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特開2022-148861冷凍魚肉の製造方法及び冷凍魚肉の変色抑制用包材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148861
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】冷凍魚肉の製造方法及び冷凍魚肉の変色抑制用包材
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20220929BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20220929BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23B4/06 501E
A23L17/00 B
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050695
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】進藤 穣
(72)【発明者】
【氏名】山本 渉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹雄
【テーマコード(参考)】
3E086
4B042
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA02
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB42
3E086CA25
4B042AC06
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG12
4B042AH01
4B042AP18
4B042AP30
4B042AW06
(57)【要約】
【課題】冷凍魚肉の血合肉の色調を維持できる冷凍魚肉の製造方法及び冷凍魚肉の変色抑制用包材を提供する。
【解決手段】冷凍魚肉の製造方法は、30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下の包材で魚肉を包装する包装ステップを含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下の包材で魚肉を包装する包装ステップを含む、
冷凍魚肉の製造方法。
【請求項2】
前記包材の30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度は、
1日あたり0.05cc/m以下である、
請求項1に記載の冷凍魚肉の製造方法。
【請求項3】
前記包装ステップでは、
前記包材内における前記魚肉の雰囲気中の酸素を除去して前記魚肉を包装する、
請求項1又は2に記載の冷凍魚肉の製造方法。
【請求項4】
前記魚肉は、
3枚又は2枚におろされた皮つきのフィレである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の冷凍魚肉の製造方法。
【請求項5】
前記魚肉における血合肉中のATP濃度は、
0.2mM以上である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の冷凍魚肉の製造方法。
【請求項6】
前記包材の水蒸気透過度は、
40℃かつ90%相対湿度において1日あたり2g/m以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の冷凍魚肉の製造方法。
【請求項7】
30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下のフィルムを備える、
冷凍魚肉の変色抑制用包材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍魚肉の製造方法及び冷凍魚肉の変色抑制用包材に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリ等の冷凍フィレは、冷凍保存中に血合肉の変色(褐変化)が進行し、その商品価値を失うことが課題として挙げられる。血合肉の変色の主な原因であるミオグロビンのメト化は、一酸化炭素処理で抑制できる。一酸化炭素処理では、魚肉の包装容器内を一酸化炭素ガス置換することで、ミオグロビンを一酸化炭素が配位したカルボキシミオグロビンに変化させる。しかし、カルボキシミオグロビンの色調は鮮やかなピンク色に近い赤色で、新鮮な血合肉の色調とは異なる。しかも、米国以外の欧州各国、アジア諸国、オーストラリア及びカナダ等の国では食品衛生法等で、魚肉への一酸化炭素の使用は禁止されている。
