(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149276
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】アニオン交換膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/82 20060101AFI20220929BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/30 20060101ALI20220929BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220929BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220929BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01D71/82
B01D71/26
B01D71/30
B01D69/02
B01D69/00
C08J5/22 104
C08J5/22 CER
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051340
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】木下 真希
(72)【発明者】
【氏名】岸野 剛之
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA14
4D006MA23
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4D006MC22
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4D006NA44
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4F071AA15C
4F071AA22X
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4F071FB08
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4F071FD01
4F071FD02
(57)【要約】
【課題】水との接触による膜の収縮が抑制され、寸法安定性に優れた防止され、4VP系アニオン交換膜を提供する。
【解決手段】基材シート5によって補強されたアニオン交換樹脂層3を有するアニオン交換膜において、アニオン交換樹脂層3は、アニオン交換基としてピリジル基がプロトン化されたピリジニウム基を含むアニオン交換樹脂と、増粘剤としての塩化ビニル樹脂を含み、基材シート5は、ポリエチレン織布製であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートによって補強されたアニオン交換樹脂層を有するアニオン交換膜において、
前記アニオン交換樹脂層は、アニオン交換基としてピリジル基がプロトン化されたピリジニウム基を含むアニオン交換樹脂と、増粘剤としての塩化ビニル樹脂を含み、
前記基材シートは、ポリエチレン織布製であることを特徴とするアニオン交換膜。
【請求項2】
前記塩化ビニル樹脂は平均重合度が650~1200である請求項1に記載のアニオン交換膜。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂を、該アニオン交換膜中に5~25質量%の量で含有している請求項2に記載のアニオン交換膜。
【請求項4】
前記ポリエチレン織布製の基材シートが120~160μmの厚みを有している請求項1~3に記載のアニオン交換膜。
【請求項5】
前記ポリエチレン織布製の基材シートが35~55%の開口率を有している請求項4に記載のアニオン交換膜。
【請求項6】
0.5N-HCl水溶液に浸漬後、純水に3日間浸漬した膜の収縮率が2.3%以下である請求項1~5の何れかに記載のアニオン交換膜。
【請求項7】
電流効率が55%以上であり、透水性が1000ml/m2・Hrより低い請求項1~6の何れかに記載のアニオン交換膜。
【請求項8】
単量体成分として4-ビニルピリジンを含み且つ増粘剤としての塩化ビニル樹脂を含む重合性組成物を調製する工程;
前記重合性組成物をポリエチレン織布性基材シートに含侵させて重合性シートを作製する工程;
前記重合性シートを剥離シートと重ねてロールに巻き取る工程;
前記ロールに巻かれている重合性シートを加熱して重合を行う重合工程;
前記重合体シートから剥離シートを剥離してイオン交換前駆体膜を得る剥離シート引き剥がし工程;
