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特開2022-148929防曇性物品、防曇性物品の製造方法、防曇性組成物及び防曇膜の剥離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148929
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】防曇性物品、防曇性物品の製造方法、防曇性組成物及び防曇膜の剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20220929BHJP
   C08J 7/054 20200101ALI20220929BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C09K3/18 101
C08J7/054
B32B27/18 C
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050808
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222691
【氏名又は名称】東洋合成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政春
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 徹
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4H020
【Fターム(参考)】
4F006AA15
4F006AB20
4F006BA10
4F006CA04
4F006CA05
4F006CA07
4F006CA08
4F006EA03
4F100AK01B
4F100AK12
4F100AK21
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA10
4F100CA10B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ54
4F100JB14
4F100JN17
4F100JN17B
4H020AB02
4H020BA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】防曇膜の形成を大気雰囲気下で実施でき、防曇膜とした際に防曇性と耐水性を有する防曇性物品を提供する。
【解決手段】式(1)

(式(1)中、Yは、水素原子又はアルキル基を表し、R及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有する)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む防曇性組成物を用いて形成された、防曇性物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された防曇膜と、を有する物品であって、
前記防曇膜が、下記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む防曇性組成物を用いて形成された、防曇性物品。
【化1】
(前記一般式(1)中、Yは、水素原子又はアルキル基を表し、
R及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有し、
Rは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置であり、
【化2】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置であり、
【化3】
Xは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置であり、
【化4】
nは1~3の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、前記Rは下記式で表されるものであり、下記構造中*は置換位置であり、
【化5】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置であり、
【化6】
前記Xは下記式で表され、下記構造中*は置換位置である、請求項1に記載の防曇性物品。
【化7】
【請求項3】
前記感光性ポリマーが、下記ユニットB及び下記ユニットCの少なくともいずれかのユニットをさらに含むポリビニルアルコールポリマーである請求項1又は2に記載の防曇性物品。
【化8】
【請求項4】
前記防曇性組成物が水をさらに有する請求項1~3のいずれか一項に記載の防曇性物品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の防曇性物品の製造方法であって、
基材の表面の少なくとも一部に、防曇性組成物を用いて防曇性組成物膜を形成する工程と、
前記防曇性組成物膜を光硬化させて防曇膜とする工程と、を有する防曇性物品の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む、防曇性組成物。
【化9】
(前記一般式(1)中、Yは、水素原子、アルキル基を表し、
R及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有し、
Rは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置であり、
【化10】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置であり、
【化11】
