(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149057
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】軸受摩耗量推定装置及び軸受摩耗量推定方法
(51)【国際特許分類】
F02B 39/14 20060101AFI20220929BHJP
F02B 39/16 20060101ALI20220929BHJP
F01D 25/16 20060101ALI20220929BHJP
F02C 7/06 20060101ALI20220929BHJP
F02C 3/10 20060101ALI20220929BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220929BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20220929BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20220929BHJP
【FI】
F02B39/14 A
F02B39/16 F
F01D25/16 K
F02C7/06 Z
F02C3/10
F02C7/00 A
F01D25/00 X
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050997
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 勲
【テーマコード(参考)】
2G024
3G005
【Fターム(参考)】
2G024AC03
2G024AC05
2G024BA19
2G024BA21
2G024CA09
2G024CA16
2G024CA17
2G024FA06
2G024FA14
3G005FA27
3G005FA48
3G005GB51
3G005GD28
3G005GE08
3G005JA16
3G005JA29
3G005JA40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】過給機又はパワータービンを頻繁に分解することなく軸受の摩耗量を精度良く推定することができる軸受摩耗量推定装置を提供する。
【解決手段】過給機又はパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置であって、過給機又はパワータービンの点検時に計測された軸受の摩耗量の実測値を含むオフラインデータを取得するオフラインデータ取得部と、軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、過給機又はパワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するオンラインデータ取得部と、オフラインデータ取得部によって取得したオフラインデータにおける摩耗量の実測値と、オンラインデータ取得部によって取得したオンラインデータにおける少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前回の点検後における軸受の摩耗量を推定するように構成された軸受摩耗量推定部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機又はパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置であって、
前記過給機又は前記パワータービンの前回の点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値を含むオフラインデータを取得するように構成されたオフラインデータ取得部と、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するように構成されたオンラインデータ取得部と、
前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成された軸受摩耗量推定部と、
を備える、軸受摩耗量推定装置。
【請求項2】
前記オンラインデータ取得部は、前記過給機又は前記パワータービンの発停回数に関する発停回数パラメータを取得するように構成され、
前記軸受摩耗量推定部は、前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記発停回数パラメータとに基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成された、請求項1に記載の軸受摩耗量推定装置。
【請求項3】
前記軸受摩耗量推定部は、前記発停回数パラメータに基づいて、前記過給機又は前記パワータービンの発停回数が多いほど前記軸受の摩耗量を大きく推定するように構成された、請求項2に記載の軸受摩耗量推定装置。
【請求項4】
前記オンラインデータ取得部は、前記過給機又は前記パワータービンの回転数域に応じた前記軸受への影響度を示す回転数域影響パラメータを取得するように構成され、
前記軸受摩耗量推定部は、前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記回転数域影響パラメータとに基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成された、請求項1に記載の軸受摩耗量推定装置。
