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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149229
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/18 20060101AFI20220929BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20220929BHJP
   F16H 13/08 20060101ALI20220929BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20220929BHJP
   F16D 121/18 20120101ALN20220929BHJP
【FI】
F16D65/18
B60T13/74 G
F16H13/08 C
F16H25/20 D
F16D121:18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051286
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
【テーマコード(参考)】
3D048
3J051
3J058
3J062
【Fターム(参考)】
3D048BB45
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH66
3D048NN02
3D048NN03
3D048PP01
3D048PP02
3D048RR25
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB06
3J051BD02
3J051BE03
3J051EC07
3J051ED08
3J051FA01
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA16
3J058BA55
3J058CB27
3J058CB29
3J058CC15
3J058CC22
3J058CC62
3J058CC73
3J058CC77
3J058CC83
3J058CD24
3J058CD37
3J058DB27
3J058DE19
3J058EA32
3J058FA01
3J062AA01
3J062AB21
3J062AC07
3J062BA27
3J062CD02
3J062CD32
3J062CD49
3J062CD58
3J062CD75
(57)【要約】
【課題】荷重センサの出力に基づく電動モータの良好な制御性を長期にわたって維持することが可能な電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ピストン部材8を摺動可能に収容するピストン摺動孔13をもつキャリパボディ7と、電動モータ1の回転トルクをピストン部材8の直線運動に変換する運動変換機構9と、荷重センサ33とを有する電動ブレーキ装置において、ピストン部材8の外周面に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50を形成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(1)と、
ブレーキディスク(4)に接触する位置と離反する位置との間で移動可能に支持されたブレーキパッド(5)と、
前記ブレーキパッド(5)を前記ブレーキディスク(4)に向けて押圧するように前記ブレーキパッド(5)の背面に対向して配置されたピストン部材(8)と、
前記ピストン部材(8)を摺動可能に収容するピストン摺動孔(13)をもつキャリパボディ(7)と、
前記電動モータ(1)の回転トルクを前記ピストン部材(8)の直線運動に変換する運動変換機構(9)と、
前記ピストン部材(8)で前記ブレーキパッド(5)を軸方向前方に押圧したときに前記ピストン部材(8)に作用する軸方向後方への反力を検出する荷重センサ(33)と、を有し、
前記荷重センサ(33)の出力に基づいて前記電動モータ(1)の制御を行なう電動ブレーキ装置において、
前記ピストン部材(8)の外周面と前記ピストン摺動孔(13)の内周面のうちの少なくとも一方に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部(50)を形成したことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記潤滑剤保持凹部(50)は、前記ピストン部材(8)の外周面または前記ピストン摺動孔(13)の内周面に形成された丸形状の凹部である請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記潤滑剤保持凹部(50)は、前記ピストン部材(8)の外周面または前記ピストン摺動孔(13)の内周面に形成された環状溝である請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記潤滑剤保持凹部(50)は、前記ピストン部材(8)の外周面と前記ピストン摺動孔(13)の内周面のうちの、前記ピストン部材(8)の外周面に形成されている請求項1から3のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項5】
前記ピストン部材(8)は、軸方向後端が開口する筒状に形成され、
前記運動変換機構(9)は、前記ピストン部材(8)内に挿入して設けられ、前記電動モータ(1)の回転トルクが入力される回転軸(21)と、前記回転軸(21)に外接すると同時に前記ピストン部材(8)に内接して設けられた複数の遊星ローラ(22)と、前記複数の遊星ローラ(22)を軸方向には移動しないように自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ(23)と、前記ピストン部材(8)の内周に設けられた螺旋凸条(24)と、前記螺旋凸条(24)と係合するように前記各遊星ローラ(22)の外周に設けられた螺旋溝または円周溝(25)とを有する遊星ローラ機構であり、
