(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148766
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/06 20060101AFI20220929BHJP
F04B 53/20 20060101ALI20220929BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20220929BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F04B53/06
F04B53/20 A
F04C15/00 E
F04C15/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050576
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
【テーマコード(参考)】
3H044
3H071
【Fターム(参考)】
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC13
3H044DD01
3H044DD24
3H071AA03
3H071CC01
3H071CC41
3H071CC42
3H071DD82
3H071DD84
(57)【要約】
【課題】高品質で信頼性に富む電動ポンプを提供する。
【解決手段】ポンプ部2、モータ部3及び基板4を密封状態で収容し、モータ部3を収容したモータ収容室52Aと基板4を収容した基板収容室53Aとがポンプ部2を収容したポンプ収容室51Aとは隔絶された収容空間Sを形成しているハウジング5と、を備えた電動ポンプ1であり、収容空間Sとハウジング5の外部空間とを連通させる第1通気孔7と、第1通気孔7とは異なる位置で収容空間Sとハウジング5の外部空間とを連通させる第2通気孔8と、両通気孔7,8のうち第1通気孔7の内側端部を封口するようにハウジング5に取り付けられたエアフィルタ9と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを吸入及び吐出するポンプ部と
前記ポンプ部を駆動するモータ部と、
前記モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、
前記ポンプ部、前記モータ部及び前記基板を密封状態で収容し、前記モータ部を収容したモータ収容室と前記基板を収容した基板収容室とが前記ポンプ部を収容したポンプ収容室とは隔絶された収容空間を形成しているハウジングと、を備えた電動ポンプであって、
前記収容空間と前記ハウジングの外部空間とを連通させる第1通気孔と、該第1通気孔とは異なる位置で前記収容空間と前記ハウジングの外部空間とを連通させる第2通気孔と、両通気孔のうち前記第1通気孔の内側端部を封口するように前記ハウジングに取り付けられたエアフィルタと、を有することを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
前記基板収容室が、前記モータ部の軸心に沿って形成され、
前記第1通気孔の内側端部が、前記エアフィルタ及び前記モータ収容室を介して前記基板収容室の軸方向一方側の端部に開口すると共に、前記第2通気孔の内側端部が、前記基板収容室の軸方向他方側の端部に開口している請求項1に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記ポンプ収容室が形成されたポンプ収容部と、前記モータ収容室が形成されたモータ収容部と、前記基板収容室が形成された基板収容部とを一体に有するハウジング本体と、該ハウジング本体のうち前記基板収容部の軸方向他方側の端部に対して固定され、前記基板と外部電源とを電気的に接続する接続端子を保持した有底筒状のコネクタと、を備え、
前記第2通気孔が、前記コネクタの底部に形成されている請求項2に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
前記第2通気孔の孔径がφ1.5mm以下である請求項1~3の何れか一項に記載の電動ポンプ。
【請求項5】
前記第1通気孔がラビリンス構造を有する請求項1~4の何れか一項に記載の電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車をはじめとする車両においては、電動ポンプを用いて必要箇所にオイルを供給する場合がある。例えば、停車中にエンジンを自動停止するアイドリングストップ機構を備えた車両やハイブリッド車両などにおいては、トランスミッションケースに電動ポンプを取り付け、この電動ポンプで停車中のトランスミッション内部で必要とされる油圧を保持するようにしている。
