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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149022
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
   F25B 41/335 20210101AFI20220929BHJP
   F24F 11/89 20180101ALN20220929BHJP
【FI】
F25B41/335 Z
F24F11/89
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050942
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260HA10
(57)【要約】
【課題】二重配管を連結可能でありながら、適切な冷凍サイクルの制御を実現できる膨張弁を提供する。
【解決手段】内側配管内を低圧冷媒が通過し、前記内側配管の周囲に配置された外側配管と前記内側配管との間を高圧冷媒が通過する二重配管を接続可能な膨張弁は、前記低圧冷媒が流れる低圧流路と、前記高圧冷媒が流れる高圧流路とを備えた弁本体と、前記弁本体に取り付けられたパワーエレメントと、前記パワーエレメントと前記低圧流路内を流れる低圧冷媒との間の熱伝達を促進し、または前記パワーエレメントと前記外側配管内を流れる高圧冷媒との熱伝達を抑制する熱伝達制御部と、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側配管内を低圧冷媒が通過し、前記内側配管の周囲に配置された外側配管と前記内側配管との間を高圧冷媒が通過する二重配管を接続可能な膨張弁であって、
前記低圧冷媒が流れる低圧流路と、前記高圧冷媒が流れる高圧流路とを備えた弁本体と、
前記弁本体に取り付けられたパワーエレメントと、
前記パワーエレメントと前記低圧流路内を流れる低圧冷媒との間の熱伝達を促進し、または前記パワーエレメントと前記外側配管内を流れる高圧冷媒との熱伝達を抑制する熱伝達制御部と、を有する、
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記熱伝達制御部は、前記低圧流路に配設された溝または壁である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記熱伝達制御部は、前記パワーエレメントと、前記弁本体に接続された前記二重配管との間において、前記弁本体に形成された穴または溝である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記弁本体は、前記内側配管が嵌合する前記低圧流路と略同軸の第1穴部と、前記第1穴部と略同軸であって前記外側配管と嵌合する第2穴部と、前記高圧流路に連通し、前記第1穴部と前記第2穴部に対して前記パワーエレメントから離間する側に偏心した第3穴部とを有する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記内側配管の外周面の少なくとも一部は、前記第3穴部の内周面に当接している、
ことを特徴とする請求項4に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記内側配管は、螺旋溝を外周面に形成した螺旋部を有し、前記螺旋部における前記螺旋溝以外の前記外周面は前記外側配管の内周面に当接している、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記パワーエレメント側における、前記第1穴部の端部位置と前記第3穴部の端部位置とが一致する、
ことを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項8】
前記弁本体は、前記内側配管が嵌合する前記低圧流路と略同軸の第1穴部と、前記外側配管と嵌合する第2穴部とを有し、前記第2穴部は、前記第1穴部に対して前記パワーエレメントから離間する側に偏心している、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項9】
前記パワーエレメント側における、前記第1穴部の端部位置と前記第2穴部の端部位置とが一致する、
ことを特徴とする請求項8に記載の膨張弁。
【請求項10】
前記弁本体は、前記内側配管が嵌合する前記低圧流路と略同軸の第1穴部と、前記高圧流路に連通し、前記第1穴部と略同軸であって前記外側配管と嵌合する第2穴部とを有し、前記第2穴部内に断熱性を備えたリング部材が配置されている、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項11】
