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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148781
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20220929BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20220929BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/38
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050596
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 知樹
(72)【発明者】
【氏名】関 誠
(72)【発明者】
【氏名】中辻 雄太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA55
3J701BA57
3J701BA69
3J701DA03
3J701DA11
3J701EA03
3J701FA31
3J701FA44
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB16
3J701XB18
3J701XB23
3J701XB24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内方部材に形成されるぬすみ部の強度を向上させて、疲労強度を向上させることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周に複列の外側軌道面を有する外輪と、外周に複列の内側軌道面を有するハブ輪3と、このハブ輪3と前記外輪のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の円すいころと、を備えた車輪用軸受装置であって、前記ハブ輪3は、前記内側軌道面3dと当該内側軌道面3dのアウター側の鍔面3fとの間に設けられたぬすみ部13を有し、前記ぬすみ部13は、焼入れによって表面に硬化処理が施され、砥石20による研削加工が施される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に複列の内側軌道面を有する内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の円すいころと、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記内方部材は、
前記内側軌道面と当該内側軌道面の一方側の鍔面との間に設けられたぬすみ部を有し、
前記ぬすみ部は、焼入れによって表面に硬化処理が施される焼入れ硬化層と、砥石による研削加工が施される研削加工面を有する、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記研削加工面は、少なくとも前記ぬすみ部と前記鍔面との境界から前記内側軌道面に至る間の途中まで形成されている、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記研削加工面は、軸方向における前記鍔面の他方側の端部に対応する位置まで形成されている、請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ぬすみ部は、前記研削加工の際に前記砥石と干渉しない研削逃げを有する、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記ぬすみ部は、前記鍔面につながる断面視略円弧状で曲率半径Rxの第1円弧面と、当該第1円弧面の他方側につながる断面視略円弧状で曲率半径Ryの第2円弧面とを有する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記ぬすみ部に前記砥石を接近させる際において、前記砥石の軸方向に対する進入角をαとし、
前記ぬすみ部は、軸方向における前記鍔面の他方側の端部に対応する位置から前記内側軌道面までに断面視直線状のテーパ面を有し、
前記テーパ面の軸方向に対する傾斜角をβとした場合、
α>βの関係を満たす、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記第1円弧面の曲率半径Rxは、0.4mm以上1.2mm以下である、請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記第2円弧面の曲率半径Ryは、前記第1円弧面の曲率半径Rxより大きく、かつ少なくとも前記第2円弧面は、前記研削加工面を有しない、請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記砥石の進入角αは、0°以上20°以下とする、請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。この車輪用軸受装置は、車体取付フランジを有している外方部材と、ハブ輪に一つの内輪が嵌合されている内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成された第3世代構造が主流となっている。例えば、ピックアップトラック又は大型のSUV(Sports Utility Vehicle)など比較的車体重量の大きい車両の軸受には、その負荷荷重に耐えうるように転動体が円すいころである円すいころ軸受が使用される。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される車輪用軸受装置は、ぬすみ部の表層に残留応力を付与するレーザーピーニング処理を施して、ぬすみ部の耐久性の向上を図ったものである。
