(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148773
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】密封装置及びこれを備える転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220929BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220929BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20220929BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20220929BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20220929BHJP
F16J 15/3204 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/38
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/447
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050586
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】盧 水清
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE04
3J006AE12
3J006AE17
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA04
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA10
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA02
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC33
3J216CC39
3J216CC40
3J216CC68
3J216DA12
3J216GA03
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA63
3J701FA13
3J701GA02
(57)【要約】
【課題】所望のシール性能を長期間安定して維持できる密封装置を低コストに実現する。
【解決手段】転がり軸受1の軸受内部空間S1をシールするシール部材23に設けた環状の第1リップ25b及び第2リップ25cの先端が後蓋4の外周面4aに摺接することにより、両リップ25b,25c間に軸受内部空間S1及び大気とは隔絶されたリップ間空間S2が形成される密封装置20である。両リップ25b,25cのうち、反転がり軸受側に設けられた第2リップ25cのリップ内面25dに凹部25eが設けられ、リップ間空間S2が負圧になるのに伴って変形した第2リップ25cが後蓋4との間に形成する隙間Gと、凹部25eとを介してリップ間空間S2が大気に開放される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の軸受内部空間をシールするシール部材を有し、該シール部材が、弾性材料からなるリップ部と、該リップ部を保持した芯金とを備え、
前記リップ部に軸方向に間隔を空けて設けられた環状の第1リップ及び第2リップの先端が摺動相手部材の外周面に摺接することにより、両リップ間に前記軸受内部空間及び大気とは隔絶されたリップ間空間が形成される密封装置において、
前記第1リップ及び前記第2リップのうち、反転がり軸受側に設けられた前記第2リップの前記リップ間空間に臨む面に凹部が設けられ、
前記リップ間空間が負圧になるのに伴って変形した前記第2リップの前記リップ間空間に臨む面と前記摺動相手部材の外周面との間に形成される隙間と、前記凹部とを介して前記リップ間空間が大気に開放されることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記凹部を周方向に延びる円弧状溝で構成し、該円弧状溝を周方向の複数箇所に等配した請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記凹部を、周方向寸法が前記第2リップの先端側に向けて漸減した先細り形状の窪みで構成し、該窪みを周方向の複数箇所に等配した請求項1に記載の密封装置。
【請求項4】
前記凹部の深さ寸法を、前記第2リップの先端との離間距離が拡大する方向に沿って漸増させた請求項1~3の何れか一項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記リップ部が、前記芯金をインサート部品として型成形されている請求項1~4の何れか一項に記載の密封装置。
【請求項6】
