(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149021
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】インクジェット印刷方法、及び、このインクジェット印刷方法により形成された立体印刷部を有するスポーツ用品
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220929BHJP
A01K 87/00 20060101ALI20220929BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220929BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220929BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220929BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220929BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20220929BHJP
A63B 49/02 20150101ALI20220929BHJP
A63B 53/12 20150101ALI20220929BHJP
A63B 53/10 20150101ALI20220929BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220929BHJP
【FI】
B41J2/01 109
A01K87/00 630N
B41J2/01 129
B41J2/01 205
B41J2/01 123
B05D1/26 Z
B05D1/36 Z
B05D7/24 301M
B32B27/00 E
B05D5/06 104K
A63B49/02
A63B53/12 Z
A63B53/10 Z
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050941
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】原田 健二
【テーマコード(参考)】
2B019
2C002
2C056
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2B019AD05
2B019AD10
2C002AA05
2C002CS05
2C002MM08
2C056EA08
2C056EC07
2C056EC37
2C056EE17
2C056FA10
2C056FA13
2C056FB09
2C056HA44
4D075AC06
4D075AC07
4D075AC73
4D075AE04
4D075BB42Z
4D075CB33
4D075DA03
4D075DA06
4D075DA20
4D075DB36
4D075DB48
4D075DB61
4D075DC38
4D075EA21
4D075EA33
4D075EA43
4F100AK07C
4F100AK42C
4F100AT00C
4F100BA03
4F100DD04A
4F100DD08A
4F100DH02C
4F100EH46B
4F100EJ083
4F100GB87
4F100HB21A
4F100HB21B
4F100HB31A
4F100HB35A
4F100JB14A
4F100JK09B
4F100JN01C
(57)【要約】
【課題】欠損が生じた場合でも平滑性を確保することが可能なインクジェット印刷方法を提供する。
【解決手段】本発明は、インクジェット印刷により第1印刷層27~第4印刷層30を重ねて凹凸層22を形成するインクジェット印刷方法において、複数のインク液滴「1」~「10」を印刷ヘッド12から元竿杆3の下地層25に吐出する第1工程と、複数のインク液滴「1」~「10」を硬化させ、硬化したインク「1」~「10」によって第1印刷層27を形成する第2工程と、下に位置する第1印刷層27に対し、印刷ヘッド12から複数のインク液滴「2」~「11」をずらして吐出する第3工程と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷により複数の印刷層を重ねて立体印刷部を形成するインクジェット印刷方法において、
複数のインク液滴を印刷ヘッドから対象物に吐出する第1工程と、
前記インク液滴を硬化させ、硬化したインクにより印刷層を形成する第2工程と、
下に位置する前記印刷層に対し、前記印刷ヘッドから前記インク液滴をずらして吐出する第3工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記第3工程で、前記印刷ヘッドの異なる位置から前記インク液滴を吐出することで前記インク液滴をずらすことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
