(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149362
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】アブソリュート式回転センサ付軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20220929BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220929BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20220929BHJP
G01B 7/30 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/06
G01D5/245 110M
G01B7/30 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051481
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】高田 声一
(72)【発明者】
【氏名】浜北 康之
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F063AA35
2F063BA03
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2F077AA46
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3J701AA03
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3J701BA77
3J701FA44
3J701FA46
3J701FA60
3J701GA32
3J701GA57
(57)【要約】
【課題】複列トラック式の回転センサを軸受に組み合わせることにより、少ない部品点数で構成を簡素化でき、かつ組み立てが容易なアブソリュート式回転センサ付軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受(3)と、前記軸受3の回転側軌道輪に固定され、環状の芯金(17)の周方向に渡って設けられた2列の磁気トラックを有する被検出部(19)を有する被検出部材(5)を備えるアブソリュート式回転センサ付軸受装置(1)において、前記軸受(3)の前記固定側軌道輪に固定され、前記被検出部(19)の回転を非接触で検知する1つの回転センサ(21)と、前記回転センサ(21)が搭載されたセンサ基板(23)と、前記センサ基板(23)を覆い、前記センサ基板(23)が取り付けられたセンサハウジング(25)とを有する回転センサユニット(7)を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側軌道輪、前記回転側軌道輪に対向するように配置された固定側軌道輪、および前記回転側軌道輪と前記固定側軌道輪との間に介在する転動体を有する軸受と、
前記軸受の前記回転側軌道輪に固定された環状の被検出部材であって、環状の芯金と、前記芯金の周方向に渡って設けられた2列の磁気トラックを有する被検出部とを有する被検出部材と、
前記軸受の前記固定側軌道輪に固定された回転センサユニットであって、前記被検出部の回転を非接触で検知する1つの回転センサと、前記回転センサが搭載されたセンサ基板と、前記センサ基板を覆い、前記センサ基板が取り付けられたセンサハウジングとを有する回転センサユニットと、
を備える
アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、前記センサハウジングに、前記センサ基板が挿入され、かつ前記センサ基板を軸心方向及び径方向に位置決めする取付溝が形成されている、アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、前記センサ基板が、前記被検出部材の端部を基準として位置決めされている、アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、前記センサハウジングに設けられた凸部が、この凸部に外嵌する部材を軸心方向に直交する方向にガイド可能なガイド面を有している、アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、前記センサハウジングが、前記軸受と反対側から前記取付溝に前記センサ基板を挿入可能に構成されている、アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、
前記センサハウジングの前記センサ基板を収容する収容部が、前記収容部の内壁面と前記センサ基板との間の空間に充填された樹脂材と、前記収容部の前記軸受と反対側の端部を覆う蓋部材と、を備える、
アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアブソリュート式回転センサ付軸受装置において、
回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、
前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する軸受を備える、アブソリュート式回転センサ付軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュート式の回転センサを備える軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの関節部等を回転自在に支持する軸受として、高精度な制御が可能なアブソリュート式回転センサを備えた軸受装置が使用されている。アブソリュート式回転センサ付軸受装置として、例えば、1個の原点検出部と2個の絶対角度検出部を有するものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この軸受装置では、合計3個のセンサやこれらセンサに接続されるケーブル等が必要で部品点数が多いうえ、2個の絶対角度検出部は互いに90°位相差を有するように位置決めされることが必要であることから、組み立て作業が煩雑化する。
【0004】
そこで、軸受と組み合わせるアブソリュート式回転センサとして、複列トラック式の回転センサを用いることが考えられる。この複列トラック式の回転センサは、環状の芯金の周面に角度検出用の磁気トラック(主トラック)と位相差検出用に磁気トラック(副トラック)の2列の磁気トラックを備えることにより、1個のセンサのみで回転角度、回転速度、回転方向等を高精度に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、複列トラック式の回転センサを軸受に組み合わせることにより、少ない部品点数で、かつ組み立てが容易なアブソリュート式回転センサ付軸受装置を実現できると期待される。しかし、複列トラック式の回転センサを軸受に組み合わせる場合の具体的な構成は提案されていない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、複列トラック式の回転センサを軸受に組み合わせることにより、少ない部品点数で構成を簡素化でき、かつ組み立てが容易なアブソリュート式回転センサ付軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した目的を達成するために、本発明に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置は、
回転側軌道輪、前記回転側軌道輪に対向するように配置された固定側軌道輪、および前記回転側軌道輪と前記固定側軌道輪との間に介在する転動体を有する軸受と、
前記軸受の前記回転側軌道輪に固定された環状の被検出部材であって、環状の芯金と、前記芯金の周方向に渡って設けられた2列の磁気トラックを有する被検出部とを有する被検出部材と、
前記軸受の前記固定側軌道輪に固定された回転センサユニットであって、前記被検出部の回転を非接触で検知する1つの回転センサと、前記回転センサが搭載されたセンサ基板と、前記センサ基板を覆い、前記センサ基板が取り付けられたセンサハウジングとを有する回転センサユニットと、
を備えている。
【0009】
この構成によれば、回転センサの被検出部を複列トラック式とするとともに、回転センサをセンサ基板に実装した状態でセンサハウジングに取り付けるので、少ない部品点数で軸受装置の構成が簡素化され、かつ組み立て作業が容易になる。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記センサハウジングに、前記センサ基板が挿入され、かつ前記センサ基板を軸心方向及び径方向に位置決めする取付溝が形成されていてもよい。この構成によれば、単に取付溝にセンサ基板を挿入することのみによって回転センサと被検出部の位置決めがなされ、かつセンサギャップが確保されるので、高精度の回転検出が可能な軸受装置を簡易な作業で組み立てることができる。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記センサ基板が、前記被検出部材の端部を基準として位置決めされていてもよい。この構成によれば、被検出部材の端部を基準とすることで、簡易的に回転センサの位置決めをすることができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記センサハウジングに設けられた凸部が、この凸部に外嵌する部材を軸心方向に直交する方向にガイド可能なガイド面を有していてもよい。この構成によれば、軸受装置の組み立て工程において、センサハウジングの凸部のガイド面を利用して軸心方向に直交する方向に押し付ける作業を容易かつ確実に行うことが可能になる。これにより、軸受内の転動体と軌道輪間の隙間の影響によるセンサ位置のずれが最小限となるような位置決めをすることが可能になる。したがって、高精度の回転検出が可能な軸受装置を簡易な作業で組み立てることができる。