【請求項5】
前記軸受摩耗量推定部は、前記回転数域影響パラメータに基づいて、前記過給機又は前記パワータービンの回転数が大きいほど、前記軸受の摩耗量を小さく推定するように構成された請求項4に記載の軸受摩耗量推定装置。
【請求項6】
過給機又はパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定方法であって、
前記過給機又は前記パワータービンの前回の点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値を含むオフラインデータを取得するオフラインデータ取得ステップと、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するオンラインデータ取得ステップと、
前記オフラインデータ取得ステップによって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得ステップによって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定する軸受摩耗量推定ステップと、
を備える、軸受摩耗量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受摩耗量推定装置及び軸受摩耗量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機又はパワータービン等の回転機械の軸受の摩耗量を計測するためには、回転機械の運転を停止して回転機械を分解する必要があるため、軸受の摩耗量を頻繁に計測することはできない。特許文献1には、機器を分解することなく、潤滑油をサンプリングしてその中の夾雑物の量を測定することによって軸受の摩耗量を予測する技術が開示されている。また、特許文献2には、過給機の圧油供給源の監視圧力を示す信号の高周波数成分等に基づいて軸受の劣化を予測する技術が開示されている。また、特許文献3には、工作機械の軸受の摩耗量を主軸の回転時間に基づいて予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-103745号公報
【特許文献2】特許第5923615号公報
【特許文献3】特許第6595544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3の何れにおいても、対象とするパラメータのみによって軸受の摩耗量を予測する場合、予測精度の向上には限界がある。このため、回転機械の部品交換や点検時期を適切に定めることが困難であった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、過給機又はパワータービンを頻繁に分解することなく軸受の摩耗量を精度良く推定することができる軸受摩耗量推定装置及び軸受摩耗量推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る軸受摩耗量推定装置は、
過給機又はパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置であって、
前記過給機又は前記パワータービンの点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値を含むオフラインデータを取得するように構成されたオフラインデータ取得部と、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するように構成されたオンラインデータ取得部と、
前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成された軸受摩耗量推定部と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る軸受摩耗量推定方法は、
過給機又はパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定方法であって、
前記過給機又は前記パワータービンの点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値を含むオフラインデータを取得するオフラインデータ取得ステップと、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するオンラインデータ取得ステップと、
前記オフラインデータ取得ステップによって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得ステップによって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定する軸受摩耗量推定ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、過給機又はパワータービンを頻繁に分解することなく軸受の摩耗量を精度良く推定することができる軸受摩耗量推定装置及び軸受摩耗量推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る軸受摩耗量推定システム100の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した軸受摩耗量推定装置24のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図1及び