前記イオン交換前駆体膜を酸溶液に浸漬してピリジル基をプロトン化してアニオン交換膜を得るプロトン化工程;
を含むアニオン交換膜の製造方法。
【請求項9】
前記塩化ビニル樹脂は、得られるアニオン交換膜中に5~25質量%の量で含まれるように、前記重合性組成物中に配合される請求項8に記載のアニオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換基としてプロトン化されたピリジニウム基を有するアニオン交換膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アニオン交換膜は、補強材として機能する基材シートが芯材として設けられているアニオン交換樹脂層から形成されており、カチオン交換膜やバイポーラ膜と組み合わせて、製塩や脱塩、或いは中性塩からの酸やアルカリの製造などを行う電気透析などの用途に広く利用されている。
【0003】
このようなアニオン交換膜として、ピリジニウム基をアニオン交換基として有するもの(以下、4VP系アニオン交換膜と呼ぶことがある)が知られている。この4VP系アニオン交換膜は、ピリジル基を官能基として有する前駆体を酸処理することにより容易に得られる。即ち、ピリジル基を酸環境におくことにより、速やかにアニオン交換膜として機能するピリジニウム基が生成するわけである。かかる4VP系アニオン交換膜を、バイポーラ膜及びカチオン交換膜と組み合わせて電気透析による脱塩を行ったとき、高効率で酸の濃縮が行われる(特許文献1参照)。即ち、バイポーラ膜で発生したプロトン(H+)の脱塩室への漏洩が、このアニオン交換膜により遮断されるためである。
【0004】
しかしながら、4VP系アニオン交換膜は、水との接触により膜が収縮するという欠点がある。即ち、4VP系アニオン交換膜は、ピリジン環が有するN原子にプロトンが配位することでイオン交換膜として機能するが、pKa値が低く、酸環境のみでプロトンが配位する。このため、水との接触で脱プロトンが生じ、プロトンの排出と同時に、対イオンが排出され、さらに水和イオンが放出され、この結果として、膜全体が収縮してしまうと考えられる。
【0005】
また、4VP系アニオン交換膜の寸法安定性は、増粘剤としてポリエチレン粉末を使用することにより向上させることができるが、この場合には、膜の電流効率が低くなってしまい、さらに透水性も悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、水との接触による膜の収縮が抑制され、寸法安定性に優れた、4VP系アニオン交換膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、寸法安定性に加えて、電流効率が高く、さらには透水性も良好なアニオン交換膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、基材シートによって補強されたアニオン交換樹脂層を有するアニオン交換膜において、
前記アニオン交換樹脂層は、アニオン交換基としてピリジル基がプロトン化されたピリジニウム基を含むアニオン交換樹脂と、増粘剤としての塩化ビニル樹脂を含み、
前記基材シートは、ポリエチレン織布製であることを特徴とするアニオン交換膜が提供される。
【0009】
本発明のアニオン交換膜(即ち、4VP系アニオン交換膜)においては、次の態様が好適に採用される。
(1)前記塩化ビニル樹脂は平均重合度が700~1200であること。
(2)前記塩化ビニル樹脂を、該アニオン交換膜中に5~30質量%の量で含有していること。
(3)前記ポリエチレン織布製の基材シートが120~160μmの厚みを有していること。
(4)前記ポリエチレン織布製の基材シートが35~55%の開口率を有していること。
(5)0.5N-HCl水溶液に浸漬後、純水に3日間浸漬した膜の収縮率が2.3%以下であること。
(6)電流効率が55%以上であり、透水性が1000ml/m2・Hrより低いこと。
【0010】
本発明によれば、また、
単量体成分として4-ビニルピリジンを含み且つ増粘剤としての塩化ビニル樹脂を含む重合性組成物を調製する工程;
前記重合性組成物をポリエチレン織布性基材シートに含侵させて重合性シートを作製する工程;
前記重合性シートを剥離シートと重ねてロールに巻き取る工程;
前記ロールに巻かれている重合性シートを加熱して重合を行う重合工程;
前記重合体シートから剥離シートを剥離してイオン交換前駆体膜を得る剥離シート引き剥がし工程;
前記イオン交換前駆体膜を酸溶液に浸漬してピリジル基をプロトン化してアニオン交換膜を得るプロトン化工程;