転動体を介して相対回転する内輪及び外輪を有する前記転がり軸受と、前記転がり軸受の軸方向外側に配置された前記摺動相手部材と、請求項1~5の何れか一項に記載の密封装置と、を備える転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置及びこれを備える転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、鉄道車両の車軸を支持する転がり軸受装置が開示されている。この転がり軸受装置は、複列円すいころ軸受からなる転がり軸受と、転がり軸受の内部空間(軸受内部空間)をシールする密封装置とを備える。密封装置は、転がり軸受の外輪に固定された筒状のシールケースと、シールケースの内周に固定された環状のシール部材とを備える。
【0003】
シール部材は、ゴム等の弾性材料からなるリップ部と、リップ部を保持した芯金とを有する。リップ部は、軸方向に間隔を空けて設けられた2つのシールリップ(メインリップ及びダストリップ)を有し、両シールリップは、それぞれ、先端が車軸に取り付けられた摺動相手部材(油切り又は後蓋)の外周面と摺接することにより、軸受内部空間への異物侵入、及び軸受内部空間に介在する潤滑剤(例えば、グリース)の外部漏洩を防止する。
【0004】
上記構成を有する密封装置では、2つのシールリップの先端が摺動相手部材と常に接触している関係上、両シールリップ間には軸受内部空間及び軸受外部空間(大気)と隔絶された環状のリップ間空間が形成される。転がり軸受装置の使用条件によっては、リップ間空間が負圧になるのに伴って生じる、リップ間空間と軸受内部空間等との間の気圧差のために、両シールリップが摺動相手部材の外周面に強く押し付けられる、いわゆる吸着状態となる場合がある。この吸着状態で車軸が回転すると、シールリップと摺動相手部材の間の摺動抵抗が、シールリップが摺動相手部材に吸着していない非吸着状態の時よりも増すため、シールリップの発熱が助長される他、シールリップの異常摩耗に起因したシール性能の低下を招くおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1には、リップ間空間で発生する負圧(シールリップの吸着)を迅速に解消可能とする技術手段が記載されている。具体的には、シール部材にリップ間空間に開口する開口部を設け、リップ間空間を、シール部材を貫通する第1通気路と、シール部材とシールケースの間に形成した第2通気路とを介して大気に連通させる、というものである。上記の第1通気路や第2通気路は、例えば、シール部材を構成するリップ部や芯金、さらにはシールケースに通気孔や凹部を設けることで形成される。
【0006】
また、下記の特許文献2には、シールリップ(特にダストリップ)の先端に複数のリブを設け、リップ間空間の負圧状態が進むにつれて上記リブを摺動相手部材に突き当てることにより、シールリップと摺動相手部材との間に通気路を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-227239号公報
【特許文献2】特開2020-12478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術手段を採用する場合には、シール部材を構成するリップ部や芯金、さらにはシールケース等に対して、孔や凹部を形成するといった多くの追加工が必要になるため、コストアップを招くという問題がある。また、特許文献2に記載の技術手段では、シールリップの先端に設けたリブが摺動相手部材と摺接することによって摩耗するため、吸着防止(負圧解消)機能を長期間にわたって安定的に維持することが難しいと考えられる。
【0009】
上記の実情に鑑み、本発明は、摺動相手部材との摺接によるリップ部の発熱及び異常摩耗を抑えることができ、所望のシール性能を長期間安定して維持できる密封装置を低コストに提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係る密封装置は、転がり軸受の軸受内部空間をシールするシール部材を有し、シール部材が、弾性材料からなるリップ部と、リップ部を保持した芯金とを備え、リップ部に軸方向に間隔を空けて設けられた環状の第1リップ及び第2リップの先端が摺動相手部材の外周面と摺接することにより、両リップ間に軸受内部空間及び大気とは隔絶されたリップ間空間が形成されるものにおいて、第1リップ及び第2リップのうち、反転がり軸受側に設けられた第2リップのリップ間空間に臨む面に凹部が設けられ、リップ間空間が負圧になるのに伴って変形した第2リップのリップ間空間に臨む面と摺動相手部材の外周面との間に形成される隙間と、上記凹部とを介してリップ間空間が大気に開放されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る密封装置では、リップ間空間が負圧になるのに伴って第2リップが変形(弾性変形)したときに第2リップのリップ間空間に臨む面と摺動相手部材の外周面との間に形成される隙間と、第2リップのリップ間空間に臨む面に設けられた凹部とにより「通気路」が形成され、この通気路を介してリップ間空間が大気に開放されることになる。この場合、リップ間空間が負圧になったときに第2リップが摺動相手部材の外周面との間に凹部を大気に開放する隙間を形成するように変形すれば、リップ間空間の負圧状態を適切に解消することができるので、密封装置のうち、リップ部(の第2リップ)以外の部品・部位に対して負圧状態を解消するための孔や凹部を設ける必要はなくなる。また、本発明の構成上、第2リップには、特許文献2に記載されているようなリブを設ける必要がなく、従って、負圧解消時に第2リップが摺動相手部材に対して点接触するのを回避できる。これにより、リップ部(第2リップ)の発熱や異常摩耗などの問題発生を可及的に防止することができる。
