(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148810
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】心電計測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20220929BHJP
【FI】
A61B5/256
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050628
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】島田 和明
(72)【発明者】
【氏名】松沼 悟
(72)【発明者】
【氏名】新谷 彩子
(72)【発明者】
【氏名】日野 吉晴
(72)【発明者】
【氏名】小原 浩志
(72)【発明者】
【氏名】吉本 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 祐介
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127LL02
4C127LL04
4C127LL13
4C127LL21
(57)【要約】
【課題】支持体に装着される電極体を人体に対して安定的に接触させて、継続的に明瞭な心電信号を計測できる心電計測装置を提供する。
【解決手段】心電計測装置は、容量結合型電極を構成する正負一対の電極体22・23と、人体に対してノイズ低減信号を入力する入力電極体24と、人体に巻回または着用、或いは人体を支持し、正負の電極体22・23および入力電極体24を人体に装着するための支持体9とを備えている。そして、各電極体22・23・24を、クッション性を有する電極ベース25を介して支持体9に支持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量結合型電極を構成する正負一対の電極体(22・23)と、
人体に対してノイズ低減信号を入力する入力電極体(24)と、
人体に巻回または着用、或いは人体を支持し、正負の電極体(22・23)および入力電極体(24)を人体に装着するための支持体(9)と、
を備え、
各電極体(22・23・24)が、クッション性を有する電極ベース(25)を介して支持体(9)に支持されていることを特徴とする心電計測装置。
【請求項2】
電極ベース(25)は、正電極体(22)が支持される第1電極台(37)と、負電極体(23)が支持される第2電極台(38)と、入力電極体(24)が支持される第3電極台(39)とを備えており、
第1から第3の電極台(37・38・39)はクッション性を有し、各電極台(37・38・39)がそれぞれ独立して支持体(9)に装着されている請求項1に記載の心電計測装置。
【請求項3】
電極ベース(25)は、第1から第3の電極台(37・38・39)が支持され、支持体(9)に装着される台座(40)を備えており、
台座(40)が、支持体(9)の形状に倣って変形可能に構成されている請求項2に記載の心電計測装置。
【請求項4】
支持体(9)が人体の胴部に巻回されるベルト体(10)であり、
このベルト体(10)に、各電極体(22・23・24)が電極ベース(25)を介して支持されている請求項1から3のいずれかひとつに記載の心電計測装置。
【請求項5】
支持体(9)が人体の上半身に着用される上衣(51)であり、
この上衣(51)に、各電極体(22・23・24)が電極ベース(25)を介して支持されている請求項1から3のいずれかひとつに記載の心電計測装置。
【請求項6】
支持体(9)が人体を支持する車両の3点式シートベルト装置のショルダーベルト(62)に取付けられるシートベルトパッド(61)であり、
このシートベルトパッド(61)に、各電極体(22・23・24)が電極ベース(25)を介して支持されている請求項1から3のいずれかひとつに記載の心電計測装置。
【請求項7】
各電極体(22・23・24)は、直線列状に並べて配されており、
各電極体(22・23・24)の並び方向を列方向と規定したとき、隣り合う電極体(22・23・24)の向かい合う縁部どうしの列方向の最短間隙が、10mm以上、50mm以下に設定されている請求項1から6のいずれかひとつに記載の心電計測装置。
【請求項8】
両電極体(22・23)で検出した電気信号を心電信号として出力する処理部(16)と、処理部(16)に駆動電力を供給する電源部(18)とを有し、
電源部(18)が、一次電池または二次電池で構成されている請求項1から7のいずれかひとつに記載の心電計測装置。
【請求項9】
