(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149218
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】耐薬品光沢遮光性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220929BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20220929BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20220929BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/082 Z
B32B27/30 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051268
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝司
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊樹
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AA19C
4F100AA19D
4F100AA20D
4F100AB02A
4F100AB10C
4F100AB11A
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4F100AH06E
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4F100BA07
4F100BA10E
4F100GB15
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4F100JM02D
4F100JM02E
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4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】
優れた耐酸性および耐アルカリ性能を有し、酸性物、アルカリ性物への接触後も高いガスバリア性、密着性、光沢および遮光性を有する耐薬品光沢遮光性フィルムを提供する。
【解決手段】
基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層、第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層を有するフィルムであって、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下である耐薬品光沢遮光性フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層、第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層を有するフィルムであって、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下である耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項2】
pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の光線透過率が2%以下、光沢度が600~900%、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の光線透過率が2%以下、光沢度が600~900%である請求項1記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項3】
pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の酸素透過率上昇率が40%以下、水蒸気透過上昇率が、40%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の酸素透過率上昇率が40%以下、水蒸気透過率上昇率が40%以下である請求項1または2に記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項4】
pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の酸素透過率が0.3cc/m2・day・atm以下、水蒸気透過率が、0.3g/m2・day以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の酸素透過率が0.3cc/m2・day・atm以下、水蒸気透過率が、0.3g/m2・day以下である請求項1~3のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項5】
pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の水濡れ密着強度低下率が15%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の水濡れ密着強度低下率が15%以下である請求項1~4のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項6】
pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の水濡れ密着強度が1.5N/15mm以上、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の水濡れ密着強度が1.5N/15mm以上である請求項1~5のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項7】
金属層の平均存在数が、5.0×107~5.0×109個/m2であって、該金属層が、銅、クロム、ニッケル、錫、鉄、銀の少なくとも1つあるいはそれらの混合物である請求項1~6のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項8】
