(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149220
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】床材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/02 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E04F15/02 B
E04F15/02 102F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051270
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松本 柾志
【テーマコード(参考)】
2E220
【Fターム(参考)】
2E220AA23
2E220AA26
2E220AD01
2E220EA03
2E220GA12X
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GA27X
2E220GB32X
(57)【要約】
【課題】比較的軽量で強度に優れた床材を提供することを課題とする。
【解決手段】繊維で形成された糸により構成された補強シートを備え、前記糸の引張強さが18cN/dtex以上である、床材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維で形成された糸により構成された補強シートを備え、
前記糸の引張強さが、18cN/dtex以上である、床材。
【請求項2】
前記糸の弾性率が、400cN/dtex以上である、請求項1に記載の床材。
【請求項3】
前記糸の破断伸度が、2%以上10%以下である、請求項1又は2に記載の床材。
【請求項4】
前記繊維が、アラミド系繊維である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の床材。
【請求項5】
畳である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建築物には床材が用いられている。
【0003】
また、この種の床材として、強度の向上が図られた床材が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系繊維等の合成繊維により形成された不織布を補強シートとして備える床材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飛来物等の衝突によって、人が負傷し又は物品が損傷する事故が発生することがある。例えば、火山の噴火による噴石等の衝突物に起因して、人命に関わる事故が発生することがある。
【0006】
このような事故例を踏まえ、本発明者らは、建築物に設けられる床材によって、該床材よりも低層に存在する人又は物品を衝突物から保護することを着想した。しかしながら、従来の床材では、補強の程度が不十分となる場合があることが判明した。特に、噴石のように、衝突物が比較的大きな衝突エネルギーを有する場合には、従来の床材では、衝突物から人や物品を十分に保護できないことが分かった。また、床材は、運搬のし易さ、用いられる建築物の耐震性の観点から軽量であることが望ましい。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、比較的軽量で強度に優れた床材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る床材は、
繊維で形成された糸により構成された補強シートを備え、
前記糸の引張強さが、18cN/dtex以上である。
【0009】
斯かる構成によれば、補強シートを構成する糸の引張強さが18cN/dtex以上であることによって、鉄板等と比較して、軽量で強度に優れたものとなる。
【0010】
また、本発明に係る床材は、好ましくは、前記糸の弾性率が、400cN/dtex以上である。
【0011】
斯かる構成によれば、糸の弾性率が400cN/dtex以上であることによって、噴石のような高速且つ高重量の衝突物が衝突した場合であっても糸の変形が生じにくくなり、衝突物の貫通を抑制可能なものとなる。
【0012】
また、本発明に係る床材は、好ましくは、前記糸の破断伸度が、2%以上10%以下である。
【0013】
斯かる構成によれば、糸の破断伸度が2%以上であることによって、衝突物の衝突によって糸に伸びが生じ易くなり、補強シートが衝突物の衝撃を吸収し得るものとなる。また、糸の破断伸度が10%以下であることによって、衝突物による補強シートの変形が抑制され、裏面側への衝突物の突出や貫通が抑制され得る。