各電極体(22・23・24)、処理部(16)、および電源部(18)が、支持体(9)に対して着脱可能に装着されている請求項8に記載の心電計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の拍動に係る心電信号を計測する心電計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、仕事や家事などを含む日常生活における心電信号を計測したいというニーズが高まっており、例えば特許文献1(発明の名称:生体センサベルト)では、計測対象者の生体データ(心電信号)を計測する装置が提案されている。特許文献1の生体センサベルトは、胴部に装着されるセンサベルト(支持体)と、同ベルトの内側面に取付けられ心電信号を検出する心電電極(電極体)などを備えている。センサベルトは帯状に形成されており、該センサベルトを胴部に巻き付けて装着することにより、肌面に心電電極を接触させ、日常生活における生体データを計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人体の胴部周面には凹凸があり、帯状のセンサベルトを胴部に巻き付けただけでは、胴部周面とセンサベルトとの間に隙間が形成されることが避けられない。そのため、センサベルトの内側面に心電電極を取付けた形態の特許文献1の生体センサベルトでは、心電電極の位置に前記隙間が形成されると、体表面に心電電極が接触しないおそれがある。また、胴部を捻じる等の動作をすると、胴部の筋肉の伸縮に応じて前記隙間の形成部位も動作に応じて変化するため、体表面に対する心電電極の接触度合いが刻々と変化する。このように体表面に対する心電電極の接触状態が不十分、あるいは接触度合いが変化すると心電信号の検出状態が安定せず、継続的に明瞭な心電信号を計測することが困難となる。
【0005】
本発明は、支持体に装着される電極体を人体に対して安定的に接触させて、継続的に明瞭な心電信号を計測できる心電計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の心電計測装置は、容量結合型電極を構成する正負一対の電極体22・23と、人体に対してノイズ低減信号を入力する入力電極体24と、人体に巻回または着用、或いは人体を支持し、正負の電極体22・23および入力電極体24を人体に装着するための支持体9とを備え、各電極体22・23・24が、クッション性を有する電極ベース25を介して支持体9に支持されていることを特徴とする。
【0007】
電極ベース25は、正電極体22が支持される第1電極台37と、負電極体23が支持される第2電極台38と、入力電極体24が支持される第3電極台39とを備えている。第1から第3の電極台37・38・39はクッション性を有し、各電極台37・38・39はそれぞれ独立して支持体9に装着されている。
【0008】
電極ベース25は、第1から第3の電極台37・38・39が支持され、支持体9に装着される台座40を備えている。台座40は、支持体9の形状に倣って変形可能に構成されている。
【0009】
支持体9が人体の胴部に巻回されるベルト体10であり、このベルト体10に、各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されている。
【0010】
支持体9が人体の上半身に着用される上衣51であり、この上衣51に、各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されている。
【0011】
支持体9が人体を支持する車両の3点式シートベルト装置のショルダーベルト62に取付けられるシートベルトパッド61であり、このシートベルトパッド61に、各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されている。
【0012】
各電極体22・23・24は、直線列状に並べて配されている。各電極体22・23・24の並び方向を列方向と規定したとき、隣り合う電極体22・23・24の向かい合う縁部どうしの列方向の最短間隙は、10mm以上、50mm以下に設定することが望ましい。
【0013】
両電極体22・23で検出した電気信号を心電信号として出力する処理部16と、処理部16に駆動電力を供給する電源部18とを有し、電源部18が一次電池または二次電池で構成されている。
【0014】