を含むアニオン交換膜の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の製造方法においては、前記塩化ビニル樹脂が、得られるアニオン交換膜中に5~30質量%の量で含まれるように、前記重合性組成物中に配合されることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアニオン交換膜は、アニオン交換樹脂として、アニオン交換基としてプロトン化されたピリジニウム基を含むものが使用されていることから理解されるように、4VP系アニオン交換膜と呼ばれるものであるが、特定の基材シート(ポリエチレン製織布)が使用され且つアニオン交換樹脂層中には特定の増粘剤(塩化ビニル樹脂)が分布しているという特徴を有しており、これにより、寸法安定性に優れており、水と接触した場合における膜の収縮が有効に抑制されている。例えば、後述する実施例に示されているように、0.5NのHCl水溶液で処理した膜を純水に3日間浸漬した後、膜の収縮率を測定したとき(詳細な条件は実施例参照)、従来公知の4VP系アニオン交換膜(比較例1;ポリ塩化ビニル製織布を基材シートとし、増粘剤としてNBRを使用)の収縮率は2.8%であるが、本発明の4VP系アニオン交換膜では(実施例1~3)では、その収縮率は、1.4~2.3%程度に抑制されている。また、電流効率は55%よりも大きく、透水性は1000ml/m2・Hrよりも低く、電流効率及び透水性の何れにも優れている。
さらに、増粘剤として、塩化ビニル樹脂の代わりにポリエチレン粉末が使用されている比較例2,3では、収縮率が1.0~1.1%と低く抑えられているのであるが、電流効率は54%以下と低く、透水性は40000ml/m2・Hrを超えてしまっており、何れも本発明よりも劣っている。
【0013】
このように、本発明の4VP系アニオン交換膜は、寸法安定性ばかりか、電流効率及び透水性にも優れていることから、カチオン交換膜やバイポーラ膜と組み合わせて電気透析に提供され、この4VP系アニオン交換膜の装置内洗浄時の寸法変化による破れや、解体再組み立て時に寸法変化により再積槽できなくなることが防止され、長期にわたって安定して電気透析を行うことができる。特に、この4VP系アニオン交換膜は、バイポーラ膜及びカチオン交換膜と組み合わせての電気透析による酸の濃縮に最も好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の4VP系アニオン交換膜の構造を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<4VP系アニオン交換膜>
図1を参照して、全体として1で示す本発明の4VP系アニオン交換膜は、アニオン交換樹脂層3が基材シート5によって補強された基本的構造を有している。
【0016】
アニオン交換樹脂層3の形成に使用されるアニオン交換樹脂は、アニオン交換基としてピリジニウム基を含むものである。即ち、このアニオン交換樹脂は、4-ビニルピリジンの繰り返し単位を含むものであり、下記式で示されるように、ピリジン環中の窒素原子にプロトン(H
+)が配位することによりアニオン交換基として機能する。
【化1】
【0017】
ところで、ピリジンのPka値は5.25と低く、このため、ピリジル基は、酸環境のみでプロトンが配位してアニオン交換基として機能するピリジニウムとなる。一般的なアニオン交換樹脂は、アミノ基の窒素原子を徹底的にメチル化して形成される第4級アンモニウム塩基がアニオン交換基として機能する。即ち、本発明においては、アニオン交換基の生成に面倒な処理若しくは反応は必要とせず、一般的な第4級アンモニウム塩系のアニオン交換膜とは異なっている。
【0018】
上記のような4VP系アニオン交換膜は、酸によって容易にプロトンが配位するが、水との接触(或いはpHの上昇)で容易に脱プロトンを生じてしまい、先にも述べたように、脱プロトンと共に、対イオンが排出され、水和イオンも放出され、この結果、膜が大きく収縮するという欠点を有している。
このような欠点を解消するために、本発明においては、アニオン交換樹脂層3中には、増粘剤として機能する塩化ビニル樹脂が分散されており、且つ基材シート5として、ポリエチレン製織布が使用される。この織布は、
図1に示されているように、経糸5aと緯糸5bとを用いて織られたものであり、平織り、綾織り、朱子織りの何れでもよいが、開口率を一定範囲に設定する等の観点から、平織りが最も好適である。
【0019】
即ち、イオン交換膜の基材シートとして塩化ビニル樹脂シートが知られているが、本発明において使用される塩化ビニル樹脂は、基材シートとして使用されるものではなく、増粘剤として使用されるものであるため、粒状の形態でアニオン交換樹脂層3中に分布しており(即ち、シート形状を有するものではなく、島状に分散している)、また、基材シート5として使用されるのは、ポリエチレン織布に限定される。このような組み合わせを採用することにより、従来公知の4VP系アニオン交換膜に見られる膜の収縮が抑制され、高い寸法安定性が得られるばかりか、電流効率や透水性にも優れたものとなる。