【0014】
また、本発明に係る床材は、好ましくは、前記繊維が、アラミド繊維である。
【0015】
斯かる構成によれば、前記繊維が強度に優れるアラミド繊維であることによって、補強シートの厚みを比較的小さくすることができ、延いては、床材自体の厚みを比較的小さくすることができる。
【0016】
また、本発明に係る床材は、好ましくは、畳である。
【0017】
本発明の床材が設けられる建築物として、例えば、噴石や落石が衝突し得る山小屋が考えられる。また、我が国の山小屋は、床材として畳を有するものが主流となっている。よって、上記構成によれば、このような山小屋の内観を損ねることなく設置可能なものとなる。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り、本発明によれば、比較的軽量で強度に優れた床材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る床材の断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の床材の裏面を部分的に示す模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る床材の使用例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例における試験に用いた模擬的な衝突物を正面から撮影した写真である。
【
図5】
図5は、実施例の試験A-1後の床材(試験例1)を表面側から撮影した写真である。
【
図6】
図6は、試験A-1後の床材(試験例1)を裏面側から撮影した写真である。
【
図7】
図7は、試験A-2後の床材(試験例1)を裏面側から撮影した写真である。
【
図8】
図8は、試験B-1後の床材(試験例2)を裏面側から撮影した写真である。
【
図9】
図9は、試験B-2後の床材(試験例2)を裏面側から撮影した写真である。
【
図10】
図10は、試験B-3後の床材(試験例2)を裏面側から撮影した写真である。
【
図11】
図11は、試験B-4後の床材(試験例2)を裏面側から撮影した写真である。
【
図12】
図12は、試験B-5後の床材(試験例2)を裏面側から撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る床材について説明する。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態の床材1は、基礎をなす芯材層10と、繊維で形成された糸により構成された補強シート20と、表面を構成する化粧シート30と、裏面を構成する裏面シート40とを備えている。また、本実施形態の床材1は、平面視において矩形状である。
【0022】
床材1は、補強シート20を備える畳であることが好ましい。これによって、我が国の山小屋、和風のホテルや旅館、日本家屋等の建築物に床材1を適用し易くなる。また、これらの建築物における既設の床材との交換が容易になるという利点もある。
【0023】
床材1の厚みは、55~70mmであることが好ましく、JIS A 5902:2009(畳)に規定される厚み55~60mmの範囲内であることがより好ましい。なお、床材1の厚みは、JIS A 5902:2009に規定される測定方法により測定することができる。
【0024】
また、床材1の1m2あたりの質量は、10~50kgであることが好ましく、10~30kgであることがより好ましい。これによって、輸送、特に、山小屋等の標高の高い輸送先への運搬が容易になる。また、床材1の質量は、JISに規定される測定方法によって測定することができる。例えば、稲わらサンドイッチタイプの床材の場合にはJIS A 5901(稲わら畳床及び稲わらサンドイッチ畳床)、III型建材畳床タイプの床材の場合にはJIS A 5914(建材畳床)に規定される測定方法によって測定することができる。そして、測定された質量を床材の面積で割ることによって、1m2あたりの質量を求めることができる。
【0025】
芯材層10は、樹脂発泡体、稲わら、又は木質繊維板によって構成されていることが好ましく、これらの複数が組み合わされることによって構成されていることがより好ましい。
【0026】
図1に示されるように、本実施形態の芯材層10は、前記樹脂発泡体により形成された樹脂発泡層11を厚み方向の中央部に有し、樹脂発泡層11の表面側及び裏面側の少なくとも一方に、圧縮された稲わらにより形成された稲わら層12が積層されている。
【0027】