各電極体22・23・24、処理部16、および電源部18が、支持体9に対して着脱可能に装着されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、容量結合型電極を構成する正負一対の電極体22・23と、人体に対してノイズ低減信号を入力する入力電極体24と、人体を支持、或いは人体に巻回または着用され、正負の電極体22・23および入力電極体24を人体に装着するための支持体9とを備えるものとし、各電極体22・23・24は、クッション性を有する電極ベース25を介して支持体9に支持されるように構成した。これによれば、支持体9の装着状態において、支持体9と人体との間に介在する電極ベース25が隙間の形成を防止し、かつ電極ベース25が柔軟に変形して各電極体22・23・24を人体に沿わせることができるので、人体に対して各電極体22・23・24を確実に接触させて、入力電極体24でノイズ低減信号を入力しつつ正負の電極体22・23で電気信号を検知することができる。また、電極ベース25のクッション性から生じる弾性復元力を利用して、各電極体22・23・24を人体に向かって付勢することができるので、人体に対して各電極体22・23・24をより確実に接触させることができる。捻転等の動作をして人体の形状が変化した場合でも、人体の形状に追随して電極ベース25が変形するので、人体に対する各電極体22・23・24の接触状態は維持される。以上のように、本発明の心電計測装置によれば、各電極体22・23・24を人体に対して安定的に接触させることが可能となり、継続的に明瞭な心電信号を計測することが可能となる。
【0016】
電極ベース25は、正電極体22が支持される第1電極台37と、負電極体23が支持される第2電極台38と、入力電極体24が支持される第3電極台39とを備えている。そのうえで、クッション性を有する各電極台37・38・39がそれぞれ独立して支持体9に装着されていると、1個の電極台に3個の電極体22・23・24が支持されている形態に比べて、個々の電極台37・38・39がそれぞれ独立してクッション性を発揮し変形できるので、人体に対して各電極体22・23・24をさらに確実に接触させ、また接触状態を維持することが可能となる。
【0017】
電極ベース25は、第1から第3の電極台37・38・39が支持され、支持体9に装着される台座40を備えていると、台座40で個々の電極台37・38・39の相対位置が保持されるので、各電極台37・38・39を支持体9に個別に装着する場合に比べて、各電極体22・23・24の配設位置を的確に規定できる。また、台座40が支持体9の形状に倣って変形可能に構成されていると、支持体9とともに台座40が変形するので、台座40が各電極台37・38・39のクッション性を阻害することはない。
【0018】
支持体9が人体の胴部に巻回されるベルト体10であり、このベルト体10に各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されていると、ベルト体10を巻き付けるだけで各電極体22・23・24を胴部に配することができるので、長時間の心電信号の計測であっても計測対象者に与える負担を抑えることができる。また、行動が制限されることなく車両の運転中等の日常生活においても心電信号を計測できる利点もある。
【0019】
支持体9が人体の上半身に着用される上衣51であり、この上衣51に各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されていると、上衣51を着用するだけで各電極体22・23・24を胴部に配することができるので、長時間の心電信号の計測であっても計測対象者に与える負担を抑えることができる。また、行動が制限されることなく車両の運転中等の日常生活においても心電信号を計測できる利点もある。
【0020】
支持体9が人体を支持する車両の3点式シートベルト装置のショルダーベルト62に取付けられるシートベルトパッド61であり、このシートベルトパッド61に各電極体22・23・24が電極ベース25を介して支持されていると、車両のシートに着座した状態で3点式シートベルト装置を装着し、該3点式シートベルト装置にシートベルトパッド61を取り付けることにより、人体の胸部に各電極体22・23・24を配することができるので、車両の運行中における心電信号を計測することができる。
【0021】
各電極体22・23・24は、直線列状に並べて配されており、各電極体22・23・24の並び方向を列方向と規定したとき、隣り合う電極体22・23・24の向かい合う縁部どうしの列方向の最短間隙が、10mm以上、50mm以下に設定されていることが望ましい。前記最短間隙が10mm未満であると、隣り合う電極体22・23・24どうしが接触することによる心電信号の計測不良が生じるおそれがあり、また、前記最短間隙が50mmを超えると、各電極体22・23・24の配される領域が大きくなることによる装置の大型化を招来する。
【0022】
両電極体22・23で検出した電気信号を心電信号として出力する処理部16と、処理部16に駆動電力を供給する電源部18とを有し、電源部18が一次電池または二次電池で構成されていると、商用電源や車両に設置された電源から駆動電力を供給する場合に比べて、測定対象者の活動範囲に制限が加わることがないので、より計測対象者に与える負担を抑えつつ日常生活における心電信号の計測が可能となる。
【0023】
