる半導体装置であって、封止材は、封止層と、保護層とを備えている。
【0022】
図1は、本実施形態に係る半導体装置の一例である、パワー半導体モジュールの概念的な断面図を示す。図示するパワー半導体モジュールは、放熱板13上に半導体素子11及び積層基板12を、接合層17にて接合した積層構造を有する。放熱板13には、外部端子15を内蔵したケース16が接着されている。半導体素子11と積層基板12の電極は、導電性接続部材であるリードフレーム18で接続され、半導体素子11と外部端子15はアルミワイヤ14にて接続されている。半導体素子11と積層基板12、リードフレーム18、導電性接続部材であるアルミワイヤ14等の被封止部材上に接触して封止層20が充填されている。さらに、封止層20と接触して、保護層21が設けられている。
【0023】
半導体素子11は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)あるいはダイオードチップ等のパワーチップであり、Siデバイスであってもよく、SiCデバイス、GaNデバイス、ダイヤモンドデバイス、ZnOデバイスなどのワイドギャップ半導体デバイスであってもよい。また、これらのデバイスを組み合わせて用いてもよい。例えば、Si-IGBTとSiC-SBDを用いたハイブリッドモジュールなどを用いることができる。半導体素子の搭載数は、1つであってもよく、複数搭載することもできる。
【0024】
積層基板12は、絶縁基板122とその一方の主面に形成される第1導電性板121と、他方の主面に形成される第2導電性板123a、bとから構成することができる。絶縁基板122としては、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。絶縁基板122の材料としては、例えば、Al、AlN、SiNなどが挙げられる。特に高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導率を両立した材料が好ましく、AlN、SiNを用いることができるが、これらには限定されない。第1導電性板121、第2導電性板123a、bとしては、加工性に優れるCu、Alなどの金属材料を用いることができる。また、導電性板は、防錆などの目的で、Niめっきなどの処理を行ったCu、Alであってもよい。絶縁基板122上に導電性板121、123a、bを配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)もしくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)が挙げられる。図示する実施形態においては、絶縁基板122上に、非連続的に2つの第2導電性板123a、bが設けられ、一方123aが、半導体素子11と接合される電極、他方123bがリードフレーム18と接続される電極として機能する。
【0025】
リードフレーム18は、半導体素子11と第2導電性板123b等とを接続する導電性接続部材である。具体的には、半導体素子11の電極(表電極)に、はんだ材などの接合層17で接合される。また、第2導電性板123b等の配線部ともはんだ材などの接合層17で接合される。リードフレーム18は、銅、または銅を含む合金などの金属であってよい。リードフレーム18の表面にはめっき法などにより、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層を形成してもよい。この場合、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層の膜厚は20μm以下程度とすることができる。
【0026】
放熱板13としては、熱伝導性に優れた銅やアルミニウムなどの金属が用いられる。また、腐食防止のために、放熱板13にNiまたはNi合金を被覆することもできる。放熱板は、水冷や空冷などの機能を有する冷却器であってもよい。
【0027】
接合層17は、鉛フリーはんだを用いて形成することができる。例えば、Sn-Ag-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Sb-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb-Ag-Cu系、Sn-Cu-Ni系、Sn-Ag系などを用いることができるが、これらには限定されない。あるいは、ナノ銀粒子の焼結体などの微小金属粒子を含む接続材を用いて接合層を形成することもできる。
【0028】
ケース16は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂であってよい。
【0029】
本実施形態において、半導体素子11、積層基板12、並びにリードフレーム18及びアルミワイヤ14などの導電性接続部材を含む部材を、被封止部材とも指称する。被封止部材上には、封止材が充填される。封止材は、少なくとも封止層20と保護層21とを備えている。
【0030】
封止層20は、半導体素子11、積層基板12、及び導電性接続部材に接触して、あるいはプライマー層(図示せず)を介してこれらの被封止部材の周囲を被覆する。保護層21は、封止層20に接触して、封止層20を覆うように設けられる。保護層21は、封止層20の欠陥を補修し、封止層20への水分の浸入を保護する機能を有する。一般的には、保護層21は、半導体素子11、積層基板12、導電性接続部材などの被封止部材には接触しない。そして、図示する形態のように、封止材がケースに充填される実施形態においては、保護層21が大気に接触する表面を構成する。封止層20は大気に接触しないことが好ましい。保護層は、封止層20の全面を覆ってもよいが、少なくともケースとの境界部及び/または半導体素子11の上部に配置されることが好ましい。ケースとの境界部は最も熱応力が高くなる箇所であり、半導体素子11の上部は高温化しやすい箇所だからである。半導体素子11の上部とは、封止層20の表面のうち、半導体素子11の上面電極に概ね対向する部位をいうものとする。半導体素子の上面電極11とは、半導体素子11の電極のうち、積層基板12に接していない側の電極をいうものとする。