Xは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置であり、
【化12】
nは1~3の整数である。)
【請求項7】
前記一般式(1)中、前記Rは下記式で表され、下記構造中*は置換位置であり、
【化13】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置であり、
【化14】
前記Xは下記式で表され、下記構造中*は置換位置である、請求項6に記載の防曇性組成物。
【化15】
【請求項8】
前記感光性ポリマーが、下記ユニットB及び下記ユニットCの少なくともいずれかのユニットをさらに含むポリビニルアルコールポリマーである請求項6又は7に記載の防曇性組成物。
【化16】
【請求項9】
水をさらに有する請求項6~8のいずれか一項に記載の防曇性組成物。
【請求項10】
前記防曇膜が剥離液で剥離可能な請求項1~4のいずれか一項に記載の防曇性物品。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の防曇性物品における前記防曇膜を剥離液で剥離する防曇膜の剥離方法。
【請求項12】
前記剥離液が、過ヨウ素酸及びその水性塩の少なくとも1種を含む請求項11に記載の防曇膜の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防曇性組成物に関する。より詳しくは、本発明は感光性ポリマーを含む防曇性組成物であって、高い防曇性を有し、基材に対して容易に防曇膜を形成可能な防曇性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明フィルムや透明シート等における視認性の低下の要因の1つとして、水蒸気が表面に付着して曇ることが挙げられる。防曇性を有する組成物として、いくつかの組成物が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-157794号公報
【特許文献2】国際公開WO2015-152047号公報
【特許文献3】特開2020-66158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にはポリビニルアセタール樹脂を含む塗布型防曇剤が開示されているが、耐水性に課題がある。特許文献2にはエポキシ樹脂系の防曇剤組成物が開示されているが、高温での硬化となり得るため耐熱性が低い基板に使用した場合、基板が熱変形するおそれがあり課題がある。また特許文献3では親水性モノマーを含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を防曇防汚層に用いる提案がなされているが、窒素雰囲気下での重合としており操作性に課題がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、防曇膜の形成を大気雰囲気下で実施でき、防曇膜とした際に防曇性と耐水性を有する防曇性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの態様は、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された防曇膜と、を有する物品であって、上記防曇膜が下記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む防曇性組成物を用いて形成された、防曇性物品である。
【0006】
【化1】
【0007】
上記一般式(1)中、Yは、水素原子、アルキル基を表する。
R及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有する。
Rは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置である。
【0008】
【化2】
【0009】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置である。
【0010】
【化3】
【0011】
Xは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置である。
【0012】
【化4】
【0013】
nは1~3の整数である。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記防曇性物品の製造方法であって、基材の表面の少なくとも一部に防曇性組成物を用いて防曇性組成物膜を形成する工程と、上記防曇性組成物膜を光硬化させて防曇膜とする工程と、を有する防曇性物品の製造方法である。
本発明の別の態様は、下記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む、防曇性組成物である。
【0015】
【化5】
【0016】
上記一般式(1)中、Yは、水素原子、アルキル基を表する。
R及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有する。
Rは下記式から選択され、下記構造中*は置換位置である。
【0017】
【化6】
【0018】
1は下記式から選択され、下記構造中*は結合位置である。
【0019】
【化7】
【0020】
Xは下記式から選択される。
【0021】
【化8】
【0022】
nは1~3の整数である。
【0023】
本発明の他の態様は、防曇性物品における前記防曇膜を剥離液で剥離する防曇膜の剥離方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、防曇性に優れ且つ耐水性があり、防曇膜の形成を大気雰囲気下で実施できる防曇膜を形成するための防曇性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、下記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含む。下記一般式(1)におけるR及びXの少なくとも1つに、少なくとも1つのアジド基を有する。