図2に示した軸受摩耗量推定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】回転数域影響パラメータa1~axについて説明するための図である。
【
図5】摩耗量Emaxについて説明するための図である。
【
図6】軸受摩耗量推定装置24を用いた摩耗量の推定方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る軸受摩耗量推定システム100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、軸受摩耗量推定システム100は、回転機械としての過給機2の滑り軸受5の摩耗量を推定するように構成されている。
【0012】
過給機2は、圧縮機4と、圧縮機4と回転軸6を介して連結されたタービン8と、回転軸6を回転可能に支持する滑り軸受5とを備える。
【0013】
不図示のエンジンの排ガスが排ガスライン9からタービン8に供給されることでタービン8が回転し、これにより圧縮機4が駆動して空気を圧縮する。圧縮機4で圧縮された空気はエンジンに供給される。タービン8で膨張した排ガスは排ガスライン10から排出される。
【0014】
滑り軸受5には潤滑油供給ライン12を介して潤滑油が供給され、回転軸6と滑り軸受5との潤滑に利用される。滑り軸受5に供給された潤滑油は、潤滑油排出ライン14を介して排出される。
【0015】
軸受摩耗量推定システム100は、回転数センサ16、圧力センサ18、温度センサ20,22及び軸受摩耗量推定装置24を備える。
【0016】
回転数センサ16は、過給機2の回転数Ntを計測するように構成されている。回転数センサ16は、例えば回転軸6の回転数を直接計測することで過給機2の回転数Ntを計測してもよいし、不図示のエンジンの回転数又は負荷を計測して、計測結果を過給機2の回転数Ntに換算してもよい。
【0017】
圧力センサ18は、滑り軸受5で使用される潤滑油の圧力Ploを計測するように構成されている。図示する例示的形態では、圧力センサ18は、滑り軸受5で使用される潤滑油の圧力Ploとして、潤滑油供給ライン12における潤滑油の圧力を計測するよう構成されているが、例えば潤滑油供給ライン12に接続される不図示の潤滑油タンク等における潤滑油の圧力を計測するように構成されていてもよい。
【0018】
温度センサ20は、滑り軸受5で使用される潤滑油の温度Tloを計測するように構成されている。図示する例示的形態では、温度センサ20は、滑り軸受5で使用される潤滑油の温度Tloとして、潤滑油排出ライン14における潤滑油の温度を計測するように構成されているが、例えば潤滑油供給ライン12における潤滑油の温度又は潤滑油供給ライン12に接続される不図示の潤滑油タンク等における潤滑油の温度を計測するように構成されていてもよい。
【0019】
温度センサ22は、過給機2におけるタービン8の排ガスの温度Teを計測するように構成されている。図示する例示的な形態では、温度センサ22は、タービン8の排ガスの温度Teとして、排ガスライン9を流れる排ガスの温度を計測するように構成されている。
【0020】
軸受摩耗量推定装置24の構成及び機能については、
図2~
図6を用いて以下で説明する。
図2は、
図1に示した軸受摩耗量推定装置24のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3は、
図1及び
図2に示した軸受摩耗量推定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0021】
図2に示すように、軸受摩耗量推定装置24は、例えばプロセッサ72、RAM(Random Access Memory)74、ROM(Read Only Memory)76、HDD (Hard Disk Drive)78、入力I/F80、及び出力I/F82を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。なお、軸受摩耗量推定装置24のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。また軸受摩耗量推定装置24は、軸受摩耗量推定装置24の各機能を実現するプログラムをコンピュータが実行することにより構成される。以下で説明する軸受摩耗量推定装置24における各部の機能は、例えばROM76に保持されるプログラムをRAM74にロードしてプロセッサ72で実行するとともに、RAM74やROM76におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0022】
図3に示すように軸受摩耗量推定装置24は、オフラインデータ取得部26、オンラインデータ取得部28、軸受摩耗量推定部30、記憶部32及びアラーム信号生成部34を含む。
【0023】
オフラインデータ取得部26は、過給機2の前回の分解点検時に計測された滑り軸受5の摩耗量の実測値Eを含むオフラインデータを取得するように構成されている。また、オフラインデータ取得部26は、オフラインデータとして、摩耗量の実測値Eに加えて、過給機2の運転中に計測した上記潤滑油の分析値(準オフラインデータ)を取得してもよく、上記潤滑油の分析値として、上記潤滑油の汚染度m1、金属摩耗粉量m2、ペンタン不溶解分m3及び水分m4のうち少なくとも1つを取得してもよい。上記潤滑油の汚染度m1は、例えばISO4406やNAS1638等によって規定される汚染度(汚染物質としての粒子の大きさと数によって規定される汚染度)であってもよい。なお、過給機2の分解点検(開放点検)とは、滑り軸受5の摩耗量を計測できる程度に過給機2を分解して過給機2の点検を行うことを意味し、例えば過給機2の定期点検及び過給機2のオーバーホールを含む。オフラインデータ取得部26によって取得されたオフラインデータは、記憶部32に保存されて後述のように滑り軸受5の摩耗量の推定に用いられる。
