(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148759
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/10 20060101AFI20220929BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F04B53/10 J
F04C15/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050567
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
【テーマコード(参考)】
3H044
3H071
【Fターム(参考)】
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC14
3H044CC18
3H044DD13
3H044DD24
3H071AA03
3H071BB02
3H071CC32
3H071CC44
3H071DD14
(57)【要約】
【課題】取付対象部品の設計工数を増やすことなく、液体(オイル)の逆流による電動ポンプの損傷を防止する。
【解決手段】電動ポンプ1は、モータ部3と、ポンプ部2と、モータ部3及びポンプ部2を収容するハウジング5と、ハウジング5の表面に形成された吸入口63及び吐出口65と、吸入口63とポンプ部2とを連通する吸入管路60と、吐出口65とポンプ部2とを連通する吐出管路61と、吐出管路61に設けられた逆止弁機構70とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部と、前記モータ部で駆動されるポンプ部と、前記モータ部及び前記ポンプ部を収容するハウジングと、前記ハウジングの表面に形成された吸入口及び吐出口と、前記吸入口と前記ポンプ部とを連通する吸入管路と、前記吐出口と前記ポンプ部とを連通する吐出管路と、前記吐出管路に設けられた逆止弁機構とを備えた電動ポンプ。
【請求項2】
前記逆止弁機構が、ボールと、シール面と、前記ボールを前記シール面に押し付ける付勢部材と、前記ボール及び前記付勢部材を内周に保持する保持部とを備えた請求項1に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記ボールと前記シール面との接触角度が20°以上である請求項2に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
前記保持部を、前記ハウジングの吐出口から一部を突出させた位置と、前記ハウジングの表面よりも上流側に後退させた位置の何れにも配置可能とした請求項1~3の何れか1項に記載の電動ポンプ。
【請求項5】
前記保持部が、ホルダおよび抜け止め部材を有し、
前記ホルダは、前記ボール及び前記付勢部材が内周に配され、前記吐出管路の内周に隙間を介して挿入され、
前記抜け止め部材は、前記吐出管路に固定され、前記ホルダに下流側から当接する請求項2に記載の電動ポンプ。
【請求項6】
前記ホルダと前記抜け止め部とが、前記吐出管路の周方向で係合した請求項5に記載の電動ポンプ。
【請求項7】
前記ハウジングが、一部品として一体に形成され、前記モータ部及び前記ポンプ部を収容するハウジング本体を備え、
前記ハウジング本体に前記吐出管路が形成された請求項1~6の何れか1項に記載の電動ポンプ。
【請求項8】
前記吐出管路が小径部および大経部を有し、
前記大径部に前記保持部が配された請求項7に記載の電動ポンプ。
【請求項9】
前記シール面が前記ハウジング本体に形成された請求項7に記載の電動ポンプ。
【請求項10】
前記吐出管路が、小径部と、大径部と、前記小径部の内周面と前記大経部の内周面とを接続する段差部とを有し、
前記段差部に前記シール面が形成された請求項9に記載の電動ポンプ。
【請求項11】
前記シール面が、前記ボールの外周面と同形状の塑性加工面である請求項9又は10に記載の電動ポンプ。
【請求項12】
前記吐出管路が、前記モータ部と前記ポンプ部との軸方向間領域に配された請求項1~11の何れか1項に記載の電動ポンプ。
【請求項13】
