(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148801
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】油圧ショベル及び油圧ショベルの制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20220929BHJP
F16H 61/4157 20100101ALI20220929BHJP
F16H 61/44 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
E02F9/22 C
F16H61/4157
F16H61/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050619
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住野 亘
(72)【発明者】
【氏名】名倉 忍
(72)【発明者】
【氏名】横山 佑喜
(72)【発明者】
【氏名】池田 真俊
【テーマコード(参考)】
2D003
3J053
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003BA05
2D003CA02
2D003DA02
2D003DB02
2D003DB03
3J053AA01
3J053AA03
3J053AB21
3J053AB38
3J053AB47
(57)【要約】
【課題】オーバラン現象の発生を抑制すること。
【解決手段】油圧ショベルは、パワーテイクオフと、パワーテイクオフに連結されるエンジンと、パワーテイクオフに連結され、エンジンにより駆動される旋回用油圧ポンプと、旋回用油圧ポンプから吐出された作動油により駆動する旋回用油圧モータと、旋回用油圧ポンプの第1吐出口と旋回用油圧モータの第1吸込口とを接続する第1主油通路と、旋回用油圧ポンプの第2吐出口と旋回用油圧モータの第2吸込口とを接続する第2主油通路と、第1主油通路及び第2主油通路に配置され、作動油の通過を制御する中立保持弁と、パワーテイクオフに連結され、中立保持弁のメータアウト開口を介して旋回用油圧モータから旋回用油圧ポンプに供給された作動油により発生する回生エネルギーを吸収する回生エネルギー吸収機器と、回生エネルギー吸収機器の状態に基づいてメータアウト開口の面積を制御するバルブ制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーテイクオフと、
前記パワーテイクオフに連結されるエンジンと、
前記パワーテイクオフに連結され、前記エンジンにより駆動される旋回用油圧ポンプと、
前記旋回用油圧ポンプから吐出された作動油により駆動する旋回用油圧モータと、
前記旋回用油圧ポンプの第1吐出口と前記旋回用油圧モータの第1吸込口とを接続する第1主油通路と、
前記旋回用油圧ポンプの第2吐出口と前記旋回用油圧モータの第2吸込口とを接続する第2主油通路と、
前記第1主油通路及び前記第2主油通路に配置され、作動油の通過を制御する中立保持弁と、
前記パワーテイクオフに連結され、前記中立保持弁のメータアウト開口を介して前記旋回用油圧モータから前記旋回用油圧ポンプに供給された作動油により発生する回生エネルギーを吸収する回生エネルギー吸収機器と、
前記回生エネルギー吸収機器の状態に基づいて前記メータアウト開口の面積を制御するバルブ制御部と、を備える、
油圧ショベル。
【請求項2】
前記回生エネルギー吸収機器の状態を示す状態量を取得する状態量取得部を備え、
前記バルブ制御部は、前記状態量に基づいて前記メータアウト開口の面積を制御する、
請求項1に記載の油圧ショベル。
【請求項3】
前記パワーテイクオフに連結され、前記エンジンにより駆動される機器油圧ポンプを備え、
前記回生エネルギー吸収機器は、前記機器油圧ポンプを含み、
前記回生エネルギーは、前記旋回用油圧ポンプが発生する回生トルクを含み、
前記状態量は、前記機器油圧ポンプの消費トルクを含み、
前記バルブ制御部は、前記回生トルクが前記消費トルクを上回る場合、前記メータアウト開口の面積を小さくする、
請求項2に記載の油圧ショベル。
【請求項4】
前記回生エネルギー吸収機器は、前記エンジンを含み、
前記状態量は、前記エンジンの回転数を含み、
前記バルブ制御部は、前記エンジンの回転数が許容回転数を上回る場合、前記メータアウト開口の面積を小さくする、
請求項2に記載の油圧ショベル。
【請求項5】
パワーテイクオフと、
前記パワーテイクオフに連結されるエンジンと、
前記パワーテイクオフに連結され、前記エンジンにより駆動される旋回用油圧ポンプと、
前記旋回用油圧ポンプから吐出された作動油により駆動する旋回用油圧モータと、
前記旋回用油圧ポンプの第1吐出口と前記旋回用油圧モータの第1吸込口とを接続する第1主油通路と、
前記旋回用油圧ポンプの第2吐出口と前記旋回用油圧モータの第2吸込口とを接続する第2主油通路と、
前記第1主油通路及び前記第2主油通路に配置され、作動油の通過を制御する中立保持弁と、を備える油圧ショベルの制御方法であって、
前記パワーテイクオフに連結され、前記中立保持弁のメータアウト開口を介して前記旋回用油圧モータから前記旋回用油圧ポンプに供給された作動油により発生する回生エネルギーを吸収する回生エネルギー吸収機器の状態を取得することと、
前記回生エネルギー吸収機器の状態に基づいて前記メータアウト開口の面積を制御することと、を含む、
油圧ショベルの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ショベル及び油圧ショベルの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルに係る技術分野において、特許文献1に開示されているような、中立保持弁を備える油圧ショベルが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
旋回用油圧ポンプは、エンジンにより駆動される。旋回用油圧ポンプと旋回用油圧モータとを含むように作動油の閉回路が構成されている場合、上部旋回体の旋回が減速すると、旋回用油圧モータから旋回用油圧ポンプに供給された作動油により旋回用油圧ポンプにおいて回生エネルギーが発生する。この際、エンジンの回転数が過度に高くなるオーバラン現象が発生する可能性がある。
【0005】
