(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148737
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電動流体ポンプの流体圧補正方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220929BHJP
F16H 59/72 20060101ALI20220929BHJP
F04C 2/08 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/72
F04C2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050537
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】青嶋 一浩
【テーマコード(参考)】
3H041
3J552
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC21
3H041DD34
3J552MA01
3J552MA06
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA59
3J552PA67
3J552QA30C
3J552QB07
3J552RB02
3J552VA47W
3J552VC01Z
(57)【要約】
【課題】流体温度を直接検知する温度センサを用いなくても、流体温度に基づいて流体圧を補正できる電動流体ポンプの流体圧補正方法を提供する。
【解決手段】流体を搬送するポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、モータ部3を制御する制御回路が形成された基板4と、ポンプ部2を収容するポンプ収容部53、モータ部3を収容するモータ収容部54、及び、基板4を収容する基板収容部55を備えたハウジング5と、を有する電動流体ポンプの流体圧補正方法であって、モータ部3の駆動電流及び回転速度に基づいて流体圧を推定し、基板4に設けられた温度センサによって検知される温度から流体温度を推定し、推定された流体温度に基づいて流体圧を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を搬送するポンプ部と、
前記ポンプ部を駆動するモータ部と、
前記モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、
前記ポンプ部を収容するポンプ収容部、前記モータ部を収容するモータ収容部、及び、前記基板を収容する基板収容部を備えたハウジングと、
を有する電動流体ポンプの流体圧補正方法であって、
前記モータ部の駆動電流及び回転速度に基づいて流体圧を推定し、
前記基板に設けられた温度センサによって検知される温度から流体温度を推定し、
推定された前記流体温度に基づいて前記流体圧を補正することを特徴とする電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項2】
前記温度センサとして、前記基板に設けられた電子部品の温度を検知する温度センサを用いる請求項1に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項3】
前記ポンプ収容部、前記モータ収容部、及び、前記基板収容部が、金属材料により一体形成される請求項1又は2に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項4】
前記基板は、前記ハウジングに対して前記基板上の金属箔を介して接触する請求項1から3のいずれか1項に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項5】
前記基板は、前記ハウジングに対して金属製の固定具によって固定される請求項1から4のいずれか1項に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項6】
前記基板と前記ハウジングは、前記基板の前記ポンプ収容部側の面において接触する請求項1から5のいずれか1項に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【請求項7】
前記ハウジングは、前記基板を取り付ける複数の基板取り付け部を有し、