【0031】
封止層20は熱硬化性樹脂組成物、好ましくはエポキシ樹脂組成物の硬化物である。保護層21はシリコーンゴムを含む組成物の硬化物である。封止層20及び保護層21は、後述する各成分を含んで硬化した状態において、以下の式(1)で表される物性の関係式を充足する。封止層20の引張強さT(MPa)と切断時伸びE(%)の積(T×E)で表されるパラメータをA(MPa)、保護層21の引張強さT(MPa)と切断時伸びE(%)の積(T×E)で表されるパラメータA(MPa)とすると、
<A (1)
であり、Aが1600MPa以下である。このような物性値を満たす封止層20、保護層21を設けることで、封止層20にワレが生じた場合であっても、保護層21が封止層20への水分の浸入を防ぎ、絶縁破壊を防いで、半導体装置の信頼性を確保することができる。Aの下限値は特には限定されないが、概ね10~150MPaである。例えば、Aが80~150MPaの場合、Aの上限値は200~1600MPaであってよく、200~1000MPaであることがより好ましい。
【0032】
ここで、封止層20の引張強さT(MPa)、切断時伸びE(%)の値は、JIS K 7161、JIS K 7162、ASTM D 638(プラスチック材料の引張強さ)によって測定することができる。また、保護層21の引張強さT(MPa)、切断時伸びE(%)の値は、JIS K 6251またはASTM D 412(ゴム材料の引張強さ)により測定することができる。
【0033】
封止層20と、保護層21は、以下の式(2)で表される物性の関係式を充足することがさらに好ましい。
<A<A*25 (2)
の値を、Aの値の25倍未満とすることで、封止層20と、保護層21との界面における剥離を低減することができる。より好ましくは、Aの値を、Aの値の15倍未満とすることで、剥離をさらに低減することができる。すなわち、封止層20にワレが生じた場合であっても、保護層21が封止層20に追従して伸び、保護層21と封止層20との密着性を確保して、保護層21の外側からの水分の浸入を防ぐことができる。
【0034】
封止層20の厚さは、少なくとも半導体素子11、積層基板12、導電性接続部材を含む被封止部材を内包し、絶縁封止することができる厚さであることが好ましい。なお、半導体装置の態様により、導電性接続部材やプリント基板の一部が、封止されない構成とすることが望ましい場合もある。保護層21の厚さは、20μmから1000μmとすることが好ましく、100μmから500μmとすることがより好ましい。20μmよりも薄いと、封止層20のワレをカバーしきれない等、保護層21としての機能を十分に果たせない場合がある。1000μmよりも厚いと、熱応力により、封止層20との間で剥離が生じやすくなる場合がある。保護層21として機能する層が複数あってもよく、その場合は、総膜厚が、上記範囲内であることが好ましい。
【0035】
上記の物性の関係式を充足する封止層20と、保護層21は、以下の組成を有する樹脂組成物を硬化させて得ることができる樹脂硬化物から選択することができる。
【0036】
封止層20は、熱硬化性樹脂主剤と、無機充填材とを含み、任意選択的に硬化剤、硬化促進剤、添加剤を含んでもよい熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂硬化物であってよい。
【0037】
熱硬化性樹脂主剤としては、特に限定されず、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂等をあげることができる。中でも、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高いことから、特に好ましい。具体的には、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。なお、封止樹脂としては、耐熱性、高絶縁性を要件とするため熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂は高弾性であり好ましい。
【0038】
脂肪族エポキシ樹脂とは、エポキシ基が直接結合する炭素が、脂肪族炭化水素を構成する炭素であるエポキシ化合物をいうものとする。したがって、主骨格に芳香環が含まれている化合物であっても、上記条件を満たすものは、脂肪族エポキシ樹脂に分類される。脂肪族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。これらを単独で、または二種類以上混合して使用することができる。また、ナフタレン型エポキシ樹脂や3官能以上の多官能型エポキシ樹脂はガラス転移点温度が高いため、高耐熱性エポキシ樹脂とも指称する。これらの高耐熱性エポキシ樹脂を含むことで耐熱性を向上させることができる。
【0039】
脂環式エポキシ樹脂とは、エポキシ基を構成する2つの炭素原子が、脂環式化合物を構成するエポキシ化合物をいうものとする。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ樹脂、2官能型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる二種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。なお、脂環式族エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤と混合して硬化すると、ガラス転移温度が高くなるため、脂肪族エポキシ樹脂に脂環式族エポキシ樹脂を混合して用いると高耐熱化を図ることができる。
【0040】