【0003】
特許文献1では、魚肉中のミオグロビンが酸素に触れるとメト化が急速に進むという知見に基づいて、一酸化炭素を使用せずに血合肉の変色を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-153418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、冷凍フィレがフィルムで包装される。冷凍フィレを通常の冷凍魚用フィルムで包装したうえで冷凍保存すると、表面に露出している血合肉の褐変化が抑制しにくいことが知られている。冷凍魚肉の血合肉の変色をさらに抑制できる技術が求められている。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、冷凍魚肉の血合肉の色調を維持できる冷凍魚肉の製造方法及び冷凍魚肉の変色抑制用包材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る冷凍魚肉の製造方法は、
30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下の包材で魚肉を包装する包装ステップを含む。
【0008】
前記包材の30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度は、
1日あたり0.05cc/m以下である、
こととしてもよい。
【0009】
前記包装ステップでは、
前記包材内における前記魚肉の雰囲気中の酸素を除去して前記魚肉を包装する、
こととしてもよい。
【0010】
前記魚肉は、
3枚又は2枚におろされた皮つきのフィレである、
こととしてもよい。
【0011】
前記魚肉における血合肉中のATP濃度は、
0.2mM以上である、
こととしてもよい。
【0012】
前記包材の水蒸気透過度は、
40℃かつ90%相対湿度において1日あたり2g/m以下である、
こととしてもよい。
【0013】
本発明の第2の観点に係る冷凍魚肉の変色抑制用包材は、
30℃かつ70%相対湿度における酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下のフィルムを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷凍魚肉の血合肉の色調を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)及び(B)は、それぞれ対照のフィルム及び酸素難透過性フィルムで包装した、同一個体のブリ1から調製したフィレの冷凍状態での外観の経時変化を示す図である。
図2】(A)及び(B)は、それぞれ対照のフィルム及び酸素難透過性フィルムで包装した、同一個体のブリ2から調製したフィレの冷凍状態での外観の経時変化を示す図(その2)である。
図3】(A)及び(B)は、それぞれ対照のフィルム及び酸素難透過性フィルムで包装した、同一個体のブリ3から調製したフィレの冷凍状態での外観の経時変化を示す図(その3)である。
図4】(A)は包装開始から3か月後の対照のフィルムで包装したブリ1~3のフィレの冷凍状態での外観を示す図である。(B)は包装開始から3か月後の酸素難透過性フィルムで包装したブリ1~3のフィレの冷凍状態での外観を示す図である。
図5】(A)は同一個体のブリ1から調製し、対照のフィルム又は酸素難透過性フィルムで包装して4.5か月後に解凍したフィレの外観を示す図である。(B)は同一個体のブリ2から調製し、対照のフィルム又は酸素難透過性フィルムで包装して4.5か月後に解凍したフィレの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る冷凍魚肉の製造方法の対象となる魚種は、特に限定されないが、好ましくは、ブリ、カンパチ及びヒラマサ等のブリ類(Perciformes Carangidae Seriola)に属する魚種である。ブリ類の魚肉の特徴として、側面の中央部に赤褐色の血合肉が存在する。血合肉にはミオグロビンが高濃度で存在し、その色は魚肉の鮮度の指標となるため、商品価値を左右する。デオキシミオグロビン(ヘム鉄Fe2+)は酸素と結合しオキシミオグロビン(ヘム鉄Fe2+)となり鮮赤色を示すが、時間と共に酸化が進みメトミオグロビン(メト化 ヘム鉄Fe3+)となると褐色になり、商品価値が低下する。
【0018】