前記ポンプ部が、回転することで液体を圧送する回転式ポンプである請求項1~12の何れか1項に記載の電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車等の車両では、車両各部へのオイルの供給を電動オイルポンプを用いて行う場合がある。例えばアイドリングストップ機構(停車時にエンジンを自動停止する機構)を備えた車両やハイブリッド車両では、エンジン停止中にトランスミッションに油圧を供給する電動オイルポンプが設けられる。
【0003】
この場合、何らかの原因でトランスミッションの油路のオイルが逆流すると、電動オイルポンプの吐出側からオイルが流入し、この油圧によってポンプが逆回転して、主にポンプを駆動するモータ部やコントローラが損傷するおそれがある。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、トランスミッションの油路に逆止弁を設けることで、オイルの逆流を防止する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、トランスミッションの油路に逆止弁を設ける場合、逆止弁を設けるためにトランスミッションの油路の設計を変更する必要があるため、設計工数がかかってしまう。
【0007】
上記のような問題は、電動オイルポンプに限らず、オイル以外の液体を圧送する電動ポンプにおいても生じ得る。
【0008】
そこで、本発明は、取付対象部品(例えばトランスミッション)の設計工数を増やすことなく、圧送する液体(オイル等)の逆流による電動ポンプの損傷を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、モータ部と、前記モータ部で駆動されるポンプ部と、前記モータ部及び前記ポンプ部を収容するハウジングと、前記ハウジングの表面に形成された吸入口及び吐出口と、前記吸入口と前記ポンプ部とを連通する吸入管路と、前記吐出口と前記ポンプ部とを連通する吐出管路と、前記吐出管路に設けられた逆止弁機構とを備えた電動ポンプを提供する。
【0010】
このように、電動ポンプの吐出管路に逆止弁機構を設けることにより、トランスミッションの油路の設計を変更することなくポンプ部への液体(例えばオイル)の逆流を防止して、液体の逆流に伴うモータ部の故障を防止できる。
【0011】
上記の逆止弁機構は、ボールと、シール面と、前記ボールを前記シール面に押し付ける付勢部材と、前記ボール及び前記付勢部材を内周に保持する保持部とを備えることができる。このように、保持部によりボールおよび付勢部材を外周から保持することで、ボールおよび付勢部材の位置や姿勢を安定させることができる。
【0012】
例えば
図10に示すように、吐出管路103に形成されたシール面102(角部)にボール101を当接させることで、吐出管路103を閉塞することができる。この場合、ボール101とシール面102との接触角度α(吐出管路103の中心線L’を通る断面において、ボール101とシール面102との接触部におけるボール101の外周面の接線のなす角度)が小さいと、ボール101がシール面102に噛み込んでシール面102から離反しにくくなり、液体の吐出に支障をきたすおそれがある。このため、ボールとシール面との接触角度αはある程度大きくすることが好ましく、具体的には20°以上とすることが好ましい。
【0013】
上記の電動ポンプにおいて、逆止弁機構の保持部をハウジングの吐出口よりも上流側に後退させれば、保持部がハウジングの内部に完全に収容されるため、他部材との干渉を防止できる。一方、逆止弁機構の保持部をハウジングの吐出口から突出させれば、この突出部分を、例えば電動ポンプを他部品(例えば、トランスミッションケース)に取り付ける際の位置決め基準として用いることができる。そこで、保持部を、ハウジングの吐出口から突出させた位置と、ハウジングの吐出口よりも上流側に後退させた位置の何れにも配置可能とすれば、上記のような機能を選択的に付与することができる。
【0014】
逆止弁機構の保持部は、ホルダおよび抜け止め部材を有することができる。ホルダの内周には、ボール及び付勢部材が配される。このホルダを、吐出管路の内周に隙間を介して挿入することにより、ホルダを吐出管路に簡単に挿入することができる。抜け止め部材は、吐出管路に固定される。この抜け止め部材をホルダに下流側から当接させることで、ホルダの吐出管路からの抜けを規制できる。
【0015】
