(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148844
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】計測データ同期方法、試験方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01M17/007 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050670
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(71)【出願人】
【識別番号】591056927
【氏名又は名称】一般財団法人日本自動車研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利道
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健二
(72)【発明者】
【氏名】中條 智哉
(72)【発明者】
【氏名】大山 求明
(72)【発明者】
【氏名】羽二生 隆宏
(57)【要約】
【課題】複数の計測器から出力される時系列データを精度良く同期できる計測データ同期方法を提供すること。
【解決手段】計測データ同期方法は、第1~第5計測器から出力される時系列をデータ解析装置によって同期する方法であって、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に第1~第5計測器へ入力したときに、第1~第5計測器から出力される第1~第5基準データを取得するステップST1と、第1~第5基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、第1~第5フィルタ処理後データを生成するステップST3~ST5と、第1~第5フィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報として第1~第5立ち上がり時刻を算出するステップST6と、第1~第5立ち上がり時刻に基づいて第1~第5計測器から出力される第1~第5計測データを同期するステップST7と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計測器から出力される時系列データをコンピュータによって同期する計測データ同期方法であって、
定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器へ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである基準データを取得するステップと、
前記複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、複数のフィルタ処理後データを生成するステップと、
前記複数のフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得するステップと、
前記複数の立ち上がりタイミング情報に基づいて前記複数の計測器から出力される時系列データを同期するステップと、を備えることを特徴とする計測データ同期方法。
【請求項2】
前記フィルタ処理後データを生成するステップでは、前記フィルタ処理後データのうち前記定常区間に含まれる信号値が評価時間にわたり所定範囲内に収まるように前記時間幅を調整することを特徴とする請求項1に記載の計測データ同期方法。
【請求項3】
前記基準データを取得するステップでは、前記立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を前記基準信号として用い、
前記フィルタ処理後データを生成するステップでは、前記基準データに対し微分処理を施した後、前記メディアンフィルタ処理を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載の計測データ同期方法。
【請求項4】
前記立ち上がりタイミング情報を取得するステップでは、前記フィルタ処理後データにおいて信号値が所定の閾値を超える時刻を立ち上がり時刻として取得することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の計測データ同期方法。
【請求項5】
前記基準データを取得するステップでは、前記立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を前記基準信号として用い、
前記立ち上がりタイミング情報を取得するステップでは、前記フィルタ処理後データのうち前記立ち上がり区間内に含まれる複数の信号値に基づいて生成される一次関数の傾き及び切片を算出し、前記傾き及び前記切片に基づいて前記フィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の計測データ同期方法。
【請求項6】
複数の計測器から出力される時系列データをコンピュータによって同期させるためのコンピュータプログラムであって、
定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器へ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである基準データを取得するステップと、