【0024】
オンラインデータ取得部28は、滑り軸受5の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータについて、過給機2の運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するように構成されている。オンラインデータ取得部28は、オンラインデータとして、回転数センサ16によって計測された過給機2の回転数Nt、圧力センサ18によって計測された潤滑油の圧力Plo、温度センサ20によって計測された潤滑油の温度Tlo、温度センサ22によって計測された排ガスの温度Te、及び過給機2の運転時間t、過給機2の発停回数(すなわち過給機2に接続される不図示のエンジンの発停回数)に関する発停回数パラメータs、のうち少なくとも1つのパラメータを取得してもよい。なお、過給機2の発停回数とは、過給機2を起動してから停止するまでの一連の運転を1回とする過給機2の運転の回数を意味する。発停回数パラメータsは過給機2の発停回数であってもよいし、発停回数が滑り軸受5の摩耗量に与える影響を示す影響指数であってもよい。
【0025】
軸受摩耗量推定部30は、オフラインデータ取得部26によって取得した摩耗量の実測値E(過給機2の前回の分解点検時に計測された滑り軸受5の摩耗量の実測値)を含むオフラインデータと、オンラインデータ取得部28によって取得した上記少なくとも1つのパラメータを含むオンラインデータと、に基づいて、過給機2の前回の分解点検後における滑り軸受5の摩耗量を推定するように構成されている。
【0026】
軸受摩耗量推定部30は、例えば下記相関式(a)を用いて、前回の分解点検から次回の分解点検までの各時点(摩耗量の評価対象とする時点)における、前回の分解点検からの滑り軸受5の摩耗量enを推定してもよい。
en=K0×Kn×{∫(f1×f2×f3)}×f4n-1 ・・・(a)
ここで、本明細書において、nは、過給機2の次回の分解点検が滑り軸受5の使用開始時(滑り軸受5の新品時)から数えて何回目の分解点検であるかを示す整数である。また、∫は、前回の分解点検から各時点(摩耗量の評価対象とする時点)までの過給機2の運転時間での積分を意味する。なお、他の実施形態では、∫は、前回の分解点検から次回の分解点検までの過給機2の運転時間での積分であってもよく、この場合はenは前回の分解点検から次回の分解点検までの滑り軸受5の摩耗量に相当する。
【0027】
f1は、滑り軸受の寸法、軸受隙間(滑り軸受5と回転軸6との隙間)の大きさ及び滑り速度に関する関数であり、より詳細には、例えばf1(k1,D,W,cn-1,Nt,t)によって表される。この場合、f1は、パラメータとして、k1、D、W、cn-1、Nt、tを含む。ここで、k1は過給機2と同機種の過給機における設計条件や運転実績に基づいて予め求めた係数であり、Dは回転軸6の軸径であり、Wは滑り軸受5の軸受幅であり、cn-1は、過給機2の前回の分解点検時における滑り軸受5の摩耗量の実測値Eから求めた軸受隙間(実軸受隙間)であり、Ntは過給機2の上述の回転数であり、tは過給機2の前回の分解点検から各時点(摩耗量の評価対象とする時点)までの運転時間である。なお、滑り軸受5の使用開始時における軸受隙間は初期隙間c0とする。なお、∫が前回の分解点検から次回の分解点検までの過給機2の運転時間での積分である場合にはtは、過給機2の前回の分解点検から次回の分解点検までの過給機2の運転時間であってもよい。
【0028】
f2は、過給機2の運転中における滑り軸受5の潤滑状態の影響を示す関数であり、より詳細には、例えばf2(k2,R,Tlo,Plo,Te)によって表される。この場合、f2は、パラメータとして、k2、R、Tlo、Plo及びTeを含む。ここで、k2は過給機2と同機種の過給機における設計条件や運転実績に基づいて予め求めた係数であり、Rは潤滑油粘度指数であり、Tlo、Plo及びTeは、それぞれ、上述の潤滑油の温度、潤滑油の圧力及び排ガスの温度である。
【0029】
f3は、過給機2の発停回数及び回転機械の回転数域に応じた滑り軸受5の摩耗量への影響度に関する関数であり、より詳細には、例えばf3(k3,s,Nt,a1,a2,…,ax)によって表される。この場合、f3は、パラメータとして、k3、s、Nt、a1、a2、…及びaxを含む。ここで、k3は過給機2と同機種の過給機における設計条件や運転実績に基づいて予め求めた係数であり、sは上述の発停回数パラメータであり、Ntは過給機2の上述の回転数であり、a1~axは
図4に示すように過給機2の回転数域(過給機2の回転数Ntの範囲)に応じた軸受5の摩耗量への影響度を表す回転数域影響パラメータである。軸受摩耗量推定部30は、発停回数パラメータsに基づいて、過給機2の発停回数が多いほど前記軸受の摩耗量を大きく推定する。軸受摩耗量推定部30は、回転数域影響パラメータa1~axに基づいて、過給機2の回転数が大きいほど、滑り軸受5の摩耗量を小さく推定する。
【0030】