【0003】
上記の各種車両に取り付けられる電動ポンプは、ポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータ部と、モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、これらを密封状態で収容したハウジングとを備える。このような密封構造を有する電動ポンプは、モータ部や基板の水濡れを可及的に防止し得る反面、駆動時におけるモータ部や基板からの発熱に起因してハウジングの内部温度や圧力が上昇し易いという問題がある。そこで、下記の特許文献1では、ハウジング(電動モータ及び基板を収容する筒状のモータハウジング)の端部開口を封口する蓋部材の中心にその両端面に開口した通気孔を一つ設けると共に、この通気孔の内側端部をエアフィルタで封止した電動ポンプが提案されている。この場合、通気孔及びエアフィルタを介してハウジングの内外で空気を行き来させることができるので、ハウジング内外で温度差や気圧差が生じてもこれをスムーズに解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータや、モータを制御する制御回路(が形成された基板)は、基本的に水濡れ厳禁である。そのため、電動ポンプの組立完了後には、ハウジングの封止部のうち、特にモータ部や基板を収容した収容室の封止部のシール性を確認する検査が実行されるのが一般的である。特許文献1のように、ハウジングに通気孔が設けられた電動ポンプでは、例えば、通気孔を介してハウジング内にエア(圧縮エア)を吹き込み、収容室の封止部周辺等からのエア漏れの有無(圧力変化)を確認することにより、シール性の良否を確認することができる。
【0006】
また、特許文献1に記載の電動ポンプのように、通気孔の内側端部を封止するエアフィルタがハウジングに取り付けられたものでは、ハウジングに対するエアフィルタの取付状態(取付精度)も確認する必要がある。例えば、ハウジングの内壁面に直接取り付けた発泡樹脂製のエアフィルタが部分的に剥離している、などといったエアフィルタの取付状態に不備があると、ハウジングの内部に異物が侵入する、などといった問題が生じ、所望のポンプ性能を安定的に維持・発揮することが難しくなる可能性があるためである。
【0007】
上記のシール性確認検査において、基板収容室の封止部等に所望のシール性が確保されているか否かを正しく評価しようとすると、通気孔の外側開口部を完全に封止した状態でハウジング内に圧縮エアを吹き込む必要がある。この場合、エアフィルタの取付状態を確認することができないため、エアフィルタの取付状態は、電動ポンプの組立完了前、つまり、上記のシール性確認検査とは別の工程で確認する必要がある。
【0008】
要するに、従来の電動ポンプでは、これが所望のポンプ能力を安定的に発揮できる高品質なものであることを保証しようとすると、複数(少なくとも2つ)の確認検査を個別に(別工程で、かつ別の検査装置を用いて)実施する必要があるために、製造コストが嵩むという問題がある。
【0009】
上記の実情に鑑み、本発明は、所望のポンプ能力を安定的に発揮し得ることを保証するための確認検査を効率良く実施可能とする電動ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、オイルを吸入及び吐出するポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータ部と、モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、ポンプ部、モータ部及び基板を密封状態で収容し、モータ部を収容したモータ収容室と基板を収容した基板収容室とがポンプ部を収容したポンプ収容室とは隔絶された収容空間を形成しているハウジングと、を備えた電動ポンプであって、上記収容空間とハウジングの外部空間とを連通させる第1通気孔と、第1通気孔とは異なる位置で上記収容空間とハウジングの外部空間とを連通させる第2通気孔と、両通気孔のうち第1通気孔の内側端部を封止するようにハウジングに取り付けられたエアフィルタと、を有することを特徴とする。
【0011】
上記の構成を有する本発明に係る電動ポンプによれば、電動ポンプの組立完了後に、ハウジングの開口を封止した封止部のうち特に基板収容室及びモータ収容室の封止部のシール性を確認するシール性確認検査に加え、ハウジングに対するエアフィルタの取付状態を確認する取付状態確認検査を実質的に一つの工程・装置で実施することが可能となる。
【0012】
