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  • 特開-樹脂の製造方法および製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149072
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】樹脂の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C08G63/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051025
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】下城 綾子
(72)【発明者】
【氏名】道井 誠
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 智子
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB04
4J029AD01
4J029AD03
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA05
4J029BA07
4J029BA08
4J029BA09
4J029BA10
4J029BD07A
4J029BD10
4J029BF09
4J029BF10
4J029BF25
4J029BF26
4J029BH01
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CD03
4J029CD04
4J029DA16
4J029EA05
4J029FC02
4J029FC03
4J029FC04
4J029FC05
4J029FC07
4J029FC08
4J029FC29
4J029FC35
4J029FC36
4J029GA13
4J029GA14
4J029GA17
4J029GA44
4J029GA71
4J029HB06
4J029JA091
4J029JB131
4J029JB182
4J029JC152
4J029JE162
4J029JF371
4J029KC02
4J029KC06
4J029KE09
(57)【要約】
【課題】 樹脂の製造において重合反応の制御に好適な方法を提供すること。
【解決手段】 反応原料を重合反応させる工程を含む、樹脂の製造方法であって、上記製造方法は、測定波数9400~4500cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定する、スペクトル判定工程、および、重合反応混合物の粘性挙動により重合反応の進行度を判定する、粘性挙動判定工程、
を含む、製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応原料を重合反応させる工程を含む、樹脂の製造方法であって、
前記製造方法は、
測定波数9400~4500cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定する、スペクトル判定工程、および、
重合反応混合物の粘性挙動により重合反応の進行度を判定する、粘性挙動判定工程、
を含む、
樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記重合反応後の樹脂の数平均分子量は、900~20,000の範囲内であり、
前記重合反応混合物中に含まれる前記反応原料の分子量は、30~400の範囲内である、請求項1記載の樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記反応原料は、ジカルボン酸およびジアルコールを含み、
前記樹脂は、塗料用ポリエステル樹脂である、
請求項1または2記載の樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記反応原料は、多価アルコールおよび多価グリシジル基含有物を含み、
前記樹脂は、塗料用エポキシ樹脂である、
請求項1または2記載の樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記粘性挙動判定工程は、
撮像部により、前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する工程と、
画像機械学習部により、取得した前記画像を機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した前記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
請求項1~4いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記画像を取得する工程において時系列的に撮像される前記反応混合物の部位は、前記反応混合物の液面部である、
請求項5記載の樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、前記反応混合物の液面部における撹拌跡、前記液面部の明度、及び前記液面部における泡の位置及び/又は形状の少なくとも1つ以上に基づいて行われる、
請求項5または6記載の樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、
前記画像に基づいて、前記反応混合物の液面部に存在する攪拌跡を含む画素を抽出して解析し、重合反応の進行度を判定する、
請求項5~7いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、
予め、前記反応原料の重合反応における前記反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像した画像と前記重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させた前記画像機械学習部により、解析及び判断される、
請求項5~8いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記画像機械学習部は、前記解析及び/又は判定において、前記反応混合物の温度に応じて補正を行う、温度補正機能を有する、
請求項5~9いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記スペクトル判定工程は、
予め、前記反応原料の重合反応における前記重合反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと前記重合反応の進行度との関係を示す解析データを用いた統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した前記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
請求項1~10いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記スペクトル判定工程は、
予め、前記反応原料の重合反応における前記重合反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと前記重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させたスペクトル機械学習部により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した前記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
請求項1~10いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記近赤外線吸収スペクトル測定は、測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲での、前記重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定である、
請求項1~12いずれかに記載の樹脂の製造方法。
【請求項14】
反応原料を重合反応させる反応容器と、
前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
解析データを用いた統計解析技法機能を有し、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部と、
前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した前記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造装置。
【請求項15】
反応原料を重合反応させる反応容器と、
前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
機械学習機能を有し、スペクトル測定したデータを機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する、スペクトル機械学習部と、
前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した前記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造装置。
【請求項16】
反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
機械学習機能を有し、スペクトル測定したデータを機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する、スペクトル機械学習部と、
前記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した前記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造において重合反応の終了を予測するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば重合反応による樹脂の製造においては、所望の分子量または物性を有する樹脂を製造することを目的として、重合反応時に反応混合物のサンプリングなどを経時的に行い、原料の残存量および/または末端官能基数などを測定することにより、重合反応を制御することが一般的に行われている。
【0003】
