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特開2022-149383複合材料の焼結体の製造方法及び複合材料の焼結体
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  • 特開-複合材料の焼結体の製造方法及び複合材料の焼結体 図1
  • 特開-複合材料の焼結体の製造方法及び複合材料の焼結体 図2
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  • 特開-複合材料の焼結体の製造方法及び複合材料の焼結体 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149383
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】複合材料の焼結体の製造方法及び複合材料の焼結体
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20060101AFI20220929BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C22C1/05 E
C22C32/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051511
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】加来 由紀恵
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AB02
4K018AB03
4K018AB04
4K018AC01
4K018BA03
4K018BC12
4K018CA23
4K018DA31
4K018DA32
4K018EA01
4K018EA11
4K018FA11
4K018HA03
4K018KA51
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】チタン及びセラミックスを含む出発原料から製造される複合材料の焼結体の熱伝導率を、より低減することができる製造方法を提供する。
【解決手段】チタン及びセラミックスを含む出発原料を成形し焼成することにより複合材料の焼結体を製造するにあたり、前記セラミックスを、珪素を含有するセラミックスとすると共に、出発原料にジルコニアを添加することにより、ジルコニアが添加されていないことを除き同一の条件で製造された焼結体と比べて、熱伝導率が小さい焼結体を製造する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン及びセラミックスを含む出発原料を成形し焼成することにより複合材料の焼結体を製造するにあたり、
前記セラミックスを、珪素を含有するセラミックスとすると共に、
前記出発原料にジルコニアを添加することにより、
ジルコニアが添加されていないことを除き同一の条件で製造された焼結体と比べて、熱伝導率が小さい前記焼結体を製造する
ことを特徴とする複合材料の焼結体の製造方法。
【請求項2】
チタン、珪素、及びジルコニウムを含有する複合材料であり、ジルコニウムの少なくとも一部がジルコニウムのケイ化物として存在している
ことを特徴とする複合材料の焼結体。
【請求項3】
チタン100重量部に対するジルコニウムの割合が、1.1重量部~6.7重量部である
ことを特徴とする請求項1に記載の複合材料の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン及びセラミックスを含む出発原料から製造される複合材料の焼結体の製造方法、及び、該製造方法により製造される複合材料の焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ、鉛、それらの合金等の非鉄金属のダイカストに使用されるスリーブを外筒と内筒との二重構造とし、鋼製の外筒に嵌め込まれる内筒を、チタン又はチタン合金とセラミックスとを含む原料から製造される複合材料の焼結体(以下、「TC複合材料」と称する)で形成することを提案し、実施している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、一般的なスリーブはSKD61などの鋼製であったが、非鉄金属は鉄と反応しやすいため、鋼製のスリーブは充填対象の溶融金属との接触により溶損し易く、耐用期間が短いという問題があった。また、鋼は熱伝導率が大きいため、スリーブ内に供給された溶融金属の温度が低下し易い。スリーブ内に供給された溶融金属の温度が、キャビティに至る前にスリーブ内で低下することによって凝固片が生じると、成形後の製品においてその部分で剥離などの欠陥が生じやすく、機械的強度が低下するという問題がある。