稲わら層12は、樹脂発泡層11の少なくとも表面側に積層されていることが好ましい。本実施形態の稲わら層12は、樹脂発泡層11の表面側及び裏面側の両方に積層されている。言い換えれば、本実施形態の芯材層10は、樹脂発泡層11を介した表面側及び裏面側のそれぞれに、第1稲わら層121及び第2稲わら層122が形成された稲わらサンドイッチ構造を有している(稲わらサンドイッチ畳床タイプ)。
【0028】
前記樹脂発泡体を形成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0029】
芯材層10は、前記木質繊維板が樹脂発泡層11に積層されることによって構成されていてもよい。
【0030】
前記木質繊維板は、樹脂発泡層11の少なくとも表面側に積層されていることが好ましい(II型建材畳床タイプ)。また、前記木質繊維板は、樹脂発泡層11の表面側及び裏面側の両方に積層されていることがより好ましい(III型建材畳床タイプ)。
【0031】
前記木質繊維板としては、木材等の植物繊維をバインダー樹脂により結合させたものが好ましい。このような木質繊維板としては、例えば、パーティクルボード、合板、インシュレーションファイバーボード(インシュレーションボード)、ミディアムデンシティファイバーボード(MDF)、ハードファイバーボード(ハードボード)等が挙げられる。
【0032】
補強シート20は、床材1において補強層を形成するように配されていてもよい。補強シート20は、芯材層10の一表面に積層されるように配されていてもよい。また、本実施形態のように芯材層10が複数の層から構成されている場合には、補強シート20は、芯材層10の内部に積層されるように配されていてもよい。また、補強シート20は、裏面シート40の代わりに、床材1の裏面を構成していてもよい。本実施形態の補強シート20は、樹脂発泡層11の裏面に直接的に積層されるように配されている。言い換えれば、本実施形態の補強シート20は、樹脂発泡層11及び第2稲わら層122のそれぞれに挟み込まれるようにして配されている。補強シート20が床材1の厚み方向中央を基準として裏面側に配されることによって、前記補強層が衝突物の衝突面たる床材表面から比較的離れた位置に形成されることとなるため、衝突物が床材1から突出することや貫通することが抑制される。
【0033】
補強シート20は、少なくとも一つの稲わら層12よりも裏面側に配されていることが好ましく、本実施形態のように、第1稲わら層121と第2稲わら層122との間に配されていることがより好ましい。このような配置で稲わら層12と補強シート20とが組み合わせられることによって、衝撃吸収性に優れる稲わら層12によって衝突物の落下エネルギーが軽減されつつ、補強シート20に該衝突物の衝撃が加わることとなる。よって、補強シート20の固定が外れることによって生じ得る衝突物の床材1からの突出や貫通が抑制され、より効果的に人や物品を保護することができる。
【0034】
ここで、芯材層10が前記木質繊維板を有する場合、衝突物の衝突によって該木質繊維板が裂けるようにして損傷し、この裂けた部分が補強シート20に突き刺さることがある。そして、これによって補強シート20に引き裂きが生じるおそれがある。このため、前記木質繊維板は、床材1の厚み方向において補強シート20よりも裏面側に配されていることが好ましい。また、かかる観点から、芯材層10は、樹脂発泡層11と稲わら層12とで構成されていることが好ましい。
【0035】
補強シート20は、床材1を表面側から見たときに(平面視において)、床材1の面積に対して90~100%の面積を占めるように配されていることが好ましく、95~100%以上の面積を占めるように配されていることがより好ましい。また、補強シート20は、床材1を表面側から見たときに、途切れることなくつながった状態であることが好ましい。これによって、床材1に衝突した衝突物を補強シート20により包み込むようにして制止することも可能となり得る。
【0036】
補強シート20は、1枚のみが用いられてもよいが、複数枚が用いられることがより好ましい。この場合、各補強シート20は、互いに直接的に積層されるように(密着するように)配されて、一つの前記補強層を形成していてもよい。また、各補強シート20は、他の層を介在させた状態で互いに分離して配されて複数の前記補強層を形成していてもよい。
【0037】
補強シート20は、前記糸により構成された布帛であることが好ましい。前記布帛は、織物であってもよく、編物であってもよいが、強度を向上させる上では、前記布帛は織物であることが好ましい。織物の場合、織り方は特に限定されないが、例えば、平織、バスケット織等が挙げられる。
【0038】