各電極体22・23・24、処理部16、および電源部18が、支持体9に対して着脱可能に装着されていると、支持体9から各電極体22・23・24、処理部16、および電源部18を分離できるので、支持体9を洗浄あるいは交換することができ、衛生的に心電計測装置2を使用することができる。また、電源部18が二次電池の場合には、充電時に支持体9から分離することで、支持体9が邪魔になることなく充電作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例1に係る心電計測装置の要部を示す横断平面図である。
【
図2】心電計測装置を含んで構築された心電計測システムの全体を示す概念図である。
【
図4】心電計測装置を展開した状態の正面図である。
【
図5】支持体から検出部を分離した状態を示す正面図である。
【
図6】心電計測装置の装着状態を示す正面図である。
【
図7】心電計測装置の装着状態における要部の横断平面図である。
【
図8】本発明の実施例2を示しており、心電計測装置の装着状態を示す正面図である。
【
図10】本発明の実施例3を示しており、心電計測装置の装着状態を示す正面図である。
【
図11】本発明の実施例4を示しており、心電計測装置の装着状態を示す正面図である。
【
図12】支持体を展開した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例1)
図1から
図7に、本発明に係る心電計測装置と、同計測装置を含んで構築される心電計測システムの実施例1を示す。本実施例における前後、左右、上下とは、
図1および
図4に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
図2において、心電計測システム1は、心電信号を計測する心電計測装置2と、心電計測装置2で得られた心電信号を記録するシステムサーバー(記録用のサーバー)3と、システムサーバー3に記録されている心電信号のデータを取得可能な端末装置4などで構成されている。システムサーバー3および端末装置4は、インターネット等の通信回線5に接続されており、相互に通信することができる。端末装置4はいわゆるノート型パソコンからなる。心電計測システム1は、複数台の心電計測装置2を含んで構成できる。
【0026】
図4に示すように心電計測装置2は、心電信号を計測する検出部8と、該検出部8を支持する支持体9とを備えており、本実施例の支持体9は、人体の胴部(以下、単に胴部という)に巻回できる左右方向に長い帯状に形成されたベルト体10からなる。ベルト体10は、長手方向に若干伸縮できる伸縮性を有しており、その右端後側に、雌型の面ファスナー12が固定され、ベルト体10の左端前側に、雄型の面ファスナー13が固定されている。雌雄の面ファスナー12・13を係合させることにより、ベルト体10の両端どうしを連結して胴部に巻回装着することができる。ベルト体10は、左右一対の肩ストラップ11を備えており、該肩ストラップ11でベルト体10が下方に位置ずれするのを防止できる。肩ストラップ11の長さは、調整できるように構成されている。
【0027】
図3に示すように検出部8は、人体の電気信号を検出する電極部15と、電極部15で検出された電気信号から心電信号を得る処理部16と、処理部16で得られた心電信号をシステムサーバー3に送信するために、通信回線5との無線通信を確立する無線通信部17と、処理部16および無線通信部17に駆動電力を供給する電源部18などを備える。
【0028】
無線通信部17は、IEEE802.15.1規格の無線通信機からなり、無線通信部17と無線通信が確立されたいわゆるスマートフォンからなる携帯端末19の携帯電話通信網を利用して、計測された心電信号が通信回線5を介してシステムサーバー3へと送信される(
図2参照)。なお、無線通信部17はセルラー方式の無線通信機で構成することもでき、この場合には無線通信部17と通信回線5との間で無線通信が確立できる。
【0029】
電源部18は、一次電池あるいは二次電池で構成することが好適であり、本実施例では電源部18を二次電池で構成した。なお、検出部8に電源部18の残量を報知する報知手段を設け、電源部18の残量が所定値以下になったときに、報知手段を駆動して測定対象者に電源部18の充電あるいは交換を促すことができる。本実施例のように無線通信部17が携帯端末19との間で無線通信を確立する形態の場合には、携帯端末19に電源部18の残量を表示することもできる。
【0030】