定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器へ入力した場合に、各々から出力される時系列データを基準データとして取得するステップと、
前記複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、複数のフィルタ処理後データを生成するステップと、
前記複数のフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得するステップと、
前記複数の立ち上がりタイミング情報に基づいて前記複数の計測器から出力される時系列データを同期するステップと、を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項7】
複数の計測器から出力される時系列データをコンピュータで処理することによって供試体の性能を評価する試験方法であって、
定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器の各々の基準信号用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである基準データと、前記供試体の状態と相関のある信号を前記複数の計測器の各々の計測用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである計測データと、を取得するステップと、
前記複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、複数のフィルタ処理後データを生成するステップと、
前記複数のフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報取得するステップと、
前記複数の立ち上がりタイミング情報に基づいて前記複数の計測データを同期するステップと、
前記同期した複数の計測データに基づいて前記供試体の性能を評価するステップと、を備えることを特徴とする試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測データ同期方法、試験方法、及びコンピュータプログラムに関する。より詳しくは、複数の計測器から出力される時系列データをコンピュータによって同期する計測データ同期方法、試験方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池式電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド自動車、及びプラグインハイブリッド自動車等、電気エネルギを利用して走行する電動車両の開発が盛んである。電動車両におけるエネルギの流れは、走行中に目まぐるしく変化する。このため電動車両の性能を評価するための試験は、内燃機関で発生した動力のみによって走行する内燃機関車両の試験と比較して、より多くの計測器を必要としかつ手順も複雑である。例えばハイブリッド車両の試験では、車両の環境情報、速度、走行距離、電流、電圧、電力量、及び排ガス関連データ(排ガス濃度、排ガス流量等)等、様々なデータを取得するための複数の計測器が組み合わせて用いられる。
【0003】
電動車両の試験では、試験の内容に応じて各計測器を作動させるタイミングが異なる。また一般的に用いられる計測器には、他の計測器と同期して作動させる機能が無いものも多い。このため各計測器によって得られた複数の計測データをコンピュータによって解析するためには、複数の計測データを同期させるための前処理を予め行っておく必要がある。従来、このような計測データの同期はオペレータによる手作業で行っていたため、作業に時間がかかり、また試験結果にばらつきが生じるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで1次元の時系列データである各計測データから、例えば
図8に示すような信号の立ち上がり点を抽出することができれば、この立ち上がり点を基準として各計測データを同期させることができる場合がある。
【0006】
図8には、ステップ状の基準信号(細一点鎖線参照)を計測器に入力した場合における、計測器の出力(細実線参照)の一例を示す。また
図8には、細実線で示す計測データに対し、特許文献2に示す処理を施して得られる計測データを太破線で示す。
【0007】
図8において細実線で示すように、一般的に計測器の計測データには、高調波のノイズやオフセットが含まれているため、立ち上がり点を精度良く抽出することができない。そこで特許文献1に示すように、計測データに対し微分処理、積分処理、及びローパスフィルタを用いた高調波除去処理を施すことにより、計測データから高調波のノイズやオフセットを除去することが考えられる。しかしながら
図8において太破線で示すように、計測データに対しローパスフィルタを適用し、高周波成分を除去すると、立ち上がりが遅れてしまい、立ち上がり点を精度良く抽出することができず、ひいては計測データを精度良く同期させることができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、複数の計測器から出力される時系列データを精度良く同期できる計測データ同期方法、試験方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る計測データ同期方法は、複数の計測器(例えば、後述の計測器31~35)から出力される時系列データをコンピュータ(例えば、後述のデータ解析装置5)によって同期する方法であって、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