【0020】
本発明において、上記のような塩化ビニル樹脂(増粘剤)とポリエチレン製織布との使用により膜収縮が抑制され、電流効率や透水性も向上する理由は正確に解明されたわけではないが、本発明者等は、次のように推定している。
即ち、増粘剤は、アニオン交換樹脂を製造するための重合性組成物(4-ビニルピリジン含有)に配合され、重合性組成物の粘度を基材シート(織布)に塗工できる程度に高めるために使用されるものであり、粉末状もしくは粒状物の形態で使用されるため、得られるアニオン交換膜(アニオン交換樹脂層3)中には、アニオン交換樹脂のマトリックス(海)内に島状に分散された状態で存在する。このような増粘剤として使用される塩化ビニル樹脂粉末(PVC粉)は、重合性組成物中に含まれる単量体との親和性が高く、PVC粉中に単量体成分が容易に含侵する。このため、得られるイオン交換樹脂にPVC粉がよく馴染んでおり、隙間が出来難くなっていると考えられる。しかも、基材として用いるポリエチレン製織布自体、多孔フィルムや不織布或いは塩化ビニル樹脂系織布などと比較して強度が高い。従って、ポリエチレン製織布と塩化ビニル樹脂粉末(PVC粉)との併用により、高い寸法安定性(低収縮率)ばかりか、電流効率や透水性にも優れた膜が得られるのである。
【0021】
例えば、塩化ビニル樹脂粉末ではなく、ポリエチレン粉末を用いた場合には、単量体成分が容易に含侵しないため寸法安定性は向上するのであるが、イオン交換樹脂の単量体成分が馴染みにくいため、イオン交換樹脂中に隙間が生成し易い。このため、電流効率や透水性は不満足なものとなってしまう。
さらに、基材シートとして、塩化ビニル樹脂シートやポリオレフィン製多孔シートを用いた場合には、何れも基材シートとしての補強効果が低く、特にポリオレフィン製多孔シートの場合には、該シートの開口が小さく、増粘剤粒子が該開口部に入り込まず、増粘剤の補強効果も発現しない。
【0022】
このような本発明の4VP系アニオン交換膜において、アニオン交換膜を製造する際、重合性組成物の塗工性を確保するという点で、増粘剤として用いる塩化ビニル樹脂の平均重合度は、650~1200の範囲にあることが望ましい。これは塩化ビニルの重合度が低いほど増粘効果が大きく、高いほど増粘効果が小さくなるためであり、今回の発明ではこの範囲が望ましい。また、増粘による塗工性を確保すると同時に、交換膜の基本的組成(アニオン交換能や電気抵抗など)を損なわずに膜の収縮性抑制効果を得るという観点から、この塩化ビニル樹脂は、アニオン交換膜1中に、5~25質量%、特に6~20質量%の量で存在していることが好適である。
【0023】
さらに、本発明において基材シート5として用いるポリエチレン製織布は、強度を損なわずに、塩化ビニル樹脂の使用による電気抵抗の増大が回避されるような形態のものが好適に使用される。
例えば、このポリエチレン製織布(基材シート5)の厚みdは、120~160μmの範囲にあることが好ましく、さらに、開口率は、35~55%の範囲にあることが好ましい。即ち、従来から基材シートとして使用されている各種織布の厚みと比較するとかなり薄く、また、開口率は比較的大きい範囲にある。また、ポリエチレンのモノフィラメント糸径は比較的細く、60~80μm程度の範囲にある。
【0024】
上記のような基材シート5の選択により、この4VP系アニオン交換膜1の電気抵抗は、0.5モル/l濃度の塩酸中、25℃で測定して5.0Ω・cm2以下の範囲に設定されていることが好適であり、さらに好ましくは4.5Ω・cm2以下の範囲である。
【0025】
また、4VP系のアニオン交換樹脂層3の厚みDは、100~200μm程度の範囲にあることが強度と取り扱い性の上で好ましく、また、4VP系のアニオン交換樹脂が有するアニオン交換基(カチオン化されたピリジル基)は、0.9~1.4meq/g-乾燥質量程度のイオン交換容量が確保されるような割合で樹脂中に導入されていることが望ましい。必要以上の量でアニオン交換基が導入されていると、脱プロトン時に収縮率が大きくなる恐れがあり、アニオン交換基の量が少ないと、イオン交換能が十分に発揮されなくなってしまうからである。
【0026】
このような本発明の4VP系のアニオン交換膜1は、後述する実施例から明らかなとおり、収縮率(寸法変化)が2.5%より低く、電流効率が55%以上であり、さらに好ましくは収縮率(寸法変化)が2.3%より低く、電流効率が60%以上であり、透水性は、1000ml/m2・Hrよりも低い。また、含水率が13~21%程度であり、その破裂強度は、1.0-1.1MPa程度である。各パラメータの測定法は実施例に記載されている。
【0027】