【0013】
本発明の一実施形態において、センサハウジングが、前記軸受と反対側から前記取付溝に前記センサ基板を挿入可能に構成されていてもよい。この構成によれば、軸受装置の組み立て工程において、軸受の反対側から容易にセンサ基板を取付けることができるので、高精度の回転検出が可能な軸受装置を一層簡易な作業で組み立てることができる。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記センサハウジングの前記センサ基板を収容する収容部が、前記収容部の内壁面と前記センサ基板との間の空間に充填された樹脂材と、前記収容部の前記軸受と反対側の端部を覆う蓋部材とを備えていてもよい。この構成によれば、センサハウジングに取り付けられた回転センサおよびセンサ基板を確実に固定することができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る軸家装置は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、前記駆動部の回転軸を回転可能に支持する軸受を備えていてもよい。この構成によれば、上記軸受装置を自動車に代わる移動手段として期待される電動垂直離着陸機(いわゆる空飛ぶクルマ)に適用した場合においても、上述した利点を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置によれば、複列トラック式の回転センサを軸受に組み合わせることにより、少ない部品点数で構成を簡素化でき、かつ組み立てが容易な構成とすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の軸受装置に用いられる被検出部材を示す縦断面図である。
【
図3】
図1の軸受装置に用いられる被検出部材を示す平面図である。
【
図4】
図1の軸受装置に用いられるセンサユニットを示す正面図である。
【
図5A】
図1の軸受装置に用いられる軸受のラジアル内部隙間を模式的に示す断面図である。
【
図5B】
図1の軸受装置に用いられる軸受のアキシアル内部隙間を模式的に示す断面図である。
【
図5C】
図1の軸受装置に用いられる軸受のアキシアル内部隙間を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図1の軸受装置の組み立て方法の一例を示す模式図である。
【
図7】
図1の
図6の組み立て方法に用いられる押し部材および台座を示す正面図である。
【
図8】
図1の軸受装置に用いられるセンサユニットの位置合わせ方法の一例を示す模式図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図10】
図9の軸受装置の組み立て方法の一例を示す模式図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置が適用される電動垂直離着陸機を示す斜視図である。
【
図12】
図11の電動垂直離着陸機の駆動部におけるモータの一部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態に係るアブソリュート式回転センサ式軸受装置(以下、単に「軸受装置」という。)1を示す。軸受装置1は、軸受3と、回転検出の対象となる環状の被検出部材5と、回転センサユニット7とを備える。
【0020】
本実施形態の軸受は、玉軸受3として構成されており、内輪11と、内輪11に対向するように配置された外輪13と、内輪11と外輪13との間に介在する転動体15であるボールとを備えている。この例では、軸受3は内輪回転タイプとして構成されている。すなわち、内輪11が回転側軌道輪として、かつ外輪13が固定側軌道輪として構成されている。
【0021】
被検出部材5は、回転側軌道輪である内輪11に取り付けられている。
図2に示すように、被検出部材5は、環状の芯金17と、芯金17の周方向に渡って設けられた2列の磁気トラックを有する被検出部19とを有する。より具体的には、芯金17は、円筒状部17aと、円筒状部17aよりも小径の取付部17bとを有しており、被検出部19は円筒状部17aの外周面に形成されている。
【0022】
具体的には、本実施形態の被検出部材5は、芯金17を含む円環状の未着磁の磁性部材を形成した後に、この未着磁の磁性部材の表面に着磁極対数の異なる複列(この例では2列)の磁気トラックを着磁して形成される。複列の磁気トラックが被検出部19となる。前記未着磁の磁性部材は、例えば、金属環からなる芯金17の外周面に磁性粉を混練したゴム材料を、芯金17とともに金型に入れて加硫接着することや、またはプラスチック材料と磁性粉を混合したものと芯金17とを一体成形することなどにより形成される。芯金17は、例えば鉄系の圧延鋼板をプレス成形することにより形成される。
【0023】
芯金17の円筒状部17aの外周面に被検出部19が形成されている。