【0004】
また、特許文献2に開示される車輪用軸受装置においては、内方部材のインナー側に形成された内側転走面と内側転走面のインナー側鍔面が交わる部分、及び内方部材のアウター側に形成された内側転走面と内側転走面のアウター側鍔面が交わる部分のそれぞれにインナー側ヌスミ加工部及びアウター側ヌスミ加工部が設けられている。これにより、インナー側ヌスミ加工部の曲率半径をRiとし、アウター側ヌスミ加工部の曲率半径をRoとした場合に、Ri<Roの関係を満たすように構成している。このような車輪用軸受装置によれば、アウター側ヌスミ加工部に応力が集中するのを防ぐことができる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-162817号公報
【特許文献2】特許第6448693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においても記載されているが、複列円すいころ軸受における第3世代型の車輪用軸受装置では、ぬすみ部に応力が集中する。そのため、特許文献1では、レーザーピーニングによる残留応力付与による耐久性の向上を図る構成であるが、現行のラインから外れたオフラインでの加工となり、新規設備の導入が必要となることや、ぬすみ部周囲にマスキングを施すことにより製造コスト高となり費用対効果の観点から現実的な対策とはならない。そのため、低コストでぬすみ部の強度を向上させることができる技術が求められる。
【0007】
また、特許文献2に開示される車輪用軸受装置では、ヌスミ加工部のR寸法の範囲を規定しているが、ヌスミ加工部の仕上げ方法について明確に規定されてない。例えば旋削加工(旋削仕上げ)の場合、旋削バイトの構成刃先の影響によりヌスミ加工部がなめらかなR形状にならない場合があり、この部分に応力が集中して金属疲労が起こしやすくなる。一方、例えば研削加工(研削仕上げ)の場合、ヌスミ加工部に研削砥石を逃がすための研削逃げがないため、加工時間が大幅にアップし、低コストで加工することができない。そのため、加工時間をかけずにぬすみ部に対する研削加工を施して、ぬすみ部に応力集中しないようにし、ロバスト性の高い構造を実現することが求められている。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、内方部材に形成されるぬすみ部の強度を向上させて、疲労強度を向上させることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に複列の内側軌道面を有する内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記内方部材は、前記内側軌道面と当該内側軌道面の一方側の鍔面との間に設けられたぬすみ部を有し、前記ぬすみ部は、焼入れによって表面に硬化処理が施され、砥石による研削加工が施される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼入れによって表面に硬化処理が施されたぬすみ部に旋削加工を施すことで、当該ぬすみ部の強度を向上させて、内方部材の疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
図2】研削加工を施す際のハブ輪を示す断面図。
図3】研削加工を施す際のぬすみ部とその周辺を示す断面図。
図4】ぬすみ部の変形例を示す断面図。
図5】単一の曲率半径で旋削仕上げが施されたぬすみ部を示す断面図。
図6図5で示すぬすみ部に対して砥石による研削加工を施す場合を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図1から図3を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0013】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、複列の円すいころ5a,5b、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。
【0014】
