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特開2022-148891X線像の表示方法およびX線分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148891
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】X線像の表示方法およびX線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20220929BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2209
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050744
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【弁理士】
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】小野 卓男
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001CA01
2G001EA01
2G001EA03
2G001FA09
2G001GA06
2G001KA01
(57)【要約】
【課題】X線分析装置のマッピング分析において、適切なバックグラウンド値を用いて計算したX線像を表示する。
【解決手段】試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料中の元素の2次元分布を示すX線像を作成して表示する方法であって、試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を表示する、X線像の表示方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料中の元素の2次元分布を示すX線像を作成して表示する方法であって、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を表示する、
X線像の表示方法。
【請求項2】
マッピング分析時の第2のバックグラウンド値BGの算出は、定性分析時の第1のバックグラウンド値BG、試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tと、マッピング分析時の試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tとによって、以下の式(1)を用いて計算される、
BG=BG*I/I*t/t (1)
請求項1に記載のX線像の表示方法。
【請求項3】
試料から発生するX線を計測するために、波長分散型分光器を用いる、
請求項1または2に記載のX線像の表示方法。
【請求項4】
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料の組成分析を行うX線分析装置であって、
試料に電子線を照射する電子線照射部と、
試料から発生したX線を計測するX線分光器と、
表示部を有し、前記電子線照射部と前記X線分光器とを制御し、前記X線分光器から計測データを受け取って、演算を行い、演算された試料の組成分析データを前記表示部に表示する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を前記表示部に表示する、
X線分析装置。
【請求項5】
マッピング分析時の第2のバックグラウンド値BGの算出は、定性分析時の第1のバックグラウンド値BG、試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tと、マッピング分析時の試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tとによって、以下の式(1)を用いて計算される、
BG=BG*I/I*t/t (1)
請求項4に記載のX線分析装置。
【請求項6】
X線分光器は、波長分散型分光器である、
請求項4または5に記載のX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線像の表示方法およびX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から放出された特性X線を計測することにより試料の組成分析をするX線分析装置が知られている。特許文献1は、X線分析装置による組成分析において、試料の測定領域内の位置による元素の分布を計測するマッピング分析を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-12019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に電子線を用いたX線分析装置による組成分析においては、検出器は、その元素に固有の特性X線だけでなく、連続X線も検出してしまう。そして、連続X線は、検出器のカウント値をかさ上げするバックグラウンドを形成する。適切に、カウント値を評価するために、バックグラウンド値を差し引く。特定の元素のピーク波長におけるバックグラウンド値の評価には、通常そのピーク波長の周辺の波長のカウント値を利用する。
