(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148978
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】多連セル加速空洞製造装置、多連セル加速空洞の製造方法、並びに多連セル加速空洞
(51)【国際特許分類】
H05H 9/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
H05H9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050873
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】511089583
【氏名又は名称】日本ニューロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山中 将
(72)【発明者】
【氏名】岩本 泰一
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 哲志
(72)【発明者】
【氏名】西 勇也
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085BA05
2G085BD04
2G085EA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接を必要とせず、製造が簡単かつ低廉で、高性能な多連セル加速空洞及びその製造装置、さらに多連セル加速空洞の製造方法を提供する。
【解決手段】多連セル加速空洞製造装置1であって、セル形状で内部に空間を有する第一金型3、及び前記第一金型3の左又は/及び右に配置される素材管形状で内部に空間を有する第二金型4から選択、組立てられ、前記素材管を収納する金型ユニット2と、前記第二金型4の一端又は両端に配置され、前記第一金型4に向け移動可能かつ前記金型ユニット2内に収納された前記素材管の空間内に送液される液体が通る流路を備えたシリンダ5と、からなり、前記液体の液圧と前記シリンダ5の移動に伴い前記素材管に付与される押圧力でセル形状を前記素材管に成形し、所望のセル形状数になるまで、前記第一金型3の数を増す毎に、前記液体の液圧と前記シリンダ5の移動によるセル形状の成形を、複数回に分けて順次行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本の素材管から多連セル加速空洞を成形する多連セル加速空洞製造装置であって、
セル形状で内部に空間を有する所望の数の第一金型、及び前記第一金型の左又は/及び右に配置される素材管形状で内部に空間を有する第二金型から選択、組立てられ、前記素材管を収納する金型ユニットと、
前記第二金型の一端又は両端に配置され、前記第一金型に向け移動可能かつ前記金型ユニット内に収納された前記素材管の空間内に送液される液体が通る流路を備えたシリンダと、
からなり、
前記液体の送液による液圧と前記シリンダの移動に伴い前記素材管に付与される押圧力でセル形状を前記素材管に成形するものであって、
所望のセル形状数になるまで、前記第一金型の数を増す毎に、前記液体の送液による液圧と前記シリンダの移動によるセル形状の成形を、複数回に分けて順次行うことを特徴とする、多連セル加速空洞製造装置。
【請求項2】
前記第二金型を、セル形状の成形の進行に伴い、
前記素材管の端部を前記シリンダで押圧可能に露出させるため、
長さの異なる複数種の第二金型群から選択された第二金型としたこと、
又は、
長手方向に複数の分割ブロックとし第二金型であって、前記素材管端部の露出及びシリンダの押圧を妨げる不要な分割ブロックを含めない第二金型としたこと、
を特徴とする請求項1に記載の多連セル加速空洞製造装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の多連セル加速空洞製造装置を用いて、
多連セル加速空洞を成形することを特徴とする多連セル加速空洞の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多連セル加速空洞の製造方法によって製造されたことを特徴とする多連セル加速空洞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接を必要とせず、製造が簡単かつ低廉で、高性能な多連セル加速空洞及びその製造装置、さらに多連セル加速空洞の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多連セル加速空洞は、