第1の無機化合物層が、酸化アルミニウムからなる層であって、膜厚が5~50nm、かつ、X線光電子分光法により測定されるアルミニウム濃度に対する酸化アルミニウム濃度の割合が40~80%である請求項1~7のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項9】
第2の無機化合物層が、アルミニウムおよび酸化アルミニウムからなる層であって、膜厚が20~200nm、かつ、X線光電子分光法により測定されるアルミニウム原子濃度50atm%以上の膜厚が15~145nm、酸化アルミニウム原子濃度が20atm%以下の膜厚が5~55nmである請求項1~8のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項10】
第1の有機無機混合物層が、炭素、酸素、アルミニウム、ケイ素からなる層であって、膜厚が5~50nm、かつ、X線光電子分光法により測定されるアルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合が40~80%である請求項1~9のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【請求項11】
第2の有機無機混合物層が、ビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られる組成物からなる層であって、膜厚が0.1~4μmである請求項1~10のいずれかに記載の耐薬品光沢遮光性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐酸性および耐アルカリ性能を有し、酸性物、アルカリ性物への接触後も高いガスバリア性、密着性、光沢および遮光性を有する耐薬品光沢遮光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム蒸着フィルムを用いた包装材料は、金属光沢による意匠性を有することから、食品用包装材料をはじめとする包装材料に用いられている。また、アルミ蒸着フィルムは、優れたガスバリア性を有するため、冷蔵庫用の断熱材、住宅用の断熱パネル等の真空断熱材用外層包装材料に用いられている。また、赤外線を反射して車室内の温度上昇を抑制する方法として、アルミニウム蒸着フィルムを遮熱材料として用いた車室内ルーフトリムなどが開示されている(特許文献1)。また、車室内ルーフトリムの作製方法として、作業環境を考慮するとともに、接着する反応型ホットメルト接着剤の養生時間を短縮し、生産性を大幅に高める方法として、反応型ホットメルト接着剤と促進剤の水溶液とを同時にスプレー塗布することにより、空気中で反応型ホットメルト接着剤の硬化を速めた接着方法が開示され、促進剤としては、通常、ウレタンフォーム用触媒として使用されるアミン系触媒が使用され、例えば、イミダゾール系第3級アミン触媒を使用することが開示されている(特許文献2)。
【0003】
酸性内容物に対し、ガスバリア性及び外観美麗性を保持するアルミニウム蒸着フィルムとして、プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、5~20ng/cm2の銅蒸着層形成し、次いでアルミ蒸着層を形成して、更に樹脂と硬化剤の反応により生成した厚み0.5~2.5μmのコーティング層をアルミ蒸着層上に形成する方法が開示されている(特許文献3)。耐アルカリ性に優れ、金属蒸着フィルムの蒸着面を効果的に保護する方法として、金属蒸着フィルム表面に水性コート剤を設ける方法が提案されている(特許文献4)。
【0004】
また、アルミニウム蒸着フィルムの耐酸および耐アルカリ性を向上させ、アルミニウム蒸着層の外観変化を抑えるため、基材(a)、金属蒸着層(b)および保護層(c)がこの順序で積層されてなる積層体であり、保護層(c)が特定のダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するものが開示されている(特許文献5)。
【0005】
また、高い酸素バリア性、水蒸気バリア性を持つ透明な包装材料であって、使用後の焼却処理等環境に配慮された複合フィルムとしてプラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ドライコーティング法によって、厚さ100~500nmのアルミニウム層を施し、該アルミニウム層上に酸化アルミニウム層を積層し、前記酸化アルミニウム層上に、ゾル・ゲル法によって、酸化珪素と水溶性高分子の混合物からなる酸化珪素塗膜を形成した高バリアポリマー複合フィルムおよび該高バリアポリマー複合フィルムを用いて、食品および医薬品等の透明で高バリア性を有する包装材料とする包装体が開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-244908号公報
【特許文献2】特開10-43680号公報
【特許文献3】特開2005-212243号公報
【特許文献4】特開2008-266446号公報
【特許文献5】特開2012-210744号公報
【特許文献6】特開平11-300875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、アルミニウム蒸着フィルムを遮熱材料として車室内ルーフトリムに使用する場合、特許文献2で示されるアミン系触媒水溶液を使用する必要があり、アルカリ性であるアミン系触媒下では、使用に耐えるものではなかった。特許文献3に係る蒸着フィルムは、耐酸性が十分なものではなかった。特許文献4に係る積層体は、耐アルカリ性が十分なものではなかった。特許文献5に係る積層体は、ガスバリア性能が十分なものではなかった。特許文献6に係る高バリアポリマー複合フィルムおよび該高バリアポリマー複合フィルムを用いた包装体は、透明であるため、遮光性が必要な用途に対しては、使用することができなく、また、近年要求されているガスバリア性に対して不十分なものであった。
【0008】