前記潤滑剤保持凹部(50)は、前記ピストン部材(8)の軸方向後端部が前記遊星ローラ(22)の軸方向後端部に一致する軸方向位置まで前記ピストン部材(8)が軸方向前方に移動した状態のときに前記ピストン部材(8)の外周面と前記ピストン摺動孔(13)の内周面の径方向に対向する領域に設けられている請求項1から4のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項6】
前記キャリパボディ(7)に、前記キャリパボディ(7)の外側から前記ピストン摺動孔(13)の内周に至る潤滑剤補給孔(51)が形成されている請求項1から5のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。
【請求項7】
前記潤滑剤補給孔(51)の、前記ピストン摺動孔(13)の内周の側の端部が、前記潤滑剤保持凹部(50)内に開口している請求項6に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項8】
車輪(3)に対して定位置に固定されるキャリパブラケット(15)を有し、
前記キャリパブラケット(15)は、前記ピストン摺動孔(13)の軸線方向が前記車輪(3)の中心軸(C)と平行となる向きで前記キャリパボディ(7)を支持し、
前記潤滑剤補給孔(51)は、前記キャリパボディ(7)が前記キャリパブラケット(15)に支持された状態における前記キャリパボディ(7)の鉛直方向上部に配置されている請求項7に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項9】
電動モータ(1)と、
ブレーキディスク(4)に接触する位置と離反する位置との間で移動可能に支持されたブレーキパッド(5)と、
前記ブレーキパッド(5)を前記ブレーキディスク(4)に向けて押圧するように前記ブレーキパッド(5)の背面に対向して配置されたピストン部材(8)と、
前記ピストン部材(8)を摺動可能に収容するピストン摺動孔(13)をもつキャリパボディ(7)と、
前記電動モータ(1)の回転トルクを前記ピストン部材(8)の直線運動に変換する運動変換機構(9)と、
前記ピストン部材(8)で前記ブレーキパッド(5)を軸方向前方に押圧したときに前記ピストン部材(8)に作用する軸方向後方への反力を検出する荷重センサ(33)と、を有し、
前記荷重センサ(33)の出力に基づいて前記電動モータ(1)の制御を行なう電動ブレーキ装置において、
前記ピストン部材(8)の外周面と前記ピストン摺動孔(13)の内周面のうちの少なくとも一方に、低摩擦皮膜(53)を設けたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項10】
前記低摩擦皮膜(53)は、ダイヤモンドライクカーボン皮膜である請求項9に記載の電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転トルクをピストン部材の直線運動に変換することでブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ブレーキ装置として、油圧を駆動源とする油圧ブレーキ装置が多く採用されてきたが、油圧ブレーキ装置は、ブレーキオイルを使用するので環境負荷が高く、またABS、スタビリティ・コントロール・システム、ブレーキアシスト等といった機能の更なる高機能化が難しい。そこで、ブレーキ装置の更なる高機能化と環境負荷の低減を実現する手段として、電動モータを駆動源とする電動ブレーキ装置が注目されている。
【0003】
このような電動ブレーキ装置として、本願の出願人は、特許文献1や2などに記載のものを提案している。特許文献1および2の電動ブレーキ装置は、電動モータと、ブレーキディスクに接触する位置と離反する位置との間で移動可能に支持されたブレーキパッドと、ブレーキパッドをブレーキディスクに向けて押圧するようにブレーキパッドの背面に対向して配置されたピストン部材と、ピストン部材を摺動可能に収容するピストン摺動孔をもつキャリパボディと、電動モータの回転トルクをピストン部材の直線運動に変換する運動変換機構とを有する。
【0004】
この電動ブレーキ装置は、電動モータが発生する回転トルクをピストン部材の直線運動に変換し、そのピストン部材でブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで制動力を発生する。
【0005】
このように電動モータを用いて制動力を発生する電動ブレーキ装置は、電動モータの制御を行なうため、一般に、荷重センサを組み込んで使用される(例えば、特許文献2)。特許文献2の電動ブレーキ装置は、ピストン部材でブレーキパッドを軸方向前方に押圧したときにピストン部材に作用する軸方向後方への反力を検出する荷重センサを有し、その荷重センサの出力に基づいて電動モータの制御を行なうようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-041593号公報
【特許文献2】特開2014-110689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本願の発明者は、使用状態が異なる上記構成の電動ブレーキ装置を複数準備し、それらの電動ブレーキ装置の各荷重センサの出力に基づいて各電動モータの制御を行なったところ、それぞれの荷重センサで検出される推定荷重の大きさが同じであるにもかかわらず、それらの各電動ブレーキ装置に実際に生じている実荷重の大きさが同じにならない可能性があることが分かった。すなわち、電動ブレーキ装置を長期にわたって使用したときに、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との間に差が生じる可能性があることが分かった。