封止層20に用いる熱硬化性樹脂主剤は、上記の脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂とを混合したものであってもよい。混合する場合の混合比は任意であってよく、脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、2:8~8:2程度であってよいが、3:7~7:3程度であってもよく、特定の質量比には限定されない。好ましい態様においては、封止層20に用いる熱硬化性樹脂主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、1:1~1:4の混合物である。
【0041】
無機充填材は、金属酸化物もしくは金属窒化物であってよく、例えば、溶融シリカ、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ、水酸化アルミニウム、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維等が挙げられるが、これらには限定されない。これらの無機充填材により、封止層20の熱伝導率を高め、熱膨張率を低減することができる。これらの無機充填材は、単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。また、無機充填材は、マイクロフィラーであってもよく、ナノフィラーであってもよく、粒径及び/または種類が異なる2種以上の無機充填材を混合して用いることもできる。特には、平均粒径が、0.2~20μm程度の無機充填材を用いることが好ましい。封止層20における無機充填材の添加量は、熱硬化性樹脂主剤と任意選択的に含まれ得る硬化剤との総質量を100質量部としたとき、100~600質量部であることが好ましく、200~400質量部であることがさらに好ましい。無機充填材の配合量が100質量部未満であると封止材の熱膨張係数が高くなって剥離やクラックが生じ易くなる場合がある。配合量が600質量部よりも多いと組成物の粘度が増加して押出し成形性が悪くなる場合がある。
【0042】
封止層20を構成する熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂主剤、好ましくはエポキシ樹脂主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されないが、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができる。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂主剤100質量部に対し、50質量部以上であって170質量部以下程度とすることが好ましく、80質量部以上であって150質量部以下程度とすることがより好ましい。硬化剤の配合量が50質量部未満であると架橋不足からガラス転移温度が低下する場合があり、170質量部より多くなると耐湿性、高熱変形温度、耐熱安定性の低下を伴う場合がある。なお、熱硬化性樹脂主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を単独で、またはビスフェノールA型エポキシ樹脂と先に例示した高耐熱性エポキシ樹脂との混合物を用いる場合は、硬化剤を用いないほうが、耐熱性が向上するため好ましい場合がある。高耐熱性エポキシ樹脂の配合比は、例えば、熱硬化性樹脂主剤の総質量を100%とした場合に、10質量%以上であって50質量%以下であってよく、より好ましくは10%以上であって25質量%以下である。この範囲であれば、耐熱性も向上し、また増粘することもないため好ましい。
【0043】
封止層20を構成する熱硬化性樹脂組成物には、さらに、任意選択的な成分として、硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜配合することができる。硬化促進剤の添加量は、熱硬化性樹脂主剤100質量部に対して、0.01質量部以上であって50質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上であって20質量部以下とすることがより好ましい。
【0044】
封止層20を構成する熱硬化性樹脂組成物はまた、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。これらの任意成分、およびその添加量は、半導体装置及び/または封止材に要求される仕様に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0045】
保護層21は、シリコーンゴムを含み、任意選択的に、無機充填材と添加剤を含んでもよいシリコーンゴム硬化物である。シリコーンゴムは、主鎖がシロキサン結合で構成される有機ケイ素ポリマーで、主鎖にC-C結合を含む従来のゴム(有機ゴム)より耐熱性が高く、耐候性、耐薬品性も高い。また、シリコーンゴムは、伸縮疲労性も良好で、発塵も少ないことから半導体モジュールの保護層として好ましい。さらに、シリコーンゴムは、上述の封止層に用いられる熱硬化性樹脂とも密着性が良いため好ましい。シリコーンゴムは、熱硬化後の1分子中のシロキサン結合が5000~10000の直鎖構造の分子であってよい。シリコーンゴムは、熱硬化させた後の弾性率が約10Pa(0.1MPa)を超え、10000MPa未満程度であることが好ましい。さらに好ましくは保護膜の剛性を維持する点から1MPa以上であって、5000MPa未満程度が好ましい。また、シリコーンゴムは、175℃以上の耐熱性を有することが好ましい。ここでいう耐熱性とは、熱分解しない温度であり、ここでは半導体モジュールとした際、所定温度で6000時間放置した後に絶縁破壊電圧が低下しないとことをいう。なお、シリコーンゴムには硬化過程により主に縮合反応による室温硬化型、付加反応による熱硬化型やUV硬化型があるが、所定の物性値を有していればこれらの硬化過程の種類によらない。また、シリコーンゴムは、側鎖の種類や構造によりいくつかの種類があるが、本発明の効果を有するためには、側鎖の種類や構造は特に限定されず、所定の物性値Aの条件を満たせばよい。