前記リング部材は切欠または開口を有し、前記高圧流路と前記第2穴部とは、前記切欠または前記開口を介して連通する、
ことを特徴とする請求項10に記載の膨張弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルにおいては、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温式の膨張弁が使用されている。
【0003】
膨張弁には、圧力作動室を内包するパワーエレメントと称する弁部材の駆動機構が装備される。弁室内に配設される弁体とパワーエレメントとが作動棒により連結されており、圧力作動室に封入されたガスの圧力変化により作動棒が駆動され、それに応じて弁体の開弁または閉弁動作を行うようになっている。圧力作動室内のガス圧は、パワーエレメント外部から伝達される熱と、冷媒に伝達される熱とのバランスに応じて変化するため、自律的に弁体の開閉動作が行われ、冷凍サイクルの自動制御が実現する。
【0004】
一般的な膨張弁に対しては、冷凍サイクルのコンデンサから冷媒が送出される高圧配管と、エバポレータから冷媒が送出される低圧配管とが、それぞれ別個に接続されている。これに対し、特許文献1に開示された膨張弁においては、低圧配管を内側配管とし、高圧配管を外側とした二重配管を、膨張弁に接続するシステムが開示されている。かかるシステムによれば、配管の取り回しの簡素化が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-94793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された膨張弁においては、コンデンサから送出される比較的温度の高い冷媒が外側配管と内側配管との間を流れることとなるが、外側配管はパワーエレメントの近傍に配設される。このため、パワーエレメントが大気から受ける熱に加えて、外側配管と内側配管との間を流れる冷媒から発出される熱もパワーエレメントに伝達され、それにより圧力作動室内のガス圧が高まり、開弁タイミングが早まるなどして、冷凍サイクルの制御が不適切となるおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、二重配管を連結可能でありながら、適切な冷凍サイクルの制御を実現できる膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による膨張弁は、内側配管内を低圧冷媒が通過し、前記内側配管の周囲に配置された外側配管と前記内側配管との間を高圧冷媒が通過する二重配管を接続可能な膨張弁であって、
前記低圧冷媒が流れる低圧流路と、前記高圧冷媒が流れる高圧流路とを備えた弁本体と、
前記弁本体に取り付けられたパワーエレメントと、
前記パワーエレメントと前記低圧流路内を流れる低圧冷媒との間の熱伝達を促進し、または前記パワーエレメントと前記外側配管内を流れる高圧冷媒との熱伝達を抑制する熱伝達制御部と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、二重配管を連結可能でありながら、適切な冷凍サイクルの制御を実現できる膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態における膨張弁を、冷媒循環システムに適用した例を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は、本実施形態の弁本体を半割して示す斜視図である。
図3図3は、第2実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図4図4は、第3実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図5図5は、第4実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図6図6は、第5実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図7図7は、本実施形態の戻り流路を、図6の右方から側面視した図である。
図8図8は、第6実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図9図9は、本実施形態の戻り流路を、図8の右方から側面視した図である。
図10図10は、第7実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図11図11は、第8実施形態にかかる膨張弁の縦断面図である。
図12図12は、本実施形態の弁本体を半割してリング部材とともに示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明にかかる実施形態について説明する。