そこで、本発明は、優れた耐酸性および耐アルカリ性能を有し、酸性物、アルカリ性物への接触後も高いガスバリア性、密着性、光沢および遮光性を有する耐薬品光沢遮光性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層、第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層を有するフィルムであって、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が、20%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐酸性および耐アルカリ性能を有し、酸性物、アルカリ性物への接触後も高いガスバリア性、密着性、光沢および遮光性を有する耐薬品光沢遮光性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層、第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層を有することによって、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が、20%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の光線透過率上昇率が5%以下、光沢度低下率が20%以下、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の光線透過率が2%以下、光沢度が600~900%、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の光線透過率が2%以下、光沢度が600~900%、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の酸素透過率上昇率が40%以下、水蒸気透過上昇率が、40%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の酸素透過率上昇率が40%以下、水蒸気透過率上昇率が40%以下、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の酸素透過率が0.3cc/m2・day・atm以下、水蒸気透過率が、0.3g/m2・day以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の酸素透過率が0.3cc/m2・day・atm以下、水蒸気透過率が、0.3g/m2・day以下、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬前後の水濡れ密着強度低下率が15%以下、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬前後の水濡れ密着強度低下率が15%以下、pH2~4の酸性水溶液に240時間浸漬後の水濡れ密着強度が1.5N/15mm以上、かつ、pH10~12のアルカリ性水溶液に240時間浸漬後の水濡れ密着強度が1.5N/15mm以上とすることができる。
【0013】
本発明の基材フィルムは、用途により機械強度、耐熱性、耐光性などの特性を考慮する限り特に限定されないが、代表的な例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、6ナイロン、12ナイロンなどのポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどの単独重合体または共重合体からなるフィルム、シートが挙げられる。基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、延伸(一軸または二軸)されているものが機械特性や厚さの均一性に優れ、二軸延伸フィルムがより好ましい。延伸法としては、ロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組み合わせた延伸などの慣用の延伸法が適用できる。
【0014】
基材フィルムの厚さは特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレートフィルムであれば4~50μm程度、ポリプロピレンフィルムであれば10~60μm程度、ナイロンフィルムであれば10~50μm程度が実用的である。
【0015】
また、これらの基材フィルムの表面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、イオン処理、アンカーコート等の表面改質処理を施しても構わない。プラズマ処理としては、基材フィルムを連続的に走行させながらプレーナーマグネトロン方式のプラズマ処理電極によりプラズマ処理を行う方法が好ましい。プレーナーマグネトロン方式のプラズマ処理電極とは、プレーナー(平板状)プラズマ処理電極の裏面側に磁石を配設することで電極表面上に磁界が発生するようにし、プラズマ中の電子が該磁界に沿った磁力線にローレンツ力により巻き付く形でサイクロイド運動あるいはトロコイド運動を行うことで定常的な放電(マグネトロンプラズマ)を維持する方式による。磁石は、例えば中央部にS極を配し、対応する強さのN極を周囲に配することで、電子が磁力線に巻き付きながら上記ドリフト運動をしながら電極表面を周回できるように設計することが好ましく、この電子が周回できるループ状の経路に沿って強いプラズマを発生させることができる。電極の形状によって、上記強いプラズマの発生領域は、ドーナッツ状、楕円状または長矩形状となる。放電は、好ましくは0.1~100Paの真空下で、プレーナーマグネトロン方式のプラズマ処理電極と基材フィルムを含む空間に特定のガスを供給し、該電極(カソ-ド)とアノ-ド(アース)間で放電する。圧力を0.1Pa以上とすることで安定な放電を得ることができる。また100Pa以下とすることで、プラズマ処理を効率よく行うことができる。より好ましくは、0.1~50Pa、さらに好ましくは、0.1~20Paである。特定のガスは、プラズマ処理の目的によって選択されるものであるが、好ましくは酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気から選ばれる少なくとも一つあるいはそれらの混合ガスであり、より好ましくは、酸素、窒素、あるいはこれらの混合ガスである。また、イオン処理としては、アノードレイヤー型イオン源の荷電粒子照射装置を用いて、基材フィル表面にイオンビームを照射することが好ましい。アノードレイヤー型イオン源は、その前面に円周状あるいはレーストラック状のスリットを備え、その内部にはスリットの間隙に磁界を形成するための磁石と、高電圧を印加できるアノードを備える。ガス供給源からガスを供給し、アノードに高電圧を印加することにより、スリットからイオンビームを照射することができる。ガスの種類としては、酸素、窒素、アルゴン、Heなどを使用することができる。