【0008】
電動ブレーキ装置を長期にわたって使用したときに、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との間に差が生じると、例えば、車両の4つの車輪にそれぞれ電動ブレーキ装置を設置したときに、その各電動ブレーキ装置における推定荷重と実荷重の差が車輪ごとに異なったものとなる可能性があり、この場合、4つの車輪の各電動ブレーキ装置で発生する制動力のバランスが崩れ、車両にヨーモーメントが生じ、最悪の場合、スピンに至る可能性がある。
【0009】
そこで、本願の発明者が、電動ブレーキ装置を長期にわたって使用したときに、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との間に差が生じる原因を調査したところ、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑状態の変化が原因であることが分かった。
【0010】
すなわち、電動ブレーキ装置のピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面との間は、グリース等の潤滑剤で潤滑されているが、ピストン部材がピストン摺動孔内で前進と後退を繰り返すうちに、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑剤は、次第に減少する。そして、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑剤が枯渇すると、ピストン部材の摺動抵抗が増大し、その結果、図17に示すように、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との差が大きくなってしまう。これが原因となって、電動ブレーキ装置を長期にわたって使用したときに、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との間に差が生じる可能性が生じることが分かった。
【0011】
また、ピストン部材の摺動抵抗が増大すると、例えば、4つの車輪の各電動ブレーキ装置のうち、いずれか1つの電動ブレーキの機能が失陥したときに、その電動ブレーキに対応するブレーキパッドとブレーキディスクの間に押圧力が残ってしまい、引きずり抵抗が生じるだけでなく、最悪の場合、車両火災に至るおそれもある。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、荷重センサの出力に基づく電動モータの良好な制御性を長期にわたって維持することが可能な電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の電動ブレーキ装置を提供する。
電動モータと、
ブレーキディスクに接触する位置と離反する位置との間で移動可能に支持されたブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクに向けて押圧するように前記ブレーキパッドの背面に対向して配置されたピストン部材と、
前記ピストン部材を摺動可能に収容するピストン摺動孔をもつキャリパボディと、
前記電動モータの回転トルクを前記ピストン部材の直線運動に変換する運動変換機構と、
前記ピストン部材で前記ブレーキパッドを軸方向前方に押圧したときに前記ピストン部材に作用する軸方向後方への反力を検出する荷重センサと、を有し、
前記荷重センサの出力に基づいて前記電動モータの制御を行なう電動ブレーキ装置において、
前記ピストン部材の外周面と前記ピストン摺動孔の内周面のうちの少なくとも一方に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部を形成したことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【0014】
このようにすると、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面のうちの少なくとも一方に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部が形成されているので、その潤滑剤保持凹部から供給される潤滑剤によって、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑性を、長期にわたって維持することができる。そのため、ピストン部材の摺動抵抗が増大しにくく、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との差が生じにくい。その結果、荷重センサの出力に基づく電動モータの良好な制御性を長期にわたって維持することが可能である。
【0015】
前記潤滑剤保持凹部としては、前記ピストン部材の外周面または前記ピストン摺動孔の内周面に形成された丸形状の凹部を採用することができる。
【0016】
また、前記潤滑剤保持凹部としては、前記ピストン部材の外周面または前記ピストン摺動孔の内周面に形成された環状溝を採用することができる。
【0017】
前記潤滑剤保持凹部は、前記ピストン部材の外周面と前記ピストン摺動孔の内周面のうちの、前記ピストン部材の外周面に形成すると好ましい。
【0018】
このようにすると、潤滑剤保持凹部の加工コストを低く抑えることができる。
【0019】
前記ピストン部材は、軸方向後端が開口する筒状に形成され、