【0012】
(方向の定義)
本明細書において、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と定義し、作動棒5から弁体3に向かう方向を「下方向」と定義する。よって、本明細書では、膨張弁1の姿勢に関わらず、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と呼ぶ。
【0013】
(第1実施形態)
図1、2を参照して、本実施形態における膨張弁1の概要について説明する。図1は、本実施形態における膨張弁1を、冷媒循環システム100に適用した例を模式的に示す概略断面図である。図2は、本実施形態の弁本体2を半割して示す斜視図である。
【0014】
本実施形態では、膨張弁1は、コンプレッサ101と、コンデンサ102と、エバポレータ104とに流体接続されている。膨張弁1の軸線をLとする。
【0015】
図1において、膨張弁1は、弁室VSを備える弁本体2と、弁体3と、付勢装置4と、作動棒5と、パワーエレメント8を具備する。
【0016】
弁本体2は、弁室VSに加え、第1流路(高圧流路ともいう)21と、第2流路22と、中間室221と、戻り流路23とを備える。第1流路21は供給側流路であり、弁室VSには、供給側流路を介して冷媒(流体ともいう)が供給される。第2流路22は排出側流路(出口側流路ともいう)であり、弁室VS内の流体は、弁通孔27、中間室221及び排出側流路を介して膨張弁外に排出される。第2流路22には、エバポレータ104の入口側に接続される配管(不図示)が連結される。
【0017】
戻り流路23は、軸線Lに直交して弁本体2を貫通して延在する。戻り流路23の軸線をOとする。戻り流路23は、エバポレータ104の出口側に接続される配管(不図示)が連結される入口路23aと、中間路(低圧流路ともいう)23bと、中間路23bより大径の第1拡径孔23cと、第1拡径孔23cより大径の第2拡径孔23dと、第2拡径孔23dより大径である第3拡径孔23eとを同軸に連設してなる。詳細は後述するが、中間路23bは、縦穴2aを介してパワーエレメント8の下部空間LSに連通している。
【0018】
本実施形態においては、中間路23bの内周において、縦穴2aと第1拡径孔23cとの間に、複数(ここでは3本)の周溝2cが全周にわたって形成されている。周溝2cの底径は、第2拡径孔23dの内径より小さいと好ましい。内側配管51と周溝2cとは干渉していないことが望ましい。周溝2cが熱伝達制御部を構成する。
【0019】
戻り流路23には、二重配管50が連結される。二重配管50は、中間路23bに端部が嵌合する内側配管51と、内側配管51を内包し第2拡径孔23dに端部が嵌合する外側配管52とを有する。内側配管51は、管の一部を膨径させて軸線方向に押しつぶすことで形成されたフランジ部51aを端部近傍に有している。内側配管51の端部とフランジ部51aとの間には、フランジ部51aにより保持されたO-リングOR1が配置され、これにより第1拡径孔23cと内側配管51の外周との間を封止して、冷媒漏れを阻止している。
【0020】
また、外側配管52も、管の一部を膨径させて軸線方向に押しつぶすことで形成されたフランジ部52aを端部近傍に有している。外側配管52の端部は、第2拡径孔23dの段部に底付きしておらず、フランジ部52aは、弁本体2の側面に当接している。外側配管52の端部とフランジ部52aとの間には、フランジ部52aにより保持されたO-リングOR2が配置され、これにより第3拡径孔23eと外側配管52の外周との間を封止して、冷媒漏れを阻止している。
【0021】
内側配管51は、コンプレッサ101の入口に連結され、外側配管52と内側配管51の間の環状空間は、コンデンサ102の出口に連結されている。
【0022】
第1流路21は、軸線L及び軸線Oを含む面内に軸線を持ち、且つ軸線L及び軸線Oに対して傾斜しており、その上端は第2拡径孔23dの内周にて開放し、その下端は弁座20の下方において弁室VSの内周にて開放している。すなわち、第2拡径孔23dの内部と弁室VSとは、第1流路21を介して連通している。また、弁室VSと中間室221とは、弁座20及び弁通孔27を介して連通している。
【0023】
中間室221の上方に形成された作動棒挿通孔28は、作動棒5をガイドする機能を有し、作動棒挿通孔28の上方に形成された環状凹部29は、リングばね6を収容する機能を有する。リングばね6は、作動棒5の外周に複数のばね片を当接させて、所定の付勢力を付与するものである。
【0024】
弁体3は弁室VS内に配置される。弁体3が弁本体2の弁座20に着座しているとき、弁通孔27の冷媒の流れが制限される。この状態を非連通状態という。ただし、弁体3が弁座20に着座した場合でも、制限された量の冷媒を流すこともある。一方、弁体3が弁座20から離間しているとき、弁通孔27を通過する冷媒の流れが増大する。この状態を連通状態という。