f4n-1は潤滑油中の夾雑物の軸受隙間への影響に関する関数であり、より詳細には、例えばf4(k4,cn-1,m1,m2,m3,m4)によって表される。この場合、f4は、パラメータとしてk4、cn-1、m1、m2、m3及びm4を含む。ここで、k4は過給機2と同機種の過給機における設計条件や運転実績に基づいて予め求めた係数であり、cn-1は、過給機2の前回の分解点検時における上述の軸受隙間であり、m1~m4は、潤滑油の上述の分析値である。
【0031】
K
0は、設計条件下での設計寿命時間tmax(ガイドライン寿命時間)と設計限界隙間c
limit(摩耗量の許容値上限に対応する隙間)から求める比摩耗率に相当する係数であり、上記式(a)において、f1とf4
n-1の各々に含まれるc
n-1を初期隙間c
0、Knを1とし、各関数f1~f4内の各々のパラメータを設計条件値として、設計寿命時間tmaxと設計限界隙間c
limitを用いて下記式(b)のように求められる。
K
0=Emax/[{∫(f1×f2×f3)}×f4
0] ・・・(b)
ここで、Emaxは
図5に示すように設計限界隙間c
limitと初期隙間c
0との差分(c
limit-c
0)に相当する摩耗量である。また、f4
0はf4の初期値である。
【0032】
Knは、摩耗量の推定値eと摩耗量の実測値Eとの差分を補正する差分補正係数であり、下記式(c)により求められる。
Kn=En-1/en-1 ・・・(c)
【0033】
図6は、軸受摩耗量推定装置24を用いた摩耗量の推定方法の一例を示す図である。
図6に示す例では、逆三角印で示すタイミングの各々において、過給機2の分解点検が行われて滑り軸受5の摩耗量Eが計測される。また、三角印で示すタイミングの各々において、潤滑油の分析が行われて上述の分析値m1~m4が取得される。また、過給機2の運転中(逆三角印を除く期間)には、上述のオンラインデータが取得される。また、丸印で示すタイミングでは、摩耗量の実測値E
nに基づいて滑り軸受5の軸受隙間c
nが更新される。軸受摩耗量推定部30は、上述の式(a)に基づいて滑り軸受5の摩耗量の推定値e
n(将来の摩耗量の予測値)を行う。また、軸受摩耗量推定部30は、摩耗速度de/dtを算出して、摩耗速度de/dtに基づいて滑り軸受5が使用限界(寿命)に至る時期を予測する。
【0034】
アラーム信号生成部34は、滑り軸受5の摩耗量が、摩耗量の許容値上限(滑り軸受5の使用限界に相当する摩耗量に対して裕度を考慮した摩耗量の上限)に対応する閾値ethを超えた場合に、滑り軸受5の部品交換又は過給機2の定期点検を促すためのアラーム信号を生成する。このアラーム信号は、例えば不図示のモニターに注意喚起の表示を行うための信号であってもよいし、他の方法で注意喚起を行うための信号であってもよい。
【0035】
アラーム信号生成部34は、滑り軸受5の摩耗量が、摩耗量の使用限界に対応する閾値elimitを超えると推定される場合に、滑り軸受5の部品交換又は過給機2の定期点検を促すためのアラーム信号を生成する。このアラーム信号は、例えば不図示のモニターに警告の表示を行うための信号であってもよいし、他の方法で警告を行うための信号であってもよい。
【0036】
以上で説明した軸受摩耗量推定装置24によれば、オンラインデータにおける滑り軸受5の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータ(例えば上述の回転数センサ16によって計測された過給機2の回転数Nt、圧力センサ18によって計測された潤滑油の圧力Plo、温度センサ20によって計測された潤滑油の温度Tlo、温度センサ22によって計測された排ガスの温度Te、及び過給機2の運転時間t、過給機2の発停回数に関する発停回数パラメータs、のうち少なくとも1つのパラメータ)と、前回の分解点検時に計測された滑り軸受5の摩耗量の実測値Eと、を考慮して、前回の分解点検後における軸受の摩耗量を推定することにより、過給機2を頻繁に分解することなく滑り軸受5の摩耗量を精度良く推定することができる。また、使用実態に応じた適切なメンテナンス(Condition Based Maintenance: CBM)の実施時期の事前予測ができ、次回の点検時期の決定や部品交換の事前準備が可能となる。また、滑り軸受5の異常摩耗の予兆を把握することが可能であり、過給機2の故障、緊急停止や損傷を未然に防ぐことができる。
【0037】
また、滑り軸受5では、過給機2の起動直後には滑り軸受5と回転軸6との摺動部に油膜が形成されにくく滑り軸受5が摩耗しやすくなる傾向があるため、過給機2の発停回数に関する発停回数パラメータsは、滑り軸受5の摩耗量と正の相関を有する。そこで、軸受摩耗量推定部30は、発停回数パラメータsに基づいて滑り軸受5の摩耗量eを推定することにより、滑り軸受5の摩耗量をより精度良く推定することができる。特に、過給機2の発停回数が多いほど滑り軸受5の摩耗量eを大きく推定することにより、滑り軸受5の摩耗量をより精度良く推定することができる。
【0038】
過給機2は、常に一定の回転数で運転されているのではなく、過給機2が連結された不図示のエンジンの回転数や負荷の変動等によって、過給機2の回転数も変動する。したがって、過給機2の回転数域に応じた滑り軸受5の摩耗量への影響度を予め運転試験等によって確認して上記回転数域影響パラメータa1~axを設定しておき、上記のように回転数域影響パラメータa1~axに基づいて滑り軸受5の摩耗量を推定することにより、滑り軸受5の摩耗量eを精度良く推定することができる。特に、過給機2の回転数は滑り軸受5の摩耗量と負の相関を有するため、上記のように過給機2の回転数が大きいほど滑り軸受5の摩耗量eを小さく推定することにより、滑り軸受5の摩耗量を精度良く推定することができる。