【0012】
凹部は、例えば、周方向に延びる円弧溝、あるいは周方向寸法が第2リップの先端側に向けて漸減した先細り形状の窪みで構成することができる。また、凹部として機能する円弧溝あるいは窪みは、周方向の複数箇所に等配することができる。このようにすれば、上記通気路が形成されることによるシール性能の低下を抑制しつつ、リップ間空間の負圧状態を適切に解消することができる。
【0013】
凹部の深さ寸法は、第2リップの先端との離間距離が拡大する方向に沿って漸増させることができる。
【0014】
凹部の第2リップの先端に最も接近した側の端部は、例えば、第2リップの先端から0.1~0.5mm離れた位置に位置させるのが好ましい。係る構成を採用すれば、凹部を通気路の一部として適切に機能させることができる。
【0015】
リップ部は、芯金をインサート部品として型成形することができる。この場合、リップ部に設けるべき上記凹部も型成形することができるので、シール部材、ひいては密封装置の高精度化及び低コスト化を図ることができる。
【0016】
転動体を介して相対回転する内輪及び外輪を有する転がり軸受と、転がり軸受の軸方向外側に配置された摺動相手部材と、以上に述べた本発明に係る密封装置と、を備えた転がり軸受装置は、本発明に係る密封装置が以上に述べたような構成を有していることにより、低コストでありながら信頼性及び耐久性に富む、という特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
以上から、本発明によれば、シール部材等に対する追加工を実施せずとも、摺動相手部材との摺接によるリップ部の発熱及び異常摩耗を抑えることができるので、所望のシール性能を長期間安定して維持できる密封装置を低コストに実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】鉄道車両の車軸を支持する転がり軸受装置の縦断面図である。
【
図4】
図3を同図中の矢印X方向から見たときの部分平面図である。
【
図5】(a)図は、リップ間空間と大気との気圧差が小さいときのシール部材の縦断面図、(b)図は(a)図よりも上記気圧差が大きくなったときのシール部材の縦断面図、(c)図は(b)図よりも上記気圧差が大きくなったときのシール部材の縦断面図、(d)図は(c)図よりも上記気圧差が大きくなったときのシール部材の縦断面図である。
【
図6】(a)図はリップ間空間の負圧状態が解消されるときの第2リップを
図4中のP1-P1線で切断した部分断面図、(b)図はリップ間空間の負圧状態が解消されるときの第2リップを
図4中のP2-P2線で切断した部分断面図である。
【
図7】(a)図及び(b)図共に、本発明の他の実施形態に係る密封装置の部分概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に、本発明の一実施形態に係る密封装置を含む転がり軸受装置を示す。この転がり軸受装置は、鉄道車両の車軸2を回転自在に支持する転がり軸受1と、一対の密封装置20,20とを具備する。なお、以下の説明で方向性を示すために使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、それぞれ、転がり軸受1(車軸2)の軸心Oと平行な方向、軸心Oを中心とする円の径方向、及び軸心Oを中心とする円の周方向である。
【0021】
転がり軸受1は、図示しない軸箱の内周に装着され、互いに反対方向に傾斜した複列の外側軌道面11を有する外輪10と、車軸2の外周に装着され、互いに反対方向に傾斜した複列の内側軌道面13を有する内輪12と、対をなす外側軌道面11と内側軌道面13の間に配置された複数の転動体(円すいころ)14と、各列の円すいころ14を周方向等間隔で保持する一対の保持器15とを備えた、いわゆる複列円すいころ軸受である。外輪10の内周面と内輪12の外周面の間には環状の軸受内部空間S1が画成され、この軸受内部空間S1にはグリース等の潤滑剤が充填されている。
【0022】
一対の密封装置20,20は、それぞれ、転がり軸受1の軸方向一方側(
図1の紙面左側)及び他方側に配置され、軸受内部空間S1からの潤滑剤の外部漏洩、及び軸受内部空間S1への異物侵入を防止している。
【0023】
外輪10の軸方向中央部(両外側軌道面11の間)には、外輪10の内周面および外周面に開口した貫通孔16が形成され、この貫通孔16に差圧弁17が嵌合されている。この差圧弁17により、軸受内部空間S1の気圧が大気圧に維持される。
【0024】
図示例の内輪12は、軸方向に間隔を空けて配置された一対の分割内輪12A,12Aと、一対の分割内輪12Aの間に介在する間座12Bとで構成される。内輪12としては、これ以外にも、例えば、一対の分割内輪を転がり軸受1の軸方向中央部で直接突き合わせたものを採用することもできる。
【0025】