前記複数の基板取り付け部のうち、一部の基板取り付け部は他の基板取り付け部よりも前記ポンプ収容部側に配置される請求項1から6のいずれか1項に記載の電動流体ポンプの流体圧補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動流体ポンプの流体圧補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される電動流体ポンプとして、例えば、アイドリングストップ機構(停車時にエンジンを自動停止する機構)を備える車両において、停車中のトランスミッション内の油圧を保持する電動オイルポンプが知られている。
【0003】
一般的に、オイルは温度が高くなると粘度が高くなるため、電動オイルポンプにおいては、オイルの粘度が高い場合に、モータの出力を高めることにより、必要な油圧が得られるように制御されている。また、油圧を必要な値に保持するため、下記特許文献1においては、モータの駆動電流及び回転速度に基づいて油圧を推定し、推定された油圧に基づいてモータを制御するための電流指令値を設定する方法が提案されている。さらに、この方法においては、温度センサによって油温を検知し、検知された油温に基づいて電流指令値の補正も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の方法のように、検知された油温に基づいて油圧制御用の電流指令値を補正すれば、油圧を的確に制御することが可能である。しかしながら、そのために、油温を直接検知する温度センサを設置すると、温度センサのコストが別途必要になるうえ、温度センサの設置に伴う構造上の制約又は設計変更を強いられる課題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、オイルポンプなどの電動流体ポンプにおいて、流体温度を直接検知する温度センサを用いなくても、流体温度に基づいて流体圧を補正できる流体圧補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、流体を搬送するポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータ部と、モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、ポンプ部を収容するポンプ収容部、モータ部を収容するモータ収容部、及び、基板を収容する基板収容部を備えたハウジングと、を有する電動流体ポンプの流体圧補正方法であって、モータ部の駆動電流及び回転速度に基づいて流体圧を推定し、基板に設けられた温度センサによって検知される温度から流体温度を推定し、推定された流体温度に基づいて流体圧を補正することを特徴とする。
【0008】
このように、本発明においては、基板に設けられた温度センサによって検知される温度から流体温度を推定するので、流体温度を直接検知する温度センサが不要になる。
【0009】
本発明に用いられる温度センサとしては、基板に設けられた電子部品の温度を検知する温度センサを用いることが好ましい。その場合、流体温度を推定するための専用の温度センサを別途設ける必要が無いので、製造コストを削減できる。また、新たに温度センサを設置するためのスペースを確保しなくてもよいため、構造上の大幅な設計変更も回避できる。
【0010】
また、ポンプ収容部、モータ収容部、及び、基板収容部は、金属材料により一体形成されることが好ましい。これらの収容部が金属材料により一体形成されていることにより、流体の熱が、ポンプ収容部、モータ収容部、及び、基板収容部を介して基板へ良好に伝達されるようになる。このため、基板の温度が流体の温度変化に追従しやすくなり、基板に設けられた温度センサの検知温度に基づいて流体温度をより精度良く推定できるようになる。
【0011】
また、基板は、ハウジングに対して基板上の金属箔を介して接触することが好ましい。この場合、基板とハウジングが金属箔を介して接触しているため、ハウジングから基板への熱伝導性が向上する。これにより、基板の温度が流体の温度変化に追従しやすくなり、流体温度の推定精度が向上する。
【0012】
また、基板は、ハウジングに対して金属製の固定具によって固定されることが好ましい。この場合も、ハウジングから基板への熱伝導性が向上するので、基板の温度が流体の温度変化に追従しやすくなり、流体温度の推定精度が向上する。
【0013】
また、基板とハウジングは、基板のポンプ収容部側の面において接触することが好ましい。これにより、ポンプ収容部から基板までの伝熱経路が短くなるので、流体の熱が基板へより一層伝達されやすくなる。
【0014】