図1に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持する。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2aが設けられている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2bが設けられている。外輪2の内周面には、外側に向かうに従って拡径するテーパ状に形成されているインナー側の外側軌道面2cとアウター側の外側軌道面2dとが周方向に互いに平行になるように設けられている。外輪2の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に設けられている。
【0015】
内方部材は、ハブ輪3と内輪4とによって構成されている。ハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪3は、略円筒状に形成され、例えば、S53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが設けられている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ装置とを締結するためのハブボルト3cが圧入されている。また、ハブ輪3のアウター側の外周面には、周方向に環状でテーパ状の内側軌道面3dが設けられている。
【0016】
内輪4は、ハブ輪3の小径段部3aに圧入されている。内輪4の外周面には、内側軌道面4aが設けられている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
【0017】
二列の転動体であるインナー側の円すいころ5aとアウター側の円すいころ5bとは、ハブ輪3と内輪4を回転自在に支持するものである。複数のインナー側の円すいころ5aとアウター側の円すいころ5bとは、保持器によって環状に保持されている。インナー側の円すいころ5aは、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側の円すいころ5bは、ハブ輪3の内側軌道面3dと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側の円すいころ5aとアウター側の円すいころ5bとは、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。
【0018】
図1に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2とハブ輪3と内輪4とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞いでいる。
【0019】
図1に示すように、インナー側シール部材6は、外輪2とハブ輪3と内輪4とによって形成された環状空間のうちインナー側開口端を塞いでいる。
【0020】
[第一実施形態]
次に、図2及び図3を用いて、車輪用軸受装置1におけるハブ輪3のぬすみ部13及びぬすみ部13への研削加工処理について詳細に説明する。
【0021】
図2及び図3に示すように、ハブ輪3には、アウター側の円すいころ5bとの干渉を回避するため、円すいころ5bの大端面5b1(図1参照)を受けて案内する鍔面3fが設けられている。鍔面3fは、内側軌道面3dに対して略垂直方向に形成される平坦な面である。ハブ輪3には、この鍔面3fとアウター側の内側転走面3dとが交わる部分である隅部に周方向に沿って凹湾曲状のぬすみ部13が形成されている。ぬすみ部13は、断面視において略円弧状に窪んでいる。
【0022】
ぬすみ部13は、断面視略円弧状の第1円弧面13aと、この第1円弧面13aにつながる断面視略円弧状の第2円弧面13bとを有している。第1円弧面13aは、鍔面3fの径方向内側の端部につながっている。第2円弧面13bは、内側転走面3dのアウター側端部につながっている。なお、第1円弧面13aは、略円弧形状になっており、この略円弧形状の曲率半径を「曲率半径Rx」と定義する。また、第2円弧面13bは、略円弧形状になっており、この略円弧形状の曲率半径を「曲率半径Ry」と定義する。すなわち、ぬすみ部13は、二つのR面が連続する2段の曲率半径Rxの第1円弧面13aと曲率半径Ryの第2円弧面13bとを有している。この2段の曲率半径Rx、Ryからなる第1円弧面13a、第2円弧面13bにおいて、第2円弧面13bの開始位置(第2円弧面13bのアウター側端部)は、図3中の符号Pで示す位置となる。第2円弧面13bは、研削加工の際に、後述する砥石20の径方向内側の端部に有するテーパ状の砥石外径面20aが干渉(接触)しないように設けられた研削逃げである。
【0023】
ここで、例えば、図5及び図6に示す従来のぬすみ部のように、円環状の砥石20を用いて、断面視略円弧状で単一の曲率半径Rで旋削仕上げが施されたぬすみ部に対して、ぬすみ部の内側全てを全面研削加工する場合、砥石20をアウター側に向かって軸方向に対して所定の進入角で急接近した際、ぬすみ部のインナー側端部であるE部分において砥石20の砥石外径面20aと干渉(接触)してしまう。そのため、砥石20の砥石外径面20aと内輪(ぬすみ部のインナー側端部であるE部分)とが干渉しないようにするためには、当該ぬすみ部のE部分から離間した位置から研削加工を開始する必要があった。そのため、ぬすみ部近傍まで砥石20を短時間で急接近させること(急接とも呼ばれる)ができない。そのため、ぬすみ部近傍まで砥石20をゆっくりと進めなければならず、ぬすみ部の砥石20による加工時間が大幅に長くなってしまい、生産性が低下することが考えられる。