本開示は、オーバラン現象の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従えば、パワーテイクオフと、パワーテイクオフに連結されるエンジンと、パワーテイクオフに連結され、エンジンにより駆動される旋回用油圧ポンプと、旋回用油圧ポンプから吐出された作動油により駆動する旋回用油圧モータと、旋回用油圧ポンプの第1吐出口と旋回用油圧モータの第1吸込口とを接続する第1主油通路と、旋回用油圧ポンプの第2吐出口と旋回用油圧モータの第2吸込口とを接続する第2主油通路と、第1主油通路及び第2主油通路に配置され、作動油の通過を制御する中立保持弁と、パワーテイクオフに連結され、中立保持弁のメータアウト開口を介して旋回用油圧モータから旋回用油圧ポンプに供給された作動油により発生する回生エネルギーを吸収する回生エネルギー吸収機器と、回生エネルギー吸収機器の状態に基づいてメータアウト開口の面積を制御するバルブ制御部と、を備える、油圧ショベルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、オーバラン現象の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る油圧システムを示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る油圧システムを模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る油圧システムを模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るコントローラを示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るコントローラを示すブロック図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る油圧ショベルの制御方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る目標メータアウト開口面積の算出方法を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る油圧ショベルの制御方法を示すタイムチャートである。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る油圧ショベルの制御方法を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る回生制限トルクの算出方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る油圧ショベルの制御方法を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本開示は実施形態に限定されない。以下で説明する各実施形態の構成要素は適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る油圧ショベル100を示す側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル100は、上部旋回体1と、下部走行体2と、作業機6と、作業機油圧シリンダ7とを備える。上部旋回体1は、下部走行体2に支持される。上部旋回体1は、旋回軸RXを中心に旋回する。作業機6は、上部旋回体1に連結される。作業機6は、ブーム6aと、アーム6bと、バケット6cとを含む。作業機油圧シリンダ7は、作業機6を動作させる。作業機油圧シリンダ7は、ブームシリンダ7aと、アームシリンダ7bと、バケットシリンダ7cとを含む。
【0011】
図2は、本実施形態に係る油圧システム200を示す図である。油圧システム200は、油圧ショベル100に搭載される。
図1及び
図2に示すように、油圧ショベル100は、エンジン3と、パワーテイクオフ13と、旋回用油圧ポンプ10と、作業機油圧ポンプ8と、補機油圧ポンプ9と、旋回用油圧モータ20と、作業機油圧シリンダ7と、第1主油通路30Aと、第2主油通路30Bと、中立保持弁60と、第1給油通路70Aと、第2給油通路70Bと、チャージユニット50と、レギュレータユニット80と、第1ポンプ圧力センサ14Aと、第2ポンプ圧力センサ14Bと、第1モータ圧力センサ15Aと、第2モータ圧力センサ15Bと、作業機ポンプ圧力センサ16と、補機ポンプ圧力センサ17と、旋回速度センサ18と、エンジン回転数センサ19と、操作レバー43と、コントローラ40とを備える。
【0012】
エンジン3、旋回用油圧ポンプ10、作業機油圧ポンプ8、及び補機油圧ポンプ9のそれぞれは、パワーテイクオフ13に連結される。パワーテイクオフ13は、エンジン3が発生した動力を、旋回用油圧ポンプ10、作業機油圧ポンプ8、及び補機油圧ポンプ9のそれぞれに分配する。エンジン3は、パワーテイクオフ13を介して、旋回用油圧ポンプ10、作業機油圧ポンプ8、及び補機油圧ポンプ9のそれぞれを駆動する。
【0013】
旋回用油圧ポンプ10は、パワーテイクオフ13に連結される。旋回用油圧ポンプ10は、エンジン3により駆動される。旋回用油圧ポンプ10は、旋回用油圧モータ20を駆動するための作動油を吐出する。旋回用油圧ポンプ10は、斜板11の傾転角を変更することにより押しのけ容積及び作動油の吐出方向を変化させる可変容量型の油圧ポンプである。斜板11を動作させるための容量制御ユニット12が旋回用油圧ポンプ10に設けられる。容量制御ユニット12は、旋回用油圧ポンプ10の斜板11を動作させる容量制御シリンダ121と、容量制御シリンダ121の2つの圧力室に対する作動油の供給を制御する容量制御弁122とを有する。
【0014】
容量制御シリンダ121は、ピストンロッド121aを介して旋回用油圧ポンプ10の斜板11に接続される。ピストンロッド121aが移動することにより旋回用油圧ポンプ10の斜板11が傾転動作する。容量制御シリンダ121には、通常状態において斜板11の傾転角がゼロとなるようにピストンロッド121aを付勢する内蔵バネ121bが設けられる。
【0015】
容量制御弁122は、2つの容量制御用電磁比例弁41A,41Bを介して与えられるパイロット圧によって動作する。容量制御用電磁比例弁41A,41Bは、コントローラ40から出力された制御信号に基づいて動作する。容量制御シリンダ121の2つの圧力室に対する油の供給及び排出が実施されることにより、ピストンロッド121aの位置が変更される。容量制御弁122の給油ポート122aを介して容量制御シリンダ121に供給する油は、後述するチャージポンプ51の吐出口から吐出される。
【0016】
作業機油圧ポンプ8は、パワーテイクオフ13に連結される。作業機油圧ポンプ8は、エンジン3により駆動される。作業機油圧ポンプ8は、
図1に示す作業機油圧シリンダ7を駆動するための作動油を吐出する。作業機油圧ポンプ8は、可変容量型の油圧ポンプである。
【0017】