また、ハウジングが、基板を取り付ける複数の基板取り付け部を有する場合、複数の基板取り付け部のうち、一部の基板取り付け部は他の基板取り付け部よりもポンプ収容部側に配置されることが好ましい。この場合、特にポンプ収容部側の基板取り付け部を経由する伝熱経路が短くなるので、流体の熱が基板へ伝達されやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流体温度を直接検知する温度センサを用いなくても、流体温度に基づいて流体圧を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプの軸方向断面図である。
【
図2】
図1中のII-II断面を示す断面図である。
【
図3】
図1中のIII-III断面を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係る電動オイルポンプの斜視図である。
【
図7】油温の変化と、基板上に設けられたサーミスタ及びCPU温度センサの検知温度の変化を示すグラフである。
【
図8】本実施形態に係る油圧補正方法を示すフローチャートである。
【
図10】基板をモータ部の軸心方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を
図1~
図10に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態の電動オイルポンプは、エンジンの停止中にトランスミッションに油圧を供給するものである。トランスミッションケース底部のオイル溜りからオイルを吸引し、このオイルを吐出してトランスミッション内にオイルを圧送することにより、トランスミッション内で必要な油圧が確保される。
【0019】
図1~
図3に示すように、本実施形態の電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、基板4と、ポンプ部2、モータ部3、及び基板4を収容するハウジング5とを有する。以下、それぞれの部材又は要素を詳細に説明する。
【0020】
なお、以下の説明において、モータ部3の軸心Oと平行な方向を「軸方向」と呼び、軸心Oを中心とする円の半径方向を「半径方向」と呼ぶ(「内径方向」及び「外径方向」も当該円の内径方向及び外径方向を意味する)。また、軸心Oを中心とする円の円周方向を「周方向」と呼ぶ。
【0021】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のポンプ部2は、複数の外歯が形成されたインナロータ21と、複数の内歯が形成されたアウタロータ22と、インナロータ21及びアウタロータ22を収容する静止部材としてのポンプケース23とを有するトロコロイドポンプである。アウタロータ22の内径側にインナロータ21が配置されている。アウタロータ22は、インナロータ21に対して偏心した位置にある。アウタロータ22の一部の歯部がインナロータ21の一部の歯部と噛み合っている。なお、インナロータ21の歯数をnとすると、アウタロータ22の歯数は(n+1)である。
【0022】
アウタロータ22の外周面及びポンプケース23の内周面はいずれも互いに嵌合可能な円筒面である。アウタロータ22は、インナロータ21の回転に伴って従動回転するように、ポンプケース23の内周に回転可能に配置される。
【0023】
図1に示すように、モータ部3はポンプ部2と軸方向に並べて配置される。モータ部3として、例えば3相ブラシレスDCモータが使用される。
図1及び
図3に示すように、モータ部3は、複数のコイル30aを有するステータ30と、ステータ30の内側に隙間をもって配置されたロータ31と、ロータ31に結合された出力軸32とを有する。ステータ30には、U相、V相、W相の三相に対応したコイル30aが形成されている。
【0024】
出力軸32はステータ30の軸方向両側に突出している。出力軸32のうち、ステータ30から軸方向両側に突出した部分がそれぞれ軸受(例えば深溝玉軸受等の転がり軸受)33,34を介してハウジング5に対して回転可能に支持されている。
【0025】
出力軸32のポンプ部2側の端部には、ポンプ部2のインナロータ21が装着されている。出力軸32とポンプ部2の間に減速機は配置されておらず、インナロータ21はモータ部3の出力軸32に直結されている。軸方向ポンプ部2側に位置する軸受33とインナロータ21との間に、出力軸32の外周面に摺接するシールリップを備えたシール35が配置される。このシール35によって、ポンプ部2からモータ部3へのオイルの漏洩が防止されている。軸方向ポンプ部2側の軸受33とシール35との間には、軸方向に圧縮された弾性部材36が配置されている。
【0026】
モータ部3におけるロータ31の回転角を検出するため、モータ部3の回転側と静止側の間に回転角検出部37が設けられる。本実施形態の回転角検出部37は、
