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特開2022-148756摺動式等速自在継手用外側継手部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148756
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手用外側継手部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20220929BHJP
   F16D 3/205 20060101ALI20220929BHJP
   F16D 3/227 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16D3/20 J
F16D3/205 M
F16D3/227 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050562
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】河田 将太
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(57)【要約】
【課題】摺動式等速自在継手の製造コストを抑えながら、外側継手部材からの内部部品の抜け止め防止力の管理を容易化する。
【解決手段】鍛造加工により仕上げ前トラック溝5’を形成する。その後、仕上げ前トラック溝5’に機械加工を施すことにより、軸方向と平行な転動体案内面5aと、転動体案内面5aの継手開口側に設けられた隆起部5bとを形成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を収容する複数のトラック溝が内周面に形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材において、
前記トラック溝が、軸方向と平行な転動体案内面と、前記転動体案内面の継手開口側に設けられた隆起部とを有し、
前記転動体案内面及び前記隆起部が機械加工で形成された摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項2】
前記隆起部の一部が機械加工で形成され、残部に鍛造面を有する請求項1に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項3】
前記隆起部全体が機械加工で形成された請求項1に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項4】
前記隆起部を含む開口端付近の領域を弾性変形させながら、前記転動体を、前記隆起部を乗り越えて前記トラック溝に着脱可能とした請求項1~3の何れか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項5】
開口端面と前記隆起部との間にトラック溝面取り部を有する請求項1~4の何れか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項6】
前記トラック溝面取り部が機械加工で形成された請求項5に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項7】
前記トラック溝面取り部が鍛造加工で形成された請求項5に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の外側継手部材と、複数のトラック溝が外周面に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるトラックに配された複数の転動体とを備えた摺動式等速自在継手。
【請求項9】
転動体を収容する複数のトラック溝が内周面に形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材の製造方法において、
鍛造加工により仕上げ前トラック溝を形成する工程と、
前記仕上げ前トラック溝に機械加工を施すことにより、軸方向と平行な転動体案内面と、前記転動体案内面の継手開口側に設けられた隆起部とを形成する工程とを有する摺動式等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【請求項10】
前記鍛造加工により、開口端面と前記隆起部との間にトラック溝面取り部を形成する請求項9に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【請求項11】
前記機械加工により、開口端面と前記隆起部との間にトラック溝面取り部を形成する請求項9に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式等速自在継手用外側継手部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、外側継手部材と、外側継手部材の内周に配された内側継手部材とを有し、ボールやローラ等の転動体を介して外側継手部材と内側継手部材との間でトルクを伝達する。等速自在継手としては、外側継手部材と内側継手部材との間の角度変位は許容するが軸方向変位は許容しない固定式等速自在継手と、外側継手部材と内側継手部材との間の角度変位だけでなく軸方向変位も許容する摺動式等速自在継手とに大別される。
