(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014924
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】転造用丸ダイス
(51)【国際特許分類】
B21H 3/04 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
B21H3/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117430
(22)【出願日】2020-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】591204252
【氏名又は名称】株式会社大岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨永 孝徳
(57)【要約】
【課題】公知の転造ダイスをさらに改良して、より円滑にかつ精度よく転造加工を行うことができる転造用丸ダイスを得る。
【解決手段】工作物の周囲に配置して工作物に転造加工を施すダイスを、第1番ダイス11、第2番ダイス12、・・・、第n番ダイス(ただし、n≧2)との複数のダイスで構成する。各ダイスは、周方向に設けられた加工歯15を、ダイスの長さ方向に沿って複数条有する。工作物にダイスの長手方向に沿った送りを加えたときに、第1番ダイス11における第1の複数条の加工歯群15、第2番ダイス12における第2の複数条の加工歯群15、・・・、第n番ダイスにおける第nの複数条の加工歯群、第1番ダイスにおける第n+1の複数条の加工歯群15、・・・という順序で工作物への加工深さを大きくしながら、同工作物を加工する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のダイスを工作物の周囲に配置して前記工作物に転造加工を施すための転造用丸ダイスであって、
前記転造用丸ダイスを、第1番ダイス、第2番ダイス、・・・、第n番ダイス(ただし、n≧2)といった複数のダイスで構成し、
各ダイスはそれぞれ周方向に設けられた加工歯を同ダイスの長さ方向に沿って複数条有し、
工作物に前記転造用丸ダイスの長手方向に沿った送りを加えたときに、第1番ダイスにおける第1の複数条の加工歯群、第2番ダイスにおける第2の複数条の加工歯群、・・・、第n番ダイスにおける第nの複数条の加工歯群、第1番ダイスにおける第n+1の複数条の加工歯群、・・・という順序で前記工作物に加工が行われるように構成され、
前記加工歯群は、第1の複数条の加工歯群、第2の複数条の加工歯群、・・・、第nの複数条の加工歯群、第n+1の複数条の加工歯群、・・・という順序で工作物への加工深さが大きくなるように構成されていることを特徴とする転造用丸ダイス。
【請求項2】
各ダイスにおいて、工作物の最終形状に対応した最終加工歯群が、前記各複数条よりも条数の多い多数条で形成されていることを特徴とする請求項1記載の転造用丸ダイス。
【請求項3】
外ねじを加工するための転造用丸ダイスであり、
各複数条の加工歯群は、第1の複数条の加工歯群から工作物の最終形状に対応した最終加工歯群に向けて、大きな角度から、工作物の最終形状のねじ山の角度に向けて徐々に小さな角度の転造加工を行うように、加工歯の角度が設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の転造用丸ダイス。
【請求項4】
外ねじを加工するための転造用丸ダイスであり、
各複数条の加工歯群は、第1の複数条の加工歯群から工作物の最終形状に対応した最終加工歯群に向けて、加工歯の先端の湾曲部の曲率半径が、大きな曲率半径から、工作物の最終形状のねじの谷部の曲率半径に向けて徐々に小さな曲率半径の転造加工を行うように、加工歯の先端の湾曲部の曲率半径が設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の転造用丸ダイス。
【請求項5】
n=3であることを特徴とする請求項1~4までのいずれか1項記載の転造用丸ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転造用丸ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
外ねじは、転造加工によって製造されることが多い。転造加工を行うために一般的には加工歯を備えたダイスが使用されるが、外ねじを転造加工するためのダイスとしては、平ダイスと丸ダイスとがよく用いられる。
【0003】
特許文献1には、転造ダイスにおいて被加工材に最初に食い込む始点を含む食付き部の加工歯を、仕上げ部の加工歯よりも鈍角な断面形状になるように断面形状を順次変化させるようにしたものが記載されている。これによれば、工作物には、当初に食付き部における始点の加工歯が浅くかつ鈍角形状で食い付くため、始点を含む食付き部の歯先付近で、亀裂や局部破壊を生じにくくなる。しかも、食付き部の加工歯は、その始点から仕上げ部の加工歯に向けて断面形状が徐々に変化するため、被加工材には、順次深くかつ鋭角形状になる食い込みが生じる。この結果、硬質の素材であっても所要のネジ山およびネジ谷などの形状が精度良く形成される。
【0004】