前記運動変換機構は、前記ピストン部材内に挿入して設けられ、前記電動モータの回転トルクが入力される回転軸と、前記回転軸に外接すると同時に前記ピストン部材に内接して設けられた複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを軸方向には移動しないように自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤと、前記ピストン部材の内周に設けられた螺旋凸条と、前記螺旋凸条と係合するように前記各遊星ローラの外周に設けられた螺旋溝または円周溝とを有する遊星ローラ機構である場合、
前記潤滑剤保持凹部は、前記ピストン部材の軸方向後端部が前記遊星ローラの軸方向後端部に一致する軸方向位置まで前記ピストン部材が軸方向前方に移動した状態のときに前記ピストン部材の外周面と前記ピストン摺動孔の内周面の径方向に対向する領域に設けられている構成を採用すると好ましい。
【0020】
このようにすると、ピストン部材の軸方向後端部が遊星ローラの軸方向後端部に一致する軸方向位置までピストン部材が軸方向前方に移動した状態(すなわち、ピストン部材がピストン摺動孔から最も突出した状態)を含め、ピストン部材がいずれの位置にあるときにも、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間を確実に潤滑することが可能となる。
【0021】
前記キャリパボディに、前記キャリパボディの外側から前記ピストン摺動孔の内周に至る潤滑剤補給孔を形成すると好ましい。
【0022】
このようにすると、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑剤が減少したときにも、キャリパボディの外側から潤滑剤補給孔を通って潤滑剤を補給することが可能となる。
【0023】
前記潤滑剤補給孔は、前記ピストン摺動孔の内周の側の端部が前記潤滑剤保持凹部内に開口するように形成すると好ましい。
【0024】
このようにすると、キャリパボディの外側から潤滑剤補給孔を通って補給された供給潤滑剤を、確実に潤滑剤保持凹部内に導入することが可能となる。
【0025】
車輪に対して定位置に固定されるキャリパブラケットを有し、
前記キャリパブラケットが、前記ピストン摺動孔の軸線方向が前記車輪の中心軸と平行となる向きで前記キャリパボディを支持する場合、
前記潤滑剤補給孔は、前記キャリパボディが前記キャリパブラケットに支持された状態における前記キャリパボディの鉛直方向上部に配置されている構成を採用すると好ましい。
【0026】
このようにすると、潤滑剤の補給作業を容易に行なうことができる。
【0027】
また、この発明では、上記課題を解決するため、以下の構成の電動ブレーキ装置を併せて提供する。
電動モータと、
ブレーキディスクに接触する位置と離反する位置との間で移動可能に支持されたブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクに向けて押圧するように前記ブレーキパッドの背面に対向して配置されたピストン部材と、
前記ピストン部材を摺動可能に収容するピストン摺動孔をもつキャリパボディと、
前記電動モータの回転トルクを前記ピストン部材の直線運動に変換する運動変換機構と、
前記ピストン部材で前記ブレーキパッドを軸方向前方に押圧したときに前記ピストン部材に作用する軸方向後方への反力を検出する荷重センサと、を有し、
前記荷重センサの出力に基づいて前記電動モータの制御を行なう電動ブレーキ装置において、
前記ピストン部材の外周面と前記ピストン摺動孔の内周面のうちの少なくとも一方に、低摩擦皮膜を設けたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【0028】
このようにすると、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面のうちの少なくとも一方に、低摩擦皮膜が設けられているので、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の摺動抵抗が増大しにくく、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との差が生じにくい。その結果、荷重センサの出力に基づく電動モータの良好な制御性を長期にわたって維持することが可能である。
【0029】
前記低摩擦皮膜としては、ダイヤモンドライクカーボン皮膜を採用することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明の電動ブレーキ装置は、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面のうちの少なくとも一方に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部が形成されているので、その潤滑剤保持凹部から供給される潤滑剤によって、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑性を、長期にわたって維持することができる。そのため、ピストン部材の摺動抵抗が増大しにくく、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との差が生じにくい。その結果、荷重センサの出力に基づく電動モータの良好な制御性を長期にわたって維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】この発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置を示す断面図
図2図1の電動ブレーキ装置をインナ側(図では右側)から見た側面図
図3図2のIII-III線に沿った断面図
図4図3の運動変換機構の近傍の拡大図
図5図4のV-V線に沿った断面図