【0025】
作動棒5は、弁通孔27に所定の隙間を持って挿通されている。作動棒5の下端は、弁体3の上面に接触している。作動棒5の上端は、ストッパ部材84の下端の嵌合孔に嵌合している。
【0026】
作動棒5は、付勢装置4による付勢力に抗して弁体3を開弁方向に押圧することができる。作動棒5が下方向に移動するとき、弁体3は、弁座20から離間し、膨張弁1が開状態となる。
【0027】
付勢装置4は、断面円形の線材を螺旋状に巻いたコイルばね41と、弁体サポート42と、ばね受け部材43とを有する。
【0028】
弁体サポート42は、コイルばね41の上端に取り付けられており、その上面には球状の弁体3が溶接され、両者は一体となっている。
【0029】
コイルばね41の下端を支持するばね受け部材43は、弁本体2に対して螺合可能となっていて、弁室VSを密封する機能と、コイルばね41の付勢力を調整する機能とを有する。
【0030】
パワーエレメント8は、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86と、ストッパ部材84とを有する。
【0031】
略円錐形状の上蓋部材82の頂部の開口は、栓81により封止可能となっている。
【0032】
ダイアフラム83は、同心円の凹凸形状を複数個形成した薄い金属(たとえばSUS)製の板材からなり、上蓋部材82及び受け部材86の外径とほぼ同じ外径を有する。
【0033】
受け部材86は、例えば金属製の板材をプレス成形することによって形成され、フランジ部と中空円筒部とを連結してなる。
【0034】
ストッパ部材84は、上蓋部材82と受け部材86との間に配置され、その上面がダイアフラム83の下面中央と接している。
【0035】
パワーエレメント8の組み立てにおいて、ダイアフラム83と受け部材86との間にストッパ部材84を配置しつつ、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86のそれぞれ外周部を重ね合わせ、当該外周部を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により周溶接して一体化する。
【0036】
続いて、上蓋部材82に形成された開口から、上蓋部材82とダイアフラム83とで囲われる空間(圧力作動室POという)内に作動ガスを封入した後、開口を栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。
【0037】
以上のようにアッセンブリ化したパワーエレメント8を、弁本体2に組み付けるときは、受け部材86の中空円筒部の下端外周の雄ねじ86aを、弁本体2の戻り流路23に連通する縦穴2aの内周に形成した雌ねじ2bに螺合させる。受け部材86の雄ねじを雌ねじ2bに対して螺進させてゆくと、受け部材86のフランジ部下面が弁本体2の上端面に当接する。これによりパワーエレメント8を弁本体2に固定できる。
【0038】
このとき、パワーエレメント8と弁本体2との間には、パッキンPKが介装され、弁本体2にパワーエレメント8を取り付けた際の冷媒のリークを防止する。かかる状態で、パワーエレメント8の下部空間LSは、縦穴2aを介して戻り流路23と連通する。
【0039】
(膨張弁の動作)
図1を参照して、膨張弁1の動作例について説明する。コンプレッサ101で加圧された高圧冷媒は、コンデンサ102で液化され、膨張弁1に送られる。また、膨張弁1で断熱膨張された冷媒はエバポレータ104に送り出され、エバポレータ104で、エバポレータの周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ104から戻る冷媒は、膨張弁1の戻り流路23内に進入し、さらに二重配管50の内側配管51を通って、コンプレッサ101側へ戻される。このとき、冷媒がエバポレータ104を通過することで、戻り流路23の流体圧は、第2流路22内の流体圧より低くなる。エバポレータ104を通過した冷媒を、低圧冷媒という。
【0040】
膨張弁1からコンプレッサ101に低圧冷媒が送出されるとともに、コンデンサ102から膨張弁1に高圧冷媒が送出される。より具体的には、コンデンサ102からの高圧冷媒は、二重配管50の外側配管52と内側配管51との間、及び第1流路21を介して弁室VSに供給される。
【0041】