【0016】
本発明の金属層は、銅、クロム、ニッケル、錫、鉄、銀、アルミニウムの少なくとも1つあるいはそれらの混合物であることが好ましい。
【0017】
本発明の金属層は、基材フィルムの少なくとも一方の面に存在することが好ましい。金属層は、金属層上の第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層と基材フィルムを強固に密着させる効果がある。具体的には、無機化合物が基材フィルム上でマイグレーションにより、基材フィルム上でエネルギーが安定する場所に蓄積する。その場合に、基材フィルム上に金属層が存在することで、金属層上に無機化合物が強固に安定蓄積する。その場合、金属と無機化合物の共有結合、金属と無機化合物内の金属との間の金属間結合、金属と無機化合物の酸素との結合、および金属層表面酸化と無機化合物中の金属との結合などによって、金属層と無機化合物層が強固に密着する。本発明の金属層の平均存在数は、5.0×107~5.0×109個/m2であることが好ましく、さらに好ましくは、1.0×108~3.0×109個/m2である。金属層の平均存在数が、5.0×107個/m2未満となると密着力が十分に得られない。また、金属層の平均存在数が、5.0×109個/m2を越えた場合、基材フィルムが黄変し、目的とする光沢度が得られなくなる。金属層の平均存在数は、単位面積当たりの金属層の重量をその金属の密度で割り返し、その金属のファンデルワールス半径から求めた体積で割り返すことで得ることができる。例えば、金属がニッケルの場合、単位面積当たりの重量が30ng/m2のとき、これをニッケルの密度8.908g/cm3、ニッケルのファンデルワールス半径の16.3nmから求めた体積で割り返すことにより、平均存在数は、1.9×108個/m2となる。単位面積当たりの金属層の重量は、原子吸光分光分析により求めることができる。すなわち、所定面積のサンプルを1規定の硝酸に所定時間以上浸漬して、金属を溶解し、原子吸光法で金属元素を定量する。
【0018】
本発明の金属層の平均存在数を上述の範囲にする方法としては、特に、限定されないが、所定の金属を含有した塗布液を基材フィルムにコーティングした後、溶媒を除去する方法、所定の金属を含有した液をスプレーにより基材フィルムに噴霧する方法、所定の金属を基材フィルムにブラスト処理する方法、真空雰囲気中で、所定金属をスパッタリングする方法などがあげられる。金属層は、基材フィルム表面に物理的に打ち込まれた状態が好ましい。基材フィルム上に金属層が打ち込まれることで、基材フィルム表面が硬化するため、基材フィルムから侵入する酸性溶液、あるいは、アルカリ性溶液が、第1の無機化合物層に侵入することを阻止し、耐酸性、耐アルカリ性が発現する。基材フィルムに金属層を作製したのち、巻き取り、その後、第1の無機化合物層を設けても良いし、基材フィルムを巻きだした後、金属層を作製し、そのままインラインで第1の無機化合物層を設けても良い。基材フィル面の付着ガス、水蒸気、オリゴマー、異物などを除去、清浄化し、基材フィルム表面に金属層を打ち込む観点、およびコスト面から、真空雰囲気中で、基材フィルムを巻きだした後、スパッタリングを行い、その後、連続的に第1の無機化合物層を設ける方法が好ましい。金属層にスパッタリングを行う方法としては、上述のプレーナーマグネトロン電極の材質に、目的とする金属材料を用いて、電極表面上に強い磁界を発生させながら、プラズマ雰囲気下で金属材料をインラインで基材フィルム上にスパッタすることが、好ましい。
【0019】
本発明の第1の無機化合物層は、酸化アルミニウムからなる層であって、膜厚が、5~50nmであることが好ましい、さらに好ましくは、10~25nmである。膜厚が、5nm未満になると、基材フィルムとの密着力が低下し、膜厚が、50nm以上になると目的とする遮光性および光沢度が得られなくなる場合がある。また、本発明の第1の無機化合物層は、X線光電子分光法により測定されるアルミニウム濃度に対する酸化アルミニウム濃度の割合(A)が、40~80%であることが好ましい。さらに好ましくは、50~70%である。第1の無機化合物層のX線光電子分光法により測定されるアルミニウム濃度に対する酸化アルミニウム濃度の割合(A)が、40%を下回ると、第1の無機化合物層のアルミニウムの割合が多くなり、不均一なアルミニウム結晶粒界部分が増え、目的としたガスバリア性を得ることができなくなる場合がある。また、第1の無機化合物層のX線光電子分光法により測定されるアルミニウム濃度に対する酸化アルミニウム濃度の割合(A)が、80%を超えると、第1の無機化合物層の緻密性が低下するため、後述する第2の無機化合物の緻密性が低下し、目的とする光沢度、遮光性が得られなくなる場合がある。
【0020】
本発明における第1の無機化合物層の膜厚とは、X線光電子分光法により測定される基材フィルムの炭素濃度が最大値の1/2となる箇所と第2の無機化合物の金属濃度が1/2となる箇所との距離をSとし、同様に方法により、基材フィルムの炭素濃度が最大値の1/2の箇所と第1の有機無機混合物層表面までの距離をTとした場合、透過型電子顕微鏡により、倍率20万倍で同一視野で観察された第1の無機化合物層から第1の有機無機混合物層表面の3箇所の厚さの平均値Tに、S/Tをかけた数値のことを言う。
【0021】
本発明の第1の無機化合物層の酸化アルミニウム原子濃度とは、測定条件をX線源AlKα、X線出力120W、エッチングガスにアルゴンガスを用いて、エッチング条件を、アルゴンイオンエネルギー1.0keV以下、エッチング時間1ステップ15秒以下で実施した場合のX線光電子分光法により測定されるデプスプロファイルスペクトルにおいて、得られたアルミニウムのピークスペクトルをナロースキャン分析を行って、結合エネルギーが74eV以上77eV以下の範囲にアルミニウムと酸素との共有結合を持つ成分の濃度のことをいう。