上記のように吐出管路の内周に隙間を介してホルダを配すると、吐出管路の内部でホルダが回転可能となるため、吐出管路を流れる液体によりホルダが回転してボールや付勢部材の保持が不安定になるおそれがある。また、ホルダが回転すると、ホルダが抜け止め部材やハウジングと摺動するため、長期の使用によりホルダが摩耗するおそれがある。そこで、ホルダと抜け止め部材とを吐出管路の周方向で係合させ、ホルダの回転を規制することが好ましい。
【0016】
ハウジングが、一部品として一体に形成され、前記モータ部及び前記ポンプ部を収容するハウジング本体を備える場合、このハウジング本体に吐出管路を形成することができる。この場合、吐出管路の大径部に、逆止弁機構の保持部を配することができる。吐出管路の大径部に逆止弁機構を設けない場合、液体の逆流を防止することはできないが、吐出管路としては問題なく機能する。従って、逆止弁機構を設ける場合でも設けない場合でも共通のハウジングを用いることができるため、製造コストを低減できる。
【0017】
逆止弁機構のシール面は、例えばハウジング本体に形成することができる。例えば、吐出管路に、小径部の内周面と大経部の内周面とを接続する段差部を設け、この段差部にシール面を形成することができる。
【0018】
シール面をハウジング本体に形成する場合、ボール、あるいはこれと同形状の成形面を有する治具をハウジングに押し付けることでシール面を成形することができる。この場合、シール面が、ボールの外周面と同形状の塑性加工面となる。このように、シール面をボールと同形状とすることで、ボールとシール面との密着性を高めてシール性が高められる。
【0019】
吐出管路をモータ部とポンプ部との軸方向間領域に配すれば、電動ポンプのコンパクト化が図られる。
【0020】
ポンプ部としては、例えば、回転することで液体を圧送する回転式ポンプ(例えば、トロコイドポンプ)を使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明では、吐出管路に逆止弁機構を設けることにより、取付対象部品の設計工数を増やすことなく、液体の逆流による電動ポンプの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプの軸方向断面図である。
【
図2】
図1のII-II線における軸直交方向断面図である。
【
図4】上記電動オイルポンプに設けられる逆止弁機構の断面図である。
【
図6】上記逆止弁機構のボール及びシール面の拡大断面図である。
【
図7】上記逆止弁機構のシール面の成形方法を示す断面図である。
【
図8】他の実施形態に係る逆止弁機構の断面図である。
【
図9】さらに他の実施形態に係る逆止弁機構の断面図である。
【
図10】参考例に係るボール及びシール面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態の電動ポンプは、主にエンジンの停止中にトランスミッションに油圧を供給する電動オイルポンプである。電動オイルポンプが、トランスミッションケース底部のオイル溜りからオイルを吸引し、このオイルを吐出してトランスミッション内にオイルを圧送することにより、トランスミッション内で必要な油圧や潤滑油量が確保される。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、モータ部3を制御する制御回路が設けられたコントローラ4(メイン基板)と、ポンプ部2、モータ部3、およびコントローラ4を収容するハウジング5とを有する。以下、それぞれの部材または要素を詳細に説明する。
【0026】
なお、以下の説明において、モータ部3の軸心Oと平行な方向を「軸方向」と呼び、軸心Oを中心とする円の半径方向を「半径方向」と呼ぶ(「内径方向」および「外径方向」も当該円の内径方向および外径方向を意味する)。また、軸心Oを中心とする円の円周方向を「周方向」と呼ぶ。