<4VP系アニオン交換膜1の製造>
上記のような本発明の4VP系のアニオン交換膜1は、重合性組成物調製工程、重合性シート作製工程、ロール巻き取り工程、重合工程、剥離シート引き剥がし工程、プロトン化工程を経て製造される。
以下、各工程について、順次説明する。
【0028】
重合性組成物調製工程;
この工程は、プロトン化によりアニオン交換樹脂となる重合体(アニオン交換樹脂前駆体)を得るための重合性組成物を調製するための工程である。
従って、単量体成分として4-ビニルピリジンを含むことが必須であるが、4-ビニルピリジンのみでは、収縮が著しくなるため、物性調整のため、他の単量体や架橋性単量体、及び重合開始剤が使用される。
尚、4-ビニルピリジンは、アニオン交換基源となる化合物であるため、この重合性組成物中には、前述したイオン交換容量が得られるような量で使用され、例えば、この重合性組成物の全量100質量部(アニオン交換樹脂100質量部に相当)当たり15~35質量部、特に18~30質量部の量で使用される。
【0029】
4-ビニルピリジンと共重合可能な他の単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、アクリロニトリル等を挙げることができる。また、原理的には、従来から使用されているアニオン交換基を有する単量体、例えば、ビニルイミダゾール、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等の含窒素ビニル化合物も使用することができる。
【0030】
また、架橋性単量体は、アニオン交換樹脂を緻密化し、膨潤抑止性や膜強度等を高めるために使用されるものであり、特に制限されるものでは無いが、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタレン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン、1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン、エチレングリコールジメタクリレート、N,N-メチレンビスアクリルアミド等のジビニル化合物が挙げられる。
このような架橋性単量体は、一般に、4-ビニルピリジン及びこれと共重合可能な他の単量体との合計量(以下、基本単量体成分と呼ぶ)100質量部に対して、0.1~50質量部、特に1~40質量部の量で使用される。
【0031】
重合開始剤としては、従来公知のものが特に制限されること無く使用される。具体的には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド等の有機過酸化物系重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤等が使用される。
このような重合開始剤は、基本単量体成分100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、更に好ましくは0.5~10質量部である。
【0032】
さらに、本発明においては、上述した各種成分を含有する重合性組成物には、垂れ等を生じることなく、塗工可能にする粘度を確保する増粘剤として、塩化ビニル樹脂が使用される。この塩化ビニル樹脂は、好適には、前述した平均重合度を有するものであるが、粉末或いは粒状物の形態で使用される。この平均粒径は、重合に際しての加熱等により変動するため、アニオン交換樹脂中の塩化ビニル樹脂の分散粒径とは一致しないが、例えばレーザ回折散乱法で測定した体積換算の50%粒径(D50)で表して0.1~50μmの範囲にあることが好適である。かかる粒径が大きいと、ポリエチレン製織布(基材シート5)の開口中への侵入が困難となるため、膜の収縮抑制効果が低下するおそれがある。また、その粒径が小さすぎると、取り扱いが困難となるばかりか、入手困難となってしまう。
このような増粘剤として使用される塩化ビニル樹脂の量は、先にも述べたが、最終的に得られるアニオン交換膜1中に5質量%~25質量%、特に6質量%~20質量%で存在するような範囲内で、重合性組成物が適度な塗工性を示すような量(通常、重合性組成物100質量部当り5~30質量部程度)で使用される。
【0033】
尚、本発明においては、上述した塩化ビニル樹脂の膜収縮抑制効果を阻害しない程度の少量であるならば、塩化ビニル樹脂以外の増粘剤も使用することができる。このような増粘剤としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレン-ブタジエン共重合体等のスチレン系ポリマー、ニトリルブタジエンゴム、水素添加ニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレンゴム或いは、これらに、各種のコモノマー(例えばビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、α-ハロゲン化スチレン、α,β,β´-トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマーや、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなど)を共重合させたものなどを使用することができる。