図6図5の潤滑剤保持凹部の近傍の拡大図
図7】この発明の第2実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図8図7のVIII-VIII線に沿った断面図
図9】この発明の第3実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図10図9のX-X線に沿った断面図
図11】この発明の第4実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図12】この発明の第5実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図13図12に示すピストン部材が軸方向前方に移動した状態を示す図
図14】この発明の第6実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図15】この発明の第7実施形態に係る電動ブレーキ装置のピストン部材の近傍を示す部分断面図
図16図14に示す電動ブレーキ装置を車体に取り付けた状態を示す図
図17】従来の電動ブレーキ装置を長期にわたって使用し、ピストン部材の外周面とピストン摺動孔の内周面の間の潤滑剤が枯渇したときの、荷重センサで検出される推定荷重と、ブレーキパッドとブレーキディスクの間に実際に生じる実荷重との関係を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に、この発明の第1実施形態の電動ブレーキ装置を示す。この電動ブレーキ装置は、電動モータ1と、電動モータ1の回転を減速して伝達する減速機構2と、車輪3(図16参照)と一体に回転するブレーキディスク4を間に軸方向に対向して配置されるインナ側ブレーキパッド5およびアウタ側ブレーキパッド6と、インナ側ブレーキパッド5およびアウタ側ブレーキパッド6を間に挟んでブレーキディスク4の外周をまたぐ形状をもつキャリパボディ7と、インナ側ブレーキパッド5をブレーキディスク4に向けて押圧するようにインナ側ブレーキパッド5の背面(インナ側ブレーキパッド5のブレーキディスク4と対向する側とは反対側の面)に対向して配置されたピストン部材8と、電動モータ1から減速機構2を介して伝達される回転トルクをピストン部材8の直線運動に変換する運動変換機構9とを有する。ここで、電動ブレーキ装置を車体に組み付けた状態で車体幅方向の内側(図の右側)および外側(図の左側)をそれぞれインナ側およびアウタ側という。
【0033】
キャリパボディ7は、インナ側ブレーキパッド5のインナ側に対向して配置されたシリンダ部10と、アウタ側ブレーキパッド6のアウタ側に対向して配置された爪部11と、シリンダ部10と爪部11をブレーキディスク4の外径側で連結するブリッジ部12とを有する。キャリパボディ7の爪部11は、アウタ側ブレーキパッド6の背面を支持している。シリンダ部10には、ピストン部材8を軸方向に摺動可能に支持するピストン摺動孔13が形成されている。ピストン摺動孔13は、インナ側ブレーキパッド5の背面に向けて開口する円筒状の孔である。
【0034】
図2に示すように、キャリパボディ7は、ブレーキディスク4の周方向に間隔をおいて平行に配置された一対のスライドピン14で、ブレーキディスク4(図1参照)の軸方向にスライド可能に支持されている。これにより、図1に示すピストン部材8がインナ側ブレーキパッド5を軸方向前方に押圧し、インナ側ブレーキパッド5がブレーキディスク4に押さえ付けられたときに、インナ側ブレーキパッド5がブレーキディスク4から受ける反力によってキャリパボディ7が軸方向後方に移動し、このキャリパボディ7の移動によって、アウタ側ブレーキパッド6もブレーキディスク4に押さえ付けられるようになっている。インナ側ブレーキパッド5は、キャリパボディ7に対して移動可能に支持され、これによりブレーキディスク4に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能となっている。
【0035】
図2に示すように、一対のスライドピン14は、キャリパブラケット15で支持されている。キャリパブラケット15には、一対のねじ穴16が形成されている。キャリパブラケット15は、このねじ穴16に挿入したボルト(図示せず)の締め付けによって、車輪3を支持するナックル(図示せず)に固定される。これにより、図16に示すように、キャリパブラケット15は、車輪3に対して定位置(図では、車輪3の中心軸Cに対して水平方向に並ぶ位置)に固定される。またこのとき、キャリパボディ7は、ピストン摺動孔13(図1参照)の軸線Lの方向が車輪3の中心軸Cと平行となる向きでキャリパブラケット15に支持された状態となる。
【0036】
図3に示すように、電動モータ1は、ピストン部材8と平行にキャリパボディ7に取り付けられている。減速機構2は、電動モータ1の回転が入力される入力歯車17と、運動変換機構9に回転を出力する出力歯車19と、入力歯車17と出力歯車19の間で回転を伝達する中間歯車18と、これらの歯車17,18,19を収容するギヤケース20とを有する。ピストン部材8は、その軸方向後端が開口する筒状に形成されている。ピストン部材8の内部には、運動変換機構9が組み込まれている。運動変換機構9は、ピストン部材8内に挿入して設けられた回転軸21を有し、回転軸21に入力される電動モータ1の回転トルクをピストン部材8の直線運動に変換する。
【0037】
図4に示すように、運動変換機構9は、回転軸21と、回転軸21に外接すると同時にピストン部材8に内接して設けられた複数の遊星ローラ22と、複数の遊星ローラ22を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ23とを有する遊星ローラ機構である。図5に示すように、複数の遊星ローラ22は、ピストン部材8の内周と回転軸21の外周との間に周方向に間隔をおいて配置されている。各遊星ローラ22は、回転軸21の外周に形成された円筒面に転がり接触している。
