(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149296
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】プリント配線板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20220929BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20220929BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H05K1/02 A
H05K3/18 A
H05K3/46 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051376
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】593215380
【氏名又は名称】株式会社伸光製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大槻 睦子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 舞
【テーマコード(参考)】
5E316
5E338
5E343
【Fターム(参考)】
5E316AA02
5E316AA12
5E316AA42
5E316CC08
5E316CC32
5E316FF03
5E316FF04
5E316GG16
5E316GG17
5E316HH40
5E338AA02
5E338AA03
5E338AA11
5E338BB13
5E338BB22
5E338BB63
5E338EE60
5E343AA12
5E343BB24
5E343BB67
5E343CC34
5E343CC48
5E343DD21
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】 本発明は酸化マグネシウムを含有する樹脂を絶縁材料とした基板材料を用いて製造するプリント配線板であっても、製品品質に影響を与えないように処理を施すことによって、樹脂面に露出する酸化マグネシウムが除去されたプリント配線板を提供する。
【解決手段】 酸化マグネシウムを含有する絶縁樹脂を基板材料に用いたプリント配線板であって、前記プリント配線板の貫通穴の側壁面、並びに有底穴の側壁面及び底面に、前記酸化マグネシウムの形態に由来する形状の前記絶縁樹脂の露出面を備えていることを特徴とするプリント配線板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムを含有する絶縁樹脂を基板材料に用いたプリント配線板であって、
前記プリント配線板の貫通穴の側壁面、並びに有底穴の側壁面及び底面に、前記酸化マグネシウムの形態に由来する形状の前記絶縁樹脂の露出面を備えていることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムの形態が、フィラー状、粉末状のいずれか或いは両者であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
酸化マグネシウムを含有する絶縁樹脂を基板材料に用い、デスミア処理工程を含むプリント配線板の製造方法において、
前記デスミア処理工程が、硫酸溶液による前処理を含むことを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記デスミア処理工程が、前記硫酸溶液による前処理の後、膨潤処理、エッチング処理、中和処理の順に処理することを特徴とする請求項3に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸溶液による前処理が、プリント配線板を前記硫酸溶液中に浸漬する硫酸溶液浸漬処理であることを特徴とする請求項3又は4に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年基板の高放熱化や高信頼性が求められる中で基板材料に熱伝導率の高い酸化マグネシウム等のフィラーを含有した樹脂を絶縁材料とした基板材料がある。このような基板材料は放熱性に優れ、耐トラッキング性も有効であることからプリント配線板の基板材料として展開が始まっている。
【0003】
例えば特許文献1では、絶縁性樹脂に熱伝導性フィラーとしてアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、及び酸化マグネシウムを含む基板材料が開示されている。
特許文献2では、エポキシ樹脂中の酸化マグネシウム粉末の充填率が45~63体積%である基板材料が開示されている。
【0004】
上記酸化マグネシウムを含有する樹脂を用いた基板材料は、放熱性に優れているが、酸化マグネシウム単体に関しては酸やアルカリに容易に溶解するという性質があり、プリント配線板の製造工程における各種薬液処理において、処理液中へのマグネシウムの溶出が懸念される。
【0005】