弁体3が、弁座20に着座しているとき(非連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通ってエバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が制限される。他方、弁体3が、弁座20から離間しているとき(連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通って、エバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が増大する。膨張弁1の閉状態と開状態との間の切り換えは、ストッパ部材84を介してパワーエレメント8に接続された作動棒5によって行われる。
【0042】
図1において、パワーエレメント8の内部には、ダイアフラム83により仕切られた圧力作動室POと下部空間LSとが設けられている。このため、圧力作動室PO内の作動ガスが液化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が上昇するため、コイルばね41の付勢力に応じて作動棒5は上方向に移動する。一方、液化された作動ガスが気化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が下方に押圧されるため、作動棒5は下方向に移動する。こうして、膨張弁1の開状態と閉状態との間の切り換えが行われる。
【0043】
更に、パワーエレメント8の下部空間LSは、縦穴2aを介して戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒の温度・圧力に応じて、圧力作動室PO内の作動ガスの体積が変化し、作動棒5が駆動される。換言すれば、図1に記載の膨張弁1では、エバポレータ104から膨張弁1に戻る冷媒の温度・圧力に応じて、膨張弁1からエバポレータ104に向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0044】
上述したように、大気温度より高い高圧冷媒が、二重配管50の外側配管52と内側配管51との間を介して、第2拡径孔23dに送出される。このとき、高圧冷媒の熱が、第2拡径孔23dの内壁から弁本体2の内部を伝わってパワーエレメント8に伝達されると、圧力作動室PO内の作動ガスが影響を受け、パワーエレメント8が大気からの熱のみが伝達される場合とは異なる圧力が、圧力作動室PO内に創生されるおそれがある。
【0045】
これに対し本実施形態によれば、縦穴2aと第2拡径孔23dとの間における中間路23bの内周に、周溝2cが形成されているため、中間路23bに進入した比較的温度が低い冷媒が周溝2c内に進入する。これにより、周溝2cの底壁及び側壁から冷媒への熱伝達を促進することができるため、第2拡径孔23dからパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できる。すなわち周溝2cの配設によって中間路23bにおける熱交換面積を拡大することにより、第2拡径孔23dを通過する高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0046】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態にかかる膨張弁1Aの縦断面図である。本実施形態は、第1実施形態に対して弁本体2Aの形状のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0047】
本実施形態の弁本体2Aは、中間路23b内において、周溝を配設する代わりに、径方向内側に突出した環状壁2Acを有する。環状壁2Acは、戻り流路23Aを両側から切削加工する際に、工具の追い込み量を調整することにより弁本体2Aの一部を残すことで、弁本体2Aと一体に形成できる。ただし、中間路23bの内径に等しい外径を持つ環状壁2Acを別部材にて形成し、さらに圧入などにより中間路23bに嵌合固定してもよい。環状壁2Acが熱伝達制御部を構成する。
【0048】
本実施形態によれば、戻り流路23A内に進入した冷媒の一部は、環状壁2Acの内側を通過して内側配管51内へと流れ、その際に環状壁2Acの表面を介して冷媒への熱伝達を促進することができる。一方、冷媒の残りは、環状壁2Acに当接して戻り、縦穴2aに進入してストッパ部材84からの熱伝達を促進する。すなわち、環状壁2Acの配設によって中間路23bにおける熱交換面積を拡大するとともに、冷媒の流れを変更することにより、第2拡径孔23dからパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できるため、第2拡径孔23dを通過する高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0049】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態にかかる膨張弁1Bの縦断面図である。本実施形態は、第1実施形態に対して弁本体2Bの形状のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0050】