図1に示すように、出力軸32の反ポンプ部側の軸端にブラケット38を介して取り付けられたセンサマグネット37a(例えばネオジウムボンド磁石)と、静止側となるハウジング5に設けられたMR素子等の磁気センサ37bとで構成することができる。磁気センサ37bは、出力軸32の反ポンプ側の軸端と対向して配置され、かつ出力軸32と直交する方向に配置されたサブ基板39に取り付けられる。磁気センサ37bの検出値は、後述する基板4(メイン基板)の制御回路に入力される。
【0027】
なお、磁気センサ37bとして、ホール素子を使用することもできる。また、回転角検出部37としては、磁気センサの他、光学式エンコーダやレゾルバ等を用いることもできる。なお、センサレスでモータ部3を駆動することもできる。
【0028】
図4に示すように、基板4は平面視で矩形状に形成される。
図1及び
図3に示すように、基板4は、モータ部3の出力軸32と平行に配置され、基板4の実装面40はモータ部3の軸心Oを中心とする円の接線方向に向けて延びている(
図10参照)。基板4の前記接線方向の両端は、モータ部3の外周輪郭M(ステータの外周輪郭)よりも前記接線方向にはみ出した位置にある。
【0029】
基板4の一方の面には、複数の電子部品41が実装されている。
図4に示すように、電子部品としては、コンデンサ(アルミ電解コンデンサ等の電解コンデンサ)41a、CPU41b、MOS-FET等の半導体素子(インバータ)41cがあり、その他にドライバIC等の集積回路、抵抗器等が使用される。
図2及び
図3に示すように、基板4は、これら電子部品41を実装した面(実装面)40をポンプ部2及びモータ部3と対向させて配置される。
【0030】
基板4には、外部電源からコネクタ42を介して電力が供給される。基板4の制御回路では駆動電流の極性が制御される。制御された電流は、
図1に示すように、基板4に接続したバスバー43を介して、モータ部3のステータ30に設けられた各コイル30aに供給される。基板4のうち、実装面40と反対側の面45には、放熱部材としての放熱シート44が取り付けられている。放熱シート44は、熱伝導性が高くかつ圧縮可能な材料で形成されている。放熱シート44は、電子部品のうち高発熱の部品(例えば半導体素子41c)と接触するように配置されている。
【0031】
ハウジング5は、両端を開口した筒状のハウジング本体50と、ハウジング本体50の軸方向ポンプ側の開口部を閉鎖する第一蓋部51と、ハウジング本体50の軸方向反ポンプ側の開口部を閉鎖する第二蓋部52とを有する。第一蓋部51及び第二蓋部52はそれぞれ複数の締結用ボルトB1、B2を用いてハウジング本体50に固定される。
【0032】
第二蓋部52は、反ポンプ部側の軸受34を支持する円筒形状のベアリングケース52aと、ベアリングケース52aの反ポンプ部側開口部を閉鎖するカバー52bとを有する。ベアリングケース52aの内径側にサブ基板39が配置される。カバー52bは、ベアリングケース52aに図示しない締結部材を用いて取り付けられる。
【0033】
ハウジング本体50は、ポンプ部2を収容するポンプ収容部53、モータ部3を収容するモータ収容部54、及び基板4を収容する基板収容部55を一部品の形で一体に有する。ハウジング本体50、第一蓋部51、及び第二蓋部52は導体でかつ熱伝導性が良好な金属材料、例えばアルミニウム合金で形成される。
【0034】
ハウジング5のポンプ収容部53は、ポンプ部2のポンプケース23を含む概略円筒状の形態を有する。ポンプ収容部53の内周面には、ハウジング内部をポンプ部2側とモータ部3側とに区画する隔壁56が設けられる。隔壁56の内周面は出力軸32の外周面と近接する位置まで延びている。隔壁56の内周面と出力軸32の外周面は非接触の状態にあり、これにより出力軸32の回転が許容されている。
【0035】
モータ収容部54は円筒状に形成される。モータ収容部54の円筒状内周面(
図3参照)に、モータ部3のステータ30が圧入もしくは接着固定されている。モータ収容部54のうち、モータ部3よりも軸方向ポンプ部2側の内周面に、既に述べたポンプ部2側の軸受33とシール35とが装着されている。軸受33及びシール35は、隔壁56よりも軸方向反ポンプ部側に位置する。
【0036】
図5は、
図1に示す電動オイルポンプ1を、上下を逆にしてポンプ部2側かつ基板収容部55側から見た時の斜視図である。