【0046】
保護層21は、任意選択的な成分として無機充填材を含むことが好ましい。無機充填材を含むことにより、Aの値が大きくなり、半導体装置のパワーサイクル耐量を大きくすることができる。無機充填材の添加量は、シリコーンゴム100質量部に対し、50質量部から200質量部とすることが好ましく、50質量部から150質量部とすることがより好ましい。無機充填材の添加量が50質量部未満、並びに200質量部を超える場合、Aの値の増加効果が小さく、P/C耐量の増加に寄与しない場合がある。
【0047】
保護層21に添加する無機充填材を構成する化合物種は、封止層20に添加する無機充填材と同じ選択肢の範囲から選択することができ、特には限定されない。2種以上の異なる化合物種を混合して用いることもできる。無機充填材の形状は特には限定されず、球形、破砕された形状、繊維状、板状などの無機充填材を用いることができる。中でも、アスペクト比の大きい板状の無機充填材が好ましい。アスペクト比の大きい板状の無機充填材は、保護層にクラックが生じにくく、半導体モジュールの信頼性を向上させる効果があるためである。仮にクラックが入った場合であっても、無機充填材の主面で止まり、それ以上のクラックの成長・伸展を防止する効果がある。本明細書において、板状の無機充填材のアスペクト比は、板状体の主面を構成する長径もしくは長辺の長さをa、短径もしくは短辺の長さをb、板厚さに相当する最短辺の長さをc、b≧a>cとした場合に、b/a、及びa/cの値にて定義することができ、b/aが1~100であってよく、1~20であることが好ましい。かつ、a/cが10~100であってよく、20~50であることが好ましい。板状の無機充填材の中でもさらに好ましい態様として鱗片状の無機充填材がある。鱗片状の無機充填材とは、主面の形状が楕円、円、扇型、これらが湾曲してできる形状など、外形の少なくとも一部が、曲線で形成される形状をもつものをいうことができる。鱗片状の無機充填材においては、主面における最長径をA、厚さに相当する最短辺の長さをCとした場合に、A/Cが10~10,000であってよく、100~2,000であることが好ましい。鱗片状の無機充填材の具体例としては、雲母が挙げられる。
【0048】
無機充填材の平均粒子径または長径は、例えば、1μmから50μm程度であることが好ましく、10μmから40μm程度であることがより好ましい。分散性の観点からである。なお、板状、鱗片状などの無機充填材における長径とは、主面の最長径aまたはAであってよい。
【0049】
保護層21にも、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0050】
封止材は、先のパラメータA、Aの条件を満たす封止層20と保護層21とが接して配置されていればよく、保護層21が、シリコーンゴムを含み、先のパラメータA、Aの関係式を満たす物性値を有する複数の層を備えていてもよい。例えば、図示する保護層21のさらに外側(封止層20とは反対側の主面)に、第2の保護層を備えていてもよく、第2の保護層のさらに外側に第3の保護層を備えていてもよい。そして、第2の保護層、第3の保護層の材料組成はいずれも保護層21の材料組成を満たし、かつ、第2の保護層のパラメータをA、第3の保護層のパラメータをAとした場合に、A<A<Aの関係式を満たすことが好ましく、A<A<A<A*25の関係式を満たすことがより好ましい。例えば、保護層21を、無機充填材を含まないシリコーンゴム硬化物とし、第2、第3の保護層を、無機充填材を含むシリコーンゴム硬化物とすることができるが、特定の組成には限定されない。また、封止層20も、先に定義した熱硬化性樹脂硬化物であって、先のパラメータA、Aの関係式を満たす物性値を有する複数の層を備えていてもよい。
【0051】
次に、図示するパワー半導体モジュールの製造について説明する。放熱板13、積層基板12、及びに半導体素子11を接合し、放熱板13にケース16を取り付けた後、リードフレーム18の接合、並びにアルミワイヤ14にてワイヤボンディングを行う。次いで、ケース16内に、封止層20を構成する熱硬化性樹脂組成物を注入し、加熱硬化する。加熱硬化の工程は、例えば、二段階硬化とすることができ、熱硬化性樹脂主剤としてエポキシ樹脂を用いる場合には、90~120℃で1~2時間加熱して半硬化状態とする。その後、さらに、175~185℃で1~2時間にわたり加熱を実施することができる(本硬化)。しかし、特定の温度、時間には限定されず、二段階硬化とする必要がない場合もある。
【0052】
次いで、ケース16内の封止層20に接するように、保護層21を構成するシリコーンゴム組成物を塗布し形成し、硬化させる。室温硬化型のシリコーンゴム組成物の場合は、湿気による縮合反応によって硬化するので、室温(約15℃から25℃)で、湿度約40%RHから60%RHの恒温恒湿下で所定時間(例えば、1日から1週間程度)保持してもよい。また、加熱硬化型の場合は、およそ100℃から200℃で、0.5時間から5時間程度保持してもよく、複数の加熱工程を有してもよい。しかし、硬化の条件は、特定の温度、湿度、時間には限定されない。なお、保護層21の態様により、封止層20を完全に硬化した後に、保護層21を形成する場合もあるし、封止層20を仮硬化した状態で保護層21を形成する場合もある。また、保護層21が、複数の層を備える場合の積層と硬化の順序は、保護層を複数積層してから硬化させても、各保護層を硬化させてから積層してもよい。
【0053】
図示するパワー半導体モジュールの変形形態として、積層基板、半導体素子、及び前記導電性接続部材を含む被封止部材と、封止材との界面に、プライマー層を備えていてもよい。プライマー層は、封止材と被封止部材との界面において密着性を確保する観点から好ましく用いられる場合がある。プライマー層は、ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを含む樹脂からなる層であってよい。プライマー層の厚さは、密着性を付与することができる厚さであれば特には限定されない。プライマー層の厚さは、例えば、1~20μm程度とすることができ、1~10μmとすることが好ましい。前記範囲においては、プライマー層が応力緩和の効果も有することから、密着性を向上することができるので、より好ましい。プライマー層は、図1に示す半導体素子11、積層基板12、リードフレーム18、アルミワイヤ14の表面全体を被覆するように設けることができる。