【0027】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のポンプ部2は、回転することでオイルを圧送する回転式ポンプである。具体的に、ポンプ部2は、複数の外歯が形成されたインナロータ21と、複数の内歯が形成されたアウタロータ22と、インナロータ21およびアウタロータ22を収容する静止部材としてのポンプケース23とを有するトロコロイドポンプである。アウタロータ22の内径側にインナロータ21が配置されている。アウタロータ22は、インナロータ21に対して偏心した位置にある。アウタロータ22の一部の歯部がインナロータ21の一部の歯部と噛み合っている。なお、インナロータ21の歯数をnとすると、アウタロータ22の歯数は(n+1)である。アウタロータ22の外周面およびポンプケース23の内周面は何れも互いに嵌合可能な円筒面である。アウタロータ22は、インナロータ21の回転に伴って従動回転するように、ポンプケース23の内周に回転可能に配置される。
【0028】
図1に示すように、モータ部3はポンプ部2と軸方向に並べて配置される。モータ部3として、例えば3相ブラシレスDCモータが使用される。モータ部3は、複数のコイル30aを有するステータ30と、ステータ30の内側に隙間をもって配置されたロータ31と、ロータ31に結合された出力軸32とを有する。ステータ30には、U相、V相、W相の三相に対応したコイル30aが形成されている。
【0029】
出力軸32は、軸受33,34を介してハウジング5に対して回転可能に支持されている。出力軸32のポンプ部2側の端部には、ポンプ部2のインナロータ21が装着されている。出力軸32とポンプ部2の間に減速機は配置されておらず、インナロータ21はモータ部3の出力軸32に嵌合されており、例えば二面幅によって動力伝達可能とされている。軸方向ポンプ部2側に位置する軸受33とインナロータ21との間に、出力軸32の外周面に摺接するシールリップを備えたシール35が配置される。このシール35によって、ポンプ部2からモータ部3へのオイルの漏洩が防止されている。軸方向ポンプ部2側の軸受33とシール35との間には、軸方向に圧縮された弾性部材36が配置され、軸受33、34に対し予圧を与えている。
【0030】
モータ部3におけるロータ31の回転角を検出するため、モータ部3の回転側と静止側の間に検出部37が設けられる。本実施形態の検出部37は、出力軸32の反ポンプ部側の軸端にブラケット38を介して取り付けられたセンサマグネット37a(例えばネオジウムボンド磁石)と、静止側となるハウジング5に設けられたMR素子等の磁気センサ37bとで構成することができる。磁気センサ37bは、出力軸32の反ポンプ側の軸端と対向して配置され、かつ出力軸32と直交する方向に配置されたサブ基板39に取り付けられる。磁気センサ37bの検出値は、後述するコントローラ4(メイン基板)の制御回路に入力される。
【0031】
なお、磁気センサ37bとして、ホール素子を使用することもできる。また、検出部37としては、磁気センサの他、光学式エンコーダやレゾルバ等を用いることもできる。なお、センサレスでモータ部3を駆動することもできる。
【0032】
本実施形態のコントローラ4は、モータ部3の出力軸32と平行に配置される。コントローラ4には、複数の電子部品41が実装されている。これらの電子部品41でモータ部3の駆動を制御する制御回路が構成される。図示例では、コントローラ4が、電子部品41を実装した面(実装面)40をポンプ部2およびモータ部3と対向させて配置される。コントローラ4には、外部電源からコネクタ42を介して電力が供給される。
【0033】
ハウジング5は、両端を開口した筒状のハウジング本体50と、ハウジング本体50の軸方向ポンプ側の開口部を閉鎖する第一蓋部51と、ハウジング本体50の軸方向反ポンプ側の開口部を閉鎖する第二蓋部52とを有する。第一蓋部51および第二蓋部52はそれぞれ複数の締結用ボルトB1、B2を用いてハウジング本体50に固定される。
【0034】
第二蓋部52は、反ポンプ部側の軸受34を支持する円筒形状のベアリングケース52aと、ベアリングケース52aの反ポンプ部側開口部を閉鎖するカバー52bとを有する。ベアリングケース52aの内径側にサブ基板39が配置される。カバー52bは、ベアリングケース52aに図示しない締結部材を用いて取り付けられる。
【0035】
ハウジング本体50は、ポンプ部2を収容するポンプ収容部53、モータ部3を収容するモータ収容部54、およびコントローラ4を収容するコントローラ収容部55を有し、一部品の形で一体に形成される。ハウジング本体50は、例えば鋳造や切削あるいはこれらの組み合わせにより形成される。ハウジング本体50、第一蓋部51、および第二蓋部52は導体でかつ熱伝導性が良好な金属材料、例えばアルミニウム合金で形成される。この他、ハウジング本体50、第一蓋部51、および第2蓋部52のうちの一つ又は複数を他の金属材料(例えば、鉄系金属)や樹脂で形成してもよい。