具体的には、例えば、第2通気孔の開口部を完全に封止した状態で第1通気孔を介してハウジングの内部空間(上記の収容空間)に圧縮エアを吹き込み、モータ収容室及び基板収容室の封止部からエア漏れがなければ、これらの封止部が適切にシールされていることを把握することができる。また、第2通気孔の開口部を開放した状態で第1通気孔を介してハウジングの内部空間(上記収容空間)に圧縮エアを吹き込んだとき、エアフィルタの取付状態が適切であれば、圧縮エアの流量がエアフィルタによってある程度制限(抑制)される一方、エアフィルタの取付状態に不備があれば、取付状態が適切である場合に比べて圧縮エアの流量が増える。そのため、例えば、電動ポンプの量産前に試験等を繰り返し実施することによりエアフィルタの取付状態が適切であるときのエア流量の減少分を予め把握しておけば、ハウジングに対するエアフィルタの取付状態の良否をスムーズにかつ精度良く把握することができる。
【0013】
上記構成において、ハウジングは、モータ部の軸心に沿って(軸心と平行に)基板収容室が形成されたものとすることができる。このとき、第1通気孔の内側端部がエアフィルタ及びモータ収容室を介して基板収容室の軸方向一方側の端部に開口すると共に、第2通気孔の内側端部が基板収容室の軸方向他方側の端部に開口していれば、第1通気孔を介してハウジング内部に圧縮エアを吹き込むと、この圧縮エアを基板収容室の全域に行き渡らせることができる。そのため、特に水濡れが問題となる基板を収容した基板収容室のシール性を適切に確認することができる。
【0014】
ハウジングは、ポンプ収容室が形成されたポンプ収容部と、モータ収容室が形成されたモータ収容部と、基板収容室が形成された基板収容部とを一体に有するハウジング本体と、ハウジング本体のうち基板収容部の軸方向他方側の端部に対して固定され、基板と外部電源とを電気的に接続する接続端子を保持した有底筒状のコネクタと、を備えたものとすることができる。この場合、第2通気孔は、コネクタの底部に形成することができる。コネクタ(の底部とは反対側の端部)は、電気的短絡を防止するために厳重にシールされた上で相手側コネクタに対して嵌合されることから、電動ポンプの使用時に第2通気孔を介してハウジング内部(基板収容室)に異物が侵入するのを防止することができる。
【0015】
以上の構成において、第2通気孔の孔径はφ1.5mm以下とすることができる。このようにすれば、フィルタの取付状態確認検査を精度良く実行可能としつつ、第2通気孔を介してハウジングの内部空間(上記の収容空間)に異物が侵入する可能性を効果的に減じることができる。
【0016】
また、以上の構成において、第1通気孔はラビリンス構造を有しているのが好ましい。このようにすれば、第1通気孔を介してハウジングの内部空間(上記の収容空間)に異物が侵入する可能性を減じる上で有利となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のことから、本発明によれば、所望のポンプ能力を安定的に発揮し得ることを保証するための確認検査を効率良く実施することを可能とする電動ポンプを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動ポンプの軸方向断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る電動ポンプの斜視図である。
【
図5】
図4とは異なる方向から見たときの電動ポンプの斜視図である。
【
図8】シール性確認検査の実施態様を模式的に示す図である。
【
図9】フィルタの取付状態確認検査の実施態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下説明する本実施形態の電動ポンプは、例えば車両のトランスミッションケースに取り付けられ、エンジンの停止中にトランスミッションにオイルを圧送することにより、トランスミッション内部で必要とされる油圧を確保するために使用される。
【0020】
図1~
図3に示すように、本実施形態の電動ポンプ1は、主に、オイルを吸引及び吐出(圧送)するポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、基板4と、ポンプ部2、モータ部3及び基板4を収容したハウジング5とを備える。なお、方向性を示すために以下の説明で使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、それぞれ、モータ部3の軸心Oと平行な方向、軸心Oを中心とする円の径方向、及び軸心Oを中心とする円の周方向である。