器へ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである基準データを取得するステップと、前記複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、複数のフィルタ処理後データを生成するステップと、前記複数のフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得するステップと、前記複数の立ち上がりタイミング情報に基づいて前記複数の計測器から出力される時系列データを同期するステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)この場合、前記フィルタ処理後データを生成するステップでは、前記フィルタ処理後データのうち前記定常区間に含まれる信号値が評価時間にわたり所定範囲内に収まるように前記時間幅を調整することが好ましい。
【0011】
(3)この場合、前記基準データを取得するステップでは、前記立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を前記基準信号として用い、前記フィルタ処理後データを生成するステップでは、前記基準データに対し微分処理を施した後、前記メディアンフィルタ処理を施すことが好ましい。
【0012】
(4)この場合、前記立ち上がりタイミング情報を取得するステップでは、前記フィルタ処理後データにおいて信号値が所定の閾値を超える時刻を立ち上がり時刻として取得することが好ましい。
【0013】
(5)この場合、前記基準データを取得するステップでは、前記立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を前記基準信号として用い、前記立ち上がりタイミング情報を取得するステップでは、前記フィルタ処理後データのうち前記立ち上がり区間内に含まれる複数の信号値に基づいて生成される一次関数の傾き及び切片を算出し、前記傾き及び前記切片に基づいて前記フィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間を算出することが好ましい。
【0014】
(6)本発明に係る試験方法は、複数の計測器(例えば、後述の計測器31~35)から出力される時系列データをコンピュータ(例えば、後述のデータ解析装置5)で処理することによって供試体の性能を評価する方法であって、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に前記複数の計測器の各々の基準信号用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである基準データと、前記供試体の状態と相関のある信号を前記複数の計測器の各々の計測用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される時系列データである計測データと、を取得するステップと、前記複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことにより、複数のフィルタ処理後データを生成するステップと、前記複数のフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報取得するステップと、前記複数の立ち上がりタイミング情報に基づいて前記複数の計測データを同期するステップと、前記同期した複数の計測データに基づいて前記供試体の性能を評価するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明では、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に複数の計測器へ入力したときに各計測器から出力される時系列データである基準データを取得し、複数の基準データに対し所定の時間幅内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことによって複数のフィルタ処理後データを生成し、これらフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得し、これら立ち上がりタイミング情報に基づいて、複数の計測器から出力される時系列データを同期する。特に本発明では、各基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことにより、基準データに含まれる信号の立ち上がりに遅れを生じさせることなく高周波ノイズを除去することができる。よって本発明によれば、メディアンフィルタ処理を経て生成されたフィルタ処理後データを用いることにより、精度良く立ち上がりタイミング情報を取得できるので、各計測器から出力される時系列データを精度良く同期させることができる。
【0016】
(2)本発明では、フィルタ処理後データのうち定常区間に含まれる信号値が評価時間にわたり所定範囲内に収まるように、メディアンフィルタ処理における時間幅を調整することにより、立ち上がりに遅れを生じさせることなく、インパルス性ノイズのような突発的なノイズを適切に除去することができるので、結果として計測器の時系列データを精度良く同期させることができる、
【0017】