【0054】
プライマー層を備えるパワー半導体モジュールの製造方法は、被封止部材を組み立てた後、封止材を注入する前に、プライマー層を形成する。プライマー層は、図1に示す半導体素子11、リードフレーム18、積層基板12、アルミワイヤ14、ケース16を含む被封止部材の全面に、例えばスプレー塗布、浸漬方式やディスペンサーによる塗布等により設けることができる。プライマー層の形成後は、窒素ガスを導入したイナートオーブン中で、段階的に70~100℃で、60分~80分程度加熱し、さらに200~220℃で、60~80分加熱することが好ましい。この加熱操作により、リードフレーム18を構成するCuを加熱し、溶媒を気化させプライマーを固体化することができる。プライマー層の形成後は、図1に示すパワー半導体モジュールの製造方法と同様に、封止材による絶縁封止を行うことができる。
【0055】
図示したパワー半導体モジュールの構成は、一例であって、本発明は当該構成に限定されるものではない。例えば、任意の導電性接続部材を用いてもよく、インプラントピンを用いることもできる。また、導電性接続部材が、リードフレームのみ、あるいはワイヤのみの構成もありうる。導電性接続部材がインプラントピンを備えるモジュールにおいてプライマー層を設ける場合、インプラントピン表面にプライマー層を形成することができる。導電性接続部材がワイヤのみの構成のモジュールにおいてプライマー層を設ける場合、ワイヤ表面にプライマー層を形成することができる。
【0056】
また、ケースを備えないケースレスのパワー半導体モジュールであってもよい。ケースレスのパワー半導体モジュールの構造としては、図示はしないが、例えば図1のリードフレーム及びアルミワイヤに替えて、インプラントピンと、インプラントピンに接合されたプリント基板を含み、これらを含む部材が封止材により封止された構造が挙げられる。プリント基板としては、ポリイミドフィルム基板やエポキシフィルム基板にCu、Alなどの導電層が形成されているものを用いることができる。インプラントピンとしては、銅を用いた銅ピンを用いることができる。プリント基板の導電層も、インプラントピンも、CuやAlに、防錆などの目的でNiメッキなどの処理を施したものであってもよい。このプリント基板とインプラントピンは、半導体素子どうし、もしくは、半導体素子と積層基板の間を電気的に接続する。インプラントピンと積層基板もしくは半導体素子とは、はんだ接合層により接合することができる。また、積層基板上からインプラントピンを封止材の外部にまで引き出すことにより、インプラントピンを外部接続端子とすることができる。かかる態様のパワー半導体モジュールの製造は、積層基板、半導体素子、インプラントピン、並びにプリント基板を含む被封止部材を組み立て、任意選択的に積層基板、半導体素子、インプラントピン、並びにプリント基板表面にスプレー塗布等の方法によりプライマー層を形成した後、被封止部材を適切な金型に載置し、封止層を構成する熱硬化性樹脂組成物を金型に充填して仮硬化する。このような封止体の成形法としては、真空注型、トランスファー成形、液状トランスファー成形、ポッティングなどが挙げられるが、所定の成形法には限定されない。次いで、シリコーンゴム組成物を、スプレーやディスペンサーにより塗布することにより保護層を形成し、本硬化する。ケースレスのパワー半導体モジュールにおいても、封止層は大気に接触せず、保護層で覆われる態様とすることが好ましい。ケースレスのパワー半導体モジュールにおいても、所定の物性条件を満たす保護層を、封止層の表面に形成することにより、封止層にワレが生じた場合であっても、保護層により封止層への水分浸入を防止し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0057】
本実施形態に係る半導体装置によれば、封止材の一部にワレが生じた場合であっても、保護層として機能する保護層により水分の浸入を防止し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【実施例0058】
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0059】
1.保護層の機械的特性と信頼性(P/C耐量)
図1に示す封止層、保護層の二層封止構造を持つパワー半導体モジュールを、保護層の材料を変えて製造し、吸湿処理を行った上で、信頼性を評価した。また、各実施例、比較例に使用した封止層、保護層を構成する樹脂硬化物の物性を評価し、信頼性との関連を調べた。
【0060】
封止層はエポキシ樹脂硬化物とした。エポキシ樹脂主剤としては、エポキシ樹脂ME-276(ペルノックス(株)社製)を用い、酸無水物系硬化剤として、MV-138(ペルノックス(株)社製)を主剤100質量部に対して、121質量部添加した。無機充填材は、平均粒子径が10μmの球状シリカ(AGC(株)社製)を用い、エポキシ樹脂の主剤と硬化剤の総質量を100質量部とした場合に、270質量部添加した。
【0061】
保護層は、無機充填材を添加せず、表1、2に示す各材料を用いて製造した。また、実施例7においては、主成分がポリアミドであるハイマルHL1200F(昭和電工マテリアルズ)からなる10μmのプライマー層を、積層基板、半導体素子、リードフレーム、ワイヤ、及びケース上に形成した。
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