【0021】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のポンプ部2は、インナロータ21と、インナロータ21に対して偏心配置されたアウタロータ22とを有するトロコイドポンプで構成される。すなわち、インナロータ21には複数の外歯が形成され、その一部がアウタロータ22に形成された複数の内歯の一部と噛み合っている。アウタロータ22は、ハウジング5(に形成されたポンプ収容室51A)の内壁面に対して回転可能な状態で嵌合されている。これにより、インナロータ21が回転するのに伴ってアウタロータ22が従動回転する。なお、外歯の歯数をn(nは2以上の正の整数)とすると、内歯の歯数は(n+1)である。
【0022】
図1に示すように、モータ部3はポンプ部2と軸方向に並べて配置されている。
図1及び
図3に示すように、モータ部3は、ハウジング5(に形成されたモータ収容室52A)の内周に固定されたステータ30と、ステータ30の径方向内側に径方向すきまを介して対向配置されたロータコア31とを有するラジアルギャップ型の電動モータを備え、この電動モータには、例えば三相ブラシレスモータが使用される。そのため、ステータ30は、U相、V相、W相に対応した複数のコイル30aを有する。
【0023】
モータ部3は、外周にロータコア31が結合された出力軸32を有する。出力軸32は、ロータコア31よりも軸方向寸法が長く、ロータコア31の軸方向両側に突出している。出力軸32は、ロータコア31の軸方向一方側(
図1の紙面左側であり、反ポンプ部2側)に隣接して設けられた第1軸受33Aと、ロータコア31の軸方向他方側(
図1の紙面右側であり、ポンプ部2側)に隣接して設けられた第2軸受33Bとによりハウジング5に対して回転自在に支持されている。第1軸受33A及び第2軸受33Bには転がり軸受が使用され、ここでは、ボールを介して相対回転する内輪及び外輪を備えた玉軸受(深溝玉軸受)を使用している。
【0024】
出力軸32のポンプ部2側の端部には、インナロータ21が出力軸32と一体回転可能に嵌合されている。出力軸32とポンプ部2の間に減速機は配置されておらず、インナロータ21はモータ部3の出力軸32に直結されている。このインナロータ21と第2軸受33Bとの間にシール35が配置されている。シール35として、ここでは、出力軸32の外周面に摺接するシールリップを備えた接触タイプが採用されている。このようなシール35が配置されていることにより、ポンプ部2(ポンプ収容室51A)に介在するオイルのモータ部3(モータ収容室52A)への流れ込みが阻止される。また、第2軸受33Bとシール35の間には、第1軸受33Aおよび第2軸受33Bに軸方向の予圧を付与するため、軸方向に圧縮された弾性部材36が配置されている。
【0025】
モータ部3は、ロータコア31の回転角を検出する検出部37を有する。本実施形態の検出部37は、
図1に示すように、ブラケット38を介して出力軸32の反ポンプ部側の端部に取り付けられたセンサマグネット37aと、ハウジング5に設けられた回転センサ37bとで構成される。回転センサ37bは、出力軸32の反ポンプ部側の端部と対向して配置され、かつ出力軸32と直交する方向に配置されたセンサ基板39に取り付けられる。なお、回転センサ37bには、例えばMR素子やホール素子等の磁気センサが使用され、また、センサマグネット37aには、例えばネオジムボンド磁石が使用される。
【0026】
回転センサ37bは、基板4に形成される制御回路(詳細は後述する)と電気的に接続され、回転センサ37bによる検出値は制御回路に入力される。これにより、回転センサ37bによる検出値がモータ部3の作動制御に活用される。
【0027】
図1~
図4に示すように、平面視で略矩形状に形成された基板4は、複数の電子部品41を実装した実装面40を、モータ部3の軸心O及びこの軸心Oを中心とする円の接線方向に沿って配置すると共に、ハウジング5(ハウジング本体50)に設けられた基板収容部53の内底面53aに対向させた状態で基板収容室53Aに収容されている。係る態様で基板4が配置されていることにより、同種の基板が軸心Oと直交する方向に配置されている従来品(例えば特許文献1に開示されたもの)に比べ、径方向(本実施形態では基板4の厚さ方向)において電動ポンプ1をコンパクト化することができる。
【0028】
電子部品41としては、例えば、電解コンデンサ等のコンデンサ、インダクタ、MOS-FET等の半導体素子、ドライバIC等の集積回路、抵抗器などがある。そして、これらの電子部品41を電気的に接続することによりモータ部3を制御する制御回路が形成される。
【0029】
基板4(の制御回路)には、図示しない外部電源からコネクタ57を介して電力が供給される。基板4の制御回路では駆動電流の極性が制御される。制御された電流は、基板4と電気的に接続されたバスバー43を介してモータ部3のコイル30aに供給される。基板4のうち、実装面40と反対側の面42には、放熱部材としての放熱シート44が取り付けられている。放熱シート44は、熱伝導性が高くかつ圧縮可能な材料で形成されている。放熱シート44は、複数の電子部品41のうち発熱量が大きい部品(例えば半導体素子)や銅箔と接触するように配置される。