特許文献1に記載の転造ダイスは、一対の平板状の平ダイスまたは一対の円柱状の丸ダイスにて構成されている。これら一対のダイスは、互いに同様の構成であって、両者間に実質的な差異は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような公知の転造ダイスをさらに改良して、より円滑にかつ精度よく転造加工を行うことができる転造用丸ダイスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明の、転造用丸ダイスは、
複数のダイスを工作物の周囲に配置して前記工作物に転造加工を施すための転造用丸ダイスであって、
前記転造用丸ダイスを、第1番ダイス、第2番ダイス、・・・、第n番ダイス(ただし、n≧2)といった複数のダイスで構成し、
各ダイスはそれぞれ周方向に設けられた加工歯を同ダイスの長さ方向に沿って複数条有し、
工作物に前記転造用丸ダイスの長手方向に沿った送りを加えたときに、第1番ダイスにおける第1の複数条の加工歯群、第2番ダイスにおける第2の複数条の加工歯群、・・・、第n番ダイスにおける第nの複数条の加工歯群、第1番ダイスにおける第n+1の複数条の加工歯群、・・・という順序で前記工作物に加工が行われるように構成され、
前記加工歯群は、第1の複数条の加工歯群、第2の複数条の加工歯群、・・・、第nの複数条の加工歯群、第n+1の複数条の加工歯群、・・・という順序で工作物への加工深さが大きくなるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の転造用丸ダイスによれば、各ダイスにおいて、工作物の最終形状に対応した最終加工歯群が、前記各複数条よりも条数の多い多数条で形成されていることが好適である。
【0009】
本発明の転造用丸ダイスによれば、
外ねじを加工するための転造用丸ダイスであり、
各複数条の加工歯群は、第1の複数条の加工歯群から工作物の最終形状に対応した最終加工歯群に向けて、大きな角度から、工作物の最終形状のねじ山の角度に向けて徐々に小さな角度の転造加工を行うように、加工歯の角度が設定されていることが好適である。
【0010】
あるいは、これに代えて、本発明の転造用丸ダイスによれば、
外ねじを加工するための転造用丸ダイスであり、
各複数条の加工歯群は、第1の複数条の加工歯群から工作物の最終形状に対応した最終加工歯群に向けて、加工歯の先端の湾曲部の曲率半径が、大きな曲率半径から、工作物の最終形状のねじの谷部の曲率半径に向けて徐々に小さな曲率半径の転造加工を行うように、加工歯の先端の湾曲部の曲率半径が設定されていることが好適である。
【0011】
さらに、本発明の転造用丸ダイスによれば、n=3であることが好適である。すなわち、工作物の周囲に3つのダイスが配置されていることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のダイスを工作物の周囲に設置して同工作物に転造加工を施すための転造用丸ダイスにおいて、複数のダイスを構成する各ダイスにわたって徐々に工作物への加工深さが大きくなるように構成されているため、複数のダイスが実質的に同じ構成とされた公知の転造用ダイスと比べて、より円滑にかつ精度よく転造加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態の転造用丸ダイスの断面図である。
【
図2】同転造用丸ダイスにおける一つのダイスを示す図である。
【
図4】同転造用ダイスの加工歯の形状の一例を示す図である。
【
図5】
図4の加工歯を備えた転造用ダイスの要部の拡大図である。
【
図6】同転造用ダイスの加工歯の形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の転造用丸ダイスは、複数のダイスを工作物の周囲に配置して、工作物に転造加工を施すものである。
【0015】
図3は、本発明の実施の形態の転造用丸ダイスを示すものであり、図示のものでは、横断面円形の工作物Wの周囲に3つのダイス11、12、13を配置した構成を有する。ここでは、各ダイスを「第1番ダイス11」、「第2番ダイス12」、「第3番ダイス13」と称することがある。図示のように、工作物Wの周囲に沿って、周方向に第1番ダイス11、第2番ダイス12、第3番ダイス13の順で配置されている。
【0016】
工作物Wには、ダイス11、12、13の長さ方向に沿った送りが与えられる。
図1、
図2、
図5には送りの方向14が矢印で示されている。そして、各ダイス11、12、13は、
図1、
図2、
図5に示すように、その外周に複数条の加工歯15を有する。各加工歯15は、スパイラル状に連続して形成されているのではなく、各ダイス11、12、13の外周に沿って一周ずつすなわち一条ずつ形成された構成となっている。
【0017】
各ダイス11、12、13の加工歯15は、工作物Wの送りの方向14に沿って、工作物Wへの加工深さが徐々に大きくなるような形状とされている。詳細には、工作物Wの送りの方向14に沿って、第1番ダイス11→第2番ダイス12→第3番ダイス13→第1番ダイス11→第2番ダイス12→・・・・・の順で、工作物Wへの加工深さが徐々に大きくなるような形状とされている。
【0018】
各ダイス11、12、13の加工歯15の形状を詳細に説明する。工作物Wの外周にたとえばメートルねじを加工する場合には、仕上がったねじの山部の角度は60度であることが必要である。このとき、各ダイス11、12、13の加工歯15は、工作物Wの送りの方向14に沿って、
図4に示すように、そのねじ形状の角度θが、60度よりも大きな角度から、60度に向けて、段階的に徐々に小さくなるようにされている。ただし、