図3に示すように、被検出部19の2列の磁気トラックについて着磁パターンを異ならせ、例えば1回転で1極対の差を発生させることを利用して回転軸の絶対角の検出を可能にしている。被検出部材5としてこのような複列の着磁トラックを用いることにより、1つの回転センサのみによる高精度な回転検出が可能になる。
【0024】
図1に示すように、回転センサユニット7は、軸受3の固定側軌道輪である外輪13に取り付けられている。回転センサユニット7は、被検出部19の回転を非接触で検知する1つの回転センサ21と、回転センサ21が搭載されたセンサ基板23と、センサ基板23を覆い、センサ基板23が取り付けられたセンサハウジング25とを有する。
【0025】
回転センサ21は、被検出部材5に対向するように、センサ基板23の、軸受3の径方向の内側を向く面に搭載されている。以下の説明では、センサ基板23の回転センサ21が搭載されている面を表面23aと呼び、その反対側の面を裏面23bと呼ぶ。回転センサ21として、この例では、磁束密度に対応した出力信号を発生する磁気センサを用いている。センサ基板23の裏面23bにはコネクタ27が搭載されており、コネクタ27を介して、回転センサ21に、回転センサ21の信号の外部への出力や、回転センサ21への給電を行うためのケーブル29が接続されている。
【0026】
図4に示すように、センサハウジング25は、軸受3(
図1)と同心状に配置された円弧状部31と、円弧状部31から径方向外方に突出する形状を有する収容部33とを有する。収容部33は、円弧状部31から突設された凸部として形成されている。収容部33の内壁面に、センサ基板23が挿入され、かつセンサ基板23を軸心方向及び径方向に位置決めする取付溝35が形成されている。
【0027】
収容部33の外側の側壁面は、当該収容部33に外嵌する部材を軸心方向に直交する方向にガイド可能なガイド面37として形成されている。より具体的には、
図4に示すように、センサハウジング25の収容部33は、円弧状部31から突出する部分が略方形に形成されており、径方向外側覆う頂壁33aと、頂壁33aの軸心方向の一方側(軸受3側)端部の一辺から頂壁33aに直交する方向に延びる正面壁33b(
図1)と、頂壁33aの両端部の各辺から頂壁33aに直交する方向に延びる2つの側壁33cとを有する。すなわち、収容部33の2つの側壁は、正面壁の両端部の各辺から軸受3と反対側に垂直に、互いに平行に延びる外側の側壁面を有する。これら2つの側壁面が、当該収容部33に外嵌する部材を軸心方向に直交する方向にガイド可能なガイド面37として機能する。
【0028】
また、収容部33の上記2つの側壁33cの各内壁面に、軸心方向に平行に延びる取付溝35が形成されている。
図1に示すように、センサハウジング25の軸受3と反対側の開口は、収容部33も含めて、センサハウジング25と別体に形成され、センサハウジング25に着脱自在に取り付けられる蓋部材39によって覆われている。
【0029】
本実施形態では、センサハウジング25は、外環部材41を介して軸受3の固定側部材である外輪13に取り付けられている。具体的には、外環部材41は、センサハウジング25の円弧状部31の外周面に嵌合する円筒状の大径部と、外輪13の内周面に嵌合する円筒状の小径部とを有している。他方、被検出部材5は、環状のアダプタ部材43を介して軸受3の回転側部材である内輪11に取り付けられている。アダプタ部材43は、被検出部材5の芯金17の取付部17bの内周面に嵌合する円筒状の小径部と、内輪11の外周面に嵌合する円筒状の大径部とを有している。なお、センサハウジング25は、軸受3の固定側部材(この例では外輪13)に直接取り付けられてもよく、被検出部材5は、軸受3の回転側部材(この例では内輪11)に直接取り付けられてもよい。
【0030】
センサハウジング25の収容部33が上記のように形成されていることにより、後述する軸受装置1の組み立て工程において、回転センサ21と被検出部19の正確な位置決め作業が容易になる。
【0031】
図5A~
図5Cに示すように、玉軸受3においては、一般的に、転動体15は、内輪11および外輪13との間にラジアル内部隙間δおよびアキシアル内部隙間δ1,δ2が存するように組込まれている。なお、ラジアル内部隙間δ、アキシアル内部隙間δ1,δ2とは、内輪11または外輪13のいずれか一方を固定し、他方にラジアル方向またはアキシアル方向に移動させたときの移動量のことである。一般的に、アキシアル内部隙間δ1,δ2はラジアル内部隙間δの8倍~10倍の大きさになる。アキシアル内部隙間δ1,δ2が形成されていることにより、例えば玉軸受3の外輪13を固定した場合、内輪11は、内輪11,外輪13の軌道輪溝底を中心にアキシアル方向に同じ寸法だけ移動可能になる。
【0032】
そのため、軸受3が、内輪11,外輪13の各軌道輪溝の中心が揃うようにセットされた状態で、
