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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149061
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】車両後部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/02 20060101AFI20220929BHJP
   B62D 25/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B62D25/02 A
B62D25/06 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051009
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山中 昇平
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA05
3D203BB57
3D203BB62
3D203BB63
3D203CA26
3D203CA29
3D203CA33
3D203CA37
3D203CA73
3D203CB03
(57)【要約】
【課題】重量の増加や、製造コストの上昇などの不具合を抑制しつつ、車両の後突が発生した際にルーフサイドレール部への衝突荷重の入力に起因してリヤドアが不当に開放されることを適切に防止することが可能な車両後部構造を提供する。
【解決手段】サイドボディパネル部Bのうち、リヤドアにより開閉されるドア用開口部3の車両後方側の上部には、リヤピラー部7を介して隣接した配置に窓部4が設けられ、かつこの窓部4の上側には、ルーフサイドレール部5の前側部材2Aと後側部材2Bとの接合部Jが位置している、車両後部構造Aであって、ルーフサイドレール部5の接合部Jよりも車両前方側の位置であり、かつ車両前後方向におけるドア用開口部3の内側縁部の後端Pbからリヤドアの見切り線Laの後端Paまでの範囲R内の位置には、ルーフサイドレール部5への車両後方側からの所定以上の荷重入力があったときに、ルーフサイドレール部5の屈曲変形の起点となる剛性断点8が設けられている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両側部の後部寄り領域にリヤドアによって開閉されるドア用開口部を形成しているサイドボディパネル部と、
このサイドボディパネル部のうち、前記ドア用開口部の車両後方側の上部に、リヤピラー部を介して隣接した配置に設けられた窓部と、
前記サイドボディパネル部の一部をなし、かつ前記窓部の上側に位置して車両前後方向に延びており、車両前後方向に隣接する別部材としての前側部材と後側部材との接合部を有しているルーフサイドレール部と、
を備えている、車両後部構造であって、
前記ルーフサイドレール部のうち、前記接合部よりも車両前方側の位置であり、かつ車両前後方向における前記ドア用開口部の内側縁部の後端から前記リヤドアの見切り線の後端までの範囲内の位置に設けられ、前記ルーフサイドレール部への車両後方側からの所定以上の荷重入力があったときに、前記ルーフサイドレール部の屈曲変形の起点となる剛性断点を、さらに備えていることを特徴とする、車両後部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両後部構造の一例として、特許文献1に記載のものがある。
同文献に記載の車両後部構造を、図6に模式的に示す。同図に示す車両後部構造Aeにおいては、車両側部を構成するサイドボディパネル部Bの後部寄り領域に、ドア用開口部3が形成されている。このドア用開口部3の車両後方側の上部には、フィックスガラス40が装着された固定窓部4が、リヤピラー部7を介して隣接した配置に設けられている。サイドボディパネル部Bは、最外層に位置するサイドアウタパネル1の内面側に各種のインナパネルが重ね合わされて接合されている。サイドボディパネル部Bのうち、固定窓部4の上側には、ルーフサイドレール部5が設けられている。
【0003】
前記した車両後部構造Aeにおいては、ルーフサイドレール部5を構成するルーフサイドレール・インナとして、互いに別体のパネル材である前側部材2Aと後側部材2Bとを備えており、かつこれらが溶接部などの接合部Jを介して固定窓部4の上側の位置で接合されている。