【0024】
そこで、本発明の第一実施形態の車輪用軸受装置1では、先ず、ぬすみ部13は、あらかじめ高周波焼入れによって表面が硬化処理される。これにより、ぬすみ部13は、その表面に焼入れ硬化処理が施された焼入れ硬化層を有することとなる。次に、第一実施形態に係るぬすみ部13では、研削加工(研削仕上げ)をぬすみ部13の内側全てではなく、ぬすみ部13の内側のアウター側領域に限定して行うものである。すなわち、ぬすみ部13は、砥石20により研削加工される研削加工面を有している。具体的には、ぬすみ部13において、鍔面3fの径方向外側の端部3f1を通り、軸方向に直交する平面S(図3では二点鎖線で示される直線)よりもアウター側に位置する第1円弧面13aの一部と鍔面3fを含む領域が砥石20により研削加工される範囲(研削範囲)となる。すなわち、ぬすみ部13における平面Sよりもアウター側に位置する第1円弧面13aの一部と鍔面3fを含む領域は研削加工面を有している。つまり、ぬすみ部13は、軸方向における鍔面3fの他方側(インナー側)の端部3f1に対応する位置まで研削加工される。また、ぬすみ部13において、平面Sよりもインナー側領域が砥石20により研削加工されない範囲(非研削範囲)となる。つまり、非研削範囲においては、研削加工は施されずに、ぬすみ部13を形成する際に行われる旋削加工(旋削仕上げ)のみが施されている。つまり、第2円弧面13bは、研削加工面を有していない。ぬすみ部13の非研削範囲においては、第1円弧面13aのインナー側の端部と、第2円弧面13bの開始位置Pと、第2円弧面13bが含まれている。このように、焼入れ処理されたぬすみ部13に対して研削加工を施すことにより、ぬすみ部13の旋削仕上げ時に生じる旋削バイトの構成刃先の影響を受けなくなるため、ぬすみ部13の表面がなめらかなR形状となる。これにより、ぬすみ部13の強度低下を抑えて、ロバスト性を高めることができる。さらに、ぬすみ部13を研削加工することによって、圧縮残留応力を付与することができるので、ぬすみ部13の強度を高めることができる。ひいては、ハブ輪3に大きな旋回荷重が入力された場合でも繰り返し疲労強度が向上するため、ハブ輪の寿命をさらに延ばすことができる。
【0025】
なお、砥石20の径方向内周部のアウター側の部分は、第1円弧面13aと鍔面3fと同じ形状に形成されている。これにより、砥石20を軸方向に対して進入角α方向に沿って移動させ、第1円弧面13aと鍔面3fに接触させることで第1円弧面13aと鍔面3fの表面が研削加工される。
【0026】
また、本発明の第一実施形態の車輪用軸受装置1では、研削逃げとなる第2円弧面13bを有しているため、研削加工の際に砥石20がぬすみ部13に向かって軸方向に対して進入角αの方向に移動しても、ハブ輪3が砥石20の砥石外径面20aと干渉(接触)せずに、ぬすみ部13の加工部分の直前まで砥石20を急接近させることできるので、加工時間が短く、生産性を向上させることができる。
【0027】
なお、ぬすみ部13は、研削加工される前にあらかじめ、例えば高周波焼入れによって表面が硬化処理される。すなわち、ぬすみ部13は、表面の焼入れ後に研削加工が施される。
また、ぬすみ部13の焼入れについては高周波焼入れ以外にも公知の熱処理による焼入れを適用することができる。具体的には、焼入れ処理としては、ハブ輪3の表面のみを浸炭により硬化させて、芯部を未焼入れとする浸炭焼入れや、芯部を含むハブ輪3の全体を硬化させる全硬化焼入れなどを採用することができる。
【0028】
また、第1円弧面13aの曲率半径Rxは、0.4mm以上1.2mm以下であることが好ましい。例えば、曲率半径Rxが0.4mm未満の場合は、応力集中しやすくなり、強度が低下する。また、曲率半径Rxが1.2mmよりも大きい場合は、端部3f1の面積が小さくなることで、大きなアキシアル荷重を受けられなくなり、軸受装置のサイズアップが必要となってしまう。また、車輪用軸受装置1では、ぬすみ部13を研削加工することで強度を上げることができるため、従来よりも小さな曲率半径のぬすみ部を設けることが可能になる。例えば、従来は強度を確保するために最小でも曲率半径が0.6mm程度のぬすみ部が必要であったが、本実施形態のぬすみ部13では第1円弧面13aを0.6mmより小さくしても0.4mm程度の下限値までは、ぬすみ部13の強度低下を防ぐことができる。
【0029】
さらに、第2円弧面13bの曲率半径Ryは、第1円弧面13aの曲率半径Rxより大きくすることが好ましい。この場合、第1円弧面13aは、ぬすみ部13の非研削範囲に配置されているため、ぬすみ部13の非研削範囲の応力を緩和することができ、ぬすみ部13の耐久性を向上することができる。また、少なくとも第2円弧面13bは砥石20による研削加工を施さないことが好ましい。これにより、加工時間を短くすることができるため、生産性を向上させることができる。
【0030】
また、ぬすみ部13に対する砥石20の軸方向に対する進入角αは、0°以上20°以下とすることが好ましい。例えば、進入角αを20°よりも大きくしてしまうと、ぬすみ部13の研削加工が難しくなるからである。
【0031】
[第二実施形態]