(3)本発明では、立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用い、基準データに対し微分処理を施した後、メディアンフィルタ処理を施すことによってフィルタ処理後データを生成する。これにより、各計測器の計測データにおける立ち上がりに遅れを生じさせることなく、これら計測データに含まれるオフセット成分を除去することができるので、結果として計測器の時系列データを精度良く同期させることができる。
【0018】
(4)本発明では、フィルタ処理後データにおいて信号値が所定の閾値を超える時刻を立ち上がり時刻として取得することにより、簡易な演算によって立ち上がり時刻を取得することができる。
【0019】
(5)本発明では、立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用い、フィルタ処理後データのうち立ち上がり区間内に含まれる複数の信号値に基づいて生成される一次関数の傾き及び切片を算出し、これら傾き及び切片に基づいてフィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間を算出する。本発明によれば、このようにして算出された立ち上がり箇所の遅れ時間を用いることにより、各計測器の時系列データをさらに精度良く同期させることができる。
【0020】
(6)本発明では、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に複数の計測器の各々の基準信号用チャンネルへ入力したときに各計測器から出力される時系列データである基準データと、供試体の状態と相関のある信号を複数の計測器の各々の計測用チャンネルへ入力したときに各計測器から出力される時系列データである計測データと、を取得する。また本発明では、複数の基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことによって複数のフィルタ処理後データを生成し、これらフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得し、これら立ち上がりタイミング情報に基づいて、複数の計測器から出力される時系列データを同期し、これら同期した複数の計測データに基づいて供試体の供試体の性能を評価する。特に本発明では、各基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことにより、基準データに含まれる信号の立ち上がりに遅れを生じさせることなく高周波ノイズを除去することができる。よって本発明によれば、メディアンフィルタ処理を経て生成されたフィルタ処理後データを用いることにより、精度良く立ち上がりタイミング情報を取得できるので、各計測器から出力される計測データを精度良く同期させることができ、ひいては精度良く供試体の性能を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る試験システムの構成を示す図である。
【
図3】計測データ同期方法及び試験方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図4】メディアンフィルタ処理の効果を説明するための図である。
【
図5】第1~第5フィルタ処理後データを同一の時間軸上にプロットしたものの一例である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る計測データ同期方法及び試験方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図7】第1及び第2フィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間を算出する手順を説明するための図である。
【
図8】ステップ状の基準信号を計測器に入力した場合における計測器の出力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る計測データ同期方法及び試験方法が適用された試験システムSの構成を示す図である。
【0023】
試験システムSは、二次電池式電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド自動車、及びプラグインハイブリッド自動車等、電気エネルギを利用して走行する電動車両Vを供試体とし、この電動車両Vの性能を評価する装置である。
【0024】
試験システムSは、電動車両Vが載置されるシャシダイナモメータシステム1と、電動車両Vの排気管から排出される排気が通流する希釈トンネル2と、電動車両V及び電動車両Vの近傍に取り付けられた複数のセンサの検出信号やシャシダイナモメータシステム1から送信される信号等に基づいて各種データを生成する計測器群3と、計測器群3によって生成されたデータを用いて各種演算を行うデータ解析装置5と、を備える。
【0025】
シャシダイナモメータシステム1は、その外周面において電動車両Vの駆動輪と接するように電動車両Vの下方に設けられた複数のローラ11と、これらローラ11に接続された複数のダイナモメータ12と、ローラ11上を走行する電動車両Vに適切な負荷が付与されるようにダイナモメータ12を制御する制御装置13と、を備える。
【0026】
電動車両Vの運転者は、図示しないドライバーズエイドに表示される運転パターン(例えば、車速パターン)に従って電動車両Vを運転する。
【0027】