しかしながら重合反応は一般的に加温条件下で行われることが多いため、重合反応時のサンプリング作業は安全面において課題がある。また、試料のサンプリングから測定までに一定の時間が必要とされることから、反応混合物の現状との間にタイムラグが発生し、反応混合物の状態をリアルタイムで得ることが困難であるという課題もある。
【0004】
このような課題に対して、例えば特開平2-306937号公報(特許文献1)、特開平9-3172号公報(特許文献2)、特開平11-315137号公報(特許文献3)には、多価カルボン酸と多価アルコールとの重合反応によりポリエステルを得るポリエステル化方法において、近赤外分析吸収スペクトル分光分析装置を用いて、反応系の酸価、水酸基価、分子量および水分などを算定して、反応を制御する発明が記載されている。
【0005】
また、特開平11-60711号公報(特許文献4)には、脂肪族多価アルコールおよび脂肪族多塩基酸の反応混合物中で脱水縮合反応する、重量平均分子量が15,000以上である脂肪族ポリエステル類の製造方法において、近赤外分光分析計を含む測定装置を用いて測定して反応時間等を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-306937号公報
【特許文献2】特開平9-3172号公報
【特許文献3】特開平11-315137号公報
【特許文献4】特開平11-60711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1~4に示される通り、近赤外分光分析を用いてポリエステル樹脂の製造における反応制御を行うことについて検討されてきた。さらに特許文献4では、被測定物の近赤外吸収スペクトルを測定し、この測定データに基づいて、末端基数、水分、濃度、分子量などの物性値を算出する方法が提供される。一方で、従来から重合反応時に実施されてきたサンプリング作業においては、より正確な重合状態を感知するために、サンプリングした試料に対して、末端基数、水分、濃度、分子量などの物性値を、それぞれ測定して、重合反応の終了時点を判断することにより、重合反応を制御してきた。このように重合反応の制御においては、複数の判断根拠により反応制御を行うことが望まれている。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、樹脂の製造において重合反応の制御に好適な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
反応原料を重合反応させる工程を含む、樹脂の製造方法であって、
上記製造方法は、
測定波数9400~4500cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定する、スペクトル判定工程、および、
重合反応混合物の粘性挙動により重合反応の進行度を判定する、粘性挙動判定工程、
を含む、
樹脂の製造方法。
[2]
上記重合反応後の樹脂の数平均分子量は、900~20,000の範囲内であり、
上記重合反応混合物中に含まれる上記反応原料の分子量は、30~400の範囲内である、[1]の樹脂の製造方法。
[3]
上記反応原料は、ジカルボン酸およびジアルコールを含み、
上記樹脂は、塗料用ポリエステル樹脂である、
[1]または[2]の樹脂の製造方法。
[4]
上記反応原料は、多価アルコールおよび多価グリシジル基含有物を含み、
上記樹脂は、塗料用エポキシ樹脂である、
[1]または[2]の樹脂の製造方法。
[5]
上記粘性挙動判定工程は、
撮像部により、上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する工程と、
画像機械学習部により、取得した上記画像を機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した上記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
[1]~[4]いずれかの樹脂の製造方法。
[6]
上記画像を取得する工程において時系列的に撮像される上記反応混合物の部位は、上記反応混合物の液面部である、
[5]の樹脂の製造方法。
[7]
上記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、上記反応混合物の液面部における撹拌跡、上記液面部の明度、及び上記液面部における泡の位置及び/又は形状の少なくとも1つ以上に基づいて行われる、
[5]または[6]の樹脂の製造方法。
[8]
上記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、
上記画像に基づいて、上記反応混合物の液面部に存在する攪拌跡を含む画素を抽出して解析し、重合反応の進行度を判定する、
[5]~[7]いずれかの樹脂の製造方法。
[9]
上記重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、
予め、上記反応原料の重合反応における上記反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像した画像と上記重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させた上記画像機械学習部により、解析及び判断される、
[5]~[8]いずれかの樹脂の製造方法。
[10]
上記画像機械学習部は、上記解析及び/又は判定において、上記反応混合物の温度に応じて補正を行う、温度補正機能を有する、
[5]~[9]いずれかの樹脂の製造方法。
[11]
上記スペクトル判定工程は、
予め、上記反応原料の重合反応における上記重合反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと上記重合反応の進行度との関係を示す解析データを用いた統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した上記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
[1]~[10]いずれかの樹脂の製造方法。
[12]
上記スペクトル判定工程は、
予め、上記反応原料の重合反応における上記重合反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと上記重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させたスペクトル機械学習部により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、
判定した上記重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、
を含む、
[1]~[10]いずれかの樹脂の製造方法。
[13]
上記近赤外線吸収スペクトル測定は、測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定である、
[1]~[12]いずれかに記載の樹脂の製造方法。
[14]
反応原料を重合反応させる反応容器と、
上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
解析データを用いた統計解析技法機能を有し、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部と、
上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した上記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造装置。
[15]
反応原料を重合反応させる反応容器と、
上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
機械学習機能を有し、スペクトル測定したデータを機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する、スペクトル機械学習部と、
上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した上記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造装置。
[16]
反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計と、
機械学習機能を有し、スペクトル測定したデータを機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する、スペクトル機械学習部と、
上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部と、
機械学習機能を有し、取得した上記画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部と、
を備える、樹脂の製造において重合反応の終了を予測するシステム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂の反応原料を重合反応させる重合工程の終了時期を精度良く制御することのできる、樹脂の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態にかかる樹脂の製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、樹脂の製造方法に関する。製造される樹脂として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂、アミノ樹脂、ブロックイソシアネートのうち、1種以上を含むことができる。上記樹脂の好適な1態様は塗料用樹脂である。なお本開示における好適な樹脂は塗料用樹脂であるが、一方で本開示の製造方法の対象は塗料用樹脂に限定されるものではない。上記樹脂の1態様である、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂を例にして説明する。なお、本明細書における「重合反応」には、重縮合反応、ラジカル重合反応、カチオン重合反応などの種々の重合反応が含まれる。
【0013】
アクリル樹脂