前記第3工程で、相対的に下に位置する前記印刷層に生じた隙間の少なくとも一部を、ずらして吐出された前記インク液滴により隠すことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項4】
前記立体印刷部がクリアコートされていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項5】
インクジェット印刷により複数の印刷層を重ねて立体印刷部が形成されたスポーツ用品において、
前記立体印刷部が、
複数のインク液滴を印刷ヘッドから対象物に吐出する第1工程と、
前記インク液滴を硬化させ、硬化したインクにより印刷層を形成する第2工程と、
下に位置する前記印刷層に対し、前記印刷ヘッドから前記インク液滴をずらして吐出する第3工程と、を備えたインクジェット印刷方法により形成されたことを特徴とするスポーツ用品。
【請求項6】
前記対象物は管状体であることを特徴とする請求項5に記載のスポーツ用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷機で印刷する印刷方法、及び、このインクジェット印刷方法により形成された立体印刷部を有する各種のスポーツ用品(例えば、各種の釣具、ゴルフクラブ、ラケットなど)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種のスポーツ用品の表面に、文字、図形、図柄など(以下、模様と総称する)を表す立体を形成することが行われている。立体の形成方法としては、凸印刷や、凸シール、或いは、インクジェット印刷などがある。これらのうち、凸印刷による立体形成方法においては、スクリーンにより、ある程度の厚みのある印刷層が、スポーツ用品の表面に形成される。しかし、この凸印刷による立体形成方法においては、インクの表面張力により表面形状がR状(曲面状)になるため、エッジの立った(明確な角が形成された)形状を表現することは難しい。さらに、凸印刷による立体形成方法においては、複数色を表現することや、光輝性のある外観を得ることが難しい。
【0003】
また、上述の凸シールによる立体形成方法においては、打ち抜き型や印刷などによりある程度の厚みがある形状のシールが作成され、スポーツ用品の表面に貼り付けられて、凹凸が形成される。しかし、この凸シールによる立体形成方法においては、粘着層が形成され、粘着層がその後の工程(後工程)で不良の原因になる場合がある。
【0004】
さらに、上述のインクジェット印刷による立体形成方法においては、インクジェット印刷機のインクジェットノズルから吐出されるカラーインク(三原色及び黒色、白色)の各液滴を、ノズルに対して相対移動する対象物の素材表面に対して、密度が異なるように付着、定着させることでカラー模様が形成される。そして、インクが直接スポーツ用品の表面に塗布され、印刷層が重ねられて凹凸が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したインクジェット印刷による立体形成方法においては、例えば、異常や初期性能のばらつきなどを原因として、印刷に欠損が発生する場合がある。そして、欠損が発生した状態で印刷層を重ねることにより、筋等の凹凸が大となり、凹凸不良を生じることがあった(
図8参照、詳細については後述する)。また、凹凸不良を防ぐために、各塗装層でレベリングを行うと、印刷部分の端面において、十分なエッジが立たない場合があった(
図9参照、詳細については後述する)。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、欠損が生じた場合でも平滑性を確保することが可能なインクジェット印刷方法、及び、このようなインクジェット印刷方法により立体印刷部が形成されたスポーツ用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、インクジェット印刷により複数の印刷層を重ねて立体印刷部を形成するインクジェット印刷方法において、複数のインク液滴を印刷ヘッドから対象物に吐出する第1工程と、前記インク液滴を硬化させ、硬化したインクにより印刷層を形成する第2工程と、下に位置する前記印刷層に対し、前記印刷ヘッドから前記インク液滴をずらして吐出する第3工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記した構成のインクジェット印刷方法では、印刷に欠損があったとしても、次に形成される印刷層により、欠損した箇所を補完することができる。このため、各印刷層の欠損した箇所が繋がって筋が発生することを防止できる。さらに、上記した構成のインクジェット印刷方法においては、常に一定の印刷品質を確保できることから、例えば、従来のように、画像の元データに基づいてドット欠落箇所を検出し、補完用のインクの吐出を行うといった印刷方法に比べて、簡便な構成で印刷品質を維持することができる。