補機油圧ポンプ9は、パワーテイクオフ13に連結される。補機油圧ポンプ9は、エンジン3により駆動される。補機油圧ポンプ9は、油圧ショベル100に搭載されている補機を駆動するための作動油を吐出する。補機としてファンが例示される。補機油圧ポンプ9は、可変容量型の油圧ポンプである。
【0018】
旋回用油圧モータ20は、旋回用油圧ポンプ10から吐出された作動油により駆動する。旋回用油圧モータ20は、上部旋回体1を旋回させるための動力を発生する。
図1に示すように、旋回用油圧モータ20は、旋回用油圧モータ20の出力軸21が下方を向くように上部旋回体1に配置される。出力軸21に接続された旋回減速機4の出力ギヤ4aが下部走行体2の旋回リング5に噛み合う。旋回用油圧モータ20が駆動すると、出力ギヤ4aが出力軸21を中心に自転するとともに下部走行体2の旋回リング5に沿って旋回軸RXを中心に公転し、下部走行体2に対して上部旋回体1が旋回軸RXを中心に旋回する。旋回用油圧モータ20の回転方向は、旋回用油圧ポンプ10からの作動油の供給方向に応じて変更することができる。
図1に示す上部旋回体1は、上方から見て右回り又は左回りに旋回することができる。
【0019】
図1に示す作業機油圧シリンダ7は、作業機油圧ポンプ8から吐出された作動油により駆動する。作業機油圧シリンダ7は、作業機6を動作させるための動力を発生する。
【0020】
図2に示すように、第1主油通路30Aは、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aと旋回用油圧モータ20の第1吸込口20aとを接続する。第2主油通路30Bは、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bと旋回用油圧モータ20の第2吸込口20bとを接続する。第1主油通路30Aと第2主油通路30Bとにより旋回用油圧ポンプ10と旋回用油圧モータ20とにより、作動油の閉回路が構成される。
【0021】
中立保持弁60は、第1主油通路30A及び第2主油通路30Bに介在するように配置される。中立保持弁60は、旋回用油圧ポンプ10と旋回用油圧モータ20との間の作動油の通過を制御する。中立保持弁60は、2つの中立保持用電磁比例弁42A,42Bを介して与えられるパイロット圧によって動作する。中立保持用電磁比例弁42A,42Bは、コントローラ40から出力された制御信号に基づいて動作する。
【0022】
中立保持弁60は、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aに接続される第1ポンプポート60aと、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bに接続される第2ポンプポート60bと、旋回用油圧モータ20の第1吸込口20aに接続される第1モータポート60cと、旋回用油圧モータ20の第2吸込口20bに接続される第2モータポート60dとを有する。
【0023】
中立保持弁60のスプールは、中立位置と第1位置と第2位置とに移動する。中立保持弁60のスプールが中立位置に配置されると、第1ポンプポート60aと第1モータポート60cとの間の作動油の通過が遮断され、第2ポンプポート60bと第2モータポート60dとの間の作動油の通過が遮断される。中立保持弁60のスプールが第1位置に配置されると、第1ポンプポート60aと第1モータポート60cとの間の作動油の通過が遮断され、第2モータポート60dから第2ポンプポート60bへの作動油の通過が許容される。中立保持弁60のスプールが第2位置に配置されると、第2ポンプポート60bと第2モータポート60dとの間の作動油の通過が遮断され、第1モータポート60cから第1ポンプポート60aへの作動油の通過が許容される。
【0024】
第1給油通路70Aは、中立保持弁60をバイパスするように配置される。第1給油通路70Aは、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aと旋回用油圧モータ20の第1吸込口20aとを接続する。第2給油通路70Bは、中立保持弁60をバイパスするように配置される。第2給油通路70Bは、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bと旋回用油圧モータ20の第2吸込口20bとを接続する。
【0025】
第1給油通路70Aに給油チェック弁71Aが配置される。第2給油通路70Bに給油チェック弁71Bが配置される。給油チェック弁71A,71Bは、旋回用油圧ポンプ10から旋回用油圧モータ20への作動油の通過を許容し、旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10への作動油の通過を阻止する。
【0026】
チャージユニット50は、第1主油通路30A及び第2主油通路30Bのいずれか一方の圧力が設定圧力を下回った場合に作動油を補充する。チャージユニット50は、エンジン3により駆動されるチャージポンプ51と、一端部がチャージポンプ51の吐出口に接続され、他端部が低圧選択弁52を介して第1主油通路30A及び第2主油通路30Bのそれぞれに接続されるチャージ通路53と、チャージ通路53から分岐して容量制御弁122の給油ポート122aに接続されるチャージ給油通路54と、チャージ通路53に接続されるチャージリリーフ弁55とを有する。例えば旋回用油圧ポンプ10や旋回用油圧モータ20の内部漏れに起因して第1主油通路30A及び第2主油通路30Bのいずれか一方の圧力がチャージリリーフ弁55の設定圧力よりも低くなった場合、低圧側の主油通路30A,30Bにチャージポンプ51から作動油が補充される。なお、第1主油通路30A及び第2主油通路30Bの圧力がいずれもチャージリリーフ弁55の設定圧力以上であれば、チャージポンプ51から吐出された作動油は、チャージリリーフ弁55を介して油タンクTに戻される。
【0027】
レギュレータユニット80は、第1主油通路30A及び第2主油通路30Bのいずれか一方の圧力が設定圧力を上回った場合に他方の主油通路30A,30Bに作動油を逃がす。レギュレータユニット80は、第1主油通路30A及び第2主油通路30Bの間を接続する吸込油通路81に互いに逆向きとなるように介在された調圧チェック弁82と、個々の調圧チェック弁82に並列に接続された圧力制御弁83とを有する。外力等の影響により、いずれか一方の主油通路30A,30B、例えば第1主油通路30Aの油圧が上昇し、圧力制御弁83の設定圧力を超えると、吸込油通路81が連通状態となり、第1主油通路30Aの油が低圧側となる第2主油通路30Bに流入する。
【0028】