内輪12の軸方向一方側及び軸方向他方側には、それぞれ、摺動相手部材としての油切り3及び後蓋4が配されている。油切り3は、車軸2の軸端にボルト止めされた蓋部材5と軸方向で係合し、後蓋4は、車軸2の肩部2aと軸方向で係合している。このような構成により、車軸2に対する転がり軸受1(内輪20)の軸方向の相対移動が規制され、転がり軸受1が軸方向で位置決めされている。
【0026】
以下、密封装置20の構成を説明する。上記のとおり、密封装置20は転がり軸受1の軸方向両側に配されているが、2つの密封装置20は実質的に同一の構成を有することから、以下では、
図1の紙面右側に配された密封装置20を代表例にとって密封装置20の構成を説明する。なお、以下の説明においては、密封装置20のうち軸方向で転がり軸受1に近い側を「軸受側」、軸方向で転がり軸受1から離れた側を「反軸受側」とも言う。
【0027】
図1及び
図2に示すように、密封装置20は、シールケース21と、仕切り板22と、シール部材23とを備える。
【0028】
シールケース21は段付き円筒状をなし、軸受側の端部21aが外輪10の開口部の内周に圧入固定されている。シールケース21の反軸受側の端部21bは、摺動相手部材(ここでは後蓋4)の端面に形成された凹部6に隙間を介して挿入され、後蓋4との間に一端が軸受外部空間(大気)に開口したラビリンスシールを形成している。
【0029】
仕切り板22は、シールケース21の内周に固定された円筒状の軸方向部22aと、圧入部22aの軸受側端部から径方向内向きに延びたフランジ状の径方向部22bとを一体に有する断面L字状に形成され、径方向部22bの内径端は後蓋4の外周面4aに近接配置されて非接触シールを形成している。また、この仕切り板22は、シール部材23との間に、径方向部22bの内径端と後蓋4の外周面4aとの間の隙間(径方向隙間)を介して軸受内部空間S1と連通する軸受側空間S3を形成している。以上の構成により、軸受内部空間S1に充填された潤滑剤が直接的に、また多量にシール部材23に押し寄せる事態が防止される。
【0030】
シール部材23は、環状の芯金24と、芯金24に保持された環状のリップ部25とを備える。
【0031】
芯金24は、例えばステンレス鋼等の金属材料により、仕切り板22の内周に固定された円筒状の軸方向部24aと、軸方向部24aの反軸受側の端部から径方向内向きに延びたフランジ状の径方向部24bとを一体に有する断面L字状に形成され、径方向部24bの内径端にリップ部25を保持している。
【0032】
リップ部25は、軸方向に間隔を空けて設けられた環状の第1リップ25b及び第2リップ25cを有する。第1リップ25b及び第2リップ25cは、それぞれ、「メインリップ」及び「ダストリップ」とも称される。第1リップ25bは、芯金24に保持された基部25aから軸受側に向けて延び、第2リップ25cは上記基部25aから反軸受側に向けて延びている。このリップ部25は、例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等のゴム材料、あるいは熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料などといった弾性材料で形成される。本実施形態のリップ部25は、芯金24をインサート部品としてゴム材料で加硫成形される。
【0033】
第1リップ25bの先端(内径端)及び第2リップ25cの先端25c1は、何れも後蓋4の外周面4aに対して締め代をもって接触している。なお、第1リップ25bの先端は、後蓋4の外周面4aに対して面接触し、第2リップ25cの先端25c1は、後蓋4の外周面4aに対して点(線)接触している。これにより、第1リップ25bと第2リップ25cの間には、リップ部25と後蓋4(の外周面4a)とで囲まれたリップ間空間S2が形成される。第2リップ25cを挟んでリップ間空間S2の反軸受側には、リップ間空間S2とは隔絶され、シールケース21と後蓋4で形成されるラビリンスシールを介して大気に連通した軸受外部空間S4が形成される。
【0034】
第1リップ25bの外周には環状の拘束部材26が装着されている。この拘束部材26は、弾性的に拡径及び縮径可能なものであり、弾性的に拡径した状態で第1リップ25bの外周に装着されている。そのため、第1リップ25bの先端(内径端)には、拘束部材26の縮径方向の弾性復元力、及び上記締め代による緊迫力が付与されている。これにより、第1リップ25bの内径端が後蓋4の外周面4aに対して圧接されるので、リップ間空間S2は、上記の軸受側空間S3、さらには軸受内部空間S1(
図1参照)とも隔絶される。なお、拘束部材26としては、ガータスプリングやゴムリングなどを使用することができる。
【0035】
図3に拡大して示すように、第2リップ25cのうち、リップ間空間S2に臨む面(リップ内面)25dには凹部25eが設けられている。本実施形態では、
図4に示すように、凹部25eを第2リップ25cの周方向に延びる円弧溝で構成し、この円弧溝からなる凹部25eを周方向の複数箇所(例えば、四箇所)に等配している(図示省略)。凹部25eは、内径側の端部25e1が、第2リップ25cの先端25c1から所定量離れた位置に位置するように設けられる。凹部25eの内径端部25e1と第2リップ25cの先端25c1との離間距離は、例えば0.1mm~0.5mmの範囲内に設定される。なお、本実施形態ではリップ部25が加硫成形されることから、凹部25eは、リップ部25を成形するのと同時に型成形することができる。