本実施形態の弁本体2Bは、中間路23b内において、周溝を配設する代わりに、軸線Oに対して傾斜した袋孔2Bcを有する。袋孔2Bcの軸線は、戻り流路23Bの内周と交差せず、入口路23aの軸線方向外側を通過するため、戻り流路23Bに斜めに挿入したドリル等の工具を用いて、袋孔2Bcを切削加工により形成できる。ただし、弁本体2Bの上面から中間路23bまで穿孔加工を施し、さらに露出した孔の外方端をプラグ等で封止することにより、袋孔2Bcを形成してもよい。袋孔2Bcが熱伝達制御部を構成する。
【0051】
本実施形態によれば、袋孔2Bcは、縦穴2aと第2拡径孔23dとの間において、中間路23bの内周から、第2拡径孔23dの径方向外側に向かって延在するように形成されている。このため、戻り流路23B内で左方から右方に流れる冷媒の一部が、袋孔2Bcに進入しやすくなっており、それにより袋孔2Bcの内周壁面から冷媒への熱の伝達が促進される。すなわち、袋孔2Bcの配設によって中間路23bにおける熱交換面積を拡大することにより、第2拡径孔23dからパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できるため、第2拡径孔23dを通過する高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0052】
(第4実施形態)
図5は、第4実施形態にかかる膨張弁1Cの縦断面図である。本実施形態は、第1実施形態に対して弁本体2Cの形状のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0053】
本実施形態の弁本体2Cは、中間路23b内において周溝が配設されていない。代わりに、縦穴2aの周囲において、弁本体2Bの上端面に環状溝2Ccが形成されている。環状溝2Ccの一部は、第1拡径孔23cの径方向外側に位置している。環状溝2Ccが熱伝達制御部を構成する。
【0054】
本実施形態によれば、縦穴2aと第2拡径孔23dとの間における第1拡径孔23cの径方向外側に、環状溝2Ccが形成されているため、第2拡径孔23d内に進入した冷媒からパワーエレメント8に至るまでの熱伝達経路が狭くなり、それによりパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できる。したがって、第2拡径孔23dを通過する高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0055】
(第5実施形態)
図6は、第5実施形態にかかる膨張弁1Dの縦断面図である。図7は、本実施形態の戻り流路23Dを、図6の右方から側面視した図である。本実施形態は、第1実施形態に対して弁本体2Dの戻り流路23Dの形状のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0056】
本実施形態の弁本体2Dにおいては、第2拡径孔23Ddが、第1拡径孔(ここでは第1穴部)23c側の偏心孔(ここでは第3穴部)23D1と、第3拡径孔23e側の同軸孔(ここでは第2穴部)23D2とに分割されている。図6に示すように、第1拡径孔23cより大径の偏心孔23D1は、第1拡径孔23cに対し下方に偏心しているが、偏心孔23D1より大径の同軸孔23D2は、第1拡径孔23cと同軸となっている。第1拡径孔23cの軸線をO1とし、偏心孔23D1の軸線をO2とすると、軸線間距離はΔ1となる。第1拡径孔23cの上端の位置と、偏心孔23D1の上端の位置とが一致すると好ましく、偏心孔23D1の下端の位置と、同軸孔23D2の下端の位置とが一致していると好ましい。内側配管51の端部は、中間路23bに嵌合し、外側配管52の端部は、同軸孔23D2に嵌合している。偏心孔23D1が熱伝達制御部を構成する。
【0057】
外側配管52と内側配管51との間に供給された冷媒は、偏心孔23D1を通過してから第1流路21へと向かう。本実施形態によれば、偏心孔23D1がパワーエレメント8から離間する方向にシフトしているため、偏心孔23D1内に進入した冷媒からパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できる。これにより、高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
い。
【0058】
(第6実施形態)
図8は、第6実施形態にかかる膨張弁1Eの縦断面図である。図9は、本実施形態の戻り流路23Eを、図8の右方から側面視した図である。本実施形態は、第1実施形態に対して弁本体2Eの戻り流路23Eの形状のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0059】