このような構成によれば、材料取りの効率(歩留り)を良くすることが可能である。すなわち、固定窓部4の形成箇所およびその周辺部を、1枚のパネル材からプレス加工する場合には、パネル材としてかなり大きなサイズのものを用いる必要がある。また、固定窓部4の打ち抜き箇所が捨て領域となるため、無駄が多く発生する。したがって、高コスト化を招く。これに対し、前側部材2Aおよび後側部材2Bを固定窓部4の上側において接合した構成とすれば、前記した不具合を解消することが可能である。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0005】
すなわち、車両の後突が発生して車両の後部に大きな衝突荷重Faが入力し、これがルーフサイドレール部5に作用した場合、ルーフサイドレール部5は、ルーフサイドレール・インナの接合部Jの位置で屈曲変形(折れ変形)を生じ易い。このような屈曲変形が生じると、サイドボディパネル部Bのうち、固定窓部4の下側周辺部が、矢印N1で示すように下降する結果、その一部が矢印N2で示すように車両前方側に変位し、リヤドア9の後部内側に潜り込む現象を生じる場合がある。このような現象を生じると、リヤドア9のロック状態が解除され、リヤドア9が不当に開放される虞がある。
【0006】
前記した虞は適切に解消することが望まれるが、その対策手段として、たとえば固定窓部4の形成箇所およびその周辺部(ルーフサイドレール部5を含む)の剛性を単に高くしただけでは、製造コストが高くなる。また、重量の増大や生産性の低下なども招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-18750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、重量の増加や、製造コストの上昇などの不具合を抑制しつつ、車両の後突が発生した際にルーフサイドレール
部への衝突荷重の入力に起因してリヤドアが不当に開放されることを適切に防止することが可能な車両後部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明により提供される車両後部構造は、車両側部の後部寄り領域にリヤドアによって開閉されるドア用開口部を形成しているサイドボディパネル部と、このサイドボディパネル部のうち、前記ドア用開口部の車両後方側の上部に、リヤピラー部を介して隣接した配置に設けられた窓部と、前記サイドボディパネル部の一部をなし、かつ前記窓部の上側に位置して車両前後方向に延びており、車両前後方向に隣接する別部材としての前側部材と後側部材との接合部を有しているルーフサイドレール部と、を備えている、車両後部構造であって、前記ルーフサイドレール部のうち、前記接合部よりも車両前方側の位置であり、かつ車両前後方向における前記ドア用開口部の内側縁部の後端から前記リヤドアの見切り線の後端までの範囲内の位置に設けられ、前記ルーフサイドレール部への車両後方側からの所定以上の荷重入力があったときに、前記ルーフサイドレール部の屈曲変形の起点となる剛性断点を、さらに備えていることを特徴としている。
【0011】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の後突が発生し、その衝突荷重がルーフサイドレール部に入力した場合、このルーフサイドレール部を剛性断点の位置で屈曲変形させることが可能となる。このことにより、ルーフサイドレール部における前側部材と後側部材との接合部の位置でルーフサイドレール部が大きく屈曲変形することを回避することができる。このため、ルーフサイドレール部が接合部の位置で屈曲変形することに起因してリヤドアが不当に開放することを適切に防止することが可能となる。
また、前記剛性断点は、車両前後方向において、ドア用開口部の内側縁部の後端からリヤドアの見切り線の後端までの範囲内に位置しているが、この範囲は、一般的には、複数の段差部がプレス加工されているなどして、高強度の稜線が多く設けられ、またリヤドア用ストライカなどの取付け箇所周辺部を補強するための補強部材が配される範囲であり、サイドボディパネル部の中でも、強度が積極的に高められた部位とされる。このため、車両の後突が発生し、ルーフサイドレール部が前記剛性断点の位置で屈曲変形したとしても、このことに起因してサイドボディパネル部の一部がリヤドアの内側に潜り込むようなことは生じないようにし、リヤドアが不当に開放することを適切に防止することができる。
本発明は、車両の後突時にリヤドアが不当に開放することを防止するための手段として、剛性断点を設ける手段を採用しているため、補強部材などを別途用いて窓部の形成箇所およびその周辺部の剛性を高める必要をなくし、または少なくすることが可能である。したがって、車両重量の軽量化や、製造コストの低減化を適切に図ることができる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る車両後部構造の一例を示す要部側面図である。