【0010】
また、上記した目的を達成するために、本発明は、インクジェット印刷により複数の印刷層を重ねて立体印刷部が形成されたスポーツ用品において、前記立体印刷部が、複数のインク液滴を印刷ヘッドから対象物に吐出する第1工程と、前記インク液滴を硬化させ、硬化したインクにより印刷層を形成する第2工程と、下に位置する前記印刷層に対し、前記印刷ヘッドから前記インク液滴をずらして吐出する第3工程と、を備えたインクジェット印刷方法により形成されたことを特徴とする。
【0011】
このように立体印刷部が形成されたスポーツ用品は、印刷に欠損があったとしても、次に形成される印刷層により、欠損した箇所が補完されることから、立体印刷部の平滑性が確保される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、欠損が生じた場合でも平滑性を確保することが可能なインクジェット印刷方法が得られる。また、本発明によれば、このようなインクジェット印刷方法により立体印刷部の平滑性を確保したスポーツ用品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のスポーツ用品の一例である釣竿を示し、元竿杆に模様を形成した概略構成を示す図。
【
図2】管状体にインクジェット印刷機で印刷を行う状態を示す模式図。
【
図3】
図1に示す模様部分をA-A線に沿って概略的に示す断面図。
【
図4】本発明のインクジェット印刷方法を説明する図であり、凹凸層におけるインクの位置関係を示す模式図。
【
図5】本発明のインクジェット印刷方法により印刷した凹凸層の一例を示す写真。
【
図6】従来のインクジェット印刷方法により形成された模様部分を概略的に示す断面図。
【
図7】従来の凹凸層におけるインクの位置関係を示す模式図。
【
図8】従来のインクジェット印刷方法により印刷した凹凸層の一例を示す写真。
【
図9】一般的なレベリングにより塗膜の厚さが薄くなることを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係るインクジェット印刷方法、及び、このインクジェット印刷方法によって立体的な模様が形成されたスポーツ用品の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るスポーツ用品の一例を示しており、元竿杆(対象物)に本発明の印刷方法に従って模様を形成した釣竿を示す図である。
【0015】
図1に示される釣竿1は、例えば、振出式の釣竿であり、元竿杆3と、元竿杆3内に伸縮自在に収納可能な中竿杆5及び穂先竿杆7とを備えている(継合本数は任意)。元竿杆3には、公知のリールシート4が配設されており、ここに装着されるリールRから繰り出される釣糸は、各竿杆に設けられた釣糸ガイド8A~8Gに挿通される。
【0016】
各竿杆は、公知のように、繊維強化樹脂材(FRP;プリプレグシート)を巻回して形成されており、元竿杆3の表面(素材表面)には、文字、図形、図柄などで構成される模様10が印刷によって形成されている。この模様10は、インクジェット印刷機を用いて、例えば、UVメタリックインクを塗布することで形成されており、図面では、分かりやすいように、平行四辺形状の模様として示されている。この場合、模様については、各種の文字、図形、図柄、又は、これらの結合などで構成することができる。
【0017】
模様形成に際して使用されるインクとしては、UVメタリックインクに限らず、例えば、CYMKのカラーインク、或いは、クリアインクなどのように一般的な種々のインクを採用可能である。UVメタリックインクを用いた場合には、UV硬化と、連続した重ね塗りとにより、立体感のある模様を形成し易くなる。また、最上層の硬化したUVメタリックインクにUV硬化クリア(カラークリアを含む)を積層することで、そのプリズム効果によって、より立体的な模様を形成することも可能である。
【0018】
図2は、元竿杆3のような管状体を対象物(ワークとも称する)とし、インクジェット印刷機で模様の印刷を行っている状態を模式的に示している。インクジェット印刷機で印刷を行う場合、管状体(ここでは元竿杆3)の両端をチャックし、一点鎖線で示す軸心Bを中心として、管状体(元竿杆3)を間欠回転させる。
図2では、軸心Bを中心として、元竿杆3の概ね半分のみが図示されている。
【0019】
インクジェット印刷機は、公知のように、印刷ヘッド12を軸方向に走査させ、対象物の表面に形成する模様形状に応じて、印刷ヘッド12内の多数のインクジェットノズル(図示しない)からインク14を吐出する。インク14の量や、吐出位置、及び、吐出タイミング等は、形成する模様形状に応じて制御される。また、インク14の吐出は、例えば圧電素子の振動を利用して断続的に行われる。