図7(特許文献1の
図3)に示すように(背景技術における符号は特許文献1の符号をそのまま採用した)、超伝導高周波加速空洞1のことであり、純ニオブ製で、内部にビームを通し、粒子を加速するためのアイリスと呼ばれるくびれ4とセル5が交互に連設した多連セル2と、多連セル2の両端に接続されたエンドグループ部品3とからなる。なお、
【0003】
エンドグループ部品3は電力の入力やモニターのためのポート類(ビームパイプ、ポートパイプ)のほかに、複雑形状を有するHOM(高調波)カプラー等から構成される。
【0004】
多連セル2の超伝導高周波加速空洞1を製作する方法として、純ニオブ板金をプレス加工によって半セルに成形し、この半セル群を順次電子ビーム溶接で接合してダンベル形状とし、さらにダンベル形状同士を電子ビーム溶接で接合する電子ビーム方式が技術上確立されている。
【0005】
ところが、電子ビーム方式は完成した超伝導高周波加速空洞の赤道部(最大径部5b)に電子ビーム溶接によるビードが残る問題がある。超伝導高周波加速空洞の赤道部においてビードが電界方向に対して直交方向に形成されていると、加速空洞性能の低下を招く大きな原因となる。このため、電子ビーム方式は、ビードを滑らかに研磨する工程が必要であると共に溶接時間も長くなるといった問題があった。
【0006】
電子ビーム方式の加速空洞の製造方式では、電子ビーム溶接が不可欠であった。また溶接前には、半セルやビームパイプなどの部品の高い成形精度が要求される。溶接前には開先の化学研磨、溶接後には加速空洞内面の電解研磨などが必要となる。このように、電子ビーム溶接には、多大な手間と時間がかかり、加速空洞製作コストの面で好ましくない。
【0007】
そこで、特許文献1の方式、さらに特許文献1に先立ち特許文献2-4の移動型による加速空洞の成形方式も検討されていた。しかし、これまで、製造が簡単かつ低廉で、高性能な加速空洞の製造方式の確立には至っていない。
【0008】
特許文献2,3の技術では、9個の多連セルからなる加速空洞を製造するために、くびれがパイプ軸方向に連続して形成されたパイプ材を用いて、各くびれ位置に複数の可動割型を配置し、これらを筒状カバーに装填し、パイプ材の内部に圧液を導入し、各可動割型をパイプが短くなるよう押し付ける。成形が進むと分割型が一体となり、金型内にパイプが押し付けられて、ふくらみが形成される。
【0009】
特許文献2,3では、以下の問題がある。
(1)くびれがパイプ軸方向に連続して形成されたパイプ材を準備するために、ネッキング工程が必要である。9か所のくびれをピッチ精度よく加工するのは困難である。また、ネッキング加工は時間がかかる。
(2)径方向に60%以上拡管する必要があり、液圧成形は2段階で実施する。そのため、2種類の金型が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-046214号公報
【特許文献2】特開2001-143898号公報
【特許文献3】特開2001-196200号公報
【特許文献4】特開2008-055428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、溶接を必要とせず、製造が簡単かつ低廉で、高性能な多連セル加速空洞及びその製造装置、さらに多連セル加速空洞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、本発明者らは液圧成形による加速空洞の製造研究を行い、従来の移動型を使った多連セルの液圧成形より、簡単で生産性の高い固定金型を使い、軸押し込みを大きくし、素材管の塑性流動を利用してセル形状を成形する方法を知見した。
セルが1個であれば容易に成形できるが、多連セルの成形には工夫が必要である。複数の工程により、工程間に金型を部分的に交換することにより多連セルの成形を可能とした。これにより、加速空洞の生産性を向上させることができる。
【0013】
すなわち、より詳しくは、
(1)
一本の素材管から多連セル加速空洞を成形する多連セル加速空洞製造装置であって、
セル形状で内部に空間を有する所望の数の第一金型、及び前記第一金型の左又は/及び右に配置される素材管形状で内部に空間を有する第二金型から選択、組立てられ、前記素材管を収納する金型ユニットと、