図2図1に示す車両後部構造のサイドアウタパネルを省略した状態の要部側面図である。
図3図2の要部斜視図である。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5図3のV-V断面図である。
図6】従来技術の一例を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
なお、理解の容易のため、図6に示した従来技術の構成と同一または類似の要素には、前記従来技術と同一の符号を付すこととする。
また、図面では、車両の右側の構造のみを示し、左側の構造は省略しているが、左側の構造は、右側の構造と対称であり、その説明は省略する。
【0015】
図1に示す車両後部構造Aは、サイドボディパネル部B、およびリヤヘッダパネル6を備えている。
サイドボディパネル部Bは、車両側部を構成する主要部材であり、サイドアウタパネル1と、その内側に位置して互いに接合された複数のインナパネル2(図2も参照)と、を組み合わせて接合することにより構成されている。
【0016】
サイドボディパネル部Bの後部寄り領域には、ドア用開口部3、窓部4、この窓部4の上側に位置して車両前後方向に延びるルーフサイドレール部5が設けられている。
ドア用開口部3は、前部に回転支軸を備えたサイドドアとしてのリヤドア(不図示)によって開閉される開口部であり、このドア用開口部3の内周縁部およびその付近には、複数の段部がプレス加工によって形成され、これら段部の頂部としての複数の稜線Lが設けられている。これら複数の稜線Lが設けられた領域は、稜線Lが設けられていない領域と比較すると、剛性が高い。本実施形態においては、複数の稜線Lのうち、最も外周に位置する稜線Lが、リヤドアの見切り線La(リヤドアとサイドボディパネル部Bとの境界線)に相当する。
図示説明は省略するが、ドア用開口部3の車両後方側の見切り線Laの近傍には、リヤドアを閉めた際にそのドア閉め状態をロックするためのストライカ、およびその取付け箇所付近を補強するための補強部材が設けられ、強度向上が図られている。
【0017】
窓部4は、サイドボディパネル部Bに形成された窓用開口部がフィックスガラス40によって塞がれた固定窓部である。この窓部4は、ドア用開口部3の車両後方側の上部寄りの位置に、リヤピラー部7を介して隣接した配置に設けられている。
【0018】
ルーフサイドレール部5のインナパネル(ルーフサイドレール・インナ)2として、車両前後方向に隣接して設けられた前側部材2A(2)および後側部材2B(2)が設けられている。前側部材2Aの後端部と、後側部材2Bの前端部とは、窓部4の上側の位置において相互に当接し、かつたとえば溶接部としての接合部Jを介して連結されている。このような構成によれば、先の従来技術と同様に、大きなサイズのインナパネルを準備した上で、このインナパネルに窓用開口部を打ち抜き加工する必要はなく、材料取りの効率をよくすることが可能である。
【0019】
ルーフサイドレール部5のうち、前記した接合部Jよりも車両前方側の位置には、剛性断点8が設けられている。より具体的には、図3図5によく表れているように、前記した前側部材2Aには、接合部Jよりも車両前方側に位置する剛性断点8が設けられている。前側部材2Aには、車両前後方向に間隔を隔てて並ぶ2つのビード部20が設けられており、これら2つのビード部20の相互間領域が、剛性断点8である。
ここで、剛性断点8は、ルーフサイドレール部5の剛性が変化(急変)する箇所であり、かつルーフサイドレール部5にその車両後方側から所定以上の大きな荷重が入力した際に、ルーフサイドレール部5の曲げ変形を誘発し、その起点となる箇所である。換言すると、ルーフサイドレール部5の他の箇所よりも屈曲変形を生じ易い部分であり、好ましくは、接合部Jと同等以上に屈曲変形を生じ易い部分とされる。
【0020】
本実施形態においては、2つのビード部20は、前側部材2Aにいわゆる段押しプレス
加工を施すことにより形成されており、前側部材2Aの一部の領域が、車幅方向外方に張り出し加工された部位であって、上下高さ方向に延びた車両側面視縦長矩形状である。ビード部20の形成箇所自体は、剛性が高い領域であるが、これら2つのビード部20の相互間領域は、2つのビード部20に相対して剛性がかなり低い領域であるため、剛性断点8となっている。
【0021】
剛性断点8の位置は、既述したように、接合部Jよりも車両前方側であるが、このことに加え、図1に示すように、車両前後方向において、ドア用開口部3の内側縁部の後端Pbからリヤドアの見切り線Laの後端Paまでの範囲R内とされている。剛性断点8の車両前後方向の中心線CLが、前記した範囲R内にあればよい。好ましくは、剛性断点8は、窓部4よりも車両前方側に位置している。