計測器群3は、走行中の電動車両Vの状態と相関のある様々な物理量を計測する複数の計測器31,32,33,34,35と、これら計測器31~35によって計測されるデータを同期させるための基準信号を生成する基準信号生成装置38と、を備える。これら計測器31~35は、それぞれ、少なくとも計測用チャンネル及び基準信号用チャンネルを備える多チャンネルである。基準信号生成装置38は、各計測器31~35の基準信号用チャンネルに接続されている。基準信号生成装置38において生成した基準信号は、各計測器31~35の基準信号用チャンネルに入力される。
【0028】
第1計測器31は、主に電動車両Vの環境情報(例えば、室温、湿度、風速、及び大気圧等)を計測するための装置である。第1計測器31の計測用チャンネルには、上記環境情報を計測するために必要な各種センサが接続されている。第1計測器31は、基準信号用チャンネルに入力される基準信号の時系列データである第1基準データと、計測用チャンネルへの入力信号に基づいて生成した環境情報の時系列データでありかつ第1基準データと同期する第1計測データと、を含む第1データファイル31dを出力する。
【0029】
第2計測器32は、主に電動車両V及び外部電源の電力情報(例えば、電流、電圧、及び電力量等)を計測するための装置である。第2計測器32の計測用チャンネルには、上記電力情報を計測するために必要な各種センサが接続されている。第2計測器32は、基準信号用チャンネルに入力される基準信号の時系列データである第2基準データと、計測用チャンネルへの入力信号に基づいて生成した電力情報の時系列データでありかつ第2基準データと同期する第2計測データと、を含む第2データファイル32dを出力する。
【0030】
第3計測器33は、主に電動車両Vの走行情報(例えば、速度や走行距離等)や排ガス情報を計測するための装置である。第3計測器33の計測用チャンネルには、ダイナモメータシステム1の制御装置13や排ガス情報を計測するために必要な各種センサが接続されている。第3計測器33は、基準信号用チャンネルに入力される基準信号の時系列データである第3基準データと、計測用チャンネルへの入力信号に基づいて生成した走行情報や排ガス情報の時系列データでありかつ第3基準データと同期する第3計測データと、を含む第3データファイル33dを出力する。
【0031】
第4計測器34は、主に電動車両Vの車載コンピュータによって監視されるモニタ情報(例えば、バッテリのSOC等)を計測するための装置である。第4計測器34の計測用チャンネルには、電動車両Vの車載コンピュータに接続されている。第4計測器34は、基準信号用チャンネルに入力される基準信号の時系列データである第4基準データと、計測用チャンネルへの入力信号に基づいて生成したモニタ情報の時系列データでありかつ第4基準データと同期する第4計測データと、を含む第4データファイル34dを出力する。
【0032】
第5計測器35は、主に電動車両Vの排ガス情報を計測するための装置である。第5計測器35の計測用チャンネルには、希釈トンネル2に設けられたセンサが接続されている。第5計測器35は、基準信号用チャンネルに入力される基準信号の時系列データである第5基準データと、計測用チャンネルへの入力信号に基づいて生成した排ガス情報の時系列データでありかつ第5基準データと同期する第5計測データと、を含む第5データファイル35dを出力する。
【0033】
基準信号生成装置38は、オペレータによる操作に応じて、少なくとも定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を生成し、各計測器31~35の基準信号用チャネルへ同時に入力する。本実施形態では、基準信号生成装置38は、オペレータによる手動操作に応じて基準信号を生成する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。基準信号生成装置38は、ドライバーズエイドの開始信号と連動して基準信号を生成してもよい。
【0034】
図2A及び
図2Bは、基準信号の一例を示す図である。
図2Aは、立ち上がり区間においてステップ状に変化する例を示し、
図2Bは、立ち上がり区間においてランプ状に変化する例を示す。
【0035】
図1に戻り、データ解析装置5は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理手段、データファイル31d~35dや各種プログラムを記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶手段、演算処理手段がプログラムを実行する上で一時的に必要とされるデータを格納するためのRAM(Random Access Memory)といった主記憶手段、オペレータが各種操作を行うキーボードといった操作手段、及びオペレータに各種情報を表示するディスプレイといった表示手段等のハードウェアによって構成されるコンピュータである。
【0036】
図3は、計測データ同期方法及び試験方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
図3のフローチャートに示す各ステップは、データ解析装置にインストールされたコンピュータプログラムを実行することによって実現される。
【0037】
始めにステップST1では、データ解析装置は、第1~第5計測器から出力される第1~第5データファイルを取得し、ステップST2へ移る。上述のように各データファイルは、基準信号を同時に第1~第5計測器の各々の基準信号用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される基準データと、電動車両の状態と相関のある信号を第1~第5計測器の各々の計測用チャンネルへ入力したときに、各計測器から出力される計測データと、を含む。なお以下では、