【0004】
これに対し、内筒に用いているTC複合材料は、非鉄金属との反応性が低いため耐溶損性に優れている。また、SKD61の熱伝導率は35.6W/mKと大きいのに対し、TC複合材料の熱伝導率は7.4W/mKと非常に小さく保温性に優れており、スリーブ内に供給された溶融金属の温度が低下しにくい利点を有している。更に、セラミックスのみで内筒を形成した場合、耐溶損性及び保温性については高めることは可能であるものの、脆性材料であるセラミックスは耐衝撃性が低いという難点があるところ、TC複合材料は、金属とセラミックスとの複合材料であるため、耐衝撃性にも優れているという利点がある。
【0005】
本出願人は、このように多くの利点を有するTC複合材料について、より優れた特性を有するものを提供するために、研究・開発を進めて来ている。本発明は、そのような研究・開発のうち、TC複合材料の熱伝導率をより低減させるための研究・開発の過程でなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-142053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、本発明は、チタン及びセラミックスを含む出発原料から製造される複合材料の焼結体の熱伝導率を、より低減することができる製造方法、及び、該製造方法により製造される複合材料の焼結体の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる複合材料の焼結体の製造方法(単に「製造方法」と称することがある)は、
「チタン及びセラミックスを含む出発原料を成形し焼成することにより複合材料の焼結体を製造するにあたり、
前記セラミックスを、珪素を含有するセラミックスとすると共に、
前記出発原料にジルコニアを添加することにより、
ジルコニアが添加されていないことを除き同一の条件で製造された焼結体と比べて、熱伝導率が小さい前記焼結体を製造する」ものである。
【0009】
本書面では、チタン及びセラミックスを含む出発原料を成形し焼成することにより得られる複合材料の焼結体を「TC複合材料」と称することがある。
【0010】
チタン及びセラミックスを含む出発原料に、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)を添加することにより、詳細は後述するように、ジルコニアを添加しないことを除き同一条件で製造されたTC複合材料に比べて、熱伝導率が小さいTC複合材料を製造することができる。
【0011】
ここで、ジルコニアもセラミックスの一種であるが、「珪素を含有するセラミックスを含む出発原料にジルコニアを添加する」との表現は、「珪素を含有するセラミックス」と「ジルコニア」との量的関係を示しているものではなく、「珪素を含有するセラミックス」の方が「添加されるジルコニア」より少量である場合を含み得る。後述するように、チタン、及び珪素を含有するセラミックスを含む出発原料を基準として、ジルコニアの添加量によって熱伝導率を変化させることができることから、ジルコニアの方を「添加される」側として表現している。
【0012】
次に、本発明にかかる複合材料の焼結体は、
「チタン、珪素、及びジルコニウムを含有する複合材料であり、ジルコニウムの少なくとも一部がジルコニウムのケイ化物として存在している」ものとすることができる。
【0013】
これは、上記の製造方法により製造されるTC複合材料の構成である。詳細は後述するように、出発原料にジルコニアとして添加されたジルコニウム成分は、焼成後のTC複合材料において、ジルコニウムのケイ化物として存在していると考えられた。
【0014】
本発明にかかる複合材料の焼結体は、上記構成に加え、
「チタン100重量部に対するジルコニウムの割合が、1.1重量部~6.7重量部である」ものである。
【0015】
チタン100重量部に対するジルコニウムの割合を上記範囲とすることにより、詳細は後述するように、熱伝導率が小さいと共に、問題なく切削を行うことができる加工性を備えたTC複合材料を、提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、チタン及びセラミックスを含む出発原料から製造される複合材料の焼結体の熱伝導率を、より低減することができる製造方法、及び、該製造方法により製造される複合材料の焼結体を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例の試料について、(a)かさ密度と見掛け密度、(b)見掛け気孔率、及び(c)硬度を、チタン100重量部に対するジルコニウムの割合に対してプロットしたグラフである。