図1の回転センサ21を軸受3の外輪13側に固定したセンサハウジング25に取付ける場合には、被検出部材5のアキシアル方向の移動量は、軌道輪の溝底を中心にラジアル内部隙間δの4倍~5倍に収まる。しかし、軸受3の内輪11,外輪13の各軌道輪溝の中心が揃うようにセットされていない場合には、内輪11がアキシアル方向の一方向に偏った状態で回転センサ21が組込まれることがある。この場合、軸受3がこの反対方向へ移動すると最大でラジアル内部隙間δの8倍~10倍の距離アキシアル方向に動くおそれがある。その結果、回転センサ21の中央と、被検出部19の2列のトラックの中央の位置が大きくずれてしまい、回転センサ21が被検出部19の回転を検知できない場合が生じ得る。
【0033】
このような不具合を回避するため、本実施形態の軸受装置1は、組立て過程において、
図6に示すように、以下に説明する方法によって軸心方向の位置決めを行う。なお、
図6において、各ステップの上部に平面図を、下部に縦断面図を示す。
【0034】
軸受3にセンサハウジング25および被検出部材5を組付けた状態で、台座45に鉛直方向に取付けた位置決め用の仮軸47に、軸受3の内輪11を嵌合させる。このとき、軸受3が下方に、センサハウジング25および被検出部材5が上方に位置するように仮軸47に挿入される。台座45の上面には、平面視でセンサハウジング25の収容部33の中央を通過する軸受3径方向に沿って延びるガイド溝49が形成されている。台座45のガイド溝49上の位置に、全体として略方形の押し部材51が設置される。
図7に示すように、押し部材51の底面には、ガイド溝49に係合する形状のガイド凸部53が設けられており、ガイド凸部53がガイド溝49に係合するように押し部材51が設置される(ステップA)。
【0035】
この状態で、
図6に示すように、押し部材51の上側部分はセンサハウジング25の収容部33に対向している。押し部材51の上側部分には、センサハウジング25の収容部33の外形に対応する形状の凹部であるガイド凹部55が形成されている。このような構造を有する押し部材51を、ガイド凹部55を収容部33のガイド面37に沿わせるように、ガイド溝49上を軸受3の中心に向けて押し込む(ステップB)。これにより、押し部材51のガイド凹部55の下方に形成された平面状の押圧部57が、軸受3の外輪13の外周面に押し付けられ、転動体15が軸受3内輪11,外輪13の各軌道輪溝底11a,13aに当接するので、軸受3の内輪11と外輪13が軌道輪溝底11a,13aを基準に整列する(ステップC)。
【0036】
このように、センサハウジング25の収容部33に押し部材51をガイド可能なガイド面37を設けたことにより、ガイド面37を利用して軸心方向に直交する方向に押し付ける作業を容易かつ確実に行うことが可能になる。これにより、軸受3内の転動体15と軌道輪11,13間の隙間の影響によるセンサ位置のずれが最小限となるような位置決めをすることが可能になる。したがって、精度の高い回転検出が可能な軸受装置1を簡易な作業で組み立てることができる。
【0037】
次に、上記のように位置決めされた軸受3および被検出部材5に対して、回転センサユニット7の回転センサ21を軸心方向に位置決めする方法について説明する。この例では、被検出部材5の端部を基準としてセンサ基板23が位置決めされる。具体的には、
図2に示すように、被検出部材5の被検出部19の2列のトラックの各幅寸法を同一のLとする。さらに、
図8に示すように、センサ基板23の幅寸法(軸受3の軸心法寸法)を、被検出部19全体の幅寸法と同一の2Lに設定したうえで、回転センサ21の中央位置Mのセンサ基板23の端面からの距離がLになるようにセンサ21を実装してセンサ基板23を用意する。このように作製したセンサ基板23を、
図6に示す、位置決めされた状態の軸受3に取り付けられたセンサハウジング25の取付溝35に挿入し、被検出部19およびセンサ基板23の、軸受3の反対側の各端面の位置を一致させる。これにより、軸受3の軌道輪溝底11a,13aを基準として、環状被検出部19の2列のトラック間の境界線と回転センサ21の中央位置Mを一致させることができる。特に、被検出部材5の端部を基準とすることで、簡易的に回転センサ21の位置決めをすることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、取付溝35の軸心方向の内寸を、収容部33の軸受3と反対側の端面から、センサ基板23の幅寸法と同一長さに設定している。これにより、単にセンサ基板23を取付溝35に挿入し、軸受3側の端部まで押し込むことによって、被検出部19と回転センサ21の位置決めを簡易的に行うことができる。
【0039】
また、センサハウジング25の収容部33は、軸受3と反対側から取付溝35にセンサ基板23を挿入可能に構成されている。具体的には、
図1に示すように、収容部33も含めてセンサハウジング25の軸受3と反対側の端部は開口しており、センサハウジング25は、この端部に着脱自在に取り付けられて開口を覆う蓋部材39を有している。したがって、上記の位置決め段階では、センサハウジング25の蓋部材39を取り外しておくことで、収容部33に、軸受3と反対側から取付溝35にセンサ基板23を挿入することが可能となっている。