本実施形態の弁本体2Eにおいては、第2拡径孔(ここでは第2穴部)23Ed及び第3拡径孔23Eeが、第1拡径孔(ここでは第1穴部)23cに対して下方に偏心している。第1拡径孔23cの軸線をO1とし、第2拡径孔23Ed及び第3拡径孔23Eeの軸線をO3とすると、軸線間距離はΔ2となる。軸線間距離Δ2は、第5実施形態の軸線間距離Δ1より大きい。第1拡径孔23cの上端の位置と、第2拡径孔23Edの上端の位置とが一致すると好ましい。内側配管51の端部は、中間路23bに嵌合し、外側配管52の端部は、第2拡径孔23Edに嵌合している。したがって、二重配管50の外側配管52も、内側配管51に対して下方に偏心している。第2拡径孔23Edが熱伝達制御部を構成する。
【0060】
外側配管52と内側配管51との間に供給された冷媒は、第2拡径孔23Edを通過してから第1流路21へと向かう。本実施形態によれば、第2拡径孔23Edがパワーエレメント8からさらに離間する方向にシフトしているため、第2拡径孔23Ed内に進入した冷媒からパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できる。これにより、高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0061】
(第7実施形態)
図10は、第7実施形態にかかる膨張弁1Fの縦断面図である。本実施形態は、第5実施形態の弁本体2Dに、上述の実施形態とは異なる二重配管50Fを組み合わせたものである。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0062】
二重配管50Fは、内側配管51Fと、外側配管52Fとを有する。外側配管52Fは、上述した実施の形態と同様の構成を有する。一方、内側配管51Fは、円管部51Fbと、螺旋部51Fcとを連設してなる。螺旋部51Fcの外周には螺旋溝51Fdが形成されており、螺旋溝51Fd以外の外周面は円筒面である。二重配管50Fが熱伝達制御部を構成する。
【0063】
外側配管52F内に内側配管51Fを挿入したときに、螺旋部51Fcの外周面が外側配管52Fの内周面に接することで、螺旋溝51Fdに沿って螺旋状の通路が形成される。この通路に沿って、高圧冷媒が流れることとなる。
【0064】
二重配管50Fを弁本体2Dの戻り流路23Dに取り付ける場合、外側配管52Fの端部は、同軸孔23D2に嵌合し、外側配管52Fから突出した内側配管51Fの端部は、中間路23bに嵌合する。戻り流路23Dの軸線O1に対して、螺旋部51Fcの軸線は一致するが、円管部51Fbの軸線は上方に偏心しており、したがって弁本体2Dに組付けた状態で、円管部51Fbの上部が偏心孔23D1の内周面に接する。
【0065】
外側配管52Fと内側配管51Fとの間に供給された冷媒は、螺旋溝51Fdを通過して偏心孔23D1の下方側に進入し第1流路21へと向かう。その際に、螺旋溝51Fd内を通過する高圧冷媒から、内側配管51F内を通過する低圧冷媒へと熱伝達が行われるが、螺旋溝51Fdを配設することにより熱伝達面積が増大するため、螺旋溝51Fd内を通過する間に高圧冷媒から低圧冷媒への熱伝達が促進される。加えて、内側配管51Fの円管部51bの上側外周面が偏心孔23D1に当接しているため、内側配管51F内を通過する冷媒により偏心孔23D1の上部周囲が冷却される。以上の相乗効果によって、第2拡径孔23Fdを通過する高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。
【0066】
(第8実施形態)
図11は、第8実施形態にかかる膨張弁1Gの縦断面図である。図12は、本実施形態の弁本体2Gを半割してリング部材60とともに示す斜視図である。本実施形態は、第1実施形態に対して、弁本体2Gの戻り流路23Gに周溝を形成しておらず、またリング部材60を配設した点のみが異なる。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0067】
本実施の形態において、第2拡径孔(ここでは第2穴部)23dの内周に嵌合するようにして、樹脂製のリング部材60が配設されている。リング部材60の周方向の一部には、切欠60aが形成されている。リング部材60は、切欠60aが第1流路(高圧流路)21に整合するようにして、第2拡径孔23dに配置される。これにより第1流路21の入口全体が開放され、リング部材60の径方向内側と、第1流路21とを、切欠60aを介して連通させることができる。切欠60aの代わりに、リング部材60の内外周を連通する開口を配設してもよい。
【0068】