前記布帛は、たて方向及びよこ方向における引張強さが9,000N/30mm以上であることが好ましい。なお、該引張強さは、JIS L 1096:2010に規定されたA法(ストリップ法)に準拠して測定することができる。
【0039】
前記布帛の目付は、430g/m2以上であることが好ましい。これによって、床材1の強度をより優れたものとすることができる。また、補強シート20の目付は、500g/m2以下であることが好ましい。これによって、床材1を比較的軽量なものとすることができる。なお、前記布帛の目付は、JIS L 1096:2010に規定される方法によって測定することができる。
【0040】
前記糸の引張強さは、19cN/dtex以上であることが好ましく、20cN/dtexであることがより好ましい。また、前記糸の引張強さは、通常50cN/dtex以下であり、40cN/dtex以下であってもよく、30cN/dtex以下であってもよい。
【0041】
前記糸の弾性率は、450cN/dtex以上であることが好ましく、500cN/dtex以上であることがより好ましい。これによって、衝突物の衝突によって糸に変形が更に生じにくくなる。従って、このような糸で構成された補強シート20を備える床材1は、裏面側への衝突物の突出や貫通を更に抑制可能なものとなる。また、かかる床材1は、衝突物を跳ね返すことも可能となり得る。また、前記糸の弾性率は、1,500cN/dtex以下であることが好ましく、1,000cN/dtex以下であることがより好ましい。これによって、前記糸が、脆化が抑制された強靭な(ねばり強い)ものとなる。従って、このような糸で構成された補強シート20を備える床材1は、衝突物の落下エネルギーを吸収する衝撃吸収性に優れたものとなり、裏面側への衝突物の突出や貫通をより一層抑制可能なものとなる。
【0042】
前記糸の破断伸度は、3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましい。これによって、補強シート20が衝突物の衝撃を吸収する衝撃吸収性に優れたものとなる。また、前記糸の破断伸度は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。これによって、床材1は、裏面側への衝突物の突出や貫通を更に抑制可能なものとなる。
【0043】
ここで、弾性率が1,500cN/dtexよりも大きい糸を選択することも考えられる。例えば、炭素繊維で形成した糸は、このような高弾性率を有するものもある。しかしながら、糸の弾性率を高く設定し過ぎると、破断伸度が低下し(炭素繊維で形成した糸の場合、通常2.0%未満)、糸の強靭さが低下し、変形によって引き裂き等の損傷が生じ易くなる。このため、補強シート20の衝撃吸収性が不十分になり、床材1の裏面側への衝突物の突出や貫通が生じるおそれがある。このようなことから、前記糸は、弾性率が450~1,500cN/dtex(より好ましくは500~1,000cN/dtex)であり、且つ、破断伸度が3~8%(より好ましくは4~6%)であることがとりわけ好ましい。これによって、床材1が、更に、衝突物の貫通を抑制可能なものとなる。
【0044】
前記糸の繊度は、1,500dtex以上であることが好ましい。これによって、補強シート20の衝突物との摩擦に対する耐摩擦性が向上し、衝突物が補強シート20に引っ掛かるようにして補強シート20に制止され易くなる。また、前記糸の繊度は、2,000dtex以下であることが好ましい。これによって、補強シート20の柔軟性が高まり、補強シート20が製造時等の取扱い性に優れたものとなる。
【0045】
なお、前記糸の引張強さ、弾性率(ヤング率)、破断伸度は、ASTM D885に記載の測定方法によって測定することができる。また、前記糸の繊度は、JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に規定される方法によって測定することができる。
【0046】
前記糸は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。
【0047】
前記繊維としては、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、及びポリエーテルエーテルケトン繊維等の高強力繊維が好ましい。前記糸は、これらの繊維のうちの一種のみで形成されていてもよく、二種以上で形成されていてもよい。前記糸は、一部に前記高強力繊維以外の合成繊維や天然繊維を含んでもよいが、前記糸を形成する繊維の総質量に対する前記高強力繊維の質量割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0048】