図2】実施例の試料について、測定温度が異なる場合の熱伝導率を、チタン100重量部に対するジルコニウムの割合に対してプロットしたグラフである。
図3】実施例の試料の三点曲げ強度を、チタン100重量部に対するジルコニウムの割合に対してプロットしたグラフである。
図4】実施例の試料E8の元素分析の結果を示す図である。
図5】(a)試料E0のX線回折パターンであり、(b)試料E8のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、出発原料を調製する原料調製工程と、出発原料を成形する成形工程と、成形体を焼成する焼成工程とを備えている。
【0019】
原料調製工程では、少なくともチタン、珪素を含むセラミックス原料、及びジルコニアを含有する出発原料を調製する。珪素を含むセラミックスとしては、炭化珪素、窒化珪素を、例示することができる。珪素を含むセラミックス原料は、これらのセラミックスの粉末であっても、加熱によりこれらのセラミックスが生成する原料粉末であってもよい。珪素を含むセラミックスの割合は、金属原子100重量部に対して1重量部~15重量部とすることが望ましく、3重量部~10重量部とすることがより望ましい。TC複合材料が金属としてチタンに加えてチタン以外の金属を含有する場合、ここで言う「金属原子100重量部」は、チタン原子と他の金属原子の和としての重量部である。
【0020】
出発原料には、更にモリブデンを含有させることができる。モリブデンの割合は、チタン100重量部に対してモリブデン10重量部~50重量部とすることが望ましく、20重量部~45重量部とすることがより望ましい。モリブデンの添加により、TC複合材料を溶融金属に接触させる用途に使用する場合の耐溶損性を高めることができる。また、出発原料には、ニッケルを含有させることができる。ニッケルの含有量は、TC複合材料100重量部に対して0.1重量部~10重量部とすることができる。ニッケルの添加により、TC複合材料を非常に緻密化することができる。
【0021】
成形工程では、出発原料を所望の形状に成形して成形体とする。成形方法としては、冷間等方圧加圧成形、熱間等方圧加圧成形、ホットプレスを例示することができる。
【0022】
焼成工程は、非酸化性雰囲気において1000℃~1400℃の温度で行う。珪素を含有するセラミックスが非酸化物セラミックスである場合、焼成雰囲気は非酸化性雰囲気とする。非酸化性雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、窒素雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、真空雰囲気、とすることができる。
【実施例0023】
チタン粉末66質量%、炭化珪素粉末5質量%、及びモリブデン粉末29質量%の混合粉末を、基準原料とした。基準原料100重量部に対して、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)を1重量部、5重量部、6重量部、8重量部、10重量部添加した試料を、それぞれ試料E1、E5、E6、E8、E10とし、ジルコニアを添加していない試料を試料E0とした。また、何れの試料についても、基準原料100重量部に対して1重量部のニッケル粉末を更に添加し、出発原料とした。なお、試料E1~E10について、ジルコニアの添加量をチタン100重量部に対するジルコニウムの割合に換算すると、試料E1では1.1重量部、試料E5では5.6重量部、試料E6では6.7重量部、試料E8では9.0重量部、試料E10では11.2重量部である。
【0024】
各試料について、調製した出発原料から所定形状の成形体を成形した後、非酸化性雰囲気で焼成して焼結体とした。成形条件、焼成条件は、全ての試料について同一とした。
【0025】
各試料について、見掛け気孔率、かさ密度、見掛け密度、硬度を測定した。見掛け気孔率、かさ密度、及び見掛け密度は、JIS R2205に則りアルキメデス法で測定した。硬度は、ロックウェル硬度計(明石製作所製、AR-10)を使用して、同一条件で測定した。これらの測定結果を表1に示すと共に、かさ密度及び見掛け密度を図1(a)に、見掛け気孔率を図1(b)に、硬度を図1(c)に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