アクリル樹脂は、水酸基含有モノマー(a)及び他のモノマー(b)を共重合することによって調製することができる。水酸基含有モノマー(a)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、これら水酸基含有(メタ)アクリレートとε-カプロラクトンとの反応物及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル化物等が挙げられる。さらに、上記多価アルコールと、アクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε-カプロラクトンを開環重合した反応物を用いることもできる。これらの水酸基含有モノマー(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
【0014】
他のモノマー(b)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の、カルボキシル基含有モノマー及びマレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のジカルボン酸モノエステルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n、i又はt-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルアミドモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;等を挙げることができる。これらの他のモノマー(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記他のモノマー(b)のうち、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が好ましく用いられる。
【0015】
水酸基含有モノマー(a)及び他のモノマー(b)の重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合方法として、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状-懸濁二段重合法等を用いることができる。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく用いることができる。溶液重合法として、例えば、上記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、例えば80~200℃の温度で撹拌しながら加熱する方法等が挙げられる。
【0016】
アクリル樹脂の数平均分子量は3,000~20,000であり、好ましくは3,500~15,000であり、例えば、3,500~12,000である。アクリル樹脂の数平均分子量が上記の範囲内にあることにより、塗料組成物の乾燥性を向上させるこができる。
なお、本発明においては、上記の範囲内に分子量を有するアクリル樹脂を単に用いるのではなく、本発明に係る体質顔料及び粘性調整剤と併用される。この組合せによって、上記範囲内に分子量を有するアクリル樹脂を用いても、塗料の乾燥性を向上することができ、その上、塗膜外観を損なわない。
数平均分子量が3,000以上であれば、より良好な塗膜の乾燥性が得ることができ、また、得られる複層塗膜の塗膜物性を向上させ鵜こともでき、数平均分子量が20,000以下であれば、塗膜の光沢等のより良好な塗膜外観が得られる。
【0017】
また、アクリル樹脂の数平均分子量が上記の範囲内にあることにより、塗料組成物は良好な乾燥性を有し、例えば、塗装ブース内に飛び散った塗料組成物のベタツキによるダスト付着等を防止でき、良好な塗装環境を保つことができる。
【0018】
なお、本明細書中において数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定したポリスチレン換算による値である。アクリル樹脂は1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種あるいはそれ以上の種類を併用することもできる。
【0019】
上記アクリル樹脂は、固形分水酸基価が50~250mgKOH/gであるのが好ましい。固形分水酸基価が上記の範囲内にあることにより、ブロックイソシアネートや塗料用アミノ樹脂などの硬化剤と適切に反応させることができ、所望の塗膜物性が得られる。アクリル樹脂の固形分水酸基価は50~200mgKOH/gであるのがより好ましい。上記アクリル樹脂は、固形分酸価が2~50mgKOH/gであるのが好ましい。固形分酸価が上記の範囲内にあることにより、所望の塗膜物性が得られる。アクリル樹脂の固形分酸価は5~20mgKOH/gであるのがより好ましい。なお、本明細書中において、樹脂の酸価及び水酸基価は、いずれも固形分換算での値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
【0020】
ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂として、一般にポリエステルポリオールと呼ばれる、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステル樹脂が好適に用いられる。このようなポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸又はその無水物とを重縮合(エステル反応)して調製することができる。多価アルコールと多塩基酸又はその無水物とを重縮合(エステル反応)する方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重縮合として、例えば、常圧溶液重合法や加圧溶液重合法を挙げることができる。常圧溶液重合として、例えば、上記モノマー混合物を、ジブチル錫オキサイド触媒とキシレン還流下で、例えば180~210℃の温度で撹拌しながら加熱、脱水する方法等が挙げられる。
【0021】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス-(ヒドロキシエチル)イソシアネート等が挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
多塩基酸又はその無水物としては、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、無水エンド酸等が挙げられる。これらの多塩基酸又はその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記成分は反応原料の1態様である。上記反応原料の分子量は30~400の範囲内であるのが好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂として、上記に従い調製したポリエステル樹脂に、ラクトン、油脂又は脂肪酸、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等を用いて変性した変性ポリエステル樹脂を用いることもできる。例えば、油脂又は脂肪酸変性ポリエステル樹脂は、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヤシ油、コーン油、綿実油、亜麻仁油、荏の油、ケシ油、紅花油、大豆油、桐油等の油脂、又はこれらの油脂から抽出した脂肪酸を用いて、ポリエステル樹脂を変性したものである。この、油脂又は脂肪酸変性ポリエステル樹脂の製造においては、ポリエステル樹脂100質量部に対して、上述した油脂及び/又は脂肪酸を合計で30質量部程度まで加えるのが好ましい。
【0025】
上記ポリエステル樹脂は、数平均分子量が900~20,000であるのが好ましい。数平均分子量が上記の範囲内にあることにより、塗装作業性が良好となり、かつ所望の塗膜性能が得られる。ポリエステル樹脂は、数平均分子量が1,200~10,000であるのがより好ましい。上記ポリエステル樹脂は、固形分水酸基価が40~350mgKOH/gであるのが好ましい。固形分水酸基価が上記の範囲内にあることにより、ブロックイソシアネートと適切に反応させることができ、所望の塗膜性能が得られる。ポリエステル樹脂の固形分水酸基価は40~300mgKOH/gであるのがより好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はノボラック型エポキシ樹脂の少なくともいずれか一方が含まれるのが好ましい。エポキシ樹脂として、1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂や末端グリシジル基にモノカルボン酸やモノアミン、モノフェノール化合物を付加したものが好適に用いられる。このようなエポキシ樹脂は、低分子多価アルコールと低分子多価グリシジル基含有物との重合物として調製することができる。調製方法として例えば、ビスフェノールAとビスフェノールAのエピクロルヒドリンの2付加物を、3級アミン触媒を用いて、キシレン溶媒下で例えば80~180℃の温度で撹拌しながら加熱する方法等が挙げられる。
【0027】
本発明において、エポキシ樹脂は、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はノボラック型エポキシ樹脂に加えて、更に他のエポキシ樹脂が含まれていてもよい。他のエポキシ樹脂の具体例として、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0028】
エポキシ樹脂全量に占めるビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はノボラック型エポキシ樹脂の量は、10~100質量%であるのが好ましく、20~100質量%であるのがより好ましい。エポキシ樹脂全量に占めるビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はノボラック型エポキシ樹脂の量が上記の範囲内にあることにより、被塗物に対する密着性がより向上する。
【0029】
低分子多価アルコールと低分子多価グリシジル基含有物とを重合する方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重縮合として、例えば、常圧溶液重合法や加圧溶液重合法を挙げることができる。常圧溶液重合として、例えば、上記モノマー混合物を、ジブチル錫オキサイド触媒とキシレン還流下で、例えば180~210℃の温度で撹拌しながら加熱、脱水する方法等が挙げられる。
【0030】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、900~20,000であることが好ましい。数平均分子量が上記の範囲内にあることによって、より良好な塗膜物性及び塗装作業性が得られる利点がある。
【0031】
アミノ樹脂
