(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149216
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】回転伝達装置及び車両用ステアバイワイヤ操舵装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/118 20060101AFI20220929BHJP
F16D 11/14 20060101ALI20220929BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20220929BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20220929BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16D27/118
F16D11/14
F16C35/077
F16J15/16 B
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051266
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
【テーマコード(参考)】
3D333
3J043
3J056
3J117
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB32
3D333CC23
3D333CD16
3D333CD17
3J043AA16
3J043DA09
3J056AA02
3J056AA63
3J056BA04
3J056BB21
3J056CA02
3J056CC12
3J056DA04
3J056GA12
3J117AA01
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB04
3J117DB08
(57)【要約】
【課題】電磁石の通電状態に応じた第三の回転体の軸方向移動によって、第三の回転体との噛み合いの有無による第一及び第二の回転体間の回転伝達と遮断を切り替え可能な回転伝達装置の信頼性を向上させる。
【解決手段】電磁石6と第一の回転体2との間に介在する軸受7の端面39aを軸方向に支持する抜け止め手段40により、電磁石6に対する軸受7の挿入方向とは反対側への変位を阻止する。また、第二の回転体3の軸15のうち、シール41と接触する密封面42の直径D1を軸受8との嵌め合い面42の直径D2よりも小径に設ける。アーマチュア19は、ロータ5の側面25に与えられた半径方向寸法の1/3以上の範囲に接触する。第三の回転体3の基体18とアーマチュア19間に隙間21を設ける。ケース11は非磁性体製にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、前記電磁石と前記第一の回転体との間に介在する軸受と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記電磁石に対する前記軸受の挿入方向とは反対側への変位を阻止するように前記軸受の端面を軸方向に支持する抜け止め手段を備えることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記抜け止め手段は、前記電磁石に取り付けられた止め輪からなる請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記電磁石は、フィールドコアと、前記フィールドコアに巻かれたコイルとを有し、
前記抜け止め手段は、前記フィールドコアを前記第一の軸受に加締めた塑性変形部からなる請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、前記第二の回転体の軸を支持する軸受と、前記軸を取り囲むシールと、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記第二の回転体の前記軸のうち、前記シールと接触する密封面の直径は、前記軸受との嵌め合い面の直径よりも小径に設けられていることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項5】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記アーマチュアは、前記ロータのアーマチュア側の側面に与えられた半径方向寸法の1/3以上の範囲に接触することを特徴とする回転伝達装置。
【請求項6】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部とを含む基体と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記第三の回転体の前記基体と前記アーマチュアとの間に隙間が設けられていることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項7】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部とを含む基体と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記第三の回転体は、前記基体と前記アーマチュアとの間に配置された非磁性体を有することを特徴とする回転伝達装置。
【請求項8】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、少なくとも前記第三の回転体及び前記ロータを収容するケースと、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記ケースは、非磁性体によって形成されていることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項9】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記ロータを軸方向に貫通する複数のスリットが形成されており、これらスリットは、前記ロータのアーマチュア側の側面の周方向複数個所に配置されていることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項10】
第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、