【0026】
【化9】
【0027】
上記一般式(1)中、Yは、水素原子又はアルキル基である。
【0028】
Yのアルキル基としては、炭素数1~4の鎖状アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。炭素数1~4の鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。炭素数1~4の分岐アルキル基としては、イソプロピル基等が挙げられる。炭素数1~4の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。上記アルキル基はアセタール基を有してもよい。
Yとしては、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
Rは下記式から選択されるものであることが好ましく、下記構造中*は置換位置である。
【0029】
【化10】
【0030】
上記式中のR1については後述する。
Xは下記式から選択されることが好ましく、下記構造中*は置換位置である。
【0031】
【化11】
【0032】
nは1~3の整数である。合成の観点からnは3であることが好ましい。
R及びXの少なくとも1つが、少なくとも1つのアジド基を有する基であることが好ましい。
本発明の一つの態様における感光性ポリマーは、上記一般式(1)で表されるユニットAにおけるRが下記式で表されるものであることが好ましい。下記構造中*は置換位置である。
【0033】
【化12】
【0034】
1としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、下記構造中*は結合位置である。すなわち、ベンゼン環に結合しているメチレン基との結合位置を表す。ベンゼン環が有するR-CH-の位置は特に限定されず、ベンゼン環が結合する-CONH-基に対して、パラ位、メタ位、オルト位のいずれでもよい。
【0035】
【化13】
【0036】
上記Xは下記式で表されるものであることが好ましい。下記構造中*は結合位置である。
【0037】
【化14】
【0038】
上記一般式(1)で表される特定のユニットAは、250nm~400nmに吸収波長を持つ。すなわち、波長250nm~400nmの光に反応する。
【0039】
上記感光性ポリマーは、上記一般式(1)で表されるユニットAを有するため、光架橋性を有するものであり、例えば、波長が250nm~400nmの範囲にある光を照射することにより架橋され、光硬化体を形成することができる。
【0040】
上記感光性ポリマーは、下記に表されるユニットB及び下記に表されるユニットCの少なくともいずれかのユニットをさらに含むポリビニルアルコールポリマーであることが好ましい。
【0041】
【化15】
【0042】
【化16】
【0043】
上記感光性ポリマーは、上記ユニットAとユニットBとユニットCとの比が、ユニット比で下記の関係を満たすことが好ましい。
A:(B+C)=0.1~5:99.9~95、より好ましくは0.5~3:99.5~97。
B:C=100~70:0~30、より好ましくは、95~85:5~15。
上記範囲とすることにより、防曇性と耐水性とを両立することができる。なお、上記感光性ポリマーは上記ユニットAとユニットBとユニットC以外のユニットを含んでいてもよい。
【0044】
上記感光性ポリマーは、下記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物を、ポリビニルアルコールベースポリマーにアセタール結合でペンダントさせることで得ることができる。
【0045】
【化17】
【0046】
上記感光性ポリマーは、上記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物がポリビニルアルコールベースポリマーにアセタール結合でペンダントされていることが好ましい。それにより感光性を有する。上記感光性ポリマーは、例えば、ポリビニルアルコールベースポリマーに対して、上記一般式(2)又は上記式(3)で表される感光性化合物が、アセタール結合で0.1~5モル%ペンダントされていることが好ましい。すなわち、感光性ポリマー中のユニットAのユニット比は0.1~5モル%であることが好ましい。なお上記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物は1種でなく、複数種を用いてポリビニルアルコールベースポリマーにアセタール結合でペンダントさせてもよい。その場合にも、上記一般式(2)及び(3)で表される感光性化合物の総量が、ビニルアルコールで形成される繰り返し単位が少なくとも二つ連続した構造に対して0.1~5モル%アセタール結合でペンダントされていることが好ましい。さらに0.1~3モル%アセタール結合でペンダントされていることが好ましく、0.3~2モル%アセタール結合でペンダントされていることがより好ましい。
【0047】
なお、「ビニルアルコールで形成される繰り返し単位が少なくとも二つ連続した構造」とは、下記の構造である。
【0048】
【化18】
【0049】
上記ポリビニルアルコールベースポリマーとしては、ポリビニルアルコールベースホモポリマーでもよく、ビニルアルコールと他のビニル化合物とのポリビニルアルコールベースコポリマー(以下、「ベースコポリマー」ともいう)でもよい。該ベースコポリマーとしては、ユニットBを構成するビニルアルコールとユニットCを構成する酢酸ビニル以外に、ダイアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも一種とを用いて得られたベースコポリマーであってもよい。