【0022】
本発明における第1の無機化合物層のアルミニウム濃度とは、上述同じ測定条件、同じエッチングガスおよびエッチング条件で実施し、同じナロースキャン分析にて得られたアルミニウム金属成分の濃度のことをいう。
【0023】
本発明における第2の無機化合物層は、アルミニウムおよび酸化アルミニウムからなる層であって、膜厚が、20~200nmであることが好ましい。さらに好ましくは、30~150nmである。膜厚が20nmより少なくなると目的とする光沢度、遮光性が得られなくなる場合がある。また、膜厚が200nmより大きくなると第2の無機化合物層作製時の凝集エネルギーが大きくなり、基材フィルムが熱で変形し、外観が実用に耐えないという問題が発生する場合がある。本発明における第2の無機化合物層のアルミニウム原子濃度が50atm%以上の膜厚が15~145nm、酸化アルミニウム原子濃度が20atm%以下の膜厚が5~55nmであることが好ましい。酸化アルミニウムのアルミニウム原子濃度が、50atm%以上の膜厚が15nm未満の場合、目的とする光沢度、遮光性が得られなくなり、145nmを超えるとアルミ金属層の凝集破壊がおこり密着力が低下する場合がある。また、酸化アルミニウム原子濃度が20atm%以下の膜厚が5nm未満の場合、目的とする酸素バリア性能、水蒸気バリア性能を発現することが困難となる場合があり、55nmを超えると、目的とする光沢度が得られなくなる場合がある。第2の無機化合物層の膜厚および酸化アルミニウムの原子濃度は、上述の第1の無機化合物と同様の方法によって、測定することができる。
【0024】
本発明の第1の有機無機混合物層は、炭素、酸素、アルミニウム、ケイ素からなる層であって、膜厚が、5~50nm、かつ、アルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合が40~80%であることが好ましい。膜厚は、10~40nmであることがさらに好ましい。第1の有機無機化合物層の膜厚、アルミニウム濃度および酸化アルミニウム濃度は、上述の第1の無機化合物と同様の方法によって、測定することができる。第1の有機無機混合物層の膜厚が、5nm未満では、目的とする酸素バリア性能、水蒸気バリア性能を発現することが困難となる場合がある。50nmを超えると第1の有機無機混合物層内の凝集力が低下し、第1の有機無機混合物層内で凝集破壊が起こり、密着強度が低くなる場合がある。また、本発明の第1の有機無機混合物層のアルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合が40%未満であると耐薬品性が不十分になり、80%を超えると目的とする光沢度および遮光性が得られなくなる場合がある。
【0025】
本発明の第2の有機無機混合物層は、ビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られる組成物からなることが好ましい。ビニルアルコール系樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系樹脂が好ましい。特に、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体が好ましい。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよく、特に限定されない。アルコキシ基を有する有機珪素化合物において、アルコキシ基とは、アルキル基をRとした場合、Rが酸素に結合したRO-の構造を有するものであり、加水分解による脱アルコール反応を経てシラノール基に変化するものであり、メトキシ基やエトキシ基が好ましい。これらアルコキシ基を有する珪素化合物とは、具体的にはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシランなどがあげられ、中でもテトラエトキシシランが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。ビニルアルコール系樹脂に対するアルコキシ基を有するアルコキシ基を有する有機珪素化合物の混合比率は、有機珪素化合物をSiO2換算した質量比率で、ビニルアルコール系樹脂/アルコキシ基を有する有機珪素化合物=15/85~85/15の範囲が好ましく、40/60~60/40の範囲がさらに好ましい。SiO2換算した質量比率とは、アルコキシ基を有する有機珪素化合物中の珪素原子のモル数からSiO2質量に換算したものであり、ビニルアルコール系樹脂/アルコキシ基を有する有機珪素化合物(質量比)で表される。この値が85/15を超える場合は、ビニルアルコール系樹脂を固定化することができず、ガスバリア性能が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、有機珪素化合物の比率が高くなり、ガスバリア樹脂層が固くなるため、耐屈曲性や引張性能が低下する場合がある。
【0026】
本発明の第2の有機無機混合物層を形成する方法としては、上記ビニルアルコール系樹脂と1種以上の上記のアルコキシ基を有する有機珪素化合物およびその加水分解物の少なくとも一方を含む水溶液あるいはアルコール混合水溶液からなる塗剤を用いて形成される。上記のビニルアルコール系樹脂単独では、塗膜として固化する過程で分子鎖中の水酸基同士が水素結合で結合することで分子鎖が拘束され、酸素や窒素等のガスに対しては優れたバリア性能を発現するが、水分子に対しては水素結合が可塑化するためにバリア性能を発現することはできない。ビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物からなる樹脂組成物とすることで、有機珪素化合物同士で重縮合したシロキサン結合を骨格とする無機構造と、ビニルアルコール系樹脂のお互いの水酸基で水素結合、さらには脱水反応で酸素を介してSi-O-の共有結合を有するいわゆる有機無機ハイブリッド構造が出現する。