前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、
前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、
前記弾性反発手段は、前記第三の回転体と前記ロータとの間で軸方向に伸縮する弾性部材からなることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項11】
ステアリングホイールと、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて車輪の向きを変える転舵装置と、前記ステアリングホイールと前記転舵装置との間の操舵力伝達経路に組み込まれた請求項1から10のいずれか1項に記載の回転伝達装置と、を備える車両用ステアバイワイヤ操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二軸間の回転の伝達と遮断の切り替えに用いられる回転伝達装置、及びこれを備える車両用ステアバイワイヤ操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと、車輪の向きを変える転舵装置と、ステアリングホイールと転舵装置との間に組み込まれた回転伝達装置とを備える車両用ステアバイワイヤ操舵装置がある。その転舵装置は、アクチュエータ又は運転者からステアリングホイールに入力された操舵力によって車輪の向きを変える。通常時、回転伝達装置は、ステアリングホイール側と転舵装置側を機械的に分離し、操舵力を転舵装置側に出力しない一方、電源喪失等の異常時には、ステアリングホイール側と転舵装置側を機械的に連結し、操舵力を転舵装置側に出力する。この種の車両用ステアバイワイヤ操舵装置に用いられる回転伝達装置として、電磁的に噛み合いクラッチの係合状態と解除状態を切り替え可能なものがある。
【0003】
特許文献1に開示された回転伝達装置は、多数の歯からなる第一の噛合部を有する第一の回転体と、多数の歯からなる第二の噛合部を有する第二の回転体と、第一及び第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、第一の回転体に取り付けられたロータと、ロータに軸方向に対向する電磁石と、第三の回転体をロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備える。第三の回転体は、第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有する。電磁石がアーマチュアを軸方向にロータに吸着することにより、弾性反発手段が蓄勢すると共に第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の第一又は第二の噛合部と噛み合う係合状態になり、電磁石の磁力が消失して弾性反発手段が第三の回転体をロータから離すことにより、第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の第一又は第二の噛合部と噛み合わない解除状態になる。
【0004】
その第一の回転体と、静止系に属する電磁石との間に軸受を配置し、第二の回転体と、静止系に属するケースとの間に軸受とシールとを配置し、さらに、第一の回転体と第二の回転体との間にも軸受を配置している。第一の回転体を支持する軸受は、電磁石に対して軸方向一方側から挿入されている。弾性反発手段は、磁性体製のピンと、係合部材と、付勢部材とで構成されている。ピンは、第三の回転体を軸方向に貫通する孔に挿入されている。係合部材は、第三の回転体の斜面とロータとの間に介在する。付勢部材は、係合部材を斜面に向かって付勢する。アーマチュアが軸方向にロータに吸着される際、ピンが係合部材を径方向内側に押し動かし、これに伴い、付勢部材が径方向内側へ圧縮されて蓄勢する。電磁石の磁力がピンを進出させる力は、ロータの側面と斜面との間に介在する係合部材を径方向内側へ押し動かすだけの小さい力で済み、また、電磁石の磁力がアーマチュアをロータの側面に吸着する力も、単に第一~第四の噛合部の噛み合いを解除するだけの比較的小さい力で済む。このため、特許文献1に開示された回転伝達装置は、電磁石の小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された回転伝達装置は、ロータを電磁石に接近させる方向に作用する荷重、すなわち軸方向一方側への荷重が第一の回転体に作用するとき、第一の回転体の軸方向位置を軸受の圧入力のみで保持する構造になっている。このため、軸方向の繰り返し振動等によって第一の回転体が徐々に移動していき、電磁石とロータが接触してしまう可能性がある。すなわち、アーマチュアとロータ間の軸方向ギャップが異常拡大し、電磁石がアーマチュアをロータに吸着できず、第一~第四の噛合部の噛み合い解除を行って第一の回転体と第二の回転体間で回転伝達を遮断できない可能性があるため、回転伝達装置の信頼性に不安がある。
【0007】
また、第二の回転体の軸において、軸受に接触する嵌め合い面と、シールに接触する密封面とが同一径の円筒面状で軸方向に一連に形成されている。このため、軸の先端から軸受を挿入する際に密封面を擦り、密封面が僅かに傷つけられてシール性が悪化する可能性がある。すなわち、潤滑剤の漏洩や異物侵入により動作不良に至る可能性があるため、回転伝達装置の信頼性に不安がある。
【0008】
また、電磁石によるアーマチュアの吸着時、アーマチュアとロータの接触部の面積がロータ外周部付近の僅かな領域に限られているため、ロータからアーマチュアへの磁束受け渡しが少なく、磁気的にアーマチュアを吸引する力が弱い。また、ロータのアーマチュア側の側面は全面的に中実部になっているため、このこともロータからアーマチュアへの磁束の受け渡しに不利となる。また、ロータやアーマチュアから他の構成要素への磁束漏洩についても格別の対策が行われていない。従って、電磁石の磁力を小さくする場合、アーマチュアの吸着性が不十分になり易く、回転伝達装置の信頼性に不安がある。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、電磁石の通電状態に応じた第三の回転体の軸方向移動によって、第三の回転体との噛み合いの有無による第一及び第二の回転体間の回転伝達と遮断を切り替え可能な回転伝達装置の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するための第一の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、前記電磁石と前記第一の回転体との間に介在する軸受と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石が前記アーマチュアを軸方向に前記ロータに吸着することにより、前記弾性反発手段が蓄勢すると共に前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態になり、前記電磁石の磁力が消失して前記弾性反発手段が前記第三の回転体を前記ロータから離すことにより、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態になる回転伝達装置において、前記電磁石に対する前記軸受の挿入方向とは反対側への変位を阻止するように前記軸受の端面を軸方向に支持する抜け止め手段を備える構成を採用したものである。