リング部材60の内周面は、内側配管51のフランジ部51aの外周面に当接し、またリング部材60の左端は、第1拡径孔23cと第2拡径孔23dとの間の段部に当接し、リング部材60の右端は、外側配管52の端部に当接している。リング部材60の肉厚は、外側配管52の肉厚に等しいと好ましい。リング部材60が熱伝達制御部を構成する。
【0069】
外側配管52と内側配管51との間に供給された冷媒は、第2拡径孔23dに進入した後に、切欠60aを通って第1流路21へと向かう。本実施形態によれば、第2拡径孔23d内に進入した冷媒と、第2拡径孔23dとの間に、断熱性を備えたリング部材60が配置されているため、第2拡径孔23Ed内に進入した冷媒からパワーエレメント8に伝達される熱の量を低減できる。これにより、高圧冷媒の熱による影響を抑制して、パワーエレメント8の適切な制御動作を実現できる。リング部材60は、上述した実施形態と併用できる。
【0070】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1~1G :膨張弁
2~2E :弁本体
3 :弁体
4 :付勢装置
5 :作動棒
6 :リングばね
8 :パワーエレメント
20 :弁座
21 :第1流路
22 :第2流路
23、23A、23B、23D、23E、23G:戻り流路
27 :弁通孔
41 :コイルばね
42 :弁体サポート
43 :ばね受け部材
50、50F:二重配管
60 :リング部材
100 :冷媒循環システム
101 :コンプレッサ
102 :コンデンサ
104 :エバポレータ
VS :弁室

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-08-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側配管内を低圧冷媒が通過し、前記内側配管の周囲に配置された外側配管と前記内側配管との間を高圧冷媒が通過する二重配管を接続可能な膨張弁であって、
前記低圧冷媒が流れる低圧流路と、前記高圧冷媒が流れる高圧流路とを備えた弁本体と、
前記弁本体に取り付けられたパワーエレメントと、
前記弁本体に対して前記外側配管を前記内側配管よりも前記パワーエレメントから離間する方向に偏心して接続することにより、前記パワーエレメントと前記外側配管内を流れる高圧冷媒との熱伝達を抑制する熱伝達制御部と、を有する、
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記熱伝達制御部は、前記内側配管が嵌合する前記低圧流路と同軸の第1穴部と、前記第1穴部と同軸であって前記外側配管と嵌合する第2穴部と、前記高圧流路に連通し、前記第1穴部と前記第2穴部に対して前記パワーエレメントから離間する側に偏心した第3穴部とを有する、
ことを特徴とする請求項に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記内側配管の外周面の少なくとも一部は、前記第3穴部の内周面に当接している、
ことを特徴とする請求項に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記内側配管は、螺旋溝を外周面に形成した螺旋部を有し、前記螺旋部における前記螺旋溝以外の前記外周面は前記外側配管の内周面に当接している、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記パワーエレメント側における、前記第1穴部の端部位置と前記第3穴部の端部位置とが一致する、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記熱伝達制御部は、前記内側配管が嵌合する前記低圧流路と同軸の第1穴部と、前記外側配管と嵌合する第2穴部とを有し、前記第2穴部は、前記第1穴部に対して前記パワーエレメントから離間する側に偏心している、
ことを特徴とする請求項に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記パワーエレメント側における、前記第1穴部の端部位置と前記第2穴部の端部位置とが一致する、
ことを特徴とする請求項に記載の膨張弁。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による膨張弁は、内側配管内を低圧冷媒が通過し、前記内側配管の周囲に配置された外側配管と前記内側配管との間を高圧冷媒が通過する二重配管を接続可能な膨張弁であって、
前記低圧冷媒が流れる低圧流路と、前記高圧冷媒が流れる高圧流路とを備えた弁本体と、
前記弁本体に取り付けられたパワーエレメントと、
前記弁本体に対して前記外側配管を前記内側配管よりも前記パワーエレメントから離間する方向に偏心して接続することにより、前記パワーエレメントと前記外側配管内を流れる高圧冷媒との熱伝達を抑制する熱伝達制御部と、を有する、ことを特徴とする。