【0003】
摺動式等速自在継手においては、車体などへの取付時に内側継手部材及び転動体を含む内部部品が外側継手部材の開口端から抜け出ることを防止するため、内部部品の抜け止めを行う抜け止め構造を設けることが一般的である。例えば下記の特許文献1には、外側継手部材のトラック溝の開口端に、加締め加工にて形成された隆起部を形成し、この隆起部にローラを当接させることで内部部品の抜け止めを行う構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-133894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように加締め加工で形成された隆起部は、形状にバラつきが生じるため、ローラを含む内部部品の抜け出し防止力(外側継手部材の内周から引き抜くために要する力)がバラつく。このため、内部部品の抜け出し防止力を保証する上で、上記のような隆起部の形状に伴うバラつきを加味しなくてはならず、抜け出し防止力の管理がしにくくなる。
【0006】
そこで、本発明は、摺動式等速自在継手の外側継手部材からの内部部品の抜け止め防止力の管理を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、摺動式等速自在継手では、外側継手部材のトラック溝内で転動体(ローラやボール)をスムーズに転動させるために、トラック溝と転動体との間に適切な隙間を設定する必要がある。しかし、外側継手部材は、通常、鍛造加工で形成された後、熱処理が施されるため、トラック溝の寸法精度はそれほど高くない。一方、転動体の外周面は、研削加工により高精度に仕上げられる。従って、直径の異なる複数種の転動体を予め用意しておき、外側継手部材のトラック溝の寸法に合う転動体を選択して組み付けることが一般的である。しかし、この場合、複数種の転動体を形成し、これらをストックする必要があるため、少量生産の場合は製造コストがかかる。
【0008】
そこで、トラック溝の転動体案内面に機械加工を施して高精度に仕上げれば、工数は増えるが、複数種の転動体を用意する必要が無くなる。本発明は、転動体案内面を形成するための機械加工により、トラック溝の開口端に設けられる隆起部を形成することを特徴とする。すなわち、隆起部を、高精度な加工が可能な機械加工で形成すれば、隆起部の形状のバラつきを抑えて、抜け出し防止力を精度良く管理することが可能となる。この場合、加締め加工で形成する場合と比べて隆起部の加工コストが高くなるが、転動体案内面の機械加工により隆起部を形成することで、外側継手部材全体のコストアップを抑えることができる。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、転動体を収容する複数のトラック溝が内周面に形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材において、
前記トラック溝が、軸方向と平行な転動体案内面と、前記転動体案内面の継手開口側に設けられた隆起部とを有し、
前記転動体案内面及び前記隆起部が機械加工で形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、上記の知見に基づいてなされた本発明は、転動体を収容する複数のトラック溝が内周面に形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材の製造方法において、
鍛造加工により仕上げ前トラック溝を形成する工程と、
前記仕上げ前トラック溝に機械加工を施すことにより、軸方向と平行な転動体案内面と、前記転動体案内面の継手開口側に設けられた隆起部とを形成する工程とを有する。
【0011】
隆起部は、一部を機械加工で形成し、鍛造面を残してもよい。また、隆起部全体を機械加工で形成してもよい。
【0012】
摺動式等速自在継手の組立工程では、外側継手部材のトラック溝に開口側から転動体が挿入される。このため、外側継手部材の隆起部を含む開口端付近の領域を弾性変形させながら、転動体を、隆起部を乗り越えて前記トラック溝に着脱可能とすることが好ましい。この場合、トラック溝に転動体を容易に挿入することができると共に、修理やメンテナンス時にトラック溝から転動体を容易に取り外すことができる。
【0013】
外側継手部材のトラック溝に転動体を押し込む際、外側継手部材の開口端面と隆起部との間にトラック溝面取り部を設けておくことで、転動体と外側継手部材との接触により転動体の外周面が傷つくことを防止できる。このトラック溝面取り部は、例えば、トラック溝の鍛造加工により形成することができる。あるいは、トラック溝面取り部を上記の機械加工で形成することもできる。この場合、トラック溝面取り部を高精度に仕上げることができるため、トラック溝に転動体を組み込む際の押し込み量を管理しやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、本発明によれば、摺動式等速自在継手の製造コストを抑えながら、外側継手部材からの内部部品の抜け止め防止力の管理を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】トリポード型等速自在継手の軸方向断面図である。