本実施の形態に係る冷凍魚肉の製造方法は、酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下の包材で魚肉を包装する包装ステップを含む。酸素透過度は、等圧法及び差圧法等の公知のガス透過度試験方法で測定できる。等圧法としてはmocon法及びカップ法があげられる。差圧法としては、容積法及び圧力法が挙げられる。酸素透過度の測定方法は、例えば、フィルム等の材料の等圧法によるガス透過度試験方法について規定したJIS K7126-2法である。JIS K7126-2法では、好ましくは、30℃かつ70%相対湿度(Relative Humidity;RH)の条件において酸素透過度が測定される。mocon法で酸素透過度を測定するには、例えば、mocon社製のガスバリア試験装置を使用してもよい。酸素透過度は、1日あたり0.1cc/m以下であれば任意であって、好ましくは、0.05cc/m以下である。酸素透過度は、例えば、1日あたり0.01~0.1cc/m、0.01~0.08cc/m、0.01~0.0.5cc/m又は0.02~0.05cc/m、好ましくは0.03cc/mである。
【0019】
上述の包材としては、水蒸気透過度が低い包材が適している。包材の水蒸気透過度は、例えば、1日あたり2g/m以下である。水蒸気透過度の測定方法は、例えば、フィルム等の水蒸気透過度の測定方法について規定したJIS K7129B法である。JIS K7129B法では、好ましくは、40℃かつ90%RHの条件において測定される。水蒸気透過度は、例えば、0.1~1.5g/m、0.2~1.0g/m、0.3~0.8g/m又は0.4~0.6g/mである。
【0020】
好適な包材としては、例えば、凸版印刷社製の商品名「GL FILM」及び「PRIME BARRIER(登録商標)」等の透明蒸着フィルムに、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)等の熱可塑性樹脂からなるシーラントフィルムを積層したものが挙げられる。さらに、シーラントフィルムと透明蒸着フィルムとの間に延伸ナイロン等からなる中間フィルムを積層したものを包材としてもよい。
【0021】
包材で包装される魚肉は、例えば次のように前処理される。水揚げした魚を即殺後、放血し、冷却する。“水揚げ”とは、水中で生きている魚を商品として供給するために、船上や陸上に上げることである。水揚げとしては、養殖生簀で成長した魚を出荷のために取り上げることが例示される。通常、水からあげた魚を即殺後、水中に放置し脱血する。その際、鮮度を保つために氷、酸素又は空気をいれた水中に魚を放置する。水中に放置する時間は、魚体の大きさ、収容するタンクの大きさ及び水量等によって異なるが、少なくとも5分間以上、好ましくは10~30分間である。水温は、魚が生息していた水温よりも5~30℃程度低くするのがよく、好ましくは10~15℃程度低くするのが好ましい。冷却では、好ましくは魚体温が10℃以下に冷却される。魚体温を10℃以下に冷却するには、例えば、脱血後の魚を-1~5℃の海水氷溶液中に30~120分間、静置すればよい。
【0022】
冷却した魚は、任意の態様で魚肉とされる。好適には、魚は3枚(中骨無し)又は2枚(中骨有り)におろしてフィレにされる。フィレは皮付きであっても皮を除去してもよいが、皮下の血合肉の変色を抑制するために好ましくは皮付きである。冷却した魚の温度が上昇しないように低温環境で魚体から魚肉に加工されるのが好ましい。通常は頭、エラ、ヒレ及び内臓を除去し、3枚又は2枚におろすことでフィレが得られる。
【0023】
魚肉は、好ましくは即殺から3時間以内に、-30℃以下の温度で凍結される。好適には、魚肉は急速凍結される。凍結は、好ましくは-40℃以下、さらに好ましくは-50℃以下の温度で行われる。凍結の方法としては、例えばエアーブラスト法、エタノールブライン浸漬法及びコンタクトフリーザー凍結法等が挙げられる。急速凍結に必要な時間は、約2時間以内、好ましくは1時間以内である。
【0024】
上述の包装ステップは、魚肉の凍結の前であっても後であってもよい。凍結前の魚肉を包装する場合と比べて、凍結後の魚肉の包装は作業効率が低いため、好ましくは包装ステップでは、凍結前の魚肉が上記包材で包装される。複数の魚肉が包装されてもよいが、魚肉を個別に1個ずつ包装するのが好ましい。好適には、包装ステップでは、包材内における魚肉の雰囲気中の酸素を除去して魚肉を包装する。酸素は、公知の方法で除去されてよく、例えば、包材内の空気を抜く真空処理でもよいし、包材内の空気を不活性ガスに置換してもよい。
【0025】
包装された魚肉は、コールドチェーンで輸送される。輸送中は-30~-20℃で維持されるのが好ましく、より好ましくは-35℃以下で維持される。
【0026】