【0011】
上記第一の発明に係る構成によれば、第一の回転体に反挿入方向の荷重が作用したとき、抜け止め手段で軸受の端面が支持されるため、アーマチュアとロータ間の軸方向ギャップが異常拡大することを防いで、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0012】
上記の課題を達成するための第二の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、前記第二の回転体の軸を支持する軸受と、前記軸を取り囲むシールと、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記第二の回転体の前記軸のうち、前記シールと接触する密封面の直径は、前記軸受との嵌め合い面の直径よりも小径に設けられている構成を採用したものである。
【0013】
上記第二の発明に係る構成によれば、第二の回転体の軸における密封面の直径が軸受との嵌め合い面の直径よりも小径であるため、軸に軸受を通す際に密封面に接触することを避け、シール性が悪化することを防いで、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0014】
上記の課題を達成するための第三の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記アーマチュアは、前記ロータのアーマチュア側の側面に与えられた半径方向寸法の1/3以上の範囲に接触する構成を採用したものである。
【0015】
上記第三の発明に係る構成によれば、ロータのアーマチュア側の側面が有する半径方向寸法の1/3以上の範囲にアーマチュアが接触するため、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0016】
上記の課題を達成するための第四の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部とを含む基体と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記第三の回転体の前記基体と前記アーマチュアとの間に隙間が設けられている構成を採用したものである。
【0017】
上記第四の発明に係る構成によれば、アーマチュアから基体への磁束漏洩が隙間のところで抑制されるため、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0018】
上記の課題を達成するための第五の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に変位可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部とを含む基体と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記第三の回転体は、前記基体と前記アーマチュアとの間に配置された非磁性体を有する構成を採用したものである。
【0019】
上記第五の発明に係る構成によれば、アーマチュアから基体への磁束漏洩が非磁性体のところで抑えられるため、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0020】
上記の課題を達成するための第六の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、少なくとも前記第三の回転体及び前記ロータを収容するケースと、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記ケースは、非磁性体によって形成されている構成を採用したものである。
【0021】
上記第六の発明に係る構成によれば、電磁石の発生した磁束が非磁性体製のケースに漏洩しないため、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0022】
上記の課題を達成するための第七の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記ロータを軸方向に貫通する複数のスリットが形成されており、これらスリットは、前記ロータのアーマチュア側の側面の周方向複数個所に配置されている構成を採用したものである。
【0023】
上記第七の発明に係る構成によれば、ロータを軸方向に貫通するスリットがアーマチュア側の側面の周方向複数個所に形成されているため、ロータ内だけを通って電磁石に戻る磁束を各スリットのところで減らしてロータとアーマチュア間での磁束の受け渡しを多くし、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0024】
上記の課題を達成するための第八の発明は、第一の噛合部を有する第一の回転体と、第二の噛合部を有する第二の回転体と、前記第一の回転体及び前記第二の回転体に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体と、前記第一の回転体に取り付けられたロータと、前記ロータに軸方向に対向する電磁石と、前記第三の回転体を前記ロータから離す方向に付勢する弾性反発手段と、を備え、前記第三の回転体は、前記第一の噛合部に噛み合い可能な第三の噛合部と、前記第二の噛合部に噛み合い可能な第四の噛合部と、前記ロータに軸方向に対向するアーマチュアとを有し、前記電磁石の通電状態に応じた前記第三の回転体の軸方向移動によって、前記第三及び第四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合う係合状態と、前記第三及び四の噛合部がそれぞれ対応の前記第一又は二の噛合部と噛み合わない解除状態とが切り替えられる回転伝達装置において、前記弾性反発手段は、前記第三の回転体と前記ロータとの間で軸方向に伸縮する弾性部材からなる構成を採用したものである。