また、各試料について、熱伝導率の温度変化、及び、曲げ強度を測定した。熱伝導率は、熱伝導率測定装置LFA457(NETZSCH製)を使用し、レーザフラッシュ法により測定した。その測定結果を図2に示す。曲げ強度は、電子式万能材料試験機YS2TL(米倉製作所製)を使用し、JIS R1601に準拠して三点曲げ強度を測定した。その測定結果を図3に示す。なお、三点曲げ強度は、基準原料100重量部に対してジルコニアを2重量部、ニッケルを1重量部添加した試料E2についても測定を行った。
【0028】
図2から、何れの測定温度においても、ジルコニアの添加量が多い試料ほど熱伝導率が低下していることが明らかである。従って、TC複合材料の出発原料にジルコニアを添加することにより、焼結体であるTC複合材料の熱伝導率を低下させることができ、熱伝導率の低下のためには、ジルコニアの添加量は多いほど望ましいと考えられた。
【0029】
一方、図3に示すように、ジルコニアの添加量の増加に伴い、三点曲げ強度は低下している。このことから、ジルコニアの添加により、TC複合材料が脆性化していると考えられた。従って、熱伝導率の低下のためには、ジルコニアの添加量は多いほど望ましいところ、TC複合材料の用途に応じて要請される機械的強度によっては、ジルコニアの添加量が制限されると考えられた。
【0030】
また、表1及び図1(a),(b)に示すように、試料E0~E8についてはジルコニアの添加量に関わらず、かさ密度、見掛け密度がほぼ一定で、かさ密度と見掛け密度がほぼ等しく、見掛け気孔率についてはジルコニアの添加量に伴い低下する傾向があるのに対し、ジルコニアの添加量が最も多い試料E10では、かさ密度より見掛け密度が大きくなっていると共に、見掛け気孔率が非常に大きくなっている。このことから、ジルコニアの添加量がある量を超えると、焼結体において開気孔が増加すると考えられる。また、見掛け気孔率が低い、すなわち、緻密化している試料E0~E8においても、上記のようにジルコニアの添加に伴い熱伝導率が低下していることが分かる。
【0031】
硬度については、表1及び図1(c)に示すように、試料E1~E8についてはジルコニアを添加していない試料E0に比べて硬度が高くなっており、ジルコニアの添加量が多いほど硬度も高くなっている。一方、最もジルコニアの添加量が多い試料E10では、硬度が低下している。これは、上述したように、試料E10では開気孔が増加しているため、試料の表面について測定される硬度の値が低下していると考えられた。ただし、試料E10の硬度は試料E0の硬度より高いため、試料E1~試料E10の何れについても、ジルコニアの添加により高硬度化する効果が得られている。
【0032】
ここで、焼結体の硬度が高いと、切削や切断による加工が困難となるおそれがある。そこで、加工性の評価を行うために、試料を旋盤に取り付け、切削工具で切削する試験を下記の条件で行った。評価結果を、表1に併せて示す。
主軸速度:17~25rpmの範囲の一定値
送り量:0.104mm/rev
切り込み量:0.1~0.5mm
スローアウェイバイトのインサート材質:UTi20T
【0033】
加工性の評価試験の結果、試料E0及び試料E1では問題なく切削加工を行うことができた(表1では「〇」と表示している)。試料E5及び試料E6では、試料にチッピングが生じるものの加工が可能であった(表1では「△」と表示している)。一方、試料E8及び試料E10では、試料に生じるチッピングが著しく、加工が困難であった(表1では「×」と表示している)。試料E0~試料E8の加工性の評価を硬度と考え合わせると、ジルコニアの添加により硬度が高まることに伴って、加工性が低下するものと考えられた。一方、試料E10では硬度が低下しているにも関わらず、加工性が低い。これは、上述したように、試料E10ではクラックの起点となり得る開気孔が増加していることにより焼結体の表面の機械的強度が低下していること、及び、脆性化していることにより、切削時に破壊が生じ易くなっているためと考えられた。
【0034】
例えば、TC複合材料をダイカスト用スリーブの内筒として使用する場合、内筒の内周面をプランジャチップと密着させるために寸法精度を高める加工を行う必要がある。このように、精密な加工を行うことが要請される用途にTC複合材料を使用する場合は、ジルコニアの添加量には制限があると考えられる。加工性の評価試験の結果を鑑みると、試料E1~試料E6におけるジルコニアの添加量の範囲、すなわち、チタン100重量部に対してジルコニウムが1.1重量部~6.7重量部の範囲であれば、加工性を損なうことなく、硬度を高めることができると共に、熱伝導率を低下させることができると言うことができる。
【0035】