本発明において使用するアミノ樹脂は、1価アルコールでエーテル化された通常のアミノ樹脂であって、一般に2~7%の遊離ホルムアルデヒドを含有しているものである。その種類としては、例えば1価アルコールでエーテル化された、メラミン樹脂、アセトグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、チオ尿素樹脂、メラミン-アセトグアナミン共縮合樹脂、メラミン-ベンゾグアナミン共縮合樹脂、メラミン-チオ尿素共縮合樹脂、アセトグアナミン-ベンゾグアナミン共縮合樹脂、アセトグアナミン-尿素共縮合樹脂、アセトグアナミン-チオ尿素共縮合樹脂、ベンゾグアナミン-尿素共縮合樹脂、ベンゾグアナミン-チオ尿素共縮合樹脂および尿素-チオ尿素共縮合樹脂が挙げられる。上記1価アルコールとしては、通常のエーテル化反応に使用されるものであればいずれであってもよく、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソ-ブタノール、sec-ブタノール、n-アミルアルコール、n-オクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルおよびアリルアルコールが挙げられ、1種または2種以上が使用される。
上記1価アルコールでエーテル化されたアミノ樹脂は、通常の方法に従って製造することができる。例えば、当該アミノ樹脂の原料である所定のアミノ化合物とホルムアルデヒドを先ず塩基性触媒の存在下で70~110℃の温度で攪拌しながら反応せしめ、メチロール化物を形成し、ついでこれを酸性触媒の存在下1価アルコールでエーテル反応を行うが、または上記アミノ化合物とホルムアルデヒドを酸性触媒および1価アルコールの存在下で同時にメチロール化およびエーテル化してもよい。その後反応が完了するまで加熱攪拌を継続する方法が挙げられる。
【0032】
ブロックイソシアネート
ブロックイソシアネートとしては、脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は 芳香族の、ジイソシアネート、ジイソシアネートの二量体、ジイソシアネートの三量体(好ましくはイソシアヌレート型イソシアネート(いわゆるイソシアヌレート))等多官能 イソシアネート化合物にブロック剤として、アルコール、アミン、βジケトン、アミド、カルボン酸、フェノールなどの活性水素を保有する物質を付加したものを用いることができる。このようなブロックイソシアネートはいわゆるアシンメトリー型のものであってもよい。
【0033】
ジイソシアネートとしては、例えば、5~24個、好ましくは6~18個の炭素原子を含むジイソシアネート等が挙げられる。このようなジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート-(1,11)、リジンエステルジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-及び1,4-ジイソシアネート、1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート:IPDI)、4,4’-ジイソシアナトジシクロメタン、ω,ω’-ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、シクロヘキシル-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5-ジメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5-トリメチル-2,4-ビス(ω-イソシアナトエチル)-ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル )ベンゼン、1,3,5-トリエチル‐2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ジシクロヘキシルジメチルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。また、2,4-ジイソシアナトトルエン及び/又は2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,4-ジイソシアナトイソプロピルベンゼンのような芳香族ジイソシアネートも用いることができる。上記イソシアヌレート型イソシアネートとしては上述したジイソシアネートの三量体を挙げることができる。なお、このようなブロックイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
ブロック剤はこの分野では良く知られているものを用いることができる。例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノールおよびエチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタムおよびβ-プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチルおよび乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミドおよびマレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;ピラゾール系ブロック剤;及びトリアゾール系ブロック剤等を挙げることができる。
【0035】
ブロックイソシアネートは、含まれるブロックイソシアネートの少なくとも一部がイソシアヌレート型ブロックイソシアネートであることが好ましい。また、本発明においては、上記イソシアヌレート型ブロックイソシアネートを、それ以外の脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の多官能ブロックイソシアネート(好適にはジイソシアネート)と組み合わせて混合物として使用することもできる。この場合、ブロックイソシアネートの全量中における上記イソシアヌレート型ブロックイソシアネートの含有割合が60質量%以上であることが好ましい。
【0036】
上記塗膜形成樹脂に対する、ブロックイソシアネートの含有量は、上記塗膜形成樹脂に含まれる水酸基の総数1に対して、ブロックイソシアネート中のイソシアネート基が0.5~1.5であることが好ましい。ブロックイソシアネートの含有量が上記の範囲内にあることにより、十分な硬化が得られ、所望の塗膜物性が得られる。
【0037】
イソシアネート化合物に活性水素保有物質させる付加させる重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合として、例えば、イソシアネート化合物に、ジブチル錫ラウレート触媒とメチルイソブチルケトン溶媒で、例えば60~110℃の温度で撹拌しながら加熱しながら、活性水素保有物質を滴下させ、その後反応が完了するまで加熱しながら反応が終了するまで攪拌を継続する方法が挙げられる。
【0038】
本開示における好適な1態様として、製造される樹脂が塗料用ポリエステル樹脂であり、製造に用いられる反応原料がジカルボン酸およびジアルコールを含む態様が挙げられる。ここで、重合反応後の樹脂の数平均分子量は、900~20,000の範囲内であり、反応混合物中に含まれる前記反応原料の分子量は、30~400の範囲内であるのがより好ましい。
また、本開示における好適な他の1態様として、製造される樹脂が塗料用エポキシ樹脂であり、製造に用いられる反応原料が多価アルコールおよび多価グリシジル基含有物を含む態様が挙げられる。ここで、重合反応後の樹脂の数平均分子量は、900~20,000の範囲内であり、反応混合物中に含まれる前記反応原料の分子量は、30~400の範囲内であるのがより好ましい。
【0039】
なお、他の種類の樹脂についても同様に、既知の製造条件等を用いて反応原料の準備や重合工程を行うことができる。
【0040】
樹脂の製造方法
本開示の樹脂の製造方法は、反応原料を重合反応させる工程を含む樹脂の製造方法である。そして上記製造方法は、
測定波数9400~4500cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定する、スペクトル判定工程、および、
重合反応混合物の粘性挙動により重合反応の進行度を判定する、粘性挙動判定工程、
を含む。上記スペクトル判定工程および粘性挙動判定工程は、同時に行ってもよく、各工程を別途行ってもよい。上記スペクトル判定工程および粘性挙動判定工程を別途行う場合は、いずれの順序であってもよい。本開示の好適な1態様として、上記スペクトル判定工程および粘性挙動判定工程を、重合反応の進行度を判定し重合反応を終了させる態様が挙げられる。本開示の製造方法においては、複数の判断根拠により、重合反応の進行度を判定し、反応制御を行うことができるため、重合反応の進行度をより確実に取得することができ、良好な反応制御が可能となる利点がある。以下、スペクトル判定工程および粘性挙動判定工程について記載する。
【0041】
スペクトル判定工程
本開示におけるスペクトル判定工程は、測定波数9400~4500cm-1の範囲での、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定する工程である。例えば、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを連続的に測定し、測定データを解析することによって、重合反応の進行度を判定することができる。このスペクトル判定工程において、判定した重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を好適に終了させることができる。
【0042】
近赤外線吸収スペクトル測定は、近赤外線の分光スペクトルを検出する分光光度計を用いて測定することができる。分光光度計としては、透過型のプローブを有する分光光度計を好適に用いることができる。分光光度計として例えば、近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製などを用いることができる。
【0043】
上記近赤外線吸収スペクトル測定は、上記波数の近赤外線を反応混合物に照射し、反応混合物からの透過光を、分光光度計の検出端子で検出することにより、近赤外線吸収スペクトルの測定が行われる。本開示の方法においては、反応混合物に対してサンプリング作業を行うことなく、樹脂の重合工程において反応混合物に対してそのままスペクトル測定を行うことができる。一方で本開示の製造方法の1態様において、反応混合物から測定試料を採取して測定する手法を排除するものではない。
【0044】