【0025】
上記第八の発明に係る構成によれば、軸方向に伸縮する弾性部材で弾性反発手段を構成するため、第三の回転体とロータ間に弾性反発手段をコンパクトに配置してアーマチュアとロータの軸方向の対向面積を多くし、磁気的にアーマチュアをロータへ吸引する力を強めて、回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
上記第一~八に係る各発明は、電磁石の通電状態に応じた第三の回転体の軸方向移動によって、第三の回転体との噛み合いの有無による第一及び第二の回転体間の回転伝達と遮断を切り替え可能なものであって、各発明の前提とする構成要素を具備した回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】この発明の第一実施形態に係る回転伝達装置を示す断面図
【
図4】
図3から解錠状態に変化したときの様子を示す断面図
【
図5】この発明の第二実施形態に係る回転伝達装置を示す断面図
【
図7】この発明の第三実施形態に係る回転伝達装置の第三の回転体付近を示す断面図
【
図8】この発明の第四実施形態に係る回転伝達装置の抜け止め手段付近を示す断面図
【
図9】この発明に係る車両用ステアバイワイヤ操舵装置の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、上記第一~四、六及び八に係る各発明に対応の第一実施形態に係る回転伝達装置を添付図面の
図1~
図4に基づいて説明する。
【0029】
図1に示す回転伝達装置1は、回転の入力軸又は出力軸となる第一の回転体2と、回転の出力軸又は入力軸となる第二の回転体3と、第一及び二の回転体1,2間の回転伝達を中継するための第三の回転体4と、第三の回転体4を第一及び二の回転体1,2から離脱させるためのロータ5及び電磁石6と、第一及び二の回転体1,2を支持するための第一~第三の軸受7~9と、第三の回転体4を第一及び二の回転体1,2と係合する方向に付勢するための弾性反発手段10と、これらを収容するケース11とを基本的な構成要素として備える。これら各回転体2~4は、同一軸線CL上に配置されており、その軸線CL回りに回転可能に配置されている。
【0030】
ここで、軸線CLに沿った方向を「軸方向」といい、
図1において左右方向に相当し、軸方向一方側は
図1において左側に相当し、軸方向他方側は
図1において右側に相当する。また、軸線CLに対して直角な方向を「径方向」といい、
図1において上下方向に相当する。径方向において、軸線CLに接近する方向を「径方向内側」といい、その逆に軸線CLから遠ざかる方向を「径方向外側」という。また、軸線CL回りに一周する円周に沿った方向を「周方向」という。
【0031】
第一の回転体2は、第一の噛合部12と、ケース11の外部へ延びる軸13とを有する。例えば、第一の噛合部12と軸13は一体に構成されている。
【0032】
第一の噛合部12は、軸線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されている。第一の噛合部12は、第一の回転体2の軸方向他方側の端部に形成されたフランジのうち、軸方向一方側の側面に形成されている。第一の噛合部12を有するフランジの外径は、軸13の直径よりも大きく、第一の回転体2の最大外径になっている。
【0033】
第二の回転体3は、第二の噛合部14と、ケース11の外部へ延びる軸15とを有する。例えば、第二の噛合部14と軸15は一体に構成されている。軸15は、ケース11に対して第一の回転体2の軸13とは反対側に位置している。
【0034】
軸13,15は、それぞれ他装置の回転伝達経路との接続に使用される。なお、第一の噛合部12と軸13をそれぞれ別個の部材とし、これら部材を接続して第一の回転体を構成してもよい。第二の噛合部14と軸15をそれぞれ別個の部材とし、これら部材を接続して第二の回転体を構成してもよい。
【0035】
第二の噛合部14は、軸線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されており、第一の噛合部12と同じ方向を向いている。第二の噛合部14は、第二の回転体3の軸方向一方側の端部に形成された有底環状部のうち、軸方向一方側の側面に形成されている。第二の噛合部14を有する有底環状部の外径は、第一の回転体2のフランジの外径よりも大きい。
【0036】
第三の回転体4は、第一及び第二の回転体2,3に対して相対回転可能かつ軸方向に変位可能な環状の組み立て体になっている。第三の回転体4は、第一の回転体2の軸13に対して相対回転可能かつ軸方向に移動可能に嵌合されている。
【0037】
第三の回転体4の軸方向他方側の側面には、第三の噛合部16及び第四の噛合部17が設けられている。これら第三及び四の噛合部16,17は、それぞれ軸線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されている。第三の噛合部16は、第一の噛合部12に噛み合い可能である。第四の噛合部17は、第二の噛合部14に噛み合い可能である。
【0038】
第三の回転体4は、第三の噛合部16及び第四の噛合部17を含む基体18と、基体18に固定されたアーマチュア19とを有する。基体18及びアーマチュア19は、それぞれ軸線CLを基準とする環状部材からなる。アーマチュア19は、磁性体によって形成されている。
【0039】
基体18の外周には、軸方向一方側へ開放された切欠き部20が形成されている。アーマチュア19は、切欠き部20に嵌合しかつ固定されている。アーマチュア19の軸方向一方側の側面は、径方向に沿った平坦面状になっており、基体18の軸方向一方側の側面よりも軸方向一方側へ突出している。
【0040】
アーマチュア19の軸方向他方側の側面と、切欠き部20との間には、隙間21が設けられている。隙間21は、アーマチュア19から基体18への磁束漏洩を抑制する。アーマチュア19と切欠き部20の接続に必要な接触部の確保や基体18の所要部の強度確保の観点から、アーマチュア19と基体18の対面部の全域に設けることはできず、部分的に設けられている。図示例では、アーマチュア19の中でも比較的径方向に長い領域と、切欠き部20との対面部に限って隙間21が設けられている。