【0040】
次に、回転センサ21と被検出部19との間の径方向のギャップ(以下、「センサギャップ」という。)ΔTを確保する方法について説明する。
図4に示すように、センサハウジング25の中央から取付溝35の底面までの距離をT1、被検出部材5の被検出部19の外周面の半径寸法をT2,センサ実装後のセンサ基板23の表面23aからセンサ表面(被検出部19に対向する面)までの距離をT3としたとき、下記の式を満足するように、取付溝35の位置、回転センサ21及びセンサ基板23の寸法を予め設定しておく。
ΔT=T1-T2-T3
【0041】
これにより、
図6と共に説明した方法によって軸受3側の軸心方向の位置決めが成された状態で、単にセンサ基板23をセンサハウジング25の収容部33の取付溝35に挿入することによってセンサギャップΔTを保持することが可能になる。
【0042】
また、
図1に示すように、収容部33は、収容部33の内壁面とセンサ基板23との間の空間に充填された樹脂材61を有している。樹脂材61は、センサ基板23に搭載された回転センサ21も含めて覆っている。樹脂材61を充填する方法としては、例えば、コネクタ27にケーブル29を挿入し、回転センサ21と被検出部材5の間に樹脂材遮断板(図示せず)を挿入し、センサハウジング25の収容部33内部を樹脂材61で固定する。その場合、コネクタ27内部へ樹脂材61の侵入を防止するために、コネクタ27にコーキング剤を塗布してもよい。樹脂材遮断板を取り外した後に、センサハウジング25を覆う蓋部材39を取り付ける。このように、樹脂材61を充填することにより、センサハウジング25に取り付けられた回転センサ21およびセンサ基板23を確実に固定することができる。
【0043】
なお、上記実施形態においては、軸受3を内輪回転タイプとして構成した例について説明したが、
図9に他の実施形態として示すように、軸受3が外輪回転タイプであっても本発明を適用することができる。なお、以下の説明では、
図1~
図9と共に説明した実施形態と共通する点については説明を省略する。
【0044】
本実施形態に係る軸受3は、外輪回転タイプとして構成されている。すなわち、内輪11が固定側軌道輪として、外輪13が回転側軌道輪として構成されている。また、本実施形態では、被検出部材5は、回転側軌道輪である外輪13に取り付けられており、回転センサユニット7は、固定側軌道輪である内輪11に取り付けられている。
【0045】
本実施形態においても、センサハウジング25に設けられた取付溝35に、回転センサ21が搭載されたセンサ基板23が挿入されることにより、回転センサ21がセンサハウジング25に取り付けられている。
【0046】
また、センサハウジング25には、軸心方向の軸受3と反対側に突出する全体として略方形のガイド部63が設けられている。ガイド部63は、センサハウジング25に突設された凸部として形成されている。ガイド部63の側面が、センサハウジング25のガイド部63に外嵌する部材(
図10に示す押し部材51)を軸心方向に直交する方向にガイド可能なガイド面37として形成されている。このような構成とすることにより、
図10に示すように、ガイド面37を利用して、軸心方向に直交する方向に軸受3を押し付ける作業を容易かつ確実に行うことが可能になる。これにより、軸受3内の転動体15と軌道輪11,13間の隙間の影響によるセンサ位置のずれが最小限となるような位置決めをすることが可能になる。したがって、精度の高い回転検出が可能な軸受装置1を簡易な作業で組み立てることができる。
【0047】
以上説明した各実施形態に係るアブソリュート式回転センサ付軸受装置1によれば、回転センサ21の被検出部19を複列トラック式とするとともに、回転センサ21をセンサ基板23に実装した状態でセンサハウジング25に取り付けることにより、少ない部品点数で軸受装置1の構成が簡素化され、かつ組み立て作業が容易になる。
【0048】
次に、上記で説明した実施形態に係る軸受装置1の適用例について説明する。この軸受装置1の用途は特に限定されないが、例えば、
図11に示す、電動垂直離着陸機71に使用することができる。
【0049】
近年、自動車に代わる移動手段として飛行可能な自動車、いわゆる空飛ぶクルマが注目されている。空飛ぶクルマは、上記の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。
【0050】
空飛ぶクルマとして、同図に示すような垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCO2の削減に向けた社会的要請などからバッテリとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機71(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0051】