分光光度計の検出端子の設置場所は、反応原料を重合反応させる反応容器の形状および近赤外線の照射形態などに応じて適宜選択することができる。上記近赤外線吸収スペクトル測定において、反応混合物中に含まれるスペクトル測定対象は、製造工程に用いられる反応原料、有機溶媒、水分、重合中間体、重合反応で製造された樹脂、副生物などが含まれる。
【0045】
本開示の製造方法において、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定(スペクトル判定)する手法の1例として、予め、反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと重合反応の進行度との関係を示す解析データを用いた統計解析技法により、解析し判断する手法が挙げられる。
重合反応の進行の測定データは、重合反応により生成した樹脂の特数値、反応原料の特数値、反応により生成した副生成物の特数値などを、一般分析法により測定することにより、データとして得ることができる。
一般分析法として、例えば、GPC、LC、HPLCなどのクロマトグラフィ測定、酸価、水酸基価、エポキシ価などの官能基価測定、比色分析、反応混合物の粘度測定などが挙げられる。
【0046】
上記の時系列的スペクトル測定データと、重合反応の進行度を示す一般分析法により測定したデータとを統計解析技法により解析する方法として、例えば、導関数による演算、フーリエ変換、主成分分析、PLS(Partial Least Squares Regression)回帰分析、重回帰分析、多重線形回帰分析、判別分析などが挙げられる。上記解析方法として、PLS回帰分析、重回帰分析、多重線形回帰分析などが特に好適に用いることができる。上記解析は、必要に応じて微分処理(2次微分処理を含む)を伴ってもよい。
【0047】
本開示において、上記近赤外線吸収スペクトル測定は測定波数9400~4500cm-1の範囲で行われる。本開示の好ましい1態様として、上記近赤外線吸収スペクトル測定は、測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲での重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定である態様が挙げられる。上記のように測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲で近赤外線吸収スペクトル測定を行うことによって、分析精度をより向上させることができ、重合工程の終了時期をより精度良く制御することができる利点がある。
【0048】
本開示の製造方法の1態様において、測定波数における選択波数の間隔は500cm-1以下であるのが好ましく、100cm-1以下であるのが好ましく、50cm-1以下であるのがさらに好ましく、10cm-1以下であるのが特に好ましい。
例えば選択波数の間隔が500cm-1である場合は、説明変数(使用波数)は10個となり、選択波数の間隔が小さくなるに従い説明変数(使用波数)は多くなる。本開示の製造方法の好適な1態様において、選択波数の間隔を10cm-1以下とした上記測定波数における吸収スペクトルを用いて、統計解析技法により解析データを作成することにより、分析精度を高くすることができ、重合工程の終了時期を精度良く制御することができる利点がある。
【0049】
本開示の製造方法において、重合反応混合物の近赤外線吸収スペクトル測定により、重合反応の進行度を判定(スペクトル判定)する手法の他の1例として、予め、反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定したデータと、重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させた、スペクトル機械学習部により、解析し判断する手法が挙げられる。
この手法においては、上述と同様の手順により得られる、時系列的スペクトル測定データと、重合反応の進行度を示す一般分析法により測定したデータとを、スペクトル機械学習部の学習用関係データとして用いる。
上記手法の他の1態様として、上述と同様の手順により得られる、時系列的スペクトル測定データのグラフ図と、重合反応の進行度を示す一般分析法により測定したデータとを、スペクトル機械学習部の学習用関係データとして用いる。
【0050】
具体的には、教師あり学習により、上記関係性データを用いて、入力を取得した近赤外線吸収スペクトルデータとし、出力を重合反応の進行度とする人工知能モデルを、予め作成する。そして、当該人工知能モデルに、取得した近赤外線吸収スペクトルデータを入力することにより、上記の解析を行い、重合反応の進行度を出力して当該進行度を判定する。なお、関係性データを取得したのと同様の設備及び条件で行うことが好ましい。機械学習のアルゴリズムとしては、特には限定されないが、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、サポートベクターマシーン、k最近傍法、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、決定木、ガウス過程、Extra Trees、CatBoost、Extreme Gradient Boosting、Light Gradient Boosting Machine、AdaBoost、Ridge Regression、Bayesian Ridge、Least Angle Regression、Linear Regression、Huber Regressor、Elastic Net、Random Sample Consensus、Lasso Regression、Orthogonal Matching Pursuit、Passive Aggressive Regressor、Lasso Least Angle Regressionなどが挙げられ、回帰でも良いし、クラス分けを十分に多くとれば分類でも良い。なお、機械学習部は学習用関係データ等の種々の情報を記憶するための記憶部(メモリ)を備えていることが好ましい。
【0051】
本開示の製造方法では、上記スペクトル判定した、重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させることによって、樹脂の製造において、作業者による重合反応中の反応混合物のサンプリングおよび特性の測定を行うことなく、タイムラグなしで重合反応の進行度を判定することができるため、タイムラグが生じる場合と比較して、樹脂の反応原料を重合反応させる重合工程の終了時期を精度良く制御することができる利点がある。また、上記の作業者による作業を省略することができ、人手工数を削減することができる利点がある。
【0052】
粘性挙動判定工程
本開示における粘性挙動判定工程は、重合反応混合物の粘性挙動により重合反応の進行度を判定する工程である。重合反応混合物の粘性挙動を感知する手段は特に限定されるものではない。感知する手段として、例えば、以下に詳述するように、反応混合物の画像取得により粘性挙動を感知してもよい。また、反応混合物の液面部の状態を目視観察し判断することにより、粘性挙動を感知してもよい。他の態様において、反応混合物をサンプリングして粘性挙動を感知してもよい。
【0053】
本開示の好ましい1態様において、上記粘性挙動判定工程は、予め準備した反応原料を重合反応させる工程と、撮像部により、上記反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する工程と、画像機械学習部により、取得した画像を機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する工程と、判定した重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる工程と、を含む。
【0054】
本明細書において、時系列的に撮像して画像は、静止画であってもよく、動画であってもよい。
【0055】
撮像部の具体的態様として、カメラが挙げられる。カメラは任意の既知のものとすることができる。カメラは例えば、反応混合物の液面部を真上から撮像できるように、重合反応を行う反応容器の真上に設置することができる。カメラの設置位置は、反応混合物の少なくとも一部を撮像可能な位置であれば、他の位置に設置することもできる。また、カメラを複数台設置して、複数の方向からの画像を取得するようにしてもよい。
【0056】
撮像の対象となる反応混合物の部分は、上記のように液面部(液面を含む部分)とすることが好ましい。本例では、液面を反応混合物の頂面である液面としているが、側面や底面としても良く、例えば透明な窓部を設けることにより撮像を行うことができる。また、撮像は、時系列的に行うものであるが、タイムラグをなくすために、少なくとも10分毎に画像を取得することが好ましい。10分毎に取得する画像は1枚であってもよいし、例えば0.033秒毎(30FPS)に5秒間撮影した150枚の時系列複数画像を1セットとする、画像セットでもよい。また時系列に画像を取得する方法として、一旦動画撮影して、即時に時系列画像を取得してもよい。
【0057】
本開示の好ましい実施形態では、次いで、画像機械学習部により、取得した画像を機械学習の手法により解析し、重合反応の進行度を判定する。タイムラグをなくすため、ある時刻で画像を取得し次第、次の時刻での撮像を待たずに直ぐに、当該取得した画像に対して重合反応の進行度の判定を行う。画像機械学習部は、任意の既知のプロセッサとすることができる。撮像部及び機械学習部は、画像データを送受信するための通信機能を有することができる。
【0058】
画像機械学習部は、機械学習機能を有するものである。画像機械学習部に、予め、反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像した画像と重合反応の進行度との関係を示す、学習用関係データを用いて学習させることが好ましい。すなわち、教師あり学習により、上記関係性データを用いて、入力を取得した画像データとし出力を重合反応の進行度とする人工知能モデルを、予め作成する。そして、当該人工知能モデルに、取得した画像データを入力することにより、上記の解析を行い、重合反応の進行度を出力して当該進行度を判定する。なお、関係性データを取得したのと同様の設備及び条件で行うことが好ましい。機械学習のアルゴリズムとしては、特には限定されないが、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、サポートベクターマシーン、k最近傍法、ブースティングを用いることが好ましい。なお、画像機械学習部は学習用関係データ等の種々の情報を記憶するための記憶部(メモリ)を備えていることが好ましい。
【0059】
重合反応の進行度は、反応混合物の液面部における撹拌跡、液面部の明度、及び液面部における泡の状態等にあらわれることが判明した。そこで、重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、反応混合物の液面部における撹拌跡、液面部の明度、及び液面部における泡の状態の少なくとも1つ以上に基づいて行われることが好ましい。
【0060】
具体的には、特徴量の決定に関し、機械学習部が特徴量抽出部を備え、該特徴量抽出部が上記撹拌跡、液面部の明度、及び液面部における泡の状態の少なくとも1つ以上を特徴量として決定することが好ましい。特徴量抽出部は、Maximally Stable Extermal Regions(MSER)、Features from Accelerated Segment Test(FAST)、Oriented-BRIEF(ORB)、Scale-Invariant Feature Transform(SIFT)、Speed-Up Robust Features(SURF)、HOG(Histograms of Oriented Gradients)等のアルゴリズムを用いたものとすることができる。
本開示の好ましい実施形態の変形例としては、予め、機械学習部に、上記撹拌跡、液面部の明度、及び液面部における泡の状態の少なくとも1つ以上を特徴量にするように設定しておくこともできる。
【0061】
抽出される特徴量は、例えば数個~数万個のパラメータからなることができる。上記撹拌跡に関する当該パラメータについて、いくつかの例を挙げると、反応混合物の液面に生じた波形状の長さ、個数、曲率等の曲がり方、移動速度(軸方向、遠心方向)、隆起の高さ等の盛り上がり方やである。これらは重合の進行度により変化するため良好な特徴量となり得る。移動速度は時系列ごとの複数の画像を比較することにより算出可能である。また、隆起の高さは、カメラを複数の角度で設置するか、あるいは、画像における隆起部分の明暗の差により算出することもできる。上記液面部の明度に関する当該パラメータとしては、全体の明度や、局所の明度、及び明度の分布等が例示される。重縮合中は窒素を相当量注入しながら反応させ、さらに縮合によって生まれた水が気化して水蒸気となって出てくるが、窒素や水蒸気は、粘度が増大すると泡が抜けにくくなるため、白くなって明度が明るくなる傾向があるため良好な特徴量となり得る。また、泡の状態に関するパラメータとしては、液面における泡が生じる位置や、泡の大きさ、形状、及び泡の破裂の仕方等が例示される。これらも重合の進行度により変化するため良好な特徴量となり得る。
【0062】
重合反応の進行度を判定する工程における解析及び判定は、取得した画像に基づいて、反応混合物の液面部に存在する攪拌跡を含む画素を抽出して解析し、重合反応の進行度を判断されることが好ましい。すなわち、機械学習部が対象物抽出部を備え、当該対象物抽出部により撹拌跡を対象物として抽出した後、特徴量抽出部により当該撹拌跡に関する前述の各パラメータを抽出することができる。この場合、対象となる画素を絞ることができるため効率を向上させることができる。
【0063】
本発明者らは、樹脂の重合反応、特に塗料用樹脂の重合反応において、反応混合物の液面部の画像は、重合反応の進行度に対して有意な変化を生じることを実験により見出している。このような有意な変化により、画像取得により粘性挙動を判定することが可能となった。
【0064】
機械学習部は、解析及び/又は判定において、反応混合物の温度に応じて補正を行う、温度補正機能を有することが好ましい。樹脂は、温度変化に対して粘度が変化しやすい場合があり(特に塗料用樹脂では、その傾向が高い)、そのため、撮像時における反応混合物の温度が異なる場合は、解析・判定の精度が低下するおそれがある。そこで、機械学習部が温度補正機能を有することによって、より精度の高い解析・判定が可能となる利点がある。具体的には、反応混合物の温度に応じて所定の係数を乗じる、所定の補正項を加える等が例示される。
【0065】
本開示の好ましい実施形態では、次いで、判定した重合反応の進行度の結果に基づいて、重合反応を終了させる。一例としては、重合反応の進行度の指標として酸価を用い、例えば酸価が3となった時点で重合反応を終了させるようにすることができる。他の一例としては、重合反応の進行度の指標として粘度を用いることができ、粘度が特定の数値まで上昇した時点で重合反応を終了させるようにすることができる。重合反応の進行度の指標としては、酸価以外にも、例えば、気泡粘度、固形分、水酸基価、エポキシ当量、イソシアネート当量、数平均分子量、粒子径、pH、アミン価、色数、SP値、溶媒トレランス、濁度などを用いることができる。
【0066】
本開示の樹脂の製造方法の1態様における、画像取得による粘性挙動判定は、重合工程を経て製造されるものであって、重合反応の際に撮像する液面部に有意な変化が生じるものであればよく、重合対象が塗料用樹脂に限定されるものではない。
【0067】
本開示の樹脂の製造方法の1態様における、画像取得による粘性挙動判定は、作業者による重合反応中の塗料用樹脂のサンプリングや、温度調整、気泡粘度等の特性の測定を行うことなく、タイムラグなしで重合反応の進行度を判定することができるため、タイムラグが生じる場合と比較して、樹脂の反応原料を重合反応させる重合工程の終了時期を精度良く制御することができる。また、上記の作業者による作業を省略することができ、人手工数を削減することができる利点がある。
【0068】
近赤外線吸収スペクトル測定によるスペクトル判定は、反応混合物の状態をリアルタイムで得ることができるという利点を有する。しかしながら、反応混合物のスペクトル判定を実際に行ったところ、スペクトル判定と実際の反応状態とが一致せず判定ミスが発生する場合があった。これは、分光光度計のプローブに汚れが付着して反応混合物のスペクトル測定が妨げられたり、プローブが反応混合物以外の部分をスペクトル測定してしまうなどにより、反応混合物のスペクトル測定値が実際の値と異なる値となってしまうためと考えられる。
樹脂を大量に製造する製造ラインにおいて、このような判定ミスが発生すると、目的とする物理的性能を有する樹脂を得ることができず、工程の無駄が生じたり、反応物破棄などの不要かつ無駄な作業が発生するおそれがある。
このような技術的課題に対して、本開示の方法を用いることによって、複数の判断根拠により反応制御を行うことが可能となる。これにより、判定方法のいずれか一方における判定ミスに対して互いに検知することができ、樹脂の反応原料を重合反応させる重合工程の終了時期の信頼性を好適に確保することができる。
【0069】
樹脂の製造装置
図1は、本発明の一実施形態にかかる樹脂の製造装置の模式図である。
図1に示すように、本実施形態の樹脂の製造装置1は、
反応原料を重合反応させる反応容器2と、
反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的に撮像して画像を取得する、撮像部3と、
機械学習機能を有し、取得した画像を機械学習の手法により粘性挙動を解析し、重合反応の進行度を判定する、画像機械学習部4と、
反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を時系列的にスペクトル測定する、分光光度計5と、
解析データを用いた統計解析技法機能を有しスペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し重合反応の進行度を判定する統計解析技法判定部6、または、機械学習機能を有しスペクトル測定したデータを機械学習の手法により解析し重合反応の進行度を判定する、スペクトル機械学習部6と、
を備えている。
【0070】
反応容器2は、反応原料を重合反応させるための既知の反応容器とすることができる。ただし、反応容器2は、撮像部3によりいずれかの方向(好ましくは液面部の真上)から反応原料の重合反応における反応混合物の少なくとも一部を撮像可能であるように、例えば窓を有するか開放されている等構成されている。また、反応容器2は、分光光度計5により反応混合物をスペクトル測定可能であるように、例えば窓を有するか開放されている等構成されている。
【0071】
撮像部3、画像機械学習部4については、既に樹脂の製造方法の実施形態で説明したのと同様であるので、再度の説明を省略する。なお、樹脂の製造方法の実施形態と同様に、機械学習部は、解析及び/又は判定において、反応混合物の温度に応じて補正を行う、温度補正機能を有することが好ましい。また、機械学習部は、前述の特徴量抽出部を備えることが好ましく、前述の対象物抽出部を備えることが好ましく、前述の記憶部や通信部を備えることも好ましい。
【0072】
分光光度計5については、既に樹脂の製造方法の実施形態で説明したのと同様であるので、再度の説明を省略する。本開示の樹脂の製造装置は、統計解析技法判定部およびスペクトル機械学習部のうち、いずれか一方を備える。これらについても、既に樹脂の製造方法の実施形態で説明したのと同様であるので、再度の説明を省略する。
【0073】
本開示はさらに、上記樹脂の製造装置から反応容器が取り除かれた、樹脂の重合反応の終了を予測するシステムも提供する。これらの構成については、上記説明と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0074】
本実施形態の樹脂の製造装置によっても、作業者による重合反応中のサンプリングや、温度調整、気泡粘度等の特性の測定を行うことなく、タイムラグなしで重合反応の進行度を判定することができるため、タイムラグが生じる場合と比較して、樹脂の反応原料を重合反応させる重合工程の終了時期を精度良く制御することができる。また、上記の作業者による作業を省略することができ、人手工数を削減することができる。
【0075】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【実施例0076】
製造例1-1 画像機械学習用データセット1-1の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、カルボン酸相当の酸価が2になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は9時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに酸価測定用試料をサンプリングし、また、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像した。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(1)は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
また、反応混合物の液面部の略垂直方向から画像を説明変数、カルボン酸相当の酸価を目的変数とする、画像機械学習用データセット1-1を得た。
【0077】
製造例1-2 画像機械学習用データ1-2の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール192部、1,6-ヘキサンジオール218部、ペンタエリスリトール347部を仕込み、次いでイソフタル酸470部、無水フタル酸420部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、カルボン酸相当の酸価が8になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は6時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに酸価測定用試料をサンプリングし、また、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像した。
次いで、酢酸ブチル375部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(2)は数平均分子量1,500、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、固形分濃度は80%であった。
また、反応混合物の液面部の略垂直方向から画像を説明変数、カルボン酸相当の酸価を目的変数とする、画像機械学習用データセット1-2を得た。
【0078】
製造例1-3 画像機械学習用データセット1-3の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒で固形分粘度が55%に希釈した際の粘度2700mPa・sになるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は9時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに粘度測定用試料をサンプリングし、また、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像した。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(1)は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、粘度2670mPa・s、固形分濃度は55%であった。
また、反応混合物の液面部の略垂直方向から画像を説明変数、粘度を目的変数とする、画像機械学習用データセット1-3を得た。
本実施例において、粘度は、塗料組成物を25℃条件下に保持した後、B型粘度計(単一円筒形回転式粘度計)における回転数60rpmでの粘度を用いた。
【0079】
製造例1-4 画像機械学習用データ1-4の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール192部、1,6-ヘキサンジオール218部、ペンタエリスリトール347部を仕込み、次いでイソフタル酸470部、無水フタル酸420部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、酢酸ブチルで固形分粘度が80%に希釈した際の粘度2500mPa・sになるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は6時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに粘度測定用試料をサンプリングし、また、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像した。
次いで、酢酸ブチル375部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(2)は数平均分子量1,500、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、粘度2510mPa・s、固形分濃度は80%であった。
また、反応混合物の液面部の略垂直方向から画像を説明変数、粘度を目的変数とする、画像機械学習用データセット1-4を得た。
【0080】
製造例2-1 統計解析技法による解析データセット2-1の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、カルボン酸相当の酸価が2になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は9時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに酸価測定用試料をサンプリングし、また、透過型のプローブを有する分光光度計(近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製を用いて、測定波数9400~4500cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定した。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(1)は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
また、測定した近赤外線吸収スペクトルデータにおいて、選択波数の間隔を10cm-1とした上記測定波数における吸収スペクトル値を説明変数、カルボン酸相当の酸価を目的変数とする、統計解析技法による解析データセット2-1を得た。
【0081】
製造例2-2 統計解析技法による解析データセット2-2の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール192部、1,6-ヘキサンジオール218部、ペンタエリスリトール347部を仕込み、次いでイソフタル酸470部、無水フタル酸420部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、カルボン酸相当の酸価が8になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は6時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに酸価測定用試料をサンプリングし、また、透過型のプローブを有する分光光度計近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製を用いて、測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定した。
次いで、酢酸ブチル375部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(2)は数平均分子量1,500、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、固形分濃度は80%であった。
また、測定した近赤外線吸収スペクトルデータにおいて、選択波数の間隔を10cm-1とした上記測定波数における吸収スペクトル値を説明変数、カルボン酸相当の酸価を目的変数とする、統計解析技法による解析データセット2-2を得た。
【0082】
製造例2-3 スペクトル機械学習用データセット2-3の作成
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、カルボン酸相当の酸価が2になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。昇温開始から反応終了までの時間は9時間であり、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに酸価測定用試料をサンプリングし、また、透過型のプローブを有する分光光度計近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製を用いて、測定波数9400~4500cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定した。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(1)は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
また、測定した近赤外線吸収スペクトルデータにおいて、選択波数の間隔を10cm-1として、複数の選択波数における吸収スペクトル値を説明変数、カルボン酸相当の酸価を目的変数とする、スペクトル機械学習用データセット2-3を得た。
【0083】
実施例1 ポリエステル樹脂(1)の製造
製造例1-1で作成した、画像機械学習用データセット1-1を、コンピュータに入力してディープラーニングにより機械学習させ、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部を生成した。
また、製造例2-1で作成した解析データセット2-1をコンピュータに入力して、PLS回帰分析での統計解析技法による、スペクトル判定により重合反応進行度判定を行う統計解析技法判定部を生成した。
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、撹拌と脱水を継続した。
最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像し、撮像データを、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部に入力した。
併せて、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、透過型のプローブを有する分光光度計(近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製)を用いて、測定波数9400~4500cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルデータを、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部に入力した。
昇温開始から反応終了までの時間が9時間の時点の撮像データおよびスペクトルデータを、それぞれ、上記画像機械学習部および統計解析技法判定部に入力したところ、それぞれ、終点である固形分酸価2mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
【0084】
実施例2 ポリエステル樹脂(1)の製造
製造例1-1で作成した画像機械学習用データセット1-1の代わりに、製造例1-3で作成した画像機械学習用データセット1-3を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、ポリエステル樹脂(1)を製造した。
昇温開始から反応終了までの時間が9時間の時点の撮像データおよびスペクトルデータを、それぞれ、上記画像機械学習部および統計解析技法判定部に入力したところ、上記画像機械学習部は、終点である粘度2500mPa・sを予測し、上記統計解析技法判定部は終点である固形分酸価2mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
得られたポリエステル樹脂は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
【0085】
実施例3 ポリエステル樹脂(2)の製造
製造例1-2で作成した画像機械学習用データセット1-2を、コンピュータに入力して遺伝的アルゴリズムにより機械学習させ、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部を生成した。
また、製造例2-2で作成した解析データセット2-2をコンピュータに入力して、PLS回帰分析での統計解析技法による、スペクトル判定により重合反応進行度判定を行う統計解析技法判定部を生成した。
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器に、ネオペンチルグリコール192部、1,6-ヘキサンジオール218部、ペンタエリスリトール347部を仕込み、次いでイソフタル酸470部、無水フタル酸420部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。
最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像し、撮像データを、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部に入力した。
併せて、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、透過型のプローブを有する分光光度計(近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製)を用いて、測定波数8000~7600cm-1、7150~5600cm-1および5100~4700cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルデータを、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部に入力した。
昇温開始から反応終了までの時間が6時間の時点の撮像データおよびスペクトルデータを、それぞれ、上記画像機械学習部および統計解析技法判定部に入力したところ、それぞれ、終点である固形分酸価8mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
次いで、酢酸ブチル375部を加えた。
得られたポリエステル樹脂(2)は数平均分子量1,500、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、固形分濃度は80%であった。
【0086】
実施例4 ポリエステル樹脂(2)の製造
製造例1-2で作成した画像機械学習用データセット1-2の代わりに、製造例1-4で作成した画像機械学習用データセット1-4を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、ポリエステル樹脂(2)を製造した。
昇温開始から反応終了までの時間が6時間の時点の撮像データおよびスペクトルデータを、それぞれ、上記画像機械学習部および統計解析技法判定部に入力したところ、上記画像機械学習部は、終点である粘度2500mPa・sを予測し、上記統計解析技法判定部は終点である固形分酸価8mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
得られたポリエステル樹脂(2)は数平均分子量1,500、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、固形分濃度は80%であった。
【0087】
実施例5 ポリエステル樹脂(1)の製造
製造例1-1で作成した、画像機械学習用データセット1-1を、コンピュータに入力してディープラーニングにより機械学習させ、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部を生成した。
また、製造例2-3で作成した、スペクトル機械学習用データセット2-3をコンピュータに入力してニューラルネットワークにより機械学習させ、スペクトル判定により重合反応進行度判定を行うスペクトル機械学習部を生成した。
昇温開始から反応終了までの時間が9時間の時点の撮像データおよびスペクトルデータを、それぞれ、上記画像機械学習部およびスペクトル機械学習部に入力したところ、それぞれ、上記画像機械学習部および統計解析技法判定部に入力したところ、それぞれ、終点である固形分酸価2mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
得られたポリエステル樹脂は数平均分子量6,600、固形分水酸基価60mgKOH/g、固形分酸価2mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
【0088】
比較例1 ポリエステル樹脂(1)の製造
製造例2-1で作成した解析データセット2-1をコンピュータに入力して、PLS回帰分析での統計解析技法による、スペクトル判定により重合反応進行度判定を行う統計解析技法判定部を生成した。
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器をキシレンで洗浄し、キシレンを除去したのちに、キシレン蒸気が残留した状態でバックグラウンドを作成した。その後、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、撹拌と脱水を継続した。
最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、透過型のプローブを有する分光光度計(近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製)を用いて、測定波数9400~4500cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルデータを、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部に入力した。
上記重合反応予測においては、昇温開始から反応終了までの時間が7.5時間時点で、終点である固形分酸価2mgKOH/gを予測したため、反応を終了させた。
次いで、キシレン、ソルベッソ150およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶媒1227部を加えた。
得られたポリエステル樹脂は、数平均分子量4,900、固形分水酸基価62mgKOH/g、固形分酸価3.5mgKOH/g、固形分濃度は55%であり、実施例1で製造したポリエステル樹脂(1)とは物性値が異なるものであった。
この例では、不純物由来のピークが含まれるスペクトル測定データに基づいて誤った反応終了を予測したこと、そして、粘性挙動判定を伴わないため、不純物混合による誤った予測を検知できなかったことが示されている。
【0089】
参考例1 ポリエステル樹脂(1)の製造
製造例1-1で作成した、画像機械学習用データセット1-1を、コンピュータに入力してディープラーニングにより機械学習させ、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部を生成した。
また、製造例2-1で作成した解析データセット2-1をコンピュータに入力して、PLS回帰分析での統計解析技法による、スペクトル判定により重合反応進行度判定を行う統計解析技法判定部を生成した。
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lコルベン反応容器をキシレンで洗浄し、キシレンを除去したのちに、キシレン蒸気が残留した状態でバックグラウンドを作成した。その後、ネオペンチルグリコール266部、1,6-ヘキサンジオール302部、ペンタエリスリトール128部を仕込み、次いでイソフタル酸512部、無水フタル酸456部を仕込み、昇温した。反応により生成する水を除去しながら縮合反応を進めた。昇温開始より約1時間かけて温度を180℃にし、ジブチルスズオキサイド3部を加えた。その後、220℃まで徐々に昇温し、撹拌と脱水を継続した。
最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、反応混合物の液面部を、液面に対して略垂直方向から撮像し、撮像データを、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部に入力した。
併せて、最初の昇温開始時から反応終了時まで、1時間ごとに、透過型のプローブを有する分光光度計(近赤外分光分析計(FT-NIR)MATRIX-F、Bruker社製)を用いて、測定波数9400~4500cm-1の範囲における反応混合物の近赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルデータを、スペクトル測定したデータを統計解析技法により解析し、重合反応の進行度を判定する、統計解析技法判定部に入力した。
上記スペクトル判定による重合反応予測においては、昇温開始から反応終了までの時間が7.5時間の時点で、終点である固形分酸価2mgKOH/gを予測した。一方で、粘性挙動により重合反応進行度判定を行う画像機械学習部においては、反応終点であるという予測結果は得られなかった。
この例では、スペクトル判定および粘性挙動判定の両方を用いていることから、不純物由来のピークが含まれるスペクトル測定データの反応終了予測が誤った予測であると検知できたことが示されている。
【符号の説明】
【0090】
1:樹脂の製造装置、
2:反応容器、
3:撮像部、
4:画像機械学習部、
5:分光光度計、
6:統計解析技法判定部またはスペクトル機械学習部。
図1