実施例・比較例のパワー半導体モジュールの製造は、被封止部材を組み立てた後、実施例7についてはプライマー層を形成した。プライマー層の形成後は、窒素ガスを導入したイナートオーブン中で、100℃で、60分加熱し、さらに200℃で、60分加熱した。この加熱操作により、Cu表面の酸化を抑制してリードフレーム等を構成するCuを加熱し、プライマー層とCuとの反応が促進し、プライマー層とリードフレーム等との密着性を向上させた。次いで、ケース16内に、封止層20を構成する上述の熱硬化性樹脂組成物を注入し、加熱硬化した。加熱硬化の工程は、120℃で1時間加熱して半硬化状態とし、さらに、175℃で1時間にわたり加熱を実施した。次いで、保護層を構成するシリコーンゴム組成物をディスペンサーで塗布し、硬化させた。硬化の条件は下記の表3の通りとした。
【表3】
【0064】
製造されたパワー半導体モジュールは、85℃、85%RHで300時間静置することにより吸湿処理を行った。吸湿処理は、製造直後のパワー半導体モジュールではなく、製造後、製品の飽和吸水と同程度の吸湿条件を再現するために行った。なお、製品を構成する封止材やケース材は水を吸う性質があるが、飽和吸水とは、吸水率がほぼ飽和に達した状態をいう。次いで、吸湿処理後のパワー半導体モジュールの信頼性を、Tパワーサイクル耐量(TP/C耐量)により評価した。パワーサイクル試験は、40~175℃(ΔT135℃)で、通電運転2秒、休止9秒の条件を1サイクルとして、電気特性が異常値になるまでのサイクル数を調べた。十分な信頼性を得るためには、50kサイクル以上が必要とされる。絶縁性は絶縁試験により評価した。具体的には、通常取り扱う電圧の10倍から20倍の交流電圧または直流電圧で、規定された電圧を規定された時間印加したとき、絶縁破壊(オームの法則に従わない急激な電流の増加)を起こさなければ、その絶縁物は十分な絶縁耐力を持つと判断した。
【0065】
表1、2に実施例・比較例の保護層(保護層)における弾性率、引張強さT、切断時伸びE、強度×切断時伸びA、絶縁性及び膜厚と、TP/C耐量、信頼性の評価結果を示す。なお、TP/C耐量の単位は、kサイクルである。封止層は、全ての実施例、および比較例において、比較例2と同じ材料を共通して用いており、引張強さTが100MPa、切断時伸びEが1%、強度×切断時伸びAが100MPaであった。
【0066】
(1)保護層の弾性率と信頼性
実施例1~7、比較例1~5について、保護層の弾性率を横軸に、信頼性(P/C耐量)を縦軸にプロットして評価した。図2は弾性率が0から10000MPaの範囲にある実施例、比較例を示し、図2中、白丸〇は比較例2のエポキシ樹脂を保護層とした場合の結果を示す。図3は、図2の中で弾性率が小さい範囲、0から400MPaの範囲にある実施例、比較例を示す。したがって、図3は、図2から、比較例2のエポキシ樹脂、実施例6、及び比較例4を除いた部分に該当する。図2、3から、各種保護層の弾性率と信頼性(P/C耐量)は明確な相関がないことが示された。
【0067】
(2)保護層の引張強さと信頼性
実施例1~7、比較例2、5について、保護層の引張強さを横軸に、信頼性(P/C耐量)を縦軸にプロットして評価した。図4は引張強さが0から150MPaの範囲にある実施例、比較例を示し、図4中、白菱形◇は比較例2のエポキシ樹脂を保護層とした場合の結果を示す。図5は、図4の中で引張強さが小さい範囲、0から15MPaの範囲にある実施例、比較例を示す。したがって、図5は、図4から、比較例2のエポキシ樹脂を除いた部分に該当する。図4、5から、各種保護層の引張強さと信頼性(P/C耐量)も相関がないことが示された。
【0068】
(3)保護層の切断時伸びと信頼性
実施例1~7、比較例2、5について、保護層の切断時伸びを横軸に、信頼性(P/C耐量)を縦軸にプロットして評価した。図6に結果を示す。図6から、各種保護層の切断時伸びと信頼性(P/C耐量)も明確な相関がないことが示された。
【0069】
(4)保護層の「引張強さ×切断時伸びA」と信頼性
実施例1~7、比較例2、5について、保護層の「引張強さ×切断時伸び」を横軸に、信頼性(P/C耐量)を縦軸にプロットして評価した。図7に結果を示す。図7中、白丸〇は比較例2のエポキシ樹脂を保護層とした場合の結果を示す。図7から、保護層の「引張強さ×切断時伸びA」と信頼性(P/C耐量)には相関がみられた。封止層の「引張強さ×切断時伸びA」は、比較例2の値と同じであり、図7より、A<Aの条件を満たす場合に、P/C耐量が好ましい基準を上回り、十分な信頼性が得られることが示された。また、特に、Aが、Aの15倍未満の場合に、P/C耐量が240kサイクルを超え、高い信頼性が得られることがわかった。つまり、Aが増加すれば、信頼性は単調に増加するわけではなく、大きすぎても信頼性は向上せず、好適な範囲があることがわかった。具体的には、Aが200から1600MPaの場合、保護膜がない場合に比べて、P/C耐量は5倍以上向上し、さらに、Aが概ね200から1000MPaの場合は10倍以上向上することがわかった。なお、Aが概ね200から1600MPaの場合はAが、Aの25倍未満の場合に相当する。この結果は、保護層は引張強さと切断時伸びの積が大きいほどモジュールとしての信頼性は向上することを示している。これは、保護層に熱応力が働き、曲げ応力が加わった際、直ぐに割れない引張強さと、一定応力が加わっても容易に伸びたり割れたりせずに耐え(引張強さ)、割れずに伸びる延性を有する(切断時伸び)の両方の特性を備えることによって信頼性を向上させることができると推定される。つまり、本発明によれば保護層自体がワレを生じたりせずに封止層を保護することができると推定される。
【0070】
従来技術によるエポキシ樹脂のみからなる封止材で封止したパワー半導体モジュールは、経時的な使用により熱応力が印可されると変形を繰り返し、特にリードフレームの端部から上方に、あるいは半導体素子の周囲部分から上方に向けてワレが発生する傾向があった。なお、ここでいう上方とは、半導体素子から、積層基板と反対側へ向かう向きをいう。このようなワレから水分が侵入し、リードフレーム部分や半導体素子の部分での絶縁破壊に繋がることが多かった。本実施例によれば、所定の物性条件を満たす封止層、保護層を用いることにより、十分なP/C耐量を得ることができた。