例えば、形成した穴内の樹脂残渣を除去するデスミア処理工程において、穴加工によって側壁面等に露出した酸化マグネシウムが、デスミア処理液内に溶出することで液中にマグネシウムイオンが混入し、その結果、デスミア性が悪化し、その後に形成するめっきに悪影響を与える可能性がある。
また、同じ製造工程で同時期に処理を行っている通常基板材料によるプリント配線板の品質への影響も取りただされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-211225号公報
【特許文献2】特開2015-232116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況を鑑み、本発明は酸化マグネシウムを含有する樹脂を絶縁材料とした基板材料を用いて製造するプリント配線板であっても、製品品質に影響を与えないように処理を施すことによって、樹脂面に露出する酸化マグネシウムが除去されたプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の発明は、酸化マグネシウムを含有する絶縁樹脂を基板材料に用いたプリント配線板であって、前記プリント配線板の貫通穴の側壁面、並びに有底穴の側壁面及び底面に、前記酸化マグネシウムの形態に由来する形状の前記絶縁樹脂の露出面を備えていることを特徴とするプリント配線板である。
【0009】
本発明の第2の発明は、第1の発明における酸化マグネシウムの形態が、フィラー状、粉末状のいずれか或いは両者であることを特徴とするプリント配線板である。
【0010】
本発明の第3の発明は、酸化マグネシウムを含有する絶縁樹脂を基板材料に用い、デスミア処理工程を含むプリント配線板の製造方法において、前記デスミア処理工程が、硫酸溶液による前処理を含むことを特徴とするプリント配線板の製造方法である。
【0011】
本発明の第4の発明は、第3の発明におけるデスミア処理工程が、前記硫酸溶液による前処理の後、膨潤処理、エッチング処理、中和処理の順に処理することを特徴とするプリント配線板の製造方法である。
【0012】
本発明の第5の発明は、第3及び第4の発明における硫酸溶液による前処理が、プリント配線板を前記硫酸溶液中に浸漬する硫酸溶液浸漬処理であることを特徴とするプリント配線板の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酸化マグネシウムを含有する樹脂を絶縁材料とした基板材料を用いて製造されたプリント配線板であっても、樹脂面に露出する酸化マグネシウムが除去された面を備えたプリント配線板を容易に得ることが可能となり、このプリント配線板を用いた電子・電気素子や機器の製造におけるマグネシウムによる汚染を予防でき、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)は本発明による、穴あけ加工により樹脂層に露出した酸化マグネシウムの状態を示し、
図1(B)は露出した酸化マグネシウムが除去された状態を示した概略断面図である。
【
図2】本発明の硫酸溶液による前処理を追加したデスミア処理工程を含むプリント配線板の製造工程の概略フロー図である。
【
図3】評価用に準備した基板材料の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の穴あけ加工により形成された貫通穴の側壁面や有底穴の側壁面及び底面は、露出していた酸化マグネシウムが除去され、樹脂が露出した面を備えたプリント配線板であり、
図2に示す工程を経ることにより得られる。
【0016】
(1)まず樹脂中に酸化マグネシウムを含有した基板材料を用意する。
この樹脂中に含有される酸化マグネシウムは、固形物で、粉末状やフィラー状、或いはその両者の形態のものが利用されている。
【0017】
(2)次の穴あけ工程では、所定の部位に必要な大きさの貫通穴や有底穴をドリルやレーザー、ブラスト等の手段により形成する。ここで形成された貫通穴の側壁面や有底穴の側壁面、底面では、加工により除去された酸化マグネシウム残部の断面が露出した状態になっている。
【0018】
(3)硫酸溶液により貫通穴や有底穴の面に露出した酸化マグネシウム残部を溶解、除去する処理、いわゆるデスミア処理の前処理としての前処理(硫酸溶液浸漬処理と称す)を行う。
この前処理では、断面等に露出した酸化マグネシウム残部を溶解、除去し、除去される酸化マグネシウム残部の形態に由来する形状の絶縁樹脂が露出している露出面を形成する。
なお、この前処理では、酸化マグネシウム残部の溶解、除去に「硫酸溶液」を利用し、その溶液中への浸漬処理が好ましいが、スプレーガンを用いた硫酸溶液の噴射による溶解、除去などの方法も適用可能である。
その浸漬処理における「硫酸溶液の濃度範囲」は、希硫酸の濃度範囲で、特に1.0~25[g/L]程度が好ましい。
【0019】
(4)前処理を通じても形成した貫通穴や有底穴にはスミアが残留するため、デスミア処理工程に投入する。通常はスミアの膨潤処理、膨潤したスミアのエッチング処理、エッチング処理液による残渣に対する中和処理を行うデスミア処理工程を行い、貫通穴の側壁面や有底穴の側壁面及び底面を、スミアの無い面とする処理を施す。
【0020】
(5)その後、通常工程と同様に表裏銅箔間の導通を確保するためにめっき処理等を行う。そして、めっき処理を行った基板材料に回路形成を行い、ソルダーレジスト等を形成し、表面処理等の後工程を経てプリント配線板を得る。