【0050】
上記ベースコポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。なお、上記ベースコポリマーにおいて、上記ビニルアルコールで形成される上記ユニットBを構成する単位が、65モル%以上であることが好ましく、さらには70モル%以上であることがより好ましい。上記ベースコポリマーにおいて、ビニルアルコール以外に、上記ユニットCを構成する単位を35モル%以下、好ましくは30モル%以下で有していてもよい。
なお、ベースポリマーは合成したものを用いてもよいが、市販品を用いてもよい。市販品としては、三菱ケミカル(株)製のゴーセノールGH-22、GH-17R及びNK-05R、日本酢ビポバール(株)製のJF-10、JM-26、JP-20及びJR-05等が挙げられる。
【0051】
ポリビニルアルコールベースポリマーは、例えば、平均重合度200~5000が好適である。平均重合度が200より小さい場合には、十分な感度が得られ難く、また、平均重合度が5000より大きい場合には、感光性ポリマーの溶液の粘度が高くなり、塗布性が悪くなるという不具合が発生し易く、さらに、粘度を下げるために濃度を低くすると、所望の塗布膜厚を得るのが困難となる。一方、ビニルアルコールと他のビニル化合物とのベースコポリマーとしては、例えば、平均重合度200~5000のものを挙げることができる。
【0052】
本発明の一つの態様における感光性ポリマーは、上記ベースポリマー又は上記ベースコポリマーに、上記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物を、水を反応溶媒として、酸性下でアセタール化することにより得ることができる。例えば、上記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物を上記ベースポリマーにユニットAとして1モル%分導入する場合、上記ベースポリマーのユニットBの2モル%分が上記感光性化合物と反応し、ユニットAとなる。
【0053】
上記アセタール化の反応条件は特に限定されないが、リン酸、p-トルエンスルホン酸等を添加してpH1.5~3にした水中で行うことが好ましい。また、例えば、50℃~70℃で5~48時間程度反応させればよい。なお、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド類;ベンズアルデヒド-スルホン酸塩、ベンズアルデヒド-ジスルホン酸塩、ソジウム4-アジド-2-スルホベンズアルデヒド、カルボキシベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ホルミルスチリルピリジニウム塩等の芳香族アルデヒド類;又はこれらのアセタール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;を同時に反応させることもできる。
【0054】
なお、上記一般式(2)又は(3)で表される感光性化合物の合成方法は特に限定されないが、国際公開WO2013/153873号公報に開示の方法で合成できる。
【0055】
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、水をさらに含有してもよい。本発明の一つの態様の防曇性組成物中の感光性ポリマーの割合は特に限定されないが、例えば、感光性ポリマーの防曇性組成物中の濃度を15質量%以下とすることが好ましい。防曇性組成物は、感光性ポリマーの濃度を0.1~15質量%の水溶液とすることがより好ましい。
また、本発明の一つの態様における防曇性組成物は、上記感光性ポリマー以外の水溶性ポリマー及び水溶性アジド化合物等を含有していてもよい。
【0056】
上記水溶性ポリマーとしては、ポリ酢酸ビニルケン化物、ポリエチレングリコール、ゼラチン、セルロース誘導体、カゼイン等の天然物ポリマーや、水溶性ビニルモノマーからなるポリマー又は共重合体等を挙げることができる。水溶性ビニルモノマーとしては、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ビニルピリジン、メタアクリルアミド、アリルチオ尿素等を挙げることができる。
【0057】
また、水溶性アジド化合物としては、例えば、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、4,4’-ジアジドベンザルアセトフェノン-2-スルホン酸、4,4’-ジアジドスチルベン-α-カルボン酸及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等を挙げることができる。さらに、特公昭50-27404号公報、特開昭50-141403号公報、特開平2-204750号公報、特開平4-26849号公報、特開平5-11442号公報、特開平5-113661号公報、特開平6-239930号公報等に記載の水溶性アジド化合物を好適に使用することができる。
【0058】
本発明の一つの態様における防曇性組成物は、耐光剤をさらに有していてもよい。本発明の一つの態様における防曇性組成物は、耐光剤を含有しなくともγ線に対して耐久性があるが、耐光剤を含有することでγ線に対する耐光性をさらに高めることができる。本発明の一つの態様における防曇性組成物は、例えばγ線滅菌を実施する医療製品への用途に好適である。
本発明の一つの態様における防曇性組成物は、抗菌剤をさらに有していてもよい。
【0059】
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、塗布特性及び保湿特性の改良のための、例えば、エチレングリコール、ソルビトールあるいは界面活性剤等を含有していてもよい。
【0060】