【0071】
2.保護層の厚さと信頼性(P/C耐量)
実施例4の保護層材料を使用し、保護層の厚さを変えて、吸湿処理後のP/C耐量を評価した。剥離は超音波探傷装置(SAT)により評価した。結果を表4に示す。表4より、保護層の厚さが1.5mm以上になると、保護層と封止樹脂層の界面付近で、熱応力による剥離が生じた。一方、20μmと薄すぎると、エポキシ樹脂のワレをカバーしきれない場合があり、また保護層が薄い箇所ができ、P/C耐量は劣る場合がある。なお、P/C耐量は20kサイクル以上が必要であり、100k以上が望ましい。そのため、100kサイクル以上の場合を判定〇とし、20kサイクル以上100kサイクル未満の場合を△とした。保護膜厚が20μm、1.5mmの場合は50kサイクルであり、△と判定した。また、剥離の判定は、主に、リードフレーム等の配線部材や半導体素子や積層基板等の被封止部材の表面と封止層の界面近傍や封止層と保護層の界面近傍において、SAT(超音波探傷検査:Scanning Acoustic Tomography)及び断面SEM(走査電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)により観察評価し、大きさが10μm以上の剥離がない場合を〇、10μm以上30μm未満の大きさの剥離が3か所未満の場合を△とした。表4より保護膜の厚さは100μmから1mmがより好ましいことがわかった。なお、剥離判定が△の場合も、剥離判定が〇の場合と同様に半導体モジュールとしても電気的特性は良好であった。
【0072】
【表4】
【0073】
3.保護層への無機充填材の添加効果
実施例4の保護層材料を使用し、異なる種類の無機充填材を種々の量で添加して、パラメータA及び吸湿処理後のP/C耐量を評価した。使用した無機充填材のうち、SiOは平均粒子径が30μmの球状シリカ、マイカ(白雲母)は先に定義したa、b、cがそれぞれ50、200、2の板状体であり、マイカ(金雲母)は先に定義したA、Cがそれぞれ210、2の鱗片状体であった。評価結果を表5に示す。添加量は、保護層を構成するシリコーンゴムを100質量部とした場合の質量部で示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5より、球状の無機充填材よりも鱗片状、板状の無機充填材(雲母系)のほうがパラメータAの値が大きく、P/C耐量も大きいことが確認された。板状、鱗片状の無機充填材を添加した場合、保護層にクラックが入りにくく、保護層自体がワレ難くなりためと推定される。
【0076】
次に、保護層におけるマイカ(白雲母)の添加量を変えて保護層の引張強さ×切断時伸びA及び吸湿処理後のP/C耐量を評価した。結果を図8に示す。図8から、無機充填材の添加量は、保護層を構成するシリコーンゴムを100質量部とした場合に、50から200質量部とすることが好ましいことが確認された。少ないと効果が低く、多すぎると、「引張強さ×切断時伸び」が低下した。
【符号の説明】
【0077】
11 半導体素子、12 積層基板、121 導電性板、122 絶縁基板
123a、b 導電性板、13 放熱板、14 アルミワイヤ、15 外部端子
16 ケース、17 接合層、18 リードフレーム
20 封止層、21 保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
パワー半導体モジュールは、効率的な電力変換が求められる分野に広く適用されている。例えば、産業機器、電気自動車、家電製品などのパワーエレクトロニクス分野に適用領域が拡大している。これらのパワー半導体モジュールには、スイッチング素子とダイオードが内蔵されており、素子にはSi(シリコン)半導体やSiC(シリコンカーバド)半導体が用いられている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
図1図1は、本発明に係る半導体装置の断面構造を示す概念的な断面図である。
図2図2は、保護層の弾性率を横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのパワーサイクル耐量(P/C耐量)を縦軸にプロットしたグラフである。
図3図3は、図2から、比較例2のエポキシ樹脂、比較例4、実施例6を除き、横軸の弾性率が400MPaまでの範囲を拡大して示したグラフを示す。
図4図4、保護層の引張強さTを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図5図5は、図4から、比較例2のエポキシ樹脂を除き、横軸の引張強さが15MPaまでの範囲を拡大して示したグラフを示す。
図6図6は、保護層の切断時伸びEを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図7図7は、保護層の引張強さ×切断時伸びAを横軸に、吸湿処理後のパワー半導体モジュールのP/C耐量を縦軸にプロットしたグラフである。
図8図8は、保護層におけるマイカ(白雲母)の添加量を変えて、保護層の引張強さ×切断時伸びA及び吸湿処理後のP/C耐量を評価した結果を示す。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