図5に詳しく示すように、隣り合う加工歯15、15どうしのピッチ16は一定である。すなわち、このピッチ16は、加工により工作物Wの外周面に形成される外ねじのピッチと同じとされている。
【0019】
各ダイス11、12、13の加工歯15をこのように形成すると、
図4に示すように、隣り合う加工歯15、15どうしのピッチ16を一定にしたうえで、加工歯15の角度θを60度よりも大きくすることで、この角度θが60度よりも大きく形成された加工歯15では、角度θが60度に形成された加工歯15よりも加工歯15の突出高さすなわち加工歯15による工作物Wへの加工深さが小さくなる。その結果、工作物Wの送りの方向14に沿って、加工歯15の径方向の角度を、60度よりも大きな角度から、60度に向けで、段階的に徐々に小さくなる形状とすることで、工作物Wの送りの方向14に沿って、加工歯15の突出高さすなわち加工歯15による工作物Wへの加工深さを、徐々に大きくすることができる。
【0020】
そして本発明によれば、各ダイス11、12、13において、複数条の加工歯15、15、ごとに段階的に、加工歯15の角度θを徐々に小さくして、加工歯15の突出高さすなわち加工歯15による工作物Wへの加工深さが、徐々に大きくなるようにされている。図示の例では、
図1および
図2に示すように、加工歯15の3山ずつ、すなわち3条ずつを一つの単位として、加工歯15の角度θが段階的に60度に向けて小さくなるように構成されている。
【0021】
より詳細には、工作物Wの送りの方向14に沿って、第1番ダイス11では、最初の3条の加工歯15の角度が78度、次の3条の加工歯15の角度が72度、さらに次の3条の加工歯15の角度が66度、そして、それ以降の複数条のすべての加工歯15の角度が規定の60度となるようにされている。第2番ダイス12では、最初の3条の加工歯15の角度が76度、次の3条の加工歯15の角度が70度、さらに次の3条の加工歯15の角度が64度、そして、それ以降の複数条のすべての加工歯15の角度が規定の60度となるようにされている。第3番ダイス12では、最初の3条の加工歯15の角度が74度、次の3条の加工歯15の角度が68度、さらに次の3条の加工歯15の角度が62度、そして、それ以降の複数条のすべての加工歯15の角度が規定の60度となるようにされている。
【0022】
その結果、第1番ダイス11→第2番ダイス12→第3番ダイス13→第1番ダイス11→第2番ダイス12→・・・・・の順で見ると、加工歯15の角度は、3条ずつ段階的に、78度、76度、74度、72度、70度、68度、66度、64度、62度と変化し、最後に規定の60度なる。角度が規定の60度となる加工歯の15の歯数は3条を越えた多数条となるようにされ、これによって工作物Wに仕上げ加工を行うように構成されている。このため、加工歯15の角度θおよびその変化の様子をすべてのダイス11、12、13で揃えるような場合に比べて、工作物Wへの加工深さを段階的に細かく変化させることができる。したがって、各ダイス11、12、13で加工歯15の角度θを揃えてこれらダイス11、12、13を実質的に同じ構成とした場合と比べて、より円滑にかつ精度よく転造加工を行うことができる。
【0023】
上記した加工歯15の先端部の角度の変化の様子は例示であって、他の変化の態様を適宜に採用することができる。たとえば、第1番ダイス11における最も大きな角度を、90度や、90度を越えた鈍角とすることもできる。
【0024】
なお、上述のように各ダイス11、12、13の加工歯15は、スパイラル状に連続して形成されているのではなく、各ダイス11、12、13の外周に沿って一周ずつすなわち一条ずつ形成された構成であるため、工作物Wの外周にスパイラル状のねじ加工を行うために、各ダイス11、12、13は、工作物Wの送りの方向14に沿って、加工歯15のピッチ16の1/3ずつずれて配置されている。
【0025】
工作物Wの送りの方向14に見て、各11、12、13の先端の部分には、加工しようとする工作物Wを案内するための、加工歯が形成されていない全山除去部17が形成されている。また、各11、12、13の後端の部分には、不完全山除去部18が形成されている。
【0026】
本発明においては、加工歯15について、工作物Wへの加工深さが徐々に大きくなるような形状としては、任意のものを採用することができる。たとえば、外ねじの加工に供されるものであれば、加工歯15の先端部は外ねじの谷部を加工することになるところ、外ねじの谷部は、湾曲したいわゆるアール凹状に形成されるのが通例であり、加工歯15の先端部はそれに対応した湾曲状つまりアール凸状に形成される。その場合には、加工歯15の先端部の形状として、上記した加工歯15の先端部の角度を変化させるもののほかに、
図6に示すように、加工歯15の先端の湾曲部19の曲率半径Rが徐々に小さくなる構成を採用することができる。すなわち、図示のように曲率半径Rが大きいと工作物Wへの加工深さは小さく、曲率半径Rが徐々に小さくなることで、工作物Wへの加工深さは徐々に大きくなる。
【0027】
上記においては工作物Wの表面に外ねじを形成する場合について例示的に説明したが、本発明り転造用丸ダイスによれば、そのほかにも、円柱状体の外周にスパイラル状の凹凸を転造加工する場合に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
W 工作物
11 ダイス(第1番ダイス)
12 ダイス(第2番ダイス)
13 ダイス(第3番ダイス)
15 加工歯