【実施例0021】
樹脂中に粉末状の酸化マグネシウムを含有した
図3に示す4層構造の基板材料を用意した。
この基板材料は、酸化マグネシウムを含有する樹脂層の厚さが0.3mm、1層目の銅箔が100μm、2層目と3層目の銅箔が35μm、4層目の銅箔が100μmである。
【0022】
この基板材料を用いて穴あけ加工を行った。
具体的には、φ1.0mmのドリルにより貫通穴を2.0mmピッチで形成した。
基板材料の樹脂層断面は、含有された酸化マグネシウムの残部が露出し、
図1(A)に示す状態になる。
【0023】
通常、プリント配線板は、
図2に示す工程を経て作製される。
先ず、準備した基板材料に穴あけ加工を行い、穴あけ加工により生じたスミアを除去するデスミア処理を行う。その後、銅めっき処理、配線を形成するエッチング処理、表面処理等の工程を経て、所定のプリント配線板を得る。
薬液を使用するデスミア処理工程は、穴あけ加工により生じたスミアを膨潤処理し、膨潤したスミアをエッチング処理により除去し、エッチング処理液による残渣に対する中和処理を行う工程である。
この穴あけ加工後の薬液を使用する工程に、基板材料から溶出したマグネシウムによる品質問題が生じないようにするため、次の評価1、評価2による確認を行った。
【0024】
[評価1]
穴あけ加工を行った基板材料から、5cm×5cmの評価用サンプルを切り出した。
切り出した評価用サンプル2枚を前処理として濃度0.1N硫酸溶液に浸漬し、約10分間撹拌を行う硫酸浸漬処理を実施し、その後、通常のデスミア処理工程である、アルカリ水溶液によるスミアの膨潤処理、過マンガン酸塩のアルカリ水溶液による膨潤したスミアのエッチング処理、エッチング処理液による残渣に対する中和処理を浸漬により行った。
硫酸濃度に関しては任意で構わないが、濃度又は温度が高い程、溶出速度は速くなる傾向があることから、装置構成や処理時間等により調整することができる。
【0025】
次に、硫酸溶液、膨潤処理液、中和処理液のマグネシウム溶出量を原子吸光法により濃度測定した。なお、エッチング処理液中には波長の近いマンガンが含まれており、マグネシウムは正確な分析ができないことから測定をしていない。なお、未使用の膨潤処理液中のマグネシウム濃度を測定した結果は、66.7mg/lであった。
【0026】
評価1の硫酸溶液、膨潤処理液、中和処理液のマグネシウム濃度測定結果を表1に示す。
【0027】
【0028】
評価1では、硫酸溶液中のマグネシウム濃度は、154.8mg/lであった。そして膨潤処理液中のマグネシウム濃度は、66.1mg/lであり、未使用の膨潤処理液中のマグネシウム濃度(66.7mg/l)と同等である結果となった。
【0029】
この結果より、硫酸溶液による前処理によって
図1(A)に示した樹脂層断面に露出した酸化マグネシウムが硫酸溶液中に溶出し、
図1(B)に示すように樹脂層断面から酸化マグネシウムが除去された状態になったと判断した。
これより、基板材料に起因するマグネシウムは、硫酸溶液中に溶出され、膨潤処理以降の薬液中への溶出は無いと判断した。
【0030】
[評価2]
評価1と同様に、穴あけ加工を行った基板材料から、5cm×5cmの評価用サンプルを切り出し、その切り出した評価用サンプル2枚を通常のデスミア処理工程である、スミアの膨潤処理、膨潤したスミアのエッチング処理、中和処理を浸漬により行った。
【0031】
次に、膨潤処理液及び中和処理液へのマグネシウム溶出量を原子吸光法により濃度測定した。なお、評価1と同様に、エッチング処理液中には波長の近いマンガンが含まれており、マグネシウムは正確な分析ができないことから測定をしていない。
【0032】
評価2での膨潤処理液及び中和処理液のマグネシウム濃度測定結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
評価2では、膨潤処理液中のマグネシウム濃度は、107.8mg/lであり、未使用の膨潤液中のマグネシウム濃度が、66.7mg/lであることから、基板材料から約40mg/lのマグネシウムの溶出が確認された。
中和処理液中には、0mg/lであった。
【0035】
評価2では、中和処理液中へのマグネシウムの溶出がないことから、エッチング処理によって酸化マグネシウムが溶解し、マグネシウムがエッチング処理液中に溶出したと考えられる。
評価1の硫酸溶液中のマグネシウム濃度は、154.8mg/lであり、評価2の膨潤処理液中のマグネシウム濃度は、107.8mg/lであることから、硫酸溶液による前処理(硫酸浸漬処理)が組み込まれていない評価2の処理工程では、エッチング処理液中に40mg/l以上のマグネシウムが溶出していると考えられる。
【0036】
従来の工程である評価2の工程では、膨潤処理液とエッチング処理液中にマグネシウムが溶出するので、連続生産により処理液中のマグネシウムは増加することになる。
一方、本発明に係る評価1の工程では、硫酸溶液による前処理(硫酸浸漬処理)を行うことで、膨潤処理やエッチング処理の各薬液中にマグネシウムが溶出することを防止できる。そして、樹脂中に酸化マグネシウムを含有する基板材料であっても従来品と同等の品質が維持できると判断できる。