前記第二金型の一端又は両端に配置され、前記第一金型に向け移動可能かつ前記金型ユニット内に収納された前記素材管の空間内に送液される液体が通る流路を備えたシリンダと、
からなり、
前記液体の送液による液圧と前記シリンダの移動に伴い前記素材管に付与される押圧力でセル形状を前記素材管に成形するものであって、
所望のセル形状数になるまで、前記第一金型の数を増す毎に、前記液体の送液による液圧と前記シリンダの移動によるセル形状の成形を、複数回に分けて順次行うことを特徴とする、多連セル加速空洞製造装置。
(2)
前記第二金型を、セル形状の成形の進行に伴い、
前記素材管の端部を前記シリンダで押圧可能に露出させるため、
長さの異なる複数種の第二金型群から選択された第二金型としたこと、
又は、
長手方向に複数の分割ブロックとし第二金型であって、前記素材管端部の露出及びシリンダの押圧を妨げる不要な分割ブロックを含めない第二金型としたこと、
を特徴とする(1)に記載の多連セル加速空洞製造装置。
(3)
(1)又は(2)に記載の多連セル加速空洞製造装置を用いて、
多連セル加速空洞を成形することを特徴とする多連セル加速空洞の製造方法。
(4)
(3)に記載の多連セル加速空洞の製造方法によって製造されたことを特徴とする多連セル加速空洞。
とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、以下の効果を奏する。溶接を必要とせず、製造が簡単かつ低廉で、高性能な多連セル加速空洞及びその製造装置、さらに多連セル加速空洞の製造方を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、多連セル加速空洞製造装置の第一実施形態(ダブルシリンダタイプ)の説明図であり、(A)多連セル加速空洞製造装置の断面模式図、(B)多連セル加速空洞製造装置の分解断面模式図、(C)素材管の長手方向断面模式図である。
【
図2】
図2は、多連セル加速空洞を成形する多連セル加速空洞製造装置の第一実施形態によるセル成形工程の説明図である。
【
図3】
図3は、実施例1で成形された多連セル加速空洞の断面模式図である。
【
図4】
図4は、多連セル加速空洞製造装置の第一実施形態(シングルシリンダタイプ)の説明図であり、(A)多連セル加速空洞製造装置の断面模式図、(B)多連セル加速空洞製造装置の分解断面模式図、(C)素材管の長手方向断面模式図である。
【
図5】
図5は、多連セル加速空洞を成形する多連セル加速空洞製造装置の第二実施形態によるセル成形工程説明図である。
【
図6】
図6は、実施例2で成形された多連セル加速空洞の断面模式図である。
【
図7】
図7は、特許文献1の
図3で、加速空洞の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【実施例0017】
図1、2に示すように、多連セル加速空洞製造装置1は、一本の素材管7から多連セル加速空洞を成形するものであって、金型ユニット2(2a)と、第一シリンダ5及び第二シリンダ6とからなる。なお、
図1は、素材管7に多連セル加速空洞の最初の一つのセル形状を成形する装置の組み合わせである。
【0018】
金型ユニット2、2aは、セル形状で内部に空間3aを有する所望の数の第一金型3と、第一金型3の左右に配置される素材管形状で内部に空間4aを有する長さの異なる複数種の第二金型4、4bから選択、組立てられ、素材管7を収納する。
【0019】
図1では、左右の第二金型4は、同じ長さのものである。各金型は、成形品を取り出せるよう、分割可能にする。第一金型3は
図1横方向(セル径断面と直交する方向)に分割し、第二金型4、4bは分割しなくても素材管7から引き抜くことで分離できるが、長手方向に平行に分割できるようにしてもよい。
【0020】
第一、第二シリンダ5、6は、第二金型4或いは4bの左右にそれぞれ配置され、第一金型3に向け移動可能で、少なくとも第一、第二シリンダ5、6のいずれか一方は、ここでは、第二シリンダ6は、金型ユニット2、2a内に収納された素材管7の空間7a内に送液される液体8が通る流路6aを備える。図示省略しているが、液体8の送液のためにポンプが用いられる。また、第二金型4、4b或いは素材管7との間には、液体8の漏出を防止する必要なシール(図示省略)を介在させる。
【0021】
なお、第二金型4は、同一長さであっても可能であるが、その場合、第一、第二シリンダ5、6の移動距離が長くなり、長さの異なる複数種の第二金型群より、複雑、割高になる。また、押圧に際して素材管の端部の露出が必要な場合、また既存の装置を利用する場合、押圧スペースへの収納を考慮した場合、異なる長さの異なる複数種の第二金型は有効である。