図11に示す電動垂直離着陸機71は、機体中央に位置する本体部73と、前後左右に配置された4つの駆動部55を有するマルチコプターである。駆動部75は、電動垂直離着陸機71の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部75の駆動によって電動垂直離着陸機71が飛行する。電動垂直離着陸機71において駆動部75は複数あればよく、4つに限定されない。
【0052】
本体部73は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部73からは4本のアーム77がそれぞれ延び、各アーム77の先端に駆動部75が設けられている。図示の例において、アーム77には、回転翼79を保護するため、回転翼79の回転周囲を覆う円環部81が一体に設けられている。また、本体部73の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド63が設けられている。
【0053】
駆動部75は、回転翼79と、該回転翼79を回転させるモータ85とを有する。駆動部75において、回転翼79はモータ85を挟んで軸方向両側に一対設けられている。各回転翼79は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0054】
本体部73には、バッテリ(図示せず)および制御装置(図示せず)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機71の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ85に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ85に備えられたインバータがバッテリからモータ85へ送る電力量を調整し、モータ85(および回転翼79)の回転数が変更される。また、モータ85の回転数の調整は、複数のモータ85に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0055】
図12に、駆動部75におけるモータ85の一部断面図を示す。モータ85の回転軸87の一端側(図上側)には上述の回転翼79が取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジング89に固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ85は、アウターロータ型のブラシレスモータ85や、インナーロータ型のブラシレスモータ85の構成を採用できる。
【0056】
モータ85は、ハウジング(装置ハウジング)89と、ロータ(図示せず)と、ステータ(図示せず)と、インバータ(図示せず)と、2個の軸受3とを備える。この例では、軸受3として、内輪回転タイプの転がり軸受3(より具体的には深溝玉軸受)を用いている。
【0057】
ハウジング89は外筒89aと内筒89bを有し、これらの間には冷却媒体流路69cが設けられている。この冷却媒体流路89cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。ハウジング89の材質は特に限定されず、例えば鉄系材料やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などを用いることができる。
【0058】
軸受3は、ハウジング89内で回転軸87を回転自在に支持している。
図2において、軸受3の外輪13の外径形状は、ハウジング89内周の嵌合部と同一の形状であり、ハウジング89に対して、軸受3ハウジングなどを介さずに直接嵌合される。2個の軸受3の間には内輪間座91、外輪間座93が挿入され、予圧が印加されている。
【0059】
なお、駆動部75における軸受3構成は、
図12の例に限定されない。
図12では、モータ85の回転軸87と回転翼79の回転軸とを同一の回転軸87とした例を示したが、モータ85の回転軸87と回転翼79の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部75における回転軸87を支持する軸受3は、モータ85の回転軸87を支持する軸受3でもよく、回転翼79の回転軸を支持する軸受3でもよい。
【0060】
本実施形態においても、軸受3に、上記で説明した構成を有する被検出部材5と、回転センサユニット7とが取り付けられた軸受装置1が設けられており、高精度の回転検出を行うことができる。
【0061】
なお、本実施形態においても、軸受3は例示した深溝玉軸受に限定されず、例えばアンギュラ玉軸受を用いてもよい。
【0062】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1 アブソリュート式回転センサ式軸受装置
3 軸受
5 被検出部材
7 センサユニット
9 電気的接続手段
11 内輪(回転側軌道輪)
13 外輪(固定側軌道輪)
15 転動体
17 芯金
19 被検出部
21 回転センサ
23 センサ基板
25 センサハウジング
35 取付溝
37 ガイド面
61 樹脂材
71 電動垂直離着陸機