第1ポンプ圧力センサ14Aは、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aと中立保持弁60との間の第1主油通路30Aの圧力を検出する。第2ポンプ圧力センサ14Bは、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bと中立保持弁60との間の第2主油通路30Bの圧力を検出する。
【0029】
第1モータ圧力センサ15Aは、旋回用油圧モータ20の第1吸込口20aと中立保持弁60との間の第1主油通路30Aの圧力を検出する。第2モータ圧力センサ15Bは、旋回用油圧モータ20の第2吸込口20bと中立保持弁60との間の第2主油通路30Bの圧力を検出する。
【0030】
作業機ポンプ圧力センサ16は、作業機油圧ポンプ8から吐出された作動油の圧力を検出する。
【0031】
補機ポンプ圧力センサ17は、補機油圧ポンプ9から吐出された作動油の圧力を検出する。
【0032】
旋回速度センサ18は、上部旋回体1の旋回速度を検出する。
【0033】
エンジン回転数センサ19は、エンジン3の回転数を検出する。
【0034】
操作レバー43は、油圧ショベル100の操作者に操作される。本実施形態において、操作レバー43は、少なくとも上部旋回体1を旋回させるために操作される。操作レバー43が操作されると、操作レバー43の操作量及び操作方向に対応する操作信号が操作レバー43から出力される。
【0035】
コントローラ40は、操作レバー43からの操作信号に基づいて、操作レバー43の操作量及び操作方向に応じた制御信号を容量制御用電磁比例弁41A,41B及び中立保持用電磁比例弁42A,42Bに出力する。
【0036】
操作レバー43が中立位置に配置されている場合、容量制御弁122及び中立保持弁60のそれぞれは、中立位置に配置される。容量制御弁122が中立位置に配置されると、旋回用油圧ポンプ10の斜板11の傾転角がゼロになる。斜板11の傾転角がゼロである場合、エンジン3が起動して旋回用油圧ポンプ10が駆動されても、旋回用油圧ポンプ10からの作動油の吐出量はゼロであるため、旋回用油圧モータ20は回転しない。
【0037】
中立保持弁60が中立位置に配置されると、旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10への作動油の通過が阻止される。また、第1給油通路70A及び第2給油通路70Bには、旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10への作動油の通過を阻止する給油チェック弁71A,71Bが設けられる。そのため、例えば油圧ショベル100が坂道に停車され、上部旋回体1を旋回させる外力が上部旋回体1に作用しても、旋回用油圧モータ20の停止した状態が維持されるため、上部旋回体1が不用意に旋回することが抑制される。
【0038】
上部旋回体1を旋回させるために操作レバー43が操作者に操作されると、操作レバー43の操作量及び操作方向に応じた制御信号がコントローラ40から容量制御用電磁比例弁41A,41B及び中立保持用電磁比例弁42A,42Bのそれぞれに出力される。旋回用油圧ポンプ10の斜板11の傾転角は変更され、中立保持弁60のスプールは、中立位置から第1位置又は第2位置に移動する。
【0039】
例えば、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aから作動油が吐出され、中立保持弁60のスプールが第1位置に移動すると、旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aから第1主油通路30Aに吐出された作動油は、第1給油通路70Aを介して旋回用油圧モータ20の第1吸込口20aに供給される。旋回用油圧モータ20に供給された作動油は、第2吸込口20bから第2主油通路30Bに吐出された後、中立保持弁60を介して旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bに供給される。この場合、上部旋回体1は、例えば右回りに旋回する。
【0040】
例えば、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bから作動油が吐出され、中立保持弁60のスプールが第2位置に移動すると、旋回用油圧ポンプ10の第2吐出口10bから第2主油通路30Bに吐出された作動油は、第2給油通路70Bを介して旋回用油圧モータ20の第2吸込口20bに供給される。旋回用油圧モータ20に供給された作動油は、第1吸込口20aから第1主油通路30Aに吐出された後、中立保持弁60を介して旋回用油圧ポンプ10の第1吐出口10aに供給される。この場合、上部旋回体1は、例えば左回りに旋回する。
【0041】
図3及び
図4のそれぞれは、本実施形態に係る油圧システム200を模式的に示す図である。
図3及び
図4に示すように、旋回用油圧ポンプ10、作業機油圧ポンプ8、及び補機油圧ポンプ9のそれぞれは、パワーテイクオフ13を介してエンジン3により駆動される。また、旋回用油圧ポンプ10と旋回用油圧モータ20と第1主油通路30Aと第2主油通路30Bとにより閉回路が構成される。
【0042】
例えば上部旋回体1が右回りに旋回するように操作レバー43が操作された場合、上部旋回体1の旋回を加速させるための作動油が第1吐出口10aから吐出される。第1吐出口10aから吐出された作動油は、第1吐出口10aと中立保持弁60との第1主油通路30Aを通過し、中立保持弁60を通過した後、中立保持弁60と第1吸込口20aとの間の第1主油通路30Aを通過する。以下の説明において、上部旋回体1が右回りに旋回するように操作レバー43が操作された場合において、上部旋回体1の旋回加速期間に作動油が通過する第1吐出口10aと中立保持弁60との間の第1主油通路30Aを適宜、加速側ポンプ通路30Ap、と称し、中立保持弁60と第1吸込口20aとの間の第1主油通路30Aを適宜、加速側モータ通路30Am、と称する。
【0043】
上部旋回体1を右回りに旋回させる操作レバー43の操作が解除された場合、上部旋回体1の旋回の減速が開始される。本実施形態においては、操作レバー43の操作が解除されても、上部旋回体1の旋回の減速期間においては、中立保持弁60のスプールが第1位置に配置され続ける。操作レバー43の操作が解除された場合、作動油が第2吸込口20bから吐出された作動油は、第2吸込口20bと中立保持弁60との第2主油通路30Bを通過し、中立保持弁60を通過した後、中立保持弁60と第2吐出口10bとの間の第2主油通路30Bを通過する。以下の説明において、上部旋回体1を右回りに旋回させる操作レバー43の操作が解除された場合において、上部旋回体1の旋回減速期間に作動油が通過する第2吸込口20bと中立保持弁60との間の第2主油通路30Bを適宜、減速側モータ通路30Bm、と称し、中立保持弁60と第2吐出口10bとの間の第2主油通路30Bを適宜、減速側ポンプ通路30Bp、と称する。