【0022】
他方、同様の効果を得るため、第二金型を長手方向に複数の分割ブロックとし、素材管端部の露出及びシリンダの押圧を妨げる不要な分割ブロックを含めない第二金型とする方式も採用できる。この場合、組み替えでなく、不要な分割ブロックの除去で済むので、工程が簡略される。
【0023】
このようにしてなる多連セル加速空洞製造装置1は、液体8の送液による液圧と第一、第二シリンダ5、6の移動に伴い素材管7に付与される押圧力でセル形状を素材管7に成形するものであって、所望のセル形状数になるまで、第一金型3の数を分解、組立して増す毎に、液体8の送液による液圧と第一、第二シリンダ5、6の移動によるセル形状の成形を、複数回に分けて順次行う。
【0024】
実施例1では、セル形状を3つとしたが、所望のセル数の第一金型3を、用意、順次成形、追加することで、所望のセル形状数の多連セル加速空洞を成形することができる。
【0025】
次に、
図2を参照して、本発明の多連セル加速空洞の製造方法を説明する。
本発明では、セル形状に対応する第一金型3と素材管形状に対応する長さの異なる第二金型4、4bを適時選択、組み合わせ、分割、組立て使用する。先ず、
図2(A)に示すように、素材管7を金型ユニット2に挿入し、左右から第一、第二シリンダ5、6を嵌める。
【0026】
次いで、
図2(B)に示すように、左右一対の第一金型3方向へ移動可能な、第一、第二シリンダ5、6により、素材管7の端部を軸方向から押し込む。同時に第二シリンダ6の流路6aから素材管7の内部空間7aに液体8を送り込み液圧をかける。それらに圧力より、セル形状を1つ第一金型3の空間3aに膨出させる。
【0027】
金型ユニット2によりセル形状が1つ成形された後に、液体8を抜き、第一金型3は留置したまま、第一、第二シリンダ5、6及び左右の第二金型4、4を抜き取り、
図2(C)に示すように、第一金型3と同形状の金型2つを第一金型3の左右に配置し、さらに第二金型4と内部形状は同じで、第二金型4より長さが短い第二金型4bを装着したうえで、第一、第二シリンダ5、6を装着する。
【0028】
再び、第一、第二シリンダ5、6により、素材管7の端部を軸方向から押し込む。同時に第二シリンダ6の流路6aから素材管7の内部空間7aに液体8を送り込み液圧をかける。それらに圧力より、セル形状をさらに2つ第一金型3の空間3aに膨出させる。以上により、
図2(D)に示すように、3連セル加速空洞を成形できる。
【0029】
成形後に、第一、第2シリンダ5、6を抜き取り、第一金型3は分割して取り外し、第二金型4bは素材管7の軸方向に抜き取ることで、成形品を取り出すことができる。
図2の多連セル加速空洞の製造方法を用いて成形された3連の多連セル加速空洞10を
図3に示した。
【0030】
図2では3連セル加速空洞の成形工程を示しているが、上記の工程を繰り返すことにより、4連以上の多連セル加速空洞の成形が可能である。実用的な9連セル加速空洞は、本発明では、1つのセルを成形した後、さらに4回の金型ユニット2の分解、組立を行うことより成形できる。
金型ユニット12、12a、12bは、セル形状で内部に空間3aを有する所望の数の第一金型3と、第一金型3の左右に配置される素材管形状で内部に空間14aを有する長さの異なる複数種の第二金型14、14b、14c、14dから選択、組立てられ、素材管7を収納する。
第二シリンダ6は、第二金型14b、14c、14dの右側に配置され、第一金型3に向け移動可能で、金型ユニット12、12a、12b内に収納された素材管7の空間7a内に送液される液体8が通る流路6aを備える。図示省略しているが、液体8の送液のためにポンプが用いられる。また、第二金型14b、14c、14d或いは素材管7との間には、また、第二金型14と蓋15との間には、液体8の漏出を防止する必要なシール(図示省略)を介在させる。
このようにしてなる多連セル加速空洞製造装置11は、液体8の送液による液圧と第二シリンダ6の移動に伴い素材管7に付与される押圧力でセル形状を素材管7に成形するものであって、所望のセル形状数になるまで、第一金型3の数を分解、組立して増す毎に、液体8の送液による液圧と第二シリンダ6の移動によるセル形状の成形を、複数回に分けて順次行う。
実施例2では、セル形状を3つとしたが、所望のセル数の第一金型3を、用意、順次成形、追加することで、所望のセル形状数の多連セル加速空洞を成形することができる。