図2】上記トリポード型等速自在継手の軸直交方向断面図である。
図3】上記トリポード型等速自在継手の外側継手部材を軸方向から見た正面図である。
図4図3のX-X断面図である。
図5】機械加工を施す前の外側継手部材の断面図である。
図6】他の実施形態にかかる外側継手部材の断面図である。
図7】さらに他の実施形態に係る外側継手部材を軸方向から見た正面図である。
図8図7の外側継手部材の軸方向断面図である。
図9】機械加工を施す前の図7の外側継手部材の断面図である。
図10】ダブルオフセット型等速自在継手の外側継手部材を軸方向から見た正面図である。
図11図10の外側継手部材を有するダブルオフセット型等速自在継手の軸方向断面図(図10のY-Y断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、転動体としてのローラ4とを備える。なお、本発明に関する説明中の「軸方向」とは、外側継手部材2の軸線方向(図1の左右方向)を意味する。
【0018】
外側継手部材2は、一端に開口部を有するカップ状に形成された部材である。外側継手部材2の内周面には、軸方向に延びる3つのトラック溝5が周方向で等間隔に形成されている。トラック溝5は、互いに対向する一対の側面51と、一対の側面51の外径端同士を連結する大径円筒面52とを有する。トラック溝5の側面51に、転動体案内面としてのローラ案内面5aが設けられる。ローラ案内面5aは、軸方向と平行な面であり、詳しくは、図3に示す軸直交方向断面において中央部を外側(対向するローラ案内面5aから離反する側)に膨出させた曲面(例えば円筒面)である。外側継手部材2の内周面のうち、トラック溝5の周方向間には小径円筒面2dが設けられる。外側継手部材2の小径円筒面2dの開口端には、面取り部2cが形成される。この面取り部2cにシャフト8が当接することにより、トリポード型等速自在継手1の最大作動角が規定される。
【0019】
トリポード部材3は、中心孔6aが設けられたボス部6と、このボス部6から半径方向に突出する3つの脚軸7とを有する。ボス部6の中心孔6aには、シャフト8の端部に形成された雄スプライン8bに対して嵌合可能な雌スプライン6bが形成されている。シャフト8の端部が中心孔6aに挿入され、雄スプライン8bと雌スプライン6bとが嵌合することで、シャフト8とトリポード部材3とが一体的に回転可能に連結される。また、中心孔6aから突出するシャフト8の端部に止め輪9が装着されることで、トリポード部材3に対するシャフト8の軸方向の抜けが防止される。
【0020】
トリポード部材3の各脚軸7には、ローラ4などから成るローラユニット14が装着される。ローラユニット14は、アウタリングとしてのローラ4、ローラ4の内側に配置されると共に脚軸7に外嵌されたインナリング10、ローラ4とインナリング10との間に介在された多数の針状ころ11によって構成される。ローラ4、インナリング10、及び針状ころ11は、ワッシャ12,13によって互いに分離しないように組み付けられる。
【0021】
ローラ4は、外側継手部材2のトラック溝5内に配置される。ローラ4が、トラック溝5のローラ案内面5aに沿って転動することで、ローラユニット14及びトリポード部材3を含む内部部品は、外側継手部材2に対して軸方向変位する。トリポード部材3は、外側継手部材2の軸線に対して傾斜する角度変位も許容される。図示例では、脚軸7の横断面が略楕円形状に形成されていることで、ローラユニット14は脚軸7の軸線に対して傾斜することが可能である。ローラユニット14は、シャフト8の回転に伴ってトリポード部材3が回転する際、トリポード部材3と外側継手部材2との間で回転トルクを伝達するトルク伝達部材として機能する。
【0022】
本実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2の開口部を密封するためのブーツ15を備える。ブーツ15は、大径端部15a、小径端部(図示省略)、及び大径端部15aと小径端部とを連結する蛇腹部15cから成る。ブーツ15の大径端部15aは、外側継手部材2の外径面の開口端側に形成されたブーツ装着部2bに対してブーツバンド16にて締め付けられることにより取り付けられる。また、ブーツ15の小径端部は、シャフト8の外径面に形成されたブーツ装着部(図示省略)に対して、別のブーツバンドにて締め付けられることにより取り付けられる。
【0023】
以下、外側継手部材2に対する内部部品(ローラユニット14及びトリポード部材3)の抜けを防止する抜け止め構造について説明する。
【0024】
図3及び4に示すように、外側継手部材2のトラック溝5の側面51の開口端には、内部部品の抜け止め用の隆起部5bが設けられている。隆起部5bは、ローラ案内面5aの継手開口側(図4の上側)に滑らかに連続して設けられる。隆起部5bは、ローラ案内面5aよりもトラック溝5の中心側(対向するローラ案内面5aに近づく側)に突出している。詳しくは、隆起部5bが、継手開口側へ行くにつれてトラック溝5の中心側に変位した傾斜面を有する。隆起部5bは、トラック溝5の側面51の開口端縁の延在方向全域に設けられる。すなわち、隆起部5bの一端は大径円筒面52に達し、隆起部5bの他端は面取り部2cに達している。この他、隆起部5bを、トラック溝5の側面51の開口端縁の延在方向一部(例えば、延在方向両端を除く中間領域)に設けてもよい。