図2Bに示すように立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用いた場合について説明する。
【0038】
次にステップST2では、データ解析装置は、ステップST1で取得した第1~第5基準データに対し微分処理を施し、ステップST3へ移る。これにより第1~第5基準データの定常区間におけるオフセットが除去される。
【0039】
次にステップST3では、データ解析装置は、ステップST2における微分処理を経た第1~第5基準データに対し、所定の時間幅(2K+1)内の中央値を抽出するメディアンフィルタ処理を施すことによって、第1~第5フィルタ処理後データを生成し、ステップST4に移る。
【0040】
ここでメディアンフィルタ処理とは、1次元の時系列データであるフィルタ入力x(n)に対し(nは整数)、下記式(1)に示すように、時間幅2K+1(Kは、整数)内の中央値(x(n-K),…,x(n+K)のうちK+1番目に大きい値)を抽出し、1次元の時系列データであるフィルタ出力y(n)を出力する処理である。
y(n)=
MED[x(n-K),x(n-K+1),…,x(n),…,x(n+K)] (1)
【0041】
次にステップST4では、データ解析装置は、ステップST3において所定の時間幅(2K+1)の下で生成した第1~第5フィルタ処理後データのうち定常区間に含まれる信号値が所定の評価時間にわたり値0を中心とする正の上限値と負の下限値との間の範囲内(後述の
図4参照)に収まるか否かを判定する。データ解析装置は、ステップST4における判定結果がNOである場合には、整数Kの値をカウントアップすることによってメディアンフィルタ処理における時間幅を広げた後(ステップST5)、ステップST3に戻る。またデータ解析装置は、ステップST4における判定結果がYESである場合には、ステップST6に移る。
【0042】
図4は、ステップST3~ST5におけるメディアンフィルタ処理の効果を説明するための図である。
図4には、
図8と同様に、ステップ状の基準信号(細一点鎖線参照)を計測器の基準信号用チャンネルに入力した場合に、この計測器から出力される基準データ(細実線参照)の一例を示す。また
図4には、細実線で示す基準データに上記ステップST3~ST5に示す処理を施すことによって得られるフィルタ処理後データを太破線で示す。
【0043】
図4において細実線で示すように、第1~第5計測器から出力される第1~第5基準データには、高調波のノイズが含まれている。このため、ステップST3~ST5に示すように、定常区間に含まれる信号値が値0を中心とする正の上限値と負の下限値との間の所定範囲内に収まるようにメディアンフィルタ処理の時間幅(2K+1)を調整することにより、定常区間における信号値の変動を小さくすることができる。また
図4と
図8とを比較して明らかなように、本発明では基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことによってフィルタ処理後データを生成することにより、高調波ノイズを除去しながら、元の基準データに対し遅れを生じさせることなくフィルタ処理後データを生成することができる。
【0044】
図3に戻り、ステップST6では、データ解析装置は、ステップST4において算出された第1~第5フィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を算出し、ステップST7に移る。ここで立ち上がりタイミング情報とは、各フィルタ処理後データにおいて信号値が立ち上がるタイミングに関する情報である。
【0045】
図5は、第1~第5フィルタ処理後データを同一の時間軸上にプロットしたものの一例である。なお理解を容易にするため、
図5に示す例では、各フィルタ処理後データに含まれる高調波ノイズの図示を省略する。上述のように第1~第5計測器は同期して作動させていないため、各フィルタ処理後データにおける信号値の立ち上がりタイミングは不揃いである。
【0046】
ステップST6では、データ解析装置は、第1、第2、第3、第4、及び第5フィルタ処理後データにおいて信号値が
図5において破線で示す閾値を超える時刻である第1立ち上がり時刻t1、第2立ち上がり時刻t2、第3立ち上がり時刻t3、第4立ち上がり時刻t4、及び第5立ち上がり時刻t5を立ち上がりタイミング情報として算出する。従って
図5に示す例では、第2基準データを時間(t2-t1)だけ進めることにより、第2基準データと第1基準データとを同期させることができ、第3基準データを時間(t1-t3)だけ遅らせることにより、第3基準データと第1基準データとを同期させることができ、第4基準データを時間(t4-t1)だけ進めることにより、第4基準データと第1基準データとを同期させることができ、第5基準データを時間(t1-t5)だけ遅らせることにより、第5基準データと第1基準データとを同期させることができる。
【0047】
図3に戻り、ステップST7では、データ解析装置は、ステップST6において算出した第1~第5立ち上がり時刻に基づいて、ステップST1において取得した第1~第5計測データを同期する。上述のように第1~第5基準データは、それぞれ第1~第5計測データと同期していることから、第1~第5立ち上がり時刻を用いることにより、これら第1~第5計測データを同期させることができる。
【0048】
次にステップST8では、データ解析装置は、ステップST7において同期した第1~第5計測データを用いて所定の演算を行うことにより、電動車両の性能を評価する。