【0041】
ロータ5は、第一の回転体2の軸13に取り付けられた磁性体からなる。ロータ5は、第一の回転体2と一体に回転可能かつ第一の回転体2に対して軸方向に相対移動不可な状態に配置されている。ロータ5は、軸13に嵌合する内筒22と、内筒22の軸方向他方側の端部から径方向外側に延びる端壁23と、端壁23から軸方向一方側に延びる外筒24とからなる。内筒22は、例えば、軸13とスプライン嵌合される。端壁23の軸方向他方側の側面は、径方向に沿った平坦面状になっている。内筒22の軸方向他方側の端部と端壁23は、ロータ5のアーマチュア19側(軸方向他方側)の側面25を構成している。ロータ5の側面25は、軸方向一方側から軸13の肩部に突き当てられている。内筒22の軸方向一方側の端部は、軸13に取り付けられた止め輪26により軸方向に支持されている。これら軸13の肩部と止め輪26により、軸13に対するロータ5の軸方向移動が規制されている。
【0042】
アーマチュア19は、
図2に示すように、弾性反発手段10を配置するための径方向の切欠き部27を周方向等配の複数個所に有する。周方向に隣り合う切欠き部27間の内周部28は、アーマチュア19の内周の大部分を占めており、周方向に延びる円孤状になっている。
【0043】
アーマチュア19のうち、内周部28が存在する周方向領域は、ロータ5の側面25に与えられた半径方向寸法r1の1/3以上の範囲に接触する。半径方向寸法r1は、ロータ5の内径と外径間の直径差の半分に相当する。アーマチュア19の内周部28からロータ5の外径縁と軸方向に対向する仮想円孤線上の部位までの範囲の径方向長さをr2とすると、r2は、r1/3以上であり、図示例では、r1/2以上である。アーマチュア19の径方向長さr2の全域は、ロータ5の側面25に接触することができる。
【0044】
図1に示す電磁石6は、軸線CLを基準とする環状体になっている。電磁石6は、ケース11に固定されたフィールドコア29と、フィールドコア29に巻かれた電磁用コイル30とからなる。電磁石6は、ロータ5に対してアーマチュア19とは反対側(軸方向一方側)に配置されており、ケース11と共に静止系に属する。
【0045】
図1は、電磁用コイル30に通電していない非励磁状態のときを示している。非励磁状態のとき、弾性反発手段10の付勢により、第三の噛合部16が第一の噛合部12と噛み合い状態にあり、第四の噛合部16が第二の噛合部14と噛み合う係合状態にある。つまり、回転伝達装置1は、第三の回転体4を介して第一の回転体2と第二の回転体3間で周方向のどちら側の回転をも伝達可能な係合状態にある。
【0046】
電磁用コイル29に通電して励磁状態になると、フィールドコア28とロータ5とアーマチュア19とを通る磁路が形成される。この結果、電磁石6の磁力によって、アーマチュア19がロータ5の側面25に吸着される。この際、第三の回転体4は、全体的にアーマチュア19と一体に移動し、ロータ5側へ向かって変位する。このため、第三の噛合部16が第一の噛合部12と噛み合わず、かつ第四の噛合部16が第二の噛合部14と噛み合わない解除状態になる。つまり、回転伝達装置1は、第一の回転体2と第二の回転体3間で周方向のどちら側の回転をも伝達不可な解除状態になる。
【0047】
非励磁状態のとき、弾性反発手段10は、前述の係合状態を安定的に維持するとともに、電磁用コイル29の通電の際、強制的に圧縮されて蓄勢し、前述の解除状態への移行を許容する。
【0048】
弾性反発手段10は、アーマチュア19よりも径方向内側に少なくとも1つ設けられており、
図2に示すように、周方向等配に3つ設けられている。
【0049】
各弾性反発手段10は、
図2、
図3に示すように、それぞれ基体18に形成された斜面31と、基体18とロータ5の側面25との間に配置された係合部材32と、係合部材32を付勢する付勢部材33と、基体18に挿通されたピン34とを1つずつ有する。
図3において、前述の係合状態のときの弾性反発手段10付近を実線で示している。また、
図4において、前述の解除状態のときの弾性反発手段10付近を示す。
【0050】
図3に示すように、斜面31は、第三の回転体4とロータ5の側面25との間隔が径方向外側に向かって次第に狭くなるように形成されている。斜面31は、
図2、
図3に示すように、基体18に軸方向他方側に深さをもつように形成された凹部35内に位置する。この凹部35の最も深い底面は、基体18の内径まで及んでおり、ロータ5の側面25に沿っている。
【0051】
係合部材32は、凹部35に挿入され、ロータ5の側面25と斜面31との間に介在する。係合部材32は、これら両面25,31を転がる転動体にすることが好ましく、図示例では、ローラからなる。
【0052】
付勢部材33は、係合部材32を斜面31に向かって付勢する。付勢部材33は、例えば圧縮コイルばねからなる。第三の回転体4は、基体18の内周に固定された環状のばね受け部材36を有する。付勢部材33は、ばね受け部材36と係合部材32との間に介在する。付勢部材33に付勢された係合部材32は、ロータ5の側面25と斜面31とに対して楔の役割を果たすことができる。
【0053】
ピン34は、付勢部材33によって径方向外側へ押され切った係合部材32を径方向内側へ押し出しつつ、ロータ5の側面25へ向かって進出することができるように第三の回転体4に配置されている。ピン34は、丸棒状の磁性体からなる。基体18を軸方向に貫通するピン孔37が形成されている。ピン34は、ピン孔37に挿通されており、ピン孔37の孔内周に対して軸方向に摺動する。
【0054】
電磁石6の非通電時、アーマチュア19とロータ5の側面25との間には、軸方向のギャップg1が設けられている。一方、電磁石6の非通電時、ピン34のロータ5側の先端面34aとロータ5の側面25との間には、軸方向の隙間g2が設けられている。このとき、ピン34の先端面34aとは反対側の後端面34bは、電磁石6の非通電時、第一の回転体2のフランジに接している。ギャップg1は隙間g2よりも大きいため、電磁石6の磁力により、ロータ5の側面25に対してピン34がアーマチュア19よりも先に吸着され、その後にアーマチュア19がロータ5の側面25に吸着される。
【0055】
ピン34は、径方向外側に向かってロータ5側へ傾斜した押し出し面34cを有する。