上記のように、TC複合材料の出発原料において、セラミックスを珪素を含むセラミックスとし、ジルコニアを添加することにより、熱伝導率を低下させることができると共に、硬度を高めることができたため、添加したジルコニアが焼成後のTC複合材料において、どのような状態で存在しているかについて検討を加えた。
【0036】
検討のために、各試料(焼結体)の断面を研磨し、研磨面について、電子プローブマイクロアナライザ(日本電子製、JXA8530F)を用いて元素分析(面分析)を行った。例として、試料E8について、チタン、珪素、ジルコニウムを分析対象としたマッピング像を、同視野の反射電子像と共に図4に示す。マッピング像では、分析対象の元素が多く存在する部分ほど、輝度が高く白っぽく見える。
【0037】
図4から明らかなように、珪素とジルコニウムの分布が一致している。なお、図示は省略しているが、モリブデンの分布は、チタン、珪素、及びジルコニウム何れの分布とも一致していなかった。
【0038】
上記のマッピング像から、出発原料にジルコニアとして添加したジルコニウム成分は、TC複合材料においては、ジルコニウムのケイ化物として存在していると考えられる。そこで、各試料から切り出した試験片の断面について、X線回折パターンを測定し結晶相の同定を行った。X線回折パターンの測定には、X線回折装置(リガク製、Ultima III)を使用し、銅管球,電圧40kV,電流40mA,ステップスキャン法にてステップ幅0.02度、2度/minの条件で測定した。測定結果のうち、試料E0のX線回折パターンを図5(a)に、試料E8のX線回折パターンを図5(b)に示す。
【0039】
図5(a)と図5(b)とを対比すると、出発原料にジルコニアを添加することにより、図5(b)において「◆」のマーカーを付したピークが現れている。このピークは、下記の文献において「ZrSi」と同定されているピークと値が一致している。
“Characterizing surrogates to develop an additive manufacturing process for U3Si2 nuclear fuel”, Journal of Nuclear Materials, Volume 518, May 2019, Pages 117-128
【0040】
ジルコニウムシリサイドはジルコニアよりも硬度が高いため、ジルコニウム成分がTC複合材料中でジルコニウムシリサイドとして存在していることにより、図1(c)を用いて上述したように、焼結体の硬度が高められていると考えられた。
【0041】
上述したように、TC複合材料の出発原料において、セラミックスを珪素を含有するセラミックスとし、ジルコニアを添加することにより、ジルコニアを添加しないことを除き同一条件で製造されたTC複合材料と比べて、熱伝導率が低いと共に、硬度の高い焼結体を製造することができる。そして、出発原料へのジルコニアの添加割合により、熱伝導率や硬度の異なるTC複合材料を得ることができる。
【0042】
そして、チタン100重量部に対するジルコニウムの割合を、少なくとも1.1重量部~6.7重量部の範囲とすることにより、熱伝導率が小さいと共に、問題なく切削を行うことができる加工性を備えるTC複合材料の焼結体を、提供することができる。
【0043】
また、従来、TC複合材料の硬度を高めるためには、焼結体を窒素雰囲気下で加熱する窒化処理が行われていた。しかしながら、上記の実施形態のように、ニッケルの添加により緻密化した場合は、窒素を含むガスを焼結体に浸透させる通路となる開気孔が極めて少ないため、窒化処理をすることが難しくなってしまう。これに対し、本実施形態では、焼結体の内部でジルコニウムシリサイドを生成させることにより硬度が高められるため、高硬度化のためにガスの通路を必要としない。そのため、ニッケルの添加による緻密化と、高硬度化とを、同時に実現することができる。
【0044】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0045】
例えば、本発明により製造される熱伝導率が低く、硬度が高いTC複合材料は、ダイカスト用スリーブの内筒の材料とすることが適しているが、この用途に限定されるものではない。
【0046】
また、本発明では、TC複合材料中にジルコニウムシリサイドを生成させることにより硬度を高めることができるため、焼結体を窒素雰囲気中で加熱する従来の窒化処理を行う必要性はなく、製造工程に要する時間を短縮して硬度の高いTC複合材料を製造することができる利点を有している。しかしながら、本発明による製造工程の後に、更に従来の窒化処理を行うことを排除するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5