また、本発明の一つの態様の防曇性組成物は、基材への接着性の改良のための接着促進剤を含有してもよい。該接着促進剤としては、例えば、N-β(アミノエチル)-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の水溶性を持つシランカップリング剤が挙げられる。
【0061】
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、防腐剤、消泡剤、pH調整剤や、例えば膜強度、耐水性、種々の基板への接着性の改良等のために疎水性高分子エマルジョンを含有していてもよい。疎水性高分子エマルジョンとしては、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等が挙げられる。疎水性高分子エマルジョンを含む組成物を用いるパターン形成は、例えば、スクリーン印刷版を製造する際に好適に用いることができる。
【0062】
また、本発明の一つの態様の防曇性組成物は、露光によるハレーションの防止、又は着色画像を得るために、防曇性能に影響を与えない範囲で顔料、染料等の着色剤を含有していてもよい。
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、長期間保存しても粘度が上昇し難く、保存安定性に優れているという効果を有する。
【0063】
また、上述したように、本発明の一つの態様の防曇性組成物は有機溶媒を使用せず水を反応溶媒として合成することができるため、感光性ポリマーを合成したものを、有機溶媒を除去する操作を行うことなく、そのまま、又は、必要に応じて水で希釈等して、有機溶媒を含有せず水を溶媒とする防曇性組成物とすることができる。勿論、反応溶液から感光性ポリマーを取り出し、その後に水を添加するようにしてもよい。水の使用量は、特に制限はないが、防曇性組成物中における感光性ポリマーの濃度は15質量%以下とすることが好ましく、0.1~10質量%の水溶液となるように防曇組成物を調製することがさらに好ましい。
【0064】
このように有機溶媒を含有しない防曇性組成物とすると、基材にコーティングして医療製品を製造する用途に好適である。詳述すると、例えば、基材としてプラスチック等の材料を使用した場合、この基材に有機溶媒を含有する防曇性組成物をコーティングすると、有機溶媒の種類によっては、基材にダメージを与えることがある。しかしながら、本発明の一つの態様の防曇性組成物は、水を溶媒とし有機溶媒を含有しないものとすることができるため、有機溶媒によるダメージを受けやすいプラスチック等の材料からなる基材に対してもコーティングして使用することができる。
【0065】
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、上記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーを含むものであるが、当該感光性ポリマーに代えて、下記一般式(4a)で表される感光性ポリマー(以下、「感光性ポリマーb」ともいう)及び/又は下記一般式(4b)で表される感光性ポリマー(以下、「感光性ポリマーc」ともいう)を用いてもよい。
また、本発明の一つの態様の防曇性組成物は、上記一般式(1)で表されるユニットAを有する感光性ポリマーに加えて、下記一般式(4a)で表される感光性ポリマー(以下、「感光性ポリマーb」ともいう)及び/又は下記一般式(4b)で表される感光性ポリマー(以下、「感光性ポリマーc」ともいう)を含むものであってもよい。
【0066】
【化19】
【0067】
上記一般式(4a)中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキレン基又は単結合であることが好ましく、メチレン基又は単結合であることがより好ましい。アルキレン基である場合はアルキレン中のメチレン基の少なくとも1つが酸素原子に置換されていても良く、一部の水素が炭素数1~5のアルキル基で置換されていてもよい。上記式(4a)中、mは5以上であることが好ましい。
【0068】
上記一般式(4a)中、Z及びWの少なくとも一方が下記一般式(5)で表される感光基が*部分で結合したものであることが好ましい。また、Z又はYの一方がアミノ基であってもよい。
【化20】
【0069】
上記式(5)で表される感光基におけるR、X及びYは、上記一般式(1)におけるR、X及びYと同じ選択肢から選択される。
感光性ポリマーbは、特開2006-307184号公報を参考に合成できる。
【0070】
【化21】
【0071】
上記一般式(4b)中、R4及びR5はそれぞれ独立に炭素数2~5のアルキレン基であり、R6は上記一般式(5)で表される感光基が*部分で結合したものであることが好ましい。
7及びR8は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが好ましい。各単位の結合形式は、ランダム状、ブロック状、交互のいずれでもよい。a+bは40~400が好ましい。
感光性ポリマーcは、特開2007-269973号公報を参考に合成できる。
【0072】
本発明の一つの態様は、基材と、上記防曇性組成物を用いて形成された防曇膜と、を有する防曇性物品である。防曇膜は単層でよいが、上記防曇性組成物中の成分の配合を変えて、異なる防曇性組成物を用いて2層以上積層されたものであってもよい。なお、2層の場合は例えば、ユニットAを有する感光性ポリマーを含む防曇性組成物を用いて第1層を形成し、その上に上記感光性ポリマーbを含む防曇性組成物を用いて第2層を形成した積層型の防曇膜が挙げられる。
【0073】
基材の材料は特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチック等が挙げられる。また、基材の形状も特に限定されず、例えば、繊維状、フィルム状、板状、複数の孔が形成された形状等が挙げられる。