【0044】
加速側ポンプ通路30Apの圧力は、第1ポンプ圧力センサ14Aにより検出される。加速側モータ通路30Amの圧力は、第1モータ圧力センサ15Aにより検出される。減速側モータ通路30Bmの圧力は、第2モータ圧力センサ15Bにより検出される。減速側ポンプ通路30Bpの圧力は、第2ポンプ圧力センサ14Bにより検出される。
【0045】
図3及び
図4は、上部旋回体1の旋回減速期間における油圧システム200の状態を示す。上部旋回体1の旋回減速期間においては、上部旋回体1の慣性力が旋回用油圧モータ20を回転させる。旋回用油圧モータ20の回転により、第2吸込口20bから作動油が吐出される。第2吸込口20bから吐出された作動油は、減速側モータ通路30Bm、中立保持弁60のメータアウト開口、及び減速側ポンプ通路30Bpを介して旋回用油圧ポンプ10に供給され、旋回用油圧ポンプ10を回転させる。すなわち、上部旋回体1の旋回減速期間においては、上部旋回体1の慣性エネルギーが旋回用油圧モータ20の回転エネルギーに変換される。旋回用油圧モータ20の回転エネルギーは、作動油の流体エネルギーに変換させる。作動油の流体エネルギーは、旋回用油圧ポンプ10の回転エネルギーに変換される。このように、上部旋回体1の旋回減速期間においては、旋回用油圧モータ20が油圧ポンプとして機能し、旋回用油圧ポンプ10が油圧モータとして機能する。上部旋回体1の慣性エネルギーは、旋回用油圧ポンプ10の回転エネルギーに回生される。すなわち、本実施形態においては、上部旋回体1の旋回減速期間において、中立保持弁60を介して旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10に供給された作動油により、旋回用油圧ポンプ10において回生エネルギー(回転エネルギー)が発生する。
【0046】
図3に示すように、例えば作業機油圧シリンダ7が駆動される場合、作業機油圧ポンプ8は、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーの少なくとも一部を、パワーテイクオフ13を介して吸収する。作業機油圧ポンプ8は、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーに基づいて駆動することができる。同様に、例えばファンが高回転で駆動される場合、補機油圧ポンプ9は、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーの少なくとも一部を、パワーテイクオフ13を介して吸収する。補機油圧ポンプ9は、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーに基づいて駆動することができる。本実施形態において、作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9の少なくとも一方は、パワーテイクオフ13に連結され、中立保持弁60のメータアウト開口を介して旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10に供給された作動油により発生する回生エネルギーを吸収する回生エネルギー吸収機器として機能する。作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9の少なくとも一方が回生エネルギーを消費した場合、エンジン3の回転数が過度に高くなるオーバラン現象の発生が抑制される。
【0047】
図4に示すように、例えば作業機油圧シリンダ7及びファンが駆動されない場合又は駆動量が小さい場合、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーのうち作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9のそれぞれが消費する消費エネルギーの割合は小さい。作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9のそれぞれが消費する回生エネルギーが少ない場合又は回生エネルギーを消費しない場合、エンジン3の回転数が過度に高くなるオーバラン現象が発生する可能性がある。
【0048】
そこで、本実施形態においては、旋回用油圧ポンプ10で発生した回生エネルギーが作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9のそれぞれで消費される消費エネルギーを上回る状況が発生した場合、コントローラ40は、旋回用油圧ポンプ10において発生する回生エネルギーが抑制されるように、中立保持弁60のメータアウト開口を小さくする。中立保持弁60のメータアウト開口が小さくなることにより、減速側モータ通路30Bmと減速側ポンプ通路30Bpとの圧力差が大きくなり、作動油の流体エネルギーは、中立保持弁60において熱エネルギーに変換される。すなわち、回生エネルギーの一部が中立保持弁60において消費される。そのため、回生エネルギー吸収機器が消費する消費エネルギーが小さくなる状況が生じても、中立保持弁60において回生エネルギーの一部が消費される。そのため、エンジン3の回転数が過度に高くなるオーバラン現象の発生が抑制される。
【0049】
図5は、本実施形態に係るコントローラ40を示す機能ブロック図である。コントローラ40は、第1ポンプ圧力センサ14A、第2ポンプ圧力センサ14B、第1モータ圧力センサ15A、第2モータ圧力センサ15B、作業機ポンプ圧力センサ16、補機ポンプ圧力センサ17、旋回速度センサ18、及びエンジン回転数センサ19のそれぞれと接続される。また、コントローラ40は、旋回用油圧ポンプ10(容量制御用電磁比例弁41A,41B)及び中立保持弁60(中立保持用電磁比例弁42A,42B)のそれぞれに接続される。
【0050】
コントローラ40は、状態量取得部40Aと、バルブ制御部40Bと、記憶部40Cとを有する。
【0051】
状態量取得部40Aは、回生エネルギー吸収機器の状態を示す状態量を取得する。本実施形態において、回生エネルギー吸収機器は、パワーテイクオフ13に連結され、エンジン3により駆動される機器油圧ポンプを含む。機器油圧ポンプは、作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9の少なくとも一方を含む。本実施形態において、旋回用油圧ポンプ10が発生する回生エネルギーは、旋回用油圧ポンプ10が発生する回生トルクTrを含む。状態量は、機器油圧ポンプの消費トルクTdを含む。本実施形態において、状態量取得部40Aは、機器油圧ポンプの消費トルクTdを算出する。