【0020】
上述のようなインクジェット印刷機としては、公知のものを使用することができ、その印刷方式としては、印刷ヘッドを対象物に対して往復動させて印刷を行なうマルチパス方式(シリアルヘッド方式)と、印刷ヘッドを対象物に対して固定し、対象物を移動させて1パスで印刷を行なうシングルパス方式(ラインヘッド方式)がある。詳細な図示については省略するが、前者のインクジェット印刷機は、印刷ヘッドを移動させるキャリッジ、UV(紫外線)硬化用の光源等を備えており、後者のインクジェット印刷機は、対象物をヘッドに対して移動させる搬送装置、UV(紫外線)硬化用の光源等を備えている。
【0021】
このようなインクジェット印刷機を用いた印刷工程では、いずれの印刷方式もインクジェットノズルから吐出されたインク14は、液滴(インク液滴)となって素材表面に着弾し、塗膜を形成した後、前記光源により硬化されて定着する。光源に対しては、UV光の照射量、照射時間、及び、照射までの時間等の制御が行われ、後述するような立体印刷が施される。
【0022】
図2において、元竿杆3は、異なる直径の部位を有する多段形状の管状体として模式的に描かれている。さらに、元竿杆3は、部分的にテーパを有する管状体として描かれている。
図2に示す元竿杆3のような管状体は、多段テーパのワークであるということができる。また、
図2において、元竿杆3の軸心Bが、印刷ヘッド12に対して斜めに向けられているのは、印刷ヘッド12と元竿杆3との間のギャップGを、全長に亘り可能な限り小さくして、印刷ヘッド12と元竿杆3とを近付けるためである。
【0023】
本発明では、上述のようなインクジェット印刷機を用いて模様を形成するに際して、
図3及び
図4に示すような印刷方法が実行される。
図3は、元竿杆3における素材20の表面に、基準となる印刷層(基準層)21と、立体的な印刷層(立体印刷部としての凹凸層)22とが形成された状態を模式的に示している。これらのうち、基準層21は、元竿杆3の素材20に近い側から順に中間層24、下地層25、及び、インク加飾層26により構成されている。
【0024】
中間層24、下地層25、及び、インク加飾層26は、一般的な種々の方法により印刷することが可能である。また、
図3において、インク加飾層26は、複数の印刷層を重ねて構成されているが、インク加飾層26における個々の印刷層については、符号を省略している。さらに、下地層25は、単層であっても複数層であってもよい。また、下地層25は、加飾を目的としたものであってもよい。
【0025】
上記した凹凸層22は、基準層21から突出した立体的な模様となる部分であり、
図3に示す例では、第1印刷層27~第4印刷層30の4つの印刷層を重ねた4層構造を有している。この凹凸層22においては、基準層21における下地層25に最も近い層が、最初に印刷される第1印刷層27となっている。さらに、この第1印刷層27の上に、第2印刷層28~第4印刷層30が順に重ねられて、インク加飾層26から突出した凹凸層22が形成されている。
【0026】
図3に示す例では、インク加飾層26に印刷用凹部31が形成され、この印刷用凹部31の底に露出した下地層25の上に、上述のように凹凸層22の第1印刷層27が印刷されている。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば、インク加飾層26に印刷用凹部31を形成せずに第1印刷層27を印刷することも可能である。また、第1印刷層27~第4印刷層30は、個々に有色(有色透明を含む)であっても無色透明であってもよい。
【0027】
第1印刷層27に係るインクの吐出(第1工程)や硬化(第2工程)の後には、第1印刷層27の上に、インクジェットノズルから第2印刷層28となるインク14が吐出されて(第3工程)、吐出されたインク14の硬化が行われる。同様に、第2印刷層の28の上に第3印刷層29が印刷され、第3印刷層29の上に第4印刷層30が印刷されて、凹凸層22が形成されている。
【0028】
前記第1印刷層27~第4印刷層30の各々の厚みは、例えば、20μm~50μmとなっており、凹凸層22の全体の厚みは、例えば、80μm~200μmとなっている。凹凸層22の厚みを80μm以上とすることにより、視認したり指で触れたりした者が、異物や表面のざらつきなどと明確に区別できる立体印刷を構成することができる。また、凹凸層22は、管状体の基準層21にほぼ均一な厚みで形成されていることから、その表面35の形状は曲面となっている。
【0029】
さらに、本発明においては、相対的に下に形成された印刷層に対し、インク14に係る液滴(インク液滴)の位置をずらして次に重ねられる印刷層が形成されている。すなわち、インク14の吐出タイミングに係る制御は、相対的に下の印刷層と、次の印刷層とで異なるように行われる。このため、上の印刷層を形成するインク14は、下の層と同じ位置のインク(同じインクジェットノズルから吐出されたインク)上に重ねるのではなく、例えば隣のインク(隣の異なる位置のインクジェットノズルから吐出されたインク)14が上に重ねられる。このように、先に形成された印刷層に対し、インク14の位置をずらして次の印刷層を形成するのは、以下のような理由による。