【0039】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0040】
例えば上述した実施形態では、回転機械の例として過給機2について説明したが、本開示は、過給機に限らず、軸受を備えるパワータービンに適用可能である。上述した実施形態では過給機2の軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置について説明したが、同一の手法をパワータービンの軸受の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置に適用してもよい。
【0041】
また、上述した実施形態では、軸受の例として滑り軸受5について説明したが、本開示は滑り軸受5に限らず、摩耗が発生する軸受に適用可能である。
【0042】
例えば、上記式(a)では前回の分解点検から次回の分解点検までの摩耗量を推定したが、例えば滑り軸受5の使用開始時(過給機2の使用開始時)から次回の分解点検までの摩耗量を推定する場合には、上記式(a)で算出した摩耗量eに対して前回の分解点検時に計測した滑り軸受5の摩耗量の実測値Eを加算すればよい。また、上記式(a)において関数f1~f4の構成及び各係数を調整して、上記式(a)における積分の範囲を、前回の分解点検から各時点までの過給機2の運転時間に代えて、滑り軸受5の使用開始時から各時点までの過給機2の総運転時間としてもよい。
【0043】
幾つかの実施形態では、潤滑油の分析値を取得する頻度(潤滑油の分析値のサンプリングの頻度)は、軸受摩耗量推定部30によって推定した滑り軸受5の摩耗量の推定値eに基づいて調整してもよい。例えば、摩耗量の推定値eが閾値を超えた場合に、潤滑油の分析値のサンプリングの頻度を増加させてもよい。
【0044】
幾つかの実施形態では、アラーム信号生成部34は、軸受摩耗量推定部30によって推定した滑り軸受5の摩耗量の推定値eに基づいて、滑り軸受5の摩耗量の許容値上限に対応する閾値eth、及び/又は、滑り軸受5の摩耗量の使用限界に対応する閾値elimitを調整してもよい。
【0045】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0046】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る軸受摩耗量推定装置(例えば上述の軸受摩耗量推定装置24)は、
過給機又はパワータービン(例えば上述の過給機2又はパワータービン)の軸受(例えば上述の滑り軸受5)の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定装置であって、
前記過給機又は前記パワータービンの前回の点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値(例えば上述の摩耗量の実測値E)を含むオフラインデータを取得するように構成されたオフラインデータ取得部(例えば上述のオフラインデータ取得部26)と、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータ(例えば上述の回転数センサ16によって計測された過給機2の回転数Nt、圧力センサ18によって計測された潤滑油の圧力Plo、温度センサ20によって計測された潤滑油の温度Tlo、温度センサ22によって計測された排ガスの温度Te、及び過給機2の運転時間t、過給機2の発停回数に関する発停回数パラメータs、のうち少なくとも1つのパラメータ)について、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するように構成されたオンラインデータ取得部(例えば上述のオンラインデータ取得部28)と、
前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータとに基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量(例えば上述の摩耗量e)を推定するように構成された軸受摩耗量推定部(例えば上述の軸受摩耗量推定部30)と、
を備える。
【0047】
上記(1)に記載の軸受摩耗量推定装置によれば、オンラインデータにおける軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータと、前回の点検時に計測された軸受の摩耗量の実測値とを考慮して、前回の点検後における軸受の摩耗量を推定することにより、過給機を頻繁に分解することなく軸受の摩耗量を精度良く推定することができる。
【0048】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の軸受摩耗量推定装置において、
前記オンラインデータ取得部は、前記過給機又は前記パワータービンの発停回数に関する発停回数パラメータ(例えば上述の発停回数パラメータs)を取得するように構成され、
前記軸受摩耗量推定部は、前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記発停回数パラメータとに基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成される。
【0049】