図1に示すように電極部15は、人体の電気信号を検出する正負一対の電極体22・23と、人体に対してノイズ低減信号を入力する入力電極体24と、各電極体22・23・24を支持する電極ベース25を備えており、これら電極体22・23・24は容量結合型電極として構成されている。容量結合型電極からなる電極体22・23・24によれば、各電極体22・23・24を肌面に直接接触させることなく、被服の上からであっても人体の電気信号を検出することができる。本実施例の各電極体22・23・24は、厚さ0.05mmのステンレス鋼板を一辺が50mmの角丸正方形状に切り出したものを使用している。なお、各電極体22・23・24は、可撓性の良好な素材で形成することが好ましく、ステンレス鋼板以外に、チタン板、銅板、表面に金メッキが施されたフレキシブルプリント基板、導電性ゴム板、導電性繊維からなる織布などで構成することもできる。また、各電極体22・23・24の形状は角丸正方形状に限らず、円形、楕円形あるいは多角形状に形成することもできる。
【0031】
図3において処理部16は、正負の電極体22・23で検出された電気信号を増幅して電圧変調アナログ信号(以下、単にアナログ信号という)からなる心電信号を出力する計装アンプ28と、計装アンプ28から出力される心電信号に含まれるノイズを除去するハイパスフィルタ29およびローパスフィルタ30と、ノイズ除去後の心電信号を増幅して出力する差動アンプ31と、アナログ信号からなる心電信号をデジタル信号からなる心電信号に変換するアナログ-デジタル変換部32などを備える。正電極体22は計装アンプ28の正入力端子に接続されており、負電極体23は計装アンプ28の負入力端子に接続されている。
【0032】
計装アンプ28は、正負の電極体22・23から入力された電気信号の同相信号を反転し、反転信号として出力する反転出力部33を備える。反転出力部33はフィードバックアンプ34の一方の入力端子に接続されている。フィードバックアンプ34の他方の入力端子には基準電圧回路が接続されており、フィードバックアンプ34の出力端子は、入力電極体24に接続される。電気信号の検出時において、計装アンプ28の反転出力部33は、計装アンプ28に入力された電気信号の同相信号が反転された反転信号を出力し、当該反転信号は、フィードバックアンプ34を介して入力電極体24から人体に入力(フィードバック)される。これにより、正負の電極体22・23で検出される電気信号の同相信号の影響を差動入力から除去することができるので、電極体22・23で検出される電気信号に含まれるノイズを所謂RLD(右足ドライブ)手法により低減することができる。
【0033】
図1に示すように電極ベース25は、正電極体22が支持される第1電極台37と、負電極体23が支持される第2電極台38と、入力電極体24が支持される第3電極台39と、これら第1から第3の電極台37・38・39が支持される台座40とを備えている。第1から第3の電極台37・38・39および台座40は、それぞれクッション性を有するウレタンスポンジで形成されている。各電極台37・38・39は各電極体22・23・24よりもひとまわり大きい前後に偏平な正方形ブロック状に形成されている。また、台座40は左右に長い前後に偏平な長方形ブロック状に形成されている。本実施例では、各電極台37・38・39および台座40は同厚、同弾力のウレタンスポンジで形成した。クッション性を有する素材で形成された第1から第3の電極台37・38・39および台座40によれば、電極ベース25への加圧に対して柔軟に変形し、さらにベルト体10の捻じれ変形に倣うように変形することが可能となる。
【0034】
電極部15における各電極体22・23・24は、電極部15の右側に正電極体22が配され、電極部15の左側に負電極体23が配され、電極部15の中央に入力電極体24が配された状態で直線列状に並べて設けられている。各電極体22・23・24の並び方向を列方向と規定したとき、隣り合う電極体22・24、23・24の向かい合う縁部どうしの列方向の最短間隙は、10mm以上、50mm以下に設定することが好ましく、本実施例では、隣り合う電極体22・24、23・24の間隙はそれぞれ10mmに設定した。
図1および
図4において符号41は、内部に処理部16、無線通信部17、および電源部18を収容するユニットケースであり、符号42は、各電極体22・23・24から処理部16に向かって導出されるリード線である。
【0035】
各電極体22・23・24は、電極部15の電極ベース25がベルト体10に装着されることにより、クッション性を有する電極ベース25を介してベルト体10に支持される。詳しくは、
図5に示すように、ベルト体10に対して電極部15は、台座40の後面に設けられた雄型の面ファスナー43とベルト体10の右端前面に設けられた雌型の面ファスナー44とを係合させることで装着される。逆に、雌雄の面ファスナー43・44の係合を解除することにより、電極部15はベルト体10から分離することができる。また、ベルト体10に対してユニットケース41は、その前面に設けられた雄型の面ファスナー45とベルト体10の雌型の面ファスナー12とを係合させることで装着される。逆に、雌雄の面ファスナー12・45の係合を解除することにより、ユニットケース41は、ベルト体10から分離することができる。以上より、電極部15(各電極体22・23・24)およびユニットケース41(処理部16、無線通信部17、電源部18)は、ベルト体10に対して着脱可能に装着されている。電極部15がベルト体10に装着されたとき、各電極体22・23・24は、該ベルト体10の長手方向に沿うように配される。