【0036】
ハウジング5のポンプ収容部53は、ポンプ部2のポンプケース23を含む概略円筒状の形態を有する。ポンプ収容部53には、インナロータ21及びアウタロータ22が収容されるポンプ室66と、吸入ポート62および吐出ポート64とが形成される。吸入ポート62および吐出ポート64は、何れもポンプ室66のモータ部3側(
図1の左側)に隣接して設けられ、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部に開口している。吸入ポート62と吐出ポート64は、
図2に示すように、何れも出力軸32の円周方向に延びる円弧状をなし、円周方向で180°対向する位置に設けられる。
【0037】
ハウジング5のモータ収容部54は円筒状に形成される。モータ収容部54の円筒状内周面に、モータ部3のステータ30が圧入もしくは接着固定されている。ハウジング5のコントローラ収容部55は、半径方向の外径側(
図1の下側)が開口しており、内周にコントローラ4を収容した後、開口部がカバー57により閉鎖される。カバー57は締結部材B3を用いてハウジング本体50に取り付けられる。
【0038】
図1および
図3に示すように、ハウジング本体50の軸方向両側には、電動オイルポンプ1を取り付け対象(本実施形態ではトランスミッションケース)に取り付けるためのフランジ状の取り付け部58、59が一体に形成される。ポンプ部2側の取り付け部58に二つの締結用孔58aが形成され、反ポンプ部側の取り付け部59に二つの締結用孔59aが形成されている。これら締結用孔58a、59aに図示しない締結部材を挿入し、当該締結部材を取り付け対象にねじ込むことで、電動オイルポンプ1が取り付け対象に取り付けられる。
【0039】
図1及び
図2に示すように、ハウジング本体50には、ポンプ部2に供給されるオイルが流通する吸入管路60と、ポンプ部2から吐出されたオイルが流通する吐出管路61とが設けられる。本実施形態では、吸入管路60および吐出管路61が、何れも直線状に形成される。吸入管路60および吐出管路61は、例えば、ハウジング本体50にドリル等による機械加工で形成された貫通孔で構成される。この場合、吸入管路60および吐出管路61の内周面は、ハウジング本体50に直接形成される。
【0040】
吸入管路60の一端は吸入ポート62に接続され、吐出管路61の一端は吐出ポート64に接続される。吸入管路60の他端はハウジング本体50の表面に開口し、この開口部が吸入口63となる(
図3参照)。吐出管路61の他端はハウジング本体50の表面に開口し、この開口部が吐出口65となる。吸入口63および吐出口65は、ハウジング5のうち、取り付け対象と対向する面に設けられる。これにより、電動オイルポンプ1の周囲にオイル用配管を引き回す必要がなくなり、電動オイルポンプ1の周辺構造を簡略化することができる。
【0041】
本実施形態では、
図4に示すように、吐出管路61が、小径部61aと、小径部61aの下流側に設けられた大径部61bとを有する。小径部61aの上流側端部は、吐出ポート64に連通している。大径部61bの下流側端部は、ハウジング本体50の表面に開口し、この開口部が吐出口65となる。吐出管路61の小径部61aの内周面と大径部61bの内周面とは段差部61cで接続される。図示例では、段差部61cが、吐出管路61の中心線L方向(以下、「流路方向」という)と直交する平坦面61dを有する。
【0042】
吐出管路61には逆止弁機構70が設けられる。逆止弁機構70は、
図4および
図5に示すように、ボール71と、付勢部材としてのスプリング72と、ボール71及びスプリング72を保持する保持部73と、シール面74とを有する。図示例では、シール面74がハウジング本体50に形成される。詳しくは、吐出管路61の段差部61cの内径端に、シール面74が形成される。本実施形態では、段差部61cの内径端に面取り部が形成され、この面取り部がシール面74として機能する。図示例では、シール面74が、ボール71の外周面と同形状の球面で構成される。この他、シール面74を、断面直線状のテーパ面で構成してもよい。また、段差部61cの内径端に面取り部を形成せず、この部分に形成される角部をシール面74としてもよい。