【0030】
一般的にインクジェットノズルは、1インチあたり150ドット(150dpi)や350ドット(350dpi)の密度で、印刷ヘッド12に配置されている。また、一般的に印刷ヘッド12の走査方式には、マルチパス方式(「シリアルヘッド方式」ともいう)やシングルパス方式(「ラインヘッド方式」ともいう)がある。
【0031】
上記した走査方式のうち、マルチパス方式においては、印刷ヘッド12が往復してインクジェットノズルからインクが吐出される。例えば、印刷ヘッド12が2回通過する方式は2パス印刷と称されている。そして、印刷ヘッド12の往復により重ね印刷が行われ、高濃度・高品質の印刷品質が得られる。例えば、150dpiの印刷ヘッドを往復させることで300dpiの解像度を得ることなどが行われる。これに対して、シングルパス方式においては、印刷層が形成される対象物が移動し、1パス印刷が行われるのが一般的である。
【0032】
また、インクジェット印刷においては、異常の発生や初期性能のばらつきなどを原因として印刷に欠損が発生する場合がある。この欠損は、例えば、インク吐出方向の不均一(ミスダイレクション)、一部のインクジェットノズルからインクが吐出されない、インクの吐出が他のインクジェットノズルよりも遅れる、などといった場合に発生する。また、欠損の発生原因としては、印刷ヘッド12のインクジェットノズルの一部に目詰まりが発生する、塗装中にインクジェットノズル付近に滞留した塗料の影響、インクジェットノズルの劣化などが挙げられる。そして、このような欠損の発生により、本来、均一に整列すべきインクの位置が乱れることとなる。
【0033】
特に、
図2に示す管状体のような多段テーパの対象物に対してインクジェット印刷を施す場合には、ワーク上の凹部16に臨む曲面に対して印刷を行うこととなる。このワーク上の凹部16では、対象物(ここでは元竿杆3)と、印刷ヘッド12との間のギャップGが部分的に大きくなる。これにより、印刷ヘッド12に平面的に配置されたインクジェットノズルから吐出されたインクが、曲面に対しては良好に着弾しない場合がある。
【0034】
また、着弾しなかったインクが霧状(ミスト状)になって飛散し、飛散したインクが印刷ヘッド12に付着することがあり、飛散したインクの付着によって、印刷ヘッド12の劣化が促進されてしまう。すなわち、多段テーパの対象物における曲面に対しインクジェット印刷を施す場合には、ギャップGが変化するため、ギャップGが一定となる平面に対してインクジェット印刷する場合と比べて、欠損が生じ易いという傾向がある。なお、
図2では、ワーク上の凹部16中のミストが発生し易い領域をハッチング付きの楕円Cにより示している。
【0035】
本発明のインクジェット印刷方法は、前述したように一般的な印刷ヘッド12を用い、同じ位置に対して使用するインクジェットノズルを変更し、下の印刷層に対して重ねられるインクの位置をずらすことに特徴を有する。特に、印刷に欠損(或いはインクジェットノズルに欠損)が生じる場合に顕著な効果を発揮することができる。この場合、印刷ヘッド12の走査方式としては、マルチパス方式、及び、シングルパス方式のいずれも採用することが可能である。
【0036】
ここで、上記した欠損が生じている場合、欠損部分の周囲に印刷層が重なって、深く明確な筋が表れる状態について説明する。
【0037】
図6及び
図7は、従来技術(通常のインクジェット印刷機で印刷する手法)を示したものである。
図6に示す例では、本発明の実施形態に係る
図3の例と同様、平面的な印刷層(基準層)51と、立体的な印刷層(凹凸層)52とが形成されている。この凹凸層52は、
図3と同様、第1印刷層57~第4印刷層60の4層構造を有している。なお、
図6は、
図3と相違する部分の符号のみを異ならせたものであるので、細部の説明については適宜省略する。
【0038】
図7は、欠損により、凹凸層52に筋53が生じた状態を模式的に示している。
図7においては、着弾したインクが丸数字で表されている。
図7において、第1印刷層57~第4印刷層60は、いずれも、丸数字による「1」~「10」で示す10か所のインクにより構成されているものとする。そして、第1印刷層57の上に、第2印刷層58、その上に第3印刷層59、その上に第4印刷層60が順に重ねられている。
【0039】
丸数字による「1」~「10」の数値は、インクジェットノズルの区別を表している。つまり、「1」~「10」の数値のうち、同じ数値は、同じインクジェットノズルから吐出されたインクであることを表している。このため、