【0036】
本実施形態の密封装置20では、大気に開放された軸受内部空間S1及び軸受外部空間S4と隔絶されたリップ間空間S2が負圧となり、リップ間空間S2と大気の間の気圧差が所定値を超えると、上記の凹部25eと、リップ間空間S2が負圧になるのに伴って弾性変形した第2リップ25cのリップ内面25d(の先端側領域25f)が後蓋4との間に形成する隙間G[
図6(a)参照]とで構成される通気路が形成され、この通気路を介してリップ間空間S2が大気に開放される(リップ間空間S2に空気が流入する)ことでリップ間空間S2の負圧状態が解消されるようになっている。以下、
図5(a)~(d)及び
図6(a)(b)を参照して詳細に説明する。
【0037】
まず、
図5(a)に示すように、リップ間空間S2が負圧になると、リップ部25の第1リップ25b及び第2リップ25cがリップ間空間S2の容積を縮小させる方向に弾性変形する。以降、リップ間空間S2と大気の間の気圧差が大きくなる(リップ間空間S2の負圧状態が進展する)につれて、両リップ25b,25cは、
図5(b)~(d)に示すように、リップ間空間S2の容積をさらに縮小させる方向に弾性変形する。
【0038】
第2リップ25cの変形過程において、第2リップ25cのうちリップ内面25dに凹部25eが形成された周方向領域では、リップ内面25dのうち凹部25eよりも先端側の領域25fと後蓋4の外周面4aとの間に、リップ内面25dに形成された凹部25eと軸受外部空間S4(大気)とを連通させる隙間Gが一時的に形成される。つまり、リップ間空間S2の負圧状態が進展するのに伴う第2リップ25cの変形過程では、
図6(a)に示すように、上記の隙間G及び凹部25eからなる通気路が一時的に形成され、この通気路を介して空気Mがリップ間空間S2に流入する。これにより、リップ間空間S2の負圧状態が解消される。
【0039】
なお、第2リップ25cのうちリップ内面25dに凹部25eが形成されていない周方向領域では、リップ間空間S2の負圧状態が進展する際の第2リップ25cの変形過程において、第2リップ25cと後蓋4との間にリップ間空間S2に空気を流入させ得るような通気路は形成されない[
図6(b)参照]。
【0040】
以上で説明した本実施形態の密封装置20では、リップ間空間S2が負圧になったとき(リップ間空間S2の大気との気圧差が大きくなったとき)に、第2リップとしての第2リップ25cが後蓋4の外周面4aとの間に凹部25eを大気に開放する隙間Gを形成するように変形すれば、リップ間空間S2の負圧状態を適切に解消することができるので、密封装置20のうち、リップ部25(の第2リップ25c)以外の部品・部位に対して負圧状態を解消するための孔や凹部を設ける必要はなくなる。また、本発明の構成上、第2リップ25cには、特許文献2に記載されているようなリブを設ける必要がなく、従って、負圧解消時に第2リップ25cが後蓋4と点接触状態で摺動するのを回避できる。これにより、リップ部25(第2リップ25c)の発熱や異常摩耗などの問題発生を可及的に防止することができる。
【0041】
また、本実施形態では、円弧溝からなる凹部25eを周方向の複数箇所に等配しているので、凹部25eが形成されていない周方向領域では、大気(軸受外部空間S4)とリップ間空間S2との間で空気が行き来することはない[
図6(b)参照]。そのため、上記通気路が形成されることによるシール性能の低下を抑制しつつ、リップ間空間S2の負圧状態を適切に解消することができる。
【0042】
図7(a)は、本発明の他の実施形態に係る密封装置20の部分概略斜視図である。この実施形態では、円弧溝からなる凹部25eの深さ寸法が、第2リップ25cの先端25c1との離間距離が拡大する方向に沿って漸増するように形成されている点において、前述した実施形態と異なる。このようにすれば、リップ間空間S2の負圧状態が進展するのに伴って第2リップ25cが弾性変形したときに、第2リップ25cと後蓋4、凹部25eと後蓋4との間に形成される隙間Gのサイズを必要最小限に抑えることができ、シール性の低下を防止できる。
【0043】
凹部25eは、以上で説明したような円弧溝で構成する他、
図7(b)に示すような窪みで構成することもできる。なお、この窪みからなる凹部25eは、
図7(a)に示す凹部25eと同様に、その深さ寸法が、第2リップ25cの先端25c1との離間距離が拡大する方向に沿って漸増するように形成されている。
【0044】
以上、本発明の実施形態に係る密封装置20、及びこれを備えた転がり軸受装置について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらになる変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 転がり軸受
2 車軸
3 油切り(摺動相手部材)
4 後蓋(摺動相手部材)
10 外輪
12 内輪
14 円すいころ(転動体)
20 密封装置
21 シールケース
23 シール部材
24 芯金
25 リップ部
25b 第1リップ
25c 第2リップ
25d リップ内面
25e 凹部
G 隙間
S1 軸受内部空間
S2 リップ間空間
S4 軸受外部空間