【0036】
ここで身体に対するベルト体10の装着方法を説明する。まず、ベルト体10の前面と背中とが正対する姿勢にしたベルト体10を背中側に位置させた状態で、右側(
図4向かって左側)の肩ストラップ11に右腕を通し、左側(
図4向かって右側)の肩ストラップ11に左腕を通して、両肩ストラップ11・11で身体の背中側でベルト体10を仮保持する。次いで、ベルト体10の右端を右脇下から前側に巻き付け、負電極体23と入力電極体24との間にみぞおちが位置するように、電極部15を左胸にあてがってベルト体10の右端を保持する。次いで、ベルト体10の左端を左脇下から前側に巻き付け、雌型の面ファスナー12に雄型の面ファスナー13を係合させ、胴部にベルト体10を巻回状に装着する。最後に、両肩ストラップ11・11の長さを調整してベルト体10の下方への位置ずれを防止することで、
図6に示すような形態でベルト体10の装着が完了する。
【0037】
計測対象者はベルト体10を装着することにより、各電極体22・23・24を胴部前側すなわち胸部に配することができ、計測対象者の行動や姿勢に関わらず心電信号が計測される。ベルト体10を胴部に装着した状態において、
図7に示すように電極ベース25は、同ベース25を構成する第1から第3の電極台37・38・39および台座40が備えるクッション性によりそれぞれが柔軟に変形して、胴部とベルト体10との間に隙間が形成されるのを防止しているので、各電極体22・23・24は胴部に対して密着状に接触する。
【0038】
正負の電極体22・23で検出された電気信号は、処理部16で処理され心電信号とされる。具体的には、検出された電気信号は、計装アンプ28で増幅(100倍)されたアナログ信号からなる心電信号に変換され、当該心電信号はハイパスフィルタ29およびローパスフィルタ30でラインノイズや干渉のノイズが除去され、さらに差動アンプ31で増幅(11倍)される。差動アンプ31で増幅されたアナログ信号からなる心電信号は、アナログ-デジタル変換部32でデジタル信号へと変換され、変換された心電信号は、無線通信部17を介して携帯端末19と通信回線5との間に確立された無線通信によってシステムサーバー3へと送信される。システムサーバー3は取得した心電信号を内蔵の格納部に記録し保管する。アナログ-デジタル変換部32では、アナログ信号からなる心電信号は、8ビットまたは16ビットのデジタル信号へと変換される。これは、のちの心電信号の波形解析を容易化すること、および無線通信における負荷を軽減することに依る。
【0039】
システムサーバー3に記録された心電信号は、端末装置4で取得することができる。端末装置4は取得した心電信号から心拍間隔を計測し、時間領域解析あるいは周波数領域解析をすることにより、波形や心拍変数から導き出される自律神経指標や交感神経指標などを算出することができる。また、心電信号から経時的な心拍数の変化を確認することもできる。例えばトラックやバスのドライバーに心電計測装置2を装着させて、運行中における心電信号を常時モニタリングすると、測定対象者の心電信号の監視を遠隔から行うことができるので、車両の運行中の心電信号を会社事務所等の遠隔場所で容易にチェックすることができる。心電信号に異常が検出されたときには、ドライバーに対して異常な状態が発生している旨を通知することができるので、体調の不良に起因する事故の発生等を事前に防ぐことが可能となる。
【0040】
本実施例のように無線通信部17が携帯端末19との間で無線通信を確立する形態では、上記のように心電信号のデータをそのままシステムサーバー3に送信し、端末装置4で上記のような心電信号の解析を行ってもよいし、また、携帯端末19で上記のような心電信号の解析を行って、解析結果をシステムサーバー3に送信してもよい。携帯端末19で心電信号のデータの解析を行う場合、心電信号および異常通知のデータの送受信を必要としないため、心電信号に異常が検出されるとタイムロスなく、異常発生を計測対象者に報知することができる。
【0041】