前記高強力繊維のなかでも前記アラミド繊維が好ましく、高強度であり且つ弾性率の高いパラ系アラミド繊維がより好ましい。なお、前記アラミド繊維は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを共重合反応させることによって得られる共重合体から形成される繊維である。また、前記パラ系アラミド繊維としては、例えば、パラフェニレンジアミンとテレフタル酸クロリドと3,4-ジアミノジフェニルエーテルとを共重合反応させることによって得られる共重合体から形成される繊維である。これらのアラミド繊維で形成された糸は、金属繊維で形成された糸と比較して、引張強度に優れ、高弾性率を有するものとなり、しかも、軽量なものとなる。また、該糸は、炭素繊維等で形成された糸と比較して、高い破断伸度を示すものとなる。よって、前記アラミド繊維で形成された糸によって構成された補強シート20を備える床材1は、優れた強度を有するとともに衝撃吸収性にも優れ、しかも、比較的軽量なものとなる。
【0049】
補強シート20の厚みは、通常、0.15mm以上である。補強シート20は、この程度の厚みであっても、上記繊維で形成された糸を用いることによって、十分な強度を有するものとなる。よって、補強シート20は、床材1の厚みを抑えつつ、床材1を強度に優れるものとするのに好適である。
【0050】
補強シート20は、接着剤によって他の層に接着されていてもよく、各層を縫合する縫合糸501によって他の層に縫合されていてもよい(
図2)。
【0051】
縫合糸501としては、畳糸が好ましい。縫合糸501は、補強シート20と芯材層10とを縫合するように床材1の厚み方向に沿って延びていることが好ましく、補強シート20と第1稲わら層121とを縫合するように延びていることがより好ましい。なお、縫合糸501は、各層を連通させるように形成された連通孔502を通って、床材1の厚み方向に沿って延びている。
【0052】
また、
図2に示されるように、縫合糸501は、床材1を裏面側から見たときに、床材1(矩形状)の第1端縁部から該第1端縁部に並行する第2端縁部にまで延びる縫合部50を形成していることが好ましい。本実施形態では、縫合部50は、床材1における任意の第1の方向D1(例えば横方向)に沿って延びるように形成されている。また、本実施形態では、複数の縫合部50が形成されており、各縫合部50は、第1の方向D1に直交する第2方向D2(例えば縦方向)に沿って互いに所定の間隔dを空けて形成されている。さらに、縫合部50は、少なくとも床材1の互いに対向する端縁部に形成された一対の端縁部縫合部51を含むことが好ましく、各端縁部縫合部51の間に形成された複数の内側縫合部52を含むことがより好ましい。
【0053】
端縁部縫合部51は、床材1の端縁から30mm以内の位置に設けられていることが好ましい。
【0054】
各縫合部50の間隔dの距離は、40mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。これによって、衝突物の床材1の裏面側への突出や貫通を抑制することができる。また、間隔dの距離は、20mm以下であってもよい。これによって、衝突物の床材1の裏面側への突出や貫通を更に抑制することができる。なお、間隔dは、各縫合部50の当該間隔(最大の箇所)を測定し、これらを算術平均することによって求められる平均間隔とする。
【0055】
化粧シート30は、いぐさにより形成されることが好ましい。該いぐさとしては、例えば、天然いぐさ、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂製いぐさ等が挙げられる。化粧シート30は、接着剤によって他の層(本実施形態では第1稲わら層121の表面)に接着されていてもよく、縫合糸によって他の層に縫合されていてもよい。
【0056】
裏面シート40は、床材1の裏面側を保護するものである。裏面シート40は、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維や、ポリ塩化ビニル繊維により構成されていることが好ましい。裏面シート40は、接着剤によって他の層(本実施形態では第2稲わら層122の裏面)に接着されていてもよく、縫合糸によって他の層に縫合されていてもよい。
【0057】
次に、
図3を参照しつつ、本実施形態の床材1の使用例を説明する。
【0058】
図3には、複数の階層を有する建築物として、山小屋Aが示されている。そして、山小屋Aの下の階層a1(具体的には一階)よりも上の階層a2(具体的には二階)の床a21に、床材1が敷設されている。山小屋Aによれば、落石や、噴火による噴石等の衝突物Fが発生した場合に、下の階層a1へ避難した人又は避難させた物品が、床材1によって衝突物Fから保護され得る。