封止層20は、半導体素子11、積層基板12、及び導電性接続部材に接触して、あるいはプライマー層(図示せず)を介してこれらの被封止部材の周囲を被覆する。保護層21は、封止層20に接触して、封止層20を覆うように設けられる。保護層21は、封止層20の欠陥を補修し、封止層20への水分の浸入を保護する機能を有する。一般的には、保護層21は、半導体素子11、積層基板12、導電性接続部材などの被封止部材には接触しない。そして、図示する形態のように、封止材がケースに充填される実施形態においては、保護層21が大気に接触する表面を構成する。封止層20は大気に接触しないことが好ましい。保護層は、封止層20の全面を覆ってもよいが、少なくともケースとの境界部及び/または半導体素子11の上部に配置されることが好ましい。ケースとの境界部は最も熱応力が高くなる箇所であり、半導体素子11の上部は高温化しやすい箇所だからである。半導体素子11の上部とは、封止層20の表面のうち、半導体素子11の上面電極に概ね対向する部位をいうものとする。半導体素子11の上面電極とは、半導体素子11の電極のうち、積層基板12に接していない側の電極をいうものとする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
脂環式エポキシ樹脂とは、エポキシ基を構成する2つの炭素原子が、脂環式化合物を構成するエポキシ化合物をいうものとする。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ樹脂、2官能型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる二種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。なお、脂環式エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤と混合して硬化すると、ガラス転移温度が高くなるため、脂肪族エポキシ樹脂に脂環式族エポキシ樹脂を混合して用いると高耐熱化を図ることができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
保護層21にも、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、色するための顔料等が挙げられるが、これらには限定されない。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
次に、図示するパワー半導体モジュールの製造について説明する。放熱板13、積層基板12、及び半導体素子11を接合し、放熱板13にケース16を取り付けた後、リードフレーム18の接合、並びにアルミワイヤ14にてワイヤボンディングを行う。次いで、ケース16内に、封止層20を構成する熱硬化性樹脂組成物を注入し、加熱硬化する。加熱硬化の工程は、例えば、二段階硬化とすることができ、熱硬化性樹脂主剤としてエポキシ樹脂を用いる場合には、90~120℃で1~2時間加熱して半硬化状態とする。その後、さらに、175~185℃で1~2時間にわたり加熱を実施することができる(本硬化)。しかし、特定の温度、時間には限定されず、二段階硬化とする必要がない場合もある。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
本実施形態に係る半導体装置によれば、封止材の一部にワレが生じた場合であっても、保護層により水分の浸入を防止し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
表1、2に実施例・比較例の保護層における弾性率、引張強さT、切断時伸びE、強度×切断時伸びA、絶縁性及び膜厚と、TP/C耐量、信頼性の評価結果を示す。なお、TP/C耐量の単位は、kサイクルである。封止層は、全ての実施例、および比較例において、比較例2と同じ材料を共通して用いており、引張強さTが100MPa、切断時伸びEが1%、強度×切断時伸びAが100MPaであった。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0070
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0070】
従来技術によるエポキシ樹脂のみからなる封止材で封止したパワー半導体モジュールは、経時的な使用により熱応力が印加されると変形を繰り返し、特にリードフレームの端部から上方に、あるいは半導体素子の周囲部分から上方に向けてワレが発生する傾向があった。なお、ここでいう上方とは、半導体素子から、積層基板と反対側へ向かう向きをいう。このようなワレから水分が侵入し、リードフレーム部分や半導体素子の部分での絶縁破壊に繋がることが多かった。本実施例によれば、所定の物性条件を満たす封止層、保護層を用いることにより、十分なP/C耐量を得ることができた。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
2.保護層の厚さと信頼性(P/C耐量)
実施例4の保護層材料を使用し、保護層の厚さを変えて、吸湿処理後のP/C耐量を評価した。剥離は超音波探傷装置(SAT)により評価した。結果を表4に示す。表4より、保護層の厚さが1.5mm以上になると、保護層と封止層の界面付近で、熱応力による剥離が生じた。一方、20μmと薄すぎると、エポキシ樹脂のワレをカバーしきれない場合があり、また保護層が薄い箇所ができ、P/C耐量は劣る場合がある。なお、P/C耐量は20kサイクル以上が必要であり、100k以上が望ましい。そのため、100kサイクル以上の場合を判定〇とし、20kサイクル以上100kサイクル未満の場合を△とした。保護膜厚が20μm、1.5mmの場合は50kサイクルであり、△と判定した。また、剥離の判定は、主に、リードフレーム等の配線部材や半導体素子や積層基板等の被封止部材の表面と封止層の界面近傍や封止層と保護層の界面近傍において、SAT(超音波探傷検査:Scanning Acoustic Tomography)及び断面SEM(走査電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)により観察評価し、大きさが10μm以上の剥離がない場合を〇、10μm以上30μm未満の大きさの剥離が3か所未満の場合を△とした。表4より保護膜の厚さは100μmから1mmがより好ましいことがわかった。なお、剥離判定が△の場合も、剥離判定が〇の場合と同様に半導体モジュールとして電気的特性は良好であった。