【0038】
図4に示すように、ピストン部材8の内周には、螺旋凸条24が設けられている。螺旋凸条24は、周方向に対して所定のリード角をもって斜めに延びる凸条である。各遊星ローラ22の外周には、螺旋凸条24に係合する複数の円周溝25が軸方向に間隔をおいて形成されている。各遊星ローラ22の外周の軸方向に隣り合う円周溝25の間隔は、螺旋凸条24のピッチと同一の大きさとされている。ここでは、遊星ローラ22の外周にリード角が0度の円周溝25を設けているが、円周溝25のかわりに、螺旋凸条24と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0039】
図4図5に示すように、キャリヤ23は、各遊星ローラ22をそれぞれ自転可能に支持する複数の支持ピン26と、各支持ピン26の軸方向前端部を保持する軸方向前側ディスク27と、各支持ピン26の軸方向後端部を保持する軸方向後側ディスク28と、周方向に隣り合う複数の遊星ローラ22の間を通って軸方向前側ディスク27と軸方向後側ディスク28を連結する連結部29とを有する。連結部29は、軸方向前側ディスク27と軸方向後側ディスク28が軸方向と周方向のいずれの方向にも相対移動しないように両ディスク27,28を一体化している。
【0040】
各遊星ローラ22の内周と支持ピン26の外周との間には、遊星ローラ22を自転可能に支持するラジアル軸受30が組み込まれている。各遊星ローラ22と軸方向後側ディスク28との間には、遊星ローラ22を自転可能な状態で軸方向に支持するスラスト軸受31が組み込まれている。また、スラスト軸受31と軸方向後側ディスク28の間には、スラスト軸受31を介して遊星ローラ22を傾動可能に支持する調心座32が組み込まれている。
【0041】
ピストン摺動孔13の内部には、ピストン部材8およびキャリヤ23の軸方向後方に荷重センサ33と軸受支持部材34が設けられている。軸受支持部材34は、回転軸21を貫通させる円環状に形成されている。軸受支持部材34の内周には、回転軸21を回転可能に支持するラジアル軸受35が組み込まれている。
【0042】
荷重センサ33は、ピストン部材8でインナ側ブレーキパッド5を軸方向前方に押圧したときにピストン部材8に作用する軸方向後方への反力を検出するセンサである。荷重センサ33は、径方向外端が固定された円環板状のフランジ部材36と、フランジ部材36の径方向内端に固定された磁気ターゲット37と、軸受支持部材34に固定された磁気センサ38とで構成されている。磁気センサ38は、磁気ターゲット37と径方向に対向して配置されている。この荷重センサ33は、フランジ部材36に軸方向後方の軸方向荷重が入力されたときに、フランジ部材36がたわみ変形を生じ、そのフランジ部材36のたわみ変形により磁気センサ38と磁気ターゲット37の相対位置が変化し、このとき生じる磁気センサ38の出力の変化に基づいて、フランジ部材36に作用する軸方向後方の軸方向荷重を検出する。電動モータ1(図3参照)の制御は、この荷重センサ33の出力に基づいて行われる。
【0043】
フランジ部材36とキャリヤ23との間には、キャリヤ23を公転可能な状態で軸方向後側から支持するスラスト軸受39が組み込まれている。また、キャリヤ23とスラスト軸受39の間には、キャリヤ23からスラスト軸受39に軸方向荷重を伝達する間座40が組み込まれている。フランジ部材36は、ピストン摺動孔13の内周に設けられた突起部41(図3参照)で軸方向後方への移動が規制され、ピストン摺動孔13の内周に装着した止め輪42で軸方向前方への移動が規制されている。
【0044】
フランジ部材36は、間座40とスラスト軸受39とを介してキャリヤ23を軸方向に支持することで、キャリヤ23の軸方向後方への移動を規制している。また、キャリヤ23は、回転軸21の軸方向前端に装着された止め輪43で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ23は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制された状態となっており、各遊星ローラ22を軸方向に移動しないように保持している。
【0045】
ピストン部材8の軸方向前端には、ピストン部材8の軸方向前端の開口を閉塞するシールカバー44が取り付けられている。また、ピストン摺動孔13の軸方向前端の開口縁には、ブーツ45が取り付けられている。ブーツ45は、蛇腹状に折りたたまれた軸方向に伸縮可能な筒状の部材である。ブーツ45の一端は、ピストン摺動孔13の内周に接続され、ブーツ45の他端は、ピストン部材8の外周に接続されている。このブーツ45は、ピストン摺動孔13の内周面とピストン部材8の外周面との間に異物が侵入するのを防止している。
【0046】
図1に示すように、ピストン部材8は、インナ側ブレーキパッド5の背面に形成された凸部46と係合する凹部47を有し、この凸部46と凹部47の係合によって、キャリパボディ7に対して回り止めされている。
【0047】
図5図6に示すように、ピストン部材8の外周面には、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されている。潤滑剤は、潤滑油またはグリースである。グリースは、鉱油や合成油などの油分と、この油分に分散して油分を半固体の状態にする増ちょう剤とを含む潤滑剤である。この実施形態では、潤滑剤保持凹部50は、ピストン部材8の外周面に形成された複数の丸形状の凹部を採用している。潤滑剤保持凹部50は、周方向および軸方向のそれぞれに間隔をおいて複数形成されている。複数の潤滑剤保持凹部50は、それぞれ、外径側から見て丸形状の領域が窪んだ形状である。また、複数の潤滑剤保持凹部50は、それぞれ、図6に示すように、ピストン部材8の外周面から断面円弧状に窪んだ形状を有する。潤滑剤保持凹部50は、例えば転造により形成すると低コストである。