【0049】
本実施形態に係る計測データ同期方法(
図3のステップST1~ST7)及び試験方法(
図3のステップST1~ST8)によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態では、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に第1~第5計測器へ入力したときに各計測器から出力される時系列データである第1~第5基準データを取得し、これら第1~第5基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことによって第1~第5フィルタ処理後データを生成し、これら第1~第5フィルタ処理後データの各々から第1~第5立ち上がり時刻を算出し、これら第1~第5立ち上がり時刻に基づいて、第1~第5計測器から出力される第1~第5計測データを同期する。特に本実施形態では、各基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことにより、各基準データに含まれる信号の立ち上がりに遅れを生じさせることなく高周波ノイズを除去することができる。よって本実施形態によれば、メディアンフィルタ処理を経て生成された第1~第5フィルタ処理後データを用いることにより、精度良く第1~第5立ち上がり時刻を取得できるので、第1~第5計測器から出力される第1~第5計測データを精度良く同期させることができる。
【0050】
(2)本実施形態では、第1~第5フィルタ処理後データのうち定常区間に含まれる信号値が評価時間にわたり所定範囲内に収まるように、メディアンフィルタ処理における時間幅を調整することにより、信号値の立ち上がりに遅れを生じさせることなく、インパルス性ノイズのような突発的なノイズを適切に除去することができるので、結果として第1~第5計測データを精度良く同期させることができる。
【0051】
(3)本実施形態では、立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用い、第1~第5基準データに対し微分処理を施した後、メディアンフィルタ処理を施すことによって第1~第5フィルタ処理後データを生成する。これにより、第1~第5計測器の第1~第5計測データにおける立ち上がりに遅れを生じさせることなく、これら第1~第5計測データに含まれるオフセット成分を除去することができるので、結果として第1~第5計測データを精度良く同期させることができる。
【0052】
(4)本実施形態では、第1~第5フィルタ処理後データにおいて信号値が所定の閾値を超える時刻を立ち上がり時刻として取得することにより、簡易な演算によって立ち上がり時刻を取得することができる。
【0053】
(5)本発明では、定常区間と立ち上がり区間とを含む基準信号を同時に複数の計測器の各々の基準信号用チャンネルへ入力したときに各計測器から出力される時系列データである基準データと、供試体の状態と相関のある信号を複数の計測器の各々の計測用チャンネルへ入力したときに各計測器から出力される時系列データである計測データと、を取得する。また本発明では、複数の基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことによって複数のフィルタ処理後データを生成し、これらフィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を取得し、これら立ち上がりタイミング情報に基づいて、複数の計測器から出力される時系列データを同期し、これら同期した複数の計測データに基づいて供試体の供試体の性能を評価する。特に本発明では、各基準データに対しメディアンフィルタ処理を施すことにより、基準データに含まれる信号の立ち上がりに遅れを生じさせることなく高周波ノイズを除去することができる。よって本発明によれば、メディアンフィルタ処理を経て生成されたフィルタ処理後データを用いることにより、精度良く立ち上がりタイミング情報を取得できるので、各計測器から出力される計測データを精度良く同期させることができ、ひいては精度良く供試体の性能を評価することができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態は、第1実施形態とデータ解析装置における処理の手順が異なる。
【0055】
図6は、本実施形態に係る計測データ同期方法及び試験方法の具体的な手順を示すフローチャートである。なお
図6におけるステップST11,ST17は、
図3におけるステップST1,ST8と同じであるので、詳細な説明を省略する。なお以下では、
図2Bに示すように立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用いた場合について説明する。
【0056】
ステップST12では、データ解析装置は、ステップST11で取得した第1~第5基準データに対し、式(1)を参照して説明したメディアンフィルタ処理を施すことによって、第1~第5フィルタ処理後データを生成し、ステップST13に移る。
【0057】
次にステップST13では、データ解析装置は、ステップST12において所定の時間幅(2K+1)の下で生成した第1~第5フィルタ処理後データのうち定常区間に含まれる信号値が所定の評価時間にわたり値0を中心とする正の上限値と負の下限値との間の範囲内(上述の