【0025】
本実施形態では、隆起部5bが、各トラック溝5の各ローラ案内面5aに1つずつ設けられている。各トラック溝5に設けられた一対のローラ案内面5aの間隔W1は、ローラ4の外径Dよりも僅かに大きい(図4参照)。各トラック溝5に設けられた一対の隆起部5bの間隔W2は、ローラ4の外径Dよりも僅かに小さい。尚、各隆起部5bの突出量は、全て同じでなくてもよい。外側継手部材2ごと、トラック溝5ごと、あるいは隆起部5bごとに隆起部5bの突出量を異ならせてもよい。
【0026】
内部部品を外側継手部材2に組み付けるときは、内部部品のローラ4をトラック溝5の開口端から継手奥側(図4の下方)へ押し込む。このとき、一対の隆起部5bの間隔W2がローラ4の外径Dよりも小さいため、ローラ4が一対の隆起部5bに接触し、一時的にローラ4の挿入が規制される。しかしながら、隆起部5bの規制力に抗してローラ4をトラック溝5内に押し込むことにより、外側継手部材2の開口端付近の領域が弾性変形して、互いに対向する隆起部5bの間隔が押し広げられることで、ローラ4が隆起部5bを乗り越える。これにより、ローラ4がトラック溝5の奥側へ挿入され、内部部品が組み付けられる。こうして内部部品が組み付けられた後は、外側継手部材2が弾性復元し、再び一対の隆起部5bの間隔W2がローラ4の外径Dよりも小さくなる。この隆起部5bによってローラ4のトラック溝5から外部への移動が規制されることで、内部部品の抜けが防止される。
【0027】
隆起部5bによる抜け止め力は、車体などへの継手組付け作業時に生じ得る抜け力以上に設定されている。このため、継手組立時に生じる抜け力では内部部品が外側継手部材2から抜け出ることはない。ただし、内部部品に対して、継手組立時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を作用させた場合、上記と同様に外側継手部材2の開口端付近の領域が弾性変形し、隆起部5bが内部部品の抜けを許容する。これにより、外側継手部材と内部部品とを組付け後に分離することができるようになり、修理やメンテナンスの作業性が向上する。
【0028】
以下、本実施形態に係る外側継手部材の製造方法について説明する。
【0029】
まず、鍛造加工により、外側継手部材2に仕上げ前トラック溝5’を形成する(図5参照)。図示例の仕上げ前トラック溝5’の側面51’及び大径円筒面52は、軸方向と平行な面からなり、外側継手部材2の開口端面2aまで達している。
【0030】
次に、外側継手部材2に熱処理を施す。具体的には、例えば、外側継手部材2の仕上げ前トラック溝5’のうち、互いに対向する一対の側面51’に高周波熱処理が施される。この場合、仕上げ前トラック溝5’の側面51’の軸方向全域に熱処理を施してもよいし、仕上げ前トラック溝5’の側面51’の開口端近傍(隆起部5bを形成する領域)を除く軸方向領域に熱処理を施してもよい。この他、外側継手部材2全体に浸炭焼き入れを施してもよい。
【0031】
その後、仕上げ前トラック溝5’の側面51’に機械加工による仕上げを施す。本実施形態では、機械加工として、切削加工、特にミーリング加工等の旋削加工を施す。この機械加工で、図5の散点領域を除去することにより、ローラ案内面5a及び隆起部5bが連続的に形成される。図示例では、仕上げ前トラック溝5’の側面51’の軸方向全域に機械加工が施される。このため、ローラ案内面5a及び隆起部5bの全域に、機械加工の痕が残った機械加工面が形成される。以上により、外側継手部材2に、ローラ案内面5a及び隆起部5bを有するトラック溝5が形成される。尚、図示例では、隆起部5bの突出量、すなわち、切削加工による除去量を誇張して示しているが、実際には0.1~1.0mm程度である。従って、切削後のローラ案内面5aには、熱処理による硬化層が残っている。
【0032】
上記のように、トラック溝5のローラ案内面5aを機械加工で形成することにより、互いに対向する一対のローラ案内面5aの間隔W1(図4参照)を高精度に設定することができる。一方、ローラ4の外周面にも、研削加工等の機械加工による仕上げが施されているため、ローラ4の外径Dも高精度に設定される。このように、ローラ案内面5aの間隔W1及びローラ4の外径Dの双方を高精度に設定することで、ローラ案内面5aとローラ4との間の隙間(W1-D)を高精度に管理することができるため、設けられるべき適切な隙間を形成することが容易となる(例えば0.01~0.1mm)。また、ローラ案内面5aを機械加工で仕上げることにより、ローラ案内面5aの表面粗さを小さくすることができる。以上により、外側継手部材2に対してローラ4を含む内部部品が軸方向に移動し、ローラ4がローラ案内面5a上を転送した際の振動を抑制することができる。
【0033】
また、トラック溝5の隆起部5bを機械加工で形成することにより、互いに対向する一対の隆起部5bの間隔W2(図4参照)を高精度に設定することができる。一方、上述のとおり、ローラ4の外径Dも高精度に設定されるため、ローラ4と隆起部5bとの干渉量(D-W2)を高精度に設定することが可能となり、ローラ4を含む内部部品の抜け止め力を管理しやすくなる。このように、隆起部5bを機械加工で形成すると、加締めで形成する場合よりも加工コストが高くなるが、上記のローラ案内面5aの機械加工と同時に形成することで、外側継手部材2全体のコストアップを抑えることができる。