【0059】
特に、火山の噴火の発生は予測が難しいことから、床材1を有する山小屋Aは、噴石落下地帯に設けられるものであることが好ましい。該噴石落下地帯とは、例えば、50cm未満(ふるい分け法によって測定される径)の噴石が落下し得る火山の火口から10km以内の地帯であり、50cm以上の噴石が落下し得る火山の火口から4km以内の地域である。
【0060】
以上のように、例示として実施形態を示したが、本発明に係る床材は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る床材は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る床材は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
[補強シートの作製]
パラ系アラミド繊維100%で形成された糸(引張強さ:24.5cN/dtex、弾性率:530cN/dtex、破断伸度:4.6%、繊度:1,670dtex)を用い、補強シートとしての織物を作製した。作製した織物は、目付430g/m2、厚み0.173mm、たて方向における引張強さが9,000N/30mm、よこ方向における引張強さが9,000N/30mmであった。下記表1に補強シートの物性値をまとめた。
【0063】
【0064】
[試験例1]
ポリスチレンフォームで形成された樹脂発泡層(厚み約20mm)と、該樹脂発泡層の両面に積層された第1稲わら層及び第2稲わら層とで構成された芯材層を用い、樹脂発泡層と第2稲わら層との間に、互いに重ね合わせた状態の2枚の補強シートを全面にわたって積層し、さらに、第1稲わら層の表面にいぐさで形成した畳表を積層し、第2稲わら層の裏面にビニール製の裏面シートを積層し、稲わらサンドイッチ畳床タイプの畳(床材)を作製した。なお、作製した畳は、面積約0.765m
2(0.85m×0.90m)、質量約20kg(1m
2あたりの質量は約26.14kg)、厚みが約60mmであった。また、
図2に示される床材と同様にして、約30mmの間隔dを空けて45個の縫合部を設けた。また、端縁部縫合部と床材の端縁との間隔は、約25mmとした。
【0065】
[試験例2]
第1稲わら層及び第2稲わら層のそれぞれを木質繊維板に変更した以外は、試験例1の同様にして、III型建材畳床タイプの畳(床材)を作製した。作製した畳は、面積約0.765m2(0.85m×0.90m)、質量約11kg(1m2あたりの質量は約14.38kg)、厚みが約60mmであった。また、約30mmの間隔dを空けて45個前後の縫合部を設けた。また、端縁部縫合部と床材の端縁との間隔は、約25mmとした。
【0066】
[強度の評価]
(衝突物の作製)
砥石を用いて、
図4に示される疑似的な衝突物を作製した。該衝突物の概要について、下記表2に示した。
【0067】
(衝突物の床材への衝突試験)
万力を用いて、試験例1及び試験例2の床材を垂直方向に沿って起立させた状態で固定し、この状態の床材の表面側から、上記の模擬的な衝突物を、下記表3に示した条件で床材に衝突させた。衝突後の床材について、下記評価基準により評価した。結果は表3及び
図5~12に示したとおりである。
【0068】
(裏面張り出しの測定)
試験後の床材について、衝突物を衝突させることにより生じた該床材を構成する部材の裏面からの張り出し(裏面張り出し)を測定した。裏面張り出しは、裏面における最も張り出した箇所と、裏面における衝突前の位置を保持していた箇所との垂直距離を測定することによって求めた。
【0069】
(貫通の有無)
衝突物の一部が床材の裏面側に視認可能に露出した場合、貫通「有」と評価した。
【0070】
【0071】
【0072】
各試験後において、床材の表面の様子は、概ね
図5に示すような状態であった。一方、表3及び
図6~12に示したように、各試験後において、床材の内部や裏面には異なる状態が認められた。
【0073】
例えば、稲わら層を有する試験例1は、比較的高速の衝突物を衝突させた場合であっても、衝突物を跳ね返すほどの強度を有していることが認められた。また、試験例1は、衝突物の衝突による裏面張り出しが比較的小さくなるような強度を有していることが認められた。
【0074】
また、木質繊維板を有する試験例2は、補強シートの一部の固定が外れた場合であっても、補強シートが袋状となって衝突物を包むようにして制止させ(試験B-4)、又は、補強シートが衝突物に絡まるようにして衝突物を制止させ(試験B-5)、衝突物による貫通が生じるものではなかった。