【0034】
さらに、上述した重合組成物には、重合後の膜状物の柔軟性を付与するために、必要に応じて、適宜の量で可塑剤を配合することもできる。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のフタル酸エステル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル、スチレンオキサイド等のエポキシ類、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル等のエーテル類等が使用される。
【0035】
上述した各成分は、一般的な液体攪拌羽式の槽で均一に混合され、これにより、重合性組成物が調整される。
【0036】
重合性シート作製工程;
上記の様にして調製された重合性組成物は、基材シート5であるポリエチレン製織布に塗布され、この織布の開口部に重合性組成物が充填された重合性シートが作製される。この重合性シートは、
図1のアニオン交換樹脂層3の元となるものであり、その内部に芯材として補強効果を有する前述したポリエチレン製織布が存在するわけである。
【0037】
重合性組成物をポリエチレン製織布に塗布する方法は特に制限を受けないが、一般的には刷毛塗りや、ロール塗布などによりポリエチレン製織布を重合性組成物に浸漬する方法などが採用されるが、スプレーなどの方法も採用することができる。また、重合性組成物の粘度によっては、重合性組成物をポリエチレン製織布に減圧下で接触させる方法も採ることができる。
このようにして作製される重合性シートの厚み(重合性組成物の塗布厚)は、重合硬化後の厚みが、前述したアニオン交換樹脂層3の厚み(100~200μm程度)となるように設定される。
【0038】
ロール巻き取り工程;
本発明においては、上記のようにして作製された重合性シートを、剥離性シートと重ねてロールに巻き取る。このようにして得られるロール体は、次の重合工程での加熱を効率よく行うためのものである。即ち、重合性シートのまま加熱を行うには、大型のオーブンが必要になってしまい、生産コストが高くなってしまうが、ロール体の形態で加熱を行うときには、コンパクトなオーブンで行うことができるからである。
尚、剥離シートと重ねない場合には、重合性組成物の塗布層同士が密着一体化してしまうため、ロールに巻き取ることができない。
【0039】
即ち、上記で用いる剥離性シートは、アニオン交換膜として不必要なものであるので、重合後に剥がされるものである。従って、このような剥離性シートとしては、重合性組成物の重合に悪影響を与えず、重合体から容易に引き剥がし可能であれば、種々の材質のものを使用することができる。通常は、入手が容易なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが使用される。
【0040】
重合工程;
上述した説明から理解されるように、上記で得られた剥離シートと重ね合わされた重合性シートのロール体は加熱され、これにより、重合性組成物の重合体が得られる。
【0041】
重合のための加熱温度等は、4-ビニルピリジンと併用される単量体成分や重合開始剤の種類等によって適宜の範囲に設定されるが、当然のことながら、基材シート5として使用されるポリエチレンや増粘剤として使用される塩化ビニル樹脂の融点よりも低い温度とすべきであり、一般的には、70~90℃の範囲に設定される。
また、重合は、オーブン等を用いて行われ、空気雰囲気で行うことも可能ではあるが、重合が空気中の酸素により阻害されることがあるので、窒素雰囲気下で行うことが望ましい。また、重合時間は、重合温度等によっても異なるが、一般には、2~5時間程度である。
【0042】
剥離シート引き剥がし工程;
重合後、上記のロール体を巻き出し、剥離シートを引き剥がすことにより、重合性組成物の重合により得られた重合体シートが取り出される。この重合体シートは、イオン交換前駆体膜と称されるものである。
【0043】
プロトン化工程;
この工程は、上記で得られたイオン交換前駆体膜に含まれるピリジル基の窒素原子にプロトンを配位してアニオン交換基と機能し得るピリジニウムを生成せしめる工程である。
このようなプロトン化は、イオン交換前駆体膜を酸と接触させることにより行われ、一般的には、酸水溶液にイオン交換前駆体膜を浸漬することにより容易に行うことができる。