【0034】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0035】
上記の実施形態では、隆起部5bの全域が機械加工で形成された場合を示したが、これに限らず、隆起部5bの一部に鍛造面を残してもよい。具体的には、例えば図6に示すように、隆起部5bが、継手開口側へ行くにつれて内側(トラック溝5の中心側)に変位した傾斜面5b1と、その継手開口側に隣接して設けられた軸方向面5b2とを有する。軸方向と平行な仕上げ前トラック溝5’の側面51’のうち、開口端近傍(軸方向面5b2)を除く軸方向領域に機械加工を施して図6の散点領域を除去することで、傾斜面5b1及びローラ案内面5aが形成される。この場合、傾斜面5b1及びローラ案内面5aは機械加工面となり、軸方向面5b2は鍛造面となる。
【0036】
図7及び8に示す実施形態では、外側継手部材2の開口端面2aと隆起部5bとの間にトラック溝面取り部20を設けている。トラック溝面取り部20は、開口端面2aから継手奥側(図中下方)に行くにつれてトラック溝5の中心側に傾斜した傾斜面からなる。本実施形態では、図8に示す軸方向断面で直線状のトラック溝面取り部20を形成している。この他、トラック溝面取り部20は、凸曲面状(例えば断面凸円弧状)であってもよい。軸方向に対するトラック溝面取り部20の傾斜角度は、45度以下とすることが好ましい。トラック溝面取り部20は、トラック溝5のうち、少なくともローラ4が接触する領域に設けられていればよい。図示例では、トラック溝面取り部20が、トラック溝5の側面51の開口端縁の延在方向全域に設けられる。すなわち、トラック溝面取り部20の一端は大径円筒面52に達し、トラック溝面取り部20の他端は、小径円筒面2dの上端の面取り部2cに達している。この他、トラック溝面取り部20を、トラック溝5の側面51の開口端縁の延在方向一部(例えば、延在方向両端を除く中間領域)に設けてもよい。
【0037】
トラック溝面取り部20は、例えば鍛造加工で形成することができる。具体的には、図9に示すように、仕上げ前トラック溝5’を鍛造加工により形成する際に、仕上げ前トラック溝5’の側面51’の上端にトラック溝面取り部20を形成する。その後、仕上げ前トラック溝5’の側面51’のうち、トラック溝面取り部20よりも継手奥側の領域に機械加工を施して図中散点領域を除去することにより、ローラ案内面5aおよび隆起部5bが形成される。この場合、ローラ案内面5a及び隆起部5bは機械加工面となり、トラック溝面取り部20は鍛造面となる。
【0038】
あるいは、トラック溝面取り部20を機械加工で形成してもよい。この場合、鍛造加工により、仕上げ前トラック溝5’を開口端まで軸方向と平行に形成し(図5参照)、その後、機械加工により、ローラ案内面5a、隆起部5b、およびトラック溝面取り部20を形成する。この場合、トラック溝5の側面51の全域(ローラ案内面5a、隆起部5b、及びトラック溝面取り部20)が、機械加工面となる。
【0039】
このように、トラック溝5の側面51の開口端にトラック溝面取り部20を設けることで、ローラ4をトラック溝5に押し込む際に、ローラ4がトラック溝面取り部20に接触しつつ圧入されるため、ローラ4に対して大きな接触面圧が作用するのを防止できる。これにより、ローラ4の表面に接触痕が生じたり、ローラ4の表面に外側継手部材の一部が凝着したりするのを抑制できる。また、トラック溝面取り部20がローラ4をガイドするガイド面として機能することにより、ローラ4の傾きが生じにくくなり、内部部品の組み付けを行いやすくなる。
【0040】
本発明は、図1及び図2に示すような転動体としてローラを備えるローラタイプの摺動式等速自在継手に適用される場合に限らず、転動体としてボールを備えるボールタイプの摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【0041】
ボールタイプの摺動式等速自在継手としては、例えば図10及び11に示すダブルオフセット型等速自在継手が知られている。このダブルオフセット型等速自在継手は、内周面に複数のトラック溝105を有する外側継手部材102と、外周面に複数のトラック溝106を有する内側継手部材103と、外側継手部材102と内側継手部材103の対向するトラック溝105,106の間に配置された転動体としての複数のボール104と、外側継手部材102の内周面と内側継手部材103の外周面との間に介在してボール104を保持するケージ107とを備える。外側継手部材102のトラック溝105に、機械加工でボール案内面105a及び隆起部105bが形成される。尚、ボール案内面105aおよび隆起部105bの詳細は、上記の実施形態におけるローラ案内面5a及び隆起部5bと同様であるため、説明を省略する。
【符号の説明】
【0042】
1 トリポード型等速自在継手(摺動式等速自在継手)
2 外側継手部材
3 トリポード部材(内側継手部材)
4 ローラ
5 トラック溝
5’ 仕上げ前トラック溝
5a ローラ案内面
5b 隆起部
6 ボス部
7 脚軸
8 シャフト
14 ローラユニット
15 ブーツ
20 トラック溝面取り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11