【0074】
本発明の一つの態様における防曇性物品は、上記基材と、上記防曇膜と、の間にプライマー層を有していてもよい。プライマー層としては、基材に対する防曇膜の密着性を高める層であればよく、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、ナイロン樹脂、水性エマルジョン等を含むプライマー層用組成物を用いて形成された層が挙げられる。
【0075】
防曇性物品としては、眼鏡、ゴーグル、フェイスシールド、ヘルメット、仕切板、板ガラス、フィルム、パーティション部材、鏡、ディスプレイスクリーン、双眼鏡及び望遠鏡等のレンズ、食品用及び培養用等の容器、ビニールハウス、梱包材等が挙げられる。
【0076】
防曇性物品は、上記基材と、上記基材の上に形成される防曇膜と、を有する防曇基材を様々な物品の表面に備えた態様であってもよい。あるいは、上記基材自体が眼鏡、ゴーグル、フェイスシールド等の形状の物品であり、該物品の表面に防曇膜を有する態様であってもよい。
【0077】
物品を使用する分野としては、防曇性を要求される分野であればよく、例えば、建築・住宅建材分野、自動車・電車等の輸送機器関連分野、パソコン・携帯電話等の電子機器関連分野、顕微鏡・カメラ等の光学機器関連分野、眼鏡レンズ・窓ガラス等の日用品関連分野、アウトドア用品関連分野、容器・包装材関連分野、商用品関連分野、医療機器分野、農業用品分野等、幅広い用途に適用できる。
【0078】
本発明の一つの態様は、上記防曇性物品の製造方法であって、上記防曇性組成物を用いて防曇性組成物膜を基材の少なくとも一方に形成する工程と、上記防曇性組成物膜を光硬化させて防曇膜とする工程と、を有する製造方法である。
【0079】
防曇性組成物膜の形成方法として具体的には、例えば、上記基材に上記防曇性組成物を塗布したり、上記防曇性組成物中に基材を浸したりする方法が挙げられる。その後、必要に応じて乾燥し、防曇性組成物膜としてもよい。
【0080】
形成された上記防曇性組成物膜を光硬化させて防曇膜とする方法としては、例えば波長が250nm~400nmの範囲内にある光を照射して、防曇性組成物膜中の感光性ポリマーを架橋させ、光硬化体を形成することにより行うことができる。また、光照射の際に、所定形状のマスクを設けて上記防曇性組成物膜の一部に光を照射し、未照射部分の防曇性組成物を水で洗浄することにより、基材上に所望のパターン形状を有する防曇膜が形成されたものを得ることができる。
上記防曇性組成物膜を光硬化させる際に、硬化の点から窒素雰囲気下としてもよいが、大気雰囲気下でも行うことができる。また、温度は特に制限はなく室温で可能である。
本発明の一つの態様の防曇膜の膜厚は、厚膜とすることで防曇性能が向上するため、膜厚の上限は特に制限はない。防曇性と耐水性との観点から膜厚は0.1~3μmが好ましく、0.5~2.0μmがより好ましい。膜厚の測定は、触針膜厚計やレーザー計測により行うことができる。
本発明の一つの態様の防曇性組成物は、膜厚がある程度厚くても、具体的には10μm以上の膜厚であっても、光硬化させる際に重合熱を発生しにくい。
【0081】
なお、本発明のいくつかの態様の防曇性物品は、上記防曇膜が剥離液で剥離可能である。剥離液としては、過ヨウ素酸又はその水性塩の少なくとも1種を含めばよい。
過ヨウ素酸の水性塩としては、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸アンモニウム等が挙げられる。剥離液中の過ヨウ素酸又は過ヨウ素酸の水性塩の濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。剥離液の補助成分として、適量の界面活性剤、有機溶剤、酸またはアルカリ成分、酸化剤等を含有していてもよい。
【0082】
本発明のいくつかの態様は、上記防曇性物品における上記防曇膜を剥離液で剥離する防曇膜の剥離方法である。剥離方法は上記防曇膜に上記剥離液をスプレーして容易に剥離可能であるが、防曇膜を有する防曇性物品を剥離液に浸漬してもよい。また、剥離は室温で実施可能であるが、加温すると剥離しやすくなることからより好ましい。
【実施例0083】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
(合成例1)
[感光性ポリマー1の合成及び防曇性組成物1の調製]
ポリビニルアルコールベースポリマー(三菱ケミカル(株)製、「ゴーセノールEG-30」:平均重合度1700)40gを水400gに溶解し、これに、下記に示す感光性化合物Aを4g、リン酸2gを加え、60℃で24時間反応させた。
【0085】
【化22】
【0086】
なお、上記感光性化合物Aは国際公開WO2013/153873号公報の実施例2の記載を参考に合成した。
アセタール化反応率は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析)で測定し、98%であった。その後、リン酸をイオン交換樹脂で処理することにより除去し、感光性化合物Aがポリビニルアルコールベースポリマーにアセタール結合でペンダントされた感光性ポリマー1を得た。得られた感光性ポリマー1のユニットモル比は、ユニットA:ユニットB:ユニットC=1:86:12であった。この感光性ポリマー1を水で希釈し、感光性ポリマーの濃度が6質量%である防曇性組成物1を調製した。
【0087】
(合成例2)
[感光性ポリマー2の合成及び防曇性組成物2の調整]
合成例1で用いたポリビニルアルコールベースポリマー40gを水400gに溶解し、これに下記に示す感光性化合物Bを4g、リン酸2gを加え、60℃で24時間反応させた。
【0088】
【化23】
【0089】