【0043】
本実施形態の保持部73は、ホルダ75と抜け止め部材76とを有する。ホルダ75は、ボール71の流路方向の移動を案内するガイド部75aを有する。図示例では、流路方向に延びる複数(例えば4本)のガイド部75aが周方向等間隔に設けられる。複数のガイド部75aの上流端は、円筒部75bで連結される。複数のガイド部75aの下流端付近には、底部75cが設けられる。底部75cの軸心には貫通孔が形成される。複数のガイド部75aの内周に、ボール71及びスプリング72が内周に配され、これらがガイド部75aで外周から保持される。ホルダ75は、吐出管路61の大径部61bの内周に隙間を介して挿入される。ホルダ75の上流端は、吐出管路61の段差部61cに当接している。この状態で、ボール71はシール面74(段差部61cの内径端)に当接し、このボール71とホルダ75の底部75cとの間にスプリング72が圧縮状態で配される。
【0044】
抜け止め部材76は、リング状をなし、吐出管路61の大径部61bに圧入やねじ止め等の適宜の手段により固定される。抜け止め部材76と吐出管路61の段差部61cとでホルダ75を流路方向両側から挟持することにより、ホルダ75がハウジング本体50に固定される。図示例では、抜け止め部材76が、ハウジング本体50の表面50aよりも上流側に後退させた位置に固定される。これにより、逆止弁機構70がハウジング本体50の内部に完全に収容されるため、他部材との干渉を回避できる。なお、抜け止め部材76は、止め輪であってもよい。この場合、吐出管路61の大径部61bの内周面に環状溝を形成し、この環状溝に止め輪(抜け止め部材)を装着する(図示省略)。
【0045】
ボール71は、シール面74(ハウジング本体50)よりも硬い材質で形成され、例えば鉄系金属、具体的には炭素鋼、特にステンレス鋼で形成される。スプリング72は、鉄系金属、例えばステンレス鋼で形成される。ホルダ75は、成形性の観点から樹脂で形成することが好ましいが、鉄系やアルミ系の金属で形成してもよい。抜け止め部材76は、鉄系やアルミ系の金属で形成される。抜け止め部材76を、後述する位置決め基準として用いる場合は、強度の観点から鉄系材料で形成することが好ましい。抜け止め部材76をハウジング本体50に圧入固定する場合は、抜け止め部材76をハウジング本体50と同系の金属材料で形成することが好ましい。これにより、両者の線膨張係数が近いか同じ値になるため、温度変化に伴う抜け止め部材76のハウジング本体50からの抜けを防止できる。
【0046】
以上の構成を有する電動オイルポンプ1において、モータ部3の停止時には、スプリング72の付勢力によりボール71がシール面74に押し付けられ、吐出管路61が閉塞される。この状態で、トランスミッション側からオイルが逆流した場合、ボール71がシール面74にさらに押し付けられるため、吐出管路61が閉塞された状態が維持される。これにより、逆流したオイルのポンプ部2への流入が規制され、ポンプ部2の逆回転によるモータ部3やコントローラ4の故障を防止できる。
【0047】
そして、モータ部3を駆動すると、インナロータ21が回転し、これに噛み合ったアウタロータ22が従動回転することにより、両者の歯部の間に形成される空間が回転に伴って拡大および縮小する。これにより、トランスミッションケース内の油溜りに溜まったオイルが吸入管路60を介してポンプ部2に吸入され、このオイルがポンプ部2で圧縮されて吐出管路61に吐出される。
【0048】
そして、
図4に点線で示すように、吐出管路61の油圧で逆止弁機構70のボール71がスプリング72を圧縮しながら下流側に押し込まれ、ボール71がシール面74から離反して吐出管路61が開放される。これにより、オイルがボール71の外周(複数のガイド部75aの間の空間)およびホルダ75の底部75cの外周を回り込み、抜け止め部材76の貫通孔を通過して吐出口65から吐出され(点線矢印A参照)、トランスミッションに供給される。なお、吐出管路61を流れるオイルの大部分は、ホルダ75の底部75cの外周を回り込むため、底部75cの軸心に設けられた貫通孔を通過するオイルは少ない。従って、特に必要がなければ底部75cの貫通孔を省略してもよい。
【0049】
上記の逆止弁機構70では、
図6に示すように、ボール71とシール面74との接触角度αを20°以上に設定することが好ましい。接触角度αが小さすぎると、ボール71がシール面74に噛み込んでしまい、シール面74から離反しにくくなるおそれがあるからである(