【0022】
リヤヘッダパネル6は、車両の左右両側のルーフサイドレール部5(左側のルーフサイドレール部は不図示)の相互間に橋渡し接続され、かつ車幅方向に延びる部材であり、ルーフパネル(不図示)の後部を支持する部材である。このリヤヘッダパネル6の車幅方向の端部60は、前側部材2Aのうち、2つのビード部20が設けられている領域の内面側に当接し、かつ溶接などの手段を用いて連結されている。
【0023】
次に、前記した車両後部構造Aの作用について説明する。
【0024】
図1において、車両の後突が発生し、その衝突荷重Fがルーフサイドレール部5に入力した場合、このルーフサイドレール部5を剛性断点8の位置で屈曲変形させることが可能である。その際、ルーフサイドレール部5の接合部Jの箇所においても屈曲変形を生じる可能性はあるものの、仮に、この接合部Jにおいて屈曲変形が生じるとしても、少ない変形量に抑制することが可能である。接合部Jの位置で大きな屈曲変形が生じると、図6を参照して説明した原理により、リヤドアの後部内側にサイドボディパネル部Bの一部が潜り込むため、リヤドアが開放する虞があるが、本実施形態によれば、そのような虞をなくすことが可能となる。
【0025】
一方、剛性断点8は、既述したように、車両前後方向において、ドア用開口部3の内側縁部の後端Pbからリヤドアの見切り線Laの後端Paまでの範囲R内の剛性の高い範囲内に位置している。このため、ルーフサイドレール部5が剛性断点8の位置で屈曲変形したとしても、この屈曲変形に起因してサイドボディパネル部Bの一部がリヤドアの内側に潜り込むようなことはない。その結果、剛性断点8の位置で屈曲変形が生じたとしても、このことに基づいてリヤドアが不当に開放することもない。
【0026】
本実施形態においては、車両の後突時にリヤドアが開放することを防止するための手段として、剛性断点8を設けているが、この剛性断点8は、2つのビード部20を前側部材2Aに形成することにより設けられており、その構成は簡易であるほか、製作も容易である。部品点数の増加や重量の増加をなくし、製造コストの上昇も適切に抑制することが可能である。
【0027】
リヤヘッダパネル6の端部は、2つのビード部20によって補強された領域に取付けられているため、リヤヘッダパネル6の取付け強度を高めることが可能である。とくに、ビード部20は、上下高さ方向に延びた形状であるため、このビード部20が設けられた領域は、上下高さ方向への撓み変形(振動)を生じ難い。その結果、車両のルーフの上下振動、およびこれに起因するこもり音の発生を抑制する効果が期待できる。
【0028】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両後部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0029】
上述の実施形態においては、ルーフサイドレール部に剛性断点を設けるための手段として、ルーフサイドレール部に、上下高さ方向に延びた形状の2つのビード部を設けたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、2つのビード部のそれぞれの形状やサイズを他の形状やサイズに変更したり、あるいはビード部を1つのみ設けて、このビード部と非ビード部との境界線の位置を剛性断点にするといったことも可能である。また、ルーフサイドレール部に孔部や薄肉部などが形成された脆弱部を設け、この脆弱部を剛性断点とすることも可能である。
【0030】
剛性断点は、ルーフサイドレール部への車両後方側からの所定以上の荷重入力があったときに、ルーフサイドレール部の屈曲変形の起点となればよく、その際に前側部材と後側部材との接合部の位置で屈曲変形が同時に生じてもかまわない。接合部の位置での屈曲変形量が減少することにより、リヤドアの不当な開放を抑制する効果が得られるからである。
【0031】
図1は、いわゆるセダンタイプの車両のサイドボディパネル部を示しているが、本発明が適用される車種はこれに限定されない。たとえば、ワンボックスタイプなどの他の車種にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
A 車両後部構造
B サイドボディパネル部
La リヤドアの見切り線
Pa リヤドアの見切り線の後端
Pb ドア用開口部の内側縁部の後端
1 サイドアウタパネル
2 インナパネル
3 ドア用開口部
4 窓部
5 ルーフサイドレール部
7 リヤピラー部
8 剛性断点
図1
図2
図3
図4
図5
図6