図3中に二点鎖線で示すように、ピン34がロータ5の側面25へ向かって進出したときに、押し出し面33cは、テーパ状空間部31の先端側に押され切った係合部材32を径方向内側へ押し出す。このとき、係合部材32は、基体18の凹部35の周方向両側の内面によって径方向に案内されて、ロータ5の側面25と凹部35の凹底面間を転動することができる。
【0056】
前述の係合状態で回転伝達(トルク伝達)を行うとき、第一の噛合部12と第三の噛合部16との噛み合い面に軸方向の分力が作用し、第二の噛合部14と第四の噛合部17との噛み合い面に軸方向の分力が作用する。これら分力は、これらの噛み合いを解除する方向に働き、さらに、係合部材32と斜面31との接触部に作用する。この接触部において、係合部材32を径方向内側へ押し出す力が働くが、この力を付勢部材33の付勢力によって打ち消している。
【0057】
前述の係合状態から解除状態へ移行する際にピン34の押し出し面34cが係合部材32を押し出すのに必要な力を小さくして、ピン34をロータ5に吸着するのに必要な磁力を小さくするため、押し出し面34cがロータ5の側面25に対して係合部材32側で成す傾斜角は、鋭角に設定されている。斜面31がロータ5の側面25に対して係合部材32側で成す傾斜角は、押し出し面34cが成す傾斜角に比して小さく設定されている。このため、付勢部材33によって付勢されている係合部材32をピン34で押し出す力が小さくて済む。
【0058】
電磁石6が非励磁状態(非通電状態)のとき、
図4に示すように、アーマチュア19とピン34がロータ5の側面25から離れている。付勢部材33に付勢されている係合部材32は、テーパ状空間部31の先端部に介在して、ロータ5の側面25と斜面35の間に係合(ロック)している。このとき、第一の噛合部12と第三の噛合部16とが噛み合い、第二の噛合部14と第四の噛合部17とが噛み合う係合状態にある。これら噛み合い部にトルクが作用しても、係合部材32との接触部における基体18の斜面35の傾斜角が比較的緩いため、斜面35が係合部材32を径方向内側へ押し出す力は、極めて小さい。しかも、この小さい押し出す力を付勢部材33によって打ち消している。これにより、係合部材32は、ロータ5の側面25と斜面35との間に介在することによって、第三の回転体4が軸方向へ変位しないように規制することができ、また、第一~四の噛合部12,14,16,17に大きいトルクが作用した場合であっても、これらを適切な噛み合い状態に保つことができる。従って、回転伝達装置1は、第三の回転体4を介して第一の回転体2と第二の回転体3間で大きいトルクを伝達することができる。
【0059】
その後、電磁石6が通電状態(励磁状態)に切り替わると、電磁石6の磁力によって、吸引されたピン34が先にロータ5の側面25に向かって進出しつつ、係合部材32を付勢部材33の付勢力に抗して径方向内側へ押し出す。これにより、係合部材32は、第三の回転体4がロータ5の側面25に向かって軸方向他方側へ変位することを許す位置まで移動させられる。
【0060】
その直後に、電磁石6の磁力によって吸引されたアーマチュア19がロータ5の側面25に接近する。基体18等を含む第三の回転体4の全体は、アーマチュア19と共に移動するため、基体18の斜面35が係合部材32を付勢部材33の付勢力に抗してさらに径方向内側へ押し出していく。これにより、第三の回転体4は、アーマチュア19がロータ5の側面25に吸着されるまで軸方向に移動することができる。電磁石6の磁力によって、アーマチュア19がロータ5の側面25に吸着されるまでに、第一の噛合部12と第三の噛合部16とが噛み合わず、第二の噛合部14と第四の噛合部17とが噛み合わない解除状態になる。すなわち、回転伝達装置1は、第一の回転体2と第二の回転体3間の回転伝達を遮断する状態になる。
【0061】
図1に示すように、第一の回転体2は、第一の軸受7によってケース11に対して回転可能に支持されている。第二の回転体3は、第二の軸受8によってケース11に対して回転可能に支持されている。第一の回転体2の外周と、第二の回転体3の内周とは、第三の軸受9によって互いに相対回転可能に支持されている。
【0062】
第一~三の軸受7~9は、それぞれ軸方向の両方向に荷重を支持可能な非分離形の転がり軸受からなる。
【0063】
第二の軸受8に備わる内輪の軸方向一方側の端面は、第二の回転体3の外周に形成された肩部と軸方向に突き合う。また、第二の軸受8に備わる外輪の軸方向他方側の端面は、ハウジング11の内周に形成された肩部と軸方向に突き合う。第三の軸受9に備わる内輪の軸方向一方側の端面は、第一の回転体2の外周に形成された肩部と軸方向に突き合う。また、第三の軸受9に備わる外輪の軸方向他方側の端面は、第二の回転体3の内周に形成された肩部と軸方向に突き合う。このため、第一の回転体2を軸方向他方側へ動かす方向の軸方向荷重が第一の回転体2に作用したり、第二の回転体3を軸方向他方側へ動かす方向の軸方向荷重が第二の回転体3に作用したりしても、第二及び三の軸受8,9が軸方向に変位せず、第一の回転体2や第二の回転体3が軸方向他方側に移動させられることはない。
【0064】
第一の軸受7は、電磁石6のフィールドコア29の内周と第一の回転体2の軸13との間に介在する。第一の軸受7は、フィールドコア29に対して軸方向一方側の位置から軸方向他方側へ挿入される。このとき、第一の軸受7に備わる外輪39の軸方向他方側の端面は、フィールドコア29の内周に形成された肩部と軸方向に突き合う。この突き合いは、フィールコア2に対する第一の軸受7に嵌め込み位置を決めるためのものであって、第一の回転体2を軸方向他方側へ動かす方向の軸方向荷重を受けることを主目的としない。
【0065】
フィールドコア29の内側に挿入された外輪39の軸方向一方側への変位は、外輪39の軸方向一方側の端面39aを軸方向に支持する抜け止め手段40によって規制されている。抜け止め手段40は、フィールドコア29の内周に取り付けられた止め輪からなる。これにより、第一の軸受7の軸方向一方側への変位が阻止されている。このため、第一の回転体2を軸方向一方側へ動かす方向の軸方向荷重が第一の回転体2に作用したり、第二の回転体3を軸方向一方側へ押す方向の軸方向荷重が第二の回転体3に作用したりしても、第一の軸受7及び第一の回転体2が一体的に軸方向一方側へ移動させられることはない。従って、ロータ5の側面25とアーマチュア19間の軸方向ギャップg1(
図3参照)が異常に拡大することはない。
【0066】
図1に示すように、第一の軸受7に備わる内輪38の軸方向他方側の端面は、第一の回転体3の軸13の外周に形成された肩部と軸方向に突き合う。この突き合いは、第一の軸受7及び電磁石6のアッセンブリをケース11の内周と軸13間に圧入する際にアッセンブリの押し込みを停止する位置を決めるためのものであって、第一の回転体2を軸方向他方側へ動かす方向の軸方向荷重を受けることを主目的としない。