図5に示すように、ハウジング5の基板収容部55は、半径方向から見て矩形枠状をなし、かつ半径方向の外径側を開口部とした周壁55aを有する。基板収容部55内に配置した基板4の周囲が周壁55aによって囲まれる。基板4を基板収容部55内に配置した後で、基板収容部55の開口部が、閉鎖部としてのカバー57により閉鎖される。カバー57は締結部材B3を用いてハウジング本体50に取り付けられる。締結部材は、タッピングねじを含むボルト全般を指す。この状態で、カバー57は
図1に示す放熱シート44に接触している。これにより、基板4の高温となる電子部品41からの熱を、放熱シート44を介してカバー57、さらにはハウジング本体50に効率的に逃がすことができる。この際、熱経路が外気に触れたカバー57を含むため、外気による冷却効果も期待できる。
【0037】
図1に示すように、基板収容部55の底面55bは、ポンプ収容部53の外周面及びモータ収容部54の外周面で形成される。この底面55bにおいて、ポンプ収容部53の外周面とモータ収容部54の外周面の間には半径方向の段差があり、ポンプ収容部53の外周面はモータ収容部54の外周面よりも半径方向でモータ部3の軸心Oに接近した位置にある。
【0038】
図1及び
図5に示すように、ハウジング本体50の軸方向両側には、電動オイルポンプ1を取り付け対象(本実施形態ではトランスミッションケース)に取り付けるためのフランジ状の取り付け部58、59が一体に形成される。ポンプ部2側の取り付け部58に二つの締結用孔58aが形成され、反ポンプ部側の取り付け部59に二つの締結用孔59aが形成されている。これら締結用孔58a、59aに図示しない締結部材を挿入し、当該締結部材を取り付け対象にねじ込むことで、電動オイルポンプ1が取り付け対象に取り付けられる。
【0039】
取り付け部58、59の締結用孔58a、59a周辺には、取り付け対象に接触する平坦な取り付け面58b、59b(
図5参照)が形成される。取り付け面58b、59bは、基板収容部55に収容された基板4と直交する方向に延びる共通の平面上に配置されている。
【0040】
図1に示すように、ハウジング本体50には、ポンプ部2に接続されるオイル流路6が設けられる。オイル流路6として、吸入側オイル流路60と吐出側オイル流路61とが互いに分離して設けられる。
【0041】
図2に示すように、吸入側オイル流路60は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部に開口する吸入側空間60aと、ハウジング本体50の表面に開口する吸入孔60bと、吸入側空間60aと吸入孔60bの間を連通する吸入側連通路60cとを有する。同様に、吐出側オイル流路61は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部に開口する吐出側空間61aと、ハウジング本体50の表面に開口する吐出孔61bと、吐出側空間61aと吐出孔61bを連通する吐出側連通路61cとを有する。
【0042】
吸入側空間60a及び吐出側空間61aは、いずれもポンプ収容部53のうち、ポンプ部2の軸方向反ポンプ部側の領域に設けられる。吸入側空間60aと吐出側空間61aは、いずれも出力軸32の円周方向に延びる円弧状をなし、円周方向で180°対向する位置に設けられる。本実施形態では、吸入側空間60aを吐出側空間61aよりも基板4との接近側に配置している。また、吸入孔60b及び吐出孔61bは、
図5に示すようにハウジング5のうち、取り付け対象と対向する面に開口している。吸入孔60b及び吐出孔61bは、取り付け部58、59の取り付け面58b、59bを含む平面上に位置している。これにより、電動オイルポンプ1の周囲にオイル用配管を引き回す必要がなくなり、電動オイルポンプ1の周辺構造を簡略化することができる。
【0043】
以上の構成を有する電動オイルポンプにおいて、モータ部3を駆動することで、インナロータ21が回転する。インナロータ21が回転することで、これに噛み合ったアウタロータ22が従動回転し、両者の歯部の間に形成される空間が回転に伴って拡大及び縮小する。そのため、トランスミッションケース内の油溜りに溜まったオイルが吸入側オイル流路60を介してポンプ部2に吸入され、これが吐出側オイル流路61を介してトランスミッション内部に吐出される。
【0044】
以上の構成を有する本実施形態に係る電動オイルポンプは、以下の特徴を有する。
【0045】
上述のように、本実施形態に係る電動オイルポンプにおいては、ポンプ収容部53、モータ収容部54、及び、基板収容部55を備えるハウジング5(ハウジング本体50)が、熱伝導性が良好なアルミニウム合金により一体に形成されているので、ポンプ部2及びオイル流路6を流れるオイルの熱が、ポンプ収容部53、モータ収容部54、基板収容部55を介して基板4に良好に伝達される。
図1に、伝達される熱の経路の一部を矢印Hにて示す。