このような構造においては単独のビニルアルコール系樹脂よりも分子鎖の拘束が強固となり、水蒸気バリア性能を発現することができる。さらには、蒸着膜表面の水酸基と結合して密着力を向上させ、さらには蒸着層のピンホール、クラック、粒界などの欠陥を充填、補強することで緻密な構造を形成することができるため、折り曲げや変形に際してガスバリア性能の劣化を抑制することができる。本発明における第2の有機無機混合物層を形成する方法としては、特に制限はなく、基材フィルムに応じた方法で形成することができる。例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法などの印刷方式やロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法、ナイフエッジコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、スピンコーティング法等やこれらを組み合わせた方法を用いて、コーティング液をコーティングすればよい。本発明の第2の有機無機混合物層の膜厚は、0.1~4μmとするのが好ましく、より好ましくは0.2~1μmである。膜厚が0.1μm以下であると、ガスバリア性能が発現しない場合がある。一方、ガスバリア樹脂層の膜厚が4μmを超えると、ガスバリア樹脂層の凝集力が低下し、剥離がガスバリア樹脂層内での凝集破壊によるものとなり、見かけのラミネート強度が低くなる場合がある。またコーティング乾燥条件が高温、長時間必要であり、製造コストが高騰するといった問題点も起こる場合がある。
【0027】
本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムの作製方法を以下に示す。
【0028】
本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層、第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層、第2の有機無機混合物層を有するフィルムである。金属層の形成方法は、上述の方法で形成することができる。また、金属層、第1無機化合物層、第2の無機化合物層は、連続して形成されることがコスト的に好ましく。好ましくは、上述の方法で金属層を形成後、連続して、真空雰囲気下で、無機化合物原料を蒸発させ、基材フィルムに蒸着させる方法が好ましい。その際、基材フィルムを巻き取る下流側に酸素ガスを導入する方法が好ましい。本発明での基材フィルムを巻き取る下流側とは、基材フィルムを巻きだした後、無機化合物原料が蒸発したのち基材フィルムが巻き取られるまでの箇所のことをいう。このように基材フィルムを巻き取る下流側に酸素ガスを導入することにより、第2の有機無機混合物層を形成した際に、第2の無機化合物層と第2の有機無機化合物層が混合し、第1の有機無機混合物層を形成することができる。酸素ガスを導入する場所は、本発明の第1の無機化合物層、第2の無機化合物層、第1の有機無機混合物層が上述の範囲になるような箇所であれば、特に限定されないが、酸素ガス導入箇所がフィルムを巻き取る中流及び上流側では、酸素が第1の無機化合物層と第2の無機化合物層全体に導入されるため、目的とする光沢度、遮光性が得られない場合がある。
【実施例0029】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0030】
(評価方法)
(1)第1の無機化合物層および第2の無機化合物層の膜厚
全自動走査型X線光電子分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社社製K-Alpha)を用いて、X線源AlKα、X線出力25.1W、光電子取り出し角45°で分析を行った。第2の無機化合物側から、Arイオンを用いて、Arイオンエネルギー1keVでスパッタを行ない、一定スパッタ時間毎に炭素、酸素、アルミニウムの元素について狭域光電子スペクトル測定を行い、C1s、O1s、Al2pの狭域光電子ピーク面積強度比と相対感度係数から各元素の組成比を算出し、以下の方法に基づき深さ方向の組成分布を求めた。
【0031】
第1の無機化合物層の膜厚は、基材フィルムの炭素濃度が最大値の1/2となる箇所と第2の無機化合物の金属濃度が1/2となる箇所の距離をSとし、同様の方法により、基材フィルムの炭素濃度が最大値の1/2の箇所と第1の有機無機混合物層表面までの距離をTとした場合、透過型電子顕微鏡で20万倍で同一視野で観察された第1の無機化合物層から第1の有機無機混合物層表面の厚さの3箇所の平均値Tに、S/Tをかけた数値とした。第2の無機化合物層の膜厚も同様にして求めた。
【0032】
透過型電子顕微鏡での観察方法は、観察対象となるフィルムをマイクロサンプリング法でサンプリング後、収束イオンビーム加工装置((株)日立製作所製 FB-2000)を用いて薄膜化を行った。その後、サンプル保護のため、炭素およびタングステン保護膜を形成した。このサンプルを電界放出形透過電子顕微鏡((株)日立製作所製 HF-2200、以下TEMと称する)で観察した。
【0033】
(2)アルミニウム原子濃度、アルミニウム原子濃度の算出
上記(1)と同じ測定装置を用いて、X線源AlKα、X線出力25.1Wでナロースキャンスペクトル分析から、Al2pの波形分離解析を行い、酸化アルミニウム原子濃度、アルミニウム原子濃度を求めた。
【0034】
(3)光沢度
光沢度は、スガ試験機株式会社の変角光沢度計 タイプ:UGV-5Dを用いて、JIS Z8741(1983)に従って、非基材フィルム面に対して入射角60゜/反射角60゜で測定した。
【0035】
(4)光線透過率
光線透過率測定は、Macbeth TD931光学濃度計を使用した。光学濃度は不透明度の10を底とする対数で表される。同測定機内に蒸着・コーティング加工したフィルム試料をセットし、「試料に入射する投射光」と「試料透過後の透過光」の比を常用対数で表し算出した。すなわち、光学濃度=log(投射光/透過光)=log(1/透過率)で表現され、透過率(%)は同式により算出した。
【0036】
(5)酸素透過率
温度23℃、湿度90%RH、測定面積50cm2の条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名:OXTRAN(登録商標) 2/20)を使用して測定した。