【0067】
そのケース11は、非磁性体からなる。このため、電磁石6が励磁状態のとき、フィールドコア29とケース11の内周の圧入部においてフィールドコア29からケース11に入る磁路が形成されず、電磁石6の発生する磁束がケース11に漏洩しない。
【0068】
第二の回転体3の軸15とケース11との間は、軸15を取り囲むシール41によって密封されている。軸15は、ケース11と軸15間に取り付けられたシール41の内周に接触する密封面42と、第二の軸受8の内周に接触する嵌め合い面43とを有する。密封面42は、嵌め合い面43よりもケース11の外部側(軸方向他方側)に位置する。第二の軸受8、シール41の順に、それぞれ軸15の軸方向他方側の先端から対応の嵌め合い面43、密封面42まで通される。その密封面42の直径D1は、嵌め合い面43の直径D2よりも小径に設けられている。第二の軸受8の内径は嵌め合い面42の直径D2と略同等であるから、第二の軸受8を嵌め合い面43まで軸15に通す際、通常、比較的小径の密封面42を擦ることは起こらない。
【0069】
この回転伝達装置1は、上述のように、第一の噛合部12を有する第一の回転体2と、第二の噛合部14を有する第二の回転体3と、第一の回転体2及び第二の回転体3に対して軸方向に移動可能に配置された第三の回転体4と、第一の回転体2に取り付けられたロータ5と、ロータ5に軸方向に対向する電磁石6と、第三の回転体4をロータ5から離す方向に付勢する弾性反発手段10と、を備え、第三の回転体4が第一の噛合部12に噛み合い可能な第三の噛合部16と、第二の噛合部14に噛み合い可能な第四の噛合部16と、ロータ5に軸方向に対向するアーマチュア19とを有し、電磁石6の通電状態に応じた第三の回転体4の軸方向移動によって、第三及び第四の噛合部16,17がそれぞれ対応の第一又は二の噛合部12,14と噛み合う係合状態と、第三及び四の噛合部16,17がそれぞれ対応の第一又は二の噛合部12,14と噛み合わない解除状態とが切り替えられるものであるから、電磁石6の通電状態に応じた第三の回転体4の軸方向移動によって、第三の回転体4との噛み合いの有無による第一及び第二の回転体1,2間の回転伝達と遮断を切り替えることができる。
【0070】
この回転伝達装置1は、特に、電磁石6と第一の回転体2との間に介在する軸受7について、電磁石6に対する軸受7の挿入方向とは反対側への変位を阻止するように軸受7の端面39aを軸方向に支持する抜け止め手段40を備えることにより、第一の回転体2に反挿入方向の荷重が作用したとき、抜け止め手段40で軸受7の端面39aが支持されて軸受7の変位が阻止されるため、アーマチュア19とロータ5間の軸方向ギャップg1が異常拡大することを防いで、回転伝達装置1の信頼性を向上させることができる。
【0071】
また、この回転伝達装置1は、特に、第二の回転体3の軸15のうち、軸15を取り囲むシール41と接触する密封面42の直径D1が、軸15を支持する軸受8との嵌め合い面43の直径D2よりも小径に設けられていることにより、軸15に軸受8を通す際、軸受8の内周が密封面42に接触して擦り傷がつくことを避けられるので、シール性が悪化することを防いで、回転伝達装置1の信頼性を向上させることができる。
【0072】
また、この回転伝達装置1は、特に、アーマチュア19がロータ5のアーマチュア19側の側面25に与えられた半径方向寸法r1の1/3以上の範囲r2に接触するため、アーマチュアの内周全周を弾性反発手段10の配置に適合させた内径にする場合に比してアーマチュア19とロータ5の側面25の軸方向の対向面積を増やし、磁気的にアーマチュア19をロータ5へ吸引する力を強めて、回転伝達装置1の信頼性を向上させることができる。
【0073】
また、この回転伝達装置1は、特に、第三の回転体4の第三の噛合部及び第四の噛合部を含む基体18とアーマチュア19との間に隙間21が設けられていることにより、電磁石6の励磁時、アーマチュア19から基体18への磁束漏洩が隙間21のところで抑制されるため、磁気的にアーマチュア19をロータ5へ吸引する力を強めて、回転伝達装置1の信頼性を向上させることができる。
【0074】
また、この回転伝達装置1は、特に、第三の回転体4、ロータ5等を収容するケース11が非磁性体によって形成されていることにより、電磁石6の発生した磁束が非磁性体製のケース11に漏洩しないようし、磁気的にアーマチュア19をロータ5へ吸引する力を強めて、回転伝達装置1の信頼性を向上させることができる。
【0075】
次に、上記第一~四及び六~八に係る各発明に対応の第二実施形態に係る回転伝達装置を添付図面の
図5、
図6に基づいて説明する。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0076】
図5に示す回転伝達装置50は、第三の回転体51と、ロータ52と、弾性反発手段53の構造を第一実施形態から変更したものである。
【0077】
ロータ52の端壁54には、ロータ52を軸方向に貫通するスリット55が形成されている。スリット55は、ロータ52の側面56の周方向複数個所に配置されている。これらスリット55は、同一円周上に配置されており、それぞれ円弧状に延びている。
【0078】
一つの弾性反発手段53は、第一実施形態のばね受け部材、ピン、係合部材及び付勢部材に代えて、一つの弾性部材から構成されている。具体的には、弾性反発手段53は、第三の回転体51の基体57とロータ52の側面56との間で軸方向に伸縮する弾性部材からなる。図示例の弾性反発手段53は、コイル軸線を軸方向に向けた圧縮コイルばねからなる。各弾性反発手段53は、基体57の内周に形成された凹部と第一の回転体2の軸13との間に配置されている。第一実施形態のばね受け部材は省略されている。
【0079】
各弾性反発手段53は、電磁石6が励磁状態になって第三の回転体51がロータ52の側面56に吸引されることに伴い、基体57からロータ52の側面56へ押されて軸方向に縮められるので、蓄勢する。電磁石6が非励磁状態になると、弾性反発手段53は、第三の回転体51が係合状態になるまで軸方向に伸びる。
【0080】