図10参照)。また、ボール71とシール面74との接触角度αは、120°以下に設定することが好ましい。接触角度αが大きすぎると、シール性が乏しくなるからである。なお、接触角度αは、吐出管路61の中心線Lを含む断面(
図6参照)において、ボール71とシール面74との接触部におけるボール71の外周面の接線がなす角度である。本実施形態のように、ボール71とシール面74とが球面同士で接触する場合は、ボール71とシール面74との断面円弧状の接触部の中央におけるボール71の外周面の接線がなす角度を接触角度αとする。
【0050】
上記の逆止弁機構70をハウジング本体50に組み付ける際には、吐出管路61の大径部61bに吐出口65からボール71、スプリング72、およびホルダ75を順に挿入する。本実施形態では、ホルダ75の外径が大径部61bの内径よりも僅かに小さいため、ホルダ75を大径部61bの内周に隙間を介して容易に挿入することができる。その後、抜け止め部材76を、吐出管路61の開口部(吐出口65)に圧入やねじ止め等により固定する。こうして吐出管路61に固定された抜け止め部材76がホルダ75に下流側から当接することで、ホルダ75の吐出管路61からの抜けが規制される。この状態で、ボール71はシール面74に当接し、このボール71とホルダ75の底部75cとの間にスプリング72が圧縮状態で保持される。すなわち、ボール71は、スプリング72の弾性力によりシール面74に押し付けられている。
【0051】
本実施形態では、
図5に示すように、ホルダ75と抜け止め部材76とが、吐出管路61の周方向で係合している。具体的には、抜け止め部材76の上流側の端面に凹部76aを形成し、この凹部76aにホルダ75の係合部75d(図示例では、ガイド部75aの下端)を嵌合させている。この凹部76aと係合部75dとが周方向で係合することにより、吐出管路61内でのホルダ75の回転が規制されるため、ボール71およびスプリング72を安定的に保持できると共に、ホルダ75の摩耗を防止できる。
【0052】
シール面74は、例えば以下の手順で形成される。まず、
図7に示すように、ハウジング本体50に、機械加工(例えば旋削加工)により、小径部61a、大径部61b、および段差部61cを有する吐出管路61を形成する。このとき、段差部61cの全域に平坦面61dが形成され、段差部61cの内径端には直角の角部61eが形成される。そして、この角部61eに下流側からボール71を当接させて、点線で示すように上流側に押し込んで角部61eを塑性変形させる。この場合、トランスミッション側からのオイルの逆流により発生する圧力よりも高い圧力(荷重)で、ボール71を角部61eに押し付けることが好ましい。具体的に、ボール71の流路方向の投影面積をS、オイル逆流時の圧力をP、安全率をcとしたとき、ボール71を押し付ける荷重Fは、F>S・P・cを満たすように設定することが望ましい。
【0053】
こうしてボール71で成形されたシール面74は、ボール71と同形状の球面からなる塑性加工面となる。これにより、シール面74とボール71との密着性が高められ、シール性が向上する。なお、ボール71ではなく、ボール71と同形の球面状の成形面を有する治具を吐出管路61の角部61eに押し付けることで、シール面74を形成することもできる。あるいは、シール面74を切削等の機械加工で形成してもよい。この場合、シール面74は、球面に限らず、テーパ面等の任意の形状にすることができる。なお、トランスミッションから逆流してくるオイルの圧力が低い場合は、吐出管路61の角部61eを残して、この角部61eをシール面として機能させてもよい。
【0054】
本実施形態では、上述のように、吐出管路61に、逆止弁機構70の保持部73を配するための大径部61bを設けている。この場合、仮に、吐出管路61に逆止弁機構70を設けない場合でも、吐出管路61の大径部61bが電動オイルポンプ1の機能を阻害することはない。従って、逆止弁機構70を設ける場合でも設けない場合でも、共通のハウジング本体50を使用することができるため、低コスト化が図られる。
【0055】