【0030】
図1~
図5に示すように、ハウジング5は、ポンプ部2を収容するポンプ収容室51Aが形成されたポンプ収容部51、モータ部3を収容するモータ収容室52Aが形成されたモータ収容部52、及び基板4を収容する基板収容室53Aが形成された基板収容部53を有するハウジング本体50と、ポンプ収容室51Aの開口部を封口する第1蓋部54と、モータ収容室52Aの開口部を封口する第2蓋部55と、基板収容室53Aの開口部を封口する第3蓋部56と、コネクタ57とを備える。
【0031】
ハウジング本体50は、導電性を有すると共に熱伝導性が良好な金属材料(例えばアルミニウム合金)で形成され、ポンプ収容部51、モータ収容部52及び基板収容部53を一部品の形で一体に有する。モータ収容室52Aと基板収容室53Aは、バスバー43等が配置された空間を介して連続している一方、ポンプ収容室51Aとは隔絶されている。すなわち、ハウジング本体50は、モータ収容室52Aとポンプ収容室51Aを区分する環状の隔壁50Aと、基板収容室53Aとポンプ収容室51Aを区分する軸方向に延びる隔壁とを一体に有し、モータ収容室52Aと基板収容室53Aとは、ポンプ収容室51Aとは隔絶された状態で連続した空間(本発明でいう「収容空間」)Sをハウジング5の内部に形成している。環状の隔壁50Aは円筒状の内周面34を有し、この内周面34は出力軸32の外周面と径方向すきまを介して対向している。これにより、出力軸32の回転が許容されている。
【0032】
第1蓋部54は、ハウジング本体50と同種の金属材料で形成され、締結部材(ここではボルト)を用いてハウジング本体50に対して固定されている(
図4参照)。
図1に示すように、第1蓋部54とハウジング本体50との間には、両者間のシール性(気密性及び水密性)を高めるために環状のシール部材(Oリング)11が圧縮状態で介在している。
【0033】
図5及び
図7にも示すように、第2蓋部55は、内周に第2軸受33Bが装着される筒状のモータカバー55aと、モータカバー55aの開口部を封口する平板状のセンサカバー55bとを備え、モータカバー55aの径方向内側にセンサ基板39が配置されている。
【0034】
モータカバー55aは、ハウジング本体50等と同種の金属材料で形成され、締結部材(ここではボルト)を用いてハウジング本体50に対して固定されている。センサカバー55bは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のスーパーエンプラを主成分とする樹脂材料で形成され、締結部材(ここではタッピングねじ)を用いてモータカバー55aに対して固定されている。
図1に示すように、モータカバー55aとハウジング本体50の間には、両者間のシール性を高めるために環状のシール部材(Oリング)12が圧縮状態で介在している。また、図示は省略しているが、モータカバー55aとセンサカバー55bの間には、両者間のシール性を高めるため、例えばOリング等の環状のシール部材、あるいは液体ガスケット等のシール材が介在する。
【0035】
第3蓋部56は、ハウジング本体50と同種の金属材料で形成され、締結部材(ここではタッピングねじ)を用いてハウジング本体50に対して固定されている(
図4参照)。図示は省略しているが、第3蓋部56とハウジング本体50との間には、両者間のシール性を高めるため、例えばOリング等の環状のシール部材、あるいは液体ガスケット等のシール材が介在する。
【0036】
ハウジング本体50に固定された第3蓋部56は、放熱シート44に接触している。これにより、電動ポンプ1の運転時に電子部品41から発される熱を、放熱シート44を介して第3蓋部56、さらにはハウジング本体50に効率良く逃がすことができる。この際の伝熱経路は、外表面が外気に触れ、かつ熱伝導性が良好なアルミニウム合金等の金属材料で形成された第3蓋部56(及びハウジング本体50)を含んで構成されるため、外気による冷却効果も期待できる。
【0037】
図1及び
図4に示すように、コネクタ57は、締結部材(ここではボルト)を用いてハウジング本体50(の基板収容部53)の軸方向他方側の端部に対して固定される。このコネクタ57は、基板4と図示しない外部電源を電気的に接続する接続端子57aを有し、例えばスーパーエンプラをベース樹脂とする樹脂材料で有底筒状に形成されている。このコネクタ57の底部には、
図1及び