【0048】
この電動ブレーキ装置の動作例を説明する。
【0049】
図3に示す電動モータ1が回転すると、電動モータ1の回転トルクが減速機構2を介して回転軸21に入力され、図4に示す遊星ローラ22が自転しながら公転する。このとき螺旋凸条24と円周溝25の係合によってピストン部材8と遊星ローラ22が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ22はキャリヤ23と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ22は軸方向に移動せず、ピストン部材8が軸方向に移動する。このようにして運動変換機構9は電動モータ1から伝達される回転トルクをピストン部材8の直線運動に変換し、そのピストン部材8の軸方向前端で、図1に示すインナ側ブレーキパッド5を押圧して軸方向に移動させ、インナ側ブレーキパッド5をブレーキディスク4の側面に押し付ける。このとき、ピストン部材8がインナ側ブレーキパッド5から受ける軸方向反力によって、キャリパボディ7がキャリパブラケット15に対してスライド移動し、キャリパボディ7の爪部11がアウタ側ブレーキパッド6の背面を押圧し、アウタ側ブレーキパッド6をブレーキディスク4の側面に押し付ける。このようにして、インナ側ブレーキパッド5およびアウタ側ブレーキパッド6がブレーキディスク4に押し付けられ、この両ブレーキパッド5,6とブレーキディスク4の間の摩擦によって、ブレーキディスク4に制動力が発生する。
【0050】
ところで、電動ブレーキ装置を長期にわたって使用し、図4に示すピストン部材8がピストン摺動孔13内で前進と後退を繰り返すうちに、ピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の間の潤滑剤が次第に減少し、枯渇する可能性がある。そして、ピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の間の潤滑剤が枯渇すると、ピストン部材8の摺動抵抗が増大し、その結果、図17に示すように、荷重センサ33で検出される推定荷重と、インナ側ブレーキパッド5とブレーキディスク4の間に実際に生じる実荷重との差が大きくなってしまう。荷重センサ33で検出される推定荷重と、インナ側ブレーキパッド5とブレーキディスク4の間に実際に生じる実荷重との間の差が大きくなると、例えば、図示しない車両の4つの車輪にそれぞれ電動ブレーキ装置を設置したときに、その各電動ブレーキ装置における推定荷重と実荷重の差が車輪ごとに異なったものとなる可能性があり、この場合、4つの車輪の各電動ブレーキ装置で発生する制動力のバランスが崩れ、車両にヨーモーメントが生じ、最悪の場合、スピンに至る可能性がある。
【0051】
これに対し、上記実施形態の電動ブレーキ装置は、ピストン部材8の外周面に、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されているので、その潤滑剤保持凹部50から供給される潤滑剤によって、ピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の間の潤滑性を、長期にわたって維持することができる。そのため、ピストン部材8の摺動抵抗が増大しにくく、荷重センサ33で検出される推定荷重と、インナ側ブレーキパッド5とブレーキディスク4の間に実際に生じる実荷重との差が生じにくい。その結果、荷重センサ33の出力に基づく電動モータ1の良好な制御性を長期にわたって維持することが可能である。
【0052】
図7図8に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は第1実施形態と比べて潤滑剤保持凹部50の構成のみが異なり、その他の構成は同じである。そのため、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
ピストン摺動孔13の内周面には、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されている。潤滑剤保持凹部50は、ピストン摺動孔13の内周面に形成された複数の丸形状の凹部である。潤滑剤保持凹部50は、周方向および軸方向のそれぞれに間隔をおいて複数形成されている。複数の潤滑剤保持凹部50は、それぞれ、内径側から見て丸形状の領域が窪んだ形状である。また、複数の潤滑剤保持凹部50は、それぞれ、ピストン摺動孔13の内周面から断面円弧状に窪んだ形状を有する。
【0054】
図9図10に、この発明の第3実施形態を示す。第3実施形態は第1実施形態と比べて潤滑剤保持凹部50の構成のみが異なり、その他の構成は同じである。そのため、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
ピストン部材8の外周面には、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されている。潤滑剤保持凹部50は、ピストン部材8の外周面に軸方向に間隔をおいて形成された複数の環状溝である。各環状溝は、断面円弧状に形成されている。潤滑剤保持凹部50は、例えば転造により形成すると低コストである。
【0056】
図11に、この発明の第4実施形態を示す。第4実施形態は第1実施形態と比べて潤滑剤保持凹部50の構成のみが異なり、その他の構成は同じである。そのため、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