図7の例では、第1印刷層57における各数値のインクの真上には、順次、第2印刷層58~第4印刷層60における同じ数値のインクが重なっている。なお、ここでは、説明が煩雑にならないよう、一列に並んだ10個のインクジェットノズルからインクが吐出される場合を例に挙げて説明する。
【0040】
印刷の欠損がない場合、図示は省略するが、第1印刷層~第4印刷層において「1」~「10」のインクが均等に並び、隣り合ったインク間に目立つような隙間は発生することはない。しかし、欠損が生じた場合には、
図7に示すように、インク間に目立った隙間71が生じることがある。
【0041】
図7の例では、第1印刷層57~第4印刷層60の各層において、「4」のインクが、隣に位置する「3」のインクの位置に偏り、「4」のインクと「5」のインクとの間に隙間71が発生している。また、「7」のインクも「6」のインクに重なり、「7」のインクと「8」のインクとの間にも隙間71が発生している。
【0042】
上記した第1印刷層57~第4印刷層60は、水平方向(図中の左右方向)に関し同じ位置で真上から重ねられることから、各層の隙間71も縦方向(印刷層の厚さ方向)に繋がってしまい、繋がった隙間71によって、凹凸層52の表面から下地層25に達するような深い溝が形成されてしまう。そして、このように隙間71が繋がってできる筋53は、積み重ねられる印刷層の数が多いほど現れ易く(発見し易く)なる。
【0043】
図8は、上記した欠損によって筋が現れた状態を写真により示している。
図8に矢印Fで示すのが、インクの欠損により発生した筋である。
図8の写真で示す状態は、印刷後に研磨してクリアコートを施してはいるものの、発生した筋は、明確に視認できるようなものであることが分かる。このような筋は、釣竿1等のようなスポーツ用品における商品価値や品質管理に影響を与えるものであるから、筋が発生しないように立体印刷を行うことが必要である。
【0044】
このような筋の発生を防止する策として、インクジェットノズルから吐出された後のインクに対し、硬化までの時間を長くしてレベリングによりインクをなじませることも考えられる。しかし、各印刷層に対してレベリングを行うと、
図9に示すようにインク(インク液滴)74が潰れて広がり、第1印刷層77~第4印刷層80の厚さ(塗膜厚)が薄くなってエッジが立たなくなってしまう(立体感が低下する)。
【0045】
また、塗装厚が薄くなってエッジが立たないと、第1印刷層77~第4印刷層80に伸びが生じると共に、凹凸層72の端面82にダレ(「タレ」ともいう)が生じてしまい、端面82が丸みを帯びることとなる。このため、レベリングによってインクを馴染ませる手法では、エッジ部分が切り立たず、立体感が低下し易くなる(
図9では、第1印刷層77~第4印刷層80の表面を太線により概略的に示している)。
【0046】
本発明に係るインクジェット印刷方法では、
図4の概略図(
図3に示した凹凸層22の第1印刷層27~第4印刷層30におけるインクの位置関係を模式的に示した図)で示すように、相対的に下の印刷層に対し、インクの位置(インクジェットノズルの位置)をずらして、次の印刷層を上に重ねるようにしている。すなわち、複数のインク液滴を印刷ヘッドから対象物に吐出する第1工程と、前記インク液滴を硬化させ、硬化したインクにより印刷層(最下層)を形成する第2工程とを有しており、更に、その最下層の上に順次、形成される印刷層(1層以上であればよく、本実施形態では3層にしている)については、下に位置する印刷層に対し、印刷ヘッドからインク液滴をずらして吐出する第3工程を備えている。この場合、第3工程における1層以上の印刷層の形成に際しては、インク吐出後にインク液滴を硬化させることで、立体的な模様を形成するようにしている。
【0047】
図4に示す例において、第1印刷層27は、丸数字による「1」~「10」で示す10か所のインクにより構成されている。また、第2印刷層58は、丸数字による「2」~「11」で示す同じく10か所のインクにより構成されている。さらに、第3印刷層29は、丸数字による「3」~「12」で示す10か所のインクにより構成されており、第4印刷層30は、丸数字による「4」~「13」で示す10か所のインクにより構成されている。
【0048】
図4に示した例では、
図7の従来例と同様に欠損が生じており、「4」のインクが「3」のインクの側に偏り、「4」のインクと「5」のインクとの間に隙間33が発生している。また、「7」のインクも「6」のインクの側に偏り、「7」のインクと「8」のインクとの間にも隙間34が発生している。
【0049】
この第1印刷層27に対して上から重ねられる第2印刷層28は、本実施形態では、1つ分ずれた位置のインクジェットノズルを使用して形成される。このため、
図4では、第2印刷層28が、「2」~「11」のインクにより構成されている。また、第2印刷層28においても、「4」のインクが「3」のインクの側に偏っており、[7]のインクが「6」のインクの側に偏っている。