【0005】
一方、マッピング測定においては、各測定点におけるカウント数から適切なバックグラウンド値を減算しないと適切なX線像の表示ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のX線像の表示方法は、
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料中の元素の2次元分布を示すX線像を作成して表示する方法であって、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を表示する。
【0007】
本開示のX線分析装置は、
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料の組成分析を行うX線分析装置であって、
試料に電子線を照射する電子線照射部と、
試料から発生したX線を計測するX線分光器と、
表示部を有し、前記電子線照射部と前記X線分光器とを制御し、前記X線分光器から計測データを受け取って、演算を行い、演算された試料の組成分析データを前記表示部に表示する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を前記表示部に表示する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の線像の表示方法およびX線分析装置は、マッピング分析を行う前に、定性分析を行い、バックグラウンド値を算出する。このバックグラウンド値を換算してマッピング分析のバックグラウンド値として利用する。このような方法によって、マッピング分析のときのバックグラウンド値を、バックグラウンド分析をする前に、早く正確に求めることができ、特定元素の2次元分布を示すX線像を早く正確に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態のX線分析装置1の全体の概略図である。
図2】第1実施形態のX線分析装置1のマッピング分析によって得られたX線像の例である。試料中での特定元素の分布を示している。
図3】第1実施形態のX線分析装置1のマッピング分析によって得られたX線像の例である。図2と同じデータをカウント数の最大値、最小値(バックグラウンド値)として違う数値を用いて表示を変更したものである。
図4A】定性分析で得られたある試料のX線スペクトルを模式的に示す図である。横軸に波長、縦軸にX線のカウント数を示している。
図4B図4AのX線スペクトルで、元素3の特性X線のピーク付近を拡大して示した図である。
図5】第1実施形態のX線像の作成および表示方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のX線分析装置は、試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料の組成分析を行う。X線分析装置としては、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)であってもよいし、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)であってもよい。X線分析装置は、分光器を備えている。X線分析装置が電子プローブマイクロアナライザの場合には、分光器として、通常、波長分散型の分光器(WDS:Wavelength Dispersive Spectrometer)を備えている。X線分析装置が走査電子顕微鏡の場合には、分光器として、通常、エネルギー分散型の分光器(EDS:energy Dispersive Spectrometer)を備えている。
<第1実施形態>
(1)X線分析装置1の構成
本実施形態のX線分析装置1は、波長分散型分光器を備えた電子プローブマイクロアナライザである。X線分析装置1は、図1に示すように、電子線照射部10と、試料配置部20と、X線分光器30と、制御部50と、を備えている。電子線照射部10と、試料配置部20と、X線分光器30とは、少なくとも一部が図示しない計測室内に配置される。測定中は、計測室内は真空排気されている。
【0011】
電子線照射部10は、試料に電子線を照射する。電子線照射部10は、電子銃11と、偏向コイル12と、偏向コイル制御部15と、対物レンズ13とを含む。
【0012】
電子銃11は、電子線Eを発生する励起源であり、収束レンズ(図示せず)を制御することによって、電子線Eのビーム電流(試料電流)を調整することができる。
【0013】
偏向コイル12は、偏向コイル制御部15から供給される駆動電流により磁場を形成する。磁場によって、電子線Eを偏向させることができる。
【0014】
対物レンズ13は、偏向コイル12と試料Sとの間に設けられ、偏向コイル12を通過した電子線Eの径を絞る。
【0015】