なお、上記感光性化合物Bは特開2003-292477号公報の合成例5の記載を参考に合成した。
アセタール化反応率は、GPC(ゲル浸透クロマトフラフ分析)で測定し98%であった。その後、リン酸をイオン交換樹脂で処理することにより除去し、感光性化合物Bがポリビニルアルコールベースポリマーにアセタール結合でペンダントされた感光性ポリマー2を得た。感光性ポリマー1のユニットモル比は、ユニットA:ユニットB:ユニットC=1:86:12であった。この感光性ポリマー2を水で希釈し、感光性ポリマーの濃度が6質量%である防曇性組成物2を調製した。
【0090】
(比較合成例1)
[比較ポリマー2の合成及び比較組成物2の調整]
ポリビニルアルコールベースポリマーにN-メチル-α-(p-ホルミルスチリル)ピリジニウムメトサルフェートがペンダントした比較ポリマー2(N-メチル-4-ホルミルスチリルピリジニウムメトサルフェート)を特公昭56-005761号公報の参考例1、2と実施例11を参考に合成した。この比較ポリマー2を水で希釈し、比較ポリマー2の濃度が5.5質量%である比較組成物2を調製した。
【0091】
(比較合成例2)
[比較ポリマー3の合成及び比較組成物3の調整]
ポリビニルアルコールを主骨格とする比較対象の(メタ)アクリル光重合系レジストを特開2000-181062号公報を参考に以下のように合成した。グリシジルメタクリレート56g、p-ヒドロキシベンズアルデヒド48g、ピリジン2g及びN-ニトロソ-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩(富士フイルム和光純薬(株)製、商品名Q-1300)1gを反応容器に入れ、80℃の湯浴中で5時間攪拌した。グリシジルメタクリレートの反応率が98%で、純度78%のp-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)ベンズアルデヒドが得られた。次に、重合度500、鹸化率88%のポリ酢酸ビニル鹸化物(三菱ケミカル(株)製、商品名:EG-05)45gを精製水225gに分散させた後、80℃まで昇温して溶解させた。この溶液にリン酸4.5gと上記反応で得られたp-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)ベンズアルデヒド12gとを加え、80℃で6時間攪拌し、比較ポリマー3の粗液を得た。
得られた粗液を室温まで冷却した後、塩基性イオン交換樹脂で処理し、透明な比較感光性ポリマー3の粘調性樹脂溶液を得た。この溶液に光重合開始剤として、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロポキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロライドを溶液中の樹脂分に対し2質量%添加し、比較組成物3を得た。
【0092】
(実施例1)
[防曇膜を有する防曇性基板1の形成]
合成例1で得られた防曇性組成物1を30質量%エタノール水溶液に感光性ポリマー1の濃度が3.5質量%となるように溶解し、防曇性組成物溶液1を得た。ポリスチレン基板(共栄産業(株)製)に上記防曇性組成物溶液1をスピンコートして塗膜を得た後、50℃オーブンで乾燥を行い膜厚1μmの乾燥塗膜を得た。次に、乾燥塗膜全面に超高圧水銀灯を有する露光機を用いて大気雰囲気下、紫外線照射(照度5mW/cm、露光量50mJ)を行い、防曇膜1を形成し、該防曇膜1を有する防曇性基板1を得た。
防曇性組成物1は空気雰囲気でも紫外線硬化が可能であり、また乾燥や露光による基板の熱変形は認められなかった。
【0093】
[防曇性評価]
次に防曇試験として、得られた防曇性基板1を4℃の冷蔵庫で60分間冷却した後に気温23℃、湿度80%の雰囲気に60秒間放置し、曇りの程度を観察し防曇試験を行った。その結果、曇りは認められなかった。
続いて、防曇性基板1を30秒間純水に浸漬した後、流水による純水洗浄を行い、次いで50℃オーブンで乾燥した。その後、上記と同様に曇りの程度を観察し、純水洗浄後の防曇性評価を行った。その結果、流水洗浄後も防曇膜の剥離は確認されず、また防曇試験にておいても曇りは認められなかった。
防曇性基板1を高圧洗浄機(ノズルTGSS-1.0:スプレーイング社(製)、ノズル基板距離:2cm)を用いて純水高圧スプレー洗浄を30秒間行った後、50℃オーブンで乾燥し、純水高圧洗浄後の防曇性評価を行った。その結果、純水高圧洗浄後も防曇膜の剥離は認められなかった。また、防曇試験においても曇りは認められなかった。
【0094】
防曇性基板1を4種のアルコール(40質量%イソプロパノール(IPA)水溶液、75質量%イソプロパノール(IPA)水溶液、40質量%エタノール(EtOH)水溶液、75質量%エタノール(EtOH)水溶液、)を手動でスプレーし30秒間静置した後に50℃オーブンで15分間乾燥し曇りの程度を観察し、アルコールスプレー後の防曇性評価を行った。その結果、アルコールスプレー後に防曇膜の剥離は確認されず、また防曇試験にておいても曇りは認められなかった。
これらの結果を表1に示す。表1の結果により、防曇性基板1は、純水洗浄後、純水高圧洗浄後及びアルコールスプレー後の各防曇評価と各外観評価、並びに、γ線照射後の各防曇評価と各外観評価において良好な結果であることがわかる。
【0095】
【表1】
【0096】
なお、表1中の外観評価の結果の指標は以下である。
◎:変化なし
×:基板の歪み、膜の剥がれ、亀裂あり又は試験不能
表1中の防曇性の結果の指標は以下である。
◎:曇りなし
△:一部曇りあり
×:全体に曇りあり
【0097】
(実施例2)
[防曇膜を有する防曇性基板2の形成と防曇性評価]
合成例2で得られた防曇性組成物2を30質量%エタノール水溶液に感光性ポリマー2の濃度が4.5質量%となるように溶解し、防曇性組成物溶液2を調製した。