【0037】
(6)水蒸気透過率
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm2の条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:PERMATRAN(登録商標) W3/31)を使用して測定した。
【0038】
(7)水濡れ密着強度
三井化学(株)製ポリエーテルウレタン系ドライラミネート用接着剤“タケラック”(登録商標)A969Vタイプ30重量部、三井化学(株)製ドライラミネート用硬化剤“タケラック”(登録商標)A10タイプ10重量部及び酢酸エチル100重量部を量り取り、30分攪拌して固形分濃度19重量%のドライラミネート用接着剤溶液を調整した。
【0039】
次に非基材フィルム面にバーコート法により上記接着剤溶液を塗工し、80℃で45秒間乾燥して1.5μmの厚さの接着剤層を形成した。
【0040】
次に、該接着剤層に、ポリエステルフィルムとして東レ(株)製二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)P60タイプ(厚さ12μm)をコロナ処理面が接着剤層と向かい合うように重ね、富士テック(株)製“ラミパッカー”(登録商標)LPA330を用いて、ヒートロールを40℃に加熱して貼り合わせた。このラミネートフィルムを40℃に加熱したオーブン内で2日間エージングして積層フィルムを得た。次に該積層フィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、(株)エー・アンド・デイ製引張り試験機(RTG-1210タイプ)を使用して貼り合わせたフィルムとポリエチレンテレフタレートフィルム間を界面として、剥離箇所に綿棒を使用して純水を供給しながら、Tピール法により引張り速度300mm/minで剥離し、剥離強度を測定した。得られた値を水濡れ密着強度(N/15mm)とした。
【0041】
(8)耐薬品性
1)耐酸性
pH3.0の酢酸水溶液(30mL)中に、50cm2の大きさにカットしたフィルムを温度23℃の環境下で240時間浸漬した。その後、浸漬したフィルムを取り出し、純水で洗浄した後、室温で十分に乾燥させた。このフィルムについて、下記(9)~(13)の測定を行い、耐酸性を評価した。
【0042】
2)耐アルカリ性
pH11.0の水酸化カルシウム水溶液(30mL)中に、50cm2の大きさにカットしたフィルムを温度23℃の環境下で240時間浸漬した。その後、浸漬したフィルムを取り出し、純水で洗浄した後、室温で十分に乾燥させた。このフィルムについて、下記(9)~(13)の測定を行い、耐アルカリ性を評価した。
【0043】
(9)光沢度低下率
上記(8)で作製したフィルムを浸漬後フィルムとして、上記(3)の方法で浸漬前後のフィルムの光沢度を測定し、下記式から光沢度低下率を算出した。
光沢度低下率(%)=(浸漬前の光沢度(%)-浸漬後の光沢度(%))/浸漬前の光沢度(%)。
【0044】
(10)光線透過率上昇率
上記(8)で作製したフィルムを浸漬後フィルムとして、上述(4)の方法で浸漬前後のフィルムの光線透過率を測定し、下記式から光線透過率上昇率を算出した。
光線透過率上昇率(%)=(浸漬後の光線透過率-浸漬前の光線透過率)/浸漬前の光線透過率。
【0045】
(11)酸素透過率上昇率
上記(8)で作製したフィルムを浸漬後フィルムとして、上述(5)の方法で浸漬前後のフィルムの酸素透過率を測定し、下記式から酸素透過率上昇率を算出した。
酸素透過率上昇率(%)=(浸漬後の酸素透過率-浸漬前の酸素透過率)/浸漬前の酸素透過率。
【0046】
(12)水蒸気透過率上昇率
上記(8)で作製したフィルムを浸漬後フィルムとして、上述(6)の方法で浸漬前後のフィルムの水蒸気透過率を測定し、下記式から水蒸気透過率上昇率を算出した。
水蒸気透過率上昇率(%)=(浸漬後の水蒸気透過率-浸漬前の水蒸気透過率)/浸漬前の水蒸気透過率。
【0047】
(13)水濡れ密着強度低下率
上記(8)で作製したフィルムを浸漬後フィルムとして、上記(7)の方法で浸漬前後のフィルムの水濡れ密着強度を測定し、下記式から水濡れ密着強度低下率を算出した。
水濡れ密着強度低下率(%)=(浸漬前の水濡れ密着強度-浸漬後の水濡れ密着強度)/浸漬前の水濡れ密着強度。
【0048】
(実施例1)
耐薬品光沢遮光性フィルムとして、厚さ12μm、幅2m、長さ60,000mの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)P60)を使用し、ロール・ツー・ロール真空蒸着機を用い、フィルム繰出部と蒸着部の間に、銅をターゲットとするプレーナーマグネトロン方式の放電電極を設置し、高周波電源(周波数60kHz)により供給された電圧をかけることで、プラズマを発生させ、フィルム上に7.8×108個/m2の金属層を形成した。さらにその上にフィルム搬送速度480m/分で、第1の無機化合物層膜厚が10nmおよび第2の無機化合物層膜厚膜厚が50nmになるように連続的に形成した。基材フィルムには、冷却された回転ドラム上で、基材フィルム進行方向でその位置に応じた組成の膜が厚さ方向に順次形成される。酸素供給源は基材を巻き取る下流側で蒸着を最後に受ける位置から酸素を供給し、第1の無機化合物層から第2の無機化合物層を形成した。
【0049】
次に、上記で得られた第2の無機化合物層の上に、下記組成の水溶液をグラビアコート法により塗布、乾燥して第1の有機無機混合物層膜厚が10nmになるように、および第2の有機無機混合物層膜厚が0.4μmになるように形成し、耐薬品光沢遮光性フィルムを作製した。なお、下記組成の(A液)/(B液)との混合比(重量%)は35/65とした。
【0050】
(有機無機混合物層形成用の水溶液)
(A液):テトラエトキシシラン(TEOS)に塩酸(0.1N)を加え、120分間攪拌して加水分解し、A液を調整した(固形分30重量%:SiO2換算)。
【0051】
(B液):ポリビニルアルコール(PVA、重合度1,700、けん化度98.5%)の10重量%水溶液とメチルアルコールとを35/65(重量比)で配合して攪拌し、B液を調整した。