試料配置部20は、試料ステージ21と、試料ステージ駆動部22とを含んでいる。
【0016】
試料ステージ21は、試料Sを載置する。試料ステージ駆動部22は、試料ステージ21を駆動して、試料ステージ21を水平面内で移動させる。
【0017】
X線分析装置1においては、試料ステージ駆動部22による試料ステージ21の駆動、および/または、偏向コイル12の制御による電子線の偏向により、試料S上における電子線Eの照射位置を2次元的に走査することができる。
【0018】
X線分光器30は、波長分散型分光器(WDS)である。エネルギー分散型分光器(EDS)を用いてもよい。X線分光器30は、試料から発生したX線を計測する。図1では、左右に2つの分光器30が描かれているが、X線分析装置1では、試料Sを取り囲むように5つの分光器を配置することができる。各分光器30の構成は、分光結晶31を除いて同じである。
【0019】
X線分光器30は、分光結晶31と、検出器33と、スリット34とを含む。試料S上の電子線Eの照射位置と、分光結晶31と、検出器33とは、図示しないローランド円上に位置している。分光結晶31は、直線32上を移動しつつ傾斜角が変化する。検出器33は、分光結晶31に対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とがブラッグの回折条件を満たすように、分光結晶31の移動に応じて傾斜角が変化する。これにより、試料Sから放出される特性X線の波長走査を行うことができる。
【0020】
制御部50は、コンピュータである。制御部50は、CPU51とメモリ52と操作部53と表示部54とを有している。制御部50は、試料配置部20、電子線照射部10、X線分光器30を制御して、試料Sの組成分析を行う。また、制御部50は、各X線分光器30から、測定データを受け取り、データ処理を行う。CPU51は演算を行う。CPU51はプログラムを実行する。また、CPU51は、メモリ52にプログラムやデータを保存し、メモリからプログラムやデータを読み込む。ここで、メモリ52とは、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)のみならず、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置も含むものとする。CPU51は、測定プログラムや、測定データを表示部54に表示する。表示部54はディスプレイである。操作部53はユーザの入力を受け付ける。操作部53より入力された命令にしたがって、CPU51はプログラムを実行する。操作部53は、キーボード、マウス、表示部54と一体のタッチパネルなどである。
(2)X線分析装置1の定性分析モードとマッピング分析モード
本実施形態のX線分析装置1は、定性分析モードとマッピング分析モードを有している。
【0021】
定性分析モードは、試料Sの特定位置に電子線を照射し、X線分光器30を走査させて、各分光結晶31の直線32上の位置に対応した波長を横軸に、検出器33のカウント値を縦軸としたスペクトル(図4Aに例示)を得る方法である。検出されたピークの波長により元素が、ピークのカウント値により定量値が測定できる。
【0022】
マッピング分析モードは、それぞれの分光器30において、特定の元素の特性X線の波長に分光結晶31の位置を固定し、試料Sに照射される電子線Eの位置を走査することによって、特定の元素の2次元的な分布を示すX線像を得る分析モードである。X線像は、表示部54に表示される。X線像は、カウント値(強度値)をグレースケール、または、カラー設定で複数段階(16階調、256階調等)で色分けして表示する。たとえば、カウント値が低い方から高い方へ、レインボーカラーを用いて、黒~青~水色~緑~黄緑~黄~橙~赤の順に表示する。そして、黒と青の境目のカウント値をバックグラウンド値(最小値)とすれば、黒いエリアは、カウント値が検出限界以下の領域として表示することができる。
(3)マッピング分析で得られたX線像の最小値(バックグラウンド値)の設定の課題
マッピング分析で得られたX線像のカウント値の最大値と最小値は、そのX線像で計測されたカウント値の最大値に、ソフトウエアが自動である係数をかけて設定する方法がある。
【0023】
図2は、このようにして得られたX線像の一例である。図2では、カラー画像を白黒で表すため、5階調とし、また各階調の幅も必要に応じて適宜違っている。図2のX線像において、カウント数の最大値は5620に、最小値は627に設定されている。
【0024】
図3は、図2と同じデータを最小値を100に変更して、再表示したものである。特定の元素が高濃度の島の周りに、図2では見られなかった特定の元素が低濃度な領域が存在していることがわかる。
【0025】
図2に示すように、カウント数の最大値にある係数をかけて最小値を求める方法は、真のバックグラウンド値を求めることにはならず、好ましいX線像も表示できない。本開示は、マッピング分析モードのX線像の表示に用いる適切な最小値、言い換えると、バックグラウンド値の求め方を提供する。
(4)試料中の元素の2次元分布を示すX線像の作成および表示方法