以上のように、本実施例の心電計測装置においては、各電極体22・23・24を、クッション性を有する電極ベース25を介してベルト体10(支持体9)に支持されるように構成したので、ベルト体10の装着状態において、ベルト体10と胴部との間に介在する電極ベース25が隙間の形成を防止し、かつ電極ベース25が柔軟に変形して各電極体22・23・24を胴部に沿わせることができるので、胴部に対して各電極体22・23・24を確実に接触させて、入力電極体24で的確にノイズ低減信号を入力しつつ正負の電極体22・23で電気信号を検知することができる。また、電極ベース25のクッション性から生じる弾性復元力を利用して、各電極体22・23・24を胴部に向かって付勢することができるので、胴部に対して各電極体22・23・24をより確実に接触させることができる。捻転等の動作をして胴部の形状が変化した場合でも、胴部の形状に追随して電極ベース25が変形するので、胴部に対する各電極体22・23・24の接触状態は維持される。したがって、本実施例の心電計測装置によれば、各電極体22・23・24を胴部に対して安定的に接触させることが可能となり、継続的に明瞭な心電信号を計測することが可能となる。
【0042】
電極ベース25は、正電極体22が支持される第1電極台37と、負電極体23が支持される第2電極台38と、入力電極体24が支持される第3電極台39とを備えるものとした。そのうえで、クッション性を有する第1から第3の電極台37・38・39をそれぞれ独立してベルト体10に装着したので、1個の電極台に3個の電極体22・23・24が支持されている形態に比べて、個々の電極台37・38・39がそれぞれ独立してクッション性を発揮し変形できるので、人体に対して各電極体22・23・24をさらに確実に接触させ、また接触状態を維持することが可能となる。
【0043】
電極ベース25は、第1から第3の電極台37・38・39を支持し、ベルト体10に装着される台座40を備えるものとしたので、台座40で個々の電極台37・38・39の相対位置を保持して、各電極台37・38・39を支持体9に直接装着する場合に比べて、各電極体22・23・24の配設位置を的確に規定できる。また、台座40をベルト体10の形状に倣って変形可能に構成したので、ベルト体10とともに台座40が変形するので、台座40が各電極台37・38・39のクッション性を阻害することはない。
【0044】
電極ベース25は、ベルト体10に装着され、第1から第3の電極台37・38・39が固定される台座40を備えるものとしたので、台座40で個々の電極台37・38・39の相対位置が保持されることにより、各電極台37・38・39をベルト体10に個別に装着する場合に比べて、各電極体22・23・24の配設位置を的確に規定できる。
【0045】
人体の胴部に巻回されるベルト体10に各電極体22・23・24を電極ベース25を介して支持したので、ベルト体10を巻き付けるだけで各電極体22・23・24を胴部に配することができ、長時間の心電信号の計測であっても計測対象者に与える負担を抑えることができる。また、行動が制限されることなく車両の運転中等の日常生活においても心電信号を計測できる利点もある。
【0046】
各電極体22・23・24は、直線列状に並べて配し、各電極体22・23・24の並び方向を列方向と規定したとき、隣り合う電極体22・23・24の向かい合う縁部どうしの列方向の最短間隙を、10mm以上、50mm以下に設定する。これは、前記最短間隙が10mm未満であると、隣り合う電極体22・23・24どうしが接触することによる心電信号の計測不良が生じるおそれがあるからであり、また、前記最短間隙が50mmを超えると、各電極体22・23・24の配される領域が大きくなることによる装置の大型化を招来するからである。
【0047】
両電極体22・23で検出した電気信号を心電信号として出力する処理部16と、処理部16に駆動電力を供給する電源部18とを有し、電源部18を二次電池で構成したので、商用電源や車両に設置された電源から駆動電力を供給する場合に比べて、測定対象者の活動範囲に制限が加わることがなく、より計測対象者に与える負担を抑えつつ日常生活における心電信号の計測が可能となる。
【0048】
各電極体22・23・24、処理部16、および電源部18を、ベルト体10に対して着脱可能に装着したので、ベルト体10から各電極体22・23・24、処理部16、および電源部18を分離して、ベルト体10を洗浄あるいは交換することができ、衛生的に心電計測装置2を使用することができる。また、電源部18の充電時にベルト体10から分離することで、ベルト体10が邪魔になることなく充電作業を容易に行うことができる。
【0049】
また、この心電計測装置を心電信号の計測に用いた場合、継続的に明瞭な心電信号を得ることができるので、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標3(すべての人に健康と福祉を)に貢献することができる。
【0050】
(実施例2)
図8および