次に、図4を用いて、車輪用軸受装置1におけるハブ輪3のぬすみ部13の変形例であるぬすみ部13Aについて説明する。第二実施形態のぬすみ部13Aを除く他の構成は第一実施形態と同じであるため、同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0032】
先ず、ぬすみ部13Aは、あらかじめ高周波焼入れによって表面が硬化処理される。これにより、ぬすみ部13は、その表面に焼入れ硬化処理が施された焼入れ硬化層を有することとなる。次に、第二実施形態に係るぬすみ部13Aでは、研削加工をぬすみ部13の内側全てではなく、ぬすみ部13Aの内側のアウター側領域に限定して行うものである。すなわち、ぬすみ部13Aは、砥石20により研削加工される研削加工面を有している。具体的には、ぬすみ部13Aにおいて、鍔面3fの径方向外側の端部3f1を通り、軸方向に直交する平面S(図4では二点鎖線で示される直線)よりもアウター側領域となる所定曲率半径の円弧面13A1が砥石20により研削加工される範囲(研削範囲)となる。すなわち、ぬすみ部13Aにおける平面Sよりもアウター側に位置する円弧面13A1と鍔面3fを含む領域は研削加工面を有している。つまり、ぬすみ部13Aは、軸方向における鍔面3fの他方側(インナー側)の端部3f1に対応する位置まで研削加工される。
【0033】
また、ぬすみ部13Aは、円弧面13A1につながる、平面Sよりもインナー側領域となる断面視直線状の傾斜面であるテーパ面13A2を有している。すなわち、ぬすみ部13Aは、軸方向における鍔面3fのインナー側の端部に対応する位置から内側軌道面3dのアウター側端部までの間にテーパ面13A2を有している。ぬすみ部13Aにおいて、平面Sよりもインナー側領域となるテーパ面13A2が砥石20により研削加工されない範囲(非研削範囲)となる。つまり、テーパ面13A2は、研削加工面を有していない。テーパ面13A2は、軸方向に対して傾斜角βをなすように設けられている。砥石20をぬすみ部13Aに接近させる際に、砥石20の内周縁部の軸方向に対する進入角をαとすると、当該進入角αと傾斜角βの関係は、α>βの関係を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、テーパ面13A2は、砥石20の砥石外径面20aが干渉(接触)しないように設けられた研削逃げとなる。これにより、砥石20が進入角αの方向に移動しても、テーパ面13A2は砥石20の砥石外径面20aと干渉(接触)せずに、ぬすみ部13の研削加工部分の直前まで砥石20を急接近させることできるので、加工時間が短く、生産性を向上させることができる。
【0034】
以上のように、第一実施形態の車輪用軸受装置1では、焼入れによって表面に硬化処理が施されたぬすみ部13に旋削加工を施すことで、当該ぬすみ部13の強度を向上させて、ハブ輪3の疲労強度を向上させることができる。ひいては、車輪用軸受装置を大型化せずに、ハブ輪3の疲労強度を向上させることができるため、車輪用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
【0035】
また、車輪用軸受装置1では、ぬすみ部13、13Aは、少なくとも鍔面3fとの境界であるぬすみ部13、13Aの径方向外側の端部13cから内側軌道面3dに至る間の途中まで砥石20による研削加工が施されることが好ましい。これにより、ぬすみ部13、13Aの内側全てを研削加工することに比べて、加工時間が短くできるため、生産性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態の車輪用軸受装置1のように、第3世代構造の場合のハブ輪3は鍔面3fでアキシアル荷重を受けた際、ぬすみ部13に応力が集中するため、第2円弧面13bの開始位置Pはアキシアル荷重を受けている位置(図3の二点鎖線位置)よりもインナー側(紙面右側)に設けることが好ましい。
【0037】
また、ぬすみ部13における研削範囲と非研削範囲(旋削加工のみの部分)のつなぎ目で応力が集中しないよう、少なくともアキシアル荷重を受けている鍔面3fの径方向外側の端部3f1に対応する軸方向位置(図3及び図4の二点鎖線位置)までは研削加工を施すことが好ましい。また、当該軸方向位置よりもさらにインナー側(紙面右側)まで研削加工を施すことがより好ましい。これにより、ぬすみ部13の強度がさらに向上する。
【0038】
以上、本実施形態に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪3の外周に転動体である複列の円すいころ5a,5bの内側軌道面3dが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された内輪回転の第2世代構造であってもよい。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2c 外側軌道面
2d 外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3d 内側軌道面
3f 鍔面
4 内輪
4a 内側軌道面
5a 円すいころ
5b 円すいころ
13 ぬすみ部
20 砥石
図1
図2
図3
図4
図5
図6