【0052】
バルブ制御部40Bは、回生エネルギー吸収機器の状態に基づいて、中立保持弁60のメータアウト開口の面積を制御する。本実施形態において、バルブ制御部40Bは、状態量取得部40Aにより算出された機器油圧ポンプの状態量に基づいて、中立保持弁60のメータアウト開口を制御する。上述のように、本実施形態において、状態量は、機器油圧ポンプの消費トルクTdを含む。バルブ制御部40Bは、回生トルクTrが消費トルクTdを上回る場合、中立保持弁60のメータアウト開口の面積を小さくする。
【0053】
図6は、本実施形態に係るコントローラ40を示すブロック図である。コントローラ40は、コンピュータシステム1000を含む。コンピュータシステム1000は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ1001と、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリ1002と、ストレージ1003と、入出力回路を含むインターフェース1004とを有する。コントローラ40の機能は、コンピュータプログラムとしてストレージ1003に記憶されている。プロセッサ1001は、コンピュータプログラムをストレージ1003から読み出してメインメモリ1002に展開し、コンピュータプログラムに従って上述の処理を実行する。なお、コンピュータプログラムは、ネットワークを介してコンピュータシステム1000に配信されてもよい。
【0054】
図7は、本実施形態に係る油圧ショベル100の制御方法を示すフローチャートである。
【0055】
状態量取得部40Aは、旋回用油圧ポンプ10で発生する回生トルクTrを算出する。状態量取得部40Aは、旋回用油圧ポンプ10とは別の機器油圧ポンプである作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9の消費トルクTdを算出する(ステップSA1)。
【0056】
回生トルクTrは、以下の(1)式で表される。
【0057】
【0058】
(1)式において、Psmは減速側モータ通路30Bmの圧力、Swは上部旋回体1の旋回速度、geは旋回減速比、enはエンジン3の回転数、ηsは旋回用油圧ポンプ10のポンプ効率である。圧力Psmは、第2モータ圧力センサ15Bにより検出される。旋回速度Swは、旋回速度センサ18により検出される。旋回減速比geは、油圧ショベル100の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。エンジン3の回転数は、エンジン回転数センサ19により検出される。ポンプ効率ηsは、旋回用油圧ポンプ10の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。
【0059】
消費トルクTdは、以下の(2)式で表される。
【0060】
【0061】
(2)式において、Tmは作業機油圧ポンプ8が吸収する吸収トルク(消費トルク)、Tfは補機油圧ポンプ9が吸収する吸収トルク(消費トルク)、Teはエンジン連れ回りトルクである。
【0062】
吸収トルクTm及び吸収トルクTfは、以下の(3)式及び(4)式で表される。
【0063】
【0064】
【0065】
(3)式において、Pmは作業機油圧ポンプ8から吐出される作動油の圧力、qmは作業機油圧ポンプ8の容量、ηmは作業機油圧ポンプ8のポンプ効率である。圧力Pmは、作業機ポンプ圧力センサ16により検出される。容量qmは、コントローラ40から作業機油圧ポンプ8に出力されるポンプ容量指令信号に基づいて決定される。ポンプ効率ηmは、作業機油圧ポンプ8の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。状態量取得部40Aは、作業機ポンプ圧力センサ16の検出データから導出される圧力Pmと、ポンプ容量指令信号から導出される容量qmと、記憶部40Cに記憶されているポンプ効率ηmとに基づいて、吸収トルクTmを算出することができる。なお、
図2に示すように、作業機油圧ポンプ8の斜板の傾転角を検出する斜板角センサ8Sが作業機油圧ポンプ8に設けられている場合、斜板角センサ8Sの検出データから容量qmが導出されてもよい。
【0066】
(4)式において、Pfは補機油圧ポンプ9から吐出される作動油の圧力、qfは補機油圧ポンプ9の容量、ηfは補機油圧ポンプ9のポンプ効率である。圧力Pfは、補機ポンプ圧力センサ17により検出される。容量qfは、コントローラ40から補機油圧ポンプ9に出力されるポンプ容量指令信号に基づいて決定される。ポンプ効率ηfは、補機油圧ポンプ9の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。状態量取得部40Aは、補機ポンプ圧力センサ17の検出データから導出される圧力Pfと、ポンプ容量指令信号から導出される容量qfと、記憶部40Cに記憶されているポンプ効率ηfとに基づいて、吸収トルクTfを算出することができる。なお、
図2に示すように、補機油圧ポンプ9の斜板の傾転角を検出する斜板角センサ9Sが補機油圧ポンプ9に設けられている場合、斜板角センサ9Sの検出データから容量qfが導出されてもよい。
【0067】
エンジン連れ回りトルクTeは、エンジン3の回転数enに応じて定められるエンジン3の固有データである。エンジン3の回転数enとエンジン連れ回りトルクTeとの関係を示すエンジン相関データが記憶部40Cに記憶されている。状態量取得部40Aは、記憶部40Cに記憶されているエンジン相関データとエンジン3の回転数enとに基づいて、エンジン連れ回りトルクTeを算出することができる。
【0068】
状態量取得部40Aは、回生余剰トルクTsを算出する(ステップSA2)。
【0069】
回生余剰トルクTsは、以下の(5)式で表される。
【0070】
【0071】
バルブ制御部40Bは、ステップS2で算出された回生余剰トルクTsが0以上か否かを判定する。すなわち、バルブ制御部40Bは、回生トルクTrが消費トルクTdを上回るか否かを判定する(ステップSA3)。
【0072】
ステップS3において、回生トルクTrが消費トルクTdを上回らないと判定した場合(ステップSA3:No)、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60のメータアウト開口の大きさを維持する。メータアウト開口は、例えば全開状態に維持される。
【0073】
ステップSA3において、回生トルクTrが消費トルクTdを上回ると判定した場合(ステップSA3:No)、バルブ制御部40Bは、オーバラン現象の発生を抑制するオーバラン防止制御を開始する。オーバラン防止制御において、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60の目標メータアウト圧損ΔPrを算出する(ステップSA4)。