凍結した魚肉を解凍する際は、-1~5℃の条件で解凍するのが好ましい。解凍の段階で温度が高過ぎると魚肉中に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)により解凍硬直を起こし多量のドリップが発生し物性の低下をきたす。また、解凍の段階で長時間放置されたりすれば、魚肉の色調が悪化する。解凍における魚肉の色調の悪化を避けるためには、魚肉の使用の1~24時間前、好ましくは1~12時間前、より好ましくは1~6時間前に解凍を開始する。例えば、包装された魚肉を、5℃以下の冷蔵庫内に静置したり、塩水氷溶液に浸漬したりすることで、解凍すればよい。なお、解凍後も血合肉が空気に触れるとメト化が進むので、メト化を抑制するために皮つきの状態で魚肉を冷蔵保存し、使用直前に柵状(あるいは刺身状)に切り出すのが好ましい。
【0027】
魚肉における血合肉中のATP濃度が高いと、血合肉全体のメト化が進行するおそれがあるため、好ましくは、魚肉における血合肉中のATP濃度は、0.2mM以上で、さらに好ましくは0.5mM以上である。血合肉中のATP濃度の低下を避けるために、水揚げ後の魚の活きしめ処理と冷却とを素早く行うのが好ましい。特に死後硬直を起こすとATPはほぼ消失するため、死後硬直の前に魚肉を凍結させることが重要である。
【0028】
本実施の形態に係る冷凍魚肉の製造方法によれば、下記実施例に示すように、数か月の凍結を経ても冷凍魚肉の、特に表面の血合肉の色調を維持できる。当該冷凍魚肉は、凍結から数か月後に解凍しても色調が維持されており、特に刺身等の解凍後に生で提供される冷凍魚肉の商品価値の低下を抑えるのに有用である。
【0029】
別の実施の形態では、上記包装ステップを含む、冷凍魚肉の供給方法が提供される。また、他の実施の形態では、魚肉、特にはブリ類の魚の刺身の製造方法が提供される。魚肉の製造方法は、例えば-30~-20℃のコールドチェーンを利用して魚肉が輸送される場合に特に適しており、
a)水揚げした魚を即殺後、放血し、10℃以下に冷却し、
b)冷却した魚を、3枚又は2枚におろして皮つきフィレとし、
c)即殺から3時間以内に、フィレを上述の包材で真空包装し、
d)-30℃以下の温度でフィレを凍結する、
ことを含む。
【0030】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る冷凍魚肉の変色抑制用包材は、酸素透過度が1日あたり0.1cc/m以下のフィルムを備える。当該フィルムは、酸素透過度の条件を満たす限り、任意の素材で形成された薄いシート状のものである。酸素透過度は、0.1cc/m以下であれば任意であって、好ましくは、0.05cc/m以下である。酸素透過度は、例えば、1日あたり0.01~0.1cc/m、0.01~0.08cc/m、0.01~0.0.5cc/m又は0.02~0.05cc/m、好ましくは0.03cc/mである。
【0031】
好ましくは、フィルムの水蒸気透過度は1日あたり2g/m以下で、例えば、1日あたり0.1~1.5g/m、0.2~1.0g/m、0.3~0.8g/m又は0.4~0.6g/mである。
【0032】
フィルムは単層であっても複数の層で構成されてもよい。好ましくは、フィルムは積層体である。積層体であるフィルムは、少なくとも基材層とバリア層とを備える。基材層は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン-6及びナイロン-66等のポリアミド樹脂、並びに、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂及びエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂等で形成される。
【0033】
基材層は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム又は二軸延伸ポリプロピレンフィルムであってもよい。樹脂フィルムの厚さは、特に限定されないが、3~200μmの範囲内にあることが好ましく、6~30μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0034】
バリア層は、酸素及び水蒸気等のガスがフィルムを透過することを抑制する。バリア層は基材層の上に配置される。バリア層は、例えば、アルミニウム層又は無機酸化物薄膜を含む層である。
【0035】
例えば、バリア層は、真空蒸着法及びスパッタリング法等により基材層の上に形成された無機酸化物薄膜である。無機酸化物薄膜は、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、及び酸化マグネシウム等の無機酸化物からなる。無機酸化物薄膜層を無色又は極薄く着色した透明な層とすることで、変色抑制用包材に包装された冷凍魚肉の外観を確認できる点で好ましい。
【0036】