【0052】
(実施例2)
ターゲット素材をニッケルに変更し、金属層をニッケル、第2の無機化合物層酸化アルミニウム原子濃度を10atm%としたこと以外は、実施例1と同じとして、第1の無機化合物層および第2の無機化合物層を形成した耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0053】
(実施例3)
ターゲット素材をクロムに変更し、金属層をクロム、第2の無機化合物層酸化アルミニウム原子濃度を16atm%、第1の有機無機混合物層アルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合を72%としたこと以外は、実施例1と同じとして、第1の無機化合物層および第2の無機化合物層を形成した耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0054】
(実施例4)
ターゲット素材を錫に変更し、金属層を錫、第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和を41nmとすること以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0055】
(実施例5)
ターゲット素材を鉄に変更し、金属層を鉄、第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和を35nmとすること以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0056】
(実施例6)
ターゲット素材を銀に変更し、金属層を銀、第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和を145nm、第1の有機無機混合物層膜厚を35nmおよびアルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合を60%とすること以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0057】
(実施例7)
第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和を218nm、第1の有機無機混合物層膜厚を48nmおよびアルミニウム原子濃度に対する酸化アルミニウム原子濃度の割合を78%とすること以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、酸素供給位置を上流側とした以外は、実施例1と同じとして、第1の無機化合物層および第2の無機化合物層を形成した耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0059】
(比較例2)
実施例1において、第1の有機無機混合物層へ酸素を供給することなく、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0060】
(比較例3)
第2の有機無機混合物層を、下記組成の水溶液をグラビアコート法により塗布、乾燥してガスバリア樹脂層とすること以外は、実施例1と同様にして耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。なお、下記組成の(A液)/(B液)との混合比(重量%)は20/80とした。
【0061】
(有機無機混合物層形成用の水溶液)
(A液):アクリロニトリル(AN)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)の各モノマーをそれぞれ20/50/30重量%の割合で配合し、酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、n-プロピルアルコールの混合溶剤に溶解させてA液を調整した(固形分30重量%)。
【0062】
(B液):キシリレンジイソシアネート、メチルエチルケトンを10/90で配合して攪拌し、B液を調整した。
【0063】
(比較例4)
ターゲット素材をクロムに変更し、金属層をクロム、第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和をを253nm、酸素供給源位置をを中流側とした以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0064】
(比較例5)
ターゲット素材をニッケルに変更し、金属層をニッケル、第1の無機化合物層膜厚と第2の無機化合物層膜厚の和を243nm、酸素供給位置を上流側とした以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0065】
各実施例、比較例で作成したフィルムの構成を表1に、特性を表2および表3に示した。
【0066】
(比較例6)
第2の有機無機混合物層膜厚を0.05μmとした以外は、実施例1と同様にして、耐薬品光沢遮光性フィルムを得た。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
以上の各実施例の結果より明らかなように、本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムは、耐酸性および耐アルカリ性能に優れ、ガスバリア性に対しても性能が維持できる良好なものであった。
【0071】
一方、比較例1は酸素量が過剰なため、アルミニウム蒸着層本来の光沢度が発現せず、比較例2は第1の有機無機混合物層がないため無機混合物層と有機無機混合物層の密着力が発現せず耐酸性および耐アルカリ性が劣り、比較例3は有機無機混合物層が無いために、耐酸性および耐アルカリ性能が低く、比較例4および比較例5は、無機化合物層膜厚が厚いため、水濡れ密着強度が低下し、比較例6は第2の有機無機混合物層膜厚が薄いために、耐酸性および耐アルカリ性能が低下した。
本発明の耐薬品光沢遮光性フィルムは、優れた耐酸性および耐アルカリ性能を有するため、内容物が酸性およびアルカリ性包装材料のみならず、工程内で耐酸性および耐アルカリ性等の耐薬品遮光性が要求される、車載用遮熱材としても有用である。