【0046】
さらに、本実施形態においては、
図6に示すように、基板4が、ハウジング本体50に設けられた凸状の基板取り付け部50aに対して、回路パターンを形成する金属箔(銅箔)62を介して接触していると共に、金属製の固定具(ねじ)63によって固定されているので、これらの金属部材(金属箔62及び固定具63)を介してハウジング5から基板4にオイルの熱が良好に伝達される。このため、基板4の温度は、油温の変化に追従して変化する。
【0047】
ここで、本実施形態に係る電動オイルポンプにおいては、故障防止あるいは機能維持などの目的で、基板4上の電子部品の温度を検知する温度センサとして、サーミスタ46とCPU温度センサ47が設けられている。サーミスタ46は、基板4上の電子部品の中でも特に高発熱部品である半導体素子(インバータ)41cの温度を検知するために設けられている。また、CPU温度センサ47は、CPU41bの温度を検知するため、CPU41bに内蔵された温度センサである。上記のように、基板4の温度が、油温の変化に追従して変化すると、その影響により、サーミスタ46及びCPU温度センサ47の各検知温度も変化する。
【0048】
図7は、油温の変化と、基板4上に設けられたサーミスタ46及びCPU温度センサ47の検知温度の変化を示すグラフである。
図7において、Toが油温、T1がサーミスタ46の検知温度、T2がCPU温度センサ47の検知温度である。
【0049】
図7に示すように、本実施形態においては、油温Toが変化すると、これに追従してサーミスタ46及びCPU温度センサ47の検知温度T1,T2も変化する。
【0050】
このように、本実施形態においては、基板4に設けられた温度センサ(サーミスタ46又はCPU温度センサ47)の検知温度が油温の変化に追従して変化するため、温度センサの検知温度に基づいて油温の推定を精度良く行うことができる。従って、本実施形態においては、油温を直接検知するための温度センサを別途設ける必要が無く、基板4に設けられている既存の温度センサ(サーミスタ46又はCPU温度センサ47)を用いて油温を推定することができる。このため、油温推定に必要なコストを削減できる。また、新たに温度センサを設置するためのスペースを確保しなくてもよいため、構造上の大幅な設計変更も回避できる。
【0051】
また、本実施形態においては、
図6に示すように、基板4が金属箔62及び金属製の固定具63を介してハウジング本体50に取り付けられているので、オイルの熱が金属箔62及び金属製の固定具63を介して基板4に良好に伝達される。さらに、本実施形態においては、ハウジング本体50に設けられた凸状の基板取り付け部50aが、基板4のポンプ収容部3側の面に対して接触しているので、ポンプ収容部53から基板4までの伝熱経路が短くなる。このため、オイルの熱を基板4に良好に伝達できる。また、本実施形態においては、
図4に示す4つの基板取り付け部50aのうち、2つの基板取り付け部50a1が他の2つの基板取り付け部50a2よりも、モータ部3の軸心Oの方向においてポンプ収容部53側にあるので(
図6参照)、特にポンプ収容部53側の基板取り付け部50a1を経由する伝熱経路が短くなる。このように、本実施形態においては、ポンプ収容部53から基板4への伝熱経路を極力短くする構成が採用されているため、基板4に設けられた温度センサの検知温度に基づいて油温の推定を精度良く行える。
【0052】
以下、本実施形態に係る油圧補正方法(流体圧補正方法)について説明する。
【0053】
まず、
図8に示すように、モータ部3の駆動電流及び回転速度に基づいて油圧を推定する(Step1)。詳しくは、モータ部3の駆動電流が図示しない電流センサによって検知され、モータ部3の回転速度が、センサマグネット37aと磁気センサ37bから成る上記回転角検出部37(
図1参照)によって検出される。一般的に、油圧は、モータ部3の駆動電流が大きいほど大きくなり、モータ部3の回転速度が小さいほど大きくなるので、実験などによりあらかじめ油圧と駆動電流及び回転速度の関係を求めておくことにより、油圧を推定できる。
【0054】
上記のようにしてモータ部3の駆動電流及び回転速度から油圧(推定油圧Pe)を算出した後、次いで、基板4上のサーミスタ46又はCPU温度センサ47の検知温度から油温を推定する(Step2)。そして、得られた推定油温に基づいて油温補正ゲインKtを設定する(Step3)。さらに、本実施形態においては、モータ部3の電源電圧に基づいて電圧補正ゲインKvを設定する(Step4)。そして、得られた油温補正ゲインKtと電圧補正ゲインKvを推定油圧Peに乗算することにより、推定油圧Peを補正する(Step5)。以降、電動オイルポンプが作動している間、同様の手順により、推定油温に基づく推定油圧の補正を繰り返し行う。