【0044】
用いる酸としては、種々のものを使用することができるが、一般的には、塩酸、硫酸、リン酸が好適に使用され、酸濃度は、1~3N程度が好適である。
【0045】
プロトン化工程が終了した後は、水洗を行った後、適度な大きさに裁断され、アニオン交換膜としての使用に供される。
【0046】
このようにして得られる本発明の4VP系アニオン交換膜1は、種々の電気透析に適用することができ、特にバイポーラ膜やカチオン交換膜との併用による電気透析装置に適用して、酸の濃縮に最も好適に使用される。
【実施例0047】
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下に、本実施例及び比較例で用いた基材、増粘剤を示す。
【0048】
1)基材;
ポリオレフィン系織布 高密度ポリエチレンモノフィラメント織布(PE-33D-120:株式会社NBCメッシュテック)
縦糸:線径76μm-1インチあたり120本(33デニール)
横糸:線径76μm-1インチあたり120本(33デニール)
厚さ:132μm
開口率:41%
ポリ塩化ビニル製織布 帝人株式会社製 商品名:V-7275
縦糸:274μm-1インチあたり86本(84dtex)
横糸:213μm-1インチあたり73本(84dtex)
厚さ:86μm
開口率:3%
【0049】
2)増粘剤
PVC粉
PQB-83:新第一塩ビ株式会社製
(粒径10~50μm、平均重合度:700)
P-22:新第一塩ビ株式会社製
(粒径0.1~10μm、平均重合度:1050)
PE粉
LE-1080:住友精化株式会社製
(粒径0.1~10μm)
EA-209:住友精化株式会社製
(粒径0.1~15μm)
【0050】
その他増粘剤
H-NBR:水添ニトリルブチルゴム
(日本ゼオン株式会社製 商品名:zetpol2000L)
NBR:ニトリルブチルゴム(JSR株式会社製 商品名:N230SH)
【0051】
実施例、比較例に示すイオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した。
【0052】
<1:フィラメント基材の開口率>
基材を構成する糸の線径(μm)とメッシュ数から、下記式(1)に従って計算した。
開口率(%)=(オープニング)2/(オープニング+線径)2・・・(1)
上記式(1)における各係数は以下のとおりである。
オープニング(μm)=25400/メッシュ数-線径(μm)
メッシュ数=1インチ当たりの糸の本数(平均値)
【0053】
<2:収縮率>
イオン交換膜を0.5mol/L-HCl水溶液に12時間以上浸漬後、イオン交換膜の寸法を測定した(L0)。その後イオン交換膜をイオン交換水で十分水洗し、イオン交換水に72時間浸漬した後、膜の寸法を測定し(L1)、下記式(2)を用いて収縮率を算出した。
収縮率(%)=(1-L1/L0)×100・・・(2)
【0054】
<3:電流効率>
以下の構成を有する2室セルを使用した。
陰極(塩化銀板);
(0.5mol/L-塩酸)/陰イオン交換膜/(3mol/L-塩酸)
陽極(銀板);
液温25℃で電流密度10A/dm2で1時間通電した後、陰極側の溶液を回収した。回収した液と初期液の塩酸濃度を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位滴定装置(KEM製AutoTitrator)により定量し、下記式(3)を用いて電流効率を算出した。
電流効率(%)={1-(CS-CB)/(I×t/F)}×100・・・(3)
上記式(3)における各係数は以下のとおりである。
CB:初期液の濃度
CS:通電後に回収した液濃度
I:電流値(A)
t:通電時間(sec)
F:はファラデー定数(96500C/mol)
【0055】
<4:イオン交換膜の破裂強度>
イオン交換膜を0.01mol/L-HCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した。次いで、膜を乾燥させることなく、ミューレン破裂試験機(東洋精機社製)により、JIS-P812に準拠して破裂強度を測定した。
【0056】
<5:電気抵抗>
白金黒電極を有する2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に0.5m
ol/L-HCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により膜抵抗(Ω・cm2)を求めた。なお、上記測定に使用するイオン交換膜は、予め0.5mol/L-HCl水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0057】