図6に示すように、その両端面に開口し、本発明でいう第2通気孔8として機能する軸方向の貫通孔が形成されている。この貫通孔(第2通気孔8)の孔径はφ1.5mm以下とされる。また、この通気孔(第2通気孔8)の孔径はφ0.5以上が好ましい。これにより第2通気孔8を開放した状態で第1通気孔を介してハウジングの内部空間に圧縮エアを吹き込んだとき、第2通気孔からの圧縮エアの流出が適切になされ、確認検査が可能となる。以上の構成を有するコネクタ57とハウジング本体50との間には、両者間のシール性を高めるために環状のシール部材(Oリング)13が圧縮状態で介在している。
【0038】
上記の態様で第1蓋部54、第2蓋部55、第3蓋部56及びコネクタ57がハウジング本体50に固定されていることにより、ポンプ部2、モータ部3及び基板4はハウジング5に密封状態で収容されている。
【0039】
図1に示すように、基板収容部53の内底面53aは、ポンプ収容部51の外周面51a及びモータ収容部52の外周面52aで形成される。基板収容部53の内底面53aにおいて、ポンプ収容部51の外周面51aとモータ収容部52の外周面52aとの間には径方向の段差があり、ポンプ収容部51の外周面51aはモータ収容部52の外周面52aよりも径方向でモータ部3の軸心Oに接近した位置にある。
【0040】
この場合、基板収容部53(基板収容室53A)のうちポンプ収容部51と径方向で対向する領域を、基板4に実装される電子部品41のうちで背の高い高背部品(例えばコンデンサ)の配置スペースとして活用することができる。これにより、基板4を基板収容部53の内底面53aに接近させて配置することが可能となるので、基板4の厚さ方向で電動ポンプ1を小型化することができる。この効果を得るためには、
図1に示すように、ポンプ部2の外径dを、モータ部3の外径Dよりも小さくする(d<D)のが好ましい。
【0041】
図1及び
図4に示すように、ハウジング本体50には、電動ポンプ1を取り付け対象(ここではトランスミッションケース)に取り付けるためのフランジ状の取り付け部58,59が一体的に設けられている。ポンプ部2側に設けられた取り付け部58には、ボルト等の締結部材が挿通される挿通孔58aが2つ形成され、反ポンプ部側に設けられた取り付け部59にも、締結部材の挿通孔59aが2つ形成されている。そして、これらの挿通孔58a,59aに挿通した締結部材を取り付け対象に締結することにより、電動ポンプ1が取り付け対象に取り付けられる。
【0042】
取り付け部58,59に設けられた挿通孔58a,59bの外側開口部の周辺には、取り付け対象に接触する平坦な取り付け面58b,59bが形成されている。取り付け面58b,59bは、基板4の実装面40と直交する方向に延びる共通の平面上に配置されている。
【0043】
図1及び
図2に示すように、ハウジング本体50には、互いに分離して設けられた吸入側流路60と吐出側流路61とからなるオイル流路6が設けられる。
【0044】
吸入側流路60は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部(ポンプ収容室51A)に開口した吸入側空間60aと、ハウジング本体50の外表面に開口した吸入孔60bと、吸入側空間60aとハウジング本体50の外部空間を連通させる吸入側連通路60cとを有する。また、吐出側流路61は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部(ポンプ収容室51A)に開口した吐出側空間61aと、ハウジング本体50の外表面に開口した吐出孔61bと、吐出側空間61aと外部空間を連通させる吐出側連通路61cとを有する。
【0045】
吸入側空間60a及び吐出側空間60aは、何れも、モータ部2の出力軸32の周方向に延びる円弧状をなし、周方向で180°対向する位置に設けられる。また、
図2及び
図4に示すように、吸入孔60b及び吐出孔61bは、ハウジング本体50のうち、取り付け部58,59の取り付け面58b、59bを含む平面上に位置している。これにより、電動ポンプ1の周囲にオイル用配管を引き回す必要がなくなるので、電動ポンプ1の周辺構造を簡略化できる。
【0046】
以上のように、吸入側流路60及び吐出側流路61の双方をハウジング本体50に設けておけば、ハウジング本体50がアルミニウム合金等の熱伝導性が良好な金属材料で形成されていることと相俟って、両流路60,61を流れるオイルでハウジング本体50を効率良く冷却することができる。この冷却効果により、発熱限となるモータ部3及び基板4の冷却を促進することができるので、電動ポンプ1の信頼性を高めることができる。
【0047】