前述のような弾性反発手段53であれば、アーマチュア58の内周部分を径方向に切欠いて配置スペースを作ることが不要である。このため、アーマチュア58は、全周に亘って一定の内径及び外径を有する円環盤状になっている。アーマチュア58の内周は、基体57の外周に全周で嵌合されている。アーマチュア58は、その全周に亘ってロータ52の側面56に与えられた半径方向寸法の1/3以上の範囲に接触することができる。このため、回転伝達装置50は、第一実施形態に比してアーマチュア58とロータ52の側面56の対向面積を増やして、アーマチュア58に作用する吸引力をより強くすることができる。
【0081】
また、アーマチュア58の軸方向他方側の側面と基体57との間には、基体57とアーマチュア58の外周部同士の接触領域を除いた全範囲に隙間59が設けられている。このため、回転伝達装置50は、第一実施形態に比してアーマチュア58とロータ52の側面56の対向面積を増やしても、アーマチュア58から基体57への磁束漏洩を抑えることができる。
【0082】
この回転伝達装置50は、特に、ロータ52を軸方向に貫通する複数のスリット55が形成されており、これらスリット55がロータ52のアーマチュア58側の側面56の周方向複数個所に配置されていることにより、ロータ52内だけを通って電磁石6に戻る磁束を各スリット55のところで減らしてロータ52とアーマチュア58間での磁束の受け渡しを多くし(
図5において磁束の受け渡しの様子を矢線で概念的に示す。)、磁気的にアーマチュア58をロータ52へ吸引する力を強めて、回転伝達装置50の信頼性を向上させることができる。
【0083】
また、この回転伝達装置50は、特に、弾性反発手段53が第三の回転体51とロータ52との間で軸方向に伸縮する弾性部材からなることにより、第三の回転体51とロータ52間に弾性反発手段53をコンパクトに配置してアーマチュア58とロータ52の軸方向の対向面積を多くし、磁気的にアーマチュア58をロータ52へ吸引する力を強めて、回転伝達装置50の信頼性を向上させることができる。
【0084】
次に、上記第一~八に係る各発明に対応の第三実施形態を添付図面の
図7に基づいて説明する。なお、第三実施形態は、第二実施形態からさらに変更したものであるので、以下では、第二実施形態との相違点を述べるに留める。
【0085】
第三実施形態に係る第三の回転体60は、基体61とアーマチュア62との間に配置された非磁性体63を有する。非磁性体63は、アーマチュア62と基体61の全ての対向面間を隔てるように配置されている。図示例の非磁性体63は、アーマチュア62の内周全面と、アーマチュア62の基体62側の側面全面とを基体61に対して遮蔽する環状部材からなる。
【0086】
第三実施形態に係る回転伝達装置は、アーマチュア62から基体61への磁束漏洩が非磁性体63のところで抑えられるため、磁気的にアーマチュア61をロータ52(
図5参照)へ吸引する力を強めて、この回転伝達装置の信頼性を向上させることができる。
【0087】
なお、第一実施形態においても非磁性体をアーマチュアと基体間に介在させることは可能である。また、アーマチュアと基体間に隙間を設ける場合、アーマチュアと基体間の隙間以外の対向領域に非磁性体を介在させてもよい。
【0088】
次に、上記第一~八に係る各発明に対応の第四実施形態を添付図面の
図8に基づいて説明する。なお、第四実施形態は、第一実施形態に係る回転伝達装置から抜け止め手段のみが変更したものである。
【0089】
第四実施形態に係る抜け止め手段70は、電磁石のフィールドコア71を第一の軸受7の端面39aに加締めた塑性変形部からなる。抜け止め手段70は、第一の軸受7をフィールドコア71の内周の肩部72に軸方向に突き合うように嵌めた後、フィールコア71の軸方向一方側の端部を外輪3の軸方向一方側の端面39aに接触させるように加締めることにより設けられる。このため、部品点数を抑えることができる。このような抜け止め手段70は、第二又は三実施形態においても採用することが可能である。
【0090】
上述の第一~四実施形態に係る回転伝達装置は、信頼性に優れるものなので、車両用ステアバイワイヤ操舵装置に好適である。
【0091】
例えば、
図9に示すように、車両用ステアバイワイヤ操舵装置は、ステアリングホイール100と、ステアリングホイール100の操舵角に応じて左右の車輪101の向きを変える転舵装置102と、ステアリングホイール100と転舵装置102との間の操舵力伝達経路に組み込まれた回転伝達装置103とを備える。回転伝達装置103は、上記第一~四実施形態の一つ以上に対応のものである。
【0092】
この車両用ステアバイワイヤ操舵装置は、通常時、運転者によるステアリングホイール100の操舵角を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵装置102の電動アクチュエータが左右の車輪101を転舵するようになっている。
【0093】
また、車両用ステアバイワイヤ操舵装置は、車両の挙動に応じてステアリングホイール100に操舵反力を与える反力アクチュエータ104も備えている。
【0094】
回転伝達装置103に備わる第二の回転体3が軸継手105を介してステアリングホイール101側のコラム106に接続される。また、回転伝達装置103に備わる第一の回転体2が軸継手107を介して転舵装置102側のシャフト108に接続されている。なお、軸継手106,107の一方を省略してもよい。
【0095】
回転伝達装置103は、通常(電磁石に通電された励磁状態のとき)、ステアリングホイール100と転舵装置102の間で回転の伝達を遮断し、電源喪失時などの異常が発生したとき(例えば、電磁石に通電されず非励磁状態になったとき)、ステアリングホイール100と転舵装置102の間で回転を伝達する。転舵装置102は、回転伝達装置103から出力された回転を利用して左右の車輪101の向きを変えることができる。
【0096】
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。従って、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1,50 回転伝達装置
2 第一の回転体
3 第二の回転体
4,51,60 第三の回転体
5,52 ロータ
6 電磁石
7 軸受
8 軸受
10,53 弾性反発手段
11 ケース
12 第一の噛合部
13 軸
14 第二の噛合部
15 軸
16 第三の噛合部
17 第四の噛合部
18,57,61 基体
19,58,62 アーマチュア
21,59 隙間
25,56 側面
29,71 フィールドコア
39 外輪
39a 端面
40,70 抜け止め手段
41 シール
42 密封面
43 嵌め合い面
55 スリット
63 非磁性体