本開示のX線分析装置1によるX線像の表示方法は、図5のフローチャートに示すように、(a)定性分析を行い、(b)(a)の分析データを利用してマッピング分析時のバックグラウンド値を決定し、(c)マッピング分析を行い、(b)で決定したバックグラウンド値を利用して、X線像の表示を行う。以下に順に説明する。
【0026】
まず、(a)では、試料の定性分析を行う。定性分析は、試料に照射する電子線Eの位置を固定したうえで、試料から放出されるX線を、分光器30を走査させて検出を行う。定性分析は、マッピング分析を行ってX線像を得たい元素の特性X線の波長を含むように設定する。
【0027】
定性分析を行って得られたX線スペクトルを図4Aに模式的に示す。図4Aでは、元素A、元素B、元素Cの特性X線波長に相当するピークが見られる。また、必然的に、連続X線がバックグラウンドとしてX線スペクトルに表れている。
【0028】
図4Bは、図4Aの元素3の特性X線のピーク周辺を拡大した図である。図4Bを用いて、元素3の特性X線のピーク波長におけるバックグラウンド値の算出方法について説明する。まず、元素3の特性X線のピークに影響を受けていないと考えられる周辺の曲線を延長した曲線Lを求める。この曲線Lを、連続X線のスペクトル(バックグラウンド)とみなす。この曲線Lの元素3のピーク波長におけるカウント数を読み取り、元素3の特性X線のピーク波長におけるバックグラウンド値とみなす。言い換えると、ピークの測定されたカウント数からバックグラウンド値を引いたものを、元素3の特性X線の真の値とする。
【0029】
次に、(b)においては、特定の元素の特定の特性X線について、(a)で算出された定性分析におけるバックグラウンド値から、マッピング分析で用いるバックグラウンド値を決定する。
【0030】
定性分析におけるバックグラウンド値BGから、マッピング分析で用いるバックグラウンド値BGの換算は、定性分析における測定条件と、マッピング分析における測定条件の差異を考慮して行う。ここでは、定性分析時の試料に照射する電子線Eのビーム電流値Iと照射時間tと、マッピング分析時の試料に照射する電子線Eのビーム電流値Iと照射時間tと、を用いて(1)式の演算を行う。
【0031】
BG=BG*I/I*t/t (1)
なお、定性分析時の照射時間tは、検出器の走査速度に応じて決定される。また、マッピング分析時の照射時間は、電子線Eまたは試料ステージ4を走査速度に依存して決まる。
【0032】
例として、(a)定性分析において測定条件が、ビーム電流値I=100nA、照射時間t=50mSであり、(c)マップ分析において測定条件が、ビーム電流値I=200nA、照射時間t=10mSであるとすると、(1)式に代入して、
BG=BG*200/100*10/50
=BG*0.4
となる。
【0033】
次に、(c)では、試料に照射する電子線の位置を走査して、マッピング分析を行う。この時、検出する波長は、マッピングする元素の特性X線の波長に固定する。つまり、分光結晶31、検出器33の位置は固定する。ここで、マッピングする元素は、1つに限定されず、本実施形態においては、最大5つまでの元素(X線波長)のマッピングが可能である。
【0034】
制御部50は、マッピング分析を行い、検出器33で検出したカウント数のデータを取得する。カウント数のデータは、元素の2次元X線像として表示部54に表示される。カウント数のデータは、その位置が測定されるたびにリアルタイムに表示されてもよいし、一旦測定したエリア2次元データを集積して一度に表示してもよい。カウント数は、表示する最小値から最大値を段階別に色別に表示される。最小値としては、(b)で計算したバックグラウンド値BGが用いられる。
【0035】
このようにマッピング分析におけるバックグラウンド値を設定することによって、X線像が適切に表示され、濃度の低い元素の存在領域も確認できるようになる。
【0036】
また、本実施形態では、X線像で表示されるカウント数(図2図3ではX線像の右側にバーで表示されている)は、生の測定データを示している。変形例としては、カウント数は、測定したカウント値からバックグラウンド値を差し引いたものを表示してもよい。この場合は、X線像そのものは本実施形態と同じであるが、右側に表示されるバーのカウント数が異なり、最小値が0になる。
【0037】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(5)態様
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)一態様に係るX線像の表示方法は、
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料中の元素の2次元分布を示すX線像を作成して表示する方法であって、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を表示する。
【0038】
第1項に記載のX線像の表示方法は、マッピング測定の前に定性分析を行い、定性分析で得られた第1のバックグラウンド値BGを利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値BGを算出するので、マッピング測定による2次元X線像を、正確、かつ、迅速に表示することができる。