バリア層の厚さは、5~300nmの範囲内にあることが好ましく、10~150nmの範囲内にあることがより好ましい。バリア層は、薄すぎると、均一な膜が得られないことや厚さが十分でないことがあり、バリア層としての機能を十分に果たすことができない場合がある。一方、バリア層が厚すぎると、フィルムを折り曲げたり引っ張ったりした場合に、バリア層に亀裂を生じる可能性がある。
【0037】
変色抑制用包材としては、例えば、凸版印刷社製の商品名「GL FILM」及び「PRIME BARRIER(登録商標)」等の透明蒸着フィルムに、LLDPE等の熱可塑性樹脂からなるシーラントフィルムを積層したものが好適である。さらに、シーラントフィルムと透明蒸着フィルムとの間に延伸ナイロン等からなる中間フィルムを積層したものを変色抑制用包材としてもよい。
【0038】
変色抑制用包材は、下記実施例に示すように、冷凍魚肉の変色を抑制する機能を有する。変色抑制用包材は冷凍魚肉の包装に使用される。包装の際、変色抑制用包材内における魚肉の雰囲気中の酸素を除去されるのが好ましい。
【0039】
なお、積層体であるフィルムは、バリア層を保護するバリアコート層を備えてもよい。この場合、好ましくは、バリアコート層が基材層とバリア層との間に介在する。
【0040】
本実施の形態に係る冷凍魚肉の変色抑制用包材によれば、下記実施例に示すように、数か月の凍結を経ても冷凍魚肉の、特にフィレ表面に露出している血合肉の色調を維持できる。
【0041】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0042】
[サンプル調製方法]
水揚げ後に活け締めしたブリ3尾を、氷冷海水中に1時間程度静置し、魚体の冷却と放血とを行った。ブリ1、2及び3の体重はそれぞれ7.0kg、7.0kg及び6.8kgであった。魚体を3枚におろして中骨を除く部分である皮つきのフィレを、各魚体から2個ずつ得た。真空包装装置(TVS-8000、ニシハラ製作所製)を用いてフィレを真空包装し、エアーブラスト凍結(-40℃)を行った。
【0043】
4日後に各フィレを4ピースに切断し、酸素難透過性フィルム(透明蒸着バリアフィルムGL-RD 12μm/延伸ナイロンフィルム 25μm/LLDPE 60μm、凸版印刷社製)又は対照のフィルム(延伸ナイロンフィルム 15μm/延伸ナイロンフィルム 15μm/LLDPE 60μm、凸版印刷社製)で真空包装した。-25℃にて3か月~4.5か月保存し、その間のメト化率を測定し、E-PL6(オリンパス社製、シャッタースピード;80 F10)で血合肉の外観を撮影した。また、凍結状態のフィレの血合肉中のATP含量を測定した。
【0044】
酸素難透過性フィルム(以下、実施例1ともいう)及び対照のフィルムの酸素透過度は、JIS K7126-2法(mocon法、30℃、70%RH)でそれぞれ0.03cc/m・day及び12.74cc/m・dayである。酸素難透過性フィルム及び対照のフィルムの水蒸気透過度は、JIS K7129B法(40℃、90%RH)でそれぞれ0.51g/m・day及び3.43g/m・dayである。
【0045】
メト化率の測定では、まず、各凍結保存サンプルから、ミオグロビンを調製した。フィレを解凍後、血合肉を細切し、0.1M KCl溶液(pH7.0)を加え均質化(ホモジナイズ)することで、ミオグロビンを素早く抽出した。血合肉の均質化液の遠心分離上清液には、脂質成分が含まれ濁りがあるため、55%飽和硫安分画を行って遠心分離し、上清に清澄溶液を得た。清澄溶液を用いてミオグロビンのメト化率の分析に供した。
【0046】
メト化率は、井ノ原らの方法(井ノ原康太、外2名、魚類筋肉ミオグロビンのメト化率測定法の検討、日本水産学会誌、2015年、81(3)、p.456-464)に従い、548nmと524nmの吸光値を測定し、次のブリのメト化率算出式にて求めた。
メト化率(%)=-99.70(A/B)+164.96
【0047】
なお、式1におけるA及びBはそれぞれ、ミオグロビン溶液の548nmにおける吸光値及び524nmにおける吸光値である。
【0048】
解凍試験では、-25℃で4.5か月保存したサンプルを0℃で14時間かけて解凍した。解凍後のサンプルについてメト化率を測定した。
【0049】