実施例1において、防曇性組成物溶液1の代わりに上記防曇性組成物溶液2を用いた以外は実施例1と同様にして防曇性基板2を得て、各防曇性評価と防曇膜の外観評価を行った。その結果を表1に示す。
防曇性組成物2は空気雰囲気でも紫外線硬化が可能であり、また乾燥や露光による基板の熱変形は認められなかった。また表1の結果により、防曇性基板2は、純水洗浄後、純水高圧洗浄後及びアルコールスプレー後の各防曇評価と各外観評価、並びに、γ線照射後の各防曇評価と各外観評価において良好な結果であることがわかる。
【0098】
(比較例1)
[比較基板3の形成と防曇性評価]
比較ポリマー1として、ポリビニルアルコール(三菱ケミカル(株)製のゴーセノールGH-17R)を用意し、30質量%エタノール水溶液に上記ポリビニルアルコールの濃度が4.5質量%となるように溶解し、比較組成物溶液1を調製した。
比較組成物溶液1を用いてスピンコート後、50℃のオーブンで乾燥を行い、膜厚1μmの比較膜1を形成し比較基板3を得た。得られた比較基板3について、実施例1と同様に各防曇性評価と塗膜の外観評価を行った。
比較基板3は、純粋洗浄後及びアルコールスプレー後に比較膜1が膨潤し、比較膜1表面にムラが発生した。そのため、防曇評価は視認性が大幅に低い結果であった。また、比較膜1に膨潤やムラが発生したため、防曇試験及びγ線試験は実施できなかった。
高圧洗浄後の評価については、比較膜1がはがれてしまい、膜表面にムラが発生し、防曇試験及びγ線試験は実施できなかった。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例2)
[比較基板4の形成と防曇性評価]
比較合成例1で得られた比較組成物2を30質量%エタノール水溶液に比較ポリマー2の濃度が5.5質量%となるように溶解し、比較組成物溶液2を得た。
ポリスチレン基板(共栄産業(株)製)に上記比較組成物溶液2をスピンコートして塗膜を得た後、50℃オーブンで乾燥を行い膜厚1μmの乾燥塗膜を得た。次に、乾燥塗膜全面に露光機を用いて大気雰囲気下、紫外線照射(照度5mW/cm、露光量100mJ)を行い、比較膜2を形成し、該比較膜2を有する比較基板4を得た。得られた比較基板4について、実施例1と同様に各防曇性評価と防曇膜の外観評価を行った。結果を表1に示す。
比較組成物2は空気雰囲気でも紫外線硬化が可能であり、また乾燥や露光による基板の熱変形は認められなかった。一方、比較基板4は、純粋洗浄後、高圧洗浄後及びアルコールスプレー後、外観の変化は特になかったが、防曇評価は視認性が低い結果であった。また、γ線を照射した後は、比較膜2に亀裂が入り劣化が確認された。そのため、防曇試験は実施できなかった。
【0100】
(比較例3)
[比較基板5の形成と防曇性評価]
比較組成物3をバーコーターで用いた以外は実施例1と同様にして塗膜を形成した。その後、80℃のクリーンオーブンで30分間乾燥した後、室温まで冷却し、露光機を用いて、窒素雰囲気下、紫外線照射(照射5.0mW/cmの超高圧水銀灯で500mJ/cm)し、硬化膜が形成された比較基板5を得た。得られた比較基板5について、実施例1と同様に各防曇性評価と比較膜3の外観評価を行った。
比較基板5は、純粋洗浄後、高圧洗浄後及びアルコールスプレー後の比較膜3は、外観の変化は特になかったが、防曇評価は視認性が低い結果であった。また、γ線を照射した後は、比較膜3に亀裂が入り劣化が確認された。そのため、防曇試験は実施できなかった。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例3)
[防曇膜を有する防曇性基板3~5の形成と防曇性評価]
合成例1で得られた防曇性組成物1をスピンコートによりポリスチレン基板(共栄産業(株)製)上に塗布し乾燥させて、膜厚を0.6μm、1.0μmとした塗膜をそれぞれ形成した。これらの塗膜を露光機を用いて大気雰囲気下、紫外線照射(照度5mW/cm、露光量50mJ)して防曇膜3~5を形成し、該防曇膜3~5を有する防曇性基板3~5を得た。防曇膜3~5の形成において、いずれの塗膜も空気雰囲気でも紫外線硬化が可能であり、また乾燥や露光による基板の熱変形は認められなかった。
次に防曇試験として、得られた防曇性基板3~5を実施例1と同様に各防曇性評価と防曇膜の外観評価を行った。いずれの防曇性基板3~5も、純水洗浄後、純水高圧洗浄後及びアルコールスプレー後の防曇膜3~5は外観の変化は特になく、防曇評価も良好だった。また、γ線を照射した後においても外観の変化、防曇特性ともに良好だった。結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
(実施例4)
ポリスチレン基板に代えて、ポリカーボネート基板(昭和電工マテリアルズ(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様に防曇膜を形成し、防曇基板6を得た。得られた防曇基板に対して実施例1と同様の各防曇性評価と防曇膜の外観評価を行った。その結果を表3に示す。
乾燥や露光による基板の熱変形は認められなかった。また表1の結果により、防曇性基板6は、純水洗浄後、純水高圧洗浄後及びアルコールスプレー後の各防曇評価と各外観評価、並びに、γ線照射後の各防曇評価と各外観評価において良好な結果であることがわかる。
【0104】
【表3】
【0105】
(実施例5)
実施例1で作製した防曇基板1に1質量%の過ヨウ素酸ナトリウム水溶液の剥離液をスプレーし、室温で60秒放置した後に流水で水洗して防曇膜を剥離した。室温にて簡単に防曇膜を除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、防曇性に優れ、且つ、耐水性がある防曇膜を形成するための防曇性組成物を提供できる。また、該防曇性組成物を用いた防曇性物品を提供できる。