上記の電動オイルポンプ1では、吸入口63および吐出口65はハウジング本体50の表面に設けられている。加えて、吸入口63とポンプ部2とを接続する吸入管路60と、吐出口65とポンプ部2とを接続する吐出管路61とが何れもハウジング本体50に設けられている。そのため、吸入管路60および吐出管路61を流れるオイルでハウジング本体50の冷却を行うことができる。この冷却効果により、熱源となるモータ部3およびコントローラ4の冷却を促進することができ、電動オイルポンプ1の信頼性を高めることができる。また、吸入管路60と吐出管路61をハウジング本体50とは別の部材に設ける場合に比べ、電動オイルポンプ1の小型化を図ることができる。
【0056】
本実施形態では、吸入管路60および吐出管路61をポンプ部2とモータ部3の軸方向間領域に配置している。詳細には、
図1に示すように、吸入管路60および吐出管路61を、ポンプ部2とシール35の軸方向間領域に配置している。そのため、吸入管路60および吐出管路61の設置スペースは、ハウジング5内部に収容された部品と干渉することなく確保することができる。
【0057】
なお、吸入管路60および吐出管路61の構成を変えることなく、吸入管路60を吐出管路として、かつ吐出管路61を吸入管路として使用することもできる。また、吸入管路60および吐出管路61の双方をポンプ部2とモータ部3の軸方向間領域に配置する他、どちらか一方を、これ以外の領域(例えばモータ部3の外径側領域)に配置することもできる。
【0058】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0059】
図8に示す実施形態は、逆止弁機構70の保持部73の下流端を、ハウジング本体50の吐出口65から突出させた点で、上記の実施形態と異なる。具体的には、保持部73の抜け止め部材76の一部が、ハウジング本体50の表面50aから突出している。この突出部分Qは、例えば、ハウジング5をトランスミッションケースに取り付ける際の位置決め基準として使用することができる。
【0060】
この実施形態では、保持部73の上流端と吐出管路61の段差部61cとの間に流路方向の隙間Gが形成されている。従って、保持部73(ホルダ75および抜け止め部材76)をさらに上流側に押し込むことで、保持部73をハウジング本体50の内部(吐出管路61内)に完全に収容することができる。具体的には、保持部73の上流端と吐出管路61の段差部61cとの間の隙間Gの大きさδ2が、保持部73の突出部分Qの突出量δ1よりも大きい。この構成によれば、保持部73を、ハウジング本体50の吐出口65から突出させた位置と、ハウジング本体50の表面50aよりも上流側に後退させた位置の何れにも配置することができるため、突出部分Qを選択的に設けることができる。
【0061】
図9に示す実施形態では、シール面74をホルダ75に設けている点で上記の実施形態と異なる。具体的に、ホルダ75の上流端に、内径向きの突出部75eを設け、この突出部75eにシール面74を形成している。この場合、ホルダ75の底部75cがガイド部75aとは別体に形成される。具体的に、ガイド部75aの内周面に凹部75fを形成し、この凹部75fに、リング状あるいはC形の底部75cが嵌合している。この場合、ホルダ75の下流端の開口部からボール71及びスプリング72を挿入した後、ガイド部75aの凹部75fに底部75cを装着することで、逆止弁機構70が組み立てられる。尚、図示例では、ホルダ75の外周面と吐出管路61の大径部61bとが隙間を介して嵌合しているが、ホルダ75の外周面と吐出管路61の大径部61bとを圧入嵌合とし、ホルダ75の上流側の端面を吐出管路61の段差部61cに全周で密着させることで、ホルダ75と段差部61cとの間からの油漏れを確実に防ぐようにしてもよい。
【0062】
本発明は、オイルを圧送する電動オイルポンプに限らず、オイル以外の液体を圧送する電動ポンプにも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 電動オイルポンプ(電動ポンプ)
2 ポンプ部
3 モータ部
4 コントローラ
5 ハウジング
50 ハウジング本体
60 吸入管路
61 吐出管路
61a 小径部
61b 大径部
61c 段差部
61d 平坦面
62 吸入ポート
63 吸入口
64 吐出ポート
65 吐出口
66 ポンプ室
70 逆止弁機構
71 ボール
72 スプリング(付勢部材)
73 保持部
74 シール面
75 ホルダ
76 抜け止め部材