滑り軸受等の軸受では、過給機又はパワータービンの起動直後には摺動部に油膜が形成されにくく軸受が摩耗しやすくなる傾向があるため、過給機又はパワータービンの発停回数に関する発停回数パラメータは、軸受の摩耗量と正の相関を有する。そこで上記(2)に記載のように発停回数パラメータに基づいて軸受の摩耗量を推定することにより、軸受の摩耗量をより精度良く推定することができる。
【0050】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の軸受摩耗量推定装置において、
前記軸受摩耗量推定部は、前記発停回数パラメータに基づいて、前記過給機又は前記パワータービンの発停回数が多いほど前記軸受の摩耗量を大きく推定するように構成される。
【0051】
過給機又はパワータービンの発停回数は軸受の摩耗量と正の相関を有するため、上記(3)に記載のように過給機又はパワータービンの発停回数が多いほど前記軸受の摩耗量を大きく推定することにより、軸受の摩耗量をより精度良く推定することができる。
【0052】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の軸受摩耗量推定装置において、
前記オンラインデータ取得部は、前記過給機又は前記パワータービンの回転数域に応じた前記軸受への影響度を示す回転数域影響パラメータ(例えば上述の回転数域影響パラメータa1~ax)を取得するように構成され、
前記軸受摩耗量推定部は、前記オフラインデータ取得部によって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得部によって取得した前記回転数域影響パラメータとに基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定するように構成される。
【0053】
過給機又はパワータービンは、常に一定の回転数で運転されているのではなく、例えば過給機又はパワータービンが連結された機器(例えばエンジン)の回転数や負荷の変動等によって、過給機又はパワータービンの回転数も変動する。したがって、過給機又はパワータービンの回転数域に応じた軸受の摩耗量への影響度を予め運転試験等によって確認して上記回転数域影響パラメータを設定しておき、上記(4)に記載のように回転数域影響パラメータを考慮して軸受の摩耗量を推定することにより、軸受の摩耗量を精度良く推定することができる。
【0054】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の軸受摩耗量推定装置において、
前記軸受摩耗量推定部は、前記回転数域影響パラメータに基づいて、前記過給機又は前記パワータービンの回転数が大きいほど、前記軸受の摩耗量を小さく推定するように構成される。
【0055】
過給機又はパワータービンの回転数は軸受の摩耗量と負の相関を有するため、上記(5)に記載のように過給機又はパワータービンの回転数が大きいほど前記軸受の摩耗量を小さく推定することにより、軸受の摩耗量を精度良く推定することができる。
【0056】
(6)本開示の少なくとも一実施形態に係る軸受摩耗量推定方法は、
過給機又はパワータービン(例えば上述の過給機2又はパワータービン)の軸受(例えば上述の滑り軸受5)の摩耗量を推定するための軸受摩耗量推定方法であって、
前記過給機又は前記パワータービンの前回の点検時に計測された前記軸受の摩耗量の実測値(例えば上述の摩耗量の実測値E)を含むオフラインデータを取得するオフラインデータ取得ステップと、
前記軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータ(例えば上述の回転数センサ16によって計測された過給機2の回転数Nt、圧力センサ18によって計測された潤滑油の圧力Plo、温度センサ20によって計測された潤滑油の温度Tlo、温度センサ22によって計測された排ガスの温度Te、及び過給機2の運転時間t、過給機2の発停回数に関する発停回数パラメータs、のうち少なくとも1つのパラメータ)について、前記過給機又は前記パワータービンの運転中にモニタリングされるオンラインデータを取得するオンラインデータ取得ステップと、
前記オフラインデータ取得ステップによって取得した前記オフラインデータにおける前記摩耗量の実測値と、前記オンラインデータ取得ステップによって取得した前記オンラインデータにおける前記少なくとも1つのパラメータと、に基づいて、前記前回の点検後における前記軸受の摩耗量を推定する軸受摩耗量推定ステップと、
を備える。
【0057】
上記(6)に記載の軸受摩耗量推定方法によれば、オンラインデータにおける軸受の摩耗量と相関する少なくとも1つのパラメータと、前回の点検時に計測された軸受の摩耗量の実測値とを考慮して、前回の点検後における軸受の摩耗量を推定することにより、過給機を頻繁に分解することなく軸受の摩耗量を精度良く推定することができる。
【符号の説明】
【0058】
2 過給機
4 圧縮機
5 軸受
5 滑り軸受
6 回転軸
8 タービン
9 排ガスライン
10 排ガスライン
12 潤滑油供給ライン
14 潤滑油排出ライン
16 回転数センサ
18 圧力センサ
20 温度センサ
22 温度センサ
24 軸受摩耗量推定装置
26 オフラインデータ取得部
28 オンラインデータ取得部
30 軸受摩耗量推定部
32 記憶部
34 アラーム信号生成部
72 プロセッサ
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス