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  • 特開-ハブユニット軸受 図1
  • 特開-ハブユニット軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149090
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/60 20060101AFI20220929BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20220929BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220929BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/60
B60B35/02 L
F16C19/18
F16C33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051070
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA82
3J701BA01
3J701BA09
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701FA31
3J701GA03
3J701XB13
3J701XB14
(57)【要約】
【課題】ナックルの内径にかかわらず、軸方向内側列の転動体の直径およびピッチ円直径を十分に確保することができる構造を実現する。
【解決手段】外輪2は、内周面に複列の外輪軌道5a、5bを有する外輪本体13と、外周面にナックル嵌合面部7を有するパイロット部材14とを備える。外輪2は、パイロット部材14を外輪本体13の軸方向内側の端部に内嵌固定することで、外輪本体13とパイロット部材14とを結合固定することにより構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有し、かつ、軸方向内側の端部外周面にナックル嵌合面部を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、列ごとに複数個ずつ転動自在に配置された転動体と、
を備え、
前記外輪は、内周面に前記複列の外輪軌道を有する外輪本体と、外周面に前記ナックル嵌合面部を有するパイロット部材とを備え、
前記パイロット部材は、前記外輪本体の軸方向内側の端部に結合固定されている、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記転動体のそれぞれは、玉により構成されており、
前記転動体のうちの軸方向内側列の転動体の直径が、前記転動体のうちの軸方向外側列の転動体の直径よりも大きく、かつ、前記軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、前記軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記ナックル嵌合面部の外径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側の外輪軌道の溝底径よりも小さい、
請求項1または2に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体とを備える。なお、以下の説明において、軸方向に関して「外」とは、前記ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の幅方向外側となる側といい、反対に、前記ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の幅方向中央側となる側を、軸方向に関して「内」という。
【0003】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、かつ、軸方向内側の端部に、軸方向内側に向けて突出した円筒状のナックルパイロット部を有する。前記外輪は、前記ナックルパイロット部の外周面を、懸架装置を構成するナックルに内嵌することにより、径方向に位置決めされた状態(芯出しされた状態)で、前記ナックルに対し支持固定され、使用時にも回転しない。
【0004】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した回転フランジを有する。前記回転フランジには、車輪を構成するホイール、および、ディスクやドラムなどの制動用回転体が支持固定される。すなわち、前記ハブは、使用時には、前記ホイールおよび前記制動用回転体とともに回転する。
【0005】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、列ごとに複数個ずつ転動自在に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-232343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両の走行時に、回転フランジに路面反力に基づくモーメント荷重が加わると、外輪の中心軸に対してハブの中心軸が傾斜する。前記ハブの中心軸が前記外輪の中心軸に対して傾斜することに基づいて、転動体に加わる荷重は、軸方向外側列の転動体よりも軸方向内側列の転動体で大きくなりやすい。このため、軸方向内側例の転動体と軸方向内側の外輪軌道および内輪軌道との転がり疲れ寿命が、軸方向外側例の転動体と軸方向外側の外輪軌道および内輪軌道との転がり疲れ寿命よりも短くなる傾向がある。
【0008】
特開2003-232343号公報(特許文献1)の図2には、軸方向内側列の転動体(玉)の直径が、軸方向外側列の転動体の直径よりも大きく、かつ、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径(PCD)が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型のハブユニット軸受が記載されている。このような異径PCD型のハブユニット軸受によれば、軸方向内側例の転動体と軸方向内側の外輪軌道および内輪軌道との転がり接触部の負荷容量を、軸方向外側例の転動体と軸方向外側の外輪軌道および内輪軌道との転がり接触部の負荷容量よりも大きくすることができるが、次の面から改良の余地がある。
【0009】
ハブユニット軸受は、転動体を保持器に保持した状態で、外輪の複列の外輪軌道の径方向内側に配置した後、ハブを構成するハブ輪を軸方向外側から挿入し、その後、ハブ輪の軸方向内側の端部に内輪を外嵌固定することにより組み立てられる。
【0010】
ここで、軸方向内側列の転動体を軸方向内側の外輪軌道の径方向内側に配置する際には、保持器のポケットのそれぞれに保持された転動体を径方向内側に寄せて、保持器の中心軸を中心とする転動体の外接円直径を、外輪の軸方向内側の端部に備えられたカウンタボア部の内径よりも小さくする。この状態で、保持器に保持された軸方向内側列の転動体をカウンタボア部の径方向内側を通過させる。このため、懸架装置を構成するナックルの内径が小さく、外輪のカウンタボア部の内径が小さい場合には、軸方向内側列の転動体の直径およびピッチ円直径を大きくすることが難しくなる可能性がある。
【0011】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、ナックルの内径にかかわらず、軸方向内側列の転動体の直径およびピッチ円直径を十分に確保することができる、ハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体とを備える。
【0013】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、かつ、軸方向内側の端部外周面にナックル嵌合面部を有する。前記外輪は、前記ナックル嵌合面部を、懸架装置を構成するナックルに内嵌することにより、径方向に位置決めされた状態(芯出しされた状態)で、前記ナックルに対し支持固定され、使用時にも回転しない。
【0014】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有する。前記ハブは、使用時に、車輪を構成するホイール、および、ディスクやドラムなどの制動用回転体が支持されて、前記車輪および前記制動用回転体とともに回転する。
【0015】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0016】
特に本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記外輪は、内周面に前記複列の外輪軌道を有する外輪本体と、外周面に前記ナックル嵌合面部を有するパイロット部材とを備え、前記パイロット部材は、前記外輪本体の軸方向内側の端部に結合固定されている。
【0017】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記転動体のそれぞれを、玉により構成することができる。この場合、前記転動体のうちの軸方向内側列の転動体の直径(玉径)を、前記転動体のうちの軸方向外側列の転動体の直径よりも大きく、かつ、前記軸方向内側列の転動体のピッチ円直径(PCD)を、前記軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きくすることができる。
【0018】
または、前記転動体のうちの軸方向内側列の転動体の直径と、前記転動体のうちの軸方向外側列の転動体の直径とを互いに等しく、かつ、前記軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、前記軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とを互いに等しくすることもできる。
【0019】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記ナックル嵌合面部の外径を、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側の外輪軌道の溝底径よりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、ナックルの内径にかかわらず、軸方向内側列の転動体の直径およびピッチ円直径を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
図2図2は、実施の形態の第2例のハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のものであって、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bとを備える。
【0023】
外輪2は、内周面に複列の外輪軌道5a、5bを有し、かつ、軸方向内側の端部に、軸方向内側に向けて突出したナックルパイロット部6を有する。ナックルパイロット部6は、外周面に、軸方向に関して外径が変化しない円筒面状のナックル嵌合面部7を有する。
【0024】
なお、本例のハブユニット軸受1は、軸方向内側列の転動体4aの直径(玉径)が、軸方向外側列の転動体4bの直径よりも大きく、かつ、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径(PCD)が、軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型の構造を有する。このため、軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径(最大径)を、軸方向外側の外輪軌道5bの溝底径よりも大きくしている。
【0025】
外輪2は、内周面のうち、軸方向内側の外輪軌道5aの軸方向内側に隣接する部分に、円筒面状のカウンタボア部34aを有し、かつ、内周面のうち、軸方向外側の外輪軌道5bの軸方向外側に隣接する部分に、円筒面状のカウンタボア部34bを有する。本例では、軸方向内側のカウンタボア部34aの内径を、軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径と同じか、または、ほぼ同じ(軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径よりもわずかに小さい若しくは大きい程度)としている。また、後述する手順により、軸方向外側列の転動体4bと保持器31bとの組立体を軸方向外側の外輪軌道5bの径方向内側に組み付けられる程度の範囲で、軸方向外側のカウンタボア部34bの内径を、軸方向外側の外輪軌道5bの溝底径よりも小さくしている。
【0026】
さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ8を有する。静止フランジ8は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔9を有する。支持孔9のそれぞれは、雌ねじ孔により構成されている。
【0027】
外輪2は、ナックル嵌合面部7を、懸架装置を構成するナックル10に隙間嵌で内嵌することにより、ナックル10に対して径方向に位置決めされた状態(芯出しされた状態)で、ナックル10の通孔11を挿通したボルト12を、静止フランジ8の支持孔9に軸方向内側から螺合することで、ナックル10に対し支持固定される。すなわち、外輪2は、使用状態において、車輪が回転する際にも回転しない。
【0028】
本例では、外輪2は、外輪本体13とパイロット部材14とを組み合わせてなる。
【0029】
外輪本体13は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪本体13は、内周面に、複列の外輪軌道5a、5bおよびカウンタボア部34a、34bを有し、かつ、軸方向内側の端部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ8を有する。また、外輪本体13は、軸方向内側の端部内周面に、軸方向外側に位置する軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径よりも内径が大きい大径面部15を有し、かつ、大径面部15の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面16を有する。
【0030】
パイロット部材14は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。パイロット部材14は、外周面の軸方向内側部分に、ナックル嵌合面部7を有し、かつ、外周面の軸方向外側部分に、本体嵌合面部17を有する。本例では、ナックル嵌合面部7の外径と、本体嵌合面部17の外径とは互いに同じである。すなわち、本例では、パイロット部材14の外周面は、面取り部が形成された軸方向両側の端部を除き、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。ただし、本体嵌合面部17に、雄スプライン(雄セレーションを含む)を形成することもできる。
【0031】
パイロット部材14の内周面は、軸方向内側の小径部18と軸方向外側の大径部19とを、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜した接続部20により接続することで構成されている。
【0032】
外輪2は、パイロット部材14の軸方向外側の端面を、外輪本体13の段差面16に突き当て、かつ、本体嵌合面部17を大径面部15に締り嵌めで内嵌することにより、外輪本体13とパイロット部材14とを結合固定することで構成されている。なお、ナックルパイロット部6は、パイロット部材14のうち、外輪本体13(静止フランジ8)の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出した軸方向内側部分により構成されている。
【0033】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、外周面に、複列の内輪軌道21a、21bを有する。
【0034】
ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部22を有し、かつ、外輪2の軸方向外側の端部より軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ23を有する。回転フランジ23は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔24を有する。取付孔24のそれぞれには、スタッド25が軸方向内側から圧入(セレーション嵌合)されている。すなわち、本例では、取付孔24は、圧入孔により構成されている。
【0035】
ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールは、中心部を軸方向に貫通する中心孔にパイロット部22を内嵌することにより、ハブ3に対して径方向に位置決めされる。この状態で、前記制動用回転体および前記ホイールの径方向中間部の円周方向複数箇所を軸方向に貫通する通孔にスタッド25を挿通し、かつ、スタッド25の先端部にハブナットを螺合することにより、ハブ3に対して前記制動用回転体および前記ホイールが結合固定される。
【0036】
なお、回転フランジの取付孔を、雌ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体およびホイールに備えられた通孔を挿通したハブボルトを、前記取付孔に螺合することにより、前記制動用回転体および前記ホイールを前記回転フランジに対して結合固定する。
【0037】
本例では、ハブ3は、内輪26とハブ輪27とを組み合わせてなる。
【0038】
内輪26は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪26は、外周面に、複列の内輪軌道21a、21bのうちの軸方向内側の内輪軌道21aを有する。
【0039】
ハブ輪27は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪27は、外周面の軸方向中間部に、複列の内輪軌道21a、21bのうちの軸方向外側の内輪軌道21bを有する。ハブ輪27は、軸方向外側の内輪軌道21bよりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ23を有し、かつ、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部22を有する。
【0040】
ハブ輪27は、軸方向外側の内輪軌道21aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪26が外嵌される嵌合筒部28を有する。さらに、ハブ輪27は、嵌合筒部28の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面29を有し、かつ、嵌合筒部28の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部30を有する。
【0041】
ハブ3は、ハブ輪27の嵌合筒部28に内輪26を締り嵌めで外嵌し、かつ、ハブ輪27の段差面29とかしめ部30との間で内輪26を軸方向両側から挟持することにより、内輪26とハブ輪27とを結合固定することで構成されている。
【0042】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、前記ハブ輪と前記内輪とを結合することもできる。
【0043】
転動体4a、4bのそれぞれは、玉により構成されており、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道21a、21bとの間に、列ごとに複数個ずつ、保持器31a、31bにより保持された状態で転動自在に配置されている。
【0044】
本例では、軸方向内側列の転動体4aの直径(玉径)を、軸方向外側列の転動体4bの直径よりも大きくし、かつ、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径(PCD)が、軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径(PCD)よりも大きい。すなわち、本例のハブユニット軸受1は、異径PCD型のハブユニット軸受により構成されている。
【0045】
軸方向内側列の転動体4aの直径を、軸方向外側列の転動体4bの直径よりも大きくする程度は、特に限定されるものではないが、例えば、軸方向内側列の転動体4aの直径を軸方向外側列の転動体4bの直径の1.03倍以上1.16倍以下とすることができ、1.03倍以上1.10倍以下とすることが好ましい。また、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径を、軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径よりも大きくする程度は、特に限定されるものではないが、例えば、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径を軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径の1.001倍以上1.200倍以下とすることができ、1.001倍以上1.050倍以下とすることが好ましい。
【0046】
ハブユニット軸受1は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、転動体4a、4bが配置された、円筒状の転動体設置空間32の軸方向両側の開口部を塞ぐ、1対のシール装置33a、33bをさらに備える。
【0047】
1対のシール装置33a、33bのうち、軸方向内側のシール装置33aは、スリンガとシールリングとを備える組み合わせシールリングにより構成されている。前記スリンガは、金属板を断面L字形に曲げ成形してなり、内輪26の軸方向内側の端部外周面に外嵌固定されている。シールリングは、前記スリンガの表面に摺接するシールリップを有し、外輪2を構成するパイロット部材14の小径部18に内嵌固定されている。
【0048】
なお、転動体設置空間の軸方向内側の開口部を塞ぐ、軸方向内側のシール装置は、外輪を構成するパイロット部材の軸方向内側の端部に内嵌固定された有底円筒状のカバーにより構成することもできる。この場合、必要に応じて、内輪の軸方向内側の端部に、車輪の回転数(回転速度)を検出するためのエンコーダを外嵌固定することができる。
【0049】
1対のシール装置33a、33bのうち、軸方向外側のシール装置33bは、ハブ3の外周面または回転フランジ23の軸方向内側面に全周にわたり摺接するシールリップを有し、外輪2の軸方向外側の端部に内嵌固定されている。すなわち、軸方向外側のシール装置33bは、シールリングにより構成されている。
【0050】
本例のハブユニット軸受1を組み立てる際には、まず、複数個の転動体4a、4bを1対の保持器31a、31bのポケット内に挿入して、保持器31a、31bにより転動体4a、4bを保持する。次いで、保持器31a、31bにより保持された転動体4a、4bを、外輪本体13の複列の外輪軌道5a、5bの径方向内側に配置する。
【0051】
ここで、軸方向外側列の転動体4bを軸方向外側の外輪軌道5bの径方向内側に配置するためには、保持器31bのポケットのそれぞれに保持された転動体4bを径方向内側に寄せて、保持器31bの中心軸を中心とする転動体4bの外接円直径を、軸方向外側のカウンタボア部34bの内径よりも小さくする。この状態で、保持器31bに保持された軸方向外側列の転動体4bを、外輪本体13の軸方向外側から挿入し、軸方向外側のカウンタボア部34bの径方向内側を通過させる。その後、転動体4bを径方向内側に押圧する力を解放して自由状態とすることで、保持器31bの中心軸を中心とする転動体4bの外接円直径を、軸方向外側のカウンタボア部34bの内径よりも大きくする。これにより、外輪本体13に対し、軸方向外側列の転動体4bと保持器31bとの組立体を、不用意に分離しない状態で組み付ける。
【0052】
一方、軸方向内側のカウンタボア部34aの内径は、軸方向内側列の外輪軌道5aと同じか、または、ほぼ同じである。このため、保持器31aにより保持された転動体4aを、軸方向内側列の外輪軌道5aの径方向内側に配置しただけでは、軸方向内側列の転動体4aと保持器31aとの組立体を、外輪本体13に対し不用意に分離しない状態で組み付けることができない。
【0053】
そこで、軸方向内側列の転動体4aと保持器31aとの組立体を、軸方向内側列の外輪軌道5aの径方向内側に配置した後、外輪本体13の大径面部15にパイロット部材14の本体嵌合面部17を締り嵌めにより内嵌して、外輪本体13とパイロット部材14とを結合固定する。これにより、外輪2を構成すると同時に、パイロット部材14の接続部20を、軸方向内側列の転動体4aの軸方向内側部分に対向させる。これにより、外輪2からの、軸方向内側列の転動体4aと保持器31aとの組立体の不用意な脱落(分離)を防止する。
【0054】
次に、外輪本体13の軸方向外側の端部に、軸方向外側のシール装置33bを内嵌固定する。
【0055】
次いで、互いに組み合わされた外輪2と複数個の転動体4a、4bおよび保持器31a、31bとの径方向内側に、かしめ部30を形成する以前のハブ輪27を軸方向外側から挿入し、さらに、ハブ輪27の嵌合筒部28に内輪26を外嵌する。そして、ハブ輪27の軸方向内側の端部を径方向外側に向けて塑性変形させ、かしめ部30を形成することにより、内輪26とハブ輪27とを結合固定してハブ3を構成する。
【0056】
最後に、外輪2(パイロット部材14)の軸方向内側の端部内周面と、ハブ3(内輪26)の軸方向内側の端部外周面との間に、軸方向内側のシール装置33aを装着する。
【0057】
以上のようにして、本例のハブユニット軸受1は組み立てられる。なお、ハブユニット軸受1を組み立てる手順は、軸方向内側列の転動体4aを軸方向内側の外輪軌道5aの径方向内側に配置した後で、外輪本体13とパイロット部材14とを結合する手順で行う限り、矛盾を生じない範囲で、適宜順番を入れ替えたり同時に実施したりすることができる。
【0058】
上述のように、本例のハブユニット軸受1を組み立てる際には、軸方向内側列の転動体4aを軸方向内側の外輪軌道5aの径方向内側に配置した後で、外輪軌道5a、5bを有する外輪本体13と、ナックル嵌合面部7を有するパイロット部材14とを結合して外輪2を構成する。すなわち、ハブユニット軸受を組み立てる際に、保持器に保持された軸方向内側列の転動体を、ナックルパイロット部の径方向内側を通過させる必要がない。このため、ナックル嵌合面部7と嵌合するナックル10の内径にかかわらず、軸方向内側列の転動体4aの直径およびピッチ円直径を十分に確保することができる。換言すれば、軸方向内側列の転動体4aの直径およびピッチ円直径にかかわらず、ナックルパイロット部6(小径部18)の内径を、軸方向内側の転動体を保持器に保持し、かつ、径方向に内側に寄せた状態でナックルパイロット部の径方向内側を通過させる必要がある構造に比べて小さくすることができる。
【0059】
なお、ナックルパイロット部6は、ハブユニット軸受1をナックル10に支持固定する際に、ナックル10に対してハブユニット軸受1を径方向に位置決め(芯出し)するための部分である。ハブユニット軸受1をナックル10に対して、ボルト12により支持固定した後の状態では、ナックル嵌合面部7とナックル10の内周面との間には、隙間が生じる。このため、ハブユニット軸受1をナックル10に対して支持固定した後の状態では、ナックルパイロット部6に大きなラジアル荷重が加わることはない。したがって、外輪本体13の大径面部15と、パイロット部材14の本体嵌合面部17との嵌合力はそれほど大きくする必要はない。
【0060】
ただし、外輪本体13の大径面部15と、パイロット部材14の本体嵌合面部17との嵌合部からの浸水を確実に防止するために、外輪本体13の大径面部15と、パイロット部材14の本体嵌合面部17との嵌合部に、シーラントやOリングなどの密封装置を備えることもできる。および/または、外輪本体13の大径面部15と、パイロット部材14の本体嵌合面部17とを、接着剤により接着したり、連続発振レーザにより溶接したりすることもできる。
【0061】
本発明のハブユニット軸受は、本例のように、軸方向内側列の転動体4aの直径が、軸方向外側列の転動体4bの直径よりも大きく、かつ、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型のハブユニット軸受1に適用した場合に、顕著に効果を得ることができる。
【0062】
ただし、本発明のハブユニット軸受は、前記転動体のうちの軸方向内側列の転動体の直径と、前記転動体のうちの軸方向外側列の転動体の直径とが互いに等しく、かつ、前記軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、前記軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが互いに等しい、等径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。または、本発明のハブユニット軸受は、軸方向内側列の転動体の直径が、軸方向外側列の転動体の直径よりも小さく、かつ、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0063】
また、本発明のハブユニット軸受は、本例のような、ハブ輪27が中実体である従動輪用のハブユニット軸受1に限らず、ハブ輪が、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0064】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のハブユニット軸受1aは、実施の形態の第1例のハブユニット軸受1と同様に、軸方向内側列の転動体4aの直径が、軸方向外側列の転動体4bの直径よりも大きく、かつ、軸方向内側列の転動体4aのピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体4bのピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型の構造を有する。
【0065】
本例では、ナックル嵌合面部7aの外径を、軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径よりも小さくしている。このために、パイロット部材14aは、軸方向内側部分が軸方向外側部分に対して径方向内側にオフセットした、クランク形の断面形状を有する。すなわち、パイロット部材14aの外周面は、軸方向内側部分に備えられたナックル嵌合面部7aと、軸方向外側部分に備えられ、かつ、ナックル嵌合面部7aの外径よりも外径が大きい本体嵌合面部17aとを、軸方向内側を向いた段差面35aにより接続することで構成されている。一方、パイロット部材14aの内周面は、軸方向内側の小径部18aと軸方向外側の大径部19aとを、軸方向外側を向いた段差面35bにより接続することで構成されている。
【0066】
本例のハブユニット軸受1aを組み立てる際も、実施の形態の第1例のハブユニット軸受1を組み立てる際と同様に、軸方向内側列の転動体4aを軸方向内側の外輪軌道5aの径方向内側に配置した後で、外輪軌道5a、5bを有する外輪本体13と、ナックル嵌合面部7aを有するパイロット部材14aとを結合することにより外輪2aを構成する。このため、ナックル嵌合面部7aの外径を、軸方向内側の外輪軌道5aの溝底径よりも小さくすることができる。
【0067】
なお、本例では、ハブ3aを構成するハブ輪27aは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔36を有する。スプライン孔36には、等速ジョイントを構成するスプライン軸部がスプライン係合される。すなわち、本例のハブユニット軸受1aは、駆動輪用のハブユニット軸受により構成されている。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【符号の説明】
【0068】
1、1a ハブユニット軸受
2、2a 外輪
3、3a ハブ
4a、4b 転動体
5a、5b 外輪軌道
6 ナックルパイロット部
7、7a ナックル嵌合面部
8 静止フランジ
9 支持孔
10 ナックル
11 通孔
12 ボルト
13 外輪本体
14、14a パイロット部材
15 大径面部
16 段差面
17 本体嵌合面部
18、18a 小径部
19、19a 大径部
20 接続部
21a、21b 内輪軌道
22 パイロット部
23 回転フランジ
24 取付孔
25 スタッド
26 内輪
27、27a ハブ輪
28 嵌合筒部
29 段差面
30 かしめ部
31a、31b 保持器
32 転動体設置空間
33a、33b シール装置
34a、34b カウンタボア部
35a、35b 段差面
図1
図2