以上の構成を有する電動ポンプ1において、モータ部3に電力が供給されるのに伴って出力軸32が回転すると、その軸方向一方側の端部に固定されたポンプ部2のインナロータ21が一体的に回転する。インナロータ21が回転すると、これに噛み合ったアウタロータ22が従動回転し、両ロータ21,22の歯部の間に形成される空間の容積が両ロータ21,22の回転に伴って拡大及び縮小する。これに伴い、トランスミッションケースの内部に貯留されたオイルが吸入側流路60を介してポンプ部2(ポンプ収容室51A)に吸入されると共に、吸入されたオイルが吐出側流路61を介してトランスミッション内部に吐出(圧送)される。
【0048】
本実施形態の電動ポンプ1では、ハウジング5が、ポンプ部2、モータ部3及び基板4を密封状態で収容している関係上、何らの対策も講じられていなければ、駆動時におけるモータ部3や基板4からの発熱に起因してハウジング5の内部温度や圧力が上昇し易いという問題がある。
【0049】
そこで、本実施形態では、
図1、
図5及び
図7に示すように、第2蓋部55を構成するセンサカバー55bに通気孔(第1通気孔)7を設け、この第1通気孔7を介してハウジング5の内部空間(モータ収容室52Aと基板収容室53Aとで形成される、ポンプ収容室51Aとは隔絶された収容空間S)とハウジング5の外部空間とを連通させている。これにより第1通気孔7を介してハウジング5の内外で空気を行き来させることができるので、ハウジング5の内部温度や圧力が不当に高まるのを抑制又は防止することができる。
【0050】
また、
図7に示すように、センサカバー55bには、第1通気孔7の内側端部を封口するようにエアフィルタ9が取り付けられる。このエアフィルタ9としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とする樹脂材料で形成されることにより、異物の捕捉性を具備するのはもちろんのこと、防水性(撥水性)を併せ持つ発泡樹脂シートが好ましく使用される。この場合、エアフィルタ9は、例えば溶着によって樹脂製のセンサカバー55bに取り付けられる。このようなエアフィルタ9が取り付けられていることにより、ハウジング5の内部空間(上記の収容空間S)への異物侵入防止効果が増強される。
【0051】
第1通気孔7は、軸方向に沿って延びた直線状の孔で形成することができる他、
図5及び
図7に示すように、その延在方向に沿って屈曲・湾曲等したラビリンス構造を有する孔で構成することもできる。ラビリンス構造を有する第1通気孔7を採用すれば、ハウジング5の内部空間(収容空間S)への異物侵入防止効果が一層増強されるので、例えば、洗車機等から放出される高圧の水がハウジング5に直接かかった場合でも、ハウジング5の内部空間への水の浸入を防止することができる。
【0052】
以上の構成を有する本実施形態の電動ポンプ1では、ハウジング5(ハウジング本体50)に形成されるポンプ収容室51A、モータ収容室52A及び基板収容室53Aのうち、特に水濡れが嫌われるモータ部3(電動モータ)及び基板4がそれぞれ収容されたモータ収容室52A及び基板収容室53Aの開口を封止した封止部のシール性と、ハウジング5(を構成するセンサカバー55b)に対するエアフィルタ9の取付状態とが、所望のポンプ能力を長期間に亘って安定的に発揮可能とする上で重要になる。そこで、本実施形態の電動ポンプ1は、組立完了後に、上記のシール性確認検査及びフィルタ9の取付状態確認検査を効率良く、かつ低コストに実施可能とした点に特徴がある。
【0053】
具体的に説明すると、本実施形態の電動ポンプ1は、
図1に示すように、上記の第1通気孔7とは異なる位置でハウジング5の内部空間(上記の収容空間S)とハウジング5の外部空間とを連通させる第2通気孔8をさらに有している。このような第2通気孔8が設けられていれば、シール性確認検査は、例えば
図8に模式的に示すような検査装置を用いて実施することができ、フィルタ取付状態確認検査は、例えば
図9に模式的に示すような検査装置を用いて実施することができる。なお、
図8及び
図9において、電動ポンプ1については一部の部材の図示を省略し、簡略化したかたちで描いている。
【0054】
[シール性確認検査]
この確認検査では、
図8に示すように、まず、第1通気孔7の開口部(外側開口部)を送気管71で完全に覆うと共に、第2通気孔8の開口部(外側開口部)を封止部材73で完全に封口する。この状態で、エアー源70で発生させた圧縮エア72を、送気管71、第1通気孔7及びエアフィルタ9を介してハウジング5の内部空間(モータ収容室52Aと基板収容室53Aとで構成される収容空間S)に吹き込む。このとき、モータ収容室52Aの封止部(ハウジング本体5とモータカバー55aとの固定部、及びモータカバー55aとセンサカバー55bの固定部)や、基板収容室53Aの封止部(ハウジング本体5と第3蓋部56との固定部、及びハウジング本体5とコネクタ57との固定部)からのエア漏れがなければ、上記の封止部が適切にシールされていることを把握することができる。
【0055】
[フィルタ取付状態確認検査]