(第2項)第1項に記載のX線像の表示方法において、
マッピング分析時の第2のバックグラウンド値BGの算出は、定性分析時の第1のバックグラウンド値BG、試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tと、マッピング分析時の試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tとによって、以下の式(1)を用いて計算される。
【0039】
BG=BG*I/I*t/t (1)
第2項に記載のX線像の表示方法は、定性分析時の測定条件と、マッピング分析時の測定条件を比較して、第2のバックグラウンド値を決定するので、正確な第2のバックグラウンド値の決定が可能になる。
(第3項)第1項または第2項に記載のX線像の表示方法において、
試料から発生するX線を計測するために、波長分散型分光器を用いる。
【0040】
第3項に記載のX線分析装置は、波長分散型分光器を用いているので、エネルギー分散型分光器に比べて、より精度の高い測定が可能である。具体的には、波長分散型分光器では、精度が高いので、重畳する複数のピークの分離や、ピークとバックグラウンドの分離が可能のため、本開示の方法を適用する利点が大きい。
【0041】
また、波長分散型分光器は、定性分析の時は、分光器を走査するが、マッピング分析の時は、分光器を走査する必要がない。したがって、波長分散型分光器を用いて、元素のマッピングを行う際に本開示のバックグラウンドの算出を利用すれば、精度が高いX線像の表示を迅速に行うことが可能になる。
(第4項)一態様に係るX線分析装置は、
試料に電子線を照射し、電子線を照射された試料から発生するX線を計測することによって試料の組成分析を行うX線分析装置であって、
試料に電子線を照射する電子線照射部と、
試料から発生したX線を計測するX線分光器と、
表示部を有し、前記電子線照射部と前記X線分光器とを制御し、前記X線分光器から計測データを受け取って、演算を行い、演算された試料の組成分析データを前記表示部に表示する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
試料の定性分析を行い、特定の元素のピーク波長に対して第1のバックグラウンド値を算出し、
定性分析で得られた第1のバックグラウンド値を利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値を算出し、
試料の前記特定の元素のマッピング測定を行い、第2のバックグラウンド値に基づくX線像を前記表示部に表示する。
【0042】
第4項に記載のX線分析装置は、マッピング測定の前に定性分析を行い、定性分析で得られた第1のバックグラウンド値BGを利用して、マッピング測定時の第2のバックグラウンド値BGを算出するので、マッピング測定による2次元X線像が、正確、かつ、迅速に表示することができる。
(第5項)第4項に記載のX線分析装置において、
マッピング分析時の第2のバックグラウンド値BGの算出は、定性分析時の第1のバックグラウンド値BG、試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tと、マッピング分析時の試料に照射する電子線のビーム電流値I、電子線の照射時間tとによって、以下の式(1)を用いて計算される、
BG=BG*I/I*t/t (1)
第5項に記載のX線分析装置は、定性分析時の測定条件と、マッピング分析時の測定条件を比較して、第2のバックグラウンド値を決定するので、正確な第2のバックグラウンド値の決定が可能になる。
(第6項)第4項または第5項に記載のX線分析装置において、
前記X線分光器は、波長分散型分光器である。
【0043】
第6項に記載のX線分析装置は、波長分散型分光器を用いているので、エネルギー分散型分光器に比べて、より精度の高い測定が可能である。具体的には、波長分散型分光器では、精度が高いので、重畳する複数のピークの分離や、ピークとバックグラウンドの分離が可能のため、本開示の方法を適用する利点が大きい。
【0044】
また、波長分散型分光器は、定性分析の時は、分光器を走査するが、マッピング分析の時は、分光器を走査する必要がない。したがって、波長分散型分光器を用いて、元素のマッピングを行う際に本開示のバックグラウンドの算出を利用すれば、精度が高いX線像の表示を迅速に行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0045】
1 X線分析装置
10 電子線照射部
11 電子銃
12 偏光コイル
13 対物レンズ
15 偏光コイル制御部
20 試料配置部
21 試料ステージ
22 試料ステージ駆動部
30 X線分光器
31 分光結晶
32 直線
33 検出器
34 スリット
50 制御部
51 CPU
52 メモリ
53 操作部
54 表示部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5