【0055】
以上のように、本実施形態においては、基板の温度から油温(流体温度)を精度よく推定でき、推定された油温に基づいて推定油圧を補正するので、エンジン停止中のトランスミッション内の油圧を的確に制御できる。しかも、油温を直接検知する温度センサを用いなくてもよいので、コスト削減を図れると共に、構造上の大幅な設計変更も回避できる。
【0056】
さらに、本実施形態は、下記のような構造的特徴を備えているため、油温の推定に有利な効果が得られる。
【0057】
図9に示すように、本実施形態においては、基板収容部55の底面55bに半径方向の段差があるので、ポンプ収容部53と半径方向で対向する領域を、基板4の電子部品41のうち、高背部品(例えば電解コンデンサ41a)の配置スペースとして活用することができる。一方、基板4のうち、モータ収容部54と半径方向で対向する領域には、低背部品(例えば半導体素子41c、集積回路、あるいは抵抗器)を集中して配置する。
【0058】
これにより、基板4を基板収容部55の底面55bに接近させて配置することが可能となる。従って、基板4と直交する方向で電動オイルポンプ1の小型化(薄肉化)を図ることができ、ポンプ収容部53から基板4への伝熱経路が短くなるため、オイルの熱を基板4へ良好に伝達できる。また、この効果を得るためには、
図1に示すように、ポンプ部2の外径寸法dが、モータ部3の外径寸法Dよりも小さいことが好ましい(d<D)。これはポンプ部2として低容量タイプを使用する一方、モータ部3として高速回転タイプを使用することを意味する。低容量タイプのポンプ部2を高速回転させることで、必要なポンプ容量を確保することができる。
【0059】
さらに、本実施形態においては、
図10に示すように、基板4が、モータ部3の軸心Oを通る円の接線方向に沿って配置されているため、基板4と直交する方向において電動オイルポンプ1の小型化(薄肉化)を図れる。これにより、ポンプ収容部53から基板4への伝熱経路が短くなるため、オイルの熱を基板4へ良好に伝達できる。
【0060】
また、
図10に示すように、基板4が配置される接線方向においては、基板4の両端(図の右端及び左端)がモータ部の軸心Oを挟む両側の領域に延びている。そのため、この接線方向における基板4の端部では、その中央部に比べてモータ収容部54の円筒面状の外周面からの距離が大きくなる。従って、基板4の接線方向の両端部を高背部品(電解コンデンサ41a)の配置スペースとして利用することができる。
【0061】
特に、本実施形態においては、
図10に示すように、接線方向における基板4の中心Pが、モータ部3の軸心Oに対して前記接線方向にずれて配置されている(ずれ幅α)。このため、接線方向の一方の基板端部で、モータ収容部54の外周面までの距離をさらに拡大することができる。これにより、基板4のうち、接線方向の一方の端部に、高背部品である電解コンデンサ41aの設置スペースを確実に確保することができ、基板4と直交する方向における電動オイルポンプ1の小型化をより一層図りやすくなる。このように、本実施形態においては、基板4と直交する方向における電動オイルポンプ1の小型化が可能であるので、ポンプ収容部53から基板4への熱伝達性が向上し、油温の推定をより高精度に行えるようになる。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0063】
上述の実施形態においては、油温を推定するための温度センサとして、基板上の電子部品の温度を検知する温度センサを用いているが、電子部品用の温度センサを用いず、基板上に設けられた専用の温度センサを用いてもよい。また、油温推定のために用いる温度センサを、半導体素子(インバータ)41cなどの高発熱部品から遠ざけて配置した場合は、温度センサが高発熱部品の熱の影響を受けにくくなるので、より高精度な油温推定が可能となる。
【0064】
また、上述の実施形態においては、本発明を電動オイルポンプに適用した場合を例に説明したが、本発明は、オイルを用いた電動ポンプに適用される場合に限らない。本発明は、冷却水を送り出すウォータポンプなど、オイル以外の流体を送り出す電動流体ポンプにも適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 電動オイルポンプ(電動流体ポンプ)
2 ポンプ部
3 モータ部
4 基板
5 ハウジング
50 ハウジング本体
50a 基板取り付け部
53 ポンプ収容部
54 モータ収容部
55 基板収容部
62 金属箔
63 固定具