ピストン摺動孔13の内周面には、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されている。潤滑剤保持凹部50は、ピストン摺動孔13の内周面に軸方向に間隔をおいて形成された複数の環状溝である。各環状溝は、断面円弧状に形成されている。
【0058】
図12図13に、この発明の第5実施形態を示す。第5実施形態は第1実施形態と比べて潤滑剤保持凹部50の構成のみが異なり、その他の構成は同じである。そのため、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
図12に示すように、ピストン摺動孔13の内周面には、潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部50が形成されている。潤滑剤保持凹部50は、ピストン摺動孔13の内周面に形成された環状溝である。環状溝は、断面円弧状に形成されている。
【0060】
潤滑剤保持凹部50は、ピストン部材8の軸方向後端部が遊星ローラ22の軸方向後端部に一致する軸方向位置までピストン部材8が軸方向前方に移動した状態(図13に示す位置よりもピストン部材8がわずかに軸方向前方に移動した状態)のときにピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の径方向に対向する領域に設けられている。
【0061】
このようにすると、ピストン部材8の軸方向後端部が遊星ローラ22の軸方向後端部に一致する軸方向位置までピストン部材8が軸方向前方に移動した状態(すなわち、ピストン部材8がピストン摺動孔13から最も突出した状態)を含め、ピストン部材8がいずれの位置にあるときにも、潤滑剤保持凹部50から供給される潤滑剤で、ピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の間を確実に潤滑することが可能となる。上記第1実施形態から第4実施形態においても同様の効果を有する。
【0062】
図14に、この発明の第6実施形態を示す。第6実施形態は、第5実施形態に潤滑剤補給孔51を追加したものであり、それ以外の構成は第5実施形態と同じである。そのため、第5実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
キャリパボディ7には、キャリパボディ7の外側からピストン摺動孔13の内周に至る潤滑剤補給孔51が形成されている。潤滑剤補給孔51は、キャリパボディ7のシリンダ部10を径方向に貫通して形成されている。また、潤滑剤補給孔51は、そのピストン摺動孔13の内周の側の端部が、潤滑剤保持凹部50内に開口するように形成されている。潤滑剤補給孔51の内周にはねじが加工され、潤滑剤補給孔51を封止するシールプラグ52を取り付けることが可能となっている。
【0064】
ここで、潤滑剤補給孔51は、図16に示すように、キャリパボディ7がキャリパブラケット15に支持された状態において、キャリパボディ7の鉛直方向上部(図に示すシールプラグ52の位置)にくるように配置されている。
【0065】
この実施形態の電動ブレーキ装置は、図14に示すように、キャリパボディ7の外側からピストン摺動孔13の内周に至る潤滑剤補給孔51を有するので、ピストン部材8の外周面とピストン摺動孔13の内周面の間の潤滑剤が減少したときにも、キャリパボディ7の外側から潤滑剤補給孔51を通って潤滑剤を補給することが可能である。
【0066】
また、この電動ブレーキ装置は、図14に示すように、潤滑剤補給孔51のピストン摺動孔13の内周の側の端部が潤滑剤保持凹部50内に開口するように潤滑剤補給孔51が形成されているので、キャリパボディ7の外側から潤滑剤補給孔51を通って補給された供給潤滑剤を、確実に潤滑剤保持凹部50内に導入することが可能となっている。
【0067】
また、この電動ブレーキ装置は、図16に示すように、キャリパボディ7がキャリパブラケット15に支持された状態におけるキャリパボディ7の鉛直方向上部に潤滑剤補給孔51(図では潤滑剤補給孔51に挿入したシールプラグ52のみを示す)が配置されているので、潤滑剤の補給作業を容易に行なうことができる。
【0068】
図15に、この発明の第7実施形態を示す。第7実施形態は第1実施形態の潤滑剤保持凹部50を低摩擦皮膜53に置き換えたものであり、その他の構成は同じである。そのため、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
ピストン部材8の外周面には、低摩擦皮膜53が設けられている。低摩擦皮膜53としては、ダイヤモンドライクカーボン皮膜を採用することができる。低摩擦皮膜53として、セラミックコーティング皮膜、フッ素樹脂コーティング皮膜を採用することも可能である。低摩擦皮膜53は、0.06以下の摩擦係数を有する皮膜である。この実施形態の電動ブレーキ装置も、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0070】
上記各実施形態では、電動モータ1の回転トルクをピストン部材8の直線運動に変換する運動変換機構9として、遊星ローラ22を用いる遊星ローラ機構を採用した例を挙げて説明したが、他の形式の運動変換機構9(送りねじ機構、ボールランプ機構等)を採用してもよい。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 電動モータ
3 車輪
4 ブレーキディスク
5 インナ側ブレーキパッド
7 キャリパボディ
8 ピストン部材
9 運動変換機構
13 ピストン摺動孔
15 キャリパブラケット
21 回転軸
22 遊星ローラ
23 キャリヤ
24 螺旋凸条
25 円周溝
33 荷重センサ
50 潤滑剤保持凹部
51 潤滑剤補給孔
53 低摩擦皮膜
C 車輪の中心軸
L ピストン摺動孔の軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17