魚肉から10%過塩素酸で抽出した抽出物を水酸化カリウム水溶液で中和定容し、本溶液のろ液中のATP濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析で求め、筋肉中のATP含量を決定した。HPLC分析では、Asahipack GS-320カラム、0.1Mリン酸バッファー(pH3.0)による定組成溶離を行い、250nmでモニターし、ATP関連化合物量の標準濃度試薬溶液を用いた溶出時間及び吸光値の関係から定量することによってATPを含むATP関連化合物量の濃度を決定した(Yuko Murata,外2名,「Extractive components in the skeletal muscle from ten different species of scombroid fisheries」,Fisheries science,1994年,60(4),473-478)。
【0050】
(結果)
実施例1のブリ1、ブリ2及びブリ3の冷凍血合肉中のATP濃度は、それぞれ0.30mM、0.21mM及び0.20mMであった。
【0051】
図1(A)及び図1(B)は、それぞれ対照のフィルムで包装したブリ1及び実施例1で包装したブリ1の冷凍状態での外観の経時変化を示す。図2(A)及び図2(B)は、それぞれ対照のフィルムで包装したブリ2及び実施例1で包装したブリ2の冷凍状態での外観の経時変化を示す。図3(A)及び図3(B)は、それぞれ対照のフィルムで包装したブリ3及び実施例1で包装したブリ3の冷凍状態での外観の経時変化を示す。包装開始から3か月後の対照のフィルムで包装したブリ1~3の冷凍状態での外観を図4(A)に示す。包装開始から3か月後の実施例1で包装したブリ1~3の冷凍状態での外観を図4(B)に示す。
【0052】
対照のフィルムで包装したブリ1~3の血合肉は、1か月以降あたりから赤色度が高くなり、その後、黒みがかる傾向があった。一方、実施例1で包装したブリ1~3の血合肉は、1か月以降あたりでも赤色度は高くなく、その後、やや褐色に変化した。
【0053】
図5(A)は、対照のフィルム又は実施例1で包装して4.5か月後に解凍したブリ1の外観を示す。図5(B)は、対照のフィルム又は実施例1で包装して4.5か月後に解凍したブリ2の外観を示す。解凍状態では、対照で包装したブリ1及び2の血合肉は、褐変が進行していたが、実施例1で包装したブリ1及び2の血合肉は、褐変が抑制されていた。
【0054】
包装開始から-25℃で4.5か月保存後の対照のフィルムで包装したブリ2及び実施例1で包装したブリ2における解凍後の表面血合肉のメト化率を、それぞれ3か所で測定した結果を表1及び表2に示す。凍結保存4.5か月経過後において、実施例1で包装したブリ2は、対照のフィルムで包装したブリ2と比較して、解凍状態におけるメト化率が有意に低く(p<0.05)、フィレ表面の血合肉の色調が維持されたことが示された。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
以上の結果により、対照のフィルムで包装し凍結保存した場合、フィルムを透過した酸素と血合肉中のデオキシミオグロビン(紫赤色)が結合し、オキシミオグロビン(鮮赤色)が増加して冷凍血合肉表面の色調は赤黒くなるのに対し、実施例1で包装した場合、冷凍血合肉表面が赤黒くならず、フィルムを透過する酸素量が少ないことからデオキシミオグロビンからのオキシミオグロビンの生成が抑制されると考えられる。メトミオグロビン(褐色)は、オキシミオグロビンからもデオキシミオグロビンからも生成され得るが、デオキシミオグロビンよりもオキシミオグロビンからメトミオグロビンが生成する反応のほうが速いため、オキシミオグロビンの生成が抑制された実施例1で包装した血合肉の解凍状態での褐変が抑制されたと考えられる。
【0058】
対照のフィルムで包装した1日目のブリ1~3における解凍状態の深部血合肉のメト化率を表3に示す。包装開始から1.5か月後の対照のフィルムで包装したブリ1~3及び実施例1で包装したブリ1~3における解凍状態の深部血合肉のメト化率を表4に示す。1.5か月経過後において、実施例1で包装したブリ1~3は、対照のフィルムで包装したブリ1~3と比較して、解凍状態におけるメト化率がやや低かったが有意差を認められなかった。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
包装開始から3か月後の対照のフィルムで包装したブリ1~3及び実施例1で包装したブリ1~3における解凍状態の深部血合肉のメト化率を表5に示す。3か月経過後において、実施例1で包装したブリ1~3は、対照のフィルムで包装したブリ1~3と比較して、解凍状態におけるメト化率がやや低かったが有意差は認められなかった。実施例1による深部血合肉のメト化抑制効果は、表面に露出している血合肉のメト化抑制効果ほどではないことが示された。
【0062】
【表5】
【0063】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、魚肉の加工に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5