【0050】
しかし、第2印刷層28は、下に位置する第1印刷層27に対して、インクジェットノズルの位置を1つ分ずらして形成することから、第2印刷層28における「2」のインクは、第1印刷層27における「1」のインク上に重なっている。また、第2印刷層28における「11」のインクは、第1印刷層27における「10」の上に重なっている。
【0051】
したがって、第2印刷層28における隙間33、34の位置は、第1印刷層27における隙間33、34に対して、その分(第1印刷層27における数値の小さいインクの側に)ずれることとなる。なお、
図4では、図示が煩雑にならないよう、第2印刷層28及び第3印刷層29における隙間33、34に係る符号の図示は省略してある。
【0052】
上記したように、インクジェットノズルの位置を1つ分ずらすことで、第2印刷層28における「4」のインクは、第1印刷層27における「2」のインクと「3」のインクの上に着弾する。また、第1印刷層27における「4」のインクに関して、斜め上(
図4中の右斜め上)の位置に、第2印刷層28における「5」のインクが着弾する。このため、第1印刷層27における「4」のインクと「5」のインクとの間の隙間33は、その少なくとも一部が、第2印刷層28における「5」のインクによって隠された状態となる。
【0053】
第2印刷層28における「5」のインクは、第1印刷層27の隙間33の中に幾分入り込むが、インクの粘性や表面張力などの要因により、第2印刷層28における「5」のインクは、第1印刷層27の隙間33に大きく落ちるまでには至らず、第2印刷層28における「5」のインクの位置は、第2印刷層28中に維持されている。
【0054】
第2印刷層28における「7」のインクと「8」のインクも同様であり、第2印刷層28における「7」のインクは、第1印刷層27における「5」のインクと「6」のインクの上に着弾している。また、第1印刷層27における「7」のインクに関して、斜め上(
図4中の右斜め上)の位置に、第2印刷層28における「8」のインクが着弾しており、第1印刷層27における「7」のインクと「8」のインクとの間の隙間34の少なくとも一部は、この第2印刷層28における「8」のインクによって隠されている。
【0055】
第2印刷層28における「8」のインクは、第1印刷層27の隙間34の中に幾分入り込むが、第2印刷層28における「5」のインクと同様に、第1印刷層27の隙間34に全体として落ちることなく、第2印刷層28に維持される。
【0056】
第3印刷層29については、「3」のインクが第2印刷層28における「2」のインクの上に重なり、第3印刷層29における「12」のインクが第2印刷層28における「11」のインクの上に重なっている。そして、第3印刷層29における隙間33、34は、第2印刷層28の隙間33、34に対して斜め上(
図4中の左斜め上)に位置している。
【0057】
さらに、第3印刷層29における「5」のインクは、第2印刷層28における「4」のインクと「5」のインクとの間の隙間33の少なくとも一部を隠している。また、第3印刷層29における「8」のインクも同様に、第2印刷層28における「7」のインクと「8」のインクとの間の隙間34の少なくとも一部を隠している。
【0058】
第4印刷層30については、「4」のインクが、第3印刷層29における「3」のインクの斜め上(
図4中の左斜め上)に重なり、第4印刷層30における「13」のインクが、第3印刷層29における「12」のインクの上に重なっている。そして、第4印刷層30における隙間33、34は、第3印刷層29の隙間33、34に対して斜め上(
図4中の左斜め上)に位置している。
【0059】
さらに、第4印刷層30における「5」のインクは、第3印刷層29における「4」のインクと「5」のインクとの間の隙間33の少なくとも一部を隠している。また、第4印刷層30における「8」のインクも同様に、第3印刷層29における「7」のインクと「8」のインクとの間の隙間34の少なくとも一部を隠している。
【0060】
上記したような印刷が行なわれると、第4印刷層30のインクによって形成される凹凸層22の表面35には、「4」のインクと「5」のインクの間、「7」のインクと「8」のインクの間のように、幾分凹んだ部位が生じている。しかし、
図7に示す従来の凹凸層52における隙間71のように、深い凹みにはなっておらず、
図7に示す従来例と比べて平滑性が保たれている。
【0061】
図5は、上記した印刷方法によって立体印刷を行った後(研磨、クリアコートをしていない)の例を写真により示している。
図5に示す例では、アルファベットの「O U R」の文字が、管状体に形成された黒色のインク加飾層36の表面に立体印刷されている。
図5に矢印Dで示しているのがエッジ部分(Oの文字の内側エッジと黒色の境界)であり、
図5からは、エッジが切り立っている(シャープな形状になっている)ことが分かる。そして、これらの文字には、