<6:膜厚>
イオン交換膜を0.5mol/L-HCl溶液に4時間以上浸漬した後、ティッシュ
ペーパーで膜の表面の水分を拭き取り、マイクロメータ MED-25PJ(株式会社ミ
ツトヨ社製)を用いて測定した。
【0058】
<7:透水性>
円筒状のセルにイオン交換膜を挟み、上部に50mlの水をいれ、更にその上から0.1MPaで圧力をかけた際に、イオン交換膜を1時間に透過してくる水量Wpwを測定し、下記式(4)に従って透水度を算出した。この際、膜の有効面積は12.6m2である。
透水性(mL/(m2・hr))=Wpw/(S×T)・・・(4)
上記式(4)における各係数は以下のとおりである。
S:膜の有効面積(m2)
T:試験時間(hr)
【0059】
<8:イオン交換容量および含水率>
イオン交換膜を1mol/L-HCl水溶液に10時間以上浸漬した。その後、1mol/L-NaNO3水溶液で対イオンを塩化物イオンから硝酸イオンに置換させ、遊離した塩化物イオンを硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE-900、平沼産業株式会社製)で定量した(定量値をAmolとする。)。
次に、同じイオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン
交換水で十分水洗した。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量Wを測定した。さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さDを測定した。上記測定値に基づいて、イオン交換膜のイオン交換容量および含水率を次式(5)及び(6)により求めた。
イオン交換容量[meq/g-乾燥質量]=A×1000/D・・・(5)
含水率[%]=100×(W-D)/D・・・(6)
【0060】
<9:塩ビの含有量の算出法>
イオン交換前駆体膜、基材シートを10cm角に切断し秤量し、下記式(7)を用いて塩ビの含有量を算出した。
イオン交換膜中に占める塩ビの含有量[%]=T×(M-B)×100・・・(7)
上記式(7)における各係数は以下のとおりである。
M:10cm角のイオン交換前駆体の重さ(g)
B:10cm角の基材シートの重さ(g)
T:重合性組成物中に占める塩ビの割合
【0061】
<実施例1>
下記処方の混合物を調整した
スチレン(St)50質量部
57%ジビニルベンゼン(DVB)(その他成分はエチルビニルベンゼン)21質量部
4-ビニルピリジン 29質量部
ベンゾイルパーオキサイド(BW)(日本油脂株式会社製 ナイパーBW)5.3質量部
【0062】
この混合物にポリ塩化ビニル粉末(PQB-83) 30質量部を加え、均一な重合性組成物を得た。
次いで、ポリオレフィン系織布として、高密度ポリエチレンモノフィラメント織布(PE-33D-120)を用意した。
【0063】
上記の高密度ポリエチレンモノフィラメント織布(PE-33D-120)の上に、上記で得られた重合性組成物を塗布し、ポリエステルフィルムを剥離材として両面被覆した後、75℃で3時間重合を行った。
次いで、得られた膜状高分子体を2mol/L塩酸に35℃で23時間浸漬させることにより、ピリジニウム化したアニオン交換膜を得た。アニオン交換膜の構成を表1に示す。また、得られたアニオン交換膜の特性を、表2に示す。
【0064】
<実施例2~3、比較例1~3>
表1に示す混合物の配合量とし、表1に示す、基材、増粘剤を用いた他は実施例1と同様にして、アニオン交換膜を作製した。得られたアニオン交換膜の膜特性を表2に示した。
【0065】
【表1】
St:スチレン
DVB:57%ジビニルベンゼン(その他成分はエチルビニルベンゼン)
4VP:4-ビニルピリジン
BW:ベンゾイルパーオキサイド(商品名:ナイパーBW/日本油脂製)
【0066】
【0067】
上記実施例及び比較例から明らかなように、0.5NのHCl水溶液で処理した膜を純水に3日間浸漬した後、膜の収縮率を測定したとき(詳細な条件は実施例参照)、従来公知の4VP系アニオン交換膜(比較例1;ポリ塩化ビニル製織布を基材シートとし、増粘剤としてNBRを使用)の収縮率は2.8%であるが、本発明の4VP系アニオン交換膜では(実施例1~3)では、その収縮率は、2.1~2.3%程度に抑制されている。また、電流効率は55%よりも大きく、透水性は1000ml/m2・Hrよりも低く、電流効率及び透水性の何れにも優れている。
さらに、増粘剤として、塩化ビニル樹脂の代わりにポリエチレン粉末が使用されている比較例2,3では、収縮率が1.6~1.9%と低く抑えられているのであるが、電流効率は54%以下と低く、透水性は40000ml/m2・Hrを超えてしまっており、何れも本発明よりも劣っている。