図9に、本発明の実施例2を示す。本実施例では、支持体9をベスト(上衣)51として、このベスト51に検出部8を支持させた点が実施例1と相違する。ベスト51は後身頃52と左右の前身頃53・54とを備えており、左右の前身頃53・54はジッパー55で開閉することができる。左前身頃53の内側面には正電極体22と入力電極体24とが配され、右前身頃54の内側面には負電極体23が配されており、ベスト51を着用したとき、各電極体22・23・24は、上衣51の胴まわり方向に沿って並べて設けられる。本実施例では、各電極体22・23・24を左右の前身頃53・54に分けて配したので、電極ベース25(台座40)は左右2個に分割されている。符号56は、ベスト51の脇部に連結された左右一対の締付ベルトであり、各締付ベルト56の先端には雄型の面ファスナー57が設けられている。各締付ベルト56を背中側に引っ張り、後身頃52に設けられた雌型の面ファスナー58に係合させることにより、ベスト51の胴部分を締め付けることができるので、電極部15を胴部に押し付け、電極部15の位置ずれを抑制することができる。それ以外の点は、先の実施例1と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
以上のように、本実施例の心電計測装置2においては、人体の上半身に着用される上衣51に各電極体22・23・24を電極ベース25を介して支持したので、上衣51を着用するだけで各電極体22・23・24を胴部に配することができ、長時間の心電信号の計測であっても計測対象者に与える負担を抑えることができる。また、行動が制限されることなく車両の運転中等の日常生活においても心電信号を計測できる利点もある。
【0052】
(実施例3)
図10に、本発明の実施例3を示す。本実施例では、左右の前身頃53・54の周方向の長さを左前身頃53の方が長くなるようにベスト51を形成した点が実施例2と相違する。本実施例によれば、実施例2のように台座40を左右2個に分割する必要がないので、心電計測装置2を構成する部品点数を削減できる点で有利である。
【0053】
(実施例4)
図11および
図12に、本発明の実施例4を示す。本実施例では、支持体9を車両の3点式シートベルト装置に装着されるシートベルトパッド61として、このシートベルトパッド61に検出部8を支持させた点が実施例1と相違する。シートベルトパッド61は、3点式シートベルト装置のショルダーベルト62に巻き付け固定される上固定部63と、3点式シートベルト装置のラップベルト64に巻き付け固定される下固定部65と、上下の固定部63・65を連結する連結部66とを備えている。電極部15は、上固定部63の裏面側に固定されており、各電極体22・23・24はショルダーベルト62と重なるように並べて設けられる。
【0054】
車両のシートに着座し3点式シートベルト装置で身体を固定した状態で、同装置にシートベルトパッド61を装着することにより、各電極体22・23・24を胴部前側すなわち胸部に配することができ、計測対象者の心電信号の計測が可能となる。3点式シートベルト装置に対してシートベルトパッド61の上固定部63は、中途部でショルダーベルト62を巻き込むように折返し、ホック67を連結することで、ショルダーベルト62に固定される。同様に、下固定部65は、中途部でラップベルト64を巻き込むように折返し、ホック67どうしを連結することで、ラップベルト64に固定される。このように、シートベルトパッド61をショルダーベルト62およびラップベルト64に固定したので、シートベルトパッド61をショルダーベルト62のみに固定する形態に比べて、シートベルトパッド61の位置保持を的確に行うことができる。
【0055】
以上のように、本実施例の心電計測装置2においては、人体を支持する車両の3点式シートベルト装置のショルダーベルト62に取付けられるシートベルトパッド61に、各電極体22・23・24を電極ベース25を介して支持したので、車両のシートに着座した状態で3点式シートベルト装置を装着し、該3点式シートベルト装置にシートベルトパッド61を取り付けることにより、人体の胸部に各電極体22・23・24を配することができ、車両の運行中における心電信号を計測することができる。
【0056】
上記の実施例では、電極ベース25の第1から第3の電極台37・38・39と台座40とは、同厚、同弾力のウレタンスポンジで構成したが、異なる厚み、あるいは異なる弾力のウレタンスポンジで構成することができ、クッション性を有する素材であればウレタンスポンジ以外で構成することもできる。台座40は支持体9に倣って変形できればクッション性を有していなくてもよい。第1から第3の電極台37・38・39と台座40とは一体に形成することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 心電計測システム
2 心電計測装置
9 支持体
10 ベルト体
16 処理部
18 電源部
22 正電極体
23 負電極体
24 入力電極体
25 電極ベース
37 第1電極台
38 第2電極台
39 第3電極台
40 台座
51 上衣(ベスト)
61 シートベルトパッド
62 ショルダーベルト