図4参照)に収まるか否かを判定する。データ解析装置は、ステップST13における判定結果がNOである場合には、整数Kの値をカウントアップすることによってメディアンフィルタ処理における時間幅を広げた後(ステップST14)、ステップST12に戻る。またデータ解析装置は、ステップST13における判定結果がYESである場合には、ステップST15に移る。すなわち本実施形態は、第1~第5基準データに対し、微分処理を施さずにメディアンフィルタ処理を施すことによって第1~第5フィルタ処理後データを生成する点において、第1実施形態と異なる。
【0058】
次にステップST15では、データ解析装置は、ステップST13において算出された第1~第5フィルタ処理後データの各々から立ち上がりタイミング情報を算出し、ステップST16に移る。より具体的には、データ解析装置は、第1~第5フィルタ処理後データから、各々の所定の基準に対する立ち上がり箇所の遅れ時間を立ち上がりタイミング情報として算出する。なお以下では、第1~第5フィルタ処理後データにおける立ち上がり箇所の遅れ時間を、それぞれ第1~第5遅れ時間という。
【0059】
図7は、第1及び第2フィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間Δt1,Δt2を算出する手順を説明するための図である。なお以下では、第1フィルタ処理後データを基準とした場合、すなわち第1遅れ時間Δt1を0とした場合について説明する。
【0060】
まず、データ解析装置は、各フィルタ処理後データから、立ち上がり区間内の信号値(
図7の例では、0よりもやや大きな値に定められた下限値とこの下限値よりも大きな値に定められた上限値との間に含まれる信号値)を抽出する。次にデータ解析装置は、各フィルタ処理後データの立ち上がり区間内の関数形を2つの係数(傾き及び切片)によって特徴付けられる一次関数によって近似するとともに、抽出した複数の信号値を用いて最小二乗法によって各一次関数の傾き及び切片を算出する。なお下記式(2-1)及び(2-2)には、第1及び第2フィルタ処理後データの立ち上がり区間の信号値(Y1,Y2)を時間(X1i,X2i)の一次関数として近似した例を示す。なお下記式(2-1)及び(2-2)において係数(a1,a2)は傾きであり、係数(b1,b2)は切片である。
Y1=a1・X1i+b1 (2-1)
Y2=a2・X2i+b2 (2-2)
【0061】
次にデータ解析装置は、各フィルタ処理後データから算出した傾き及び切片を用いることによって、所定の基準(本実施形態では、第1フィルタ処理後データ)に対する立ち上がり箇所の遅れ時間を算出する。より具体的には、第1フィルタ処理後データを基準とした場合、第2遅れ時間Δt2は、先に算出した傾き(a1,a2)及び切片(b1,b2)を用いて下記式(3)によって算出される。なお下記式(3)では、第2フィルタ処理後データの立ち上がり区間内における一次関数の傾き(a2)は、第1フィルタ処理後データの立ち上がり区間内における一次関数の傾き(a1)と等しいと仮定したが、本発明はこれに限らない。例えば各フィルタ処理後データの立ち上がり区間内における一次関数の傾きは、上述のように最小二乗法によって算出した各フィルタ処理後データの傾きの平均値としてもよい。
Δt2=(b2-b1)/a1 (3)
【0062】
図6に戻り、ステップST16では、データ解析装置は、ステップST15において算出した第1~第5遅れ時間に基づいて、ステップST11において取得した第1~第5計測データを同期する。上述のように第1~第5基準データは、それぞれ第1~第5計測データと同期していることから、第1~第5遅れ時間を用いることにより、これら第1~第5計測データを同期させることができる。すなわち、上述のように第1基準データを基準とした場合(第1遅れ時間を0とした場合)、第2~第5計測データを、それぞれ第2~第5遅れ時間だけ進ませることにより、これら第1~第5計測データを同期させることができる。
【0063】
本実施形態に係る計測データ同期方法(
図6のステップST11~ST16)及び試験方法(
図6のステップST11~ST17)によれば、以下の効果を奏する。
(6)本実施形態では、立ち上がり区間においてランプ状に変化する信号を基準信号として用い、フィルタ処理後データのうち立ち上がり区間内に含まれる複数の信号値に基づいて生成される一次関数の傾き及び切片を算出し、これら傾き及び切片に基づいてフィルタ処理後データの立ち上がり箇所の遅れ時間を算出する。本実施形態によれば、このようにして算出された立ち上がり箇所の遅れ時間を用いることにより、各計測器の時系列データをさらに精度良く同期させることができる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0065】
例えば、上記実施形態では、基準信号生成装置38によって生成した基準信号を各計測器31~35に入力した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、車速検出信号やドライバーズエイドから出力される車速指令信号を基準信号として各計測器31~35に入力してもよい。
【符号の説明】
【0066】
S…試験システム
V…電動車両(供試体)
1…シャシダイナモメータシステム
3…計測器群
31…第1計測器
31d…第1データファイル
32…第2計測器
32d…第2データファイル
33…第3計測器
33d…第3データファイル
34…第4計測器
34d…第4データファイル
35…第5計測器
35d…第5データファイル
38…基準信号生成装置
5…データ解析装置(コンピュータ)