【0074】
目標メータアウト圧損ΔPrは、以下の(6)式で表される。
【0075】
【0076】
次に、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60の目標メータアウト開口面積Arを算出する(ステップSA5)。
【0077】
図8は、本実施形態に係る目標メータアウト開口面積Arの算出方法を説明するための図である。
図8において、Psmは減速側モータ通路30Bmの圧力、Pspは減速側ポンプ通路30Bpの圧力、Swは上部旋回体1の旋回速度、qsは旋回用油圧モータ20の容量、geは旋回速度比、cは中立保持弁60の流量係数である。圧力Psmは、第2モータ圧力センサ15Bにより検出される。圧力Pspは第2ポンプ圧力センサ14Bにより検出される。旋回速度Swは、旋回速度センサ18により検出される。qsは、旋回用油圧モータ20の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。旋回減速比geは、油圧ショベル100の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。流量係数cは、中立保持弁60の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている。
【0078】
目標メータアウト圧損ΔPrと、圧力Psmと圧力Pspとの差との偏差量に基づいてPID制御が実施されることにより、中立保持弁60の上流側の減速側モータ通路30Bmと下流側の減速側ポンプ通路30Bpとの差圧ΔPが算出される。また、旋回速度Swと旋回用油圧モータ20の容量qmと旋回減速比geが積算されることにより旋回流量Qsが算出される。目標メータアウト開口面積Arは、以下の(7)式で表される。
【0079】
【0080】
バルブ制御部40Bは、メータアウト開口面積Aが目標メータアウト開口面積Arになるように、中立保持弁60を制御する(ステップSA6)。
【0081】
中立保持弁60のスプールは、中立保持用電磁比例弁42A,42Bを介して与えられるパイロット圧によって移動する。メータアウト開口面積Aとスプールの移動量との関係を示す第1相関データは、記憶部40Cに予め記憶されている。また、スプールの移動量と中立保持用電磁比例弁42A,42Bに与える指令電流との関係を示す第2相関データも、記憶部40Cに予め記憶されている。バルブ制御部40Bは、第1相関データ及び第2相関データに基づいて、メータアウト開口面積Aが目標メータアウト開口面積Arになるように、中立保持用電磁比例弁42A,42Bを制御する制御信号を出力する。
【0082】
図9は、本実施形態に係る油圧ショベル100の制御方法を示すタイムチャートである。
図9において、時点taにおいて操作レバー43の操作が開始される。時点tcにおいて操作レバー43の操作が解除される。時点taから時点tbは、上部旋回体1の旋回速度が増加する旋回加速期間である。時点tbから時点tcは、上部旋回体1の旋回速度が一定の旋回定常期間である。時点tcから時点teは、上部旋回体1の旋回速度が減少する旋回減速期間である。
【0083】
旋回加速期間においては、旋回速度Sw及び旋回用油圧ポンプ10の容量が徐々に上昇する。また、旋回加速期間においては、加速側ポンプ通路30Apの圧力及び加速側モータ通路30Amの圧力が高くなる。旋回定常期間においては、旋回速度Sw及び旋回用油圧ポンプ10の容量は、一定である。また、旋回定常期間においては、加速側ポンプ通路30Apの圧力及び加速側モータ通路30Amの圧力は、旋回加速期間のときの圧力よりも低くなる。旋回加速期間及び旋回定常期間においては、減速側モータ通路30Bmの圧力及び減速側ポンプ通路30Bpの圧力は、低い。
【0084】
時点tcにおいてオーバラン防止制御が開始される。時点tcにおいて旋回用油圧ポンプ10に回生トルクTrが発生する。バルブ制御部40Bは、中立保持弁60のメータアウト開口面積Aが小さくなるように、中立保持弁60のスプールを移動する。
【0085】
時点tcにおいて旋回減速期間が開始されると、減速側モータ通路30Bmの圧力が上昇する。オーバラン防止制御によりメータアウト開口面積Aが小さくなると、中立保持弁60において圧損が生じ、減速側ポンプ通路30Bpの圧力が減速側モータ通路30Bmの圧力よりも低くなる。作動油の流体エネルギーの一部は、中立保持弁60において熱エネルギーに変換産される。そのため、旋回用油圧ポンプ10において発生する回生エネルギー(回生トルクTr)は小さくなる。
【0086】
オーバラン防止制御が実施されない場合、時点tcにおいて回生トルクTrが急激に上昇し、旋回速度の減少に伴って回生トルクTrも徐々に減少する。オーバラン防止制御が実施されない場合、回生トルクTrは消費トルクTdを上回ってしまう。本実施形態においては、オーバライン防止制御が実施されるので、回生トルクTrの最大値は、消費トルクTdを上回らない。また、オーバラン防止制御が実施されると、時点tcから時点tdの期間において、エンジン3の回転数は上昇しない。時点tdにおいて、旋回速度が低下し、回生トルクTrが消費トルクTdを下回るので、オーバラン防止制御が終了する。すなわち、メータアウト開口面積Aが大きくなる。
【0087】
以上説明したように、本実施形態によれば、旋回用油圧ポンプ10と旋回用油圧モータ20とを含むように作動油の閉回路が構成されている場合、上部旋回体1の旋回が減速すると、旋回用油圧モータ20から旋回用油圧ポンプ10に供給された作動油により旋回用油圧ポンプ10において回生エネルギーが発生する。これにより、パワーテイクオフ13を介して旋回用油圧ポンプ10に連結されている回生エネルギー吸収機器である作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9は、回生エネルギーを吸収して駆動することができる。回生エネルギー吸収機器が回生エネルギーを吸収していない場合又は吸収している回生エネルギーが少ない場合、回生エネルギー吸収機器の状態に基づいて中立保持弁60のメータアウト開口の面積が小さくなるように中立保持弁60が制御される。メータアウト開口の面積が小さくなることにより、回生エネルギーの一部は中立保持弁60において熱エネルギーに変換される。そのため、エンジン3の回転数が過度に高くなるオーバラン現象の発生が抑制される。
【0088】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。第2実施形態において、上述の第1実施形態と同一構成要素については同一の符号を付し、その構成要素の説明を簡略又は省略する。