図8の写真で示したような目立った筋は見られない。
【0062】
以上説明したインクジェット印刷方法によれば、インクジェットノズルから吐出するインクの位置をずらして、複数の印刷層(第1印刷層27~第4印刷層30)を重ねることで、印刷に欠損があったとしても、次に形成される印刷層によって隙間33、34をある程度埋めることができる。すなわち、相対的に下の印刷層の隙間33、34を、上に重なる印刷層によって補完することができ、第1印刷層27~第4印刷層30の隙間33、34が積層方向に繋がって凹凸層22に目立つ筋が発生することを防止できる。
【0063】
このようなインクジェット印刷方法は、凹凸層22の表面35にある程度の小さな凹みが生じるのを許容しつつ、1つの印刷層の厚さを超えるような大きな凹みが生じるのを防止するものであるということができる。
【0064】
また、前述したように、例えば釣竿1の構成部品のように、段付きなテーパ状の管状体に対してインクジェット印刷を行う場合には、インクのミストが印刷ヘッド12に付着して、印刷の欠損が生じ易いが、上記したインクジェット印刷方法によれば、管状体の曲面に立体印刷を行う場合であっても、平滑性の高い立体印刷部(ここでは凹凸層22)を形成することが可能である。
【0065】
なお、欠損への対策として、上述した特許文献1に記載されているように(段落0027~0031、
図1など)、画像の元データに基づいてドット欠落箇所(欠損箇所)を検出し、補完用のインクの吐出を行うことなども考えられる。しかし、欠損箇所を特定して補完用のインクを吐出する場合、その分の構成や制御が複雑になり、関連するコストが増加してしまう。これに対し、上記したようなインクジェット印刷方法によれば、欠損箇所を特定せずに凹凸層22の平滑性をある程度保つことができることから、簡便な構成で印刷品質を維持でき、一定以上の印刷品質を確保するにあたっての費用対効果が高い。
【0066】
また、上記したインクジェット印刷方法によれば、
図9に例示したような各印刷層77~80でレベリングを行う印刷方法に比べて、塗膜厚を確保し易く、端面のダレも生じ難い。したがって、表面35の平滑性と、端面におけるエッジの両立が可能となる。この場合、最外層(実施形態では第4印刷層30)に対してのみレベリングを行い、表面35の平滑性を向上しながら、端面のダレを最小限に抑えるようにしてもよい。
【0067】
また、
図4では、「4」や「7」のインクが、「3」や「6」のインクの側に偏った形態の欠損を例示したが、このようなインクの位置ずれによる欠損の場合だけでなく、例えば、「4」や「7」のインクが吐出されない態様の欠損が生じた場合などであっても、同様の作用効果を奏することが可能である。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、凹凸層22の構造は4層構造に限らず、2層以上であれば、4層未満でも5層以上であってもよい。また、凹凸層22の最外層(ここでは第4印刷層30)にクリアインクなどによるカバーコート(クリアコート)を施すことで、凹凸層22の平滑性をより向上することが可能である。また、クリアコートを施すことで、プリズム効果によって立体感を向上したり、対候性や耐溶剤性を向上することも可能である。
【0069】
本発明のインクジェット印刷方法は、印刷ヘッド12の動作や、インクジェットノズルの吐出タイミングを変更することにより、下の印刷層に対し、インク液滴をずらすものである。このため、本発明のインクジェット印刷方法は、種々のタイプのインクジェット印刷機に適用が可能であり、インク液滴をずらす量についても適宜、調整することで、層に生じた隙間を、ずらして吐出したインク液滴によって効果的に隠すことが可能となる。
【0070】
また、素材20としては、本実施形態のように、強化材として各種の繊維材料を合成樹脂に混入した繊維強化樹脂材(複合材)以外にも、例えば、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂などの合成樹脂、ステンレス、アルミニウム、黄銅、真鍮等の金属、無機物であるセラミック、陶器、ガラス等も採用することができる。
【0071】
さらに、本発明に係るスポーツ用品は、各種の釣具(釣竿、リールシート、グリップ、リール、仕掛け、小物用品等)やゴルフクラブ、テニスラケットなどに適用することが可能である。そして、本発明の実施形態においては、立体印刷の対象物として、元竿杆3のように管状のものを例示したが、これに限定されず、平面に対して、本発明のインクジェット印刷方法による印刷を行ってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 釣竿(スポーツ用品)
3 元竿杆(対象物)
10 模様
12 印刷ヘッド
14 インク
22 凹凸層(立体印刷部)
25 下地層
27 第1印刷層
28 第2印刷層
29 第3印刷層
30 第4印刷層