この確認検査では、
図9に示すように、シール性確認検査の実施時に第2通気孔8の外側開口部を封口していた封止部材73を取り除き、第2通気孔8の開口部を開放する(第2通気孔8を介してハウジング5の内外で空気を行き来可能とする)。この状態で、エアー源70で発生させた圧縮エア72を、第1通気孔7の外側開口部を完全に覆った送気管71、第1通気孔7及びエアフィルタ9を介してハウジング5の内部空間(モータ収容室52Aと基板収容室53Aとで構成される収容空間S)に吹き込む。
【0056】
このとき、エアフィルタ9の取付状態が適切であれば、圧縮エア72の流量がエアフィルタ9の存在によって所定量制限(抑制)される一方、エアフィルタ9の取付状態に不備があれば、取付状態が適切である場合に比べて圧縮エアの流量が増える。そのため、例えば、電動ポンプ1の量産前に試験等を繰り返し実施することにより、エアフィルタ9の取付状態が適切であるときのエア流量の減少分を予め把握しておけば、ハウジング5に対するエアフィルタ9の取付状態の良否をスムーズにかつ精度良く把握することができる。
【0057】
従って、本実施形態の電動ポンプ1は、所望のポンプ能力を安定的に発揮し得ることを保証するために実施すべき確認検査(シール性確認検査、及びフィルタ取付状態確認検査)を実質的に一つの検査装置を用いて実施することができるので、上記の確認検査を効率良く実施することが可能である、という特徴を有する。
【0058】
本実施形態の電動ポンプ1のハウジング5は、モータ部3の軸心Oに沿って(軸心Oと平行に)基板収容室53Aが形成されたものであり、第1通気孔7の内側端部がエアフィルタ9及びモータ収容室52Aを介して基板収容室53Aの軸方向一方側の端部に開口すると共に、第2通気孔8の内側端部が基板収容室53Aの軸方向他方側の端部に開口している。この場合、第1通気孔7を介してハウジング5内部(収容空間S)に圧縮エア72を吹き込むと、この圧縮エア72を基板収容室53Aの全域に適切に行き渡らせることができる。そのため、
図8に模式的に示すシール性確認試験の実施時には、特に水濡れが問題となる基板4を収容した基板収容室53Aのシール性を適切に確認することができる。
【0059】
また、本実施形態では、
図1、
図6、
図8及び
図9に示すように、ハウジング本体50のうち基板収容部53の軸方向他方側の端部に対して固定され、基板4と外部電源とを電気的に接続する接続端子57aを保持した有底筒状のコネクタ57の底部に第2通気孔8を設けている。コネクタ57は、電気的短絡を防止するために厳重にシールされた上で相手コネクタに対して嵌合される。そのため、この場合には、電動ポンプ1の使用時に第2通気孔8を介してハウジング5の内部(基板収容室S)に異物が侵入するのを確実に防止することができる。また、第2通気孔8の孔径をφ0.5mm以上φ1.5mm以下としたことにより、
図9に示す、エアフィルタ9の取付状態確認検査を精度良く実行可能としつつ、電動ポンプ1の運搬時等に、第2通気孔8を介してハウジング5の内部空間(収容空間S)に異物が侵入する可能性を効果的に減じることができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態に係る電動ポンプ1について説明を行ったが、電動ポンプ1には本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことができる。
【0061】
例えば、以上では、ポンプ部2を、内接式ギアポンプの一種であるトロコイドポンプで構成したが、本発明は、モータ部3の出力軸32と一体回転することによりオイルを吸入及び吐出(圧送)するポンプロータを有するその他のポンプ、例えばベーンポンプがポンプ部2に使用される電動ポンプ1にも好ましく適用することができる。
【0062】
また、以上では、発泡樹脂シートからなるエアフィルタ9を使用したが、エアフィルタ9には、例えば、多孔質膜シートが組み込まれたユニット部品を使用しても良い。この場合、エアフィルタ9は、第1通気孔7に挿入することでハウジング5(センサカバー55b)に取り付けることができる。
【0063】
本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは言うまでもない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0064】
1 電動ポンプ
2 ポンプ部
3 モータ部
4 基板
5 ハウジング
7 第1通気孔
8 第2通気孔
9 エアフィルタ
50 ハウジング本体
51 ポンプ収容部
51A ポンプ収容室
52 モータ収容部
52A モータ収容室
53 基板収容部
53A 基板収容室
55b センサカバー
57 コネクタ
S 収容空間