【0089】
上述の第1実施形態においては、回生エネルギー吸収機器が機器油圧ポンプ(作業機油圧ポンプ8及び補機油圧ポンプ9)であり、状態量が消費トルクTdであることとした。また、回生トルクTrが消費トルクTdを上回った場合にオーバラン防止制御が実施されることとした。第2実施形態においては、回生エネルギー吸収機器がエンジン3であり、状態量がエンジン3の回転数Neであり、エンジンの回転数Neが許容回転数Nmを上回った場合にオーバラン防止制御が実施される例について説明する。
【0090】
図10は、本実施形態に係る油圧ショベル100の制御方法を示すフローチャートである。
【0091】
状態量取得部40Aは、エンジン3の回転数Ne及び許容回転数Nmを取得する。エンジン3の回転数Neは、エンジン回転数センサ19により検出される。許容回転数Nmは、エンジン3の固有データであり記憶部40Cに予め記憶されている(ステップSB1)。
【0092】
状態量取得部40Aは、オーバラン回転数Noを算出する(ステップSB2)。
【0093】
オーバラン回転数Noは、以下の(8)式で表される。
【0094】
【0095】
バルブ制御部40Bは、ステップSB2で算出したオーバラン回転数Noが0以上か否かを判定する。すなわち、バルブ制御部40Bは、エンジン3の回転数Neが許容回転数Nmを上回るか否かを判定する(ステップSB3)。
【0096】
ステップSB3において、エンジン3の回転数Neが許容回転数Nmを上回らないと判定された場合(ステップSB3:No)、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60のメータアウト開口面積Aを維持する。
【0097】
ステップSB3において、エンジン3の回転数Neが許容回転数Nmを上回ると判定された場合(ステップSB3:No)、オーバラン防止制御が開始される。オーバラン防止制御において、バルブ制御部40Bは、回生制限トルクTlを算出する(ステップSB4)。
【0098】
図11は、本実施形態に係る回生制限トルクTlの算出方法を説明するための図である。
図11において、エンジン3の回転数Neと許容回転数Nmとの差と0とのうち大きい方の値に基づいてPID制御が実施されることにより、回生制限トルクTlが算出される。
【0099】
バルブ制御部40Bは、中立保持弁60の目標メータアウト圧損ΔPrを算出する(ステップSB5)。
【0100】
目標メータアウト圧損ΔPrは、以下の(9)式で表される。
【0101】
【0102】
次に、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60の目標メータアウト開口面積Arを算出する(ステップSB6)。
【0103】
図8を参照して説明したように、バルブ制御部40Bは、中立保持弁60の上流側の減速側モータ通路30Bmと下流側の減速側ポンプ通路30Bpとの差圧ΔPを算出する。目標メータアウト開口面積Arは、上述の(7)式で表される。
【0104】
バルブ制御部40Bは、メータアウト開口面積Aが目標メータアウト開口面積Arになるように、中立保持弁60を制御する(ステップSB7)。
【0105】
上述の第1実施形態と同様、バルブ制御部40Bは、メータアウト開口面積Aが目標メータアウト開口面積Arになるように、中立保持用電磁比例弁42A,42Bを制御する制御信号を出力する。
【0106】
図12は、本実施形態に係る油圧ショベル100の制御方法を示すタイムチャートである。
図12において、時点taにおいて操作レバー43の操作が開始される。時点tcにおいて操作レバー43の操作が解除される。時点taから時点tbは、上部旋回体1の旋回速度が増加する旋回加速期間である。時点tbから時点tcは、上部旋回体1の旋回速度が一定の旋回定常期間である。時点tcから時点teは、上部旋回体1の旋回速度が減少する旋回減速期間である。
【0107】
旋回加速期間においては、加速側ポンプ通路30Apの圧力及び加速側モータ通路30Amの圧力が高くなる。旋回定常期間においては、加速側ポンプ通路30Apの圧力及び加速側モータ通路30Amの圧力が小さくなる。旋回加速期間及び旋回定常期間においては、減速側モータ通路30Bmの圧力及び減速側ポンプ通路30Bpの圧力は、低い。
【0108】
時点tcにおいてオーバラン防止制御が開始される。時点tcにおいてエンジン3の回転数Neが上昇する。バルブ制御部40Bは、エンジン3の回転数Neと許容回転数Nmとに基づいて、回生制限トルクTlを算出する。バルブ制御部40Bは、回生制限トルクTlに応じてメータアウト開口面積Aを小さくして、差圧ΔP(圧損)を発生させる。
【符号の説明】
【0109】
1…上部旋回体、2…下部走行体、3…エンジン、4…旋回減速機、4a…出力ギヤ、5…旋回リング、6…作業機、6a…ブーム、6b…アーム、6c…バケット、7…作業機油圧シリンダ、7a…ブームシリンダ、7b…アームシリンダ、7c…バケットシリンダ、8…作業機油圧ポンプ、8S…斜板角センサ、9…補機油圧ポンプ、9S…斜板角センサ、10…旋回用油圧ポンプ、10a…第1吐出口、10b…第2吐出口、11…斜板、12…容量制御ユニット、121…容量制御シリンダ、121a…ピストンロッド、121b…内蔵バネ、122…容量制御弁、122a…給油ポート、13…パワーテイクオフ、14A…第1ポンプ圧力センサ、14B…第2ポンプ圧力センサ、15A…第1モータ圧力センサ、15B…第2モータ圧力センサ、16…作業機ポンプ圧力センサ、17…補機ポンプ圧力センサ、18…旋回速度センサ、19…エンジン回転数センサ、20…旋回用油圧モータ、20a…第1吸込口、20b…第2吸込口、21…出力軸、30A…第1主油通路、30Ap…加速側ポンプ通路、30Am…加速側モータ通路、30B…第2主油通路、30Bp…減速側ポンプ通路、30Bm…減速側モータ通路、40…コントローラ、40A…状態量取得部、40B…バルブ制御部、40C…記憶部、41A…容量制御用電磁比例弁、41B…容量制御用電磁比例弁、42A…中立保持用電磁比例弁、42B…中立保持用電磁比例弁、43…操作レバー、50…チャージユニット、51…チャージポンプ、52…低圧選択弁、53…チャージ通路、54…チャージ給油通路、55…チャージリリーフ弁、60…中立保持弁、60a…第1ポンプポート、60b…第2ポンプポート、60c…第1モータポート、60d…第2モータポート、70A…第1給油通路、70B…第2給油通路、71A…給油チェック弁、71B…給油チェック弁、80…レギュレータユニット、81…吸込油通路、82…調圧チェック弁、83…圧力制御弁、100…油圧ショベル、200…油圧システム、RX…旋回軸、T…油タンク。